4月27日、東京地裁の会議室に、東京第5検察審査会の審査員11人が集まった。有権者から抽選で選ばれた男性7人と女性4人、平均年齢は34歳。小沢一郎・民主党元幹事長を起訴すべきかどうか、各自の意見を記した用紙を箱に入れた。
「起訴相当」。互選された審査会長と会長代行が1枚ずつ読み上げる。白板には二つの「正」と一つの「一」の字。議決は全員一致だったが、審査員たちに驚きはなく、「やはり同じ意見だ」と納得し合う様子だった。
東京地検特捜部は2月4日、資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡る政治資金規正法違反事件で元秘書3人を起訴し、小沢氏は不起訴とした。告発した市民団体は同12日、審査を申し立てた。
六つある東京検察審査会のうち、第5審査会が割り振り順に従い申し立てを受理した。審査員の任期は半年だが、約半数が3カ月ごとに入れ替わる。同じメンバーで議決するには4月末までに結論を出す必要がある。通常2週間に1度の審査会は、ほぼ毎週開かれた。
厚さ約20センチもの捜査資料が審査員に渡された。特捜部の調べでは、元秘書らは小沢氏の手持ち資金4億円で土地購入したことを隠すため、銀行から同額の融資を受け、登記を翌年にずらし政治資金収支報告書にうその記載をしたとされる。小沢氏は関与を否定した。
「小沢氏は融資書類に自ら署名し判子も押している」「なぜ、わざわざ固定資産税を払ってまで登記をずらすのか」。審査員から疑問が噴出した。捜査資料には、地元業者との会合で、小沢氏が事務所関係者を一喝して震え上がらせたとも書かれていた。「小沢氏は絶対権力者」との認識が審査員に広がった。
議決当日、地裁の掲示板に張り出された議決要旨は、こう結ばれていた。「起訴して公開の場で真実の事実関係と責任の所在を明らかにすべきである。これこそが善良な市民としての感覚である」
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小沢氏は党代表選さなかの今月3日、「強制力を持つ捜査当局が不起訴としたことについて、一般の素人の人がいいとか悪いとか言う仕組みが果たしていいのか」と不満を述べた。全員一致の議決に、審査員の経験がある山口県の男性(48)は「小沢さんは政治家として印象が悪い。クリーンなイメージだったら意見が分かれたのでは」と推測する。
92年の東京佐川急便事件では、国会議員らの不起訴処分に4万件以上の申し立てが殺到した。政府の司法制度改革推進本部の検討会委員で審査会の権限強化を議論した元特捜検事の高井康行弁護士は「世論が沸騰した政治絡みの事件では、検察が冷静に判断しても、審査会では情緒的な議論になりがちだ」と懸念を示す。これに対し、同じ委員の大出良知・東京経済大教授は「政治的案件こそ、国民目線でチェックする必要がある」と指摘する。
一方、審査は密室で行われ、審査員は裁判員と同様、審査の経過や出された意見について生涯、守秘義務を負う。結論に至る経緯は明らかにされない。審査員の名はもちろん、申立人の名も審査会の判断で伏せられる。小沢氏の議決要旨の申立人は「甲」だった。
元審査員の神奈川県の男性(53)は提案する。「強制起訴ができる以上、一定の透明性は必要だ。議決時の個人の意見は公表してもいいのではないか」
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09年5月に権限強化され強制起訴権を持った検察審査会は、裁判員裁判と同様に市民が参加しながら記者会見もなく、実態はベールに包まれている。小沢氏について特捜部は5月、改めて不起訴としたが、第5審査会が第2段階の審査中だ。10月中にも結論を出すとみられ、再び「起訴すべきだ」として「起訴議決」が出ると、小沢氏は強制的に起訴される。検察審査会を巡る現状と課題を追う。=つづく
毎日新聞 2010年9月20日 東京朝刊