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布川事件:再審公判 「虚偽自白強要された」「認めなければ、死刑」--被告人質問

 茨城県利根町布川(ふかわ)で67年、大工の男性(当時62歳)が殺害された「布川事件」再審の第4回公判は15日、水戸地裁土浦支部(神田大助裁判長)で被告人質問があった。強盗殺人罪で無期懲役刑が確定した裁判で主な証拠とされた「自白」を巡り、桜井昌司さん(63)と杉山卓男さん(64)は「認めなければ死刑だと取調官に言われた」などと話し、虚偽自白を誘導・強要されたと訴えた。

 弁護側は主尋問で虚偽自白に追い込まれた経緯を2人に尋ねた。桜井さんは、無罪が確定した厚生労働省元局長、村木厚子さんの公判を巡る証拠品改ざん事件に触れ「無実の証拠を隠すのと、(布川事件で虚偽自白により)有罪の証拠をでっち上げるのは同じことではないか。(検察官は)犯罪者だ」などと検察を批判した。

 桜井さんは67年10月10日に別件逮捕され同15日に「自白」。アリバイの記憶違いを指摘され、ポリグラフ検査後に取調官から「『犯人と出た』と言われ、心が折れた」と語った。杉山さんも別件逮捕され、同17日に桜井さんの自白調書を示され「認めなければ死刑だ。認めたら執行猶予もある」と迫られた。「いくら言っても信用してもらえず、裁判で桜井と対決するしかないと思った」と述べた。

 2人は自白調書の内容は取調官の誘導だったと強調。桜井さんは殺害方法を当初、杉山さんが殴り殺したと自供した。その後、自分が首を絞めたと供述を変えたのは「取調官に『杉山がそう言っている』と言われたから」だという。杉山さんは「被害者宅の見取り図を描けずにいると、取調官が5分くらい見せてきた」と話した。

 公判は次回11月12日に検察側の論告求刑が予定され、弁護側は「村木さんの事件でも検察への信頼が揺らいでいる。違法・不正な捜査への謝罪を」と注文を付けた。12月10日の弁護側最終弁論で結審し、来年3月に判決の見込み。検察側が有罪立証の柱とした遺留品のDNA鑑定は退けられており、無罪の公算が大きい。【原田啓之】

 ◇恐怖におびえ、暗号で獄中日記--桜井さん

 「死刑の恐怖におびえていた。否認すれば立場が不利になると思った」。被告人質問で桜井さんは、獄中日記の一部で暗号を使った理由をこう語った。

<A1 E2 o5 o5 e4 c4 e4 〓〓2 o5 c5 A4>

 捜査段階で最終的に「自白」した1967年末の直後の日記に書いた。<オレハハンニン(犯人)デハナイ>の意味だ。アルファベットと数字を組み合わせて<ヨマレルト検事ト警察ガウルサイノデ、アエテアンゴウ(暗号)>を使った。

 いったん自白した後も何度か否認に転じ、その度に取り調べは厳しさを増す。その繰り返しで捜査段階での闘いは断念した。<シンハンニン(真犯人)オサガ(探)スタメ、シケイ(死刑)ニナツテハダメダカラダ>

 別件逮捕された後の67年11月から無期懲役の1審判決の70年10月まで約3年間でつづった日記はノート17冊。約820ページ、約62万字に及ぶ。

 裁判では、裁判官が冤罪(えんざい)を見抜いてくれると期待を込めた。68年2月の初公判で否認し「真実を話せた喜びでいっぱい」と書いた。だが、1審判決で「全く残念だ……こんなものなのだろうか……」と書き日記は途絶える。

 その一節にこう記されている。「何年かかろうとも、必ず真実は分かるだろう」

毎日新聞 2010年10月16日 東京朝刊

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