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[21723] それは幻想の物語 第一章 夢を叶えた大魔導師 東方 オリキャラ
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/09/19 21:09


どうも皆様、初めまして。それともまた会いましたねでしょうか?

ギリギリ人類だと思われる荒井スミスと申します。

この物語は、東方Projectの二次創作小説です。

・・・・・・あんた東方で他の小説書いてる最中じゃねえか!って思われた方。

・・・・・・申し訳ありません。

我慢出来ずにやってしまいました。



では注意事項に入ります。



この物語は独自の解釈・設定を多く含みますので注意を。

東方の二次設定も多く含まれます。

ですのでキャラ崩壊もバンバンやります。

これでもかって位やります。

なにしろ私は捻くれ者ですので。

そしてオリジナルのキャラクターが主人公になります。

ただ・・・この物語の主人公は、普通よく見るようなタイプの主人公ではありません。

最強・・・ではあります。

ガチで戦わせるには最低でも最強にしなければいけませんでしたので。

東方キャラ達に制約無しで全力で戦わせる話を作りたかったので・・・

ではハーレムは?・・・・・・無理です。

主人公が主人公なので。

だって・・・・・・見た目が完璧に爺さんだもん!

そうです。この物語の主人公は爺さんです!ジジイ無双です!

えーとか言わないでください!石も持たないでください!回復系魔法も掛けないでください!私が浄化しますので!

御意見、御感想はお気軽にしてください。

誤字の報告や何かの注意も大歓迎です!

それではどうぞ!



[21723] プロローグ 叶ってしまった夢
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/09/06 19:19






何時からだろうな。

私がこの道を進むようになって。

どうしてだろうな。

今の状況を選択したのは。

何故なんだろうな。

前に進むのを諦めなかったのは。

・・・・・・・・・・・・・・何がしたかったんだろうな私は。

ただただ、この日の為に私は歩み続けてきた。

ただただ、この瞬間の為だけに抗ってきた。

ただただ、この成果を生み出す為だけに生きてきた。

・・・・・・だが。

何故なんだろうな。

自らが望む成果に到ったというのに。

達成感というものがわいて来ない。

逆に終わってしまったんだという虚無感がある。

重い荷物をやっとこさ下ろして。

身軽になった我が身に戸惑う。

どこかぽっかりと抜け落ちてしまったような喪失感。

何処に行けばいいのか。

何をすればいいいのか。

まるで迷子の子供になったようなこの感覚。

・・・・・・・・・・・さて。


















「これから、何をしようか・・・・・・」



















私がこの幻想郷に来て三百年余り。

今まで生きてきて八百年余り。

私はこの日。

自らの求めた魔導の極みに。

到達してしまった。



















――――――物語は動き出す。

――――――それは幻想の物語。






































てな感じで始まりました。

まあ、プロローグなんでそこまで書いてません。

それでは!



[21723] 第一話 賢者と大魔導師
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/09/06 19:20






幻想郷。

人々から、時代から、世界から忘れられし幻想達の行き着く楽園。

その幻想郷の中にある深き森。

名を魔法の森という、暗い瘴気の漂う恐ろしい樹海である。



明るい昼間でも薄暗いこの森は、土地勘の無い者が入ればまず生きては出られないだろう。

森に漂うキノコの胞子による幻覚。

この森に住み徘徊する恐ろしい妖怪達。

これだけでもこの森の恐ろしさは分かるだろう。

だというのにこの森に住むような妖怪以外の者達がいる。

魔法使いと呼ばれる者達である。



どうして此処にその魔法使い達が住むのか?

それはもちろんただの伊達や酔狂ではなく、ちゃんとした理由がある。

魔法の森というだけあって、此処には魔法に使う道具や実験の素材が多種多様に存在する。

それを求めるというのが理由の一つ。

二つ目は人が滅多に来ない、つまり自身の研究に集中する為の環境を求める為という理由。

だいたいこの二つであろう。



そんな魔法の森の奥の更に奥。

瘴気が強すぎて人どころかこの森に住むはずの妖怪、魔法使いすら近づかないような僻地がある。

そこにぽつんと佇む一軒の家があった。

そこは魔法の森の中でも特に危険な場所である。

強い毒の瘴気が漂っているというのもそこが危険な場所である理由の一つではあるが、それは一番の原因はそれではない。

そんな危険地帯にある家の前に一人の人影が唐突に現れた。

何もない空間に現れるスキマ。

そしてそこから現れた美女。

名を八雲 紫。

幻想郷の管理人であり妖怪の賢者などとも呼ばれるこの世界の最強の存在の一人である。



「さてと、今回こそはうまくいくといいのだけれど・・・」



諦め半分、期待半分といった感じの顔で彼女はポツリと呟いた。

彼女が此処に来た理由、それは此処に住む住民を今開かれてる宴会に誘うというものであった。

しかし此処に住む住民は一度として自分の誘いを受けたことがない。

此処の住民が幻想郷に来てからおよそ三百年。

ほとんど相手にされずにいつも追い返されてきた。



ところで話はいきなり変わるが、これを今見ている皆さんは何か違和感を感じないだろうか?

つまりである。

八雲 紫が家の前に立って玄関から入ろうとしていることである。

彼女の事を知る者なら大抵は驚くであろう。

実はこれには理由がある。

自分の誘いをことごとく拒否された彼女は、自分の境界を操る程度の能力を使い強制的にこの家の主を宴会に参加させようとした。

しかし結果は失敗。

逆に手酷い反撃を食らってしまうという、ふんだりけったりな結果だった。

それ以来何か用があるときは玄関から来るように言われたのだ。




















ここが魔法の森の中でも特に危険な理由の最大の原因はこの住人にあった。


















玄関にある呼び鈴を鳴らして此処の住民が出て来るのを待つ紫。

しかし、呼び鈴を鳴らしても此処の住民が出て来るのが遅い。

十分や十五分は掛かり、二十分したら諦めて帰る。

それが何時の間にか決まった暗黙のルールであった。

しかし、今日は驚くべき事が起こった。

呼び鈴を鳴らして一分もしないうちに扉が開いたのである。



「ふむ・・・やはり紫、お前だったか・・・どうした?そんな豆鉄砲を食らったような顔をして?」



出て来たのは190はあるだろう大柄の老人。

白髪一本見当たらない黒髪と整えられた顎鬚。

そしていかにも一目見て魔法使いだと分かるような焦げ茶色のローブ。

彼が此処の住人である魔法使い。




















名をダン・ヴァルドー。

約八百年の年月を生きた大魔導師である。


















「・・・へ?あ、いや、だってこんなに早く出て来るなんて初めてじゃない」

「・・・・・・ああ、なるほど。確かにそうだな」



そう言った後ダンはくくくっと苦笑を浮かべていた。



「な!?何よその顔は!一体何が可笑しいのよ!」

「お前のさっきの顔をお前を知る者が見れば、まあ、そうだな。ほぼ全て、私と同じように笑うだろうて」

「くっ!・・・今に見ていなさいよ。いつか必ず」

「あっと言わせるのかね?それともぎゃふんと言わせるのかね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」



紫は顔を下に向けプルプルと小刻みに震えている。



「なるほど、少なくともこの二つのうちのどれかだったようだな」

「・・・うう、ぐすん」



自分のペースを乱され、完全に相手のペースにのせられている事に紫は悔しくなり、ついべそをかいてしまった。



「これこれ、こんな事で泣くでない。紫よ、お前は私より年長者だろう?」

「見た目が爺さんのあんたに年長者呼ばわりされるなんて!!!」



ばっと顔を上げた紫はそんな事言われたくないといった顔で言ってきた。

ちなみにやはり泣いていてのか、目尻には少し涙があった。



「では言い直そう。・・・これこれ、こんな事で泣くでない。紫よ、お前は私より年を食ってるのだろう?」

「って、言い方が更に酷くなってるんですけど!?」

「そんな事より、用があって来たのだろう?ならさっさと来い。茶の一杯位は出そう」



このクソジジイと言おうとして紫は思いとどまった。

これ以上何か言っても相手のペースに乗せられる。

そうなってはたまったもんじゃないと無理やり自分を落ち着かせたようだ。



「・・・・・・ふう、分かりましたわ。だったら早くもてなして下さいな」



いつもの優雅で超然とした態度で話す紫。

だがしかし、それはどう見ても強がってるようにしか見えなかった。



「あい分かった。歓迎しよう。・・・ああそうだ」

「何かしら?」



家に入ろうとしていたダンは紫の方を見た。



「お前さんに一応言っておく事があるのを思い出した」

「言っておく事?」

「あっ、ぎゃふん」

「・・・・・・キィィィィィィィ!!!」



完全に相手のペースに乱されっぱなしの紫であった。







































二人はお互い向かい合うようにして居間にあった椅子にそれぞれ座った。



「さて、紫よ。それで今回は一体何の用があって来たのだ?」

「・・・・・・・・・」



ダンが話しかけても彼女は返事をしなかった。



「まだ、気にしているのか?」



どうも先のやり取りがいけなかったらしい。

扇子で顔を隠したままそっぽを向いていた。



「・・・・・・・・・」



ちとやりすぎてしまったか。

そう思った彼は素直に謝るのがいいと判断したようだ。



「・・・すまなかった」

「はあ・・・もういいですわ。それにしても一体どうしたのよ?」



彼女はため息一つ吐いて、扇子で隠していた顔をやっと現して彼にそう言った。



「どうしたというと?」

「なんだかいつもの貴方とは違うのよね。テンションと言うかノリと言うか」

「ふむ、まあ・・・そういう日も、あるさ」



紫の疑問に、彼はどこかゆったりとした感じで答えた。




「――――――――そう」

「ああ、そうだとも・・・」




彼のそんな顔を見て困惑している紫ではあったが、彼女は自分の用事を伝えることにした。



「そうそう私の方の用事なんだけど」

「ふむ、何かな?」

「いつも通りの宴会のお誘いよ」

「ま、そうだろうな。お前さんが此処に来る理由なんて、それ位のものだしな」

「それで、どうかしら?」



紫は期待していた。

今日はいつもと違う。

もしかしたら今日こそは上手くいくのではないか?

そんな風に考えながら紫はさらに訊ねた。



「そうだな・・・」



ダンは考えていた。

するべき事、成すべき事を終えてしまった今、何かする事に彼は飢えていた。

何もする事がないのは実に良くない。

今まで何故か断ってきたが、今回はこの誘いを受けるのも悪くはないだろう。

そんな風に考えてダンは紫に答えた。



「――――――分かった。その誘い、喜んで受けさせてもらおう」




その言葉を聞いた彼女の顔は、実に素晴しいものであった。

最初はただただキョトンとしていた。

しかし彼の言葉を理解した瞬間、彼女はぱっと花が咲いたかの様な笑顔になった。

それはまるで、サプライズの贈り物に喜ぶような子供の笑顔。

今まで欲しかったものを、やっと手に入れたような童の笑顔。

あるいはその両方か。

それは実に美しく、とても綺麗な、そしてなにより可愛らしい“少女の笑顔”であった。

――――――彼女のそんな笑顔が見れたのは、実に幸運であった。

彼もそう思ったのか、普段は浮かべないような微笑を浮かべていた。



「そう、それではすぐにでも行きましょう」



そう言って、彼女はまたいつものどこか胡散臭い笑みを浮かべていた。



「何?これからすぐにか?」

「思い立ったが吉日と言うでしょう?それに気が変わられても困るもの。次は無いかもしれないでしょう?」



彼女はそう言うや否や自分の後ろにスキマを展開した。



「さあ、行きましょう。大魔導師殿?」

「・・・ああ、行こう。妖怪の賢者殿」



そう答えて彼は、彼女と共にスキマの中に消えていった。







































という訳で今回は主役のダン・ヴァルドーの登場になりました。

お気付きでしょうが彼は毒舌家です。

毒舌キャラって私大好きですからwww

続きは他の連載が終わってから本格的に始めます。

一応続きもいくつか書いてストックしてはいるんですがね!

ああ、一体何時になることやら・・・

それでは!



[21723] 第二話 お前が泣くまで言うのを止めない
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/10/05 17:28





博麗神社。

幻想郷を外界と切り離す博麗大結界を管理する

幻想郷の要とも言える神聖な聖地である。



「にゃはははははは!どうしたんだい守矢の巫女さん、これっぽちの酒でもう終りかい?」

「でしゅからぁ~わたぁしは巫女じゃぁなぁくって風祝どぅわってなあんど・・・うううぇぇぇぇ」

「あーうー!?さーなーえーしっかりー!!!!」

「ちょ、そこの子鬼!うちの早苗に一体どこまで飲ましたんだい!」

「うー!咲夜、お酒が服にかかってべとべとに・・・ってあれ?」

「大丈夫ですお嬢様。着替えは既に終えています・・・・・・・・・・・・・・ふふふふふ」

「 幽々子様!お願いですからもっとペースを、ペースを落としてください!」

「んぐ・・・でも妖夢?そうすると私のペース一割きっちゃうわよ?」




















わいのわいの・・・がやがや・・・ざわ・・・ざわ・・・んふふふ・・・アッーーー!・・・・・・・・・




















・・・・・・博麗神社。

幻想郷を外界と切り離す博麗大結界を管理する

幻想郷の要とも言える神聖な聖地である・・・・・・・・・・・・・・・はず・・・・・・・なんだがな・・・・・



「はぁ・・・本当にもう・・・・・・」



酒をちびりちびりと飲みながらもため息を吐く紅白のなんちゃって巫女服を着ているこの少女。

博麗 霊夢は頭を痛めていた。

酒のせいではない。

この馬鹿騒ぎの後始末の事を考えると、といったところだろう。

まあ、もっとも。

そういう痛みは毎度の事のようだが。



「よお、霊夢どうしたんだ?もっと楽しめよ?」



そんな彼女に景気よく話しかけてくる一人の少女。

白黒のいかにも私魔女ですみたいな格好のこの少女。

霧雨 魔理沙は気分がやや下降気味の親友に話しかけた。



「そうね、この宴会の後始末、あんた達も真面目にするっていうならもっと楽しめるんだけどね」

「あー霊夢そりゃ無理だ。もし此処にいる奴等が真面目にそんな事するんだったら幻想郷は今日で終了だぜ」

「はぁ・・・そういえばアリスとパチュリーは?一緒じゃなかったっけ?」

「ああ、パチュリーがちっとダウンしてな。アリスにちょっと今診てもらってるんだぜ」

「あっそ、全くあの引き篭もりの紫もやし、珍しく来たと思えばもうへばってるの?」

「まあ実際、此処まで来るのもしんどそうだったけどな」



ちなみに、小悪魔は居残りである。

何処かの誰かさんに荒らされた図書館の整理の為に。

美鈴は・・・・・・あー・・・・・・・察していただきたい。



「そういえば、珍しいといえば 霖之助さんも来てたわね」

「そういや、そうだな。普段はあれだけ誘っても来ないくせにな」



とは言っても、当の本人は宴会が始まってすぐに目立たぬように地味に隅っこの方で一人飲んでいた。

客は来ない。

興味の引く新しい外の品物もない。

手持ちの本も粗方読み尽くした。

つまり暇で暇で仕方なかったのである。

そこで魔理沙の誘いに乗ったわけではあったが、なにしろ男は自分だけである。

この宴会の騒がしさと姦しさに居心地を悪くしてしまい、現在に至るというわけである。



「なあ霊夢、紫の奴はどうしたんだぜ?」

「そういえば・・・見かけないわね?あいつが宴会にいないなんてねえ」



こういう賑やかな宴会にいないのは変だ。

紫自身の式を霊夢はついさっき見かけた。

酔ってるのか素なのかは分からなかったが、自分自身の式に抱きついてひたすら名前を呼んでいたが。



「なんだなんだ?またなんかの異変か?」



何処となくわくわくしたような感じの魔理沙に霊夢は面倒くさそうに答えた。



「なわけないでしょ。此処にいないってんなら、どうせこそこそとそこら辺に隠れて高みの見物とでも洒落込んでんじゃないの?」

「失礼ね、この私がそんな事をするわけないでしょう」

「・・・・・・はぁ、してたからこんなにタイミング良く現れ・・・て・・・」



後ろからいきなり紫の声が聞こえたので、またかと思い後ろを振り返った霊夢はぽかんと口を開け唖然とした。

紫の他に見知らぬ老人がいたからだ。





















「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰?」




















傍から見ていて、それは実に面白い光景だった。

ぽかんと口を開けている霊夢。

なんだなんだと好奇心の塊で見る魔理沙。

くすくすと愉快に笑う紫。

そして、きょろきょろと辺りを見回すダン。

最初の三人だけならばわりとよく見るいつもの光景。

しかしそこにはいつもと違い見知らぬ老人が紛れ込んでいる。

どうにも奇妙な違和感を感じるのだ。



「なぁなぁ紫、誰なんだぜその爺さん?」



変な違和感のまま止まったその場の空気は、魔理沙の発言によりようやく動き出した。



「ああ、彼?彼はダン・ヴァルドー。私の古い友人ですわ」

「へぇ、幽々子以外にも友達がいたなんて知らなかったぜ」

「・・・・・・待ちなさい魔理沙。その言い方だと私に友達がほとんどいないように聞こえるんだけど?」

「何言ってるのよ。あんたに幽々子以外の友達って呼べるようなのって他にいるの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・ほらダン。貴方も黙ってないで何か言いなさいよ」



ダンに話をふって話題を逸らさせる紫。

どうやら図星のようだった。

全くいないという訳ではないのだろうがすぐには出てこなかったらしい。

――――――それはそれでどうかと思うが。



「ふむ・・・ダン・ヴァルドーだ。紫とは古くからの“知り合い”だ」



ダンがそう言うと霊夢はにやりと笑っていた。

それは実に不気味な笑いだった。



「へぇ、“知り合い”?」

「そう、“知り合い”だ」

「“友達”じゃなくて?」

「そうだ、“友人”ではない“知り合い”だ。“あくま”で“ただ”の“知り合い”だ」

「ちょ、ちょっとダン!それはちょっとないんじゃない!?」



ダンが改めてそう言うのを聞いて紫は焦ってダンに言った。



「貴方とはもう結構長い間から付き合いがあるじゃない!?だから」

「だから・・・なんだね?」



ダンの冷ややかな視線を受けてたじろぐ紫。

今の紫には妖怪の賢者の威厳は全く見られない。

ほんんど皆無だ。

あたふたしているその姿は実に滑稽だった。



「紫よ、確かにお前とは知り合ってだいぶ長くなる・・・・・・だがな」

「だが・・・何よ?」



またも涙目になっている紫にダンはさらに追撃をしかけるように言う。



「別にお前とは“特別親しい付き合い”した事は“全く”ないだろう」

「いや、でも・・・」



なんとかしようとでも思ったのか、紫はそれでも何か言おうとした。

そんな紫の姿を見て霊夢は愉快そうにニヤニヤ笑いながら見ている。

魔理沙の方はというと、気の毒にそうに紫を哀れみの目で見ていた。

そんな紫にダンはさらに言う。



「大体どうして私とお前が友人なのだ?私の記憶違いでなければ私とお前は最初は敵対していたと思うのだが」

「そんなの本当に最初の頃じゃない」

「しかも敵対した理由が確か面白そうだとか、暇だったから喧嘩するだの・・・そんな理由だったような気がするが?」

「ソ、ソンナワケナイジャナイアハハハハハ」

「何故言葉が硬くなる?それとどうして遠くの方を見ているんだ?」

「いやその、ちゃんとした理由はもちろんあるのよ!」

「ほうどんな理由だ?言ってみろ」

「えーっとね、そのね、此処に来たばかりの貴方にあまり幻想郷で好き勝手するなっていう警告みたいな感じもあったし・・・」

「他には?」

「他にはその・・・貴方の実力がどんなものだかも調べておきたかったてのもあるのよ?」

「そうか、では私が言った先ほどの理由は私の記憶違い、もしくは勘違いなのだな」

「そ、そうよ!そうに決まってるじゃない!」

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」



三人の視線はどこまでもどこまでも冷たかったわけで。



「・・・・・・・・・・・・ごめんなさい、最初貴方が言ったのが主な理由です」



結局それに耐え切れず、紫はそう言って頭を下げた。



「やれやれ、やはりな」

「でもそれは、本当に最初の頃でしょ!」

「ああ、そうだ表立った戦いなんかは確かに最初の頃しかしなかったな。がしかし」

「え?まだあるの?」

「お前はそういうのがなくなった頃からちょくちょくと厄介をかけに来たではないか」

「親睦を深めようと遊びに行っただけじゃないのよ!」

「勝手にスキマを開いて家に上がりこむのがか?迷惑な親睦の深め方だな」

「それは、その、えーっと」

「実験の邪魔をした事もあったし、研究する為の工房を弄った事もあったな」

「えと、えと・・・」

「そんな事をされて、そんな者をどうして“友人”だなどと言える?幻想郷だから常識なんて関係ないなどと言ってくれるなよ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・えーえーそうでしょうね!どうせ私はただの“知り合い”ですよ!」



もう色々な限界でも突破したのだろうな。

紫はこれ以上ない位にみっともなく逆切れしてしまった。



「どうせ・・・どうせ私なんて友達少ないわよ!影でこそこそ覗きするのが趣味の根暗ですよ!」



なんかもういろいろ駄々漏れになっていた。

カリスマとかストレスとか・・・・・・若さトカ?



「大体・・・・・・ハッ、そうよ!そういう貴方はどうなのよ」

「私かね?」

「私にさんざん言ってくれたけどね。考えてみれば貴方だって友達なんていないじゃない!」

「ふむ、どうしてそう思うのかね?」

「だって貴方全くと言っていいほど魔法の森から出てないじゃない!それが何よりの証拠よ!」



紫の顔は逆転の突破口を見つけて一気に反撃に出ようとしていた。

その顔はどこか狂気じみて輝いていた。

あれはまさに、鬼の首を獲ったかのように得意気になっていた。

だがしかし、しかしである。

少しばかり間をおいて彼はこう言った。




















「・・・・・・お前は何を言っているんだ?」



















彼女の反撃は、無残にも彼のこの一言によってあっけなく崩れることになる。



「・・・・・・え?いやだって、貴方いつも魔法の森に」

「確かに私はいつもあの森にいる。しかしだからといって全く出ていないわけがないだろう」

「・・・・・・そうなの?」

「確かにここ最近は出ていなかったな。研究も大詰めで手を離せなかったしな。――――――――しかしだ」




出鼻を挫かれた彼女に彼はさらに言う。



「私は人里にも足を運んでいるんだ。私自身が作った道具を売りにな」

「――――――――へ?そんなことしてたの?」

「知らなかったのか?」

「・・・・・・全く」

「まあ、作った道具もそうたいした物ではないしな。せいぜい壊れ難い、長持ちする道具とか、身体能力を少々上げる程度の装飾品だな」



彼自身はちょっとした片手間でひょいひょい作ったから大した事はないという認識だが、あくまでも“彼”の認識でだ。

彼の作った道具は大変長持ちする。

手荒に使ったとしても四、五十年は壊れることはない。

身体能力を上げる道具にしても本来の力の十倍程は出るのだ。

他にも食料等を長期保存が出来る器だったり、汚れがみるみる落ちる洗濯板だったり。

しかも本人は大した物ではないと判断しているため、それらの道具は驚くほど安く提供している。

彼の作った道具は人里では密かに人気があり重宝されている。



「そういうわけでな。私は人里ではそれなりに交流関係は持っている。藍から聞いてないのか?」

「・・・ちょっと待って。なんでそこで藍の名前が出てくるの?」

「私の道具の愛用者の一人だからだ」

「なん・・・ですって・・・・・・藍ちょっと来なさい!」



すぐさまスキマを展開し紫は藍を強制的に呼び出した。



「ちぇぇぇぇぇぇん!良い子だなほんとにもう可愛いなもう、もう今すぐにでもってあれ何時の間に!?」



橙に抱きついて今にも何かしそうな勢いの藍は、いきなり呼び出されて慌てふためいた。



「・・・・・・藍、久しぶりだな」



そんな様子の藍に若干戸惑いながらもダンはそう言った。



「あれれ?ダン様ですか?これはこれは、お久しぶりで御座います」



宴会で酒が入ったためか、それともいきなり呼び出されて慌てたためか、自分の醜態を見せた事には気付かずにのんきに挨拶を交わした。



「ふむ、元気そうで何よりだ。ところで、道具の方はどうかね?」

「あ、はい。相変わらずダン様の道具は素晴しいですね。御蔭で家事がうんと楽にこなすことが出来まして・・・」



二人は紫そっちのけで世間話を始めた。



「そうかそうか、それは何よりだ。ところで・・・後ろで隠れているのはもしや?」



ダンは背中に隠れ・・・いや、藍の立派な尻尾の中に隠れている橙のことを聞いてきた。

橙は藍の尻尾に隠れてダンの様子をおっかなびっくりといった感じで見ていた。

そんな橙を藍は微笑んで見ていた。

――――――あ、鼻血鼻血。



「ほら橙、ちゃんと挨拶するんだよ」

「はい!えっと・・・始めまして!らんしゃまの式の橙っていいます!よろしくお願いします!」

「ダン・ヴァルドーだ。藍には偶にだが世話になっている。私のことは好きに呼んでくれてかまわんよ」

「わかりました!」

「いいぞ橙。偉いぞ。良く出来たな」

「ふむ、藍よどうやら良き式・・・いや、子に恵まれたようだな。お前は実に幸せ者だよ」

「・・・ふふふ。はい、ありがとうございます」



この光景を例えるならば、近所の親しい老人に自慢の娘を紹介する若奥様といったところか。

――――――失礼、例えではなくそのままだな。



「ちょっと藍・・・・・・貴女ダンとはどういう関係なのよ。っていうか無視しないでよ」



今までぽかんとして放置されていた紫がやっと話しに加わってきた。

自分をガン無視されたせいかちょっと苛立っている様に見受けられる。



「あれ?紫様いたんですか?」

「なんかみんな私の扱い酷くない?それより藍、私の問いに答えなさいよ」

「いや、どうと言われましても・・・強いて言うならちょっとした“友人”というのが近いかと・・・」

「ああ、そうだな。確かに藍は私の“友人”だよ」

「ちょ、なんで!?どうして!?」

「どうしても何も、私は藍に道具の作成で、どういった物があったら便利かといった意見を聞いてそれをよく参考にしておるのだ」

「いやそんな、私はただ自分が欲しいなーと思った物を言っただけですから」

「それに時々だが、わざわざ私の所まで料理を持って来てくれるのだよ」

「いや、ほんとに時々ですから」

「とまぁこういう風に、藍とはそれなりに“親しい付き合い”というものがある。お前さんと違ってな」

「そ、そんな」

「他に付き合いがあるとすればそうだな・・・慧音に霖之助に阿弥・・・いや今頃は多分阿求か。後もまあ人里にも何人かいるはずだ」



紫は今まで引き篭もりで友人なんてほとんどいないと思っていた相手に、実は自分よりも友人関係が多いことを知ってショックを受けた。

しかし話はまだまだ終わらない。



「人里以外だと、妖怪の山に地底だな。こちらは飲み友達と言ったところか。・・・・・・もうだいぶ行ってないが魔界にもいるな」

「なんでそんなにあちこち行ってるのよ・・・」

「自らの研究のためだ。それで紫よ。聞きたい事があるんだが?」

「・・・・・・・・・何よ?」



嫌な予感がしたのだろう。

間を少し空けてから紫はそう答えた。






















「お前はどれくらい“友人”がいるんだ?」




















それはまるで、死刑を告げる裁判官の言葉のようだった。



「うわぁぁぁぁぁぁ!飲んでやる!今日はとことん飲んでやるぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

「ちょ、紫様!?待って、待って下さい!」

「あ、えーっと、し、失礼します!」



紫は壊れて暴走して宴会場に逃げ、藍と橙は主人の後を追うようにその場を去っていった。



「ふむ・・・どうしたんだ一体?」

「紫の奴・・・大丈夫かな」

「く、くくくあはははははひひひひはははははははは!!」



そしてその場に残ったのは、首をかしげる老いた魔導師と哀れみの表情を浮かべる白黒魔法使い、床を叩きながら笑う紅白巫女が残った。






































まあ・・・なんだ。

我ながらまたカオスだと思ったよ。

特に紫のカリスマの崩壊っぷりはもう・・・書いててゾクゾクした。

すっごい楽しかった!すっごい楽しかった!すっごい楽しかった!と連呼する。

だもんで力入れて書きました。

いえね、紫の交友関係が広いのは知ってますよ?

でもそれは顔が広いってだけで幽々子さんのような友達ってのは少ないと思うんですよ。

ダンはちょっと意地悪で言っただけで、ちゃんと友人だと思ってます。

からかうと楽しい友人という意味ですけどねwww

しばらくは宴会の話が長くなります。

それでは!



[21723] 第三話 探し人はおらず
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/09/13 21:25






紫が泣きながら去って行ってすぐ、魔理沙がダンに話しかけた。



「えっと・・・なんか変な感じになっちまったな。あ、私は魔理沙。霧雨 魔理沙だ。普通の魔法使いだぜ!」

「霧雨・・・ああ、もしやあの商店の・・・何時の間にか子供を作っておったか、あの若造」

「若造って・・・親父の事知ってんのか!?」



魔理沙はダンが自分の父親を知っていることに驚いたようだ。



「私が知る霧雨がお前の所なら・・・そうだな。お前の祖父の代から知っているぞ」

「へぇ・・・そうだったのか」

「ああ・・・・・・それよりも」

「なんだぜ?」

「そこの者は何時まで笑っているつもりだ?」



ダンは腹を抱えて、今なお笑い続けている霊夢を指差してダンは言った。



「え?ってオイ霊夢・・・いい加減戻って来い」

「ひひひひひひ・・・げほっげほごめん・・・ちょっと、ひひ、笑いすぎ、てひひ、ひき、つけがひひひ」

「ほらほら大丈夫か?」



魔理沙はそう言うと霊夢の背中をさすってやった。



「っげほ・・・・・・・・ありがと、なんとか治まってみたい」



そう魔理沙に言って霊夢はやっと笑うのを止めた。

――――――笑い過ぎだろう、おい。

霊夢が落ち着いたとみて、ダンは霊夢に話しかけた。



「ところで、もしかしてお前が今代の博麗の巫女か?」

「博麗 霊夢よ。あんたはなんて呼べばいいの」

「好きなように呼べばよい」

「お、それならダン爺だな!私のことは魔理沙って呼んでくれ」



――――――うわぁなんか凄いフレンドリーな呼び方だねおい。



「私も霊夢でいいわダン」



――――――って、君は呼び捨てかい!?

――――――失礼脱線しましたかな?



「ああ、それで構わんよ」



そう言うとダンは宴会の面々をきょろきょろと見始めた。



「・・・・・・あれは霖之助か?あれがこういう場に来るとはな」

「やっぱダン爺もそう思うか?確かに香霖が宴会に出るなんて珍しいよな」

「香霖?霖之助の事か?」

「そうだぜ」

「何故、香霖と呼ぶ?」

「さあ?小さい頃からずっと呼んでるからな」

「・・・・・・なるほど、確か霖之助は霧雨の所で修行をしていたのだったな」

「今じゃ独立して自分の店を持ってるんだぜ」

「ほう、そうか。なら、後で挨拶にでも行くかな・・・」



そう言ってまたきょろきょろと辺りを見渡すダン。



「なあ、さっきから何してるんだぜ?」

「友人をな、探しているんだ。・・・・・・あの祭り好きが、一体何処に・・・」

「誰なんだぜそいつ?」



魔理沙はダンになんとなく聞いてみた。



「知っているかどうか・・・・・・魅魔、と言うんだがな」

「え!?魅魔様の友達なのかダン爺!?」



魅魔の事をダンが知っていることに、魔理沙はさっき以上に驚く。



「そう言うお前こそどうして魅魔の事を?」

「いや、魅魔様は私の魔法の師匠なんだぜ」

「何?魅魔の弟子だと?」



そう言うと、今まで関心があまり無かった魔理沙をダンは食い入る様に見据えた。



「あの者が、弟子を取るとはな・・・・・・」

「そう言うダン爺こそ、魅魔様とはどんな関係だったんだぜ?」

「私も気にはなるわね。良かったら教えてくれない?」

「・・・・・・魔法使い同士、少し気が合った。それだけだ」



少し間を置いてダンは二人にそう答えた。



「なあ、やっぱりダン爺も魔法使いなんだぜ?」

「この姿を見て他に何が思いつく?」

「んーと、レストランのウェイター?」

「・・・・・・・・・何故、そうなる」

「はははは、いや、冗談だぜ冗談」

「・・・確かに奴の弟子だな。そういう所は、似てなくも無いな」

「あー・・・そういやそうね」

「おうおう、嬉しいこと言ってくれるじゃないか二人共。はははは」



そう言って笑う魔理沙にダンは本題に入った。



「さて奴の弟子だと言うのなら話は早い。奴は今何処にいるんだ?」

「さあな。私も何処にいるのかは知らないんだぜ」

「何?此処には来ていないのか?」



この宴会の何処かにいるだろうと考えていたダンは意外そうな表情で二人に尋ねた。



「というか魅魔の奴。もうずっと見てないわね。どうしたのかしら?」

「私ももう、長いこと会ってないからな。今頃どうしているのやら・・・」



そう言う魔理沙の表情はどこか寂しげなものを感じさせるものだった。



「そうか、いないのか・・・・・・・・・そうだ。時に博霊よ」

「霊夢でいいってさっき言ったでしょ?」

「ふむ、すまんな。今まで博麗の巫女にはこの呼び方だったからな」

「まあ、あんたがそれで良いなら別に良いけど」

「・・・・・・いや、霊夢と呼ばせてもらおうか」



少し思案してダンはそう答えた。



「あら、どうして?」

「特に理由は無いが、強いて言うなら・・・・・・・・・そうだな」

「何かしら?」

「・・・・・・そう呼ぶべきだと、思ったからだ」



ダンは霊夢にそう告げた。



「ふぅん・・・・・・あっそう。それで何?」



霊夢は自分で聞いてきたにもかかわらず、そう素っ気無く言って話を続けた。



「玄の奴はどうしている?」

「玄って・・・・・・玄爺の事も知ってるの?」

「まあな。それで奴は?」

「さあね?神社の池にでもいるんじゃない?ここ最近は見かけないけど」

「あいつもか・・・・・・・・・・・・・・・なら、後で見てくるとするかな」

「なあなあ!ダン爺はどんな魔法を使うんだぜ?」



魔理沙は瞳をキラキラさせて好奇心丸出しでダンに聞いてきた。



「私の魔法か?・・・・・・ふむ、そうだな」

「魔理沙ぁーー!何処にいるのよーー!」



ダンが答えようとした時、魔理沙を呼ぶ声が聞こえた。



「あ、魔理沙!こんな所にいたのね」

「・・・・・・むきゅー」



魔理沙を呼んだのは劇団ソリチュードのアリス・マーガトロイドであった。

その横ではパチュリー・ノーレッジこと紫モヤシが若干うなだれていた。



「なんだアリスとパチュリーか。もう大丈夫なのか?」

「ええ、もうだいぶ楽になったわ」

「だからこうして探してたのよ。それで、そのお爺さんは誰なの?」



アリスがダンの事を魔理沙に聞いてくる。



「ああ、ダン爺の事か?紫が連れてきたんだぜ」

「ダン・ヴァルドーだ。見たところ、お前達も魔法使いか?」

「ええそうよ。私はアリス・マーガトロイド。それでこっちが」

「・・・パチュリー・ノーレッジよ」



二人の紹介を聞いたダンはふとあることに気付いた。



「アリス、と言ったな。魔界の出の者か?」

「え、そうよ?どうして分かったの?」

「神綺の魔力を感じたから。それだけだ」

「お母さ・・・神綺様の事知ってるの?」

「ああ、だが・・・・・・ふむ」



顎に手を当て再び思考するダン。

それから少ししてからダンは彼女等にこう告げた。



「色々と聞きたい事は双方あるようだ。だが折角の宴会。ここは酒の席で話の続きとしよう」









































少しずつ話が進んできました。

あ、そうそう。

ここで一つ言っておく事があります。

私の悪い癖の一つに様々な所に伏線を張ってしまうというものがあります。

重要っぽいものが大したことなかったり、逆に見逃すような何気ないものが後に重要なものになったりします。

・・・・・・ちゃんと回収はしますのでご安心を。

それでは!



[21723] 第四話 魔法使い達の飲み会
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/09/13 21:24





「さてと、まあ何はともあれ乾杯といこうぜ!」



魔理沙の乾杯の音頭の後、皆はそれぞれ酒を飲み始めた。

ちなみに霊夢はあまりに騒がしくなってきた宴会を注意しに行って今はいない。

今いるのは魔理沙、アリス、パチュリー、ダンの四人である



「さてと・・・それでは、何から話そうかな」



手にしたコップの酒を飲んで空にしたダンは三人の魔法使い達にそう聞いた。



「ああ、それじゃ私からいいかしら?」



最初にダンに質問をしてきたのはアリスだった。



「何が聞きたいのかな?」

「神綺様のことどうして知っているの?あの口振りだと知り合いのように聞こえたのだけど?」

「お前の造物主、いや母の神綺とはかつて戦ったことがある。お互い全身全霊、全存在を、命を賭けてな」



ダンのその言葉に皆は驚いていた。

それもそうだろう。

魔界を創造し魔界神と呼ばれる神綺の実力は伊達ではない。

そう呼ばれるだけの高い実力があるのだ。

その神綺が全力をもって目の前のこの老人に戦いを挑んだということに、皆は驚きを隠せないようだった。



「なあ、それで?どっちが勝ったんだ?」

「・・・・・・戦いは何度もあった。こちらが勝つ事もあれば、もちろん負ける事もあった。」



魔理沙の問いにダンはそう静かに答えた。



「本当なのそれ?ちょっと信じられないわね。あの神綺様が全力で戦ったのに生き延びて、しかも勝った事があるなんて」

「信じられぬというなら、今度聞いてみるがいい」



アリスの問いにそう答えたダンは空いたコップに酒を注ぎ一口飲んだ。



「どうして戦うことになったんだぜ?」

「魔界という一つの世界を創り上げたその力、その業を我が物とするためだ」



ダンのその言葉に三人は自分の耳を疑った。

ダンの言ったことはつまり、神綺の力を、魔界神を力を手に入れるということだ。



「・・・・・・なんなのそれ。そんな物で一体何をしようって言うの?
 いえそもそもそんな力、一介の魔法使いがどうこうできるような代物じゃないわ」



「ふむ・・・奴と、母と同じことを言うのだなお前は。・・・私はただ、自分の研究のために必要だからそれを手に入れようとした。
 それだけだ」



ダンは言葉を続ける。



「もっとも、私が奴の力で特に必要としたのは生命創造の業だ。さすがに一つの世界を創造、維持するのは私には難しい。
 あれは奴だからこそ出来る事だ」



ダンは自分には難しいと言った。

出来ないとは言わなかった。

それはつまりやろうと思えば出来るという事だった。

この言葉を聞いて三人は目の前の人物が、魔法使いとして自分達より遥かに上の存在だということを知らされた。



「な、なあダン爺?私のさっきの質問なんだけど、ダン爺はどんな魔法を使うんだ?」

「そういえば、答えてなかったな。だが、そうだな」



ダンは顎に手をやりまた思案し始めた。



「ふむ、ならば先にお前達三人が使用する、あるいは得意とする魔法を言ってくれんか?そうすれば答えよう」



顎から手を離し思案を終えたダンは三人にそう告げた。



「ただでは教えない、と言うことね」

「ただ知りたいだけだ。話さないというなら構わんが」

「ま、いいじゃないそれ位なら」

「そうだぜ。アリスの言う通り、それ位なら大したことないぜ」

「・・・・・・確かにそうね」



三人はダンに自分の使う魔法を教えることにしたようだ。



「それじゃあ私からね。私は主に人形を扱っているわ」

「人形遣いか」

「そうよ。今の所の目標は自立稼動が出来る人形を作ることね」

「次は私ね。私は精霊魔法。火水木金土日月の属性を操り、そしてそれを複合した魔法を使用しているわ」

「精霊魔法か。それも複合型とはな。天賦の才ということか」

「貴方に言われても、皮肉にしか聞こえないわよ」

「いや、その若さでそれが出来るのは大したものだ。正直感服する」

「若さって・・・・・・私これでも百年程は生きてるんだけど?」



若いと言われてパチュリーは複雑な気分になったのだろう。

魔法使いとして彼女も短くない人生を生きてきたのである。

それを目の前の魔法使いに若いと言われる。

つまり、若造扱いされたと感じたのである。

そんな彼女にこうダンは答えた。



「まだ、百年だろう?私も八百年程生きてきたが、それでもこの幻想郷では若い方だろう」



この幻想郷では千年を超えて生きる妖怪や神だっているのだ。

それを考えれば確かに二人はまだまだ若い方なのだろう。



「・・・・・・それもそうね」

「あー、それじゃあ次は私な。 私は」

「魔理沙、貴女は誰かに言えるほどの魔法の技を持っていたかしら?」

「そうね、まだまだ魔法使いとしては半人前だもの」



自分の説明をしようとした魔理沙にアリスとパチュリーはそう言った



「な、なんだよ二人とも。きついこと言ってくれるじゃないか」

「普段の行いが行いだからよ。いつもいつも私の魔導書を勝手に持っていくじゃない」

「私の図書館も貴女の被害のせいで収拾が追い付かないのよ。いつになったら返してくれるのかしら?」

「いつも言ってるだろ?私はただ死ぬまで借りてるって」

「あのね、貴女何時までそんなこ「くくくく」・・・・・・どうしたの?」

「いやな。つまり、お前さん達二人から秘蔵の魔導書を盗って来る位の実力はあると、そういう事だろう?」

「う!」

「それは・・・」



ダンの言葉に二人はぐうの音も出なかった。

もっとも本気で死守しようとしてるのか怪しいところはあるが。

何だかんだ言って二人とも魔理沙にはどうも甘いように思われる。



「なんだよダン爺、嬉しいこと言ってくれるじゃないか!」



魔理沙はそんなダンの評価に顔をほころばせた。



「まあ、駆け出しの半人前というのは見れば分かる」

「ほお、そりゃまたどうして?」

「魔の気配、とでも言おうか。それがお前は私達よりも薄いからな」

「そんなんで分かるのか?」

「まあな。・・・・・・では、魅魔からは何を学んだ?」



まだまだ自分の魔法というものが出来ていないのだろう。

そう考えたダンは魔理沙が魅魔からどんな事を学んだのかを聞くことにした。



「いや、魅魔様からは基本中の基本しか教えて貰ってないんだぜ。後はまあ、ちょこちょこっと」

「何故だ?」

「応用とかは自分で学んでいった方がいいって言われてさ」

「・・・成る程な、あいつらしい」



一から十まで懇切丁寧に、などということをするわけがないか。

そう考えたダンの顔には苦笑めいたものが浮かんでいた。



「で、ダン爺はどんな魔法を使うんだぜ?いい加減教えてくれよ?」

「魔法の業で出来ることなら・・・なんでもだな」

「へぇ、凄いじゃないか!」

「その中でもそうだな。黒魔術が得意だな」

「例えばどんな?」

「・・・・・・いや、これ位にしておこう」



何を考えたのかダンはそう言って話を中断してしまった。

しかし魔理沙は納得出来ずに不満をぶつけてきた。



「えー!なんでだよ!?いいじゃんか、けちけちしなくてもさ!」

「考えてみれば、こういう酒の席で言うには、私の魔法はどうにもな。あまり気分のよい物ではないのだ。また別の機会にしよう」



黒魔術は言ってしまえば人の暗い感情を練り上げ、それを業にまで昇華させて生み出されたようなものがほとんどである。

もちろんそればかりではないのだが、少なくとも人々が賑わうこのような場所で言って楽しくなるようなものではないだろう。

そうダンは判断してここで話を切り上げたのだろう。



「ちぇ、分かったよしょうがないな。でもいつか必ず話してもらうからな!」



魔理沙自身もも少しは黒魔術の知識はあるのか、ダンの話を渋々と承諾した。

もっともこの様子だと、絶対話すまで諦めないようだが。



「さて、では私は他の所でも回ってみるとしよう」



此処にはどうやら知人が何人か来ているようだ。

久しぶりに挨拶でもしておこうとダンは宴会場を回ることにした。



「そうか?じゃ私は霊夢のとこにでも行くとするか。二人はどうする?」

「私達はもう少し此処にいるわ。今あの喧騒の中に行くのはごめんだもの」

「・・・・・・そうね。そうさせてもらうわ」

「そうかじゃあな」

「また、会うこともあるだろう。では」



そう言ってダンと魔理沙の二人はアリスとパチュリーの二人と別れていった。



「なんていうか、はぐらかされてしまったわね」

「結局、どんな魔法を使うのかは言わなかったわね。でも」

「黒魔術、それにさっき言ってた生命創造の業。これだけでまあなんとなくだけど分かるわね」

「確かにこんなところで言うような代物ではないわね。・・・・・・それにしても」

「どうしたのパチュリー?」

「ダン・ヴァルドー。何処かで聞いた名前なのよね。・・・・・・何処だったかしら?」





































今回ちょろっと爺さんの強さをほのめかせました。

このダンは幻想郷最強の魔法使いをコンセプトに考えました。

しかし魔法使いでは最強というだけです。

幻想郷最強ではありません。

戦って負けた事も沢山あります。

しかし転んでもただでは起きる事はしませんでした。

だからこそ彼は最強になれたのです。

それでは!



[21723] 第五話 楽しい宴会と寂しい裏側
Name: 荒井スミス◆47844231 HOME ID:ec1ce85a
Date: 2010/10/05 17:37





魔理沙にアリス、それとパチュリーと別れたダンは宴会場に来ている知人達を探して回った。

しかしダンの知っている者はそれほどこの宴会場には来てはいなかった。

見かけたのははせいぜい霖之助に幽香、それと萃香といったところだ。



「・・・少ないな。まあいい、折角だ。少し挨拶でもしておくか」




まずは無難に霖之助からあいさつにをすることにした。

霖之助は宴会の端の方でその喧騒を眺め酒の肴にしてちびちび飲む。

実に居心地を悪そうにしながら。



「こんな所でなにを一人で飲んでいる、霖之助?」

「ダン?貴方が来るなんて珍しいな」



この宴会場で久しぶりダンに会ったことに霖之助は驚きの色を浮かべる。



「それはお互い様だ。魔理沙に聞いたぞ?店を始めたようだな」

「念願がかなってやっとね。といってももうだいぶ前の話だよ」

「そうか。ほんの少し前に始めたのか」

「・・・まあ、そうだね。少し前から始めてるよ。それより彼女に会ったのかい?」

「ああそうだ。香霖、と呼んで慕っているな」

「あ、いやまあ」

「悪い気はしない、か?」

「・・・まあね」

「店の方はどうだ?順調か?」

「ぼちぼちかな」



実際はぼちぼちですらないのだが、ちょっと見栄を張って言った。



「大変そうだな」



すぐにばれたが。



「・・・はぁ、まあね」

「私の品でよければ、そちらで扱ってもらっても構わんが?」

「是非そうさせてくれ。仕入れ値は僕の嬉しい値段で。そうしたら本当にぼちぼちやっていけるよ」

「くくく、まあいい。遅れた開店祝いということにしよう。・・・それ、コップが空いてるぞ?」

「おっとと、こりゃどうも」



霖之助のコップに酒を注ぎ、自分のコップにも酒を注ぐ。



「・・・久々の再会に」

「ふむ・・・懐かしき友に」

「「乾杯」」



器に満たされた酒を一気に飲み干す。



「味は普通だが、美味いな」

「そういうものさ」

「・・・だな」



二人並び宴会を見る。

随分と騒がしい、そして懐かしい幻想郷の騒がしさ。

ダンが長く離れていた騒がしさだった。



「・・・博麗は、また逝ったか」

「もう、随分前にね。いや、ちょっと前だったね」

「それは・・・随分前でいい」

「・・・そうだね」

「見なくなった者も増えたな」

「・・・そうだね」

「だが、新しくいる者もいるな」

「・・・そうだね。気分は浦島太郎って感じかな?」

「・・・そうだな」



二人は目の前の光景を奇妙な気分で見ていた。



「いて当たり前の者がいないというのは・・・変な気分だな」

「それは誰の事だい?」

「分からんよ。多すぎてな」

「確かに、そうだね」



いくつか無くなったピースを新しいもので補ったジグソーパズル。

この宴会はそういう風に見えた



「・・・他に会いに行くとしよう。ではな」

「ああ、じゃあね」



お互い苦笑を浮かべて、二人は別れた。





































「久しぶりね、ダン」



風見 幽香は出会ってすぐに、獲物を目の前にした野獣のような表情を浮かべる。

それはとても綺麗で獰猛な笑みだった。



「そうだな幽香。お前のその殺気もな」

「殺気?酷いわ。私はただ笑ってるだけなのに」

「笑っただけでそれか。まあ、本気で笑うよりはいいか」

「ねえ、ダン」



幽香はダンに詰め寄り自らの腕をダンの首に絡ませてきた。



「私と一緒に、楽しまない?」



絶世の美女が艶っぽくささやく。

彼女は情熱的に、その思いのたけをぶつける。



「やめておこう」



あっさり断られたが。



「・・・つまらない答えね。理由は?納得出来るものじゃなかったら」



腕に篭められた力の質が変わる。

情熱的な女の抱擁から、命を刈り取る断頭台えと変化した。

下手な言い訳をすれば首が飛ぶ。

比喩でも例え話でもなく、だ。



「折角の宴会を台無しにしたくない。それだけだ」

「それだけ?そう、そうなの。へぇ」



幽香の顔が能面のような表情に変わる。

そして思いっきり抱き締めようとした。

だが――――――



「そうだ。久々の、宴会だからな」



その言葉、その顔を見て途端にやる気が失せた。

寂しそうな彼の顔を見て。



「・・・はぁ、本当につまらないわね」



断頭台の拘束が解かれる。



「私にここまでされて、反応しないだなんて。・・・枯れてるの?」

「お前ほど盛んではないだけだよ。なにしろ、私は年寄りでね。
 だから教えてくれないかね?そこまで元気な秘訣を。君より年下のこの年寄りにね」



幽香の皮肉に、皮肉で返すダン。

こんなことを言い合えるのも、長年の腐れ縁故だからだろう。



「言うじゃない。だったら教えてあげるわ坊や。――――――今度は二人っきりでね」

「それは嬉しいな。思わずゾッとするよ。ではな」



ダンは幽香の下から離れ、他の者に挨拶に行った。



「まったく、中途半端に熱くなったじゃない。――――――チッ」



宴会の何処かで爆音が響いた。







































「おお!久々だね。ささ、飲んで飲んで」

「さっそくか。相変わらずだな」



萃香は会うなりダンのコップに酒を注ぐ。



「ほら、乾杯乾杯!」

「ああ、乾杯」



注がれた酒を飲む。

まずは一杯目といったところか。



「私の能力でも来ないもんねあんた。付き合い悪いのは相変わらずかい?」

「あまり無節操に能力を使うな。結界やらなにやらを無駄に使う事になる」

「ちゃんと来れば使わないさ」

「しつこいようだと炒った大豆を酒の肴に持ってくるぞ?」

「や、やめてよ!前にそれで私がどれだけ」

「分かったな?」

「・・・はぁい」



シュンとうなだれる萃香。

相当酷い目に遭ったようだ。



「くくく、元気そうでなによりだ。私はこれから他の、新しい面子に挨拶をしてくるよ」

「一杯だけしか飲んでないじゃない。もっと飲んでけよ~私の酒が飲めないのかよ~」

「ぶうたれるな。今度じっくり飲むから、それでいいだろう?」

「約束だぞ~嘘吐くなよ~」

「・・・・・・ではな」



相変わらずの萃香に呆れてその場を去る。





































「そう、それで私に会いに・・・なかなかいい心掛けね」

「お嬢様・・・はぁはぁ・・・いい、凄く・・・いい!」

「う、うむ。ダン・ヴァルドーという」



ダンはまずレミリアと咲夜に話しかけた。

はぁはぁ息を荒げる咲夜にちょっと引いたが。



「名乗ったのならこちらも名乗り返すのが礼儀ね。私はレミリア・スカーレット。
 永遠に紅い幼き月の二つ名を持つ、紅魔館の主よ」



レミリアはなんか、カリスマめいた自己紹介をカリスマめいたポーズをとりながらカリスマっぽくしてダンに無い胸を張った。



「スカーレット?あの吸血鬼の一族か?」

「ほう?その名を知っているか魔法使い。そうかそうか、ふふふふ」

「何時だったか、その一族に新しい党首が出来たと聞いたが、もしや?」

「その通りだ。それがこの私だ!」

「ああ、お嬢様なんて凛々しい・・・・・・・・・ふぅ」



ダンが自分の事を事前に知っていたのを聞いてレミリアは更に得意気になる。

そんなレミリアを見て咲夜は感動していた。

――――――ということにしておいてください。



「そうか・・・ところで」

「なんだ?」

「頬にご飯粒が付いてるぞ。ほれ、そこに」

「・・・・・・・・・え?」



それを言われたレミリアは最初何を言われたのか認識出来なかった。

ダンはレミリアに近付き米粒を取ってそれを見せる。



「これだ。さっきから気になっていたのだ」

(・・・・・・米粒ね。どう見ても。これを付けたままさっきのセリフを・・・私は!?)



すぐに顔をぼっと真っ赤に染め、頭をを抱えてうー☆うー☆と泣きながらうずくまってしまったレミリア。

それは、カリスマ(笑)がかりちゅま(笑)になった瞬間であった。



「――――――我が生涯に一片の悔い無しッ!ブボォッ!」



そんなレミリアを見てしまった咲夜は、忠誠心がパーーンと弾けて気絶してしまった。

パーーンと。



「・・・・・・・・・次に行くか」



ほっとくのが良いだろうという結論に至りその場を放置して去ることにした。

後ろからはうー☆うー☆と可愛らしく鳴く何かと、忠誠心がドクドクと出てるナニカがずっと聞こえていた。






































「うう、駄目吐く。吐くものもう無いけ、ど吐くぼぁ」



守矢組は萃香に飲まされ、さっきまで絶賛リバース中だった東風谷 早苗。



「早苗しっかりするんだ!衛生兵!衛生兵!」



それを介抱する守屋の起動兵器八坂 神奈子。



「衛生兵って・・・神奈子ちょっと大袈裟だよ。はいタオル」



そしてそれを心配そうに手伝う小さな人妻洩矢 諏訪子の三人(三柱?)であった。



「どうかしたかな?」

「あれ?貴方は?」

「ダン・ヴァルドー、魔法使いだ。すまんがちょっといいか?容態を診よう」

「衛生兵!衛生兵か!」

「だから神奈子落ち着きなって」



早苗の頭に手を乗せて検査の魔法をかける。

その結果は?



「飲み過ぎだな」

「いや、見れば分かるし」

「冷え性だな」

「それ関係無い」

「下戸だな」

「知ってるよ!」



ダンの診察結果?に突っ込みを入れるケロちゃん。



「それ、もう治ったぞ」

「いやただ診ただけで」

「あれ?急に楽に?」

「治ったよ!?」

「サナエェェェェェヨカッタァァァァァァ!」



ケロリと治った早苗を見て驚くケロちゃんと歓喜するキャノン。



「あの、貴方が治してくれたんですか?」

「ダン・ヴァルドーだ。今のは軽い魔法だよ」

「そうですか・・・ありがとうございます。本当に助かりました。私は東風谷 早苗と言います」

「八坂 神奈子だ。私からも礼を言う」

「洩矢 諏訪子だよ。・・・なんか納得出来ないのは何故?」

「八坂に洩矢?あの守屋の?」

「知ってるんですか?」

「聞いたことはな。そうか、お前達ほどの神も此処に」

「まあ、そういうことさ」

「時代の流れってやつだね」

「なるほどな・・・一杯いいかな?」

「あ、どうぞ」




早苗はダンのコップに酒を注ぐ。



「すまんな、ああ、早苗でいいかな?」

「はい。いいですよ」

「よかったな。家の早苗にお酌してもらえるなんて」

「そうそう。あ、早苗私にも」

「分かりました。神奈子様もどうぞ」

「お、ありがとう」

「いえいえ」



二柱の神にもトクトクと酒を注ぐ。



「やはり信仰が原因で此処に?」

「そうそう。進み過ぎた文明の御蔭でね。悪い事じゃない。むしろ良い事なのは分かるんだけど」

「何処か納得出来ない?」

「そうなんだよねー」

「まあ、理解は出来ても納得出来ないのはどの時代も変わらんか。
 古いものはいつか消える。新しいものもいずれ古くなる。
 未来が過去になるのを何度も見てきたが、やはり納得は何時まで経っても出来んな」

「本当に・・・そうだね」

「・・・まったくだな」



長い年月を生きてきた者だからこそ感じる想い。

それを三人はひしひしと共感していた。



「あのダンさんはどれ位生きてるんですか?失礼でなければお聞きしても?」

「大体、八百年といったところだ。まだまだ若い年寄りといったところだな」

「・・・・・・それって私達が老けてるって言いたいのかな?」

「そこいらのミイラより年上だろう?そもそもお前達は年齢云々などどうでもよくなる位に生きたろう?」

「そりゃそうだけど・・・」

「やっぱり気になるもんだよ?」

「昔ある奴が言ってたな。年寄り扱いされて怒るようでは、まだまだ子供だ。
 逆に笑い飛ばす位でないといけない。そう言っていたよ。私も同意見だな。
 何事も余裕が大事なのだよ。余裕が」

「この歳で子供扱い・・・見た目子供の諏訪子はともかく私まで?」

「それどういう意味かな神奈子?」

「まあまあ御二人とも。そんなんだから子供だって言われるんですよ」

「「さ、早苗まで!?」」



思わぬ伏兵に驚愕の神様達だった。



「幻想郷で常識に囚われてはいけないんですよ?むしろ常識は投げ捨てるものです!
 私はそれを此処でしっかり学びました!」



これでいいのかお前達?といったダンの疑問の視線を二柱の神はさっとかわしていた。



「そうだ!ダンさんも守屋神社を信仰しませんか?そして学びましょう!
 私と一緒に信仰して、常識という殻を投げ捨てることを学びましょう!」



そういう宗教なのか?というダンの疑問の視線を、二柱の神は目に涙を浮かべながらさっとかわしていた。



「どうですか?今ならポイントも付いてきますよ?
 100ポイント貯まったら渋い蛇と可愛い蛙の人形が。
 1000ポイント貯まったら100/1核熱造神ヒソウテンソクフィギュアが。
 10000ポイント貯まったらお二人の秘蔵の生写真が!」

「「ちょっと待て!?聞いてないぞ!?特に最後の!?」」

「大丈夫ですよ。別にえっちぃ写真じゃありませんから」

「え、そうなの?」

「ちなみにどんなのを?」

「御二人のパジャマ姿を!」

「「それも十分アウトだから!」」

「100/1核熱造神ヒソウテンソクフィギュアか・・・少し、気になるな」

「「あんたはそっちかい!?」」



ダンのそれを聞いて、ちょっとだけ悲しかった。

フィギュアに自分達の写真が負けたことが、ちょっとだけ悔しかった。



「まあ、そうだな。お前が一人前になったら考えてもいいな」

「本当ですか!」

「ああ、本当だ」

「分かりました!私、頑張って修行しますね!」

「その意気や良し。それでは私はこれで」

「はい!ありがとうございました!」

「・・・・・・ねえ、諏訪子?」

「なあに、神奈子?」

「なんか嫌な予感がするんだよね」

「奇遇だね。私もだよ」



後日、どっかの2Pカラー巫女による妖怪達の受ける被害がいつもの五割増しになったとかならなかったとか。







































「何もさ、あそこまでさ、言わなくてもさ、いいじゃない。ねぇ?幽々子もそう思うでしょ?」



ダンにボロクソ言われた紫は、幽々子に泣きついていた最中だった。



「そうね~酷いわね~その人」



ぼろぼろと涙を酒と一緒に流す紫をあやす、変わることのない食欲を持つ女西行寺 幽々子。



(こんな紫なんて滅多に見られないわね~。それは感謝するべきかしら?)



幽々子はメソメソと泣く彼女をあやしながら、そんな事を考えていた。



「私は、夢でも見ているんでしょうか?一体何が・・・斬ったら分かるかな?」



そんな紫をただただ唖然として見つめている辻斬り半人半霊少女魂魄 妖夢。

なにやら随分物騒な事を口走っている。

ちなみに紫を追って行った藍と橙は。



「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!可愛いなぁ!本当にもう、もう、へへ、へへへへへへ」

「らんしゃまぁ、くすぐったいですよぉ」



なんか、お互いもふもふしてた。

――――――という表現でお願いします。



「・・・・・・えらい時に来てしまったな」

「ダン!?また来たのねこのド腐れジジイ!また私のプライドをズタズタにでもしに来たのか!からかいに来たのか!」

「一体何のことだ?」

「しらばっくれる気!?それとも無自覚で言ったの!?この(###このセリフは検閲されました###)!
 あんたなんて(###このセリフは検閲されました###)して(###このセリフは検閲されました###)になって、
 そして(###このセリフは検閲されました###)の(###このセリフは検閲されました###)になればいいのよ!」



そのあまりの口汚さに二人は呆れるしかなかった。



「うわぁ、紫ってば・・・」

「これは、退散した方がいいかな?」

「そうね。その方がいいわね」

「ではまた後日改めて」

「ええ、それじゃ」



あいさつもそこそこにその場を離れるダン。

紫はダンの背中になおも罵倒を続ける。



「逃げる気!?この(###このセリフは検閲されました###)の(###このセリフは検閲されました###)!
 そんで(###このセリフは検閲されました###)で(###このセリフは検閲されました###)な・・・えっと。
 そうあれよ!(###このセリフは検閲されました###)が(###このセリフは検閲されました###)になってる、
 (###このセリフは検閲されました###)の」



――――――この先のセリフも検閲されました。

――――――ご了承ください。







































そして今現在、ダンは博麗神社の池の前に来ていた。



「此処にいると聞いたのだがな・・・・・・」



少し前に霊夢に聞いた玄爺を探して此処に来たのだ。

しかしその本人はどうも留守だったのか姿が見えない。



「魅魔に玄・・・此処ならば会えるだろうと思って来てみたが、会えないとはな」



誰に言うでもなく、そんな独り言を呟く。

別にあの二人(正確には一人と一匹)は特別仲が良いというわけではない。

他の友人達と同じような関係であった。

此処に来たのも紫に誘われたから。

ただ、それだけだった。

しかしいるだろうと思って来てみればいないというのは寂しいものを感じるものだ。

寂しい。

そんなものを感じるとはな、と苦笑する。

今までの目標が無くなったからなのだろうか。

その背中には賑やかなはずの宴会場に似合わない哀愁を纏っていた。

独り言は続く。



「二人とも消えてしまった、なんてことはないのだろうが・・・一体何処に行ったのやら」



特別親しいわけではない。

しかし会えないと分かると感じるこの寂しさ。

自分はこの寂しさを何時以来に味わったのだろう?

いや、そもそもそんなものを味わったかどうかさえ思い出せない。

八百年余りの、普通の人間としては長過ぎる年月の中で生き抜いてきたこれまでの人生が、今は色あせて見えてくる。



「・・・・・・・・・いかんな。思考がネガティブなものになってきたな」



そう考え、別の思考に切り替える。



(先ほど会ったあの・・・西行寺 幽々子だったか?魅魔以外にあのような強い霊というのも珍しいな)



ほんの少し挨拶を交わした程度だったが、幽々子から感じた力はこの幻想郷でも最強クラスのものだった。



(霊としてのあり方も、どうも普通のそれとはだいぶ違うようだった)



自分の中に研究者としての探究心がぐらぐらと鎌首をもたげる。

しかし――――――



(・・・駄目か、どうするか考えが浮かんでこん)



いつもならばあの霊がどういう存在か徹底的に調べようとする考えが浮かんでくる。

自分の手の内の業でどうやって対処するか等の思考が頭を支配するはずだった。

だがそれが出て来ないのだ。

それもそうだろう。

今までは自分の目的の為にありとあらゆる事をしてきた。

しかし今はその目的を達成してしまった。

目的を達成し満足してしまった今現在のダンの思考では、以前のような思考は出来るはずもなかった。



(今の私は差し詰め、追い求めた答えの数式に辿り着いた数学者と言ったところか)



生涯を賭けて一つの数式に取り組んだ数学者。

そしてその数学者は自らの求める答える式に辿り着いた。

その到達に世界はその男の偉業を祝福し、その者は数学者としての極みに達したと言ってもよかった。

しかし当の本人は火が消えたように呆然としたと聞く。

今までの生涯を賭けたそれはその数学者の生き甲斐だった。

全てだった。

人生そのものだった。

しかしそれに到達したということは、その数学者の人生の終わりをも意味していた。

そしてその数学者は、ついに自身の人生にもピリオドを打ったと聞く。



(私もあの数学者のような最後を迎えるのだろうか?)



そんな考えが頭に浮かぶ。



(馬鹿な。私は私の望むものに到達した。ならばさらに高みに挑めばいい。それだけの事だ)



そう考え、自分の最後の結末などという考えを消した。



(さて、そうなると“あれ”をどう運用するかが問題だな。さてどうするか)



しかし自慢の思考は思うように働かない。

気が付けば池の前から移動して別の場所に来ていた。



(考え過ぎた、か。しかし此処は?)



宴会の喧騒が聞こえてくるのでまだ神社の中ではあるようだ。

どうやら何時の間にか神社の裏手の方に来ていたらしい。



(やれやれこんな所にふらふら来るとは、我が事ながら呆れ・・・?)



宴会場に戻ろうとしたその時、彼の目にあるものが目に留まった。



「あれは、まさか・・・・・・」







































もう一度読んでなんか納得が出来なくなってきたので書き直しました。

こんなもんでどうかな?

やっぱり、だいぶ長くなったな・・・

それでは!



[21723] 第六話 若い魔法使いの想い
Name: 荒井スミス◆47844231 ID:03dd8c5e
Date: 2010/09/12 13:11






何時の間にやら宴会も終わり、霊夢は片付けに取り組んでいた。



「ったく!やっぱり手伝わないで帰っていったわね!」

「まあいいじゃないか霊夢いつもの事だしそれに今回は私も手伝ってやってるじゃないか」

「私が捕まえなかったらオサラバしてたあんたには言われたくないわねそんなこと」



魔理沙は逃げようとしたところを霊夢に見事に捕まってしまった。

しかしその代わり、魔理沙以外の者達にはまんまと逃げられてしまったのだが。



「さあ!手伝ってもらうわよ魔利沙!」

「へいへい分かりましたよっと」



そう言って二人が片付けている最中だった。



「なんだ。他の者達はもう帰ったか?」



片付けの最中に、何時の間にかダンが姿を現していた。




「おおダン爺じゃないか!まだ帰ってなかったのか。
 なら手伝ってくれすぐ手伝ってくれ今手伝ってくれ!そうすりゃ私もすぐに帰れるぜ!」

「あんたまだいたんだ。なら片付け手伝っていきなさい。宴会に参加したんだもの。嫌とは言わせないわよ?」

「・・・別にしないとは言ってないだろう?だから霊夢よ。さり気無く針を手に忍ばせるのは止めてはくれないか?」

「嫌だって言ったら問答無用でこいつをぶち込んだんだけど・・・まあいいわ。手伝ってくれるんなら歓迎するわ」

「よく言うぜ。どっちにしろやらせるつもりのくせに」

「なんか言った?」

「いいや何も言ってないぜ。だからその針をしまえ」

「やれやれ、今代の巫女は気性が激しいか。それにしてもしかし」



ダンは宴会場後の境内を見てため息を吐いた。

散々に散らかったその惨状は筆舌し難いものだった。



「これをいつもやっているのか?」

「そうよ。大抵は私が一人でね。たまにあんたみたいに進んで手伝ってくれたりするのもいれば、
 魔理沙みたいに手伝わせる事もあるけどね」



もっとも前者の場合、霊夢の機嫌が悪かった場合にのみに限るのだが。

しなかった場合の彼女の報復を恐れて。



「そうか、ならばすぐにでも始めよう」



ダンはおもむろに手をかざした。

するとどうだろう。

宴会場にあった食器やらゴミやらなにやらが浮かび上がったのだ。



「おお、すげえぜ!」

「・・・・・・・・・・・・」



魔理沙はその光景に声を上げ驚き、霊夢はぽかんと無言になっていた。

ダンが更に手を動かすと食器はみるみる内に綺麗になり種類別に分けられた。

そしてゴミは全て一ヶ所に集まったかと思うと、一瞬ボっと燃え上がったと思ったら灰すら残らず消え去ってしまった。



「すまんな。本当なら食器等もすぐ元の場所に持って行きたかったが、生憎と場所が分からなかったのでな。
 適当にそこに置かせてもらったぞ・・・どうした二人とも?」

「・・・はッ!何よ魔法ってこんな事も出来るの!?ドカスカそこら辺吹き飛ばすようなものじゃないの!?」

「すげぇすごいぜすご過ぎるぜ!一体どうやったんだ!なあなあ教えてくれよ!」



少々興奮した状態で二人はダンに詰め寄る。

彼がおもわず引く位に。



「そ、そこまで言うような代物ではないんだがな。お前達も知っての通り、此処幻想郷の連中は騒がしいのが好きな者が多い。
 そういった奴等の後始末をしてるうちに覚えたものだ。だから驚く程ものでは」

「私の知ってる魔法使いでこんな便利な魔法使う奴はいないわね。ねえ、これからあんた宴会の度に来てくれない?
 あんたがいてくれたらこれからはすぐに片付けが終わりそうだわ」

「・・・そういう事で毎回呼ばれるのもな。第一私はこういった事に魔法を使うのはあまり気が進まない。
 どうしてもというならそこの魔理沙に頼めばいいだろう」



ダンはこの現金な巫女に呆れて隣の魔理沙を指摘する。



「駄目よ。魔理沙はこんな魔法使えないもの」

「ああ、まあ、その、うん。私には出来ないなあんな魔法。少なくとも今は」

「ならば教えてやろう。それ位は造作もないからな」

「そうしなさいよ魔理沙。そうすれば私が楽できるわ」

「霊夢の楽の為ってのもな。まあ、教えてくれるなら別にいいんだけどな」



その後三人は食器やらなにやらを片付けていった。

片付けは予定よりもかなり早く終わった。



「さて、そろそろ帰らせてもらおう」

「あら、御茶ぐらい出すわよ?」

「いや、いいさ。・・・・・・そうだ霊夢よ。紫に伝言を頼まれてくれないか?」

「伝言?何て伝えるの?」

「わざわざ誘ってくれたのにすまない事をした。そう言ってくれ」

「あら、あいつは唯の“知人”じゃなかったかしら?」

「日頃の行いが行いだからな。少しばかり灸をすえさせただけだ。
 ああは言ったが、あいつも私の“友人”である事は変わりないからな。
 ・・・・・・今回はさすがに、少し言い過ぎた気もするが」

「自分で直接言えばいいじゃない」

「面と向かってそんなことを言えるほど、若くないのだ。もし言ったとしても、お互い気恥ずかしくなるだけだからな」

「あっそ。それじゃ、それも含めてあいつに言っておくわ」

「・・・・・・ああ、感謝する」

「じゃ霊夢またな!」



そう言ってダンと魔理沙の二人は霊夢と別れていった。








































神社の鳥居の前に二つの影が並んでいた。

それぞれの家に帰ろうとした時だった。

老いた魔法使いが、若い魔法使いに話しかけた。



「魔理沙よ、聞きたいことがあるのだがいいか?」

「ん?なんだぜダン爺?」

「お前は・・・・・・お前は何故魔法使いになった?」



それはただの何気ない考えだった。

何故か知りたくなったのだ。

この少女が魔法使いになった理由が。



「なんでそんな事を聞くんだぜ?」

「いや、なんとなくだ。それでどうなんだ?お前には何か魔法で極めたい目的でもあるのか?」

「おいおい、私はダン爺みたいな凄い魔法使いなんかじゃないんだぜ。
 そんなダン爺が考えるような大層な目的なんて持ってないぜ」

「では何故だ。何故魔法使いに?」

「ううん、そうだな。理由や切欠は色々あるだろうけど一番は・・・・・・やっぱりあれだな」

「それはなんだ?」



魔理沙はダンの目をまっすぐ見て、彼の質問に答えた。




















「私は、魔法に恋をしたんだぜ」



















それを聞いてダンは驚くしかなかった。



「恋・・・だと・・・?」

「ああ、それが一番の理由なんだぜ」



彼女は夜空を見上げた。

空は満天の星空に包まれていた。



「最初魔法を見た時は感動した。私も魔法を使ってみたいと心からそう思った。
 何度も何度も失敗して、魔法が成功した時は本当に嬉しかった。
 そして今は、使える魔法が一つ増える度に楽しくて仕方がないんだぜ。
 だからもっともっと知りたいんだ。私が好きになった魔法ってものをさ!」

「・・・・・・・・・・・・」



そう語る魔理沙の瞳は恋をした少女のものであった。

魔法に恋し、そして愛する純粋な魔法使いの顔。

それは、かつて何処かで見たような――――――――



(ああ、そうだ思い出した。そうだ、この顔は)



かつて昔の自分がしていた顔ではないか。

まだ自分が本当に若かった頃の、あの表情ではないか。

実際にそれを見たという記憶は無い。

だがもし見たとすれば、それは間違いなく今の魔理沙と同じものだと確信出来る。

思い出した。

魔法というものに触れた時のあの感動。

思い出せた。

初めて自身で魔法を行使した時の興奮。

思い出すことが出来た。

もっともっとそれを、楽しみたいというあの頃の思いを。



「そういや、言いそびれてたな。私の魔法は恋と星の魔法。この満天の星空にだって負けない魔法なんだぜ!
 そして――――――――」



懐からビンを取り出しそれを高らかに投げた。



「これが私の魔法さ!」



ビンは空中で弾け満天の星空を魔法の光で更に彩った。

キラキラと光る綺麗な星の光。

そしてそれに負けない位に輝く彼女の魔法の光。

それは実に幻想的な光景だった。

それを見て思い出す。

子供の頃に見て感動した、あの幻想的な光景を。

魔法を使いたいと初めて思った、あの光景を。



「へへッ、どうだい?今のは結構奮発したんだぜ?あれはな・・・・・・え?ダン爺どうしたんだぜ!?」



魔法の説明をしようとした魔理沙は、ダンを見て驚いた。



「どうしたとは、何がだ魔理沙?」

「だってダン爺、目から涙が」



そう言われ自分の顔を触るダン。

そして自分が涙を流していたとやっと気付いた。



「涙だと?この私が涙?そんなもの、当の昔に枯れてしまったとばかり・・・」

「どうしたんだ!?まさか涙流すぐらい酷かったか!?」

「・・・・・・いや、そんな事はないさ。たぶん、お前の魔法があまりに綺麗だったからだろう。
 ・・・・・・忘れていたよ。魔法が、こんなにも綺麗なものだったのを」



空を見上げる。

少し前まで感じていたような灰色の世界はもう無い。

目の前にあるのは、色とりどりの色彩溢れる輝かしい世界だった。




















「――――――ああ、本当に綺麗だ」




















そう言うダンの顔は、涙を流してはいたが実に晴れやかなものだった。



「――――――ありがとう魔理沙。お前の御蔭で、魔法の素晴しさを思い出すことが出来た。本当に、ありがとう」

「え、ああそうか?なんかよく分からないけど・・・へへ、どういたしましてだぜ!」



ダンにそう礼を言われ、魔理沙は照れ臭そうにそう答えていた。



「それじゃ、そろそろ帰るとするか。ダン爺またな!」

「ああ、またな魔理沙」



魔理沙はそう言って箒に乗り風のように夜空に消えていった。



「・・・・・・実行するかどうか迷っていたが、決まったな」



夜空に消えた魔理沙を見送り終えたダンはそう独り言を呟いた。

自身の魔導の集大成。

その集大成の利用方法。

そしてそれ以外の興味の惹かれるもの。

ダンの思考は前の倍近い速度で回転し始めた。



「ならば、早速準備に取り掛かるとしよう」



魔法使いは、フッと夜の闇の中に消えた。




















――――――物語は進んでいく。

――――――ゆっくりとだが、確実に。








































なんか書いていて自分でもこっぱずかしいものになりました。

いや、本当に。

でも書けて良かったと思います。

魔理沙は東方の中で私が好きなキャラ(上位)の一人でしたので。

さすがに俺の嫁!なんてことは言いませんがwww

魔理沙の御蔭で、ダンはまた夢を見る事が出来るようになりました。

その夢とは一体何か?

一体何を実行するのか?

この幻想郷にどんな波乱を巻き起こすのか?

それは・・・もちろんまだ内緒です!

それでは!



[21723] 第七話 かわるものとかわらないもの
Name: 荒井スミス◆47844231 ID:d86d6c57
Date: 2010/09/12 19:27






その日、稗田 阿求の前に珍しい客が来ていた。

古き魔法使いダン・ヴァルドーである。

転生した彼女はダンのことを覚えてはいなかったが知識としては知っていた。

彼が阿求の下に来たのは新しく出来た幻想郷縁起の確認と、自分がいなかった間に起きた幻想郷の出来事を調べることだった。



「それにしても、お前もまた小さくなったな阿求」

「いきなり随分と毒を吐きますね。幻想郷縁起の貴方に関する部分を書き直したほうがいいのでしょうか?」

「生まれ変わってもその口振りは変わらんな。安心したよ」



ダンはそう言って苦笑し呆れ半分安心半分といった表情を浮かべる。



「それにしても不便な生き方だ。わざわざ転生などせずとも不老の法を使えばいいだろうに」

「いいじゃないですか。美人薄命と言うでしょう?」

「自分でそれを言うか。まあいい。お前にも世話になった。もし興味があるなら私に相談しろ。それ位は訳もないからな」

「そうですね。もし機会があればお頼みしましょうかね。それで?調べ物は済みましたか?」

「ああ大方な。ここ最近は面白い事が起こっているようだな。スペルカードだったか?それが特に興味がある」

「今一番の流行ですからね。貴方も作ってはいかがですか?」

「確かにその方がいいだろうな。いざ挑まれても持っていないのでは格好がつかんだろう。
 だが、出来ればあまり積極的には関わりたくはないな」

「おや、何故です?」

「どうも私のような老人には少し華やか過ぎるように感じてな。私がやっても雅なものにはならんだろう。
 お前さんのような少女がやって、弾幕ごっことやらは美しくなるんだろうがな」

「あら?それは私が美しいと思ってよろしいのでしょうか?」

「どこをどう聞けばそうなる?まあ可愛らしいのは間違いあるまい。黙っていればが付くがな」

「・・・やっぱり書き換えたほうがいいようですね」

「好きにするといい。それではな」

「ええ。今度は甘味でも持って来てくださいな」

「・・・そうしよう」



ダンは阿求の下から去った。

今度は菓子の一つや二つを持ってこようと考えながら。







































ダンは久しぶりに人里の方に顔を出していた。

それは昔の知人達の挨拶回りだった。

長い年月訪れなかった事もあり人里も大分変わっていた。

かつての若き青年達は年を取り、老人達は皆逝ってしまった。

よく通った道もがらりと変わり、同じ場所とは思えないほどに変容した。

馴染みの店もほとんどが代替わりしていた。

それでも自分の事を覚えていた時は素直に嬉しかった。

だがそれ以上に嬉しかったのは昔と変わらずにいる友人達だった。

例えば――――――



「慧音先生がまた来たぞ~!」

「きゃー逃げろー」

「キモられるぞー!」

「ええいお前達!待て!待たんか!特に太助!お前はまだよく分かってないようだな!きついの一発いくからな!覚悟しとけ!」



教え子と追いかけっこをする上白沢 慧音は相変わらず元気そうだった。



「相変わらず元気そうだな、慧音よ」

「うん?ダン?ダンじゃないか!いやぁ久しぶりだな!」

「お前と会うのは追いかけっこの最中が多いな。いや、結構結構」

「う・・・面目ない」

「お前の頭突きは変わらず響きそうだな。だがやり過ぎてはいかん。頭がどうかなっては元も子もないからな」

「分かってはいるんだが・・・どうしてもな」



慧音は顔を赤くし恥ずかしそうにポリポリと自分の頬をかく。



「妹紅も元気か?」

「いつも通り元気に喧嘩中だよ」

「仲良く喧嘩しな・・・か。あいつ等にピッタリの言葉だな」

「ハッハッハッ!確かにな。どうだダン?また今度授業をしてくれないか?お前は教えるのが上手いからな。
 確か教師をやっていたんだったな?」

「正しくは大学の教授だ。それも随分前になるがな。・・・それで?お前達はどうなのだ?」

「何の事だ?」

「妹紅との仲だよ」

「なななななななななななな何何何をいいいいい言って言って言っているのかかかかなああ?」



慧音の顔から蒸気が出る。

ポォーッ!と音を出して。



「・・・・・・やれやれ、そちらも変わらずか」

「おまおまおまお前が何を言いたいのかわわわ分からないな!」

「まあ・・・・・・頑張れよ」

「ちょっと待て!何処へ行く!そのまま帰るんじゃない!待て、待つんだ!待ってくれぇぇぇぇぇ!」



ダンは苦笑を浮かべてその場を去り、慧音は苦悩して頭を何度も近くの岩にぶつけて砕いた。

その後、一人の少年がそのとばっちりを喰らうことになったそうな。








































「おや?ダン様じゃないですか?」

「藍か?買い物か?」

「ダンしゃま、こんにちはです!」



人里巡りの最中にダンはお使い中の親子に出会った。

――――――これもう親子でいいよな?



「橙だったな。藍と一緒にお使いか?」

「はい!そうです!」

「いいぞ橙。ちゃんと挨拶が出来たな。でへへへへへへへへ」



そう言って藍は自分の式をこれでもかと撫でる。

顔がもうにやけっぱなしである。



(・・・式は何処か主に似ると言うが・・・つまりそれは・・・)



ダンは今の状況を紫と藍に変えて想像する。

老人想像中・・・



――――――紫しゃま!お使い出来ました!

――――――ああもう!可愛いわ藍!本当に良く出来たわ!さすが私の式ね!ぐへへへへへへへ。



「・・・・・・・・・・・・ぷっ」



口元を隠して吹き出す。

――――――ぷって笑ったよこのジジイ!



「あれ?どうかしましたかダン様?」

「気にするな・・・・・・気にする・・・・・ク、ククク」



どうやらツボに入ったようである。



「さ、さあ。早く行った方がよいのではないか?・・・クク」

「ああ、そうだ!早くしないと油揚げが!それでは失礼します!さあ、行くぞ橙!」

「ダンしゃまーさようならー」


藍は颯爽と駆けて行き、橙は笑顔で手を振ってダンと別れた。



「やれやれ本当に元気だ・・・・・・ふむ」



ダンはもう一度先の想像を思い返す。

老人想像中・・・



――――――紫しゃま~。藍ももっと頑張って、紫しゃまの御役に立てるようになりたいです!

――――――らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!もうなんて可愛いのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!



「ク、クククク、クハハハハハハハハ!い、いかん。は、腹が。ぐ、げふぁ!がっはぁ!ごほっごほっ」



魔法使いが腹筋を崩壊しむせている時、どこぞの妖怪はくしゃみが止まらなかったそうな。







































ひとしきり笑った後、ダンは人里を離れ家路に着こうとした。



「やあ、年若い魔法使いの爺さん。元気にしてるかい?」



そう言ってダンを呼び止めたのは小さな酔いどれ大将、伊吹 萃香だった。



「お前か・・・萃香。飲みにでも誘いに来たか?」

「約束しただろ?ささ、飲んで飲んで」



そう言って萃香は自慢の伊吹瓢を突き付ける。



「自分の杯が無いのだが・・・」

「別にそのままでもいいじゃん?」

「いやしかし」

「なんだよー私の酒が飲めないってかー!?酷いじゃないか、前の宴会だってそうだったしーそんな寂しいこと言うなよー」

「分かった分かった・・・まったく」

「それでいいんだよ♪年長者の言う事は聞くもんさ。ほい」



ダンは伊吹瓢を受け取りグビリと飲む。

鬼の酒は五臓六腑をジリジリと焼くように染み渡る。



「・・・相変わらずきついな」

「どうだい?久しぶりにじっくり味わう鬼の酒は?」

「きついな・・・だが、懐かしいきつさだ」



二人は近くの岩場に座り込む。



「よっと・・・そう言ってもらえると嬉しいよ。鬼の酒の味が分かる奴は少ないからね」

「アブサンやスピリタスを飲んで平気な者でなければ、美味いと思うのは無理だろうがな」

「なんだいその酒は?」

「アブサンは中毒性のある酒で悪魔の酒とも恐れられた酒だ。そのまま飲むにはコツがあってな。舌に触れさせずに一気に飲む。
 他にはカクテルの材料にしたり、角砂糖に垂らして食べるというのもある」

「へぇ、スピリタスは?」

「恐らく、人間が造れる世界最強の酒だ。あまりにアルコール度数が強すぎて、飲む時は火気厳禁の注意が必要だ。
 そのまま飲む酔狂な人間はまずいないだろう・・・私はその少数派だがな」

「美味そうだね。今度持って来てよ」

「機会があれば・・・な」



ダンはまたグビリと呑んで伊吹瓢を萃香に投げて渡す。



「よっと・・・・・・ぷはぁ、久しぶりに会う友との酒はまた格別だね」

「本当に・・・そうだな」



ダンはしみじみと頷く。



「・・・・・・年寄りの悪い癖だ。昔は良かったなどと思うのはな」

「私等の楽しみだろう?仕方ないさ」

「・・・・・・それもそうだな」



二人は笑いあって同意する。



「本当にね・・・昔は良かったよ。私等鬼に正面から戦いを挑む人間が沢山いたもんさ。
 でも時代が進んで、人間は卑怯な手段で戦うようになっていった」

「それが人間の強さだからな。力の弱い者なりに、お前達と戦おうとする手段を見つけたのだよ」

「まあね。まあ、騙まし討ちや嘘を吐いて戦うのはあまり感心はしないけどね」

「私は正にそういう者だからな。耳が痛いよ」

「にゃはははは!そうだったね。でも最低限のルールは守るだろう?それならいいさ。ほい」

「おっと・・・・・・ふぅ、そう言ってくれると、少しは救われるよ」



また渡された伊吹瓢から酒をかっ食らい、ダンは少し顔を赤くする。



「今じゃあ卑怯な手段で戦うどころか忘れられちゃったからね。
 そう考えると、騙しても嘘吐いてもいいから私等と戦ってほしかったね。そう思うよ」

「確かにな・・・・・・寂しいものだ」

「随分前、幻想郷が出来る前かそこら辺の時に人間達が攻めて来たことがあってさ。・・・・・・これ前にも話したっけ?」

「忘れたな。酒も入ってるし、思い出せん。話してくれ」

「へへへ、あいよ。あれは妖怪の時代の真っ只中だったけど、少しずつ幻想が消えていった時でさ。
 それで妖怪退治専門の連中が焦ってね。このままじゃ自分達も消えちゃうって思ったんだってさ。
 そうなるぐらいならいっそ戦って散ってやろうって。そんで戦いを仕掛けたんだって」

「ククク、傍迷惑な連中だな」

「でもね、凄く楽しかったよ」

「だろうな。それで?」

「騙まし討ちに罠にとガンガンやってきたよ。清々しい程にね。でもすぐに終わっちゃった。」

「最後は・・・どうなったんだったかな?」

「敵の大将格が最後デカイ花火なって大勢巻き込んで終わり。私達が一応勝ったけど、全然そんな気は起きなかったね」

「試合には勝った。が、勝負には負けた・・・そんなところか」

「そうだね・・・あれは本当に楽しかったよ。みんな笑顔でさ。まるでお互い命を懸けて遊んでるみたいだったよ。
 もう一度・・・あんな喧嘩がしたいね」

「いにしえの、喧嘩想いし、子鬼かな・・・か」



萃香の寂しそうな顔を見て、つい自分でも出来の悪いと思う川柳を詠んだ。

酒が回ったせいだろうか?



「なんだいそれ?そのままじゃないか。センス無いね」

「ではどう返す?」

「・・・・・・叶うのならば、もう一度だけ・・・かな」

「そのままだな」

「そのままさ。だからそのままで返したよ」

「ククク、なるほどな」



そのまま。

萃香は自分の気持ちを正直にそのまま言った。



「叶うといいなその願い・・・それ」

「ほいっと。ありがとう」

「さて、これで終わりにしておこう」

「そうかい?それじゃ」



萃香は最後に一気にグビリと飲む。

そして瓢箪の飲み口に残った一滴も、美味そうにぺロリとなめるように飲んだ。



「美味しかったぁ。でももう終わりか。残念だね」

「どんな事でもいつかは終わるさ。だから楽しいのだろう萃香」

「まあね。でも終わっても次があればもっと楽しいけどね」

「次か・・・確かにな。次があるのはとても楽しい。今でははっきりそう思えるよ」

「なんか良い事あったのかい」

「ああ。次に飲む時は、それを肴に飲もうじゃないか」

「いいね。約束だよ」

「ああ、約束するよ萃香。必ず守るさ。お前の嫌いな嘘にはしないよ」



二人はゆっくりと立ち上がる。



「久々にお前とじっくり飲んだな。美味かったよ」

「こんなに可愛い子鬼と飲んだんだから当然でしょ」

「そうだな。礼に頭を撫でてやろう」



ダンは萃香の頭をワシワシと強く撫でる。



「痛てててて!やり過ぎだよ!」

「撫でやすい位置にあるお前の頭が悪い。そうだ、頭が悪い」

「それはチビって意味かい!しかも後半は意味が違うよね!」

「さて?酔っているから分からんな?」

「この狸爺!・・・ハハハハハハハ!変わらないね。安心したよ」

「お前もな。・・・いや、不変のお前が変わる事はないか。だからお前を見ると、どこか安心する。一人じゃないと、安心する事が出来る」



ダンの撫でる力が優しくなる。



「そりゃね、残されるのは寂しいからね」

「・・・まったくだ」

「そんな寂しい顔するんじゃないよ。いざとなったら、ちゃんとあんたを攫ってやるからさ」

「ありがとう・・・古き友よ」



ダンは頭から手を離す。



「あらら、残念。意外と気持ち良かったのにね」

「お望みとあらばいつでもやってやろう。・・・皆の前でな」

「そりゃ勘弁!ハハハハハハハハ!」

「ふふふふ、分かってるよ。それじゃあな萃香」

「じゃあねダン。またね!」



ダンと萃香はそう言って別れた。

今夜は良い夢が見れるだろう。

魔法使いは別れ際にそう思った。






































・・・・・・まあ、色々と言いたいことはあるでしょうね。

カオスな電波のせいでこうなってしまいました!

本当に私ってばしょうもないこね~。

そんな私ですが、最近思うことがあります。

そろそろArcadiaに、東方板出来ないかな~なんて思ったりなんかしちゃったりなんかして。

それでは!



[21723] 第八話 その者は偉大な魔法使い
Name: 荒井スミス◆47844231 ID:d86d6c57
Date: 2010/09/13 21:23






霧雨 魔理沙は半ば日課になっているように博麗神社に来て暇を潰していた。

そして博麗 霊夢もまたそんな魔理沙を相手に暇を潰していた。

二人は暇だった。

限りなく暇だった。

暇で商売が出来るなら大儲け出来るくらいに暇だった。

だがそんな旨い話があるわけもなく、二人はのんべんだらりと縁側で過ごしていた。



「なあ霊夢。なんか面白いこと、ないかな?」

「あったら真っ先にやってるわよ魔理沙。っていうかさっきからずっとこのやり取りじゃない」

「あーあ、ダン爺でもいればなー。色々話が聞きたいのに」

「あの口の悪い魔法使いの爺さんの事?そういえばあれっきり姿を見せないわね」

「こんなことなら何処に住んでるかくらい聞いときゃよかったぜ。そうすりゃ暇なんてしなくてすんだのに」

「それは残念ね。あんたにあの爺さんの魔法でも覚えてもらって私の役に立ってもらおうと思ってたのに」

「覚えたくてもその本人がいないんじゃどうしようもないだろ?あーあ、ひょっこり現れないかな」

「紫じゃあるまいし、そんないきなりひょっこり出て来るわけないじゃない」

「その通りだ。私はあいつみたいに気味の悪い悪趣味な登場なんかせん」

「そうそうあんな気味の悪い、って」



魔理沙と霊夢は声のした方を恐る恐る見る。



「どうした?そんな河童が胡瓜を食べそこなったのを知ったような顔をして?」

「「ギャアーーーーーーーーデターーーーーーーーッ!」」







































「何故あんなに驚いたのだ?普通に正面から来ただけなのに。確かに黙って来たのは悪いとは思ったが、玄関で返事が無かったんだ。
 仕方が無いだろう?それなのにいきなり攻撃を仕掛けるのは酷過ぎやしないか?」

「いや、だってあんなにさも当然に何時の間にか話に加わってたら誰だって驚くわよ」

「そうだぜ!あんな登場なれてないんだから」



いきなりの登場は二人とも紫でいくらか慣れてはいたが、ダンのように普通に入ってくるのには慣れていないようである。

――――――それでいいのか、幻想郷の住人よ。



「二人とも、悪い事をしたと思うのなら反省するべきだな。
 ・・・でなければ、紫が泣いて止めてくれといった私の仕置きを受けてもらうが?」

「「申し訳ありませんでした。以後気を付けます」」



ダンの底知れぬ気配に二人はすぐさま土下座して謝った。

――――――このジジイ・・・・・・出来るッ!



「まあ、よしとしよう。長い説教は私自身嫌いでな。それで二人とも、私の話をしていたが何か用事でもあるのかね?」

「いや、退屈だからダン爺の魔法知りたいなーって話をな」

「やれやれ、退屈しのぎに私の魔法が知りたいのか?」

「いいじゃない。別に減るもんじゃなし。私としてはあんたがどうして此処にいるのか聞きたいのだけど?」

「お前達と話をしようと思ってな。この通り土産の甘味も持ってきている」

「ゆっくりしていってね!今お茶でも持ってくるわ!」



そう言って霊夢はルンルンと台所に引っ込んだ。

あの時阿求に会って、持っていった方が良いかと思って持ってきたのは正解だったようである。



「お待たせ!それじゃさっそく頂きましょう!」

「早いなおい」

「それで♪何持ってきたの♪」



霊夢の豹変っぷりに驚き、ダンは若干引いてしまう。



「いや、その、とりあえず何が好きか分からなかったから羊羹とショートケーキを」

「なん・・・ですって・・・羊羹・・・ショートケーキ!?」



霊夢に電流走る。

ダンが取り出したのは幻想郷ではあまり見ない紙の箱とビニール袋。

霊夢はダンの持っていたものを神速の速さで取り中身を確認する。



「栗羊羹に・・・苺のショートケーキですって!しかも、しかも二つずつだと!」

「そこまで、驚くことか?」

「いや、あいつ生活厳しいから」

「大変だな・・・」



ダンは帰りの賽銭は多めに入れようと思った。

そして後日、霊夢は賽銭のその多さに狂喜乱舞することになる。



「それでダン爺、一体何の用があって此処に来たんだぜ?」

「いや、先にお前さんの話を聞こう。私のはそこまで大事というわけでもないしな」

「じゃあさじゃあさ!さっきの魔法何だったんだ!?私等の弾幕を反らしたやつ!」



霊夢と魔理沙がうっかり放った弾幕。

それをダンはその放たれた弾幕を反らしてみせたのだ。

しかも特に呪文を唱えるでもなく、特殊な動きをしたわけでもなくだ。



「あれはただ力の流れを少し反らしただけで、そんな大した魔法ではない」

「いや、でもダン爺ほとんど何もしなかったじゃないか」

「何もしなかったわけではないのだがな。ただ無詠唱で魔法を使ったにすぎん」

「そんな事が出来るのかダン爺!?なんの仕込みも無しに!?すげぇな!」

「本当ね。そんなこと出来るんだ」

「難しいことはない。ただ呪文を頭の中で唱えるだけの事だ」

「いや、普通はそれだけじゃ魔法は簡単に発動しないだろ?」

「ふむ、それを説明すると少しばかり長くなるが、二人とも構わないかね?」



二人はコクコクと頷く。

魔理沙は好奇心から、霊夢は暇よりかましかとの思いからだった。



「よろしい。ならば講義を始めよう」



ダンはそう言って二人に魔法の講義を始めた。



「まずは例え話からだ。これはある男が言っていたことで、私が一番分かりやすいと思った例え話でな。
 その男は発動した魔法を一つの絵に例えたのだ」

「絵?そりゃまたどうして?」

「その男はこう言ったのだ。魔力等は絵の具であり、呪文や魔方陣等は絵を描く為の技術だと。
 そしてそれを世界というキャンバスに描き完成する事で、魔法が発動するのだとな。」

「まあ、分からなくはないわね。それで?」

「私の無詠唱は今言った事で言うと絵を描く為の技術に当たる。魔法等の技術はイメージや暗示が大きく関わってくる。
 呪文や魔方陣はそれをより強く明確にする為のものだ。だが、そのイメージが最初からそれを必要としなくなるほど強かったら?
 画き上げる絵を最初から細部まではっきりと思い描くことが出来たらどうかね?答えは簡単だ。
 呪文や魔方陣はたとえ簡略化しても、簡略化する前と同じ効果で発動する。
 そしてイメージがより強くなれば、呪文や魔方陣を用意する必要は無い。
 それらは全て自らの中にあり、それを取り出すだけで事足りるからだ」

「そりゃ・・・すげえけど、言うほど簡単じゃないだろう?」



ダンの説明は言うのは簡単だが行うのは相当難しい。

魔理沙はそれをダンに指摘した。



「その通りだ。私もこれ習得するのに長い年月を、そうだな、大体二百年ほど掛かったな」

「うえ、二百年かよ・・・」

「もちろん二百年全てその習得の為に使ったわけではないがな。それでもやはり習得するのが難しいのは変わらない。
 だが、私はこれを習得して更にその上の段階を見つけることが出来た」

「なんだぜ?その上の段階って?」

「思考の高速化と並列思考の数が更に上がったのだ。
 つまり、普通より速くものを考えることが出来、一度にいくつもの思考をする事が出来る。
 高速思考と並列思考事態の技術は元々普通にあったものだが、私のそれは通常のそれとは正しく次元が違うのだよ。
 そしてそれによって生まれた多重魔法、つまり一度に多くの魔法を重ね合わせ更に強大な魔法を行使することだ。
 それで私は通常の魔法使いが到達できない位階へと至ることが出来たのだ」



二人はそれを聞いて素直に感心する。



「はあ、なんかもうすげぇとしか言いようがないなそれ」

「なんか便利そうねそれ。でも私はいいかな、そんなのなくても。あっても普段の生活にはさほど必要ではなさそうだし」

「私は欲しいぜ。それが出来りゃもっと凄い魔法を使えるんだからな」

「使えるようになりたいか?」

「そりゃな。でも、私に出来るかな・・・」



そう言った魔理沙の顔は若干しょぼくれていた。

霧雨 魔理沙には秀でた魔法の才はない。

普通の人間以上の力はある。

だが、言ってしまえば普通の人間以上の力しかない。

だから彼女はその才能を努力で補おうとした。

しかしその力は隣で茶を啜っている霊夢には未だ遠く及ばない。

博麗 霊夢という天賦の才を持つ彼女にはまだ届かないのだ。



「魔理沙よ。お前の事は少しばかり調べさせてもらった。お前の魔法使いの才能を、私なりにな」

「ッ!?そう、なのか?・・・それで?」

「正直な感想を言っても良いかな?」

「・・・ああ、頼むぜ」



魔理沙はゴクリと唾を飲み緊張した面持ちになる。

そんな魔理沙に、ダンはあっさりといった感じで告げる。



「では、言わせてもらおう。魔理沙、お前に魔法の才能は無い」

「ッ!?・・・・・・そう、か」

「・・・・・・・・・・・・」



その言葉を聞いて魔理沙は体をビクリと強張らせ、悲しそうな、そして悔しそうな表情になる。

霊夢はダンを若干強く睨みつける。

親友であるこの魔法使いが陰でどれだけ頑張っているか分かっていたから。

だが、ダンの次の言葉は予想外のものだった。



「そう、魔法の才能は無い。だからこそ私は驚いている」

「・・・・・・・・・え?」



ダンのその言葉を聞いて、魔理沙は困惑する。

それを聞いている霊夢も同様のようだった。



「魔理沙、お前はここ最近起こっている異変ほぼ全てに関わりそれを解決しているようだな」

「でも、全部一人でってわけじゃ」

「もちろんお前だけでないのは知っている。だが異変を起こしたのは全てお前以上の力を持つ存在達ばかりだった。
 スペルカードというルールこそあるが、それでもお前は立ち向かった。自分よりはるかに格上の存在に」

「ダン爺・・・」

「周りが自分よりはるかに強い者、才能のある者がいる中で、お前はそれでも諦めなかった。
 才能の無い者がそこにいれば、普通は諦めてしまうものなのにだ。
 ・・・・・・魔理沙、私はお前に一つ教えたい。いや、是非聞いて欲しいことがある」

「・・・何だダン爺?」

「私がお前と同じ年の頃、私はお前以上に才が無かった。力が無かったのだ」



この魔法使いが私以上に才能が無かった?

魔理沙はダンの言ったその言葉が信じられなかった。



「そんな、嘘だろそんなこと?才能が無いのにどうやってそこまで」

「努力したのだ。長い長い時間を掛けて。そして此処まで来た。魔理沙いいか?才能が無いのであれば創ればいい。
 力が及ばないのなら鍛えればいい。知識が足りないのなら学べばいい」

「・・・・・・・・・」

「お前と同じ境遇で私に同じように出来たかと言えば・・・恐らく無理だろう。だからこそ魔理沙。私は、お前を尊敬する」

「・・・う・・・ぐす・・・うう」




















「お前は知識も力も未熟だ。だがその心はすでに、偉大な魔法使いのものだ」





















「う、あ、ああああ・・・」



今まで何度諦めようと考えたか。

投げ出してしまおうと考えたか。

それでも諦めなかった。

決して投げ出さなかった。

けれど報われないことがほとんどで、失敗ばかりだった。

思うようにいかなかったことばかりだった。

それでも逃げなかったのは魔法が好きだったから。

それでも不安だった。

自分の努力が報われるのだろうかと。

自分の夢は叶うのだろうかと。

嬉しかった。

目の前の偉大な魔法使いに認められた事が嬉しかった。

自分の努力を、魔法を、夢を認められた事が、嬉しかった。

だから、泣いた。

自分を認めてくれたその言葉が本当に嬉しくて。

辛かった思い、悔しかった思い、悲しかった思いが涙と一緒に流れていくようだった。



「お前は本当に素晴しい魔法使いだ。お前に出会えた事は、私にとって掛け替えの無い奇跡だ」



ダンは魔理沙の頭をそっと撫でた。

この小さな半人前の魔法使いが愛しかった。

思えば、今までこんな感情は生まれて初めてだったかもしれない。

だが・・・不愉快ではなかった。

むしろずっとこのまま、この未熟な魔法使いの頭を撫でていたいと、そう思った。

霊夢はそんな二人をただ黙って、優しく見守っていた。






































それからまた少し時間が経って、ダンは家路に着くことになり、みんなは見送りのため境内に場所を移していた。



「それでは、そろそろ帰るとするかな」

「あらそう?もっとゆっくりしていってもいいのに」

「そういや、ダン爺って何処に住んでるんだ?」



そうダンに尋ねる魔理沙の目は少し赤くなっていた。

あれから二十分程ずっと泣いていたためだ。



「お前と同じ魔法の森だ」

「え?魔法の森は詳しい方だけど、一体何処に住んでるんだぜ?」

「森の奥の方の瘴気の濃い所に住んでいる」

「ってことは・・・あそこか!?まさかあの瘴気の中で暮らしてるなんて・・・やっぱ凄いな」

「その分静かで研究に集中出来る」

「・・・・・・なあダン爺、聞いていいか?」



魔理沙は胸の中にあった疑問をダンに投げかける。



「何だ、魔理沙?」

「どうしてダン爺はそこまで私によくしてくれるんだ?」

「それはな魔理沙、お前はかつての私の、いや私達魔法使いの姿そのものだからだ」

「どういう事なんだぜ?」

「お前が味わった苦労。またこれから味わう苦労は、かつての私達が味わったものだ。そしてお前はそれにめげることなく生きてきた。
 そんな姿に、私はかつての自分を見ているようだったんだ。忘れてしまったかつての自分を。
 忘れていた昔の自分を、思い出すことが出来た。
 だからだろうな、お前を応援しようと思ったのは。頑張れと、背中を押したくなったのは」



ただ我武者羅に頑張っていたあの頃の自分。

それと同じように頑張る彼女。

頑張れと応援せずにはいられなかった。

何故なら目の前ので頑張るのは、あの頃の自分なのだから。



「そして恐らく、あの人形遣いと魔女も同じ想いだろう。
 あの二人、口ではああ言っていたが、お前に甘いのはよく分かった。お前はそういう意味では本当に恵まれているな。
 もし今度会うような事があれば礼を言うといい。今のお前があるのも、あの二人の御蔭だろうからな」

「ちょっと気恥ずかしいけど・・・ダン爺がそう言うなら」



少し顔を赤くしてなんだか恥ずかしくなり、つい帽子を目深に被り顔を隠す魔理沙。

そんな魔理沙をダンは、仕方のない奴めといった感じで穏やかな苦笑を漏らしながら見る。



「そして、私でよければいつでもお前の力になろう。お前がその気持ちを持ち続けているならば、きっと私以上の魔法使いになれる」

「ああ、いつかきっとなってみせるぜ!ダン爺以上の魔法使いに、必ずな!」



ダンのその言葉に、魔理沙ははっきりと答えた。

必ずなってみせると、宣言した。



(本当に、見てみたいものだな。お前の成長したその姿を)



彼女ならきっと自分を超える魔法使いになる。

ダンにとってそれはもう半ば決定事項になっていた。

その時彼女はどんな魔法を見せてくれるのか。

――――――本当に見てみたいと、そう思った。



「まあもっとも、相当苦労する教え子になるだろうけどね」



霊夢はそう言って魔理沙を茶化す。

魔理沙ばかり褒められて、ちょっとだけ悔しかったという訳ではない・・・はず。



「あ!言ったな霊夢!」

「ははは、構わんさ。これでも教鞭を取っていた事もあってな。教え子の中にはそれはもう厄介で苦労させられたのも多い」

「へえ、例えばどんなのがいたの?」

「終始暴走して爆発していたような奴がいてな。
 問題児ではあったが、その考えは実に独創的で、私では考えつかないような事が出来る面白い奴だった。
 一言で言えばマッドサイエンティスト。お前達に分かりやすく言うなら、常に暴走して爆発する河童みたいなものだな」

「うわ、物騒な奴もいたもんね」

「まあ、手が掛かる分面白い奴だったよ」

「へへ、じゃあ私も安心してダン爺に迷惑を掛けられるな!」

「そういうことだ。遠慮することなく、迷惑を掛けるがいい」



魔理沙の皮肉にそう返すダン爺。

それはまるで、仲の良い祖父と孫のようだった。

――――――私は、ただそれを羨ましく見ていた。



「さて、ではな二人とも。・・・また、近いうちに会うことになるだろう」



ダンはそう言って黒い風を起こしたかと思うと、影も残さずその場から消えてしまった。



「行っちゃったわね」

「そうだな・・・なあ霊夢」

「なあに魔理沙?」

「今日の事はその、誰にも言わないでくれよ」



魔理沙は顔を赤く染めて霊夢に言った。

まさか親友の目の前でわんわん泣くことになるとは思わなかったのだ。



「さーて、どうしようかしらね?」

「ちょ、霊夢!」

「あの天狗あたりに教えればそれなりに謝礼が貰えるかしら?」

「た、頼む霊夢それだけは!」

「それとも、霖之助さんにでも・・・」

「わぁーーーッ!後生だからそれだけは!」

「冗談よ冗談。あんまり可笑しいもんだからちょっとからかっただけよ」

「か、勘弁してくれよ霊夢ぅ」

「ふふふ、あの爺さんの口の悪さが少しうつったのかしらね」

「ああ・・・確かにありそうだな」

「さ、戻りましょ。まだ御土産残ってるしね」

「そうだな。そうするか」



そうして二人は神社の中に戻っていった。



(そういえば、一体何の用事だったのかしら?・・・ま、いいか♪)



霊夢は軽い足取りでまだ手を付けてない苺のショートケーキの下へ戻っていった。










































安西先生・・・感想が欲しいです・・・喉から手が出るくらい!

と渇望する荒井スミスです。

今回はダンが魔理沙を大事に思っている理由を明かしました。

ダンにとって魔理沙は昔の自分であり、そしてある意味憧れの対象なのです。

そして魔理沙にとってダンは目指すべき目標の一つであり、いずれは超えるべき壁の一つでもあります。

・・・俺、爺さんカッコよく書けてるかな?どうかな?

それでは!



[21723] 第九話 大魔導師を語る者達
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/10/05 17:44





アリス・マーガトロイドは今、久しぶりに自らの故郷である魔界にいた。

あの宴会の席で会った魔法使い、ダン・ヴァルドーの事を尋ねに神綺に会いに来たのである。

決して久しぶりに神綺に会って、ちょっと親孝行でもした方がいいかな?なんて考えはこれっぽっちも無いのである。

これっぽっちも無いのである。

・・・ちょっと位しか、無いのである。

神綺は久しぶりに会ったアリスをたくましいアホ毛をブンブン回して喜んで迎えた。

そんな神綺を、彼女に仕える魔界の長女的存在のメイド長の夢子は呆れながら見ていた。



「アリスちゃん久しぶりね!連絡くれないから私寂しかったわ」

「申し訳ありません神綺様。次からはもう少し連絡するように」

「もうアリスちゃんったら、私のことはお母さんって言って!」

「いやでもそういう訳には」

「もう、お母さんって言ってくれなきゃ嫌ッ!」



そう言って神綺は頬をぷくっと膨らませ、たくましいアホ毛と一緒にぷいっとそっぽを向いた。

こんな仕草をする人が魔界の神なのかとアリスは内心苦笑するしかなかった。



「アリス。こう仰っておられるのだから、お母さんって呼んであげなさい」

「夢子姉さんまで・・・分かったわよ。ほら、お母さんこっち向いて」

「ふふふふ、もう。やっとお母さんって言ってくれたわねアリスちゃん♪」



神綺は、アリスを優しく抱きしめた。

やはり愛娘には様付けで呼ばれるより母と呼ばれる方が嬉しいのだろう。

神綺は本当に嬉しそうに笑っていた。



「お母さんったら、私はもう子供じゃないのよ」



そんな神綺と違い、アリスはどうにも恥ずかしい気持ちが出てしまう。

母親のその気持ちは本当に嬉しいのだが、大きくなるにつれて、その想いは素直に出てくるのが難しくなってきた。

素直だったあの頃の自分が今では羨ましく感じた。

そんなアリスの想いを感じたのか、神綺は諭すようにアリスに言う。



「そうは言うけれどねアリスちゃん。親にとって子供はずっと子供なのよ。
 貴女がどれだけ大きく立派になっても、貴女は何時までも、私の大事な大事な愛する娘なのよ」

「お母さん・・・」

「さ、夢子ちゃん。お茶の用意を」

「もう済ましてあります。後は始めるだけです」

「さすが夢子ちゃんね♪さあ、行きましょうアリスちゃん」






































「それでアリスちゃん。私に何か聞きたい事でもあるの?」

「分かるのお母さん?」

「お母さんですから♪それで何が聞きたいのかしら?」

「お母さん。ダン・ヴァルドーって魔法使いを知ってる?」



その名を聞いた途端、神綺は飲もうとした紅茶を口元で止め、表情は若干厳しいものに変わる。

夢子の方もダンの名前をアリスの口から聞いて目を大きくして驚いていた。

そんな二人にアリスは驚きを隠せないでいた。



「お母さんどうしたの?そんな顔して?」

「アリスちゃん・・・あの人に会ったの?」

「え、ええ少し前の宴会の時にちょっと・・・」



アリスは不思議そうにそう答える。

こんな二人を見るのは初めてだった。



「そう・・・あの人も宴会なんて行くのね。それで、彼の何を知りたいの?」

「聞いたのよ。昔、お母さんに勝ったって。お互い全力で戦って。それ本当なの?」

「・・・ええそうよ。でもちょっと違うわね」

「どういう事なの?」

「彼が戦ったのは私だけじゃないの。彼は魔界そのものを相手に戦って勝ったのよ」



アリスは神綺の予想以上の驚くべき答えに絶句する。

神綺が言ったのは、ダンが教えた事以上の事実だったからだ。



「そんな!いくらなんでもありえないわ!そんなことして勝てるわけ・・・いえ、そもそも生きていられるはずが」

「正確には彼の策略にまんまと落ちて、と言った方が近いですね」

「そう・・・そうね。夢子ちゃんの言う通りね。
 彼はねアリスちゃん。まず魔界にいるほとんどの住人から魔力そのものを奪って戦えなくしたのよ。
 もっとも、魔力を奪われたのはそこまで強くない魔界人ばかりだったわ。
 だけど、それで私達は大きく混乱したわ。いきなり魔力を奪われたんですもの。彼はその混乱に乗じて一気に私達に攻め入って来たの」

「それだけじゃありません。彼は普通に正面から戦っても強かった。あの時の私は彼に全く手も足も出ずに拘束させられた。
 あからさまに手を抜いていたのに、戦闘にすらならなかった。
 そもそも私達とは戦闘の経験からして差がありすぎる。いやあれは質そのもの、密度自体違い過ぎた」



苦々しい顔で夢子は話した。

あの時、こちらの攻撃は全て彼の魔術によって無力化された。

戦闘自体も一分すら掛かることなく終わった。

相手の実力と、自分の未熟さをこれでもかと痛感させられたあの時の悔しさは今でも忘れられなかった。



「そして私と戦った。本当に強かったわ。いくら策を練っていたといっても、私の下に来るまでやはりいくらか消耗していたわ。
 それでも彼は戦ったわ。私もいきなり攻めて来られて頭にきて、彼を殺そうとしたわ。それこそ全力でね。
 でも結果、私は負けてしまった。それもそうね。私は全力で戦ったけど、心のどこかで彼のことを甘く見ていた。
 それに対して彼は全身全霊で立ち向かってきた。今思えば、それこそが最大の敗因ね」



あの時の戦いは、言うなれば量対質の戦いだった。

自らの膨大な魔力を振るう神綺と徹底的に磨き上げた業を振るうダン。

どちらが勝ってもおかしくない戦いだったが、結局軍配はダンに上がった。



「そんな・・・そんな事が」

「あったの。本当の事よ。・・・ねえ、アリスちゃん。何故彼が攻めて来たか分かる?」

「分からないわよ・・・そんな事」

「私の持つ知識を知る為だとしても、何故攻めて来たか?どうして話し合いをしなかったか分かる?私は彼に言ったわ。
 どうしてこんな事をしたのか?どうしてそうしなかったのかってね。そしたら彼、なんて言ったと思う?」

「・・・・・・」

「彼はこう言ったの。「自分の持つ業がどこまで通用するか試したかっただけだ」・・・そう言ったのよ。
 それを聞いて私、怒りを通り越して呆れて大笑いしちゃったわ。だってそれだけの為に魔界に喧嘩売ってきたのよ。
 もう可笑しくって可笑しくって。・・・彼は自分に戦いを仕掛けてきた他の子達を、怪我をほとんどさせずに無力化した。
 もし、彼がその子達を殺していたら、私はそんな風に笑わなかったでしょうけど」

「無力化した理由も、殺すより難しいからあえてやったと言っていました。殺すのは、やろうと思えば簡単に出来たと」

「夢子ちゃんそれが悔しくてもっと強くなろうって頑張ったのよね。次は絶対に勝ってやるって」

「神綺様!それは言わないで下さいよ!」

「ゴメンゴメン。でもそうやって今の夢子ちゃんがいるわけでしょう?私はそれについては彼に感謝しているわ」



事実、夢子はダンに負けてから血の滲むような特訓をした。

時には神綺や、戦って負けたダンに頭を下げて鍛えてもらいもした。

その努力の結果、夢子の実力は神綺に次ぐものになったのだ。



「でも、それなら何で最初名前を聞いた時にあんな顔をしたの?」



出会いはどうあれ、今はそこまで酷い関係という訳ではなさそうだ。

それなのにどうして先のような表情になるのか。

アリスの問いに、神綺は気まずそうに答える。



「それは、えっと、その、ね」

「何?また何かあったの?」

「いやその、彼、口が悪いじゃない?だからどうしても苦手なのよね」



友人として会うようになってからが本当の戦いだった。

彼の毒舌は情け容赦問答無用で神綺のプライドやカリスマを攻めた。

やれ長としての威厳に欠けるだの、やれ従者を困らせるなだのといった説教。

それならまだいい方で、ある時は正座をさせられ説教をされた事もある。

しかもみんなの目の前でだ。

その後、シクシク泣いて枕を濡らしたのは今でも忘れられない記憶だった。



「私はそこまでは。むしろ苦労しているな、なんて労いの言葉をよく掛けてもらっていましたね」

「私の目の前でね!あれはあきらかに嫌味よ!私が腹を立てるのを楽しんでたんだわ!」



たくましいアホ毛をブンブン振り回して悔しそうにする神綺。

そんな神綺に、夢子は前から言おう言おうと思っていた考えを思い切って話すことにした。



「神綺様のムキになった反応が面白かったからじゃないですか?」

「え、何!?そんな理由でからかわれ続けてたの私!?夢子ちゃんどうして言ってくれなかったの!?」

「その、すみません神綺様。どうも言うタイミングがいつもずれてしまって」



実は夢子もそんな神綺を見て密かに楽しんでいたのは秘密である。



「・・・そこまでしないと、それほど凄い魔法使いにはなれないのかしら?」



アリスは二人の話を聞いて、そうポツリと呟いた。

自分の目的の為にそこまで出来るかと言われれば、彼女は出来ないと答えるしかなかった。

自分の夢である完全な自立型人形の作成。

それなのに、現状は上手くいかず、最近では自分にそんな事が出来るのだろうかという不安を感じてきた。

彼ほどの鋼の意思が無ければ自分の夢は叶わないのではないか?

自分の目指す夢はもしかしたら彼にとってはもう既に手に入れたものではないか?

そんな考えがアリスを捕らえ、暗い表情が段々と浮かんできた。

そんな時だった。



「ねえ、アリスちゃん?」



神綺はアリスの頭を、そっと包むように抱きしめる。

悲しい時、落ち込んだ時に何時もこうして抱き締められて感じた、この優しい暖かさが。

小さい頃によくしてもらったとても懐かしい記憶が蘇る。



「お母さん?」

「彼は彼、アリスちゃんはアリスちゃんよ。アリスちゃんの目指す道は彼とは違うでしょ?確かに彼は強いわ。心も体もね。
 彼から学ぶべきことは沢山あると思う。けどだからといって彼のようになる必要はないわ。
 貴女は貴女の、アリスちゃんだけの強さを持ちなさい。そうすれば、アリスちゃんの夢もいつか叶う日がきっと来るわ」

「・・・ありがとう、お母さん」

「いえいえ、どういたしまして」



愛娘に微笑みながら母は優しく答えた。



「ねえ、お母さん?」

「なあにアリスちゃん?」

「もう少し、もう少しだけこのままでいい?」

「あらあら、どうしたのかしらね。急に甘えだして」

「いいでしょう。だって」

「だって、何?」

「私はお母さんの娘でしょう?」

「ふふ・・・ええ、そうね」



神綺はそう言ってまた優しくアリスを抱きしめる。

小さい頃によく感じた母の匂いと暖かい温もりが、アリスはとても懐かしかった。

たまには、こんなのもいいかな。

そんな事を思うアリスと、それを心から愛しむ神綺。

夢子はそんな二人を微笑みながら見続けた。

そんな夢子はふと思う。

そもそも彼、ダン・ヴァルドーの本当の目的は一体何だったのか?

この魔界神に挑むような目的とは?

彼の夢は、一体何だったのかと。






































「思い出したわ!そうよ、そうだったわ。ああ、もう。何であの時思い出さなかったのかしら!」



紅魔館の地下大図書館でその図書館の主、パチュリー・ノーレッジはいきなりむきゅーと唸っていた。

そんな親友の豹変に紅魔館の主レミリア・スカーレットはうー☆と驚いた。



「ちょっと、どうしたのよパチェ。いきなり何を言ってるの?」

「この間の宴会に会った魔法使い。ダン・ヴァルドーの事よ!」

「ダン・・・咲夜、誰だったかしら?」

「覚えておられませんか?お嬢様がカリスマ全開で挨拶した後に、ほっぺに付いた米粒を指摘したあの老人ですよ」

「ああ、あの・・・ええ、ええ覚えているわ!私に恥をかかせてくれたあのジジイね!今はっきり思い出したわ」



それただの八つ当たりでは?と彼女の親友と従者は思った。



「それでパチェ?あいつの何を思い出したの?」

「あのダンっていう魔法使いは・・・そうね。知る人ぞ知る大物の怪物といったところかしら」

「大物の怪物、ですか?パチュリー様、それは一体?」

「古の英知を学び、新たな魔導を数多に生み出していった魔法使いダン・ヴァルドー。彼は様々な異名で呼ばれてるわ。
 大いなる神の冒涜者。命弄びし者。深遠に住まう者。暗き大魔術師。知恵を貪る男。魔法狂い。追求者。人の姿の魔王。偉大な狂気。
 ・・・・・・他にも色々な名前で言われてる、間違いなく最強クラスの魔法使いの一人よ」

「なんというか・・・悪いイメージしか思い浮かばない名前ばかりね」



レミリアはダンのそのあまりな二つ名を聞いておもわず呆れてしまった。



「そりゃそうよ。そう呼ばれる事をしてきたんだもの」

「例えばどんな事を?」

「大体は自分の研究の為におびただしい数の人間や妖怪、そして神を捕まえてモルモットにしたとか、そんなのが多いわね」

「神をモルモット、ですか。月の賢者にも匹敵しそうな悪行ですね」

「でも彼の方が非道だと思うわね。嘘か本当か知らないけど、生まれたばかりの赤子も研究対象にしてたって話もある位よ」

「それはまたとんだ大悪党、いや外道ね」

「ところがそれだけって訳じゃないのよ。彼の悪行と同じ位に彼の偉業は知られているの」

「どういう事なのパチェ?」

「ダン・ヴァルドーはそうやって手に入れた魔法の業で多くの命を救っていることもあるのよ。
 それにその手に入れた業も、それを学びたい者がいれば快く教えていたそうよ。
 自分の魔法を秘匿する傾向の者が多い昔の魔法使いからはよく異端扱いされていたみたいだけど。
 でも彼がそうやって教えた事で、より優秀な魔法使いが多く生まれたわ。
 彼を魔法使いの父とか、偉大なる祖とか、秘密の首領の使者や化身と呼ぶ人もいて、私の家系にも彼の教えを受けた人がいたのよね。
 それに外の世界の有名な魔法使い達とも親交もあったようで、あの魔術結社の黄金の夜明け団とかにも何か関係していたらしいわ」

「黄金の夜明け団ともですか。あの老人がそんな人物だったなんて。」



咲夜もその組織の名前だけなら、昔の仕事関係で教えられて知っていた。



「良くも悪くも偉大な魔法使いなのよ、ダン・ヴァルドーという魔法使いは。ああ、どうしてあの時すぐに思い出さなかったのかしら!
 噂じゃ不老不死の法やら死者蘇生の法やらの業も修めて、さらにそれ以上の何かも持っているとか!ああもう!もう!
 あの時話をもっとしていれば、私の知らないような魔法の業が聞けたかもしれないのに!」

「ああ、パチュリー様そんなに興奮するとまた喘息が」



咲夜は興奮するパチュリーをなだめるが、紫もやしはむきゅむきゅするのを止めなかった。



「・・・ねえ、咲夜一ついいかしら?」



レミリアはいつにもまして真剣な表情で咲夜にそう告げる。

咲夜も、そしてパチュリーもそんな彼女を見て真剣な表情になる。



「近いうちに何かが起こる・・・そう感じるのよ。あのダンって魔法使いを中心に」

「お嬢様、それは一体?」

「詳しい事は、私にも視えないわ。でも何かが起こるのは間違いない。それもとてつもなく大きな何かがね。
 恐らくその魔法使いが何かをするのだと思うわ。そしてもし何かあったら、咲夜。
 貴女はあいつがするその何かを邪魔してやりなさい。例えそれがどんな目的であってもよ。
 ・・・あの魔法使いが私にしたことの報いを受けさせてやりなさい」

「・・・分かりましたお嬢様」

(もっとも、ただ仕返しってわけでもないのだけどね)



レミリアは自身のその能力で何か感じたのだろう。

それだけでは終わらないことを。

これから始まる、大きな何かを。










































博麗神社では博麗 霊夢と八雲 紫が縁側で茶を啜っていた。

それはいつもの光景、いつもの日常であった。

だが、話題はいつもの話題ではなかった。



「だから魔理沙にも早くあの爺さんの魔法を覚えて役に立ってほしいのよね。主に私の為に」

「・・・ねえ霊夢。さっきからダンの話題ばかりじゃないの。嫌味?私に対する新手の嫌がらせかしら?」

「考えすぎよ紫。私にとって新しい話題がそれだってだけの話よ」

「ふうん。あっそう」



そう言って紫はツンといじけてそっぽを向く。

最近面白かったダンの話を霊夢は紫にずっと話していた。

それを聞いて紫は実に不愉快そうな顔になっていく。

もっとも霊夢も、紫のそんな珍しい顔が見ていたくてずっと話を続けていたのだが。

だがさすがにこれ以上は不味いと判断し霊夢は話題を少し切り替えることにした。



「何をいじけてんのよ?そこまで気にするなんて、あんたらしくないじゃない」

「・・・別に、そんなことは」



もちろんあった。

あの時、酔っていて自分が何を言ったのか、悲しい事にはっきり覚えていたのだ。

それを思い出すだけで今でも顔が赤くなり恥ずかしくなる。

宴会の翌日など、あまりの羞恥心に一日中布団を被って後悔したほどだ。

もちろん、絶対にそんな事は教えないが。

霊夢はいい加減紫の機嫌を治した方がいいだろうと思い、何か無いかと思案する。

そしてダンに頼まれたあの伝言を思い出した。



「・・・ああそうだ。これ言えば少しは機嫌良くなるかもね。聞く?」

「・・・何よ一体?」



紫は興味を引かれて何かと問う。

これ以上何か言おうものなら堪忍袋の中身をぶちまけてやると心に決めて。

だが霊夢の話す内容は紫の予想とは大きくかけ離れたものだった。



「あの魔法使いの爺さんからの伝言。わざわざ誘ってくれたのにすまなかったって。
 なんだかんだ言っても、あの爺さん。あんたのことちゃんと“友達”だって言ってたわよ」

「・・・それ、本当?嘘じゃないわよね!?」



身を乗り出して霊夢に問い詰める紫。

不安半分に期待半分といった表情の顔からはそれが真実であってくれという切実な想いがありありと浮かんでいた。




「嘘じゃないわよ。その必要もないしね。あの爺さん、笑いながらそう言ってたわ」

「そう・・・そうだったの」



それを聞いた紫は、少し安心していたようで、ほっとため息を吐いた。

嘘ではないという事とダンがそう言った事を知って、紫は少しだけ嬉しそうな顔になる。



「でも、でもどうして直接言わなかったのかしら?」

「なんか「面と向かってそんなことを言えるほど、若くないのだ。
 もし言ったとしても、お互い気恥ずかしくなるだけだからな」って言ってたけど?」

「それは・・・確かに」



もしそうなったら、間違いなくダンが言ったようになる。

それを想像しただけで、紫は先ほどとは別の恥ずかしさが込み上げて来る。

今までお互い憎まれ口を叩き合っていた仲だ。

今更そんな事を言うのは・・・こちらとしても死んでも御免だった。

もし言うとしても、誰かを介して言うのが限界だ。

今回の霊夢のように頼むのが精一杯だ。



「そんなに気にしてたの紫?」

「いや、その、ほんのちょっとよ。ほんとにちょっとだけね」

「あっそう。そういう事にしとくわ」



紫のこの反応は面白かったが、あんまり弄ってまた拗ねられるのも不味いと思い霊夢は意地悪を止める。

そして二人はまたしばらくぼうっとしていたが、紫が不意に話し始めた。



「あのダンっていう魔法使いは、本当に強い人間なのよ。あれの強さの大本はその意思にあるわ。
 どんな困難でも諦めないその心。彼はそれがとても強かったわ。今の外の世界はもちろん、この幻想郷にもそういる人間じゃない。
 ・・・だからかしらね。私はそんな彼が気に入ってるのよ。
 そしてもし、彼のような人間が一人でも多くいてくれたら、私達はまだ外の世界にいたでしょうにと、そう思うのよ」

「・・・・・・・・・」

「そしたら余計な争いなんてせずに、もっと多くの友人達と今でも一緒だったのにって、そう考えるのよ」



そう言う紫は遠くの方を見ながら、寂しそうな顔で笑っていた。

遠くの誰か、恐らく此処にはもういない、もしくはいられなかった者を見ているのだろう。

霊夢は紫のその悲しそうな顔を見てそう感じた。



「たまに、思うのよ。幻想郷を創ってよかったのかってね。もう少し外の世界で頑張ればよかったんじゃないかって。
 ・・・ふふ、ごめんなさいね。暗い話になってしまって」

「・・・もし幻想郷が無かったら、今の私達はいなかったわ」

「霊夢?」



紫は霊夢のその言葉に驚く。

いつもは無愛想な彼女がこんなことを言うなんて。

彼女は驚かれずにいられなかった。

霊夢の方は紫の顔を直接見て言うのが恥ずかしかったのか、手元の湯飲みを見て話を続ける。



「私が生まれることも無く、みんなと出会うことも無く、そしてこうして一緒に御茶を飲むことも無かった。
 私はね紫、そのことは、その、本当に感謝してるのよ」



霊夢はそれを言い終えるとすぐに手元の御茶を一気に飲む。

紫のあの顔を見てつい言ってしまった。

一人取り残されてしまったようなあの表情。

それを見るのが辛くて、彼女にそんな顔になってほしくなくて。

だから言いたかったのだ。

自分が彼女に感謝している事を。

決して一人じゃない事を。



「・・・ありがとう霊夢。それを聞けただけでも、この世界を創ってよかったって思うわ」



霊夢の頭をそっと撫でる紫。

この幻想郷の住人である彼女のその言葉が、とても嬉しかったから。

だから彼女はこの不器用な優しい巫女の頭を撫でる。

霊夢も顔を赤くはしていたが、嫌がらずに撫で続けられるのをよしとする。

恥ずかしくはあったが、嬉しくもあったから。



(――――――私のした事は、無駄じゃなかったわよね?)



紫はそう自分に、そして誰かに心の中でそう言った。

二人は一緒にまた茶を啜り、ダンが持ってきた栗羊羹をつまんだ。

それはいつもの光景、いつもの日常。

遠い昔に誰かが、いや、皆が心から望んだ光景だった。

――――――皆が夢見た、幻想の光景だった。







































冥界の白玉楼にある長い長い、何処までも続く階段の前にいる男。

大魔法使いダン・ヴァルドーはジッと目の前の階段を見つめていた。



「さて、行くとするか」



魔法使いは空を飛び、その階段の先を目指す。

自らの目的を達成する為に。




















――――――物語は進んでいく。

――――――ゆっくりだが、確実に。





































主人公の出番が最後だけって・・・

どうも荒井です。

地の文より会話文が多いなぁ。どうも地の文って書くのが苦手なんですよね。

地の文ばかりだと読むのが私辛いんですよねどうも。だからこんな感じになっちゃうんですよね・・・はぁ。

ただの会話だけだと戦闘描写が駄目になるし・・・いかんなぁ、いかん。

しかも代わりに伏線に見えない伏線を今回もガンガン仕込んでしまった・・・本当にしぃましぇん。

まあ、全部回収しますからいいんですが。

今回は旧作キャラが二人ほど出ました。旧作のキャラって二次だとほとんど出ないからどういう口調か今ひとつ分からないんですよね。

もっと出したいけど・・・私の実力じゃなぁ。

それとダンの幻想郷縁起の紹介も一応書いてみました。

当たり障りの無い紹介なのでネタバレにはなりません。

見てみたい、という感想があったら出したいと思います。

それでは!



[21723] 第十話 亡霊少女―――堕ちる
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/10/05 17:50






魂魄 妖夢のいつもの日常。

この白玉楼の庭の手入れに様々な雑務をこなし主の我が儘を聞くこと。

ザッと言ってしまえばこんなものだろう。

もっとも、何処かのメイドのように全部一人でやってるという訳ではない。

ちゃんと他に役割を分担して働く幽霊はちゃんといる。

では何故彼女一人が働いてるような話が出て来るのか?

ずばり彼女が自らの主、西行寺 幽々子の我が儘の一番の被害者だからだろう。

だがそれは、幽霊達がそれとなく妖夢を生贄代わりにしているのも一つの原因なのだろうが。

死んでも我が身が可愛いのはある意味人間らしいが。

そしてそんなある日の出来事だった。

なんと今日は珍しいことに、正面から普通に入ってくる者がいたのだ。

ドンドンと扉が叩かれる。



「わざわざ正面から来るなんて珍しい・・・ハーイ、今開けますよー」



誰だろうと思い妖夢は門を開けてその人物を見て驚く。

確か、宴会の席でチラッと会った人物だ。

紫様がワンワン泣いて彼を罵倒したのでよく覚えていた。



「いきなり来てしまい申し訳ないが・・・どうした?そんな罠に掛かったのを知った鬼のような顔をして?」



目の前の老人は、妖夢の顔を見るなりいきなり毒を吐いた。



「って!会っていきなり何を言うのですか貴方は!?」

「失礼、つい本音が出てしまった」

「本音って・・・どんな顔してたんですか私?」

「・・・いや、言うまい。言えばたぶんお前は・・・」

「え!?何ですか!?そんなに酷かったですか!?」

「あえて、あえて言うなら・・・いや、やはりよそう」

「何ですか!?気になるから言ってください」

「いや、だから罠に掛かったのを知った鬼のような顔と言ったではないか?」

「だからそれが何なのか聞いてるんじゃないですか!」

「簡潔に、そして速やかに言うなら間抜け面だ」

(・・・・・・ふふふ、もういい。もう斬ってもいいですよね師匠?ていうか斬りたい今すぐに!)



もう我慢の限界と、刀に手にかけようとしたその時だった。



「失礼した。白玉楼の庭師は優秀と聞いてな。その庭師の間抜け面を見てこちらも驚いたのだ」

(・・・・・・優秀?誰が?私が?)



妖夢はその言葉を聞いて怒りがシュンシュン抜けていく。



「えっと、私が優秀って?」



妖夢は幻聴でも聞いたのかと思い何を言ったのか尋ねる。



「主のどんな願いも叶えようと奮闘する、半人前だがなかなかに見所のある者だと・・・そう聞いたのだ」



それを聞いて妖夢は少し嬉しくなり、顔を赤くする。

こうやって真面目に褒められるのは慣れてないのだ。



「どうした?顔を赤くして?・・・風邪か?だから顔色が優れないのか?」

「へ?いえいえそういう訳では!あ、あの一つ聞いてもよろしいですか?」

「何かな?」

「えっと、どちら様でしたっけ?宴会の時は慌しくてよく覚えてなくて・・・」



それを聞いてダンはなるほどと合点がいった顔になる。



「ああ・・・そうだったか。私はダン・ヴァルドー。しがない魔法使いで、今回こちらの主に用があって此処に参った」



ダンは自己紹介とこちらの目的を伝える。

後日また来て挨拶をするような事を言っていたがそれだろうか。

しかしそれだけで此処まで来るだろうかと妖夢は考える。

妖夢はダンの用事が何なのか尋ねることにした。



「幽々子様にですか?一体どのような?」

「私は魔法使いとして彼女に興味があってな。彼女のような亡霊というのも珍しいからな。是非会って話がしてみたかったのだ。
 それに宴会の席ではろくに挨拶も出来なかったからな。一度じっくり話しをしてみたいと思い、こうして来たのだ」

「ああ、そうなのですか。それはわざわざどうも」



やはり挨拶に来たようだった。

妖夢はそう判断して警戒を解く。



「それと一度見てもらいたい代物もあってな。こちらは曰く付きゆえ此処で見せるわけにはいかんがな。
 それを・・・そうだな。鑑定をしてもらいたいのだ。もっとも、忙しいのならまた後日に来るが・・・」

「いえ大丈夫ですよ。今はそこまで忙しいってわけではないですし。それに幽々子様もお暇でしたから大丈夫だと思いますよ?」

「では上がってもよろしいかな?」

「はい、どうぞ」



そう言って妖夢は、ダンを客として白玉楼に招いた。







































「この館の管理やあの見事な庭の管理、それに主の願いもか。なかなか出来ることではないな」



白玉楼の館の内部や庭を見て、ダンは素直に感心する。

手入れの行き届いたその様子は、普段どれだけ彼女が頑張っているのかを物語っていた。



「あ、どうもありがとうございます」

「藍から聞いてな。あそこの庭師も大変だ、同じ仕える者として感心する。そう言っていてな」

「え!?そうなんですか・・・へへへへ」



褒められ続けたせいか、妖夢は顔が段々緩くなってきた。

真面目に褒められるのがこんなに嬉しいものなのかとニヤニヤと笑いながら考えていた。

何時の間にか二人は幽々子のいる部屋の前まで来ていた。



「へへへ・・・あ、着きました此処です。幽々子様~?いますか~?」

「は~い、いますよ~」



そんな軽く緩いノリの返事で幽々子は答えた。



「前の宴会の時に会った、ダンと言う魔法使いの方が幽々子様に用事があると言っていらっしゃったのですが?」

「あら~そうなの?じゃあ入ってもらって」



幽々子の返事を聞いて、妖夢は障子を開けてダンと共に幽々子の部屋に入る。

ダンは用意された座布団に、幽々子と対峙するようにして座る。



「それでは、私は御茶でも淹れて来ますので」

「感謝する」



妖夢は部屋を後にして、御茶の用意の為に台所へ向かった。



「さて、貴方のことは紫から色々聞いてるわよ魔法使いさん」

「ほう?どのような?」

「口が悪くて油断出来ない腹黒い爺さんだって聞いたわ」

「ふむ・・・なるほど、あいつらしい」



ダンは苦笑を浮かべて納得する。

きっとあの宴会の後も散々愚痴を言っていたのだろうと思って漏れた笑みだった。



「あら?怒らないの?」

「ある意味事実だからな。だが、あいつがそれを言っても腹は立たんよ」

「どうして?」

「口が悪くて油断出来なく腹黒いのは、あいつも同じだからな」

「あら?じゃあ私に怒らないのも私もそうだからかしら?」

「否定出来るかね?完璧に?」

「・・・やっぱり紫の言った通りの人ね。少なくとも退屈はしないですみそう」



扇子で口元を隠しながらクスクスと笑う。

実に彼女らしい笑いだとダンは思った。



「それで?一体何の用で来たのかしら?」

「あの庭師の娘にも言ったが、貴女に興味があってな。それで来た」

「あらあら、私ってそこまで魅力的かしら?貴方みたいな殿方が興味が湧くなんて」



幽々子はそう言ってダンをからかうが、言われた本人はやれやれといった感じに呆れて溜め息を吐く。



「確かに女性としての魅力は私から見てもなかなかのものだと思うが、残念ながらそうではない。
 ただ純粋に、魔術師として貴女に興味があったのだ」

「う~ん残念ね。貴方、渋めで割と好みなんだけどね」

「ふむ?貴女は年下が好みなのか?」

「・・・・・・やっぱり貴方口が悪いわね~。それは地なのかしら?」

「残念ながらそうだ。言うなれば老人の悪い癖のようなものだ。今更この歳で直すのも出来んしな」

「老人とか歳とか女性に言うの止めてくれる。これでも、結構私傷つくんだけど・・・」

「私は自分のことを言っているんだが・・・ああ、そう言えば貴女は私より年上だったな。これは失礼」

「うう、紫が苦手にするのが分かるわ。それで、何の話だったかしら?」



幽々子はそう言って話題を変える。

口で勝てないのはよく分かったから、ボロが出ないうちに話を終わらせようとの思いからだ。



「お前のような力のある霊体は珍しいと、そういう話だ」

「あの、何時の間にか呼び方がお前に」

「年上扱いが嫌なのだろう?なら気にするな」

「うう、もう」



段々とイニシアチブを取られていくのが分かった。

ダンは今まで相手をしたタイプの中でも初めての者だった。

何を言ってもあっさりと切り返して倍返しにしてくる。

紫が苦手にするのがよく理解出来た。



「ここまで強いのはかつてあった中でもそうはいない。魅魔という者を知っているか?あれと同じ程の力を感じてな」

「会ったことは無いけど、話に聞いたことならあるわね。・・・あ、そうそう!こっちも質問していいかしら」



そうダンに幽々子は質問をしてきた。

確かに苦手な相手ではあったが、こちらからからかわなければそう毒も吐くまい。

もし下手にからかえばどれだけ痛い目に遭うか。

そう判断して幽々子は、珍しくからかい無しで話を進めることにした。



「何かな?」

「今まで冥界には来なかったみたいだけどそれはどうしてかしら?」

「霊についての研究はある程度済ませてな。それに口煩い閻魔に見つかるのも面倒だったからな」



それを聞いて幽々子はなるほどと納得する。

誰だってあの小さな閻魔の説教は嫌だろう。



「確かに口煩いものね、あの閻魔様は。それで、貴方はどんな説教を受けたのかしら?」

「ありがたいことに、まだ受けてはいないよ」

「あらあら珍しいのね」

「まあ、もし会ったとしても、私の口では閻魔に何を言うのか分からんからな」

「うふふ、それもそうね。あともう一つ」



幽々子はダンの懐を指差す。

先ほどまでののんびりとした表情から一変して真剣な顔付きになる。



「・・・それは一体何かしら?随分と嫌な気配がするんだけど」

「・・・やはり気付くか。さすがと言っておこう」



そう言ってダンは懐から一つの本を出す。

何かの皮の表紙の、分厚い古びた本。

それは一見すればただの古びた本だった。

だが、その本からは実に禍々しい濃厚な魔の気配がこれでもかと漂ってきていた。



「お前にこの魔導書を見てもらいたくてな。これの感想を聞きたいのだよ」

「なんて本なのかしら?」

「ネクロノミコン・・・聞いたことは?」

「名前だけは・・・へえこれがそうなの。どおりで嫌な感じがするのね」



そう言って幽々子はその魔導書を・・・受け取ってしまった。

幽々子が受け取ったその時、本のページは空中にバラバラに飛び、幽々子を囲み体の自由を奪う。



「クッ!?これは!?」



いきなりのその行動に、幽々子は迎撃の初動が遅れてしまった。

魔術師が詠唱を始める。



「我は蝕む者、犯す者、喰らう者也!三界の門を潜り我は学ぶ、我は知る!生命の樹よ、回れ回れ回れ回れ!
 我が命に従いこの者の魂を隷属させよ!我が歌にてこの者を束縛させよ!我が祈りにてこの者を服従させよ!」



魔術師の力あるその詠唱は、幽々子を徹底的に縛り上げていった。

言葉の一つひとつに篭められた魔力が幽々子の自由を蝕み、犯し、拘束していく。

ダンは無詠唱でも魔術は発動出来る。

だがこのように言葉に出すことでその威力は更に上るのだ。



(このままじゃ不味いッ!こうなったら能力で・・・)



幽々子が能力を使用させようとしたその時だった。

幽々子は・・・自分の意思でそれを拒み、発動させなかった。

訳の分からないこの現象に幽々子はただ驚愕するしかなかった。



「く・・・あ・・・そんな・・・何・・で!?・・・」

「決断が遅かったな・・・お前はもう既にその意思の八割方を私に支配されている。・・・もう何をしようとしても無意味だ。
 私が命令し、お前の反抗をお前自身で阻止させているのだからな」

「ど・・・して・・・こ・・・な・・・」

「どうして?そんなものは決まっている」



ダンは先ほどの詠唱にも劣らない力を言葉に篭めて幽々子に言い放つ。



















「私は魔術師、ダン・ヴァルドーだ。そしてこれは・・・ただの私の実験にすぎん」


















幽々子はみるみるうちにその意思を支配されていく。

抗おうとするがそれを自分の意思が邪魔するという矛盾が生じ、魔術の進行を止めることが出来ない。

そんなことを考えるな。

反抗をしてはいけない。

逆らうなどもっての外だと自分の意思が告げるのだ。

まるで自分にもう一つの意思が生まれ、自分の意思を内側から食い荒らすような感覚。

得体の知れない恐怖がジワリジワリと幽々子を侵食していく。



「紫の言葉を忘れたか?口が悪くて油断出来なく腹黒いと。・・・私はお前が思っていた以上に腹黒いのだよ」

「こ・・・んな・・・もの・・・」



それでも幽々子はなんとか抵抗を続けようとする。

ここで諦めればまさにこの男の思う壺だ。

そう思い幽々子は自分に残された最後の意志で徹底的に抗おうとした。

しかし・・・


「無駄だ。私はお前の抵抗しようとするその意志すら既に支配している。諦めろ。無意味だ。お前は負けたのだよ。
 私の力に!私の業に!私の知識に!私という存在に!お前は敗北したのだッ!」



ダンのその言葉に幽々子は心をへし折られていく。

抵抗しようという意思をかき消されていく。

ダンの言葉は雷の如く幽々子の精神を突き破り駆逐していった。。

幽々子はもう、自分が一体どちらの意思が本当の自分の物か判別が不可能になっていた。



「・・・仕上げだ。我は支配者也!我は統治者也!我は絶対者也!この者を我は支配する!統治する!それは絶対也!
 我はダン・ヴァルドー!汝の・・・主也!」

「あ・・・あ・・・ああ・・・嗚呼嗚呼嗚呼アアアアアアアアアッ!!!!」



そして幽々子のその最後の意志が・・・支配された。







































「・・・・・・恐ろしい相手だった。まさかここまで抵抗することが出来るとは」



ダンはそう言って幽々子を見る。

幽々子は今、意思を宿さない虚ろなその瞳でぼんやりと虚空をただ眺めていた。

ダンの言った、既に意思を支配してるというあの発言。

実はあれはハッタリだったのだ。

だが、ただのハッタリではない。

ああ言うことで自分は既に支配されてる・・・そう思わせ抵抗する意思をねじ伏せる為に放った言葉だった。

ただの言葉ではなく魔力を篭めて言ったその言葉は、霊体である幽々子にダイレクトに伝わった。

もし幽々子が最後まで諦めずに抗うことが出来たのなら、自分は死んでいただろうと考える。

その時の対策は、もちろん立てていたが。



「しかし、ギリシャ語版ネクロノミコンを媒介にしてこの抵抗・・・やはり凄まじいものだ。
 詠唱をして更に力を高めて行ったこの魔術にここまで反抗してみせたその意思。
 しかも油断すれば今もまだ抵抗しかねんとは。・・・だが、残念だったな。お前と私では、密度が違いすぎたのだ。
 のんべんだらりとしていたお前と違い、私は常に自分を高めることを怠らなかった。それが、お前の決定的な敗因だ」



バラバラになり空中に浮かんで幽々子の周りを囲んでいた魔導書は、ダンの手元に戻りまた一冊の本に戻る。

ダンはゆっくりと息を吐く。

その様子はまるで、まず一仕事を終えたといったような感じだった。



「・・・ギリギリだったな。だが、上手くいった。第一段階は終了といったところか。さて、後は」



もの凄い勢いでこちらに近づいてくる気配と音がした。



「幽々子様!?一体何が!?」



ただならぬ気配を感じて来た妖夢の目の前には、ぼんやりとする自らの主と、自分を鋭い目で見る魔法使いがいた。



「幽々子様ッ!?クッ、答えろ!幽々子様に何をしたッ!」

「――――――後は、お前だな」



その言葉を、たったそれだけの言葉を聞いて妖夢は背筋を氷付かせる。

今目の前にいるのは先ほどまで会った好々爺の老人ではない。

妖夢の本能が最大限に警告する。

戦うな、逃げろと。

早く、遠くへと。

妖夢の経験が無慈悲に宣告する。

勝負にならない、逃げられないと。

諦めを、認めるんだと。

だが、妖夢はその声に反し、剣を抜いてダンと対峙する。



「ほう・・・この私にまだ剣を向ける気概があったとはな」

「私は魂魄 妖夢!西行寺 幽々子様に仕える白玉楼の剣だ!答えろ!一体何をした」



妖夢はそう言って自分に渇を入れる。

だがその手に握る愛刀は今まで感じたこともない位に重かった。

本当なら降伏して逃げ出したかった。

しかしそんな事は出来ない。

そんな事をすれば私は私でいられなくなる。

魂魄 妖夢でいられなくなると。



「――――――そう判断したのかな?」

「ッ!?貴様心を!?」

「いやなに、ただ言ってみただけだだが、お前の反応を見るにこう考えたのではないか?
 此処で逃げれば今の自分に誇りを持てなくなると。――――――そんなところではないか?」

「・・・そうだ。此処で逃げたり屈したりしたら、私はもう先ほどの言葉を言えなくなる。だから!」

「だから、助けるか?自らの主を?・・・やはり素晴しい。お前は私が思っていた以上の存在だ。
 その心意気のまま、更に精進を重ねていけば、お前は何時か、この主以上の存在になることも可能だろう」



妖夢は困惑する。

この男は何を言っているんだ?

敵対してる相手に何を言ってるんだと混乱する。



「お前は何を言って・・・?い、いや!ふざけた事を言うな!」

「ふざけているわけではない。ただ純粋にそう思っただけだ。だがしかし」



ダンは何か考える仕草をして黙った。

もうやることなど決まっているのに、だ。

これは言わば、ただの挑発のようなものだった。



「私はお前と戦う気はない。どうか剣を収めてくれんか?」

「ふざけた事をぬかすな!貴様が幽々子様を元に戻すまで私は!」

「やれやれ困った事だ。――――――幽々子よ、お前からも何か言ってくれんか?この者はお前の従者だろう?」



その言葉に更に妖夢は困惑する。



「な、何を、言って」





















「――――――妖夢、剣を収めなさい。貴女の主である、この西行寺 幽々子が命じます」




















ぼんやりした瞳に意思が宿り、西行寺 幽々子は自らの従者に命令する。

だがその命令は妖夢の意思とは正反対のものだった。



「ゆ、幽々子様、正気に戻って!?いえ、それよりもどうしてそのような事を!?こいつは幽々子様を!?」

「妖夢、私に、同じ事を言わせる気なの?」



主のその言葉には何時も通りの威厳を感じる。

だが明らかにおかしい。

その声にはいつもの暖かさが欠片も無かったからだ。



「教えて下さい幽々子様!?どうしてそのようなことを!?」

「私の言葉が――――――聞こえなかったかしら?刀を収めなさい妖夢」

「も、申し訳ありません!」



妖夢は半ば反射的に自らの剣を収めた。

自らの主の迫力に圧倒されて。



「そうよ、それでいいのよ。・・・ごめんなさいね。私の従者が迷惑を掛けて」

「それだけお前のことを大事に想っているのだろう。構わんさ」

「一体何がどうなって・・・?」



困惑を続ける妖夢にダンは説明する。



「お前の主の意思は私の魔術で完全に支配した。今のこの西行寺 幽々子は私の傀儡にすぎん」

「なんだと!?そんな馬鹿な!?」

「本当よ妖夢。今の私は、彼に逆らおうなんて考える事も出来ないわ。本当に今の私は彼のただの操り人形なの」

「そんな・・・そんなこと言わないで下さい幽々子様!貴女がお命じなれば私は!」

「ならば妖夢。彼に逆らうことはしないでちょうだい。これは命令よ」

「し、しかしそれは!」

「お願い妖夢。言うことを聞いて。でないと、私は貴女に何をするか分からないわ。だから・・・」



その言葉を聞いて妖夢はハッとする。

この方は本当に幽々子様だ。

こうして支配されても私のことを心配してくれていると気付いたのだ。



「一体・・・何が目的だ?」



妖夢はダンを睨み付けて言葉を吐く。

操られているとはいえ、いくら幽々子の命があったとしても、心はそう簡単には納得出来る筈もなかった。



「簡単だ。お前と西行寺 幽々子の二人でこの幻想郷に異変を起こせ。・・・そうだな。適当に幽霊達を放してやれ。それだけで十分だ」

「それだけ・・・それだけなのか!?どうしてそんなことを!?」

「そうすれば博麗の巫女が動くことになる。お前達は博麗の巫女、そしてもう一人来るであろう魔法使いの相手をしてもらう。
 なに、本気で戦わずともよい。ただ足止めして時間を稼いでくれるだけでいい」

「そんな事のために、お前は幽々子様を!」

「・・・前にも言った通り、西行寺 幽々子は強い自我を確立した霊体だ。それを私の死霊秘術で何処まで制御できるか試したかった。
 この実験は、言ってしまえば行き掛けの駄賃のようなものだ。本来の目的のついでにやってしまおうという言わばオマケなのだよ。
 もっとも命懸けではあったが、まあ結果は満足いくものだった。命を懸けるに値する実験だったよ」



オマケ・・・オマケだと!?

そんなことのためにこいつは幽々子様を!

いや違う、そもそもおかしい。

つまりこいつはそのオマケのために自らの命を懸けたのか!?

狂ってる。

こいつは自分の命も実験の材料の一つに数えている!

妖夢は目の前の化け物に今まで感じたことの無い恐怖を感じた。



「さてとお前の心も折っておくとするかな。このままでは、言う事を聞くかどうかも怪しいしな」



妖夢はその言葉にゾッと恐怖を感じる。

何か得体の知れないことをされるのではと思い身震いする。



「一体・・・私に何を・・・?」

「呪いを掛ける。なに、呪いと言ってもお前に一言ただ言ってやるだけだ」



底知れない魔法使いは妖夢にこう言った。



















「――――――お前は主を守れなかった。私のオマケの犠牲にしてしまったな、魂魄 妖夢よ」





















その言葉は、妖夢の心を見事に折ってしまった。

自分がもっとしっかりしていれば。

自分がもっと確認していればこんなことにはならなかったはずだという想いが溢れ出してくる。



「守れなかった・・・私が?幽々子様を?・・・そうだ私は、私は」

「全て終われば元に戻る。元に戻したいのなら私の指示に従ってもらうぞ。ではな」



そう妖夢に言って、ダンは部屋を出ようとする。

その時、ダンは幽々子とすれ違いざまに、小声で妖夢に聞こえないように喋る。



「後は頼むぞ幽々子。――――――恨み辛みは、終わった後にゆっくり聞いてやる」

「・・・分からない人ね、貴方は」



そう言って二人は別れた。

部屋に残されたのは座り込んで許しを請いながら泣き続ける妖夢と、それを辛そうに見る幽々子の二人だった。



「ごめんなさい、ごめんなさい幽々子様・・・私は、貴女を守る事が・・・」

「いいのよ妖夢。もういいの。さあ、早く終わらせてしまいましょう」



ごめんなさいと泣き続ける妖夢を、幽々子は抱きしめて慰める。

ダンの魔術に支配されながらも幽々子は思った。

あの魔法使いは、一体何をしようというのかと。

こうして、魂魄 妖夢のいつもの日常はガラガラと崩れ落ちた。






































冥界から出て、ダンは一度だけ振り返り小さく呟く。



「・・・すまんな。だが妖夢よ。お前が私のその呪いを乗り越えたなら、その時お前は更に高みに行くことが出来るだろう」



そう言ってダンは去っていった。

それからしばらくしてに幻想郷に幽霊が溢れかえることになる。

後に亡霊異変と呼ばれる異変の始まりであった。





































どうも荒井です。

今回はジッチャマの外道っぷりを書いてみましたがどうだったでしょうか?

まあ、こんなもん彼にとっては序の口です。

もっと酷い事なんて腐るほどしてますよ!

騙して悪いが、仕事なんでな。みたいな事は沢山してます。

幽々子様の能力発動が後一歩早ければ死んでましたが・・・まあ、主人公補正ってやつですね。

それを抜きにしてもこの爺さん強いですが・・・

それでは!



[21723] 第十一話 動き出す者達
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/09/20 21:11



博麗神社では霊夢と魔理沙の二人がそろって頭を悩ませていた。

ある日いきなり幽霊達が幻想郷中に現れたからだ。



「なあ霊夢・・・こいつをどう思う・・・?」

「凄く・・・異変ね・・・」



二人は唖然として目の前の光景を見る。

そこら中に幽霊達がフラフラと浮かんでいる。

ただフラフラと。

特に何かするでもなくうろついているだけだった。

だがこれは紛れも無い異変だ。



「やっぱ幽々子と妖夢の仕業かな?」

「他に誰がいんのよ?それでどうする?一緒に行く?」

「もちろんだぜ!」



博霊の巫女と普通の魔法使いは共に行く。

この異変の元凶と思われる人物達の下へ。





































紅魔館ではレミリア・スカーレットが目の前の光景を見る。



「・・・・・・咲夜」

「・・・・・・此処に」



音も無く彼女の従者、十六夜 咲夜が現れる。



「この異変の元凶の邪魔をしてやりなさい」

「というと・・・白玉楼の?」

「いいえ違うわ。言ったでしょう。・・・・・・元凶と」

「白玉楼の者達以外に誰がこのような?」

「恐らく・・・あの魔法使いよ」

「あの男の魔法使いですか?・・・分かりました。では、さっそく」



そして従者はまた音も無く消える。



「・・・気を付けなさい。今までの相手とは、恐らく違うだろうから・・・」



そう言って紅い月はまた、目の前の光景を見る。






































守矢神社では風祝の現人神が二柱の神に見送られて出発しようとしていたところだった。



「それでは神奈子様!諏訪子様!行って参ります!」

「いいぞ早苗!紅白の巫女より先に異変を解決してまた信仰を増やしてきなさい!」

「気を付けてねー早苗ー」



そして早苗は異変解決に向かった。

彼女の姿が見えなくなった後、二人は心配そうな表情になる。



「さて・・・ああは言ったが、どうも今回は嫌な感じがする」

「うん・・・なんだか気持ち悪い、ゾワゾワした感じがする」

「無事に帰って来てくれよ・・・早苗・・・」



二柱の神は自分達の家族の無事を祈る。






































魔法の森でアリス・マーガトロイドは目の前の異変を考察する。

何故このような異変が起こったか?

彼女は考える。

普通に考えれば白玉楼の者達が何かしたのではと思いつく。

だがこんな事をして何の意味がある。

彼女達が関係しているのは間違いない。

ではどういう事か。



(誰か別の者が関わっている?)



それは誰だ?

八雲 紫がまた何か企んだか?

だがどうも違うように思う。



(分からない、か。なら、自分で確かめてみましょうか?)



七色の人形遣いもまた、異変の真相を確かめる為に飛ぶ。







































太陽の畑で風見 幽香は不敵に笑う。

目障りな幽霊達のせいで自慢の景色は台無しだった。

にも関わらず彼女は実に愉快そうに笑っていた。



「折角の良い天気が台無し・・・それにこのなんとも嫌な感じ・・・懐かしい感じ・・・たまには動くのも、悪くないか」



そして彼女もまた、異変の元凶を始末する為に動きだす。







































八雲 紫は怒りを爆発させていた。

自らの親友を傀儡にしたあの魔法使いに。

そんな主に彼女の式の八雲 藍は、若干ではあるが恐怖した。

主のこのような顔は久しぶりに見たためだ。



「あの魔法使い・・・一体何をする気なの?」

「あの方が何の意味もなくこのような事をするとは思えないのですが?」

「藍・・・貴女はあいつの事が分かってないようね」

「どういう事ですか?」

「私達には無意味でもあの男はそうじゃない。無価値と呼ばれるものに価値を見出しそれを手にする為ならなんでもする。
 そしてそれが本当に無意味であったとしても実行する。それがあの魔法使いなのよ」

「では・・・あの方にとってこれは何か意味のある事なのですか?」

「そういう事。そして、あいつがこんな行動を起こしてこれだけで済むはずがない。
 あいつはきっとまだ何かしてくるわ。今以上に大きな何かを」

「それは一体?」

「分からない・・・けれど私がする事は一つ。あの魔法使いの目的を叩き潰すことよ。行くわよ、藍」

「分かりました。紫様」



スキマを開き二人はそれに入ろうとする。



(きっとあいつは私が動くことも想定しているはず。でも見てなさい。何もかも貴方の思い通りにはいかないわ。ダン・ヴァルドー)



スキマは閉じ、二人の姿は消える。

今回の彼の目的を叩き潰す為に。






































魔術師は目の前の光景をジッと見る。

幽霊達が幻想郷中に蔓延り騒いでいる。

体の中の原初の血が騒ぐのを感じる。

久々の戦慄に、魔術師は密かに歓喜する。

自分がまだ、このようにざわつき、震えることに。



「・・・さて、そろそろ動くとするかな?今回は久々に、良い実験が出来そうだ」



そして魔術師は目的地へ向かう。

目指すその地の名は――――――博麗神社。



















――――――物語は進んでいく。

――――――止めることは、誰にも出来ない。






































どうも荒井スミスです。

ちなみに幽霊達の姿はバケバケですwww

今回は短いですが、まあ、幕間みたいなもんですね。

色々言いたいこともありますが今回はここら辺で我慢我慢。

感想やら何やら楽しみに待ってますぞい!

それでは!



[21723] 第十二話 対峙する幻想の担い手達
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/09/20 15:56






ダンはゆっくりと幻想郷の空を静かに飛ぶ。

博麗神社にいきなり行く事も出来たがそれはしなかった。

まだあの二人が十分離れているかも今のところ分からなかったし、他の準備をするにはタイミングが早過ぎる。

だからゆっくり、しかし遅れる事なく彼は飛んでいたのだ。



(今日は良い風が吹く。久しぶりにそう感じるな)



久々に心地良い風を感じながら、ダンは目的地に向かって行った。







































一方その頃、霊夢達は出て来る幽霊達をド突きながら白玉楼に向かっていた。

霊夢が締め上げたところ、今日は好きに動き回っていいと言われて、それでみんな好きに行動しているらしい。

何日かして帰って来るならそれで良し。

そう言われて、みんな旅行気分で出かけたそうだ。



「だからってこんな事して黙ってるわけにはいかないわ」

「いや、確かにそうだろうけど、会う幽霊会う幽霊をしばきながら行かなくても」

「そういうあんたもちゃっかりしばいてるじゃない」

「さて、目指せ白玉楼!」

「はあ、まったく・・・」



霊夢は魔理沙に呆れつつも白玉楼を共に目指す。

もし此処で引き返せば、まだなんとかなったのだろうが。

分水嶺は、此処で決まってしまった。







































「・・・・・・で、到着したのはいいけどどうする?このまま突っ込むのか?」

「他に何か考えがあるなら聞くけど?」



白玉楼の長い階段の前に到着した二人。

霊夢は魔理沙に突撃以外の選択肢があるか尋ねてみる。



「じゃ、決まりだな」

「無いなら聞くんじゃないわよ」



案の定予想した通りの答えが返ってきて呆れる霊夢。

思いのほか到着に時間が掛かってしまった。

まあ、幽霊をしばかなかったらもっと早く着けたのだろうが。

二人は白玉楼に続く長い階段を飛んで行く。



「なあ霊夢?もし私の勘が正しいなら」

「いるわよ。ほら、あそこに」



そう言って霊夢が指差す方へ魔理沙は目を向ける。

そこには予想通り、白玉楼の剣術指南役兼庭師の半人半霊少女。

魂魄 妖夢が剣を構えて待っていた。



「・・・・・・遅い!いくらなんでも遅過ぎです!」

「いや、怒られる理由が分からないんだぜ?」

「さて妖夢?しばき倒すから今回の異変を起こした理由を言ってもらおうかしら?」

「いや、そこはしばき倒されたくなかったらじゃないか?」



霊夢の言い分に当たり前のように魔理沙は突っ込みを入れる。

だがいつも通りの二人に対し妖夢はいつもと様子が違った。

大体は魔理沙同様に突っ込みを入れるはずなのにそれをせず、ただ二人を見ているだけだった。



「・・・言うことは出来ない。けど、一人だけなら此処を通ってもいい」

「あら、どういうことかしら?」

「どちらが行くんだ?早く答えろ!」

「なあ妖夢、なんか今日は何時もより変だぜ?一体どうしたんだぜ?」

「・・・・・・・・・・・・」



妖夢はただ黙ったまま無言になる。

まるでその理由を言えない、むしろ言いたくないように感じた。



「魔理沙、私が先に行くわ。あんたはこいつの相手をしていなさい」

「うん?まあ、私は構わないが。妖夢それでいいか?」

「決まったのなら、早く行け」

「はいはい分かりましたよ」



そう言って霊夢は妖夢の横を通り過ぎようとした。

その瞬間、妖夢は小さな声で霊夢に懇願した。



「幽々子様の事・・・頼みます」

「妖夢?」



霊夢はどういう意味か聞き返そうとしたが、既に妖夢は魔理沙の方に飛んで行った後だった。



「・・・何なのかしら一体?」



意味深な妖夢の言葉に頭を捻りながらも、霊夢は白玉楼を目指した。



「さあ、始めるぞ魔理沙!」

「ああ、いくぜ妖夢!」



妖夢と魔理沙の弾幕ごっこの戦いの火蓋が切って落とされた。







































霊夢は白玉楼に辿り着き、持ち前の勘を頼りに奥に進む。

そして白玉楼の主、西行寺 幽々子を見つけた。

幽々子も妖夢同様にいつもとは違う雰囲気を纏っていた。

いつものほんわかした空気が感じられなかったのだ。



「・・・遅かったわね、霊夢。もう少し早く来ると思ったのだけど」

「何よ?遅く来たら悪かったわけ?」

「いいえ、そんな事ないわ。むしろ好都合かしらね?」

「どういう事?」



霊夢は幽々子にその言葉の意味を尋ねる。



「異変を起こして貴女達を此処に来させ足止めする。それが目的だったから」

「どうしてそんな面倒な事するのよ?」

「そうね~そう命令されたからとしか」

「命令?誰が?あの閻魔・・・ではないわね。あいつがそんな命令するわけないし。誰がそんな事を?」

「私だってこんな事したくないの。・・・でもそれは無理。今の私は命令に従うだけの人形にすぎないのよ。
 逆らおうとする事も出来ない哀れな人形。それが今の私なのよ」

「操られてる?とてもそうは見えないけど?」



確かに雰囲気はいつもとは違うが何かに操られているという風には見えない。

嫌々やっているという感じはあったが、それでも自分の意思でこの場にいるように感じた。



「実際この術にかかってみて分かったのだけど、これは意識を乗っ取る類のものじゃなく、意識を保ったままそれを操るものね。
 今の私はこの術から逃れられない。何故なら私自身がそれを拒むからよ」

「嫌なのに自分からするって、矛盾してない?」

「たぶんそういう術なのよこれ。矛盾してるけどしてない。いえ、させないようにしているのね。
 本当だったらこんな事はしたくないけど、まあ、運が悪かったと思って付き合ってちょうだいな」



幽々子はゆっくりと優雅に構える。

それを見て霊夢もまた戦闘態勢に入る。



「私を倒したら、今回の黒幕の事を教えてあげてもいいわ霊夢」

「だったら・・・今すぐ倒してやるわよ!」



幽々子と霊夢の弾幕ごっこの火花もまた咲き始めた。








































―――人符「現世斬」―――



「おっと、あぶないあぶない!」



魔理沙は妖夢のスペルカードの弾幕を難無くホイホイとかわす。

いつもの妖夢とは違い調子が悪過ぎるように感じる。

ただ闇雲に、我武者羅に突っ込んで来るだけ。

それが妖夢だと言われれば確かにそうだろう。

だが今回は彼女の持ち前の真っ直ぐさが無くなっているようだった。



「どうした妖夢?いつもの切れが無いじゃないか?弱すぎて話しにならないぜ?」

「・・・言うな」

「何だって?」



上手く聞き取れなかった魔理沙は妖夢が何を言ったが聞き返す。



「弱いって言うな・・・」

「妖夢?」

「弱いって・・・言うなぁぁぁぁぁぁッ!!!!」



激昂する妖夢は次のスペルカードを構える。



―――人鬼「未来永劫斬」―――



「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」






































そして目的地を目指していたダンもまた、ある者達と対峙していた。



「・・・・・・お前達」



ダンは目の前の三人の少女達に目を向ける。



「ダン・ヴァルドー様。私の主、レミリア・スカーレットの命により貴方の邪魔をさせて頂きます」



紅魔館のメイド長。

十六夜 咲夜の両手にナイフがズラリと構えられる。



「ダンさんが異変の原因だったなんて・・・ならばこの私が退治します!」



守屋の現人神。

東風谷 早苗が神の風を纏う。



「私としては理由を先に聞きたいにだけれど・・・まあ、倒してからでもいいわよね?」



七色の人形遣い。

アリス・マーガトロイドの人形達が空中で構える。



「・・・ふむ、厄介な。さて、どうするか」



古を生きる大魔法使い。

ダン・ヴァルドーは自らの魔力と思考の回転速度を高める。




















――――――四人の幻想の担い手が、此処に集った。





































荒井スミスですどうもです。

次回はやっと戦闘シーンに入ります。

ここまで来るの、長かったな・・・いや本当に。

しかし戦闘シーンか・・・描写が難しいだろうな・・・はぁ。

それでは!



[21723] 第十三話 講義の時間
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/09/23 15:15






四人は固まったまま動かなかった。

どのように攻めるか。

どのように戦うか。

それを咲夜、早苗、アリスの三人は考えていた。

だが一人だけ違う考えの人物がいた。

ダンである。

彼は一つ気になっていた事があり、それを言うべきかどうか少々悩んでいた。

だがダンはそれを思い切って言う事にした。



「・・・一つ気になったのだが、一体何の勝負をするのだ?」


「「「・・・・・・・・・へ?」」」



ダンの思いもよらない発言に、皆一瞬気を抜く。

最近では弾幕ごっこの決闘が当たり前になってきていた幻想郷。

しかしダンはその弾幕ごっこが流行る前に研究の最終段階に入りそれに専念していた為に、

決闘=弾幕ごっこという考えから少し遅れていたのだ。



「何って・・・弾幕ごっこに決まってるじゃないですか!」



いち早く復活した早苗がダンに突っ込みを入れる。



「ああ、そうか、そうだったな。・・・だが、弾幕ごっこなんぞやった事は無いのだが・・・」

「へ?そうなんですか?」

「そうだ。一度としてやった事が無い。聞いた事はあるがな」

「それじゃあ出来ないの?」



アリスがダンに決闘が出来るかどうか尋ねてくる。



「出来ない事はないだろうが・・・加減がな。下手に戦っては殺してしまうかもしれん。それでもいいなら」

「私はそれは勘弁してほしいんですけど・・・」

「私は一向に構わないけれど?」



早苗がそれは困ると言うが、咲夜はそれでもいいと答える。



「ちょ、咲夜さん!?下手したら死んじゃいますよ!?」

「弾幕ごっこだって下手したら死ぬでしょうに・・・それじゃあどうしますか?」



咲夜はダンにどう戦うか聞いてみる。

もし戦えないならこの場は恐らくダンの負けという扱いになるだろう。

そういう空気が漂っていた。

ダンは少し考えた後に、一つの提案を出すことにした。



「ならば・・・そうだな。三対一で能力使用制限無し。スペルカード使用制限無し。決着は相手を戦闘不能に追い込むこと。
 つまりほぼ実戦に近い状態での決闘方法。これでどうだ?」

「ちょ!ふざけないでください!そんなルールだとこっちが・・・有利ですね?あれ?どうしましょうか?」



ダンの提案に早苗は困り二人に意見を求める。

三対一。

明らかにこちらが有利な条件だ。



「普通に考えればそうだけど・・・一体何が目的なの、ダン・ヴァルドー?」

「お前達の相手をするほど時間があるわけではないのでな。それに三対一の決闘にしたのは他の理由もある。
 加減が出来ませんでした。だから負けました。なんて言い訳はしたくないのでね。
 だが三対一なら妙な枷を付けて戦わなくてもいいだろう?ああ、もちろんそちらも全力で潰しに来てくれて構わん。
 こっちは加減してたから負けました。なんて言い訳は聞きたくないのでね」

「・・・・・・・・・・・・」



アリスはダンを疑り深く見る。

この魔法使いは強い。

それは自身の母親から聞いてよく知ってた。

自分が一人で戦うようなら・・・すぐに負けるかもしれない。

だが三対一なら話が違う。

勝つ可能性は十分にあるように考えられた。

しかしそれはこの魔法使いも十分に分かっているはずだ。

この三人を相手にしても勝てるだけの自身があるということなのだろうか?

それとも何か別の思惑があるのか?



「私はそれでも構わないわ。私は貴方の邪魔をしろというお嬢様の命令が完遂出来ればそれでいいから」



メイド長はその提案を受け入れた。

元々彼女の能力は実戦でこそ発揮するものだ。

制限無しに戦えるというダンの提案はこちらに実に有利なものだった。



「・・・そうね。私もそれでいいわ」



アリスもその条件を承諾する。

確かにこの魔法使いは強いだろう。

だがしかしである。

さすがにこの面子を一度に相手に勝つのは難しいだろう。

この面子なら恐らくだが・・・魔界の神すら打倒出来るだろう。

彼が自らの母と実力が同じだと仮定すれば勝つことも可能だとアリスは判断した。

それに彼女にはいざという時の切り札もある。

絶対に勝つ自身は無かったが、だからといって負ける気はしなかった。



「私は、えっと、えっと」



一方早苗は迷っていた。

ほぼルール無しの戦いなどというものは経験したことが無かった。

だからどうすればいいのか迷ったのだ。

そんな早苗を見て、ダンはもう一つの提案を出すことにした。



「もしお前が勝ったら守屋を信仰しようか?」

「いいでしょうやりましょう!さあ始めましょうすぐにでも!」

「「貴女って人は・・・」」



早苗の態度の変わり身の速さに二人は呆れるしかなかった。



「まあ、こちらの言うこと聞くって言うのなら、私は貴方の魔法の知識でも提供してもらおうかしら?」

「私は・・・何か珍しい品物でも。魔法使いなら何かあるでしょうし」



二人も何だかんだでちゃっかり要求してきた。

何時の時代も女性とは強い生き物だと、ダンは呆れ半分関心半分で考える。



「準備はいいかな?では――――――講義を始めよう!」



そしてダンの言葉により戦いの火蓋は切って落とされた。



「それじゃこちらから」

「先制攻撃!」

「させてもらおうかしら!」



―――奇術「エターナルミーク」―――

―――秘術「グレイソーマタージ」―――

―――咒詛「魔彩光の上海人形」―――



それぞれの弾幕の花が開花しダンに襲い掛かる。

無数に出現した銀のナイフが弾丸の如き速さで襲い掛かる。

五芒星を模した霊弾の嵐が吹き荒れる。

人形遣いの操る人形が放つ魔力弾が迫り来る。

それら全てが一人の魔術師を打倒せんが為に咲き乱れる。



「こうなるか!」



ダンは思考速度を最大にして弾幕の海の僅かなスキマを見つけ掻い潜る。

それはまさしく迫り来る壁だった。

初めて経験するスペルカードの弾幕にダンは素直に感心する。



(これがスペルカードの弾幕というものか。初めて見るが、こうまで回避が難しいとはな!)



回避が難しいのはいつも通りなのだが、今回は三枚同時にスペルカードを発動された。

普通、弾幕ごっこでいきなりこんな三枚同時発動などしないだろう。

その為――――――



「ちょ!咲夜さん!ナイフが!ナイフがこっちに!」

「そっちの弾幕だってこっちに来たわよ!」

「貴女達もう少し考えて弾幕撃ちなさいよ!」



三人はそれぞれが放った弾幕に足を引っ張られていた。



「・・・やはりこうなったか」



弾幕をなんとか避けきったダンは対戦相手の醜態に呆れた。

ダンが三対一を選んだ最大の理由がこれだった。



「お前達の個人の力は凄いものだが、協力しなれていなければ逆に他の者の足を引っ張ってしまう。
 特に、お前達のような個性の強すぎる者同士が、いきなり協力戦など出来るはずもない」

「貴方・・・まさかこうなると分かって!」

「その通りだ魔界神の娘よ。この幻想郷の力ある者達が協力戦なぞする筈もないからな。
 さてどうする?チームプレーのなってない青二才なぞ、どうとでも料理出来る。諦めて此処を通してもらおうか?」



いきなりのスタートの悪さに形勢は三人に不利になろうとしていた。

だがそんな時、咲夜が前に出て来た。



「・・・アリス、私が前衛を勤めるわ。人形での援護と、指示をお願い。
 早苗、貴女は中距離からの支援とアリスの守りに付いて、そしてアリスの指示に上手く従ってちょうだい」

「・・・咲夜」

「・・・咲夜さん」



咲夜は慣れたように二人に指示を出し、混乱しかけた二人の冷静さを取り戻す。

伊達に紅魔館のメイド長はしていない。

普段妖精メイドに指示を出していた咲夜にとって、これ位の状況はそれほど苦労するものではなかった。



(ほう、あの娘・・・)



ダンは咲夜の切り替えの速さにこれまた素直に感心する。

どうやら戦闘に関しては咲夜が経験豊富のように見える。

あわよくば、このまま一気に潰そうという彼の目論見はどうやら潰されたようだ。

そしてダンは、咲夜の空気が若干だが変化したことにも気付いた。



(先ほどより冷たい・・・この感じ、前に何処かで?)



随分昔に、これと同じ空気を持つ者に出会ったことがある。

あれは確か――――――



「二人とも、それでいいわね」

「分かったわ」

「はい!分かりました!」



ダンの思考を他所に、三人はそれぞれのポジションに着く。

アリスは上空に飛び全体を見渡せる位置に。

早苗は咲夜とアリスの中間に。

咲夜は前衛に着きダンと対峙する。



「随分と戦い慣れてるな、貴様」

「場数を踏んでるだけすわ。元々正面から正々堂々なんて戦い方はあまり合わないしそこまで好きではないけれど、
 誇り高き紅魔館のメイド長が闇討ちなんて出来るはずもないので。
 そうそう、一つ確認してもいいでしょうか?」

「何だ?」

「殺しても?」

「・・・構わん。戦いとは、本来そういうものだろう?」

「ええ・・・そうでしょうね!」



咲夜はナイフをダンの急所目掛けて投擲する。

それに始まり人形達と早苗の援護射撃が入る。



「ぬぅ・・・」



ダンは援護の射撃を魔法で障壁を張り防ぎ、咲夜の攻撃を集中して見定めて回避する。

咲夜の攻めは恐ろしい程に的確で、無慈悲な一撃を幾度も繰り出してくる。



(やはり・・・何処かで見たことが・・・この業は・・・確か)



ダンは咲夜の攻撃を障壁を巧みに使用しなんとか防ぐ。

そしてこれを続けている内にある者を思い出す。

彼女の一連の動作、呼吸、視線、業のキレ。

その一つ一つが、ダンにかつて対峙した者達をはっきりと思い出させた。



「・・・思い出した。まさかこのような所で、二ザール派の業の使い手にまた会うとはな」

「二ザール派?・・・何の事かしら?」

「知らぬふり・・・という訳でもなさそうだな。お前の使うその業を生み出した、宗派の名だ」

「・・・・・・あらそう、知らなかったわ。知る必要も無いけどね」



咲夜はダンの発言を聞き流し、また攻撃を再開する。

そしてダンも反撃に入ろうとしたその時だった。



「咲夜、一旦引いて!早苗、一斉射撃いくわよッ!」

「了解」

「分かりました!」



ダンの反撃を察知したアリスが即座に指示を出す。

咲夜が離れると同時に、早苗とアリスの人形達の弾幕の雨が降り注ぐ。



「反撃は出来ず、か」



反撃のタイミングを潰されたダンは先ほどと同様に障壁を展開し、回避に専念し防戦に徹する。



「だが、攻められるばかりはつまらん。ならば、これはどうかな?」



周囲に黒く発光する球体が多数出現する。

その数、六十四体。

球体は現れると同時にそれぞれバラバラの時間差で弾幕を放ってきた。



「二人とも私の方に!」



二人は指示に従い、急ぎアリスの下に集まる。



「障壁展開!最大出力!」



三人の周囲を人形達が囲み、魔力障壁を展開して迫り来る黒い弾幕を防ぐ。

球体の劣兵の集中砲火が容赦無く叩き込まれる。



「思ったよりきつい・・・クッ!二人とも!あの球体を破壊して!」

「ここは私が!」



早苗が叫ぶと同時に神風が吹き荒れる。

黒い球体はその風を受けて行動を封じられる。



「ただの風ではないな、これは。これは・・・神風か?」

「咲夜さん!今です!」

「まかせなさい」



動きの封じられた球体に、銀の制裁が一斉に襲い掛かる。

一瞬にして六十四の球体の劣兵が、爆音と共に崩壊する。



「・・・ふむ、なるほどな。急造のチームにしてはよくやる」



魔術師は三人の連携に感心する。

幻想郷の一癖も二癖もある連中が、いきなりこれほどまでのチームプレーが出来るとは思ってもみなかった。



(アリス・マーガトロイドの出す的確な指示もあるだろう。
 東風屋 早苗の詳しく分からぬあの能力の不気味さもある。
 だが真に恐ろしく侮れぬのは)



彼は鋭い目付きで咲夜を観察する。



(十六夜 咲夜、こやつだな。最初の混乱をいち早く収拾したあの冷静さ。あれが無ければ既に決着は付いていた。
 さて、どうやってこの娘を出し抜く?並みの方法では恐らく、眉一つ動かす動揺も見せんだろうな。
 それに下手に隙を見せればあやつの能力に・・・なるほど、それがあったか)



ダンは並みではない方法を思いついた。

咲夜を出し抜く攻略法を。



(だがこのままではいかん。これが続けばこちらがジリ貧だ。・・・勝負は一瞬、か)

「攻撃再開!早苗、私達は引き続き咲夜の援護を!」

「了解です!」



三人の攻撃が再開される。

そしてダンもまた、次の一手を打つ。



「ガーディアン・システム起動開始」



ダンの呼び掛けに応じ、その場に人間大のクリスタルの結晶が三体出現した。



「往け」



ダンの命令に従い、水晶の守護者が三人に襲い掛かる。



「あれは一体!?」

「先ほどの雑魚とは違うわ!気を付けて!」

「言われなくても!」



再び銀の制裁が加えられる。

だが守護者達はその制裁を紙一重でかわした。

そしてそれと同時に守護者達は、レーザーを三人に向けて狙い照射してきた。



「当れば落ちるわよ!」

「その前に死ぬけどね」

「どっちも嫌ですよ!」



三人もまたそのレーザーを回避する。

そして各々反撃して弾幕を撃つが、クリスタルの怪物は最小限の動きでかわし、時にはレーザーで弾幕を切り裂き回避した。

攻撃すれば三体はそれぞれを援護してこれを防ぎ、すかさず反撃に移る。

いやらしく執拗に付け狙うこの守護者達に、咲夜は早々に仕留める事にした。



「面倒ね・・・私が殺るわ」



―――メイド秘技「殺人ドール」―――



次の瞬間、水晶の守護者達のその体に無数の刃が突き刺さった。

守護者は砕け散り、キラキラと破片となった残骸が落ちていく。



(これがこやつの・・・なるほどな。ではこれはどう捌く?)



ダンが右腕を上げた瞬間、天上から火球が豪雨のように降り注ぐ。



「私が再度防御する!早苗はさっきと同様に風を起こして火球を逸らして!咲夜は後ろに!」

「は、はい!」

「お願いするわ」



早苗の起こす神風により、火球の多くがその狙いを外した。

残りの火球もアリスの障壁によって防がれた。



(少しずつだが連携も慣れてきたようだな。若さ故、かな?)



ダンは内心苦笑しながらも、三人の連携を分析する。

アリスと早苗の攻撃も苛烈なものだったがこれはまだ何とか凌げる。

だが咲夜の的確な狙いは実に厄介だった。

油断をすれば間違いなくそこで終わりだろう。

しかしそれにばかり集中する訳にもいかない。

アリスの指示で、早苗と人形達は付かず離れずの距離を保ち攻撃を続ける。

そしてこちらの攻撃も素早い判断で防いでみせた。

攻撃も防御も即座に対応出来る布陣が整いつつあった。



(やれやれ、このままでは不味いか?)



ダンがそう思った時だった。

咲夜が勝負に出る。



「老人の体でよくそこまで耐えられますね?」

「老人だからこそ経験が生きているのだよ従者」

「ならば・・・経験した事の無い世界を見せてあげましょう!」



咲夜の雰囲気がまた変わった。

必殺にして必中、そして必滅の彼女の能力が発動する。



―――幻世「ザ・ワールド」―――



世界の時が止まろうとした、その時。



(今だッ!)



ダンは懐から狂気の魔導書、ネクロノミコンを取り出す。



「ネクロノミコンッ!ド・マリニーの時計よッ!」



魔導書が暗い輝きを放った後、奇妙な形の掛け時計が現れる。

そしてその時計が現れたと同時に、止まろうとしていた世界の時がまた動き出した。



「能力が発動しない!?まさか時間干渉が出来るなんて」

「ある程度の能力なら、私は魔術で再現出来るのでな」



自分の世界に介入出来る目の前の存在に、咲夜は恐怖する。

絶大な信頼を寄せる自らの能力。

それを防がれれば動揺せずにはいられないだろうというダンの予想は見事に的中した。

時間干渉の能力は絶大にして絶対だと、その力を持つ者は皆そう思っている。

だがダンは経験していたのだ。

時間干渉の能力を持つ能力者との戦いを。

そしてその対処法も彼にはあった。

ド・マリニーの時計。

時間を操るという規格外の力を持つこの狂気の魔具。

だがこれは彼の盟友、タイタス・クロウの持つオリジナルより力が劣るレプリカだ。

このレプリカはクロウがオリジナルを元に作成したもの。

それをダンがクロウから譲り受けたのだ。

しかしダンはこれを未だに完全に操作することは出来なかった。

時間干渉という魔術は、彼の力をもってしても手に余る怪物だった。

だが今回のように妨害する程度なら、問題無く彼は運用が出来たのだ。

咲夜の能力発動の瞬間も、ガーディアンを破壊したあの瞬間に見極めたのだ。



「咲夜!?どうしたの!?」



動揺する咲夜にアリスが何事かと叫ぶ。

ほんの一瞬だが、彼女はダンから目を逸らしてしまった。



「油断は死を招くぞ、アリス・マーガトロイド?」



ダンは続けて魔力の塊を空に打ち上げる。

ある程度の高さに到達すると、強烈な魔力の光が当たり一帯を照らす。

そしてその光に照らされた人形達は途端に動かなくなり、制御が利かなくなってしまった。



「みんなの制御が!?一体どうして!?」

「アリスさん!一体どうし「まずはお前だ」た!?」



混乱に乗じ、ダンは困惑する早苗に急接近する。

そして早苗の頭を片手で鷲掴みにして、早苗の両の目を睨みつけ暗示を掛ける。



「―――動く事を禁ずる―――」

「ッ!?体・・・が・・・」



早苗は空中に静止したまま動かなくなかった。

早苗はなんとか動こうとするが、体はピクリとも動かなかった。



「後―――二人」

「何をしたの!?ダン・ヴァルドー!」



アリスはダンに何をしたのか問い質す。



「幻想郷縁起を調べて、今の幻想郷の住人の能力はある程度把握している。
 十六夜 咲夜の能力を封じたのは、同じ時間操作の力を持つ魔術でそれを妨げたのだよ。
 アリス・マーガトロイド。お前の人形達はお前の魔力で動いているのだろう?
 その魔力を解析してあの魔力球でそれを相殺し停止させ、貴様の人形から制御権を奪わせてもらった。
 しかし東風屋 早苗の能力はよく分からなかったのでな。
 イレギュラーの存在が一番恐ろしかったが、ありがたい事に本人の戦いは素人同然だった。
 お前の指示でなんとか戦えていたみたいだが、その指示をお前が忘れ、茫然自失になったのが勝負の分かれ目よ。
 さてどうする?このまま続けるかね?」



戦いの流れが大きく変わる。

ダンという魔術師に有利な流れに。



「まだ二対一よ。負けてはいないわ」

「人形を失った人形遣いに何が出来る?」

「まだ――――――これがあるわ」



そう言ってアリスは手元の魔導書を構える。

それは普段は彼女の手によって封印されていた究極の魔導書。

彼女の最後の切り札がこの魔導書だった。



(まさかここまで圧倒的だなんて!こうなったらこちらも全力で)



アリスが魔導書の封印を解こうとしたその時だった。



「無駄だ、させんよ。――――――お前の人形達がな」



ダンのその言葉と同時に、今まで動かなかったアリスの人形達が一斉にアリスに襲い掛かる。



「何です・・・!?みんな!?どうしたの!?」



いきなりの出来事にアリスは混乱するしかなかった。



「アリス!?」

「お前程ではないが、私も人形遣いのスキルはある。制御権を奪った人形でこれ位の操作をするのは訳もない」

「クッ・・・・!」



アリスは拘束を解こうとするが人形達に邪魔されて上手くいかなかった。



「さて、残るはお前一人。しかしさすがよ。この状況でまだそこまで冷静でいられるとはな」

「・・・元々単独行動が主の私には、あまり関係の無いことよ」

「ほう、その程度の腕でそこまで吼えるとは感心だな?」

「・・・何ですって?」



ダンの言動に咲夜は少しばかり苛立つ。

普段の彼女なら、この程度の挑発など涼しげに受け流せたのだが、動揺している今は違った。



「ククク・・・失礼、図星だったかな?・・・・・・お嬢さん」

「・・・・・・くぅ」



憎らしく嘲笑を浮かべるこの魔術師が実に腹立たしかった。

自分の絶対の領域に、世界に踏み込み蹂躙したこの老害が許せなかった。

咲夜は普段誰にも見せることが無いような怒りの形相でダンを睨み付ける。

ダンの挑発が続く。



「かつて私を殺しに来たお前の先達は実に恐ろしかった。油断をすれば即座に死が待っていた。
 お前には少しばかりあの恐怖を感じたが、なんの事はない。今も私の言動に苛立つお前は、あのアサシンとは似ても似つかん存在だ。
 半人前か・・・それとも腕を落としたかな?」

「貴様・・・・・・」



ダンの挑発に怒り、咲夜は殺気の塊となる。



「・・・やはり若いな。だから自身の敗北が分からないのだ」

「何・・・ッ!?何が!?」



咲夜は光の束に拘束され、行動を封じられる。

冷静さを欠いて、ダンの動きに注意がいかなかったのだ。

更に彼女の上空に一つの魔方陣が浮かび上がる。



「さっさと行動すればよかったものを。悠長に待っているからこうなる」

「クッ!こんなもの!」



咲夜は振り解こうと暴れるが無駄に終わる。



「この戦い。お前が一番の強敵だった。楽しませてもらった礼だ。受け取れ」



上空の魔方陣は輝きを増していく。



「―――光あれ―――」

「咲夜ァァァァァァッ!」

「咲夜さぁぁぁぁんッ!」

「――――――申し訳ありません、お嬢様」




















次の瞬間、光が咲夜を包み込んだ――――――――――――だけだった。



















「・・・・・・あれ?私・・・生きて?」



訳が分からないといった表情で困惑する咲夜。



「誰が殺すと言った、たわけ。私はただ光りあれと言っただけだぞ?」



意地悪そうな笑みを浮かべる目の前の魔術師。

咲夜は顔をみるみるうちに赤くする。



「か、か、からかいましたね貴方!」

「からかわれる方が悪いというのが自論でね。さて、お前達の拘束も解くぞ?」



そう言った瞬間早苗の暗示は解け、アリスの人形達の制御も元に戻る。



「さて、それでは評価を言い渡す。―――まずは東風屋 早苗、お前からだ」

「え?は、はいぃ!」



早苗はダンのその静かな圧力に負け、情けない返事をする。

それは昔、学校で苦手だった先生に似た圧力だった。



「お前は戦闘に関しては素人そのものだ。もう少し自分の神に戦い方を習え。軍神に仕える者がそれでは信仰に響くぞ?
 弾幕ごっこ以外の戦闘方も学ぶべきだ」

「も・・・もっともです」

「そしてお前は妖怪を見かけては見境無く対峙するらしいな?そのような分別の無い者が仕えている神に信仰が増えると思うかね?」

「で、でも幻想郷じゃ常識に囚われてはいけないのでは?」

「確かに、この世界は常識外の世界だ。だがお前はまだ若い。若すぎる。そのセリフを言いたいなら、まずは常識を知る事だ。
 真に常識というものを理解出来なければ、いざ常識を抜け出そうとしても、本当に抜け出せたか分からない。それでは意味が無い。
 分かったな?」

「うう、はい」

「いつかお前の神とその事についてみっちり話させてもらうから覚悟しろ」

「そ、そんな!」



それはまるで、出来の悪い生徒の家に家庭訪問に行く事を告げる先生のようだった。



「次にアリス・マーガトロイドお前だ」

「な、何よ?」



若干引きながらアリスは答える。



「一番の年長者であろうお前が異常事態にすぐに対応出来ないでどうする?今回の敗因はお前のミスによるものだ」

「一番の年長者って、それは」

「何か間違ってるか?」

「・・・・・・いえ」

「そうか。さて、続けるぞ。つまりだ。あのままなんの問題も無く対応出来ていれば、恐らくは勝っていた。
 それを自分で棒に振るとはな。そしてその魔導書にしてもそうだ。
 持てる力を使わずに勝てる訳がなかろうに。それを最初から使っていればまた状況は変わっただろう。
 ・・・お前も神綺と話をさせてもらう。いいな?」

「・・・・・・はい」



アリスはシュンとなって答える。



「そして―――十六夜 咲夜」

「・・・何か?」



先の二人を見て、嫌な予感しかしなかった。

覚悟を決めた。

もう矢でも鉄砲でも持って来いと咲夜は腹を括った。



「今回はお前がこの戦闘でもっとも貢献し活躍したな。
 即座に自分達の能力を把握し、それぞれのポジションに着くように言ったその判断力は大したものだ」

「・・・へ?」



予想外のことを言われ、咲夜は拍子抜けする。



「戦闘の腕も良かった。お前は・・・そうだな。自分を今一度見つめ直すことが大事だ」

「それだけ・・・ですか?」

「それだけだ。強いて言うなら、もう少し煽りに耐性を付けろ」

「は、はあ。分かりました」



なんとも間抜けな声で咲夜は返事をした。



「他は・・・そうだな。あの時のお前の困惑した表情はなかなかに面白かった」

「ちょ!え?な、何を!?」

「普通ならこれをネタにからかい続けるのだが・・・今回のお前の活躍に免じてそれは無しにしよう」

「は?・・・はい」



良かったのか悪かったのか。

咲夜は判断しかねていた。



「では、全員今日の事をしっかりと覚えておけ。それでは――――――これにて講義を終了する。各自、気を付けて帰るように」



そう言ってダンは三人の下から去って行った。

その顔は、実に晴れやかなものだった。



「何だったんでしょうね・・・私達?」

「知らないわよ・・・そんなの」

「・・・お母さんに何て言おう」

「「「はぁ・・・」」」



後には三人の溜め息だけが残った。






































自分の気分を盛り上げる為にBGM聞きながら書いてましたね。

三人のターンはヘイ、たたかってるぜ!を聞きながら。

ダンのターンは天空のグリニッジを聞きながら書いてました。

戦闘描写・・・これが私の限界だった。

彼を全力で戦わせる訳にはいかなかったもので・・・

この身の未熟さが憎い!

もし何か注意点があったら遠慮せずにガンガン言ってください。

次の戦闘シーンに生かしたいと思いますので。

それでは!



[21723] 第十四話 Shall We War ?
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/09/26 12:41



三人に勝利しまた博麗神社に向かうダン。

キツイ西日の陽光がジリジリと彼を焼き付けてくる。

少々時間を取ってしまったがこのまま向かうなら何の問題も無い。

むしろ時間が余ってしまうかもしれない。

さてそうなったらどうやって暇を潰そうかなどと薄ぼんやりとダンは考える。

今頃霊夢と魔理沙は白玉楼で戦闘中のことだろう。

そう思い飛行している最中だった。

ただ一つの感情が、世界を一瞬で変質させた。

















「――――――こんにちは大魔導師さん。綺麗な夕日ね」



















凄まじい殺気がダンの全身を容赦無く飲み込む。

常人ならばこれだけで失神し、気の弱い者ならショックで絶命しているだろう。

それだけの殺気を目の前の存在は放っていた。

魔術師の前に現れたのは可憐な花の妖怪。

そして幻想郷最強の妖怪の一人。

フラワーマスター風見 幽香その人だった。



「・・・・・・何か用かな・・・風見 幽香?」

「遊びましょう♪」



花のような満開の笑みを浮かべて幽香はダンに命令する。

そう、命令だ。

これは間違いではない。

更に言えば死刑宣告だ。

それに対するダンの返事は?



「断る」



一瞬の躊躇も迷いも無く、きっぱりと彼は言い放った。

幽香はそれを聞いて、まるで訳が分からないといった表情でキョトンとなる。



「・・・どうしてかしら?この私が遊びましょうって・・・命令してるのよ?何で素直に聞かないのかしら?」

「用事の最中だからだ」

「この私と一時を過ごすよりも大事な用件なんてあるのかしら?」

「然り」

「・・・・・・・・・アハハハハハハハハハハ!良いわぁ貴方!やっぱりとても素敵だわ!」



幽香は狂ったように笑いだす。

愉快で愉快で堪らないと言うかのように。

予想通りの彼の返答に彼女は喜んだ。



「私、あの宴会の時貴方と久しぶりにあって・・・疼いたのよ。貴方なら弾幕ごっこなんて温い戦いなんてしない。
 情熱的に私と殺し合いをしてくれる。だけど貴方は、あの時私の申し出を断ったわよね?あれから大変だったのよ。
 体の火照りを治めるために雑魚の妖怪と戯れていたけど・・・全然駄目!話にすらならなかったわ!」



そう語る幽香の顔は若干赤く蒸気して、愉悦の笑みを浮かべる。

あの宴会の後、幽香はその疼きを抑える為に目に付く妖怪やひょっこり現れた外来人を殺して回った。

その者達は不幸にも生かさず殺さずたっぷりとなぶられて死んでいった。

殺してくれという懇願など無視され、彼女の気が済むまで相手をさせられた。

しかし彼女が満足する前に皆は逝ってしまった。

実に腹立たしかった。

イライラして、イライラして、イライラして。

そしてまた獲物を求めたが、同じことの繰り返しで彼女の苛立ちは更に悪化した。

しかし今は違う。

この魔術師に会った瞬間、彼女の苛立ちは全て清々しい高揚感に変わっていた。

あの苛立ちはこの瞬間の為に存在したのだと彼女は歓喜した。

全力での殺し合い。

久々にそれが出来る。

そう思うだけでウズウズして、ワクワクして、ドキドキして楽しくなってくる。

しかも相手はその自分の想いにそれ相応に、いやそれ以上のもので答えてくれる、彼女自身も認める強者の一人だ。

今の幽香にとってダンは、喉から手が出てそのまま飲み込みたい位に魅力的な御馳走そのものだった。



(それもいい。けど駄目、駄目よ駄目。そんな事したら。こんな最高の相手を一瞬で食べるなんて勿体無いわ。
 ああでも、でもでも!彼ならきっと私の全部を受け止めてなお立っていられるわ!
 私のこの想いを受け止めてくれるに違いないわ!ああ!なんて幸せ!なんて幸福!なんて・・・なんてそそられるのかしらッ!)



彼女は高揚し、陶磁器のように白く輝くその肌が赤く上気する。

美酒に酔いしれるかのように目はとろんと潤んで彼だけを見つめ続ける。

右手はそっと唇に触れ、軽く舌なめずりをする。

常人ならその姿を見ただけで喜んで彼女に自らのその命を捧げるだろう。

それはまさに神話に出て来る、蠱惑的に獲物を誘う美しき美貌の怪物のそのものだった。



「随分と欲求不満なのだな、幽香よ」



ダンはそんな怪物にいつもの毒舌で返事を返す。

だがそれを聞いても彼女は彼に対し愛しそうに笑うだけだった。



「ええそうよ・・・貴方と戦いたくて戦いたくて・・・殺し合いたくて殺し合いたくて・・・一日億秋の想いでいたのよ!」

「ふん、男冥利に尽きる話だ・・・お前でなければな」

「酷いわね・・・ずっとずっと貴方との思い出を思い返していたのよ?貴方との思い出、ただそれだけをずっと!
 ねえ覚えてる?私と初めて会ったあの日の出会いを?」

「あの向日葵畑に見惚れたのはな。だがそれ以外に何かあったかな?」

「酷い人・・・私との楽しい一時を忘れたの?」

「あれは殺し合いだろう?それを楽しい一時とはな」



いきなり話しかけられたと思ったら、次の瞬間には殺し合いに発展していた。

ダンにとってそれは忘れたくても忘れられない思い出であり、そして様々な意味で忘れたくない大事な思い出の一つだった。



「ええそう!ああ、本当に楽しかったわ!
 貴方の苦悶の表情・・・砕ける骨の音・・・焼ける肉の匂い・・・今でもはっきり思い出せる!その度にゾクゾクしたわ!」

「年寄りはこれだから困る。自身の昔の思い出を美化し過ぎるからな。忘れたか?最後に膝を屈し、私に敗北したのを」

「もちろん忘れるわけないわ。・・・貴方の容赦無い攻めは良かった。・・・最高に感じたわ」



幸せそうに高揚するその表情から、彼女が本心からそう思っていることが伺えた。



「・・・・・・チッ、この戦闘狂が」



忌々しいとでも言うかのように舌打ちをするダン。

そんな彼も知らず知らずの内に頬の肉が上に持ち上げられ、楽しそうに歪んだ表情になっていたが。



「嬉しいわ。貴方にそう言ってもらえるなんて」



幽香はダンの言葉とその表情に満足そうにまた笑う。

ダンの毒舌も、この戦闘狂には楽しい歌にしか聞こえないようだ。



「今回の異変、貴方が元凶でしょう?」

「それがどうした?」

「どうしてこんな事をしたのかしら?」

「言ったら退いてくれるかな?」



答えなど分かりきってきたが、一応ダンは幽香に聞いてみる。

幽香はにっこりと笑って答える。



「邪魔するわ。当然じゃない。だってそうすれば貴方だって本気で、全力で戦ってくれるでしょう?
 ・・・もう駄目。我慢出来ない、したくない、するもんですかッ!この瞬間をどれだけ待ったかッ!
 どれだけの想いで待ち続けたかッ!やっと!やっとお前と戦える!誰にも邪魔させない!誰にも止めさせない!誰にも!誰にもだ!」

「ふん、やはりそう来るか・・・よかろう。ならば久々に起こそうではないか・・・戦争をなッ!」



幽香のドス黒い圧力が更にきつくなる。

そしてゆっくりと愛用の傘を構える。

ダンも自身の魔力を極限まで高める。

彼の手に一振りの黒金の魔杖が現出する。

二人の威圧により周囲は異界と化す。

戦場という異界に変質させられる。




















「さあ、始めましょうダン・ヴァルドー!素晴しき闘争の宴を!そしてもう一度私に、あの快感を思いださせてみせろ!
 手加減なんてしてみなさい。そんな事したら――――――ぶち殺してあげるわッ!」




















――――――最強の魔法使いと最強の妖怪が全力で殺し合う。

――――――幻想の世界が、揺れる。







































どうも荒井スミスです。

今回は如何だったでしょうか?

やはり幽香さんはこうかなと、私なりにエロース!とバイオレーンス!を盛り込んでみたのですが・・・どうだったかな?

ウギャー!ハズカシー!ミモダエスルー!

次回はいよいよ戦争の開幕です!

怪獣頂上決戦を目指して頑張ります!

それでは!



[21723] 第十五話 災厄の闘争
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/09/26 18:19





ダンは杖を、幽香は傘をお互い突き出す。

そして開始早々、二人の攻撃はほぼ同時に行われ放たれた。



「「マスタァァァァァァァスパァァァァァァァァクッ!」」



膨大にして暴力的な力の塊がぶつかり合う。

マスタースパーク。

今では霧雨 魔理沙の代名詞とも言えるこの業。

だが元々この業を生み出したのは風見 幽香その人であった。

と言っても、このマスタースパーク。

初めは彼女にとってはただ攻撃手段の一つだった。

マスタースパークなんて名前もそもそもは無かった。

彼女にとってただ一番使いやすかったから、だからずっと使い続けてきた。

それだけだった。

そしてそれを使い続けた結果、必殺と呼ばれる程の業にまで何時の間にか昇華されていた。

ただそれだけのことだった。

徹底的に磨き上げられた暴力の一撃。

それがこの業の正体だった。

ダンは幽香との数々の戦いの中でこの業に目をつけ、その魔技を盗み出したのだ。



「アハハハハハハ!どうしたの?こんなものじゃないでしょう!」

「相変わらずの馬鹿魔力がッ!」



同じ名前の同じ性質の業。

しかし使い手が違えば業の質もおのずと変わってくる。

二人の業は拮抗している状態だったがその様子はお互いまるで違った。

ダンのマスタースパークは徹底的に魔力の密度を高めた代物。

幽香のマスタースパークは圧倒的な魔力の物量を篭めた代物。

お互いの業がぶつかり合った瞬間、幽香の業はダンの業に切り裂かれ拡散する。

それに対して、ダンの業は幽香の業のその膨大な質量に押し返されそうになる。

自身の性質がそのまま現れて放たれる業。

それがこの業、マスタースパークの本来の性質なのかもしれない。

だからこそダンは気付いたのだ。

幽香の業に、今まで感じたことの無い違和感を。



(・・・・・・これは、一体?)



ぶつかり合った力はついに臨界に達しその場で爆発し、辺りを爆風が襲う。

爆発により、お互い遠くに飛ばされたが特に負傷はしなかった。

幽香はやれやれといった感じで首を横に振る。



「まったく貴方といいあの白黒といい・・・人の業を盗むのが好きなのね。本当いやらしいわ」

「使い勝手の良いシンプルな業だからな。・・・誇れ風見 幽香。この業を生み出した事を」

「ええそうさせてもらうわ・・・・・・貴方を殺した後でねッ!」



幽香は魔力の嵐を巻き起こし、ダンを亡き者にせんとその力をぶつける。



「甘いッ!」



直前まで迫った魔力の嵐を、ダンは己の魔力の波動をぶつけて相殺する。

続けてダンは力ある言葉を紡ぎだす。



「―――ヴァーユ―――」



青色の円形の光の魔法陣が幽香を囲む。

ダンの詠唱は続く。



「―――テジャス―――」



更に赤色の三角形の魔法陣が重なる。

その瞬間、赤の魔法陣から業火が生まれ、青の魔法陣から暴風が誕生する。

紅蓮の竜巻がその場に光臨し、幽香を飲み込む。

これで決まったかと思われたその時、ダンはその竜巻に向かって言い放った。



「・・・・・・さっさと出て来い幽香」



ダンのその発言に反応するかのようにして、竜巻は一振りでかき消される。

現れたのは風見 幽香。

火傷一つ、衣服には焦げ一つ無く彼女はそこにいた。



「・・・熱かったわ。体が火照っちゃった。でも残念ね。私はもっと恋焦がれるような炎に焼かれたいのよ。
 あんなのじゃ駄目よ駄目、全然駄目!」

「消し炭程度にもならんか」



ただの大妖怪なら、死にはしないだろうが四肢が炭化する程度の火力はあった。

そんな火力を浴びても、幽香は髪に焦げ一つ残さずに生きていた。

楽しそうに笑いながら妖怪は告げる。



「もっともっと――――――熱く踊りましょう!」



空に浮かぶ幽香の影が二つに割れる。

二人の幽香が楽しそうに笑う。



「「これからよ!もっと私を熱くさせなさい魔術師!」」



二人は傘を構え、その構えた傘から再度同じ業を放つ。



「「―――ダブルスパーク―――」」



膨大な魔力の奔流がダンに襲い掛かる。



「くぅ!世界の奔流よ!我は汝の運命を定める!―――歪め!」



ダンの言葉により幽香の必殺の閃光は軌道を逸らされる。

直進する光は大地に注がれ、爆音を上げた後にキノコ雲を上げ辺り一帯を焦土に変えた。



「ああ、凄い!凄いわダン!相変わらず貴方は素敵ね!」

「でもまだ始まったばかり!もっともっと・・・もっともっと楽しみましょう!」



二人の幽香は楽しそうに笑う。

久々に本気を出しての戦いに酔っているようだった。

だが一方ダンは、不可解そうに自分の手の平を何度も開いたり閉じたりしている。



「・・・・・・・・・・・・」



それはまるで何かを確かめるかのような仕種だった。



「何をしているのダン?」

「まさかもう終わりだなんて言うつもりじゃないでしょうね?」



幽香達はそんなダンをおかしく感じる。

気を取られ油断をしている、という感じではなかった。



「・・・・・・幽香よ。お前に言いたい事がある」

「・・・・・・何かしら?」



ダンは今まで自分の中にあった疑問に確信を抱いていた。

そして彼はそれを幽香に告げる。




















「幽香よ、お前は――――――弱くなったな」


















幽香は一瞬何を言われたのか分からなかった。

だが言われた事を理解すると、彼女は恐ろしい怒りの形相を浮かべる。



「私が・・・弱くなったですって?」

「然り。お前は弱くなった」



ダンはまた幽香に同じ事を告げる。



「まずお前と会った時にお前が出したあの殺気だ。確かにあれは冷たい、常人なら耐えられない殺気だ。
 だが、それだけだ。お前の殺気を私は恐ろしいと感じる事がなかった」

「・・・・・・・・・・・・」

「かつてのお前ならあんな温い殺気など出さなかった。感じただけで死のイメージが幻視出来るほどの恐怖をぶつけてきた。
 冷や汗が止まらずにダラダラと流れ、いっそ殺してくれと思わせるようなかつてのお前のあの殺気は一体何処に行った?
 あのマスタースパークにしてもそうだ。魔力の練り上げが前よりわずかに甘い。それに――――――」



ダンは僅かに手を動かす。

その瞬間、分身体の幽香の体全体の皮膚から鮮血が噴出する。



「グッ!?ガァァ!!!!」



分身の方の幽香はバラバラに吹き飛ばされ消滅した。



「ッ!?そんな!?」

「分身の構成もそうだ。前は見分けが付かなかったが今は一目瞭然。実力は・・・オリジナルの九割五分といったところか?
 気付かれないようにしていたとはいえ、あの程度の呪術で消滅するとは・・・お粗末過ぎる。最強の名が泣くぞ風見 幽香?」

「き・・・貴様ぁ・・・!」



幽香の放つ殺気が先ほど以上に黒く凶暴なものになる。

しかしダンは涼しげにその殺気を受け流す。

その殺気がまったく通用しないと言わんばかりに。

逆にダンの方からそれ以上の殺気と魔力の圧力が放たれる。



「クッ!?こんな・・・!?」



恐怖した。

恐怖の化身とすら呼ばれたこの私が?

ありえない。

弱くなった?

最強の妖怪を自負するこの私が?

ありえない!

そんなことがあってたまるかッ!そんな、そんなことが――――――認められるものかッ!




















「思いださせてやろう風見 幽香。かつてのお前の恐怖と強さを。そして――――――私が何者であるのかッ!」





















魔術師が黒金の魔杖を振り下ろす。

それに呼応するように天空から八つの光の柱が降り注ぎ、自分達の周囲を取り囲む。

そして全ての光の柱の、その全体からおびただしい量のレーザーが発射され幽香に向かい襲い掛かる。



「ッ!?なめるなぁぁぁぁぁぁぁッ!」



その掛け声と気迫の圧力で幽香に迫るレーザーは全て軌道を逸らされ、命中することはなかった。

だが次の瞬間、幽香の周囲に存在していた光の柱全てが驚くべき速さで幽香に迫ってきた。



「――――――なめるなとッ!」



マスタースパークを再び放つ幽香。

そして――――――



「言っているだろうがぁぁぁぁぁぁッ!」



発射してる最中でそれを横一文字に振るう。

迫り来る光の柱はその一閃に滅される。



「巨人よ怒れ!その牙を!剣を!槍をもって穿ちませいッ!」



魔術師の力ある言葉により大地が隆起しそのまま無数の鉱物の槍と化し進撃する。

まるで一つの山が、いや、小さな山脈が急激に誕生し成長しているようだった。



「こんなもので何が出来るかッ!」



幽香は急上昇しその進撃を回避する。

鉱物の槍の進撃もある程度の高さで止まる。

下には小さな針の山脈が誕生していた。

山脈は西日に照らされて、長く鋭い影が多数出現した。

魔術師は次の一手を実行する。



「ティンダロスの猟犬よ!その満たされぬ空腹を癒すがいい!眼前の獲物を食い尽くして!」



九十度以下の山脈の槍の先の、そしてその影の鋭角から黒き煙が噴出され、煙は集まり異形の怪物となり出現する。

ティンダロスの猟犬。

満たされることのない空腹を持つ執念深き不浄の狩人。

時や次元を超え永久に獲物を追い続け最後には食らい尽くす怪物。

大量に出現したその猟犬達は、幽香を獲物と定めた瞬間に一切の躊躇無く一直線に飛び掛っていく。



「しゃらくさい真似をッ!」



すかさず弾幕を張り迎撃していく幽香。

猟犬達は我先にと目の前のご馳走を食らう為に突撃する。

その為弾幕をもろに浴びてバタバタと死んでいく。

それでも異形の怪物達は諦めることなく幽香を目指す。

目の前の存在を食らえるのなら構わないと言わんばかりに。



「チィッ!しつこい!」



一方ダンはその間に懐から一冊の本を取り出した。

ネクロノミコンとは違うもう一つの彼の秘蔵の魔導書。

ソロモン王の小さき鍵、ゲーティア。

七十二柱の悪魔の召喚に関する記述が記載された禁断の書。

ダンはそれを開き詠唱を始める。



「堕ちた古の神々にして暗黒の使徒よ。地獄の軍団率いし七十二の悪鬼達よ。
 我の与えし仮初の肉体にその偉大な魂を降ろし、我が敵を打ち滅ぼせ!」



空中に独特の形の七十二の魔方陣が出現していく。



「あれは・・・不味い!こうなれば」



幽香はそれに気付き猟犬達を一気に一掃する手段に出た。

上空に飛び魔力の閃光を放つ。

そして迫り来る猟犬達を、猟犬達が召喚され続ける山脈ごと吹き飛ばし消滅させた。

幽香は急ぎダンを迎撃しようとする。

だが、時は既に遅かった。



「さあ、出でませい!ソロモンの悪魔達よ!」



その言葉と同時に、七十二の魔方陣から次々と悪魔達が出現していく。

その全ての悪魔がダンと同様の殺気を放っていた。

あまりに似過ぎていて不気味な位の殺気を。

それもそうだろう。

なにしろ悪魔達はその意思をダンの分割思考によって全て制御されているのだから。

つまり目の前の存在達は七十二柱の悪魔の体を支配し分身とするダン・ヴァルドーという群れなのだ。

もちろん幽香はそんなこと知ったことではないが。



「―――さあ、往くぞ?―――」



七十二の悪魔達と一人の魔術師が同時に声を発し、そして行動を開始する。

ダン・ヴァルドーがそれぞれの魔の業を幽香に向かい発動する。

地獄の業火が。

暗く輝く吹雪が。

押し潰す流砂が

切り裂く突風が。

打ち砕く雷撃が。

狂気の呪詛が。

腐敗の猛毒が。

おぞましい疫病が。

この世のありとあらゆる災厄が彼女に襲い掛かった。



「クソガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」



反撃する間も無く、幽香はその災厄の波に飲み込まれた。

災厄はそのまま地面に着弾して、その周囲の世界を殺していく。

あれをまともに喰らって無事で済むはずがない。

最強と呼ばれた者の呆気無い最後だった。



「・・・・・・・・・終わり、か。あまりに呆気無さ過ぎる。この程度の業で終わるなど」



ダンは失望していた。

この程度の攻撃、全盛期の風見 幽香なら苦も無く捌けただろう。

それがまさかこのような結末になろうとは。



「猛き者もついには滅びぬ。ひとえに風の前の塵に同じ、か。
 あいつに限ってこんなことはないとは思っていたのだが・・・こうなるとはな。
 残念だよ、非常に残念だ。最強と呼ばれたあの風見 幽香と戦えなかったことが残念で仕方ない」



せめて祈りの言葉の一つでも掛けてやろう。

そう思ったその時。

分身体の悪魔達が次々と消滅していく。



「一体何がッ!?―――まさかッ!」



ダンはもしやと思い災厄の着弾点を急ぎ見る。

粉塵舞う中からいくつもの閃光が放たれる。

悪魔達はその閃光にのまれ塵に、灰に、そして土に還っていく。

そして全ての悪魔が消滅したその瞬間、ダンは自身の体が爆ぜる――――――幻覚を見た。



「これは、まさか!?」



ダンの体に膨大なプレッシャーが掛かる。

息は碌に出来ず、奥歯はガタガタと振るえ、冷や汗が滝の如く出て来る。

これは殺気だ。

どこまでも純粋でおぞましく洗練された殺気だ。

あいつの、あいつの殺気だ!

粉塵が晴れ、災厄の残滓が吹き飛ばされ、一つの存在が現れる。

衣服は所々裂けて、焼けて、腐って、素肌が見え隠れする。

全身はボロボロになり血はダラダラと流れる。

その存在は目を瞑ってただ静かに佇んでいた。

そしてその目は開かれた瞬間、空に浮かぶ魔術師を見据える。

次の瞬間、ダンの思考の隅々を恐怖が支配する。

逃げろ逃げろと警告を発する。

ダンはその思考を即座にカットして眼前についに現れた愛しき宿敵を凝視する。




















「そうだ、お前だ!お前に会いたかった!久しぶりだな、風見 幽香よ!我が長年の宿敵よ!」

「――――――五月蝿い、黙れ屑が」




















幽香は自身の愛用の傘を見る。

傘は先ほどの幽香の放ったマスタースパークに耐えられず、見るも無残な姿形に成り果てていた。



「使えない。これも邪魔ね」



幽香は傘を投げ捨てる。

彼女の両の手に膨大な魔力が篭められ発光する。

自身の体の隅々に力がみなぎって来る。

久しく感じる事の無かった力の奔流が彼女を支配する。



「懐かしいわね。そう、そうだったわ。これが私だったわ。風見 幽香だったわね」



災厄の波に飲み込まれた時、彼女の体は徹底的に破壊された。

肉体も、精神も、魂も何もかも。

そしてそれは、彼女が無意識の内に造りだした枷すら破壊した。

その瞬間に彼女は蘇った。

かつての自分を取り戻して。

最強の称号を持つ修羅が、恐怖の化身と呼ばれた羅刹が帰還した。



「待たせたな、魔術師」

「ああ待ったぞ、最強」

「そうか、では楽しませてやるッ!」

「では、そうさせてもらおうかッ!」



幽香の両の腕の先からマスタースパークが一切の貯めも無くノータイムで連射される。

威力も、速度も、数も、先ほどとは桁違いだ。

ダンは戦闘方法を切り替える。

先ほどのまでの数で攻めた戦闘方法から超高速戦闘方法へと。

迫り来る光の束を、ダンは即座に転移して回避する。

そして幽香の上空に出現し、そのまま特攻する。



「ウオォォォォォォォォッ!」



黒金の魔杖に魔力が篭められ黒き光の刃が出現し、幽香の首を落とさんと迫る。



「クッ!?」



その刃を幽香は寸前の所で回避する。

そしてカウンターを叩き込もうとしたその時、魔術師はまた転移する。



「何処へ!?――――――下だとッ!」



先ほどと同じように、魔術師は黒き刃を持って幽香に斬りかかる。

それをまたギリギリで回避する幽香。

そして回避された瞬間に魔術師はまた転移し、今度は彼女の背後から斬りかかる。

また回避する幽香と転移しまた死角から襲い掛かるダン。

ダン・ヴァルドーの行う超高速戦闘。

それは飛行速度の上昇と空間転移の応用だった。

ダンはただ、全速力でまっすぐ進んでいるにすぎない。

全速力で、旋回すら出来ぬほどの速力で。

そして空間転移による軌道の変更によって、それを旋回の代わりとしたのだ。

それがこの本来ならありえない軌道速度と移動方法を生み出していた。

何処から現れるか分からない死の突風。

今のダンはまさしくその通りの存在になっていた。

幽香はそれを紙一重でかわし続ける。

このままではいずれその首が落ちることになる。

幽香は魔力を練り上げ、そして全方位にマスタースパークを放った。



「ッ!?いかんッ!」



即座に転移してこれをかわすダン。

しかし幽香は攻撃を止めることなく無秩序に光の災厄を振りまく。

本来の目標に当たらなかった災厄は地表に着弾したとたんに火柱を上げる。

それが何度も発生してダンに襲い掛かる。

光は雨となり振り注ぎ、火柱はその雨と同じ数だけ発生し焦熱の森が出現していた。

ダンは転移を繰り返しながらこれを回避していった。



「接近は無理か。ならばッ!」



ダンは幽香の周囲を高速で飛び続ける。

するとダンの通った後に魔方陣が連なるように次々と浮かび上がってくる。

その魔方陣から幽香に向かい、様々な魔術が飛び出し襲い掛かる。

だが――――――



「――――――ア゛ン?」



幽香がただ一言発した瞬間、魔方陣と魔術はその気迫によりかき消された。

ただの気迫が、ダンの魔術を打ち消したのだ。



「・・・素晴しい。そうだ、やはり・・・こうでなくては、な」



懐かしかった。

今感じているこの絶望感、この敗北感、そしてこの高揚感が。

あれを打倒することが出来たらどれだけ楽しいだろう?どれだけ興奮するだろう?

あの最強の存在、最強の幻想を倒すことが出来たらどれだけの愉悦が味わえるだろう!

あいつを倒す為なら何だってしてやろうッ!

そうだ、今のこの私こそが本来の私だッ!

一つのものを目指し挑戦し続ける者がこの私だッ!

――――――そうそれが、ダン・ヴァルドーという大魔導師なのだよッ!



「・・・・・・ふぅぅぅぅぅ」



幽香はマスタースパークの一斉掃射を止めて一息付く。

実に清々しい気分だった。

この解放感、この充実感、この高揚感。

実に懐かしく、清々しいものだった。

だが、それだけではなかった。

自分の体が悲鳴を上げる。

彼女のその絶大な力が彼女自身を傷付けていたのだ。

息を切らしているのがその証拠だ。

ダンもまた幽香同様に疲労していた。

汗を流し、体が重く感じるのがその証だ

ダンと幽香の戦いは開始してから十分ほど続いていた。

幽香は死力を尽くしてダンを攻めた。

一撃を繰り出す度にそれは研ぎ澄まされていった。

そして何度も魔術師の命を刈り取りかけた。

ダンの業も幽香の命を何度も終わらせかけた。

魔術を放つ度にその命を掴み取ろうとした

ダンも全力を持って幽香を攻めた。

まさに怪物と怪物の戦いだった。

だが形勢は――――――僅かながらダンが優勢だった。

いくら幽香がかつての力を取り戻していっているといっても、それはまだ全盛期のものとは言えなかった。

幻想郷での長きに穏やかな生活が、かつての彼女の力を奪っていた。

それでも彼女が倒れないのは、彼女が間違いなく最強の存在だからだ。

いくら力を落としたといっても、彼女のその称号はその程度では揺るがない。

ただ相手が悪かったのだ。

ダン・ヴァルドーもまた、その最強の存在の一人であったのだから。

研鑽を続けたかそうでないか。

安寧を享受したかしてないか。

たったそれだけの事。

それだけの事だったのだ。

幽香がもし全盛期の力を維持し続けていたなら、今はどのような状況になっていたか。



「はぁ・・・はぁ・・・さすがにやる。最強・・・やはり、伊達ではないようだな・・・」

「く・・・はぁ・・・当たり、前よ。酔狂で名乗ってる訳じゃない・・・のだもの・・・」



お互い息を切らせてはいたが、疲労は幽香の方が断然重かった。

久方ぶりの全力に体が追い着かなかったのだ。



(・・・お笑い種ね。まさかここまで体が鈍っていたなんて。何が最強よ・・・クソ!)

「・・・戦っていて分かるぞ幽香。そこまで歯痒いか?」



幽香の心中を察したダンは彼女に向かってその言葉を投げかける。



「・・・当たり前よ。ここまで体が錆付いているなんて、思ってもみなかったわ」

「お前がそこまで弱っているとは私も驚きだ。久方ぶりに楽しめたのだがもう終わりか・・・残念だ」

「もう終わったような言い方ねダン?油断は死を招く。貴方の口癖よ?」

「その自論は今も変わらん。――――――だからこれで終わりなのだよ」



幽香の上下左右前後全てにいくつもの魔方陣が展開される。



「ッ!?しまった!」

「そこは小さき世界也。小さき誕生と終焉の世界也。我はこの世界の創造主にして暴君也。我はこの世界に命じよう。無慈悲に。
 誕生しそして終焉の幕を下ろせ。内包するその生命と共に」



魔方陣の中に一つの世界が誕生し、光輝き終焉を迎えようとする。

















「許せ幽香。――――――終焉する小世界の劇――――――」



光と共に、小さな世界が終わる。


















「・・・・・・此処は?」

「気が付いたか幽香」



幽香の目の前には先ほどまで戦っていた魔術師の姿があった。

そしてこちらに手を向けて、自分に何かの魔法を行使していた。



「貴方何を!?ック、体が!?」

「手加減したとはいえ私の奥義を食らったのだぞ?無事で済むはずがあるまい」



幽香は木に背を預けて動けない状態だった。

ダンは幽香が起きるまでの間からずっと治癒魔法をかけ続けていたのだ。



「・・・どういうつもり?私に情けでも掛けようっていうの?」

「あの時、許せと言ったろう幽香?」

(あの時のセリフはそういう意味だったの・・・)



幽香は体を起こそうとする。

だが体はギシギシと痛むだけでまともには動いてくれなかった。



「動くな・・・まだ終わっていない・・・」

「これだけやれば十分よ」


幽香はそう強がりを言うがダンはそれを見抜く。



「まともに動くのも辛いのにか?」

「・・・・・・・・・・・・」

「行き掛けの駄賃だ。最後までやらせろ。敗者は勝者の言う事を聞くものだ」

「・・・・・・分かったわよ」



幽香も観念して治療を受け入れる。



「・・・・・・どうして」

「うん?」

「どうして・・・貴方は」

「殺さなかったか、か?それとも助けたこと、あるいはその両方か?」

「・・・ええ」



あの時確かに、お互い本気で相手を殺そうとしていた。

それなのにどうしてこの男は止めを刺さなかったのだろうか?

幽香はそれが気になっていた。

ダンは少し考えた後に幽香にその理由を話した。



「友人だからだ」

「・・・え?」



幽香はその言葉に思わず我を忘れた。



「昔からの友人というのは貴重でな・・・私とて、共に昔を語りたい友が欲しい時もある」

「それだけ・・・なの?」

「私達には・・・十分過ぎる理由だろう?」

「・・・そうね」

「もっとも、お前が昔のままだったら迷わず殺していたがな」



ダンは意地悪そうに笑うだけだった。

別に疲れが一気に出て来て止めを刺し損なったからという訳では決してない。

絶対にそんなことではない。

気付けば、辺りはすっかり暗くなっていた。

今更だが、幽香はこの口の悪い老人がずっと自分を看病していたのかと思うと少し笑えてきた。

もっとも、痛みでまともに笑うことなど出来なかったが。

幽香の治療が終わり、傷が綺麗に無くなる。

体力の方はまだ十分とは言えなかったが。



「・・・終わったぞ。しばらくすれば元に戻る」

「・・・・・・ありがとう」

「幽香よく聞け。お前は弱くなった」

「・・・・・・そうね」

「だが終わりではない。お前なら昔の自分に、いやそれ以上になれるはずだ。
 そして私とまた戦いたかったら・・・まあ、いつでもとは言えんが、受けてやろう・・・友として。・・・ではな」



そう言ってダンは去って行った。

ダンの姿が見えなくなったのを幽香は確認する。



「・・・・・・負けちゃった、か。こんなに清々しく負けたのは何時以来かしら?」



かつてあの魔術師と戦った時か?

それともあの最強の存在に挑んだ時か?

思い出せば切りがない・・・訳でもない。

そもそも負けたのが少ないのだから。

久々の本気の戦いは実に楽しかった。

楽しかったが、それ以上の想いが幽香の胸にあった。



「・・・・・・・・・・・・く、う・・・うう」



悔しかった。

負けた事よりも自分が弱くなったというその事実に。

最初から彼と昔のように楽しめなかった事がたまらなく悔しかった。

彼を僅かでも失望させた、弱くなった自分が、堪らなく憎かった。



「・・・・・・畜生」



彼女の頬に、一筋の涙が流れた。






































これが、俺の出せる全力全開じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!

どうも荒井スミスです。

・・・・・・疲れた・・・本当に。

大丈夫じゃない、問題だ。

今回の戦闘シーンはどうだったでしょうか?描写が上手く書けてればよかったんだけれど・・・・・・

戦闘シーンを明確にイメージする為には戦闘用のBGMが一番です。

今回はエースコンバット・ゼロの名曲ZEROを最初聴いて書いてました。

でも途中から東方ラスボスラッシュっていうアレンジ曲になってしまいましたがwww

サイコーのアレンジだったです!・・・楽しかったな、東方ニコ童祭。

感想ご意見お待ちしております!お待ちしております!切実に!

感想は我が脳内麻薬ゆえ!

それでは!・・・・・・ちょっと休みます。



[21723] 第十六話 明かされる魔術師の目的
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/10/05 17:58





ダンの疲労は大きかった。

十六夜 咲夜、東風谷 早苗、アリス・マーガトロイドとの三対一の戦い。

そして先ほどの風見 幽香との死闘。

いくら最強の大魔導師といえども消耗は免れなかった。



(だが、実験を続けるのに支障は無い。それに恐らく・・・・・・奴もいる事だろう)



そしてダンはとうとう目的地である博麗神社に到達した。

辺りは既に暗くなり、月明かりが照らしているだけだった。

風すら吹かずに、音の無い神社の境内は不気味な雰囲気を醸し出していた。



「嵐の前の静けさ・・・か」



ダンが境内を歩いていた時、突如目の前にスキマが開かれる。

開かれたと同時に、そのスキマから暴風が吹き荒れる。

殺気という名の暴風が。

そしてその暴風の発生源である存在が姿を現した。



「――――――遅かったわね、大魔導師」



その存在は、怒りの形相で現れた妖怪の賢者、八雲 紫その人だった。



「――――――すまんな、妖怪の賢者よ」



それに対し特に何も変わらずにいつものように返事を返すダン。

妖怪の賢者と大魔導師が、ついに対峙する。






































―――Spell Break―――



「はぁ・・・はぁ・・・く、ここまでか」



妖夢は全てのスペルカードを魔理沙に突破された。

勝負は霧雨 魔理沙の勝利で終わった。

その場に膝を着き、うな垂れる妖夢に魔理沙が近づく。



「妖夢どうしたんだぜ?いつも以上に空回りしてたぞ?一体何があったんだぜ?」

「・・・霊夢と魔理沙を誘き出して足止めをしろ。・・・そう命令されたんだ」

「幽々子がか?」

「・・・違う」



幽々子以外の者の命令?

魔理沙はその回答に困惑の表情を浮かべる。



「それじゃ一体誰に?」

「ダン・ヴァルドーとか言う・・・魔法使いに」

「ダン爺がッ!?一体どうしてッ!?」



予想外の人物の名前が出て、魔理沙は更に困惑するしかなかった。



「私にも何がなんだか・・・幽々子様はあの魔法使いに何かされて・・・操られていた。そして、あいつは言ったんだ。
 元に戻したければ命令を聞くようにと」

「今回の異変の元凶は、ダン爺だったのか・・・」

「私は・・・幽々子様を守れなかったッ!守るとこの剣に誓っておきながら、私は・・・申し訳ありません幽々子様・・・師匠・・・」



妖夢は頭をうつむかせ涙を流す。

彼女の悔しいという感情が、自分が情けない、許せないといった感情が、痛いほど伝わってきた。



「・・・とりあえず行くぜ、妖夢。たぶん霊夢達も、今頃は決着が着いて終わってるはずだ」

「・・・・・・分かった」



魔理沙はそう妖夢に言って共に白玉楼を目指す。



(一体何をしようってんだ・・・ダン爺・・・)







































―――Spell Break―――



「あーあ・・・負けちゃったわね」

「前よりしつこかったわりに、覇気が全然無かったわね」

「足止めをすれば十分だったからね。それに全力で戦えとは言われなかったから」



幽々子はそうのほほんと霊夢に言った。

そんな幽々子に呆れつつ、霊夢はさっそく本題に入ることにした。



「さてと、それじゃ誰が黒幕か言ってもらおうかしら?」

「ダン・ヴァルドー」

「・・・・・・へ?」

「だから、ダン・ヴァルドーが今回の異変の黒幕なのよ。霊夢、貴女は彼の事知っているのでしょう?」



幽々子の答えに霊夢は訳が分からなくなる。

何故此処で、あの魔法使いの名前が出て来るのか?

どうしてあの老人がこのような異変を起こしたのか?



「彼は言ったわ。此処に来るはずの博霊の巫女と魔法使いを足止めしろってね」

「あの爺さんが?どうしてそんな事を?」

「私はただ言われた事を言っただけ。彼の目的までは、分からないわ」

「・・・・・・・・・・・・」

「ただ、彼が何処にいるかは分かるわ」

「・・・・・・・・・何処?」



霊夢は幽々子にその場所が何処なのか尋ね、幽々子はただ一言告げる。



「・・・・・・博麗神社」

「ッ!?」



それを聞いて霊夢は驚く。

自分の家に異変の元凶がいるなどと言われれば当然の反応だった。



「此処に貴女達を誘い出したのなら・・・たぶんそこにいるはず。
 きっと神社で何かをする為に。そしてそれは貴女達がいたら不都合な事だった。だからこういう手段を取った。
 彼は巫女の居ぬ間に何をするつもりなのかしら?」

「一体、何をするっていうのよ・・・」

「少なくとも、洗濯でも宴会でもないのは確かね」



幽々子は扇子を口元に当てて言う。

それはいつもの仕草だったが、顔には何処か暗い影が差していた。

困惑するしかない博霊の巫女の口から疑問の言葉が自然と出て来た。



「あの爺さん・・・一体何をするつもりなの?」







































「さて、色々と聞きたい事があるわ・・・ダン」

「・・・何だ、紫?」



二人は静かに対峙していたが、二人の間の空間は恐ろしい密度の殺気が飛び交っていた。

空気は弾け、ビシリビシリと殺気が音をたてて衝突し合う。

出来れば今すぐにでも此処から離れたい。

主に続いて現れた八雲 藍は、怯えながらそう思った。

自らの主と、目の前の魔術師が堪らなく恐ろしかった。



「そうねぇ・・・それじゃあ、あの羊羹の事でも聞きましょうか?あれはなかなか美味しかったものね」

「・・・何だと?」



予想外の問いだった為か、ダンは少しばかり驚きの色を見せる。



「・・・そうか、それはなによりだ」

「だから教えてくれない?・・・何処で買ってきたのか」

「・・・・・・・・・・・・」



紫の言葉にダンは黙る。

紫が何を言いたいのかが、何を知りたいのかが、ようやく分かったからだ。



「あれは外の世界の物よね?どうやって貴方がそれを手に入れたのかしら?」

「無論、外の世界に行ってだ」

「そんな事が出来るの?」

「私を誰だと思っている?」

「・・・・・・確かにそうね」



その言葉に紫は納得して頷く。

この男ならそれも可能だろうと判断したからだ。



(もっとも、抜け道を造ったのは私ではないが・・・まあ、いいだろう)



紫の質問は続く。

放たれる殺気を更に増して。



「何故・・・幽々子にあんな事をしたのかしら?」

「分かっているのだろう?・・・ただの実験だよ」

「ッ!!!!・・・・・・やっぱりそう」



ダンの回答に紫は一瞬怒りを爆発させるが必死にそれを押さえ込む。

聞きたい事はまだあるのだから。

まだ殺す事は、出来ない。

魔術師は感慨深そうに語り始める。



「あれは、実に良い実験だった。久しぶりに遣り甲斐があったよ。
 行き掛けの駄賃程度と考えていたが・・・なかなか悪く「黙れ」な・・・・・・」

「それ以上、言うな・・・」



それ以上言えば殺す。

その表情はそう語っていた。



「・・・大事な友のようだな、あの者は」

「ええそうよ。貴方以上にね」

「そうか・・・すまなかったな」

「元凶の貴方がそれを言うの?」

「事が済めば、全ては元に戻る」

「それで私の気が済むと思ってるの?」

「思ってはおらんさ・・・お前は昔から、友人想いの優しい奴だからな」



ダンの予想外の返答に紫は一瞬だが怒りを忘れる。

まさかそんな事を言われるとは思ってもみなかったからだ。



「・・・分からない人ね・・・本当に」

「全てが終わったら・・・謝りに行くさ」

「生きているか死んでいるか・・・分からないけどね」

「ふ・・・そうだな」



肩をすくませ苦笑するダン。

紫は気を取り直し、最大にして最後の疑問をぶつけた。



「最後の質問よ。――――――貴方の今回の目的は、一体何なの?」



紫の質問に、ダンはついに今回の目的を話すことにした。

今回の異変の目的を。

自身が行う実験の目的を。

自分が叶える目的を。




















「我が魔導の集大成で――――――博麗の巫女をこの手で創り出す事だ」








































今回ついにダンの目的が明かされました。

ようやくここまで来たな・・・ふぅ。

感想少ないけど、つまらないからかな?

感想が無いとそれも判断出来ないから本当にもどかしいな。

物語はいよいよ佳境に入ります。

出来ることなら、最後までお付き合いを。

それでは。



[21723] 第十七話 ダン・ヴァルドーの魔法
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/10/05 18:01





ダンのその答えを聞いて紫は背筋にゾッとするものを感じた。

博麗の巫女。

それはこの幻想郷の要の一つであり、この幻想の世界を守護する存在だ。

その博麗の巫女を創り出すなどという事が出来るのか?

一体どうやって?



「そんな事が・・・・・・出来るっていうの?」

「この世界はお前達が創り上げたのだろう?それは、博麗の巫女も同様だ」

「・・・違うわ。あれはただ選ばれたというだけ。私達が創り出した訳ではない」

「つまりそういう存在を生み出す仕組みを創ったという事だ。まあ、お前が聞きたいのはそういう事ではあるまい」

「・・・そうよ。一体どうやって創り出すのか。それを聞いてるの」



いくら目の前の魔術師が優秀であろうとそのような事が出来るのか?

紫はまだこの男の言葉が信じられなかった。

もしくは、信じたくなかったのかもしれない。

博麗の巫女というこの世界の幻想の存在が、人の手によって創られるという事が。



「・・・言ったろう?我が魔導の集大成でそれを創り出すと。・・・ふむ、丁度良い。今からそれをお前達に見せてやろう。
 喜ぶがいい。これを見せるのは、お前達が最初だ」



ダンは自らの右手を掲げる。

そして、その手にある存在が現れる。

彼の長年の成果が、彼の人生そのものが、彼の夢が、ダン・ヴァルドーの幻想の魔法がその姿を現した。





















そこに現れたのは――――――何処までも純粋で、透明で、無色で、無垢な存在だった。




















「・・・・・・綺麗」



紫はその存在に見惚れ、我を忘れた。

綺麗だった。

魂が惹かれる程に。

このような美しさがあったのかと驚くしかなかった。

その美しさに、思わず涙を流さずにはいられなかった。

今まであった怒りすら思わず忘れてしまったほどだ。

感動したのだ。

あの存在を見れたという、ただそれだけの事に。

それは従者も同様だったようだ。

紫と同じように、感動して涙を流していた。



「ふふふ、そこまで感動してくれるとはな。だがそれも当然。
 これは私の人生全てを懸けて辿り着いた、最高の奥義。ダン・ヴァルドーの魔法そのものなのだからな」



ダンは満面の笑みを浮かべてそう語る。

紫はハッとなって気を持ち直す。



「それは一体・・・何なの?」

「原初の魂・・・それを再現したものだ」

「原初の・・・魂?」

「生きとし生ける者総ての魂の原点だ。我々命ある者はまさに、多くの多様性が今現在存在している。
 それは幻想の存在であるお前達も同じ事だ。その全ての出発点。それを再現したのが・・・これだ」



原初の魂。

ダン・ヴァルドーという大魔導師が目指した魔導の集大成。

それは彼のその手の中で確かに輝いていた。

始まりの輝き、命の輝き、奇跡の輝き。

その輝きはまさに、彼の人生そのものだった。



「それが・・・・・・貴方の目指したものなの?」

「素晴しいだろう。魂が震え感動した・・・そうだろう?」

「ええ・・・そうね・・・」



紫はダンの問いに肯定するしかなかった。

光でも闇でも無でもない始まりの魂。

これの輝きを前にして感動しない者がいるだろうか?

紫はそれは無いと判断せざるを得なかった。



「白でも黒でもない、無色透明純粋無垢な存在だ。これを再現するのにどれ程の時間どれ程の犠牲を費やしたか・・・
 私も忘れてしまったよ。思い出す事は出来るだろうが」

「でも・・・それを使って、一体どうやって博麗の巫女を創り出すというの?」



ダンは満足そうに笑い続ける。

紫の質問が嬉しくて仕方ないのだ。

自分の目的や手段を話すのが、彼は楽しくて仕方がなかったのだ。

ダンはまるで、褒められた子供のような顔で笑っていた。

ダンは愉快そうに、自分がどのようにして博霊の巫女を創り出すのかの説明を始めた。



「博麗の巫女の情報をこれに書き込むのだよ。人格、記憶、感情、霊力、能力・・・歴代の博霊の巫女達の情報をな。
 これは何者にも染まってない純粋な存在だ。何も描かれていない真っ白なキャンバスみたいなものだ。
 何の問題も無くそれらを受け入れられる。そしてその情報を書き込みいや、描く事によって博霊の巫女となる事が出来るのだよ」

「もし、そうなったら・・・それは」



それはまさしく、博麗という存在そのものではないか。

もしそれが本当に実現すれば、その存在は最強の博麗の巫女となるだろう。

そこまで考えて、紫は一つ気になる事を見つける。



「その情報は、一体何処から?」



博麗の巫女の情報。

そんなものを一体どうやって、何処から手に入れるのか紫には分からなかった。

そもそもそんな情報などあるのか?

ダンは紫のその質問に楽しそうに回答する。



「一つはこの土地等の記憶からだ。此処は歴代の博霊の巫女全てが暮らした土地だからな。
 幻想郷の要とも言える霊地。博麗の巫女の情報は、確かに蓄えられ此処にある」

「確かにそれなら・・・でも、それだけでは不十分では?それに魂だけで肉体の方はどうするの?」



いくら魂を再現出来たとしても、それを入れる器が無ければ意味が無い。

器、つまり肉体が無ければ意味が無いのだ。

記憶にしてもそうだ。

その記憶だけで彼女達を再現出来るとは、紫は到底思えなかったのだ。



「それが二つ目であり一番の要だ。土地の記憶は、言うなれば外側の記憶。表面の記憶だ。それでは不十分だ。
 だから私は博麗の巫女達の肉体をそれぞれ構築し、再現し、統合する事で、その肉体の記憶からも情報を手に入れる。
 そこには魂の残滓も、少なからず残っているからな。その残滓を一つに結集して核とするのだよ」



ダンのその回答に、不気味なものを紫は感じた。

まるで全身を虫が這いずり回るようなおぞましい感覚が彼女を襲った。



「・・・待ちなさい。その肉体は、一体どうやって再現するつもりなの?その肉体の情報源は一体何処に?」

「肉体の情報源ならあるさ。――――――この神社の裏手にな」

「まさか貴方ッ!?」



神社の裏にあるもの。

それを聞いて紫はさらに驚愕する。



「そのまさかだ。――――――博麗の巫女の墓にある、彼女等の亡骸からそれを手に入れる」

「ッ!この・・・外道ッ!正気なのッ!?彼女等の中には、貴方の友人達だっているのよッ!それにあの子もッ!」

「ふん、今はただの亡骸よ。もう彼女等は・・・そしてあいつは、もういないのだ・・・いないのだよ」



そう答えるダンの表情が暗くなった。

先ほどまでの愉快そうな表情は消えていた。

だが、それも一瞬だった。

ダンは厳しい表情で紫をジッと見つめる。



「・・・しかし外道か。なあ紫よ。お前に私をそう罵倒する資格が、果たしてあるのかな?」

「・・・・・・どういう意味?」

「この幻想郷という存在を創り出す為に、お前も多くの犠牲を出したはずだ。
 その中には、かつてのお前の友も大勢いたのだろう?
 かつて共に生きた幻想達が。共に笑い、共に怒り、共に泣き、共に喜び生きた幻想達が。
 そしてそれらの亡骸を生み出し、創り出したのがこの世界だろう?違うか賢者よ?」

「それは・・・・・・」



それは、紫にとっての最大のトラウマ。

彼女の人生にとっての一番の後悔だった。

だが、魔術師は続けて話す。



「言っておくが私はそれを否定する気は微塵も無い。むしろよく出来たと賞賛するよ。
 いかにお前でも、その決断がどれ程苦しかったか・・・ある程度なら、理解出来るからな」

「・・・・・・・・・・・・」



肯定の意見を。

ダンとて自分が紫をどうこう言えるような人間ではないのは、よく分かっていた。



「この世界の笑顔と幸せは、お前達が創り出したものだ。誇るが良い紫。
 お前の御蔭で私は、お前を含めた素晴しき存在達に出会えたのだから」



否定したいのか肯定したいのか。

紫はこの男が益々分からなくなる。



「ダン、答えなさい。どうして貴方は・・・その研究成果で博霊の巫女を創ろう言うの?
 どうして、博麗の巫女という存在を選んだの?」

「実に良い質問だぞ紫。A評価の判定をやろう」

「いらないわよそんなの」




優秀な生徒を褒める教師のような態度でダンはからかう。

そしてそんな緊張感の無いそのふざけた言動に紫は苛立ち冷たくあしらう。



「ふ、そうか。それは残念。・・・私のこの原初の魂は何者でもない存在だ。そして同時に、何者にでもなれる存在だ。
 神にもなれる。悪魔にもなれる。人にもなれる。勇者にも、魔王にもなれる。賢者にも愚者にもなれる。
 お前にもなれるし私にもなれる。それを証明するのに、博麗の巫女が一番良いモデルケースだったから選んだのだ」

「だからどうして、博霊の巫女を選んだの?」




















「――――――それはな紫。博霊の巫女という存在が、この幻想郷によって創られ、生まれた幻想の存在だからだ」




















魔術師の目に正しき狂気が宿り、謡いだす。



「あれは、この世界でもっとも純粋な幻想の存在と言ってもいいだろう。
 この世界の幻想の存在そのものと言っても良い。私はな、証明したいのだよ。
 私の手で、人間の手で!ヒトの手で幻想の存在を創ることが未だ可能だということをなッ!」



魔術師は右手を軽く突き出し、その拳を硬く握り締め叫ぶ。

それは彼の魂の咆哮だった。

世界の全てを震撼させる、獣の咆哮そのものだった。

紫は、藍は、そして幻想の世界は、その咆哮に震え上がった。

紫は気を取り直し質問を続ける。



「・・・そんなことが、出来るって言うの?」

「幻想とは、ヒトの創りし想いの結晶だ、と私は考える。出来ぬことなど、無い。
 現に私の教え子だったあいつも・・・まあ、方法は私とは大きく違うが、自身の手で新たな幻想を創り出そうとしていた。
 発想の転換とはまさにあれを・・・いや、アレを言うのだろうな。アレには私も大いに感心させられたよ。
 ・・・・・・まあ、今は関係の無い話だったな」

「・・・貴方は、博麗の巫女を創り出してどうするつもりなの?」

「そうだな・・・かつて手に入れようとしたあの博麗の力。それを手に入れるのも、悪くはないな」

「今更、貴方がそんな事を言うなんてね。てっきり諦めたとばかり思ってたけど」

「なに、貴重なサンプルは、手に入れるに越したことはないからな」

「・・・サンプルですって?」



それを聞いて紫の怒りと殺気が更に増大する。

博麗の巫女という存在を、かつての友人達を、この魔術師がサンプル呼ばわりしたのが。

許せなかった。

そしてなにより――――――悲しかった。

博麗の巫女という存在を、かつての友人達を、そしてあの子の事も、この魔術師がサンプル呼ばわりしたのが。

ダンは紫のその怒りだけを感じて、まあ待てと言った感じのジェスチャーをする。



「おっと、もちろん自分の利益ばかりには使わんさ。その力、お前達にも提供しよう。
 例えば・・・そうだな。これから生まれる博麗の巫女を、霊夢の師とするのもいいだろう。
 これから誕生するのは、まさしく博麗という存在そのものだからな。霊夢にも良い経験になるだろう。
 それに結界の管理も楽になるだろうな。今代の巫女からは、少しは楽が出来るだろうて」

「・・・確かに、その通りかもね」



そうなれば確かに、今後の幻想郷の安泰は更に確実になるだろう。

自分の大事な世界である幻想郷。

それを守る為なら彼女は何だってやってきた。



「ならば邪魔をせず大人しく見ているのだな。この私の研究成果の応用の、その瞬間をな」



ダンのその問いに紫は答えた。



「断るわ」



はっきりとそう、ただ一言だけ



「・・・何故だ、と聞いておこうか」

「確かに貴方の出すであろう結果は私達に大きな利益を生み出すでしょう。
 でも貴方はその過程で多くの者を利用しすぎた。そして私の大事な者も。
 私は、それがどうしても許せないのよ」

「なるほどつまり」

「そう、これは私の我が侭。この感情はだけは、どうも抑えられそうにないわ」

「構わんさ。それでこそお前だ」



ダンはその言葉を聞いて安心し、満足そうに笑った。



「ならダン・ヴァルドー。私は――――――貴方を倒す」



紫から放たれる殺気が増大する。

目の前の魔術師を倒す覚悟を決めたのだ。



「お前達に出来るかな?この私を、ダン・ヴァルドーを打倒する事が、果たして出来るかな?」



ダンの気迫もそれに呼応するように高まる。

だが――――――



「私が貴方に対してなんの準備もしてないと思って?」



紫が優雅に片手を挙げると、神社の周りに結界が張られる。



「ぬぅッ!?これ、はッ!?」



結界が張られたその途端に、ダンの体から魔力が霧散する。



(魔力が、上手く練れないか。魔術を放出するのは・・・無理か)



魔力を封じられ、更に体にはかなりの重量の圧力が加わる。

まともに動くことは、困難を極めた。



「この神社の結界と地脈を利用して、貴方の魔力を封じさせてもらったわ。これでもう貴方は何も出来ない。
 魔力が碌に練れない魔術師なんてどうとでも好きに料理出来るわ。
 後はただなぶられるだけ――――――藍、やるわよ」

「・・・申し訳ありませんダン様。ですが、今回の事は私も考えるものがございますので」



今まで黙っていた藍が、ダンの事を悲しそうに見る。



「・・・そうか、残念だ。お前の可愛い式に、もう一度会いたかったがな」

「――――――往きますッ!」



藍がダン目掛け疾走し、妖力の篭められたその爪を振り下ろす。

だが――――――



「――――――甘いわッ!」



ダンは藍の体に自らの拳を叩き込む。



「グガァッ!?」



思わぬカウンターの一撃を食らった藍。

吹き飛ばされはしたが、空中で体勢を整える。



「魔術師だからといって戦う術がそれしかないとは限らん。
 私は長き戦乱の世を生きてきたのだぞ?魔術師の弱点など、分かりきっておる。それを私がそのままにする訳がないだろう?
 人間を、私を、ダン・ヴァルドーを甘く見るなよ――――――幻想」



ダンはそう言って構え、相手の出方を伺う。



(だが、この二人が相手では付け焼刃にすらなるかどうか・・・何処までいけるか。それが問題だ。
 先ほどのような奇襲はもう出来ん。出来んが・・・やるしかあるまいッ!)

「ならば――――――全力で潰してくれるわッ!」



妖怪の賢者は目の前の魔力の無い大魔法使いを全力で潰す事を宣言した。

ダンにとって、絶望だらけの地獄の宴が始まった。




































どうも荒井です。

あの宴会の時、爺さんが見つけたのは博霊の巫女達の墓でした。

これは私が勝手に加えた私の二次設定ですのでご了承ください。

まあ、あっても不思議じゃないなとは思うんですが・・・どうなのかな?

次回は・・・うわぁ・・・これはまた・・・

次の話はある意味タイトルでネタバレだなオイ。

それでは!



[21723] 第十八話 魔術師の死
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/10/06 22:40






それはダンと紫達が戦っている最中だった。

白玉楼では霊夢、魔理沙、妖夢、幽々子がやっと合流をしていた。



「幽々子様ッ!幽々子様ッ!大丈夫ですかッ!?」

「ええ大丈夫よ妖夢。なんだか術も解けているみたいだしね」

「本当ですかッ!?・・・・・・良かった。本当に、良かった。・・・うう」



妖夢は幽々子のその言葉を聞いて安堵して泣き出し、その場に崩れる。



「幽々子、それ本当なの?」



そんな妖夢を余所に、霊夢は幽々子にそれが本当なのか尋ねる。



「今まであったもやもやした感じが無くなったからね」

「けどどうして急に自由になったんだぜ?」

「もう操る必要が無いか、それとも操る余裕が無くなったか。そのどちらかでしょうね。
 たぶん、今頃博麗神社で紫と戦ってるかしらでしょうね」



霊夢はそれを聞いて急ぎ博麗神社に戻ろうとする。

急がなければ異変が解決されてしまう。

博麗の巫女たる自分が異変を他の者に解決される。

それを思うと、霊夢はどことなく癪な気分になった。



「魔理沙、そろそろ行くわよ」

「お、おう」

「待ちなさい霊夢」



急ぎ出発しようとした霊夢を幽々子が呼び止める。

霊夢も幽々子のその真剣な声を聞いて立ち止まる。



「・・・何?」

「今回は今までの相手とは存在が違うわ。何が起こるか分からない。十分過ぎる位に注意して行きなさい。魔理沙、貴女もよ?」

「・・・分かったわ。せいぜい気を付けとくわ」

「さあ行くぜ霊夢!それじゃあな二人とも!」



二人はそう言って白玉楼を後にする。

残ったのは泣き崩れる妖夢と、膝を折って座り、妖夢を慰める幽々子の二人だけだった。



「幽々子様・・・本当に、本当に申し訳ありません。私は、私はなんて不甲斐無いのでしょう・・・」

「私をそこまで想ってくれる。その心だけで十分過ぎるわ妖夢」

「ですがッ!」



幽々子は妖夢の頭にポンと自分の手を乗せ撫でる。



「それでもまだ、悔しいのなら・・・今以上に精進しなさい妖夢。それが貴女に出来る事でしょうから」

「・・・・・・幽々子様ぁぁぁぁぁぁッ!」



妖夢は幽々子に抱き付き、泣く。

幽々子はそれを黙って受け入れ、ただ優しく抱き締める。



(ごめんなさい妖夢。私には、こんな事しか貴女に言えないわ。
 妖忌・・・貴方だったら、もっと上手く言えたのかもしれないわね。
 ・・・・・・今は恨むわ、貴方が今いない事を)



幽々子は昔いた先代の庭師に、心の中でその不満を漏らした。







































「ホラホラどうしたのかしらッ!動きが鈍くなってきたわよッ!」

「ぬぅ・・・まだ、まだぁ・・・!」



上空からの紫と藍の弾幕の二重奏がダンに向けて奏でられる。

飛ぶことも出来ずに、ダンは地上で惨めにただただ逃げ回るだけだった。

弾幕の雨をギリギリでかわしていくダン。

しかし――――――



「グガッ!ハァ!ぬ・・・ぐう・・・」

「今までの勢いは何処に行ったのかしらね・・・ダン」



紫の弾幕をまともに受けて、また吹き飛ぶダン。

博霊神社での戦闘は、ダンが圧倒的に不利な状況だった。

魔力は封じられているとはいえ、それは外側に出せないというだけだった。

その為ダンは身体強化の魔術を駆使して立ち回っていたが、魔力も気も上手く練れず、効果はほとんど無いに等しい。

全力で攻めてくる紫と藍の二人が相手では逃げ回るのが関の山だった。

しかしそれもやはり限界があり、先ほどから何度も何度も弾幕で吹き飛ばされ、その度に血飛沫が宙を舞って大地を染めた。

それはまるで、一種の拷問のようだった。



「精進が・・・足りなかったか・・・な・・・?こんな事なら・・・もう少し格闘戦の技を・・・磨けばよかったか?」

「魔力を封じられてそこまで動けるなんて正直驚きよ。体が鉛のように重くなっているはずなのにね。
 もっとも、それだけで勝てるほど甘くはないけど」



二人の猛攻に、ダンの体は徹底的に破壊されていた。

大量に出血した彼の血が、境内のそこら中に飛び散っていたのがそれを十分過ぎるほど物語っていた。

呼吸は乱れに乱れて肺は酸素を貪欲に求める。

四肢からは力が抜け落ち、片膝と片手を着いて倒れないようにするのがやっと。

唯一変わらなかったのは眼光に宿る不屈の意思だけだった。

その場にいるのは最強と恐れられた魔法使いではなく、ただひたすらにもがくだけの老人の姿しかなかった。



「哀れなものね。最強の魔法使いもこうなっては形無しね」

「それでも・・・諦める訳に、はいかん」

「どうしてそこまで博麗の巫女にこだわるのかしら?」

「あれは・・・私が今ま、で生きた人生の中で見た中でも、最高の幻想だった。だか、らこそ・・・創りたかった。
 自らの手でその最高の幻想を。それが出来れば、どんな幻想で、も創れるはずだと、そう思ったのだ。
 もしかすれば、それ以上の存在すら、創造出来るかもしれんと、私は思ったのだ」



最高の幻想。

それを模倣し創造することが出来ればきっとどんな幻想でも創れるはず。

ダンは自らが創造した原初の魂ならそれが可能だという想いがあった。

そしてそれを成し遂げられるまでは、自分は倒れる訳にはいかなかった。



「・・・・・・・・・・・・」



この言葉は毒だ。

もしそれが出来れば、それはどれだけ素晴しいだろう。

ダンのその言葉を聞いて、紫はそう思った。

だからこそ、紫はその言葉に耳を貸さなかった。

聞いてしまえば、自らの意思が揺らぐから。



「あの幻想の輝きは素晴しい。だからかつて私も、そしてあいつもそれを手に入れようとした。
 だがあいつは諦め何処かに行ってしまい、そして私は・・・・・・いや、いい。
 お前達とてその気持ちは変わらんだろう。だからあの存在の下に集うのだ。かつての私と同じように」

「聞こえないわね。ちゃんと大きな声で言ってくれなきゃ駄目よお爺ちゃん?でないと、うっかりすぐ殺しちゃうじゃない」

「・・・・・・ふふ、ふふふふ」



紫のその言葉を聞いて、ダンは可笑しそうに笑い出した。



「・・・何が、可笑しいのかしら?」

「いや・・・お前は随分と・・・大人しくなったなと、そう、思っただけだ」

「・・・どういう意味?」



ダンのその聞き捨てならない言葉に紫が反応する。

ダンはゆっくり呼吸をして息を整える。



「・・・・・・先ほど戦った幽香もそうだったが、お前も弱くなったな」

「幽香と戦ったの?それでよく此処まで・・・・・・待ちなさい。弱くなった?この私が?」



紫は聞き間違いでもしたかと思いその事を尋ねる。



「然りだ。お前は弱くなった。前に対峙した時の威圧感をまるで感じないのだ」

「・・・・・・・・・・・・」



紫の聞き間違いではなかったようだ。

ダンは自分の中の確信した答えを紫に告げる。



「安寧は力を奪う。それを解決するのがスペルカードルールだったのだろうが、本当にそれでいいのか?
 あれは所謂延命措置だ。長く生きる事は出来るだろうが・・・たったそれだけだ。
 それでは、かつてのお前達の輝きがいずれ失われるのでは?」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・どうやら図星のようだな。まあ、私をまだ仕留められないのがそのいい証拠だ、ぐう!?」



ダンの四肢が紫のスキマに飲み込まれ拘束させられる。

四肢が締め上げられギリギリと悲鳴を上げる。



「・・・まだ無駄口を叩く元気はあるようね。私は全力で叩き潰すと言ったわよね?
 それは貴方をなぶって潰すということよ。自分が一体何をしでかしたのかを、十分に分からせる為にね。
 私はそれをただしていただけよ。でも、もうその必要も無いみたいね」



紫はダンに近付き、その首を片手で締め上げる。



「ぬ、が、はぁ・・・・・・」

「ジワジワと締め上げて・・・その首をへし折ってあげるわ」



紫の手にさらに力が篭もる。

何処からかギチギチと音がする。



「どう?苦しい?貴方今良い表情よ。こんな顔も出来たのね」

「・・・・・・・ッ!」

「声も出ないかしら?そういえば初めてね。私が貴方をここまで苦しめた事なんて。
 いつもは逆の立場だったからなんだか嬉しいわ。貴方はどうかしら?」

「・・・・・・・・・」

「ごめんなさい。声は出せなかったわね。楽しいからついつい忘れてしまったわ」

「ゆ、紫様!何もそこまでしなくても!もういいじゃないですか!」



もう十分だ。

藍はそう判断し主に告げる。



「このままでは本当に死んでしまいますよ!それでいいんですか!?ダン様だって掛け替えの無い友人じゃないですか!
 ここまですればもう十分です!お願いです紫様!もうお止めください!」

「藍・・・」



藍のその言葉に紫はハッと我に帰る。

頭に血が上り過ぎた。

そうだ、そうだった。

かつての決闘も一応、そこまでという引き際があった。

それ以上すれば本当に殺してしまう。

幻想の守護者たる紫はその事をやっと思い出す。

この男も大事な友人の一人なのは違いないのだ。

昔から一緒にいる数少ない友人。

このまま続ければまた昔のように――――――友人をその手にかける事になる。

そう思い、手の力を緩めた時だった。



「・・・・・・それ・・・みろ・・・やはり・・・弱く・・・なった・・・」

「ッ!?」



ダンは紫に、息も絶え絶えにそう告げる。



「・・・従者に言われ・・・た程度で揺ら・・・ぐその意思が・・・お前の・・・弱くなっ・・・た証拠だ・・・」

「そ、それは」



口から血を吹き出しながら、ダンは紫に話しかける。

一方紫はというと、ダンに指摘されたその言葉に返す言葉が見つからず口ごもる。

死に掛けの老人と妖怪の賢者の状況は変わらず紫に優勢なものだった。

しかしその場に漂う空気からはそれを感じなかった。

ダンの言葉はなおも続く。



「お前なら先の・・・言葉は殺し、た後屍に言いそうなも、のだがな。少し・・・失望したぞ、紫」

「な、何を?」

「答えろ・・・お前は本当に紫か?そう騙る・・・偽者ではないか?我が友は、お前のような惰弱な存在では・・・ない」

「違う私は」

「だったら、何故戸惑う?何故躊躇する?何故止めを刺さん?お前が本物なら、出来るはずだ」

「・・・止めなさい。それ以上言わないでッ!」



紫の手にまた力が篭もる。

紫の意思に反して。

紫の本能がダンを殺そうとした。



「・・・ぐぅ、どうした?そうじゃないだろう?止めを刺すのだろう?」



口から先ほど以上の吐血を出しながらも、ダンは傲岸不遜な態度で紫を挑発し続ける。



「止めてッ!お願いだからッ!」



自分の妖怪の本能が、目の前の魔法使いを殺そうとする。

そして――――――止めの一撃が入る。



「――――――殺せッ!この臆病者がッ!」



















――――――グキリと。

――――――骨が、砕ける。




















「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」



紫は息を荒くしてその場に座り込む。

ダンを拘束していたスキマも消えて、彼の体がドサリと倒れる。

首はあらぬ方向を向き、それは物言わぬ死体と化していた。



「紫様ッ!」



藍はすぐさま自らの主の傍に駆け寄る。



「紫様!しっかりしてください!」

「・・・また・・・殺した・・・」

「・・・紫様?」

「・・・また友人を・・・殺しちゃった・・・」



紫はボロボロとその場で泣き始める。



「どうして・・・何であんな事言ったの!?あれさえ、あれさえ言わなければ、私は殺す事なんてしなくてよかった!
 それなのにどうして!?何で・・・何で何で何でッ!」

「紫様ッ!落ち着いてくださいッ!」



我を失って泣き叫ぶ主を藍は抱き締めて落ち着くように言った。



「どうしてこんな・・・また・・・友達を殺さなくちゃ・・・」

「・・・仕方なかったんです。戦いとは本来・・・そういうものですから。
 ダン様も、それを承知でした。だからあんな事をきっと言ったんです。
 彼は、古い幻想を生きた一人だったから。だから、あんな事を・・・」

「でも・・・だからってこんな・・・」



藍にしがみ付き幼子のように紫は泣いた。



「・・・紫様。もう終わりました。終わったんです。今はダン様の亡骸を運びましょう。その後に、せめて供養を」

「・・・・・・また、別れるのね。一体、何時まで私は」



その時だった。

紫の張っていた結界が歪み、違うものに変質していく。



「紫様ッ!?これは一体ッ!?」

「違う、私じゃないわッ!?一体何がッ!?」



いきなりの予想外の展開に、二人はパニック状態に陥った。

そして――――――



「ぐぁ!?嗚呼嗚ああ嗚呼アア嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああ嗚呼嗚呼ッ!!!!」

「藍ッ!?一体どうしたのッ!?」



藍がその場でもがき、苦しみ始める。

一体何が起こったのかと慌てる紫。

そして――――――




















「油断は死を招く。何度もそう言ったろう紫。――――――やはりお前は弱くなったな」




















死んだはずの魔術師が、そう賢者に告げる。





































騙して悪いが、続くんでな。

付き合ってもらおう。

・・・ええ、どうも荒井です。

ズバリッ!今回はタイトル詐欺ですねッ!

( ゜∀ ゜;)ハハハ八八八ノヽノヽノヽ/ヽ/ヽ/ヽ・・・( ´・ω・`)スマン。

今回ダンが言いたかったのはつまり「一番凄いの創れたらもう何でも創れるっしょ?」って事です。

さあ!いよいよ次回、ダンの反撃の狼煙が上がるッ!

ダンと紫の対決がついに・・・・・・始まりませんッ!

それでは!



[21723] 第十九話 久遠の夢に運命を任せる偽りの精神
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/10/08 19:51






「・・・・・・うん・・・んん?どれ・・・ふむ?」



ダンはゴキリと首を回し、体の調子を確認していた。

よく見れば、今まであった体の傷も全て塞がっている。



「・・・やれやれまったく、見事に首を砕いてくれたじゃないか?まあ、引き千切られるよりかはだいぶ楽かな?」



ダンは口元に付いていた血を軽く拭い、パンパンと服の汚れを払い落とす。

服の方もボロボロだったはずだが、戦う前と同じ状態に修復されていた。



「そんな・・・一体、何がどうなって・・・」



いきなりの予想外の展開の連続に、紫は思考が追い着かなかった。



「何が起こったか。一度に多くあったからな。分からないのも、無理はないか。
 いいだろう。一つひとつ詳しく話してやろう。さあ、何から聞きたい?」



ダンは愉快そうに笑い、腕を大きく広げて質問を求めてきた。



「何で生きてるのッ!?貴方は、確かに死んだはずじゃッ!」



あの時確かに、確実に殺したはずだ。

仕留めた手応えは確かにあり、その感触は今でもこの手に残っている。

それなのに何故?



「首を折られた程度でこの私が滅ぶと本気で思っていたのか?だとしたらお前は私を過小評価し過ぎたな。
 この程度の蘇生など、私には造作もないのだよ」

「蓬莱の薬・・・じゃないわね」

「藤原 妹紅のリザレクションか。残念だがこれは蓬莱の薬とは違うものだ。これは蘇生魔法、レイズデットだ。
 これは私の保険の一つでな。私が死亡した場合、あらかじめ自身に施していた術式が自動で発動する。
 これは魔力が少しでも使えれば発動する代物だ。だから魔力を封じられただけのこの状況なら、何の問題も無く発動出来るのだよ。
 まあ、そう何度も使えるものではないがな。私を滅ぼしたいなら、不死殺しの業を用意するべきだったな」



魔術師は余裕の表情を浮かべ説明する。

先ほどまで苦しんでいた人物と同じとは思えないほどに、その顔からは余力が感じられた。



「随分と余裕そうねダン。ただ復活した程度で・・・ッ!?」



そこまで言って、紫はあることに気付く。



「そんなッ!?魔力が戻ってるですってッ!?」



紫はダンの魔力が正常に機能しているのを感じ取り驚愕する。



「私の魔力が戻った理由と余裕の理由。そして、藍が苦しむ理由も説明してやろう」

「くか、ああ、があ・・・・・・ああああ・・・・・・」



藍は変わらず苦しみの声を上げて倒れている。

目の焦点は定まらず、口からは泡を吹き、手足をバタバタと振り回す。

それは見るのも辛い光景だった。



「この結界は既にお前が創り出したものではない。私の術により私の結界となったのだ。
 それ、よく見るがいい。境内中に撒き散らした私の血をな」



ダンに言われ紫は辺りを見回す。

そこら中に撒き散らされていたダンの血は、何時の間にか魔方陣の形を成していた。



「この為にわざわざ・・・でも、それだけではこの結界は書き換えられないわ!」

「その通りだ。これだけではお前の創るこの結界には干渉は出来ん。
 この結界は実に良く出来ている。元々あったこの神社一帯の結界を更に手を加えた、八雲 紫特製の結界だ。
 通常の手段では軽く弄る事も出来んだろうな。だから私はそれに干渉する為に、もう一つのある仕掛けを用意したのだよ」

「何をしたっていうの?」

「私は事前にこの神社に寄り、密かにもう一つの術式を施していたのだよ」



それはダンが菓子を届けに来ていたあの日だった。

ダンは霊夢と魔理沙の二人に会う前に、その術を既に施していたのだ。



「馬鹿なッ!?そんな魔力の痕跡は、何処にも無かったわよッ!?」

「未完成の状態にしておいたのだよ。その状態では魔力は欠片も無い。しかし、それはある要因が加わる事で完成する」

「ある、要因?」

「それは、私の死だ。それをもってもう一つの術式は完成し、お前の結界を支配することが出来た」



あれは一つの賭けだった。

紫が事前に気が付けば全ては台無しだった。

それ以外の手段も無い訳ではなかったが、一番有効なのはこの方法だった。

そしてその有効性は、今のこの状況が証明していた。

ダンは見事に賭けに勝ったのだ。



「まさか・・・貴方、ワザと私に殺されたのッ!?」



あの挑発はその為にやったのか。

今考えれば、あの時の自分は戦闘中だったとはいえ冷静ではなかった。

あれはあまりに異常だった。

もしかしたら何かの術をかけ、精神になにかしらの干渉をしてきたのかもしれない。



「そうだ。私はお前を挑発して、私を殺させた。それはどうしても必要な事だったからな。
 内側と外側の両方からなら、この結界にも干渉出来る。
 感謝するぞ紫。よくやってくれたな。これで元通り、私は魔法を行使出来る」

「・・・貴様」



ダンの挑発的な笑みを見て、紫はギリリと歯軋りを立てる。

それを見てダンは更にその笑みを強く浮かべる。



「そして藍は今現在、二重に仕掛けた我が術式の結界と、支配されたお前の結界の力により苦しんでいる。
 そうだなぁ・・・今の藍は恐らく、圧倒的な圧力と、業火に焼かれるような激痛に苦しんでいるだろうな」

「・・・・・・嗚呼・・・・ああ嗚呼・・・ゆか、り・・・さま・・・」



息も絶え絶えになり、藍の目から光が失われていく。

非常に不味い状態になってきていた。



「早く退かせるがいい。でなければ・・・死ぬぞ?」

「ッ!藍、戻っていいわ」

「・・・すみ・・・ま・・・」



紫はスキマを開き藍をこの場から撤退させる。

そして二対一から一対一の状態にさせられる。

更に結界はダンに乗っ取られ、今では地の利すらも無くなった。

今まで紫に有利だった状況は、一転して不利な状況へと変貌した。

目の前の男の策略にまんまとはまったのだ。



「賢明な判断だ。さすがは賢者だ」



魔術師はさも愉快そうに、嫌味を賢者に送り笑い続ける。



「・・・どうやら、私はまんまと利用されていたようね」



裏をかいて罠を仕掛けたつもりだった。

だがそれは逆だった。

紫はダンの手の平の上で踊らされていたのだ。



「お前が私に対し罠を用意するのは予想が出来たからな。そしてどういう罠を仕掛けるかも、な。それを利用する手はないだろう?
 感謝するぞ。お前の協力の御蔭で、私はこの結界の世界を構築出来た。
 これならば、我が儀式も予定通り進める事が出来る」

「私がそれを黙って見ていると思う?」



紫はダンをギラリと睨み付ける。

確かに不利な状況ではあったが、まだ勝負は着いてはいない。

ここで時間を稼ぎ、霊夢達が合流すれば、また状況はこちらに有利になる。

時間稼ぎ。

それならば今の自分でも十分に可能だった。

だがそれは、ダンも十分承知していた。



「思わんよ。いくら此処が私の支配する世界の中とはいえ、お前を相手にするのは時間も掛かるし、それにリスクも高い。
 だから――――――別の相手を用意してやろう」



ダンは懐からギリシャ語版ネクロノミコンを取り出し、更に右手に黒鉄の杖を出現させる。

その杖は手元の魔導書に匹敵するほどの禍々しさを放っていた。



「別の相手ですって?・・・その魔導書で一体何を召喚しようというのかしら?」

「そうしてもいいが、厄介な化け物ばかりだぞ?お前や、私以上のな。
 蜘蛛の王に生ける炎に歩む死。なんなら外なる神も呼んでもいいが・・・やめておこう、疲れるからな。
 確かにこれは使うが、私が用意する相手は別の者だ」

「別の者・・・それは、一体?」

「この土地の記憶に存在する者。それをこの場に溢れる力を使い、創造し構築し再現する。
 現界出来るのは僅かな時間だが、足止めには十分だ」



それを聞いて紫は戦慄した。

この博麗神社には多くの幻想達が集った。

その誰もが皆、強き幻想の存在だった。

そんなものを出されれば、状況はますます不利なものになる。



「一体・・・誰を出現させるつもりなのッ!?」

「そうだな・・・此処には多くの幻想達が集まったが・・・折角だ。ここはあいつを出そう」

「・・・あいつ?」

「かつてこの地に封印されていた――――――悪霊だ」

「まさか彼女をッ!?」



ダンは魔導書と杖を掲げる。

そして、杖を強く叩きつけると同時に魔導書のページが空を舞い、一つの球体を形作る。



「穢れ無き世界、不可侵の領域、破れぬ防壁よ!」



球体の中に仮初めの幻想の命が宿る。

ダンは続けて詠唱を紡ぐ。



「我の言葉は神の言葉!我の言葉は真理の言葉!時の彼方に記されし、久遠の夢に運命を任せる精神を再現し構築せよ!
 我は願う!我が宿敵にして我が友の再来を!さあ来るがいい――――――悪霊よ!」



詠唱の終わりと同時に球体が弾け飛ぶ。

そして――――――その存在は、確かにそこにいた。

そこには、かつてこの地に封じられた悪霊の姿があった。

この幻想郷でも最強と呼ばれた存在の一人が、確かにそこにいた。

青い衣装と三角帽に三日月を模した杖。

深い緑の髪と同様の緑の瞳。

そして発する強大なその威圧感。

久遠の夢に運命を任せる精神にして最強の幻想の一人。

その者の名は――――――




















「――――――魅魔ッ!」


























魅魔。

霧雨 魔理沙の師匠にして最強の幻想の称号を持つ悪霊。

その実力は言わずもがな。

八雲 紫の相手には相応し過ぎる存在だった。



「生憎とこれはオリジナルと違い力は若干落ちているが、今のお前には十分過ぎるほど通用するだろう。
 仮初めとはいえ、久々の友との再会だ。ゆっくりと楽しむがいい」



そう言ってダンはその場を離れる。



「待ちなさい!」



紫もその後を追いかけようとした。

だが――――――



「――――――おっと待ちな。そう簡単に行かせる訳には、いかないねぇ?」



魅魔はそう言って回り込み、紫の行く手を阻むように対峙する。



「クッ!退きなさい傀儡!」

「あらら?酷い事を言うじゃないか。確かに私は今はあいつの傀儡だけど、そのセリフは結構傷つくよ?
 んー・・・でもまあいっかそんなの。
 さてと・・・だったらその傀儡を倒せばいいだけの話じゃないかい?
 八雲 紫は、そういう奴だと私は思ったんだけどねぇ?」



偽者の魅魔はそう言ってニヤニヤと笑みを浮かべながら紫を挑発する。

ただのコピーのはずなのに、彼女には明確な意思がはっきりと感じられた。



「減らず口まで再現したのあいつ・・・偽者如きがッ!退けッ!」

「――――――ぬかしたな?じゃあ見せてやろうじゃないかい。偽者の・・・この私の力をねッ!」



境界の支配者と偽りの久遠の夢。

二人は自らの幻想をぶつけ合う。

最高にして最強の幻想の戦いが幕を開ける。







































トト・・・ゲフンッ!

魅魔様は此処にいたんだッ!

どうも荒井です。

魅魔様・・・ええ、ええ魅魔様ですよッ!

ついに光臨していただきましたよッ!・・・・・・偽者ですが。

おーい、誰か魅魔様の行方を知らんか?

それでは!



[21723] 第二十話 大魔導師が挑んだ幻想
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/10/11 10:38






それはもう、随分と昔の話だった。

ダンが幻想郷に来てすぐの頃、つまり三百年程前の事だった。

ダンは此処、幻想郷に来て様々な者に出会った。

境界の支配者。

最強の花の妖怪。

そして此処に来て初めて敗北させられた、あの久遠の夢の悪霊。

自身の死霊秘術によって、ダンは彼女を操ろうとした。

が、ダンはこれに失敗。

逆に返り討ちに遭い殺されてしまった。

それも二度もだ。

ダンは敗北はした。

それはダン自身も認めた。

だが、諦めてはいなかった。

いずれあの生意気な悪霊に、一泡吹かせて実験台にしてやると彼は心に誓った。





































そして今現在、彼はある場所に向かっていた。

その地の名は博麗神社。

あの悪霊、魅魔が欲している力が眠る霊地である。

あいつが望むほどの力とは一体なんなのか?

ダンはその探究心と好奇心に駆られその場所を目指した。

そしてその力を我が物にしてやるとダンは企んでいた。

ダンは最高の装備と術式を用意して博麗神社に向かっていた。

あの魅魔が未だにその力を手に入れてはいない。

それはつまり、それだけの実力を持った存在がいるということを暗示していた。

ダンは自らの全存在をぶつける覚悟でいた。

今の自分の状態は最高潮に達していた。

今ならこの世界の全てを手にする事も可能だと思えた。

それほどまでにダンの心は高揚していた。

そしてダンは、博麗神社の鳥居の前に辿り着いた。



「・・・・・・ようやく辿り着いたか」



ダンは鳥居を潜り神社の境内に入る。

いよいよ正念場だ。

境内には巫女がただ一人、掃除をしているだけだった。

ダンはその巫女をジッと見つめ、そして観察する。



(あれが、博麗の巫女か・・・なるほど・・・出来るな)



その立ち振る舞いを見て、ダンはその巫女が強者であると確信した。

油断をすれば・・・恐らくやられるだろう。

それだけの何かを、ダンはその巫女に感じ取ったのだ。



(よかろう。ならばこの私の全てを持って挑ませてもらうぞ、博麗の巫女よッ!)



ダンは黒金の魔杖を手に取り、すぐさま魔力を最大まで高め練り上げた。

それに彼女は気付き、ダンの方へと振り向いた。

巫女はそんな魔術師を見て、彼に向かって言った。





















「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」




















「・・・始まったようだな」



紫と魅魔の戦闘音が聞こえてきた。

どうやらお互い相当な応酬をしているようだ。



「ならば、こちらも始めるとしよう」



ダンは神社の裏手にある墓石の前にいた。



「・・・そういえば、博麗の巫女と出会ったのはあの時が初めてだったな」



ダンは昔の出来事を思い出し苦笑する。

あの時自分が仕掛けた戦い。

結果を言うなら、あれは完全な敗北だった。

あの時ダンは何をする事も出来ずにされるがままだった。

勝負にすらならかった。

いや、出来なかったと言った方が正しいのかもしれない。

ダンは思った。

恐らく何度戦っても、自分はあいつには勝てないだろう。

自分がこの先、更なる高みにどれだけ至ろうが、あいつにだけは絶対に勝てないだろう。

彼は苦笑し、それを実感し、そして痛感した。

あいつにだけは、決して敵わないと。

ダンはその人物が眠る墓石に向かい話しかけた。



「・・・すまんな。使わせてもらうぞ」



ダンは原初の魂を出現させてそれを墓石の前の空中に留まらせる。

そしてもう一度杖と魔導書を掲げる。



「穢れ無き世界・・・不可侵の領域・・・破れぬ防壁よ・・・」



魔導書のページが飛び、原初の魂と墓石を囲み結界を、一つの世界を構築する。



「満ちよ満ちよ満ちよ。我が言葉は骨となり、我が業は肉となり、我が力は血となれ」



ドクンと、結界が脈動する。

それはまるで赤子を内包する母親の体のようだった。

事実、その中には確かに命が芽生えていた。



「満ちよ満ちよ満ちよ。満ちて原初を染めよ。魂を描け。肉体を築け。記憶を記せ」



魔術師の儀式は続いていった。

――――――そう、何もかも予定通りにな。







































ららら荒井君、ららら荒井君、ららら荒井君、らららら。

・・・・・・古いうえに改変してるからなんのネタか分かる訳ないか。

ダン自身も言いましたが彼は博麗の巫女に敗北しています。

それも完全に。

いえね、ダン方が実力的には上ですよ?

でも勝てないんです。

どうしても、絶対に。

それでは!



[21723] 第二十一話 その想いは本物だった
Name: 荒井スミス◆735232c5 HOME ID:d86d6c57
Date: 2010/10/13 19:27






「そぉぉぉぉぉらッ!」

「クッ!」



魅魔の体当たりをスキマに逃げ込み回避する紫。

回避はギリギリで間に合い、魅魔の体が空を斬る。



「ははは!相変わらず逃げるのは上手いねぇ!」



だがかわされたのにもかかわらず、魅魔は愉快そうな声を上げる。

楽しくて仕方ないといった感じで。



「・・・ふん、偽者風情が知ったような口を叩くじゃないの」



スキマを開き嫌味を言う紫。

だが、その口調とは裏腹に紫の肝は冷え切っていた。

今の一撃を喰らえば、間違い無くやられていた。



(どこがオリジナルより弱いよ、あの狸爺!ほとんど同じ強さじゃない!)



先ほどからの戦闘で、紫は何度か魅魔に殺されそうになった。

業のキレに放つ威圧感。

それはかつて戦った本物の魅魔となんら遜色はなかった。



「・・・うーん、やっぱりこの体じゃ上手く動かせないか。若干遅れて動いてるみたいだ。
 あの青二才爺、急造とはいえ、もっと上手く私を創れなかったのかねぇ?
 思い通りに動かなくてイライラするよまったく」



軽く体をストレッチしてそう不満を魅魔はもらす。



「・・・・・・それで弱いなんて、やっぱり強いわね貴女、いえあいつは」

「はぁ?何言ってんだい紫?あんたと私・・・“魅魔”の強さなんて、ほとんど変わらないだろ?
 も・し・も!今のこの私が強いと思ってんなら、そりゃあんたが弱くなったってだけの話さね」



それを聞いて紫は表情を曇らせる。

ダンも紫に同じようなことを言ったから気になるのだ。



「・・・どういうこと?」

「そのままの意味さ。あんたは弱くなった。もし昔のあんたのままだったら、ここまで苦戦なんてしなかったはずだよ。
 恐らく、今頃苦戦してるのは私の方だったさ。それこそ、足止め位にしか役に立たないほどにね」

「・・・・・・・・・・・・」

「今の私は、全盛期の魅魔より若干弱い位の強さだ。その私とほぼ互角ってことは、あんたは全盛期より弱くなったってことさ。
 まったく、賢者様が聞いて呆れるよ」

「・・・・・・本当に、私は弱くなったようね」



それを紫は痛いほど実感した。

今の自分は目の前の模造品と互角の戦いをしている。

オリジナルより劣るレプリカにだ。

紫はやっと実感した。

自分が、弱くなった事を。



「こりゃ足止めどころか、勝っちゃうかもね。はははは!そりゃいい!そうなったら・・・・・・おお、そうだ!
 あのクソガキジジイに一発痛いのぶち込んでやろうかね。あんにゃろう、私を悪霊呼ばわりしたからね。
 この私をなんだと思ってんだい!人間界の神(嘘)だよ。それを悪霊呼ばわりだなんて、失礼しちゃう!
 うんうん、我ながら素晴しい考えだ!はははははは!」



魅魔はそんな自分の名案・・・迷案?に満足して豪快に笑う。



「・・・・・・あの爺、再現し過ぎよ」



仮にも自分の創造主だというのにこの言い様。

紫はダンの技術に関心半分呆れ半分の心境で苦笑するしかなかった。



「さーてと、それじゃ準備運動は・・・ここまでにしようかねぇッ!」



そう言うや否や、魅魔の背中から漆黒の翼が現れる。



「さあ、本気で往くよッ!―――オーレリーズ―――」



緑、青、赤、黄の玉が出現し、紫に襲い掛かる。



「なら―――往くわよッ!」



すかさず紫はスキマを展開し、また回避する。



「馬鹿の一つ覚えみたいに何度も何度も避けッ!?」



魅魔の目の前にスキマが展開される。

何十、何百とだ。

辺りは紫の展開されたスキマだらけになった。

その全てのスキマから、紫の声が響いて出てくる。



『さあ、往くわよ?何処から来るか分からぬ恐怖、味わうがいいッ!』

「――――――上等ッ!」



その声を聞いてニヤリと笑う魅魔。

スキマから弾幕が出現・展開し魅魔に大群となって迫る。



「はっ!まぁだまだぁッ!」



スルリスルリと弾幕の大群をかわしていく魅魔。

しかし攻撃に転じたくとも相手はスキマに隠れたまま。

それを攻めるのは難しい。



「そう、普通の奴なら難しい。でも私は普通じゃないのさ!」



魅魔はスキマの一つに杖を向ける。



『何をするつもりなの?』

「確かに弾幕は何処から来るか分からないけどねぇ・・・あんたが何処にいるかは分かってる。
 そのスキマの中さ。そしてこのスキマは全てつながってる・・・つまり」

『まさかあんたッ!?』



紫の額に嫌な汗が流れる。



「そのまさかよッ!マスタァァァァァ」

『ちょ、ま』

「スパァァァァァァァァァァァァァァァクッ!」



魅魔はスキマの一つに向かいマスタースパークを発射した。

そしてスキマの中に入ったと瞬間。

全てのスキマから爆風と爆音が響いた。



「ッッッッッ!!!!ゴホォッ!ゴッホォッ!こ・・・の馬鹿悪霊ッ!
 あんた、なんつー力技をッ!」

「いやぁ~照れるねぇ~」

「誰が褒めた誰がッ!」

「あんたが」

「してないわッ!」

「残念ね、ぐすん。ヨヨヨヨ」

「ワザとらしく泣くなぁッ!しな垂れるなぁッ!」



魅魔がしたこと。

それはマスタースパークを放ち、スキマの中で爆発させるという荒業だった。

紫のスキマは無数に展開されていた。

だが全てのスキマは紫のいるスキマの世界につながっている。

だったらどのスキマでもいいから大技をぶち込んで爆発させればいい。

そうすれば紫は出てくるはず。

そう考えた魅魔はそれを即実行。

そしてそれは見事成功し、紫にたまらずスキマから出るしかなかった。

ぶすぶすと少しだけ焦げた彼女の服が、その悲惨さを物語っていた。



「まあ、あれだ。あんたの能力はまさしく最強さ。そう、能力はね。
 でもその能力に頼り過ぎだねあんた。妖力もデカイし頭もキレるけど・・・純粋な力の勝負は大妖怪の中じゃ至って普通。
 あるいはそれ以下かもね。うんうん、あはははは!」



腕を組んで一人納得する魅魔。



「へ・・・減らず口をぉ!」



そんな魅魔を紫は両の拳を握り締めて悔しそうに睨み付ける。



「えー?だってほんとのことじゃなーい」

「なにが、じゃなーいよッ!」

「その証拠に・・・・・・ほいさッ!」

「ッ!?クッ!」



魅魔が再び突撃し自らの杖を振り下ろす。

紫はそれを愛用の傘でギリギリで受け止める。



「ふっふっふーん、どうしたんだい?押されてるじゃないか」

「こ・・・のぉ!」



片手で杖を振り下ろし、余裕の笑みを浮かべて押し続ける魅魔。

それに対し紫は、両手で傘を握って必死に踏み止まる。

八雲 紫は最強の妖怪の一人だ。

だがその力の強大さは彼女の能力がずば抜けているからだ。

能力を使用しない場合の紫は、そこら辺の大妖怪と同等。

あるいはそれ以下の場合もあるのだ。



「だからこんな力比べだと・・・・・・こうなるのさッ!」

「きゃッ!」



魅魔が杖を振り抜き、紫は吹き飛ばされる。

紫はなんとか空中で姿勢を正すが、吹き飛ばされた衝撃で頭がくらくらした。



「こ、の・・・馬鹿力ぁッ!」

「おやぁん?気分が悪そうだね?どうしたんだい?」

「誰の所為だと思ってるのよ誰のッ!?」

「なに?誰かにやられたのかい?まったく、そいつはなんて悪い奴なんだろうか」

「あんただあんたッ!」

「はははは!バレたか」

「と・・・と・こ・と・ん・ま・で・馬・鹿・に・し・てぇぇぇぇぇぇぇッ!」

「馬鹿にはしてない。虚仮にしてるだけよ」

「キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!あったまキタァァァァァァァァァァァァァァァッ!」



紫は頭を掻き毟り、地団駄を器用に空中で踏む。

しかし次の瞬間、紫の雰囲気が一気に変わる。



「・・・・・・うん?」



魅魔はそれに気付き首を傾げる。

紫の雰囲気が先ほどまでのふざけた雰囲気が抜けている。

もっとも、そんな雰囲気にさせたのは他ならぬ魅魔自身なのだが。



「ふぅ・・・・・・・・・いいわ。だったら喰らいなさいな。この、スペルカードの力をねッ!」



怒りが限界に達した瞬間、紫の頭は恐ろしいほどに冴えていた。

俗に言うキレた状態になったのだ。

そして紫は自分のスペルカードを発動させる。



―――結界「生と死の境界」―――



発動と同時に弾幕が紫から放たれる。



「これがスペルカードねぇ・・・至って普通の弾幕じゃあないかい」



魅魔はそう言って放たれる弾幕をヒョイヒョイとまた避ける。

これではさっきの攻撃の方がまだ激しかった。



「ふふふ、このスペルの怖さはまだまだ・・・今からよッ!」



紫がそう言った瞬間、今までとは比べ物にならない密度の弾幕が襲い掛かって来た。

大小様々、色彩鮮やかな弾幕の花火は魅魔を打ち倒さんと迫り来る。



「ッ!?ははは、これはまたなんとも」



魅魔はたまらずに障壁を張って弾幕を防ぐ。



「あら駄目じゃない。弾幕はかわしてこそ華。それをそんなもので防ぐなんて無粋ですわよ?」

「そうかい?いやいや、そりゃすまないねぇ。なにしろ素人なもんでね」

「でもそろそろ防ぎ切れないのではなくて?偽者の悪霊さん」

「・・・・・・・・・チッ」



紫の言う通り、障壁は少しずつ罅割れて剥げ落ち、徐々に崩壊していった。



「そろそろ観念して成仏してはいかがかしら?」



そう言って余裕の笑みを浮かべる紫。

それを見た魅魔は。



「・・・・・・・・・はぁ」



溜め息を吐いた。



「紫、いよいよボケたかい?」

「・・・なんですって?」

「そりゃさ、この弾幕は凄いよ。実に美しく鮮やかだ。芸術的と言ってもいいよ。だけどね」



魅魔の障壁が、ついに崩壊した。




















「こんなものでは――――――私は倒せはしない」





















魅魔は杖を一振りして弾幕を放つ。

その放たれた弾幕が紫の弾幕とぶつかり合い、そして消滅する。



「そ、そんな」



それを見て愕然とする紫。

それもそうだろう。

スペルカードをスペルカードで相殺する。

これはよくあることだ。

だが先ほど魅魔が放ったのは通常の弾幕だった。

そんなもので自分の自慢のスペルカードを相殺されて、紫は軽いショック状態になる。



「こんなもので本気でこの私を倒せると思ってたのかい?だとしたら・・・少しがっかりだよ。
 この私も、そして恐らくオリジナルの魅魔もそう思うだろうね。
 ダンの奴もそんな似たようなこと言ってたんじゃないかい?」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・図星かい。まあいい。紫、一つ答えな」

「・・・・・・なにかしら?」

「今の幻想郷は、こんな感じなのかい?」

「・・・・・・ええ、そうよ」

「そうかい、だとしたら」



魅魔はゆっくりとその言葉を口にした。


















「それはなんて――――――素晴しいことなんだろうか」




















「・・・・・・え?」



紫はその言葉に耳を疑った。

てっきり否定の言葉が出てくると思っていたのでそれは当然の反応だった。



「こんな優しい戦いが出来るなんて、羨ましいよ本当。
 私はさ、別に良いと思うよこういうの。だってこれなら、大事な奴を殺さずに思いっきり喧嘩が出来るからね。
 本当に、良い世の中になったよ」



そう言って彼女は憂いを帯びた表情になる。

かつての誰かをいや、誰かを想うように。

その表情は、まさしく本物だった。

だから、紫は言った



「魅魔・・・あんた」

「やっと言ったね」

「え?」

「名前」

「あ・・・」



魅魔にそれを言われてハッと気付く紫。

そう、彼女の名前を言った事に。



「嬉しいね、やっと認めてもらえたみたいでさ」

「・・・・・・名前なら、最初に言ったでしょ?」

「あんなのは無しよ。ノーカウントノーカウント。ちゃんと私を見て言ってくれてなかったでしょ?」

「・・・そうね」



偽者だと思ったから、紫は無意識の内に彼女を魅魔と呼ぶのを躊躇っていた。

本物に対する侮辱だと、そう思ったから。

でもそうじゃないと気付いた。

此処にいる彼女は確かに偽者だが、その胸に抱く想いは本物となんら変わらない。

それに気付いたから紫は言ったのだ。

彼女のことを、魅魔と名前で呼んだのだ。



「まあ、いいさそれは。紫私はね、思うのよ。
 ダンの奴が何を言ったのか分からないけど、そんなの一々気にしなさんなってんだ。
 私達幻想は、そんな簡単に消えやしないんだから。
 それに血生臭い戦いなんて・・・私達だけが知ってればいいのさ。
 魔理沙や・・・霊夢達に、昔の私達の幻想のあり方なんて教えなくてもいいのさ。
 きっとあいつらなら、私達より凄いことが出来るはずだから」



魅魔は希望を語るように笑いながら話す。

大切な希望を語るように、彼女は笑いながら話した。



「・・・ええ、そうね」



魅魔のその想いに、紫はそうだと共感する。

自分達には希望がまだある。

魅魔には魔理沙という希望が。

紫には霊無という希望がある。

二人にはまだ、彼女達という希望の幻想がある。



「大体だよ紫。これはあんたが望んだことだろう?だったら前を向いて歩きな。
 あんたにはその責任と義務がある。誓っただろ?あいつを封印した時にさ」

「そう・・・そうだったわね」



そう、誓ったのだ。

自らが封印した、あの幻想の友に。

もう二度と、目覚めさせないと誓ったのだ。

もう二度と、あの人が戦うことが無いようにと。



「うふふ、やっと思い出したみたいだね」

「そうね・・・あんたの御蔭ね、魅魔」

「いやぁ~照れるねぇ~」

「ふふ、私が褒めたんだから当然よ」

「・・・・・・やめなよ。本当に照れるじゃないか」



魅魔はそう言って本気で恥ずかしがり、顔を赤くして照れている。



「あら?ごめんあそばせ」

「まったく、やっとあんたらしくなったね」

「ふふふ、本当ね」



そう言って二人は笑い合う。

本当に楽しそうに。



「でもだからこそ思うのさ紫。私達だけは、私達の幻想のあり方を忘れちゃいけないってね。
 いざって時は、私達があいつらを守らなきゃいけないんだから」

「そうね・・・あ、でもあんたも問題あるわよ」

「へ?なんだい?」

「一体あんたは何処をほっつき歩いてるのよ」

「えー!そんなこと私に言われても」

「あんたのことでしょうに」

「私は偽者ですー本物ではありませんーだからそんな苦情は受け付けませんよーだ」

「まったくあんたって人は」

「だって私は気紛れなんだよ?そんな私を、私が分かる訳ないじゃない」

「・・・・・・質問をした私が馬鹿だったわ」



紫は手を額にやって呆れるしかなかった。



「やーいバーカバーカ」

「黙らっしゃいッ!」

「まあまあ・・・さて、始めようかい」

「・・・・・・そうね」

「それじゃ・・・こちらからッ!」



魅魔は杖を一振りし弾幕を再度放つ。

そして紫は。



「弾幕御一行ごあんな~い」



スキマを展開し弾幕を全て飲み込む。



「げぇっ!それって、つまり」

「こうなりますわ」



魅魔の頭上にスキマが開き、魅魔の弾幕が魅魔自身に襲い掛かる。



「ちょ、ま、イタイイタイ!」

「あんたの弾幕でしょうに」

「だから痛いのよッ!」



軽く被弾しながらも、魅魔は元気に文句を言う。



「あーもうッ!小技ばかりでつまらないじゃないのよっ!」



ちまちましたことが嫌いな魅魔は、そう言ってまた不満を漏らす。



「だったらどうするのかしら?」

「そりゃ、大技で決めるのさ!」



それを聞いてまた紫の額に汗が流れる。



「・・・ちょっと待ちなさいよ魅魔。あんたの大技ってあれでしょ?そんなの出したら神社が」

「大丈夫だって。今此処は幻想郷であって幻想郷ではない別の世界。
 正確に言うなら幻想郷の中に出来た小さな世界さ。その中でなら被害も小さいはずだよ?」

「その小さい被害にこの神社が含まれてるんですけど」



そうなればダンと一緒に自分まであの鬼巫女に退治されてしまうではないか。



「気にしない気にしない。私の業は全てを超越するんだよ?それにもしもの時は・・・そうだ!」



魅魔はこれは名案だと言わんばかりに指をパチンッ!と鳴らす。



「何か思いついたの?」

「いざって時はダンの所為にすればいいんだよ」

「・・・・・・あ、そうね。それはいいかも」



全ての原因はあいつの所為だ。

だったらこの際何もかもあいつの所為にしてしまおう。

紫はそう思った。



「だろ?あいつが黒幕で元凶なんだから何の問題も無い」

「確かにね。あんたも良い事言うわね」

「私は良い事しか言わないのさ」

「だったら私も本気でいいわね」

「ああ、もちろんさ。それじゃあ往くよッ!」



紫と魅魔が神社上空に対峙する。

空気が二人の圧力でビリビリと震える。



「私のとっておき・・・お見せしますわッ!」

「私のとっておき・・・見せてやるよッ!」



二人の力が極限まで高まっていく。

どちらが先に力を高め業を放つか。

どちらが先に勝敗を決めるか。

二人は力の限りありったけ自身を奮い立たせる。

そしてその先手を取ってのは――――――魅魔だった。

月が、輝く。



「黄昏に、飲み込まれるがいいッ!」

(クッ!間に合わないッ!遅かったかッ!)



必殺の言葉が放たれようとした。



「トワイライト・・・・・ッ!?」



全てを言い切る前に、魅魔は急に何処か遠くを見る。

何かに気を取られたのだ。



「もらったッ!」



紫はその僅かに生まれた隙を逃さず、自らのスペルカードを発動する。



―――紫奥義「弾幕結界」―――



紫の放った弾幕が、百花繚乱と咲き乱れ魅魔を飲み込む。

飲み込まれるその瞬間、魅魔は自分が見る方向に向かってポツリと呟いた。




















「なんだい、元気そうじゃないか――――――よかった」




















「ッ!?」

「どうしたのよ魔理沙?」



急に立ち止まる魔理沙を怪訝な表情で見る霊夢。



「い、いや、なんでもないんだぜ」

「そう?それじゃ行くわよ」



そう言って二人はまた目的地目掛けて飛ぶ。



(今、魅魔様の声が・・・・・・いや、まさかな)



そう考え、彼女は霊夢と一緒に飛び続ける。





















――――――彼女の声は、確かに届いたのだ。












































毎度どうも荒井スミスです。

紫VS魅魔でしたッ!

いかがだったでしょうか?

今回はそこまでドンパチも災害も天変地異も起きませんでした。

いや、起きたら大変ですしねwww

でももしあの業が出たら・・・ああ、、間違いなく天変地異だ。

今回のBGMは魅魔様のテーマ曲のリーインカーネイション。

それの原曲と蓬莱人形版、それと東方サッカー版を聞いて書きました。

サッカー版が一番燃えましたね。

皆さんにとって、この魅魔様は偽者でしたか?

それとも、本物のように感じましたか?

それでは!


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