米政府がオバマ大統領の政権下で初めて臨界前核実験を実施したことが明らかになり、被爆地の広島・長崎では波紋が広がった。「核兵器なき世界」を目標に掲げ、昨年のノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領への期待が大きかっただけに、怒りや失望の声が渦巻いた。
広島県被団協の坪井直理事長(85)は「一言で言えば、裏切られた。どんな国、理由であれ、核実験と名が付くモノは絶対反対」と批判。
「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」の森滝春子共同代表(71)は「『核なき世界を目指す』と言いながら、核開発や核戦力の維持をする米国の核政策の表れ。言行不一致で許せない。インドやパキスタン、イスラエル、北朝鮮などに対し、開き直りを促進してしまう可能性がある」と批判した。
長崎原爆被災者協議会会長の谷口稜曄(すみてる)さん(81)は「ノーベル平和賞まで受賞して、あれはいったい何だったのか。米国は被爆者に対し、どう謝罪するのか」と怒りをあらわにした。
長崎原爆遺族会顧問の下平作江さん(75)は「核兵器に遭遇すると息絶えるまで苦しまなければならない。私たちが次世代に被爆の実相を伝えなければ」と落胆した様子で話した。
一方、核兵器廃絶地球市民集会ナガサキ実行委の平野妙子さん(56)は「『核兵器のない世界を目指す』という大統領の発言はやはり意味がある。矛盾をはらみながらも理想に向かっていることは確か」とわずかな希望を託した。【寺岡俊、下原知広】
毎日新聞 2010年10月13日 13時42分(最終更新 10月13日 14時09分)