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崩壊・特捜検察:/2 突破力、潜む危うさ

 ◇「割り屋」で頭角、大坪前部長 前田検事と共通点

 「お疲れさんやったな」。98年末、大阪拘置所(大阪市)から保釈された男性に深々と頭を下げる検事の姿があった。男性を取り調べた大阪地検前特捜部長の大坪弘道容疑者(57)=犯人隠避容疑で逮捕=は肌寒い年の暮れ、拘置所前で男性を出迎え、約2カ月間の拘置生活をねぎらった。

 男性は、特捜部が同年秋に手がけた和歌山市土地開発公社を巡る贈収賄事件で、あっせん収賄容疑で逮捕された同市議(63)。大坪前部長は、否認を貫いていた市議に、懇意にしていた他の市議十数人を捜査対象にしないと約束したという。「頼む。執行猶予が付くようにするから認めてくれ」と迫ると、市議は一転「金をもらった」と認めた。だが、市議は大坪前部長の思惑に反し、実刑が確定。前部長は愛媛県内の刑務所に面会に訪れ、市議を励ましたという。市議は「口に出さないが、『すまんかった』という気持ちがあったのでは。今、まじめにやれるのは大坪さんのおかげよ」と感謝する。

 一方、事件は市議逮捕から間もなく、職員採用に便宜を図ったとして和歌山市長が逮捕される汚職事件に発展。大坪前部長は否認していた市長から容疑を認める供述を引き出し、取り調べにたけた「割り屋」として頭角を現した。

 「(共に逮捕された)秘書は涙を流して認めているのに、あなたは黙っているんですか」。坂本龍馬などが登場する歴史小説の話題で場を和ませながら、揺れる心のすきを突いた取り調べに、元市長は「認めざるをえなかった。その時は人間同士の情が通うこともあった」と振り返る。

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 市長逮捕から4年。特捜部は大阪府松原市にあるため池売却の入札を巡り、競売入札妨害容疑で市職員や業者らの一斉聴取に着手した。逮捕をにらんでいたが、職員側が「これって民間の入札ちがいます?」。同容疑は公の入札が対象で、この入札には適用できないことが判明した。それでも主任だった大坪前部長は「あいつをたたけば(厳しく追及すれば)他に何か出ます。とりあえず逮捕を認めてほしい」と、当時の特捜部長に食い下がったが、捜査は打ち切られた。

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 大坪前部長が特捜部長として全幅の信頼を寄せたのが、捜査手法が似ていると言われた主任検事の前田恒彦容疑者(43)=証拠隠滅容疑で逮捕=だった。2人は突破力や人情の裏側に潜む危うさが共通しているとされた。

 大坪前部長が特捜部長に就任した08年末。検事らを集めた忘年会で、音楽プロデューサー・小室哲哉氏の詐欺事件を担当した前田検事をこう持ち上げた。「小室さんは前田検事を気に入って全部しゃべったんだ」。アルコールが入った前田検事は冗舌になり、同僚に「おれが特捜部長になったら、お前を副部長にしてやる」と自信満々に語った。

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 一連の証拠改ざん・隠ぺい事件を受け、大阪特捜の解体論まで論議され始めた。「割り屋」として、本流を歩んできた大坪前部長と前田検事。事件の背景に、エリートのおごりがあったのか。「代償はあまりに大きい」。同僚検事はつぶやいた。=つづく

毎日新聞 2010年10月3日 東京朝刊

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