2010年10月16日 21時23分 更新:10月17日 1時1分
【北京・成沢健一】中国各地で16日、大規模な反日デモが5年半ぶりに発生した。北京では15日から中長期の重要方針を話し合う中国共産党の第17期中央委員会第5回総会(5中全会)が開かれている。中央や地方の主要指導者が集まる中で不安定要因につながりかねない大規模デモが発生したことは異例の事態と言えそうだ。
国営新華社通信は、各地での反日デモを英語版でのみ報じた。日系スーパーへの襲撃に発展した成都のデモについては「暴力的行為はなかった」と伝えた。中国語版では記事を配信しておらず、当局は国内に反日機運が高まり、各地にデモが飛び火することを避けるために国内メディアの報道を統制しているものとみられる。
今回のデモは数日前からネット上で呼びかけられていた。中国に対する東京での抗議行動の動きが中国でも事前に報じられており、これに対抗したとの見方が強い。沖縄県・尖閣諸島の中国領有を主張する活動家団体のウェブサイトに掲載された16日のデモの写真には、日本製品ボイコットなどを呼びかける横断幕を多数掲げた参加者が写っており、周到に準備していたことがうかがえる。
中国で無許可のデモを実施するのは極めて困難だ。満州事変(1931年)の発端となった柳条湖事件から79年となった先月18日に、中国漁船衝突事件に対する抗議行動が中国各地で呼びかけられた際には、当局はインターネット上の情報を削除するなどして徹底的に封じ込め、最も大きかった北京でも数百人規模にとどまった。
16日は北京の日本大使館周辺でも通常より警備が強化されていた。中国当局が国際社会の目に触れやすい北京や上海でデモの動きを封じ込めつつ、地方都市での抗議行動を一定程度容認した可能性もある。その背景には、衝突事件で悪化した日中関係が修復に向かい始めた後も、日本の国会議員が上空から尖閣諸島を視察したり、中国との対決姿勢を示す発言をしていることへの中国指導部の不満があるとみられる。
一方で、「5中全会期間中の大規模デモは複雑な要素が絡んでいる」(日中関係筋)との見方もある。中国指導部は近年、重要会議の期間中には安定を最優先し、複雑な論争に発展する事態を回避してきた。5中全会では2年後に引退するとみられる胡錦濤国家主席の最有力後継候補とされる習近平国家副主席が中央軍事委員会副主席に任命されるかも焦点となっている。胡主席や温家宝首相が進める対日関係改善に圧力を加えることで、対日強硬派が人事を巡る話し合いの主導権を握ろうとした可能性も否定できない。