きょうの社説 2010年10月13日

◎通貨安戦争 再度の介入をためらわずに
 円ドル相場が一時、15年ぶりに1ドル=81円台まで上昇した。円高圧力は当分続く 可能性があり、市場では、79円75銭の史上最高値を更新するのは時間の問題との見方も出始めた。先月、単独で円売り・ドル買いの市場介入を実施した政府は2次、3次の介入をためらうべきではない。

 12日の東京株式市場は円高警戒感が根強く、前日比200円の大幅安となった。各国 が輸出に有利な自国の通貨安を望む「通貨安競争」が激しさを増し、国益をかけた「通貨安戦争」の様相を呈していることも嫌気された。通貨安定に向けて各国との協調を探る一方で、政府は円高の進行を食い止める断固たる決意を示してほしい。

 重要なのは、「介入は効果がない」「他国から批判を浴びる」などという周囲からの雑 音に耳を貸さず、市場心理を読んで効率的な円売り・ドル買い介入を行うことだ。大規模な資金投入をせずとも、前回の介入のようにタイミング良く、機敏に動けば相当の効果が見込める。時には「口先介入」も織り交ぜて鼻先にジャブを打ち続け、投機筋に好き勝手させないようにしてほしい。

 日米欧の先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)の主要なテーマは、中国に人民 元の一段の切り上げを促すことだった。中国は元相場を事実上国家が管理し、元高阻止に全力を挙げている。韓国もまた輸出主導の景気回復を目指して官民一体のウォン安政策を続けており、為替市場への介入を繰り返している。

 日本の円売り・ドル買い介入は、中国のように自国通貨を管理する意図はない。あくま で急激な円高によって国内経済の混乱が懸念される場合にのみ行うものであり、同一視されるいわれはない。

 円高の背景には米国や欧州の金融緩和に対し、市場が過度に警戒感を強めている現実が あり、現在の円相場が日本経済の実力を正しく映しているとは言い難い。G7でも日本の介入に関して目立った非難が出なかったのは、現在の円高が異常な水準にあることを各国が十分承知しているからである。政府が自己防衛のための介入に消極的になる理由はない。

◎「平家の里」推進 近隣と連携し魅力付けを
 能登の平家ゆかりの地を巡る輪島市の「平家の里」構想は、貴重な歴史遺産を地域振興 につなげる施策として注目される。計画では藩政期に代々庄屋を務めた旧家「松尾邸」を滞在拠点として、平家物語の登場人物である平時忠の子孫と伝わる国指定重要文化財「時国家」「上時国家」、国登録有形文化財「南惣家」などを巡るものである。

 輪島市ではこれまでも禅や北前船などの歴史文化を生かしたまちづくりが進められてお り、「平家の里」も能登の魅力をより高めるものである。時忠の流された珠洲など近隣との連携も視野に入れながら、能登の新たな「歴史の道」を構築してもらいたい。

 「平家の里」を訪ねる旅は、北陸新幹線金沢開業に向けたアクションプランSTEP2 1の中に掲げられている「テーマ性のあふれる多様なツーリズムの推進」の一つに該当するといえる。「観光誘客拡大」に向けて、ほかの土地では体験できない歴史ロマンを味わうことができる魅力を秘めている。

 「平家の里」構想で巡る各家は、それぞれ由緒ある名所だが、一体化してアピールする ことで、これまで以上の発信力が期待できる。滞在拠点となる松尾邸は、約150年前に建てられ、「平家の里」を巡る滞在型ツーリズムの拠点にふさわしい風格ある建物と能登の豊かな自然もセールスポイントといえる。

 隣接する珠洲市との連携は、「平家の里」の魅力を高めるものとなろう。同市大谷町に は「平時忠と一族の墓」が残り、時忠の歌の標柱なども設けられている。各地の名所旧跡や伝承の地などを結び、見どころを増す広域ルートの可能性を探ってもらいたい。それらの魅力を存分に伝えることができるように、地域の歴史や伝説などをよく知るガイドの育成にもさらに力を入れる必要がある。

 2012年放送の大河ドラマ「平清盛」で平家ゆかりの地への関心も高まるだろう。県 内には平家や源氏にまつわる名所が多く、「源平」を含めて、その土地ならではの歴史遺産を見つめ直し、地域づくりにつなげてほしい。