いきなりだが、毎月の収入が50万円、支出が80万円の農家があったとしよう。やり繰りするため、毎月30万円もの借金が必要とされる。平成18年度の国の歳入は約50兆円、歳出は80兆円だ。政府はこれから5年間で政策経費の財政収支(プライマリーバランス)を黒字にするという。すでに地方への交付金などは大幅に締め上げられ、国民に新たな負担も強いてきた。なのにさらに15兆円近くの歳出が削減され、増税も図られる▲財政再建に異議を唱える者は皆無に等しい。無駄な経費を切り詰めなければならないことも、当然だ。だが、15兆円の歳出削減は、並大抵のことでは実現できない。すでに悲鳴をあげている地方への交付金をさらに絞り、役人の首を切り、医療や福祉のコストを大幅に削っても、まだまだ足りまい。机上の計算では可能でも、現実には不可能に近い数字だ。削減額と国民へのシワ寄せは、比例の関係にもある▲百歩、いや五百歩ほど譲り、政策経費の財政収支が黒字化できたとしよう。だが、それで問題が解決されるわけではない。国の公債残高は600兆円以上に達し、その他の借金を含めるとさらに膨れ上がる。冒頭の農家でいえば、毎月の借金の他に6000万円以上のローン残高があるのと同じことだ。金利が上昇すれば、この金額はさらに増える。歳出の切り詰めそのものにも限界はあるし、切り詰めるだけでは本体の借金の返済まで到底行き着かない▲もしも件の農家であれば、借金を減らすため、どうするか。倹約を重ねるだけでは、元金の返済など夢のまた夢だ。だから無駄な支出を減らしながら、必要な分野に積極的に投資し、収入を増やすだろう。たとえ新たな借金をしても、土地を買い、市場力の高い作物をつくれば、十分に元は取れる。ローンの返済だって可能になる。治山にしても治水にしても、さらには生活環境にしても、国民にとり、公共投資が必要な分野はまだまだある。いたずらに財政を切り詰めるだけでは、何の解決にもならない。むしろ種をまき、収穫を増やすことこそ真の財政再建につながるし、国民生活のためにもなる。
(平成18年9月6日)