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1人で親の介護しながら仕事
支援制度拡充へ、NPO発足
介護保険スタートから10年がたち、介護が必要な人向けのサービスの利用は広がっているのに対し、介護している家族への支援は今も乏しい。
心身の負担が大きく、経済的な困難も抱えがちな介護者を支えるため、市民団体の間で、新たな法律の制定を求める動きが起きている。(飯田祐子、写真も)
札幌市に住む独身のA子さん(50)は、20年前から、事故で障害を負った母親(80)を介護している。2年前に母親が自力で起き上がれなくなり、常に介護が必要になったため、事務の仕事を退職。ヘルパー2級の資格を取り、現在は訪問介護の仕事に就いている。
母親は要介護4。他人から介護を受けるとストレスで体調を崩してしまうため、ほとんど介護保険のサービスを利用することができない。A子さんが働ける時間は限られ、収入は母親の年金とあわせても月20万円に満たない。生活保護の窓口に相談に行ったが、「『あなた自身は健康なのだから、お母さんを施設に入れて働きなさい』と言われ、門前払いされた」という。
退職金などの蓄えも底をつき、クレジットカードのローンを借りては返す生活が続く。A子さんは、「子どもが、死亡した親の年金を不正受給していた事件が相次いだが、中には介護のために仕事を辞めた人もいたのでは。低利の融資など、経済面でのサポートがあれば介護の苦労も乗り切っていけるのに」と訴える。
離・転職14万人
総務省の調査では、2006年10月から07年9月の1年間で、家族の介護・看護のために離職・転職した人は、14万4800人。5年前より14%増えた。NPO法人「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」の牧野史子理事長は、「家族の形が、この10年でがらりと変わったことが大きい」と見る。
非婚、少子化の進行で、夫や独身の子どもが介護者になるケースが増えているが、現行の介護保険制度の下では、働きながら家族を介護するのは困難だ。牧野さんはまた、「同居する家族がいると、介護保険で家事などの生活援助が受けられなくなるなど、介護者を助けるどころか負担を増やすような仕組みになっているのが問題」と指摘する。
支援の自治体少なく
介護者のために、介護技術を教える教室を開いたり、情報交換のための集まりを催したりといった自治体の取り組みが広がっているものの、支援は十分とはいえない。家族介護者を対象に現金給付を行っている秋田県の
今年6月、高齢者や障害者などを介護する人への支援を法制化するため、研究者やNPO関係者らが集まり、「ケアラー連盟」を発足させた。全国約250人の介護者を対象に、どんな支援を求めているかを調査した。
介護者支援のための法案も独自に作成。介護者を支える人材の育成や、相談窓口となる「介護者支援センター」の設置のほか、介護休暇などの制度の拡充や、介護手当といった経済面で家族介護者を助ける仕組みも盛り込んでいる。
連盟は「アラジン」と協力し、実態把握のため、全国5地域で介護者の数や心身、経済の状況を調べるアンケートを開始した。
ケアラー連盟共同代表の堀越栄子・日本女子大教授は、「日本では『家族が介護するのは当たり前』という感覚が根強い。介護は、社会で取り組むべき問題という意識を高めるとともに、実効性のある施策を確実に進めるため、法制化が必要だ」と話している。
◆ケアラー連盟((電)03・3355・8028、月、水、金曜日の午後1時~5時)
◆NPO法人「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」(http://www12.ocn.ne.jp/~arajin/)
(2010年10月12日 読売新聞)
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