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崩壊・特捜検察:/5 裁判官の「警鐘」無視 立件最優先、自己検証せず

 ◇「調書の任意性に疑い」「無理な取り調べ」

 「市長を立件するために、無罪覚悟で副市長を起訴したんだ」。大阪地検特捜部が07年5月に着手した大阪府枚方市の清掃工場建設を巡る談合・汚職事件。捜査にかかわった特捜関係者は捜査終結後にこう振り返った。

 特捜部に談合容疑で逮捕、起訴された前副市長、小堀隆恒さん(64)は09年4月、大阪地裁で無罪判決を受け、1審で確定した。特捜部は、大手ゼネコンと市をつないだとされた大阪府警元警部補(51)=収賄罪などで実刑判決確定=の供述を基に、副市長の逮捕に踏み切ったが、判決は「(副市長の)関与が適切に立証されていない」「動機は存在しないか、極めて希薄」と、捜査のずさんさを一刀両断にした。

 「家族も同じ目に遭わせてやる」などと脅迫的な取り調べを受けたと訴える小堀さん。取材に「私はただの踏み台だったのか」と憤った。市長(当時)の中司宏被告(54)を1審で有罪判決(控訴)に持ち込めたこともあり、特捜部は「これで良かった」と、捜査手法はいまだ検証していないという。

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家宅捜索で押収物を積み込む大阪地検の係官ら=大阪府の枚方市役所で07年5月29日、小関勉撮影
家宅捜索で押収物を積み込む大阪地検の係官ら=大阪府の枚方市役所で07年5月29日、小関勉撮影

 08~09年にも、取り調べのあり方を問われる決定が大阪地裁で出された。特捜部が手がけ、前市長の逮捕までこぎ着けた奈良県生駒市の汚職事件で検事が捜査段階で作成した供述調書5通が証拠として採用されなかった。

 「検察官調書はいずれも任意性に疑いがある」との理由。あっせん収賄罪に問われた元市議が否認に転じ、捜査時に自白を強要され、容疑を認めたと主張した。

 当時、大阪特捜のエースと言われた男性検事(38)が証人出廷する異例の事態になった。弁護側は、検事が「死ぬほど思い出せ。お前だけ思い出さないのはおかしい」「女房や息子を逮捕する」などと元市議を脅したと主張した。だが、検事は平然とした顔で証言した。「最初から自白して、反省していました」

 検事の証言を裏付ける取り調べメモもなく、「弁護側の主張は不合理でない。無理な取り調べがあったのではないか」と指摘した地裁決定。5通はすべて元市議の自白調書だった。

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 「容疑者と信頼関係を作らずに事件のストーリーを押し付けて、認めさせることしか考えていない」。別の特捜検事は取り調べ方法を批判した。

 二つの事件では結果的に、市長らを逮捕し、起訴に持ち込んだ。その一方で、裁判所は捜査や取り調べのあり方に疑問を呈した。任意性・信用性を否定された調書、あまりに強引な取り調べ手法--。

 裁判官の「警鐘」を無視し自己検証をしなかった大阪特捜。元東京地検特捜部長の宗像紀夫・中央大法科大学院教授(68)は、東京特捜も同様の危険性があると指摘。その理由について「警察事件だと検察が証拠の有無などをチェックする。組織をまたいで証拠を検討できるが、特捜事件はそれができない」と説明する。

 さらに大阪の場合、大阪地検を中心とした「関西検察」の過剰な仲間意識があるとも言われる。特捜部検事、前田恒彦容疑者(43)=証拠隠滅容疑で逮捕=や、上司の前特捜部長、大坪弘道容疑者(57)=犯人隠避容疑で逮捕=ら3人は「関西検察」に属しており、東京地検特捜部長だった石川達紘弁護士(71)は「身内意識の強さでかばい合いがあったのかもしれない。人事は東京、関西一体でやるべきだ」と指摘する。

 未曽有の不祥事が噴出し、解体論議も浮上した大阪特捜。復権の道はあるのだろうか。=つづく

毎日新聞 2010年10月8日 東京朝刊

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