取材を終えて思ったのは、国家がその責任を果たしていないということだ。国家の名のもとに戦争を始め、国民に犠牲を強いた以上、遺骨収集もまた国家の責任として行なわなければならない。にもかかわらず、いわば民間に丸投げするといういまの手法では、国がその責任と真剣に対峙するという姿勢がどうしても感じられない。
しかし、ひるがえってみると、私たちマスコミが、戦争について報道するのは毎年8月だけ。この問題と真剣に向き合ってきたかというと、内心、忸怩(じくじ)たる思いもある。
「遺骨収集」ということ。それは、この国そして私たち自身があの戦争とどう向き合っていくのかを常に問いかけている。
(文:番組取材班 内山 拓)
取材を振り返って
【鎌田靖のキャスター日記】
「旧日本兵の遺骨にフィリピンで盗掘された遺骨が混じっている」。この夏、ディレクターに寄せられたひとつの情報から取材が始まりました。
「本当にそんなことが起こっているのか」。率直にいって当初は疑心暗鬼でした。とにかく現地に行くしかない。フィリピンに飛んだディレクターの3週間に渡るタフな取材から、その実情が次第に明らかになってきました。
遺骨収集事業を行なっていたのはNPO法人の空援隊。遺骨収集が進まない中、その打開策として国が事業を委託したのが2年前。それまで45体にまで減少した収集数は昨年度7740体に激増しました。その中にフィリピン人の遺骨が混じっている疑いが強い。現地の取材から、遺骨のずさんなチェック、労賃を現地の人に支払って遺骨を集めるというシステムの問題などが明らかになりました。
そうした疑問を空援隊の事務局長にぶつけました。その内容は番組で紹介した通り。日本兵の遺骨を帰還させたいという強い信念は伝わってきます。しかし、フィリピン人の遺骨が一部混じっていても仕方がないという立場は首肯できませんでした。日本の遺族だけでなく、フィリピンの遺族の感情にも思いを馳せるべきだと考えるからです。
ただ、インタビューで強く感じたのは国家の責任ということ。そもそも国家の責任として戦争を始め、国民に犠牲を強いた以上、遺骨収集も国家の責任として取り組むべきでしょう。民間に委託しても国はその責任を果しているといえるのか。
空援隊の取材の翌日、厚生労働省の担当者にインタビューしました。私たちの取材結果について厚労省は、職員を現地に派遣するなどして事実関係を調査すると回答しました。ただそこには、問題を空援隊に押しつけようとする姿勢も見え隠れします。そもそもNHKに指摘される前に対応すべきだったはず。国家の責任と真剣に向き合っているという覚悟は、残念ながら私には伝わってきませんでした。
フィリピン以外の国でも、遺骨収集を民間に委託するやり方が導入されはじめています。同じような問題が起きていないのか。そもそも遺骨収集はこのままでいいのか。これからも追跡を続けるつもりです。
※この記事は、NHKで放送中のドキュメンタリー番組『追跡!AtoZ』第55回(10月2日放送)の内容を、ウェブ向けに再構成したものです。
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