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きょうの社説 2010年10月15日
◎鉄建機構の剰余金 新幹線財源に有効活用を
鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が抱える1兆4534億円(09
年度末)の利益剰余金について、野田佳彦財務相が来年度予算への活用を表明したのは、あまりにも拙速で、短絡的な考えである。新規国債発行が抑制される厳しい予算編成を迫られるなか、1兆円規模の財源はのどか ら手が出るほど欲しいのだろうが、北陸など整備新幹線の関係自治体は新幹線関連予算への充当を求めており、機構を所管する国土交通省との調整もまだ終わっていない。 剰余金は旧国鉄職員への年金支給などのために積み立てられ、JR本州3社の株式や旧 国鉄用地の売却益などを原資にしてきた。お金の性格、過去の経緯を考えれば、国庫返納の前に、鉄道事業への活用を優先的に検討するのは自然な発想ではないだろうか。 北陸新幹線金沢以西など3区間の新規着工判断は先送りされ、今後の見通しは不透明さ を増している。年末の予算編成へ向けた剰余金の取り扱いは、まさに政治判断が求められる局面である。 鉄道・運輸機構の利益剰余金については、年金給付が想定を下回るなどして「特例業務 勘定」が年々積み上がっていた。年金支払いは今後も続くが、大半の剰余金は不要になる見通しである。 独立行政法人を対象にした4月の事業仕分けでは、この剰余金が「国庫返納」と判定さ れ、9月には会計検査院も、当面の資金繰りで必要な額を除く1兆2千億円の国庫返納を求めた。 事業仕分けや会計検査院の検査にしても、独法がため込んだ金を探し出し、国庫に取り 戻すという発想が前提であり、財源活用の視点は抜け落ちていた。新たな埋蔵金が見つかったと喜ぶだけでなく、ここは地方の声にもじっくり耳を傾けて判断してほしい。機構には国庫補助金も投入されてきたが、それを差し引いても相当額は新幹線関連に回せるはずである。 剰余金を他の目的に転用するには、積み立てを義務づけた関連法を改正する必要がある 。そうした一連の議論を通じて、整備新幹線が国家プロジェクトであることを再確認し、その認識を政権全体で共有することを望みたい。
◎小沢氏の提訴 天につばする検察審批判
小沢一郎・民主党元代表の資金管理団体「陸山会」の収支報告書虚偽記入事件で、東京
第5検察審査会が出した「起訴議決」について、小沢氏側が行政事件訴訟法に基づく無効確認などを求める訴訟を起こす理由は、本人が今回の検察審の議決、さらには制度そのものに不信感を持っているからだろう。検察審について、小沢氏が「11人の委員、平均年齢30歳ということしか分からない。全く秘密のベールに閉ざされている。どういう議論がなされて結論がなされたのか、一般の国民の皆さんにも全く分からない」と述べたのは、まさに本音ではないか。だが、「強制起訴」を定めた改正検察審査会法は、小沢氏が代表代行を務めていた20 04年5月、民主党も賛成して可決・成立し、5年後の昨年5月に施行されたものである。検察審査会の趣旨は一般市民が自分たちの常識と論理に照らして、法律のプロである検察の判断をチェックするところにあり、強制起訴の導入理由は「司法への国民参加をより重視するため」だった。小沢氏も法改正の趣旨に賛同していたはずである。 現行の制度について、一般市民11人での構成や審査の進め方、強制起訴に至る手続き などで、今後、見直しの余地が出てくることもあろうが、この制度をつくった立法府の一員が、自分に火の粉が降りかかってきたからといって「秘密のベールに閉ざされている」などと批判するのは、天につばする行為だ。政治家としての自覚を欠くといわれても仕方がない。 第5審査会の2回目の議決は、土地購入費の原資として、告発事実になかった「小沢氏 からの借入金4億円」も犯罪事実に含めて認定した。訴訟で小沢氏側は、「告発事実以外を犯罪事実に加えることは検察審査会法に違反している」と主張するつもりだろう。 だが、起訴議決の判断は小沢氏のこれまでの供述を「不合理」「不自然」と感じている 多くの国民の声であり、法律論だけでは片付けられない。小沢氏は自らの潔白を国民に納得させる努力を怠ってきたツケであり、今からでも国会の証人喚問に応じて説明すべきだ。
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