2010年10月12日23時30分
円筒形のカプセルは、直径五十数センチ。「長く33人で暮らしてきた作業員が、初めて1人になる。大きなリスクがある」とマニャリク氏。地元メディアによると、何人かは地上で待つ親族に不安な心の内を明かしたという。このため、カプセル内には救出中に起きうるあらゆる変調を想定した装備が用意されている。呼吸困難や急性の血栓症が起きた場合に備えて酸素ボンベが積まれており、地上の作業チームとは通信回線で結ばれ、引き上げ中の作業員の表情をカメラで確認できる。イヤホンを通じて作業員に指示を送ることもできる。
15〜20分かかって地表にたどりつくと、作業員は現場近くにつくられた医療施設に運ばれる。引き続き目を保護するため、内部は「映画館なみの暗さ」(マニャリク氏)に保たれる。応急処置をした後、ベッドで1〜2時間の休憩を取り、医師の許可が出れば、やっと家族との念願の対面だ。その後ヘリコプターで約50キロ離れたコピアポの病院に運ばれ、2日ほどの検査を受ければ、帰宅が許される。
だが、それですべてが終わり、というわけではない。医療チームの医師リリアナ・デビア氏は「精神的な問題は長く残る可能性がある」と言う。2006年にオーストラリアで起きた鉱山事故で、2人の作業員が地下に14日間閉じこめられたことがあった。うち1人は1年後に地元テレビのインタビューで「いまでも悪い夢を見ることがある」と語る。デビア氏は「カウンセラーによる心理療法の必要もあるだろう」と話した。
地下の作業員を精神面から支える心理チームの責任者、アルベルト・イトゥラ氏は「多くの人が彼らにあいさつに来たり、お祝いをしたりしようとするだろう。でも彼らはそういう状態にはない。ゆっくり休み、新しい環境に適応するための時間を与えなければならない」と話す。