日本経済の長期停滞の最大の原因が労働市場にあるとの認識は、最近おおくの人々に共有されるようになり、解雇規制を緩和すべきだという意見がようやく公に議論されるようになった。しかし実は、法律上の解雇の制限という意味では、日本の解雇規制はそれほど厳格ではなく、OECDの基準でも平均よりややゆるやかである。
明文の規定としては、民法では「解雇自由」の原則を定めている。労働基準法では「30日の予告」を定め、組合活動などによる不当解雇を禁止しているぐらいだが、重要なのは労働契約法で解雇権濫用法理が明文化されたことである。さらに大きな問題は、判例によって整理解雇が事実上、禁止されていることだ。特に整理解雇の4要件が労基法と同等の拘束力をもっている。
ただ現行法でも、労働者が同意すれば解雇は可能だ。「リストラ」といわれる希望退職は、法的には自己都合退職であり、外資系企業では人事部が退職金を割り増しして退職の同意を得る。このように解雇が常識になっていると再就職の労働市場も発達し、「外資系の解雇規制を強化しろ」という話は聞かない。
終身雇用にせよ年功序列にせよ、法律で決まっているわけではない。むしろ暗黙の雇用慣行で決まっているがゆえに変えにくいのだ。だから法律や司法判断は少なくともそれを補強しないように変更する必要があるが、もっと重要なのは昔ながらの「企業は一家」という労働倫理を変えることである。
解雇を困難にしているのは、この朝日新聞の記事のように、退職についての協議を「退職の強要」と書き、悪質な経営陣が気の毒なパイロットに退職を迫っている、というストーリーに仕立てるマスコミである。パイロットの年収は2000万円、クビになっても毎月30万円の年金がもらえることは書かない。JALは一度つぶれた会社であり、経営再建に失敗したら清算され、すべての労働者が職を失うのだが、それも書かない。
要するに最大の問題は法律ではなく、経済への影響を考えないで「一段階論理の正義」を振り回す裁判所と、それに便乗して正義の味方を演じるマスコミ(特に朝日・毎日・NHK)なのだ。このため大企業は、マスコミの攻撃を恐れて雇用調整をぎりぎりまで先送りする。その結果、経営が破綻したのがJALである。
しかしこういう偽善も、いつまでも続けられない。解雇規制の強化を叫ぶ社民党も、職員を整理解雇した。朝日新聞社も希望退職をつのっているが、そのうち整理解雇に追い込まれるだろう。日本全体がJALのようになるまで、社会部記者の目は覚めないのだろうか。
明文の規定としては、民法では「解雇自由」の原則を定めている。労働基準法では「30日の予告」を定め、組合活動などによる不当解雇を禁止しているぐらいだが、重要なのは労働契約法で解雇権濫用法理が明文化されたことである。さらに大きな問題は、判例によって整理解雇が事実上、禁止されていることだ。特に整理解雇の4要件が労基法と同等の拘束力をもっている。
ただ現行法でも、労働者が同意すれば解雇は可能だ。「リストラ」といわれる希望退職は、法的には自己都合退職であり、外資系企業では人事部が退職金を割り増しして退職の同意を得る。このように解雇が常識になっていると再就職の労働市場も発達し、「外資系の解雇規制を強化しろ」という話は聞かない。
終身雇用にせよ年功序列にせよ、法律で決まっているわけではない。むしろ暗黙の雇用慣行で決まっているがゆえに変えにくいのだ。だから法律や司法判断は少なくともそれを補強しないように変更する必要があるが、もっと重要なのは昔ながらの「企業は一家」という労働倫理を変えることである。
解雇を困難にしているのは、この朝日新聞の記事のように、退職についての協議を「退職の強要」と書き、悪質な経営陣が気の毒なパイロットに退職を迫っている、というストーリーに仕立てるマスコミである。パイロットの年収は2000万円、クビになっても毎月30万円の年金がもらえることは書かない。JALは一度つぶれた会社であり、経営再建に失敗したら清算され、すべての労働者が職を失うのだが、それも書かない。
要するに最大の問題は法律ではなく、経済への影響を考えないで「一段階論理の正義」を振り回す裁判所と、それに便乗して正義の味方を演じるマスコミ(特に朝日・毎日・NHK)なのだ。このため大企業は、マスコミの攻撃を恐れて雇用調整をぎりぎりまで先送りする。その結果、経営が破綻したのがJALである。
しかしこういう偽善も、いつまでも続けられない。解雇規制の強化を叫ぶ社民党も、職員を整理解雇した。朝日新聞社も希望退職をつのっているが、そのうち整理解雇に追い込まれるだろう。日本全体がJALのようになるまで、社会部記者の目は覚めないのだろうか。
コメント一覧
仰ることはよくわかりますが、ではなぜマスコミによるそのようなストーリーが成立するのか?突っ込んだ考察に欠けていると思います。
今回の例はたまたま高額所得者のパイロットですから、朝日新聞の読者も流石にパイロットに同情はしないでしょうが、整理解雇の対象が一般の労働者となれば話は別でしょう。
問題は、何故このようなマスコミのストーリーが成立するかです。一般の人間に整理解雇は仕方ない事との認識が十分あればマスコミのこのような論法は通用しないはずです。
わたしはおそらく日本人にとって、雇用を守るという事が、アダム・スミスが『道徳感情論』で定義したgeneral rulesになってしまっているからではないかと思います。
大多数の日本人の内側に形成される「公正な観察者」が我々自身に雇用を守るべきと語りかけているのではないでしょうか?
つまり法律の問題ではなく道徳の問題になっていると考えます。
公正な観察者の形成はアダム・スミスの時代なら人間同士の交流を通じ形成されたでしょうが、現在はそれだけでなくマスコミによる社会主義的バイアスも影響を与えてしまったと考えます。一般的諸規則を人間同士の交流だけではなくマスコミや教育現場の左派教諭の言わばミスリードにより形成されてしまっているなら、雇用の流動化を実現するのは、並大抵の事ではないでしょう。
実際、労働者だけでなく経営者の中にも同様のgeneralrules共有してる人々も少なくないでしょう。
今、こうしている間にも多くの人々の公正な観察者が実は、「公正」などではなく、社会主義に作り上げられているかもしれないのだから。
私の所属する地元のある業界は、町工場クラスの零細小企業の集合体ですが、会社同士の横のつながりが強く、競争という意味では理想的ではないかもしれません。
しかし、どこかの会社が潰れても、労働者は割と簡単に他社に就職が決まります。会社同士の横のつながりが強く、人的交流があるからです。場合によっては、就職先が見つかるまで「世話する」ような形で雇う雇用主もいます。
このような業界がいいか悪いかはさて置き、ああいうのを見ていると、企業や個人が孤立し、横のつながりがなく、国家に直接助けを求めるのが「自立した個人」だと思っている人たちというのは、実に脆弱な存在に思えます。「本当の社会主義者は、国家主義者だ!」というゲッベルスの叫びは、真実なのかもしれません。
斜陽企業の体質が腐っていることはもう語る必要も無いこととして、まだまだ世界で戦っていける企業もこの「年功序列」「終身雇用」にしがみついているフシがあります。
それは、ホワイトカラーの人材調達は日本でも海外でもわりと難しく、そして長期にわたる教育が必要です。そうした人材が労働市場の流動化でホイホイ企業間を渡り歩くと、必然的に数が少ないので給料の上昇圧力になりますし、教育投資もふいになります。ライバル企業への情報流出も気にかかるところでしょう(東芝とサムソンなどの例もありますし)。
そういった点で企業も製造業派遣と違い、「ホワイトカラー」だけは労働市場の流動化を望んでいないのでは。
ただ、その企業の甘えが業績や株価に反映されてなければ、それでいいですが現実は・・・。
>2. taru77 2010年10月11日 10:53
> 私の所属する地元のある業界は、町工場クラスの零細小企>業の集合体ですが、会社同士の横のつながりが強く、競争と>いう意味では理想的ではないかもしれません。
> しかし、どこかの会社が潰れても、労働者は割と簡単に他>社に就職が決まります。
パイロットの場合は、セスナ業界が育ってないにも拘らず、一企業の合理性だけで人員確保してきたため、操縦技術という特殊技能がボトルネックになり辞めるに辞めれない。二義的には、転職で生活レベルを落とせないからギリギリまで粘るのでしょう。この際、小型航空による交通産業やLCCなどの規制改革すべきでしょう。
他の従業員の場合はfirm specificな環境に慣れていたために粘るのでしょう。
政策投資銀行のような政府系金融や税金投入のようなnon principle・ad-hoc aidはJALだけではなく、田舎の生態系でもありますから(なんとか公庫、地方交付税)、町工場総玉砕にならぬよう気をつけてください。負の所得税が唯一の解決策でしょう。
>2
外資系投資銀行とかの社員は、横の繋がりは強いけど、競争的だし企業に福祉を求めてもいませんよ。
横の繋がりが強いことと、競争的なことや企業が雇用責任を持たないことは、別に対立することではないでしょう。
むしろ、個人の横の繋がりではなく、会社の横の繋がりになっている町工場の状況の方が、実に脆弱に見えます。国家に助けを求める人が自立した個人ということではなく、個人と個人で繋がれる人が、自立した個人でしょう。
≫1
焦点がずれているのではないでしょうか。
先生は、マスコミによるストーリの源を、終身雇用を支える価値観「昔ながらの『企業は一家』という労働倫理」であろ、それが問題だから変更しないと労働の流動化は起こらないと結論付けておられる。恐らく現在でも、勤めている企業がその人のアイデンティティだと言う人が多くいるのだろうと思う。
マスコミは、それに乗って記事を書いている訳で、それがまた読者の思い込みを強化してしまうから更に問題なのだろう。こう言う日常生活に深く食い込んでいる考え方は変更するのに時間がかかる。
日本ではかなり薄れたが、韓国や中国では未だに儒教の影響が大きく、夫婦別姓(女は男の姓には入れない)だし、男尊女卑である。だから、1人っ子政策の中国では、胎児段階で性別が分かるこの頃、女児なら中絶をしてしまうので、通常なら100:105位の女子男子比率が、100:119となっているらしい。こう言う価値観は長く変わらないものだ。
民主党は、日本がギリシャ化するギリシャ化すると危機を煽って、増税しようとして失敗したが、それはいい。
問題は、あれほどギリシャ化すると言っていたのに、蓮舫などは公務員改革はあと3年かけないと出来ないと言っている点だ。
ギリシャ化すると恫喝し、国民を小手先で騙し、増税は今すぐでもできるが、公務員改革は、3年かけないと出来ないという。これは全くおかしな話だ。ギリシャ政府がすぐ公務員改革しているのに、ギリシャを例にしてきた民主党はすぐに実行できないという。労組利権の民主党らしい。
また同じ財政危機のスペインは、労働規制を緩和しようとしているのに、民主党はそれすらしようとしない。
日本社会は、年金・社会保障、住宅政策等が終身雇用を前提として設計されています。このような社会的条件の下で、雇用の流動化を進めると、極めて不公平な結果を生みます。
流動的な雇用に適した社会制度に変革した上で、雇用の流動化を進めるべきで、順序が逆であってはいけません。
それにしても、30年以上の住宅ローンを伴う持家優遇政策は、将来の収入に見通しがつく終身雇用を想定しているとしか考えられないのです。雇用の流動化を考えるのなら、賃貸住宅居住推進政策を掲げるべきではないでしょうか。
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需要と供給のバランスが明らかに、供給過多に陥っている業態を、政府が助けるのは、不公平で、不道徳だと思います。零細企業を含め、企業が登場しては潰れていく・・・いわゆる「企業の新陳代謝」があってこそ、市場は公平であるといえます。
輸出企業への間接的な補助金である「為替介入」も、典型的な愚作です。
儲からないから潰れる。その市場から撤退する。あたりまえじゃないですか?
>8
≫「30年以上の住宅ローンを伴う持家優遇政策は、将来の収入に見通しがつく終身雇用を想定している」
雇用が流動的な欧米では、将来の収入の見通しなく労働者は働いているのでしょうか。彼らだって40年は、会社を変わっても働きますよ、しかも殆ど継続的にね。
住宅ローンでも、年功序列・終身雇用を前提にしているのなら、返済する額が年々増加し、退職金で大きく返済する制度になっているはずなのですが、そんな返済方法等聞いたこともありません。
給料、退職金が転職すると不利になるようになっているのは確かで、理解できますが、社会保障制度のどの部分が終身雇用を前提にしている(転職すると如何なる不利益が制度として課せられる)のでしょう。
労働の流動化を妨げているのは、同一労働同一賃金になってない人事制度及び退職金制度と、会社を個々人の帰属団体とする価値観ではないでしょうか。
>8
一部の大手企業でしか実現しなかった終身雇用が社会制度の前提となっていたとすると、これまで農林水産業、個人事業主、中小零細企業の経営者や従業員は社会制度の外側に放置されていたことになるんですね。しかしそんなバカな話はないでしょう。
持ち込みのトラック運転手や建設業界で働く一人親方、その手元で働く職人など、彼らは仕事のあるときにはそこそこの手取りを取っていましたが、仕事がなければ「半月遊び」なんてのもザラです。彼らが終身雇用を前提とした社会に住んでいたわけでもなければ、そんな生き方を望んだとも思えない。
終身雇用が社会制度の前提だなんて一体どの時点の日本でのはなしでしょうか?
朝日新聞が募る早期退職希望者の場合、50歳で退職金は7000万くらいといいます。随分少ないなあ、というのが当事者間の会話といいます。世間の感覚との大きなズレを感じます。
>、外資系企業では人事部が退職金を割り増しして退職の同意を得る。このように解雇が常識になっていると再就職の労働市場も発達し、「外資系の解雇規制を強化しろ」という話は聞かない。
外資系企業に行く大抵の人は終身雇用なんて求めていないですからね。働いている人の意識の違いで、そういった声が上がらないと思います。
外資系企業において再就職の労働市場も発達し、というのはどう理解すれば良いのか判りませんが、十分な求人がある場合はそうかも知れませんが、現状の景気では、外資とはいえリストラされたら職がありませんよ。まぁ、今は統合が盛んなんで新しいマネジャー募集なんてありますけど、募集される一方でリストラされてますから、単に市場のパイが小さくなっているだけのように見えます。
自分たちは思想的リーダーになるほど頭の良い、しかも高給取りな現代日本のお貴族様だと思っていたのでしょう。