きょうの社説 2010年10月16日

◎景気下方修正 北陸でも下振れのリスク
 日銀が10月の「地域経済報告(さくらリポート)」で、1年半ぶりに関東甲信越と東 海、中国の3地域の景気判断を下方修正する一方、北陸など6地域については景気判断を据え置いた。自動車産業の比重が高い地域が真っ先に落ち込んだのは、エコカー補助金の終了による反動減だろう。据え置きの地域も全体的に景気判断がやや厳しくなっており、減速傾向が鮮明になってきた。

 さくらリポートで、北陸の景気判断は「依然として厳しい面もみられるが、全体として 持ち直しを続けている」だった。これまでの「着実に持ち直し」から「着実に」の文言が削られ、回復のペースが鈍化していることがうかがえる。日銀金沢支店の味岡桂三支店長は、北陸の景気の先行きについて、円高や海外経済の不透明感から「下振れするリスクが大きくなってきた」と指摘した。

 北陸は自動車産業のウエートが低いとはいえ、すそ野の広い産業だけに、これからカー ナビなどの電子部品や自動車内装材などを中心にじわじわと影響が出てくるのではないか。家電のエコポイントが12月から最大で半分になるのも大きなマイナス材料だろう。

 10月の「北陸の金融経済月報」によれば、製造業は円高圧力を跳ね返し、輸出を増や している。主力の電気機械は、デジタル家電や白物家電(冷蔵庫、洗濯機など)、携帯電話などの電子部品のアジア向け輸出が好調で、医薬品も生産が拡大した。リーマン・ショックで大きく落ち込んだ一般機械や鉄鋼・非鉄も持ち直し、金属製品や繊維は徐々に回復してきている。今後、ゼロ金利復活などの一連の追加金融緩和で、設備投資が上向く期待もある。エコポイントなどの政策効果がはげ落ちていくなか、北陸の景気は製造業の踏ん張りにかかっていると言ってよい。

 個人消費については、百貨店・スーパーの売上高に下げ止まりが見られるものの、やは りエコカー補助金の終了と家電のエコポイント半減が影響しそうだ。公共投資の減少が続くなか、総額1兆円規模となる公共事業を地方へ重点的に予算配分する予定の追加経済対策に期待がかかる。

◎卯辰山山麓寺院群 意義深い全国初の「伝建」
 卯辰山山麓寺院群の国重要伝統的建造物群保存地区(伝建地区)選定を目指し、金沢市 は年内に伝建地区の都市計画決定をしたうえで、年明けにも国に申請することになった。選定されれば、全国87の伝建地区の中でも寺院群は初めてとなる。市内では、ひがし茶屋街、主計町に続く3例目で、川を挟んで面的につながる「伝建」群も全国で例がない。

 寺院群としての「寺町」は、城下町の大きな構成要素である。だが、卯辰山山麓のよう に藩政期の都市計画の構造をほぼ残している地域はほとんどなく、規模の大きさから言っても比類のない存在である。伝建地区の選定により、金沢の城下町としての姿は一層鮮明になるだろう。時間をかけて合意形成を進めてきた住民の努力も貴重であり、その点でも申請にこぎ着けた意義は大きい。

 金沢では城下町建設が本格化した江戸初期、城郭の三方に卯辰山、寺町、小立野の3寺 院群が配置された。そのなかでも、卯辰山の寺院群が往時の姿をとどめてきたのは、起伏に富んだ山麓の地形が車社会や開発の波を阻んできたからであろう。

 細道に沿って土塀や石垣が続き、石段の参道を上れば市街が一望できる境内がある。迷 路感覚に包まれるその空間は、泉鏡花が「巡礼街道」と呼んだ文学の舞台でもある。非真宗系を中心とした寺院群と周辺は人形供養や筆供養、四万六千日など民俗の宝庫であり、歴史や文化が蓄積された、まさに歩きがいのある空間といえる。

 金沢市が寺院群の保存に関する調査を始めたのは1990年代である。伝建地区は家の 改修補助、税の優遇措置があるとはいえ、建築関係の制約なども多い。一帯は住宅地が広がり、選定に慎重になる人もいただろう。住民の理解が深まるまで時間がかかるのは当然のことである。

 伝建地区は、そこに人々の暮らしがあってこそ価値がある。選定で生活の質が落ちては 意味がない。歴史的景観の維持と住民の生活、観光との両立は、金沢全体に通じる大きなテーマである。官民一体で知恵を絞っていきたい。