技術全般

記事 : 「常温核融合」 再び 
09年03月24日(火)


Cold fusion debate heats up again
BBC News 3/23

「Cold fusion」は、日本語では「常温核融合」と表現されます。

核融合反応というものは、通常は非常に高い圧力と温度のもとで生じる反応 で、身近に存在する実例としては、「太陽」があります。

太陽には「核融合炉」という表示はされていませんが、それは現在、水素の 核融合反応によってエネルギーを生み出し、私達の惑星・地球の生命の全て を育んでいます。(将来はもっと重い元素で核融合が起きるのだそうです)

核融合反応から非常に大きなエネルギーが取り出せる、という事は事実では あるのですが、残念ながらまだ人間がそれを安全に制御しながら利用できる 段階には至っていません … それが実現されるかどうかも、現時点では 定かではありません。

「常温核融合」という言葉は、核融合反応がより低い温度と圧力のもとで 生じている事を示す為に使われている言葉です。その反応の成立条件が 通常の「核融合反応」とあまりに違いすぎる為、それが本物の科学的現象 なのか、それとも他の反応によって生じている現象に核融合という言葉を かぶせただけのまやかしなのか、という事が激しい議論を引き起こしても きました。

さて、今回は …



常温核融合についての長年の議論は、今週米国で開催されている米国化学会 の会議の場で新しい刺激を得ています

「Cold fusion(常温核融合)」というものについて初めて言及されたのは、 今から20年ほど前の月曜日の事でした。それを発表したMartin・Fleischmann とStanley・Ponsが、それがクリーン・エネルギーの無限の源になる、と 主張したのです。

彼らの実験を追試する試みは失敗に終わっています。ですが研究者達の中には、 常温核融合が可能だ、と主張する人達が現在も存在しています。

今回の会合では、fusion power(核融合によるエネルギー)を発生させる、 と主張するいくつかのアプローチが検討される予定になっています。

American Chemical Society(米国化学学会)は、これまでも会合の場で 常温核融合に関連するセッションが設けられてきました。彼らは、自分達が それを行わないなら、議論のための適当なフォーラムが存在しないだろうと 示唆しています。

過去において信用されなかったアプローチの否定的な響きを避けるために、 この分野の研究は、現在「low-energy nuclear reactions:LENR(低エネル ギー核反応)」という範疇で論じられています。

2007年の会合で、LENRセッションのACS programの議長を務めたGopal・ Coimbatoreは、「エネルギー危機に直面しているこの世界では、すべての 可能性に探求するだけの価値があるのです」、と語っています。

ヒートアップする議論

常温核融合のprinciple(原理)は、核融合反応を作り出す為の他のメカニズム、 焼けつくように熱いガスを閉じこめておく為に、巨大なレーザーもしくは 磁気によって『閉鎖された空間』を用いる、というものに反しています。

PonsとFleischmannは、それをシンプルかつ室温で稼働する装置、electrolytic cell(電解槽)と呼ばれるものを使用して、電流を取り出したのです。

彼らは、電解槽の温度が上昇した事を観測しました。それは電解槽の内部で 核融合反応が生じ、エネルギーが発生した事を示唆する、と彼らは結論づけた のです。

しかし、その後に世界中で実験が無数に繰り返され、米国エネルギー省によって 常温核融合の研究が広範囲にチェックされ、フランスでPonsとFleischmann達が 自らそのアプローチに数年をかけて取り組んだにもかかわらず、常温核融合は 実際の現象としては証明されなかったのです。

現在「low-energy nuclear reactions:LENR(低エネルギー核反応)」の アプローチに取り組んでいる研究者達は、初期の欠陥のある発表が災いして、 この分野の研究は無視され続け、慢性的な資金提供の不足に苦しめられて いる、と語っています。

University of Oxford(オックスフォード大学)の理論物理学の教授である Frank・Closeは、常温核融合の主張に関する遙かに大きな問題は、その分野 のあらゆる研究の結果が、independently verified(独立した機関による 検証を受けていない)という部分にあるのだ、と語っています … それは 最初の発表を苦しめた問題だったのですが。

「20年という時間によって、何一つ本質的な変化は生じていません。私は、 今、何が語られたとしてもまったく驚きません」、と教授はBBCに語りました。

「この話は、科学について主張で生じた「wrong results(間違った結果)」 の、非常に興味深い記録なのです」

PonsとFleischmannが20年前に行ったオリジナルの研究で用いられた電解漕の 特徴の多くが、より最近の研究でも用いられています。電解漕の電極に 用いられている電極のタイプや、水がa heavy isotope of hydrogen(水素の 重い同位元素)から作られる、といったような事が引き継がれているのです。

まったく新しいあるアプローチが、北海道大学の研究者によって説明される 予定になっています。彼は、圧縮した水素とphenanthrene(フェナントレン) と呼ばれる化学物質で満たされた小空間で、unexplained heat(説明が出来 ない熱)が発生した事を観察したのです。

Close教授は、PonsとFleischmannが20年前に「cold fusion:常温核融合」と 名付けられた現象について発表して以来、既知の理論では説明がつかない 多くの不可解な現象が見いだされている、と語っています。

「私がweird phenomenon(怪しい現象)を拾い上げ、それを常温核融合という 名称で呼ぶなら、リポーターの興味を引くだろうという事は理解しています。 (猫による追記 確かに「常温核融合」のインパクトは強いみたい。 この記事へのアクセス数がそれを物語っています) 科学の世界にその現象 を認めさせる、というのは明らかに完全に別の問題なのです」


猫足
「cold fusion:常温核融合」という言葉を耳にした段階で、「いんちき」が 自動的にインプットされ、思考が停止してしまうというのが一番の問題だ、と いうClose教授の指摘は、非常に示唆に富んでいます。

「low-energy nuclear reactions:LENR(低エネルギー核反応)」という 範疇で語られている複数の現象が、「解明されていない何らかの現象」で ある可能性が有るにも関わらず、最初から「常温核融合は、既に再現できない 事が判明している」という事で「第三者による検証が行われない」事の方が、 確かにより懸念される事なのです。

もちろん、どう話を聞いても「?」というものも含まれてはいるのですが、 実際には20年という長期間にわたって、複数の異なる現象が「常温核融合」 というラベルが災いして放置されてきたのかもしれない、と指摘されると 耳が痛い気がします。


百科事典読書をしていた小学生の頃、なぜ複数の項目の間で同じ概念に 「ニュアンスの違い」が存在するのか?、と問いかけたら、編者の方が 「概念体系と言葉」が何を意味するのか、という事を説明してくださいました。

「他者と話をする場合、意思疎通の為のベースとなる語彙が同じものを 指し示しているかどうかは、常にチェックする必要がある」、という事を 小学生に理解できるように丁寧に教えてくださった方は、「道具としての 言葉」の怖さを知っていた方だったのだと思います。

子どもの時にそれを教えてもらえた幸せに改めて感謝しつつ、この記事を 眺めています。

低エネルギー核反応

「新型インフルエンザ」は、非常に事態の展開が早いです。
まず記事の日付を確かめ、必ず表紙で最新情報を見てくださいね。









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