2010年10月15日
壁に張ってある10年間の報道の記録を説明する金丙起さん=ソウル市のオーマイニュース、隈元写す |
あのオーマイニュースは、どうなったろう。
「すべての市民が記者」という画期的な旗印を掲げ、10年前のソウルに登場したインターネット新聞だ。02年、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の当選に大きな影響を与え、世界の注目を浴びた。06年には日本にも進出した。しかし、昨年4月に撤退。韓国でもここ数年は赤字続きと聞いた。
「昨年も赤字になりそうでしたが、何とか黒字」。普通の新聞なら編集局長に当たるニュースゲリラ本部長の金丙起(キム・ビョンギ)さん(45)は、そう言う。大手紙のような「正規軍」に対して、市民が市民の目で記事を書く「ゲリラ」に徹する。そんな初心も生きているようだ。
登録している市民記者は、子供から高齢者まで7万人。1日150本近い記事のうち、常勤記者四十数人が50本くらい書き、あとは市民記者が送ってくる。スタッフ10人を置き、3、4段階の事実確認をしているという。
記事ごとに読者が意見を書き込み、気に入ったらボタンを押して筆者に原稿料を送る仕組みも健在だ。「市民参加と双方向のとびらを開いた意味は大きいと思います」と金さん。
しかし、経営の苦しさは否定できない。02年末に1日2千万近くに跳ね上がったページビュー(閲覧数)は、1けたも落ちた。収入の7、8割を頼る広告収入の増大は期待しにくい。
新たな収入源として、有料の市民記者学校やイベントに力を入れる。昨夏、月に1万ウォン(約750円)〜10万ウォンの会費で支えてもらう「10万人クラブ」も始めた。だが、今のところ5千人ほどで、10万人にはほど遠い。
厳しさは金さんも自覚している。何しろ、ブログなどで市民が自ら発信する時代だ。金さんは「市民記者の拡散」「親指一つで記者になれる、一人メディアの時代」と呼ぶ。「この流れにどうついていくかの競争だが、インターネット民主主義のためにはとてもいい時代です」
市民がケータイで撮った写真を載せる「オムジ(親指)ニュース」のコーナーを作ったり、ツイッターで討論会を開いて画面に載せたり、オーマイニュースの模索は続く。
ところで、日本進出の失敗から学んだことは? そう問うと、金さんは三つあげた。
まず、日本はネット接続が韓国より先にモバイル時代になっていたこと。次に、韓国人は自分の意見を表現したがるが、日本人はそうでもないこと。そして、既存メディアへの不信が強い韓国と違い、日本では信頼感があること。
「特に韓国の大手紙は市民が欲するニュースを報じない。だから、市民はネットで爆発するしかなかったんです」(編集委員・隈元信一)