ドライバーから安全性の問題が提起されるのはモータースポーツの歴史においてよくあることだが、主催者がレースを中止しなければならないほど強い主張がなされるのはまれだ。その例外が現実になったのが1985年のベルギーGP。ドライバーたちはレース前日にプラクティスで数ラップを走っただけで続行を拒否したため、レースが取り消されてしまったのだ。
事の発端はスパ・フランコルシャンのサーキット側がウエット時の危険性を指摘され、路面の再舗装を決めたことだった。広範囲な調査が行われ、300万ポンドをかけて排水性に優れていることで知られるアスファルトラバーを敷くことにした。
ところが皮肉なことに悪天候の影響で工事が遅れ、結局施工されたのはグランプリ週末の10日前になってから。主催者はこのことをFIAに告げず、まったく気に留めることもなく準備を進めた。1年前にダラスでほぼ同じような問題が起きていたにもかかわらずだ。この時は速乾性のセメントを使った大がかりな緊急補修を施してレースが開催されている。だが、10年以上のブランクを経て久しぶりにグランプリシーンに復活したスパに、そのような逃げ道はなかった。
問題は初めから明らかになっていたのではない。スパのサーキットは一部公道であり、乗用車や大型トラックの走行には十分耐えていた。しかし、ワイドで粘着力の強いタイヤを履いたF1マシンが走り始めた途端、太陽熱ですでに柔らかくなっていた新路面がはがれ始める。「誰が考えても危険きわまりない状況だった」とモーリス・ハミルトンは『Guardian(ガーディアン)』紙につづっている。
確かに速い路面ではあったものの、問題があることは金曜プラクティスの段階から明らかで、徹夜での修復作業もまったく役に立たず。土曜日の午前中、25分間経過時点でドライバーたちは走るのをやめ、コンディションが危険すぎると主張。利益を重視する一部の外部者だけがこれに反論した。
やりとりのほとんどは密室で交わされたが、ニキ・ラウダは記者たちを前に口を開き、なぜ舗装工事が6カ月早く実施されなかったのか説明を求めた。「そうしていれば表面も落ち着いただろうに」と述べたラウダ。ナイジェル・マンセルはさらに過激に「こんなのまったくバカげている」と発言し、リポーターたちの目の前でアスファルトの塊を素手で拾い上げてみせた。
関係者は素早い行動を起こすのではなく、迷った。そして優柔不断のままサーキット側に6時間を与え、その間に何とかするよう通告。しかし、ここまで問題が広がってしまった以上、取り繕うことは現実的にほぼ不可能だった。
午後6時。ドライバーとオフィシャルによる視察が行われ、この日のプラクティス中止が発表される。だが同時に、レースは予定通り開催されると発表されたために混乱はさらに拡大。何らかの動きがあることを期待して1日待ちぼうけを食らった観客たちは、それでも日曜日のレースは行われるのだと信じて帰り始めた。
しかし、ドライバーたちはかたくなに参加を拒んだ。夜を徹して修復すれば懸念は解消されると当局は主張したが、彼らは納得しない。「(金曜夜の)修復は、今も崩壊している既存の路面よりさらに滑りやすくなっただけだった」とデレック・ワーウィックは語っている。「彼らが何をしたか知らないが、整合性のない対処によって、もはや走ることすら不可能、レースなど、もってのほかだ」
ついに彼らはFISA会長のジャン-マリー・バレストルをつかまえ、自分たちの立場を伝えた。バレストルも彼らを支持し、午後8時にレース中止が決定。
「中止を決めた彼らに敬意を示すよ」とラウダは述べた。「常識の勝利だ」
コース補修は夜通し続けられ、日曜日にはF3000のイベントが開催された。主催者はドライバーたちのスタンスが間違っていたことを証明しようとしたが、パワーの低いマシンでさえアスファルトに穴が空き、何人もがスピンオフ、打ちのめされることになった。
日曜日の夜、バレストルはインタビューに応じ、ベルギーは"3年前、2,500万ポンドを投じて世界最高レベルのコースを造っておきながら、この考えられないミスを犯した"と批判。そして、レースの60日以内に路面を変えることは許されない――とルールを明示した。
6月末、これだけの大失態を演じておきながらベルギーの主催者にはわずか1万ドルの罰金が科されただけで、さらにシーズン後半、もう一度レースを開催するチャンスまで与えられている。幸いにもF1サーカス一行が9月にスパを再訪した時には問題は解消されていた。
しかし、スパはもう一人の犠牲者を出している。日程を変更されたグランプリの2週間前、続行に反対したドライバーの1人で、シーズンをティレルで走っていたステファン・ベロフがスパでのスポーツカーレース中に高速でクラッシュし、命を落とした。
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Martin Williamson is managing editor of digital media ESPN EMEA