話題

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

秘境駅:「何もない所がいい」「非日常」とツアーが人気

70年以上前に建てられた小さな駅舎が観光客でごった返す=JR飯田線小和田駅で2010年9月20日、仲村隆撮影
70年以上前に建てられた小さな駅舎が観光客でごった返す=JR飯田線小和田駅で2010年9月20日、仲村隆撮影
JR飯田線小和田駅の場所
JR飯田線小和田駅の場所
秘境駅ランキングトップ10 ※牛山隆信氏のホームページ「秘境駅へ行こう!」から
秘境駅ランキングトップ10 ※牛山隆信氏のホームページ「秘境駅へ行こう!」から

 周りに人家はほとんどない。山や渓谷に囲まれた木造駅舎やホームには自動販売機さえない。鉄道でしか行けない「秘境駅」が人気を集めている。なぜ「何もない」場所に引きつけられるのか。JR東海の専用列車「飯田線秘境駅号」に乗ってみた。【仲村隆】

 狭いトンネルを抜けると、小さなホームと古びた木造駅舎が目に飛び込んできた。樹木に覆われたがけと天竜川の流れが線路の両わきに迫る。浜松市天竜区の「小和田(こわだ)駅」。満席の3両編成の列車が着くと、カメラを手にした乗客約170人がどっと下車。トタンぶき屋根の駅舎はごった返した。1936年の開設当時のままの駅舎正面で、記念写真の列ができる。「本当に何もないね」と乗客がつぶやく。

   ◇    ◇   

 飯田線は、愛知県豊橋市と長野県辰野町を結ぶ単線ローカル線。約200キロのうち、愛知北部から3県境を経て長野県飯田市に至る50キロは、天竜川沿いの急峻(きゅうしゅん)な渓谷と山間地を縫って走る。断がい絶壁に点在する▽小和田▽中井侍(なかいさむらい)▽為栗(してぐり)▽田本(たもと)▽金野(きんの)▽千代(ちよ)--の6駅を巡るのが「秘境駅号」だ。

 JR東海が5月の大型連休に企画、全席指定の募集と同時に予約が埋まった。「鉄道マニア向けに売り出したが、中高年や家族連れなど予想外に人気」(広報部)を集め、来年2月までほぼ毎月運行することに。運行した26本の平均乗車率は約9割。ローカル線では極めて異例のヒットだ。

 JR飯田線は、かつて水力発電用ダム建設の資材などを運搬し、小和田駅も駅員がいる普通の駅だった。林業が盛んで一時は周辺に40戸以上あったという。56年の天竜川の佐久間ダム完成に伴い多くの集落が水没、残った住民も高齢化し、去った。いま唯一の住民は駅から歩いて約15分の宮下茂正さん(85)繁江さん(84)夫婦。繁江さんは「前は郵便配達の人だけだったのに最近はにぎやか。何もない所がいいのかねえ」と首をかしげる。小和田駅の1日の利用者は、平均2人だ。

 小和田駅から三つ目に止まる田本駅も、トンネルとトンネルに挟まれた約100メートルの線路に細いホームを添えただけ。最も近い集落まで、ホームから山道を20分以上歩く。

 秘境駅号の乗客は男女ほぼ半々、中高年が大半で、東京、名古屋、大阪など大都市圏の人が多い。名古屋市千種区から夫婦で参加した70代の男性は「秘境駅という言葉の響きにひかれた。自然に囲まれ、ストレスの多い都市の生活をリセットできた」と笑う。東大阪市の会社員、曽和将員さん(49)は「古い駅舎や家屋などを見て、昔のにぎわいの名残を感じるところがたまらない魅力」と話した。

 ツアーではなく個人で訪れる人もいる。また、秘境駅として知られるJR北海道室蘭線の小幌(こぼろ)駅を訪れる日本航空のツアーもある。

 ブームの火付け役で「秘境駅へ行こう!」(小学館)の著者、牛山隆信さん(43)は人気の秘密を「何もなく不便な場所だが、日常とは全く違う世界。訪れた人の想像をかき立て郷愁を誘う。その魅力が人を引きつけるのではないか」と語る。

 ◇ことば・秘境駅

 99年にサイトを開いた牛山さんらが広めた造語で(1)山奥や原野など人里から離れた場所(2)交通手段は鉄道のみで車道が通じていない(3)周辺に民家がほとんどない--全国約200駅のこと。現地を訪ねた牛山さんがサイトで公表する秘境らしさのランキングでは、小和田が2位、田本も4位に入る。

毎日新聞 2010年10月16日 13時10分(最終更新 10月16日 13時36分)

検索:

PR情報

話題 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド