チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[22430] 妖精の舞う空【短編?中編?】
Name: ブシドー◆fddcbbd2 ID:10f8d4d5
Date: 2010/10/13 22:27
―――――オレは、特に自分が戦う理由なんて物を考えた事は無かった。




何時の間にか戦場に居て、何時の間にか『外宇宙からやって来た侵略者と戦う人類』なんて、馬鹿みたいによくあるSF小説の世界な日常。

その事に疑問を持った事も無いし、それ以上に興味も無い。
『オレ』という存在が今も昔も変わらなく抱き続けている思いと言えば……空に対してくらいだと思う。


空、真っ青な空、全てを吸い込んでしまいそうな怖い空………“飛ぶ”という行為にエンジンとオイルに頼る「ヒト」には及べない場所。


「輪廻転生」なんて説明出来ない現象を信じる様な人生観をしていないが―――どうせ生まれるのなら次は鳥が良いな。とも思う。

ある意味、オレは「飛ぶ」という行為に魂を囚われているのだ。今も、昔も……これからも。


そう、オレがぼんやりとした目でオレと“相棒”が乗る戦術機が存在する現在の高度を示す高度計を見つめる。
地表に対して約18m―――つまりは地上に立っている―――という、飛べてすらないこの状況で小さく息を吐く。

光線級に、この空を抑えられてるのだ。そんな状況で飛ぶのは嫌だし、“相棒”も経験からして拒否するだろう。

だが、それだからぁ存外、つまらない。これならワザワザと出撃を変わってもらう必要性なんて無かったとしか思えない。
同じ暇なら、基地の演習場で高度制限の無い空で飛び回ってる方が楽しいじゃないか―――そう感じるのも仕方が無いだろう。



「―――――ヒマ、だな」

<It agrees>


複座型管制ユニットの後部シートの“相棒”にそう問いかけると網膜投影式のディスプレイにその言葉を浮かべる。
―――同意します、とは……どうにも「ヒト」らしい様で機械的な返答だ。

まだ半年の付き合いだが、何も気にしなくて話す事が出来る“相棒”の存在はオレにはもう切っても切れない程に依存している。
“相棒”の素晴らしいところは、口うるさくも無ければ喚く事も無い……そして、「死者が生まれていく光景を幾百と見ても壊れない」のが最高にイイ。

オレみたいなのにはどんな美食、美酒、美女、金でも……そんな物を幾ら対価にしようが得る事の出来ない存在なのが、特に素晴らしい。


《―――帰還しろ中尉、後は後続が担当する》


――――そんな、ヒマですら甘美に変えてくれる“相棒”との無言のひと時も終わりがやってくる。
今もその鋭い目で戦況を見つめているであろう我が隊のボスから下される帰還命令。お使い終了って訳だろう。


「……了解、RTB」


軽く手首を回し、操縦桿を握る。
緩やかに、だが近づけば即座に吹き飛ぶであろう程の暴風が二基の跳躍ユニットから吐き出されていく。

そして、そのまま地表を氷上を滑る様に進んで行き、その後は機体を低い高度で飛ばしていく。




―――――背後には、逃げ惑う戦術機や無力な歩兵、動きを封じられた戦車という……幾つもの命を見捨てて。



 ◇



「報告は以上だな……ご苦労だった中尉」

「いえ、ではこれで」


スペイン バルセロナ国連軍基地。
バレアス海を前方に望む、ユーラシア各地への物資輸送の要の一つでもある巨大な基地にオレは居る。

2002年の桜花作戦、それの成功に伴い。欧州の反抗作戦……確か、「オペレーション・クルセイダーズ」が実行された。
そして“十字軍(クルセイダーズ)”の名の通り西から東へ、欧州奪還に際しての目先のコブであったリヨンハイヴの攻略の完了……それから一年は過ぎている。

情熱の国、と言われていたスペインも嘗てのBETA侵攻の爪痕がまだまだ深く、今も復興に向かうのにも一苦労といった所だろう。
だが、BETAの支配から抜け出したこの国は強くなるんじゃないかと思う……関心も気にもしないが。


「ンッン~」


オレは、整備の完了した自身が乗る戦術機である複座型F-15ACTVをモップで擦りながら鼻歌を歌う。
以前の戦場から一週間の日数が経過していて、勿論だが機体洗浄も行われている。これは趣味……と言えるのかも知れない。

何で掃除かって、この基地に居てもやる事は飛ぶ事と寝る事くらいしか無い……それ故に、オレの暇つぶしとして「戦術機の掃除」を選んでいた。

オレが行う「任務の特殊性」もあり、オレが所属する部隊は俗に言う嫌われ者だ。
それに加え、オレが得ようとも求めようともしなかったのもあるが友人なんて存在は居ない。

だから、暇も潰せないし時間も有り余っている。唯一の……友人と言うか気心が知れているのは“相棒”だけだと思う。
いや、気心が知れてるってのは相棒に対しては当てはまらないか。

そう呟き、掃除を終えたオレは管制ユニットに潜り込んで機体を起動させる。システム面と整備後の各部重量バランスを見る為だ。
この機体……ACTVは繊細で、同時に豪快な機体だ。だから、整備が完璧でもそれを整備員以上に把握しておく。

オレは機体に搭載されていた片目用のヘッドセットを着けてチェックリストに赤いペンで確認したデータ内容の項目を書き込む。
……それを、一時間もしてからオレは背中の“相棒”を起こした。


「………」

< What went wrong?Lt>

「気にしなくていい、気まぐれだ」

<……I got it>


そう返してくる“相棒”に思わず噴き出す。
毎回、毎回……何処か人間臭い返事をしてくるコイツはどうにも面白い。

確か、第四…じゃなくて第三、だったか?まぁ、そんな計画で生まれた技術の一部を応用したとか聞いたがどうでも良い事だ。


「……」


複座型管制ユニットの後部席の位置、そこに固定されている円筒状のデータポッドを見ながら呟く。
サイズは……小柄な少女が一人ほどしか入れないであろう程しか無い。中身は知らないが、どうせ機械で細々としているだけだ。

機械弄りに関しては専門外なオレには、弄ろうとも思わない。
下手に弄って、破壊してしまった際には自分に何が降り掛かるのかも予想が出来ないモンだ。


<Lt.Curiosity ruins oneself>

「分かってる」

<I see.That's good>

「………本当に面白いよ、お前」

<Thank you>


【戦術機無人化計画】という、何処か馬鹿馬鹿しくも現実に進行中の計画で生まれた機械の頭脳を持つ「人工の探求者(Artificial Seeker)」。
人間を気取っている様にも思えるこの機械の塊に最も適した呼び方なんだろう。

オレを含めたこの部隊の衛士はコイツらに戦場を……BETAとの戦争を教える為にのみ存在する教師、コイツらはそれを貪欲に知ろうとする教え子。
全身の至る所に増設されたカメラはBETAを殺す光景を、戦術を、そして死んでいく者を無言で眺めていく。


ガキの頃、弱ったバッタに群がる蟻や蜘蛛の巣にかかった蝶が食われて、バラバラにされていくのを無邪気に見つめる子供みたいに。


何処までも純粋に、「BETAとの戦争」を現場で学ばせて未熟なAI(子供)を完成(大人)させる。
最もな例えで言うのなら、読んだ本を積み上げるみたいにだ。

兎に角、ゲリラに育てられた子供の様に、「そうするのが普通であり、存在意義である」というのを……洗脳するみたいに刷り込んでいく。


そして、これが完成した暁にはBETAを殺す事に対しての戦闘行動を取る無人の軍団が出来上がるんだろう。
相棒一人で戦争が出来る、その段階まで学習するのは何処まで時間が掛かるかは不明。
この計画を推したのがアメリカという事もあってか、胡散臭い限りだが……オレにはどうでも良い事だ。

オレにとって、コイツは相棒であり戦友でもあり……家族でもある。
一緒に飛んで、一緒に寝て、一緒に戦場に立つ……どんなに固い絆でもオレとコイツには敵う訳が無い――――そう、思える。


「――――そうだ、名前をまだ決めて無かったな」

<My name?>

「ああ、そうだ。何が良いかな……」

<Please give me a nice name>

「そう急かすな……ンッンー……」


ふと、今更ながらにそう思う。名づけのセンスはオレには無いが、何か愛称みたいなのは欲しいと思える。
何時までも“相棒”に“コイツ”じゃ、女の子に対して失礼ってモンだろう……何で、女の子と思ったのかは分からないが、そう浮かび上がったのだ。

そんな思考を纏め上げ、喉を少しだけ鳴らして名前の考えに意識を没する。
在り来たりなのは相応しくないが、あまりに尊大すぎても逆に呼び辛い。コイツに相応しく、それでいて何処か親しみすら思える名前。




そこで、ふとハンガーの外を見る。今も殺し合いが何処かで起こっているというのに、変わらない青空と少し沈んだ太陽が見えた。
……そうだな、あれが良いだろう。


「……サニー、でどうだ?」

<Sunny……That's my name……>

「いっつも、戦場を見ているだけのオレらには良いと思わないか?―――――ずっと、地球を見守ってきた太陽と一緒でさ」

<It is not possible to understand>

「理解できないって……そういや、素で忘れてたけどお前は人間じゃなかったな、じゃぁ――<But…>……?」


相棒が文句というか、回答する答えを知っていなかったのもあってかそんな言葉が返ってくる。
まぁ、当然か―――そう思い、また思考の渦に身を任せようとした時に相棒からそんな一言が帰ってきた。


<Not so bad>

「――――――」

<Thank you.Lt>


―――そんなに悪くない、ありがとう中尉―――

そう、文章で浮かび上がったサニーの“意思を持った返事”に……オレはまた笑みを浮かべる。

―――良いな、これは最高に気分が良い―――

ちょっとだけ、暇なのも忘れられる喜びに小さく鼻歌を歌う。
サニーも、それっきり黙ってしまったが……起動中を示すハードディスクランプがチカチカと、リズムを取る様に点滅している所からして……喜んでいるのか?

考えている事はまったく不明だが……何故か脳内に小躍りする幼い少女の姿が幻視できてしまう。

そんな脳内に浮かび上がった光景を、頭を左右に振って振り払う。
そうしている内に、全ての検査が終わっていた。


「ン……サニー、今日はもう切るぞ」

<………Yes>

「……因みに、明日は演習だ。頼りにしてるぞ」

<Leave it to me>

「………コロコロと意見が変わるな、お前」



 ◇



サニーに名付けて以来、何処か会話……うん、会話だな。会話が多くなった。
何事に対しても貪欲に興味を割き、知ろうとする。一回、食事を摂っていた時に「それは何ですか」と問われた。

人間の生命活動を維持する為の物……そう答えると、更に突き詰めて尋ねて来る。気になると我が侭みたいに知識を求めるのだ。

それは、計画に携わる技術者にとっても不可解な事らしい。


―――まるで、人間の様に考えを持っている―――


オレが、以前から感じていた通りの事は、やっぱり異常みたいだ。

人工知能、AI……そんなので表せれる問題とは思えない現象。そして、それは会話をするオレにも言える事らしい。
ただでさえ、友軍を見捨ててでも帰還するという部隊の機体なのに、これじゃ余計に居づらい。


「どうしたモンかなぁ……なぁ、サニー?」

<I don't know>

「分かりませんじゃないよ、そんな無責任みたいにさ」






続く


・中尉
本名不明な人、変人。

・サニー
中尉の乗る戦術機の後部座席の場所に設置されているユニット。
戦術機での対BETA戦を学習中。戦術機無人化計画の要。ポッドの中身は不明、不明ったら不明。

・作中の年数
2005年の冬、桜花作戦の成功した未来。

・機体
複座改修(ポッド設置の為)、機体各所に設けられたデータ取得の為のカメラレンズなどを設置したF-15ACTV。
元々、データ習得の為だけを考えられ、BETAとの戦闘は考慮していないので武装が最低限であり、尚且つ高機動力を求めた結果となる。




雪風見てたら書いてた。何を言ってるかは察して頂けるとありがたい。



[22430] 妖精の舞う空【その2】
Name: ブシドー◆fddcbbd2 ID:10f8d4d5
Date: 2010/10/13 22:27



「……」

「うーン、やっぱり素晴らしい!自我が芽生えるなんて、まさに“異常”だヨ!!」


オレの目の前で、そう高らかに謳うかの様にステップを踏む白衣の老人。
ギョロっとした爬虫類の様な瞳、狂人染みた言動に顔……それらが合わさり、一種のホラーと化している。
少なくとも、子供が見れば悪夢として毎晩の様に見るのは確実だ。

そんな老人――――ドクトルは、ACTVから降ろされたサニーのポッド周辺をグルグルと回りながら笑い続けていた。


<…… Lt.Please help me>

「……諦めろ、サニー」

「今、“助けを求めた”かナ!?―――――アア、素晴らしい!素晴らしいィィィ!!」


半音釣り上がった様な声で、また笑い続ける。
現在時刻、午前2時29分……こんな時間に、素晴らしくも儚い睡眠中に呼び出しを食らったのだ。
不機嫌にもなるし、起き立てにこの甲高い声は癪に障る。

ただ、ドクトルは【戦術機無人化計画】の最高責任者だ。
つまりは米国と繋がる人物であり、本人もこの計画の根本的な研究を進めていた研究者でもある。

―――結論で言えば、オレの上官とも言える人間だ。
殴って黙らすのは流石に出来ないのが、軍隊の悲しい所だ。


「サニー君は中尉、君とだけしかコミュニケーションを取ろうとしなイ!それが何故なのか……ああ、興味深い、深すぎるヨ!」


ああ、一言で言うのならドクトルは狂人だ。
風貌もそうだが、何より雰囲気で分かる。そもそも上官でなきゃオレだって近づきたくない。

………こんな人間が、この計画を率いてるというだけで多少なりの危険性が垣間見えるという物だろう。
まぁ言い方を変えるとすれば、黒い噂に困る事の無い部隊の責任者が普通な訳は無いって事だ。


「……で、何か御用ですかドクトル――――解剖・改造以外なら、受け付けますが」

「人間なんてのはもう飽きているヨ……BETAを解剖した時並みの感動が味わえるのなら、話は別だがネ」

「では、お答え出来ませんね。オレは普通の人間なので」

「君は“普通”の定義を調べた方が良いヨ。この計画に参加してる時点で“異常”なんだからネ」


笑みを顔に貼り付けて言うドクトル。
そりゃ、トップがこれじゃあな――――その言葉は喉の奥に押し込み、オレはコーヒーを一口だけ飲む。

アメリカより戦術機から煙草まで、潤沢に支援されているこの部隊。
コーヒーだってモドキじゃない本物、ここだけ国連軍であって国連軍じゃない……そんな場所だ。


「……酸っぱい」

<Were sugar and milk done?>

「カフェ・オーレになるから駄目だ……というか、何で知ってる?」

<Search me>

「――――ハ、ハハハハハッ!君達、ありえない事をそんな日常すぎる会話デ………笑うしか無いヨ!」


ただ、酸味の強いコーヒーにミルクか砂糖を入れたらどうか?の会話で五月蝿いくらいに騒ぐ。
傍から見れば異常だが、実情を見れば変に思うだろう。

変な円筒のポッドと会話する人間に、それを見て笑うマッド。
これだけで逃げ出す準備を完了する。というか、絶対に逃げる。

そんなオレの心は流石に読めないであろう博士が笑い疲れたのか華奢で安っぽい椅子に身を預け、水を貪る。
それを見届けながら、ようやく呼ばれた理由が聞けそうだな、と…そう思った。


「じゃあ、仕切りなおして……ドクトル、用件は?」

「ああ、うん……この計画に参加してる君に聞くのもアレだけど、無人機ってのは“どんな局面で運用される”と思うかナ?」


そう尋ねて来るドクトルにオレの顔が歪むのが分かる。
無人機を運用するのがアメリカやオーストラリア等のBETAの脅威に曝されない様な国と知っての事だろうか?

……いや、この狂人はそうと分かっててこそ聞いているだろう。
そういう人間だ。


「……基本、単調な動きしか出来ない無人機では常に変化し続けるBETAとの戦闘に対し、臨機応変に対応できません」

「ふむふむ、続けて?」

「……よって、主に運用されるのは人間に対して。反政府組織、難民解放戦線……アメリカがお好きな言葉では、テロリストと呼ぶな」

「その通り!」


満足そうに笑うドクトルにオレは小さく息を吐いて椅子に座り直す。
そう、現在使用されている戦術機の無人制御技術では『有人機からの命令を実行する』しか出来ないのだ。

例えば、「A地点の目標を撃て」という命令を下せば命令を実行するだろう。だが……ただ、それだけだ。


玄人と言われる程にBETAと血で血を洗う殺し合いをした訳じゃないが……BETA相手の戦いは経験と機転が物を言う。
常に全てを把握し、常に思考を止めず、そして最善に向かう攻撃・機動・進行ルートを算出し、そして行動に移す。

この全てが生き残る事に繋がっていく。
そして、行動は考え無しで行えば死ぬだけだ。考えるのを止めない、オレはこれが重要だと思う。

サニーを含めた無人化計画の要である学習型AI達。
その完成系は命令を待つまでも無く、自分で考えて自分で行動し、作戦を遂行する無人の戦闘部隊。

恐れを知らず、一定の性能を引き出せて人材育成を育成するより早い。
アメリカからしたら大喜びだろう。どうせあの国だ、売るにしても利権絡みでゴッソリと持っていくに決まってる。

それに、国連軍基地で開発をしてるのは数多の国で作戦を行ってるのも理由がある。
桜花作戦以降、各国の戦線への介入力が高い国連での試験運用のし易さを求めた結果だ。

米国として「新兵器開発するから戦線へ参加させろ」と言うより、「国連として参加させてくれ」の方がマシだ。
国連の力を必要とする国は未だ数多い。戦場には困らない。


「―――そう、BETAとの戦争が無人化すればカの国は勿論、世界的にも大きな影響が及ぶヨ」

「……興味ない」

「そう言わないでくれヨ中尉、君とサニーは最も異質で最も可能性を秘めているんだかラ」

「可能性?」

「そウ!思考し、判断するAI!今は君に対してのみ作動……いや、返事をし、会話するサニー君だが最も可能性を秘めているとも言えル!」


―――サニー。
現状では人の様に話し、意見を良い、そして回答する人の様な自我を持つ存在。
幾ら学習型AIなんて、訳の分からない存在であってもこれは可笑しいと思う。


「……ドクトル、サニーがこうなっているのに対して、何か知りませんか?」

「知らないなァ……大体、知ってたら興味もない研究に時間を割かないヨ?――――ああ、少しだけ心当たりはあるケド」

「それは?」

「ンッフッフ……教えられないネ」

「………」

「怖い顔しないでくれヨ、そんな視線だけでモ老人には堪えるンだからサ………でも…うん、そうだナ」


はぐらかす様な態度を取るドクトルが、何かを考える仕草をする。
そうしてる事、3分。何かを思いついたか、はたまた気になったのか……オレに笑みを見せながら聞いてきた。


「………君、子供の姿を幻視しないカイ?」

「―――――ある、な……いえ、あります」

「そうか……うん、もう帰ってイイよ」

「……失礼します」


口元に手を添え、深く考えだすドクトルの姿にオレは先程の問い掛けの意味を聞こうと思ったが止まる。
聞いても望む答えは返って来ないだろうし、気にする事でも無い。

……ただ一つ、オレの中で気になっていた物が一回り大きくなっていた。




―――――サニー……君はどういう存在なのか―――――



 ◇


「―――――クカ、クカカカカカカッ!!」


私と調整用の作業台に乗せられたサニー君以外は誰も存在しない研究室に声が響く。
その声はよほど大きかったのか、中尉が残していったコーヒーに小さく波紋が出来るほどだ。


「――――――――最高ダ!」


しかし、そんなのは気にもならない。
近年、熱が冷める様に失いつつあった“欲”が……私の中で湧き上がっていた。


「全身の内臓を人工物に変えたヒトは人間?機械に人間の意思が宿ればヒト?――――分らなイ!これは生命に対すル挑戦状ダ!」


サニーという、あの中尉が名付けたAI。
いや、正確に言うのなら彼が“機械で組まれた、AIと思っている”存在。

その正体と、その彼女の死亡と生誕をこの手で行った人だからこそ……笑いが止まらない。


「故に不可解!故に理解不能!まるで思考が読めナイ!人としての形を失い、今まで多くのサンプルが心を閉ざした中で最も輝く彼女ガ!」


第三計画という、試験管ベイビー製造技術で生み出された自我すら確立していない人間。
第四計画という、機械で作られた脳に人としての記憶を刷り込んで生み出された対BETA諜報員。

その二つで生み出された技術を組み合わせ、生まれた生体CPU。
覚醒せず、数多の犠牲の果てにこの世に残る純潔なるラインの乙女。


「黄金(肉体)を失いしラインの乙女!ああ、可愛い可愛い我が娘よ!私に可能性を見せてクれ!!」




―――――機械という体に、心宿す瞬間を。






後書き
R-TYPE(シリンダー機体な意味で)・戦闘妖精雪風の一部をオマージュしてます。

・ドクトル
変態、変態、変態、というかマッド。

・ラインの乙女
リヒャルト・ワーグナーが書いた楽劇、「ニーベルングの指環」、それに登場する三人の乙女(ヴォークリンデ・ヴェルグンデ・フロースヒルデ)の事。
彼女らはライン川の川底に眠る「世界を支配する事が出来る黄金」を奪われ泣き崩れ、黄金の奪還を望む。
多分、この部隊が保有するポッド搭載機は三機。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.00841403007507