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B型肝炎「救済2兆円」
国が和解案、1人最高は2500万円
乳幼児期の集団予防接種でB型肝炎ウイルスに感染したとして、患者らが全国10地裁で国に損害賠償を求めているB型肝炎訴訟の和解協議が12日、札幌地裁で開かれ、国側は未発症の持続感染者(キャリアー)を除く原告に、1人当たり最高で2500万円(弁護士費用除く)を支払う和解案を提示した。
同訴訟で和解金額を提示したのは初めて。また、全国のB型肝炎患者らを救済対象に含めた場合、最大約2兆円が必要との試算も公表し「国民的議論を行い、一定の合意を得る必要がある」と主張した。
国の和解案は、2006年の最高裁判決を基準に慢性肝炎を500万円、軽度の肝硬変を1000万円、重度の肝硬変と肝がん、死亡を2500万円とした。キャリアーは「慢性肝炎を発症する割合が低い」などとして補償対象外とした。定期検査費用の補助などの政策で対応し、発症した場合に一時金を支給する。
厚生労働省によると、全国で約3万3000人と推計される患者・死者への補償は約3100億円となり、約44万人とされるキャリアーへの医療費補助、新たな肝炎の発症などを想定すると、30年間の財政負担は最大約2兆円になるという。一方、原告側は、感染者を含めて1人当たり1200万~4000万円の給付が決まった薬害C型肝炎並みの補償を主張した。
「国は命を値切るのか」B型肝炎和解案、不満募らす原告側
札幌地裁で12日に開かれたB型肝炎訴訟の和解協議。国は全国10地裁で係争中の同訴訟で初めて、和解金額を提示した。発症者や死者に500万~2500万円を支払い、総額約2兆円とも試算される国民負担に、細川厚生労働相は「なかなか高額、多額。国民に理解を求めなければいけない」と強調した。これに対し原告側は「薬害C型肝炎の解決水準を大きく下回り、納得できない」と不満を募らせた。未発症の持続感染者(キャリアー)を賠償対象外とすることへの反発も強く、調整は難航しそうだ。
「国、命の価値に差」「国、キャリアーの被害を切り捨て」。国の和解金額が提示された午後3時20分頃、札幌地裁前で原告側弁護士が2本の垂れ幕を掲げると、支援者から「国は命を値切るのか」と怒号が飛んだ。
国側はこの日の協議で、原告1人当たりの和解金額とともに、想定される国の財政負担を提示することで、原告側の要求をけん制した。細川厚労相は和解協議後、「総合的に判断して、この額が適当だという形で提案した。原告の主張との開きを埋めるのはなかなか困難だと思うが、理解をいただきたい」と原告側の歩み寄りに期待を寄せた。
これに対し、札幌市内で記者会見した原告団・弁護団は、国側の試算を「数字に根拠がなく不当に過大で、国民を惑わすもの。そもそも国の過失に基づく損害賠償で、財源問題を理由に賠償額を減額すべきではない」との声明を発表した。
全国原告団代表の谷口三枝子さん(60)は「B型もC型も患者の苦しみは変わらず、差をつけることは許されない」と語気を強めた。
[解説]財政負担に限度 見えぬ解決策
B型肝炎集団訴訟の和解協議で、国側は12日、具体的な和解額を初めて提示した。しかし、薬害C型肝炎と同水準の救済を求めてきた原告側の主張との隔たりは大きく、解決への道のりは依然として不透明だ。
血液製剤に起因する薬害C型肝炎の給付金は1人当たり4000万~1200万円。一方、今回、国が示したB型の和解額は2500万~500万にとどまり、未発症の感染者は対象外だ。
国がC型並みの金額を打ち出せない背景には、両訴訟で被害者の規模が大きく違うこともある。薬害C型肝炎の被害者数は約1万人とされ、実際に給付されたのは9月末で約1550人分の計約339億円だ。一方、B型肝炎のうち集団予防接種が原因とされる患者・感染者は国の推計で約47万人。国は全員救済すると約2兆円かかり、C型と同水準の金額の場合は8兆円超との試算も公表した。国は、税金による財政負担には一定の限度があると暗に指摘していると言える。
予防接種における注射器使い回しの危険性は1950年代から認識されており、放置した国には不作為の責任がある。国民の中にはいまだ感染を自覚していない人も多い。国は、原告も国民も納得させる総合的な解決策を示す必要がある。(木下吏)
(2010年10月13日 読売新聞)
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