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貨幣進化論―「成長なき時代」の通貨システム (新潮選書)貨幣進化論―「成長なき時代」の通貨システム (新潮選書)
著者:岩村 充
新潮社(2010-09)
販売元:Amazon.co.jp
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貨幣は奇妙なものである。単なる紙切れでありながら何でも買えるので、それ自体に価値があるかのように錯覚する人々が多い。こうした物神化の傾向は古代からあり、イスラム圏では利子を禁じ、共産主義は貨幣を廃止しようとした。今日でも、金融政策を物神化して「日銀がお金を無限にばらまけば景気はよくなる」と主張する自称エコノミストが絶えない。

貨幣は実体経済のベールであり、ベールを変えて中身を変えることはできない。通貨需要と供給の一致する価格(金利)が自然利子率で、今の日本ではこれがマイナスになっているために通貨の需要不足=デフレになると考えられている。自然利子率は投資や消費などの実需で決まるので、投資が増えないかぎりデフレは脱却できない。

だからデフレを止めることだけが目的なら、日銀が株式や不動産などの実物資産を数百兆円ぐらい買えばよい。しかしこれは狭義の金融政策ではなく財政政策なので、国会の承認が必要だ。この区別をごちゃごちゃにして、日銀が日本経済を自由自在にコントロールできるかのように物神化する政治家が、経済政策を混乱させている。

デフレは不況の結果であって原因ではない。20年もデフレが続いているのは単なる金融政策の問題ではなく、日本経済に大きなひずみが蓄積していることの貨幣的な表現だと著者は考え、そのひずみが一挙に解放されるとき起こるのは、マイルドなインフレではなく破局的な事態ではないかと予想する。

本書は貨幣についての多彩なエピソードを紹介しながら、こうした金融政策についても解説しているが、記述がまとまりを欠き、読みにくい。