「記者倫理の原則を踏みにじった」--。8日に発覚したNHK報道局スポーツ部記者が捜査情報を漏らした問題は、NHK内部からも批判の声が上がった。04年夏の受信料着服問題をきっかけに相次いで明るみに出た不祥事。NHKは数々の改革を打ち出してきたが、今回の問題は成果が上がっていない実態を浮き彫りにした。
「インサイダー事件以降、コンプライアンス順守に取り組んできたのに、残念に思っている」。8日、東京・渋谷のNHKで会見した冷水(しみず)仁彦報道局長と坂本忠宣報道局編集主幹は淡々と話した。
NHKの内部調査に対し、この記者は「他社から聞いた情報の真偽を確認したかった。メールをきっかけに相手との関係性を保ちたかった」と説明しているという。なぜメールだったのかとの問いには「携帯電話がつながらず、メールで返事をもらいたかったようだ」と話した。
NHKは捜査情報の入手先の確認をしておらず、会見に出席した報道陣約40人からは「NHKが得た情報の提供ではないのか」との質問が相次いだ。
これに対し冷水報道局長らは「この記者が、事件捜査を取材する部門の記者と接触した形跡はない」「情報管理は徹底している」と説明したが、その根拠は十分に示されず「今後も事実関係を調べていく」と話すにとどまった。
また「捜査対象に情報の確認を求めるのは不自然」との指摘には「他社の情報なので、上司らに伝えることができなかったらしい」と答えた。
送信相手の相撲部屋の親方は捜査対象で、関係先には情報通りその日の午前、家宅捜索が入った。男性記者に返信はなかったというが、このメールが事件捜査に与えた影響については「相手が捜索に対して対応を取ったのかは分からない」と述べた。【棚部秀行】
NHKの地方放送局の職員は「取材活動の中心となる報道局でこのようなことが起き、地方機関に与える影響は大きい。おそらく士気も下がるだろう。われわれはまじめに働いているのに……。これでは改革が進んでいないと思われても仕方ない」と憤った口調で話した。
別の職員は「取材倫理上の問題という点では、インサイダー事件と同じ。あの時は氏名を公表したのに、なぜ今回は非公表なのか」と、メールを送った記者の実名を公表しなかったことに疑問を呈した。
また報道局の記者は「いわば容疑者にしゃべってしまったようなもので、記者のモラルの根幹が問われる問題だ。NHKということで信頼度が落ちたり、信頼関係を築くのに支障をきたさないか心配している」と今後の影響を懸念している。【高橋咲子】
毎日新聞 2010年10月9日 1時25分