タバコの諸問題
 
竹  本  信  雄
takemoto@js6.so-net.ne.jp



1. 主流煙より副流煙の方が危険だというのは本当?
2003年5月6日初稿
2004年1月6日改稿
 

1.1 主流煙より副流煙の方が危険だというのは本当?

「主流煙より副流煙の方が危険だ」と盛んに宣伝されています。「ニコチンもタールも、発ガン性のあるベンゾピレンも副流煙の方が数倍〜数十倍多く含まれている」とか「一人が喫煙するとその周りの3人も喫煙していることになる」とか言われます。

確かによく引用されるデータ【下】を見ると、特に軽いタバコではそうなっています。フロンティアライトの場合ニコチン35倍、ベンゾピレン50倍です。でもそれが本当なら、喫煙者はタバコを買う必要はないはずです。喫煙者のそばにいるだけで十分喫煙できるのですから。

しかし、喫煙者のそばにいても喫煙したような満足感は得られません。数十倍のニコチンを吸っているはずなのにどうしてでしょう。本当に副流煙の方がたくさんニコチンや発ガン性物質を含んでいるのでしょうか。

平成11−12年度 たばこ煙の成分分析について(概要)
厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室 健康情報管理係
燃焼条件 一吸煙量 35ml 間隔 60秒 吸煙時間 2秒 通風孔 開放
                                        
 注)通風孔:たばこのフィルター部に開けられている穴
主流煙
 
質量
g/本
吸引回数回/本 一酸化炭素mg/本 ニコチンmg/本 タール
mg/本
ベンゾピレンng/本 アンモニアμg/本
フロンティアライト 0.875 6.54 2.0 0.1 1.4 2.2 2.7
マイルドセブン・エクストラライト 0.921 7.3 3.8 0.3 3.2 3.7 4.8
マイルドセブン・スーパーライト 0.974 7.68 6.2 0.4 5.2 5.5 7.8
マルボロ・メンソールライト 0.941 7.22 7.7 0.6 7.5 6.4 12.4
キャビン・マイルド 0.962 7.73 10.5 0.7 8.7 8.9 12.0
マイルドセブン 0.982 7.39 11.6 1.0 11.8 11.4 15.5
セブンスター 1.003 8.24 14.7 1.4 16.3 14.6 19.4
副流煙
 
質量
g/本
吸引回数回/本 一酸化炭素mg/本 ニコチンmg/本 タール
mg/本
ベンゾピレンng/本 アンモニアμg/本
フロンティアライト 0.875 7.6 43.2 3.5 19.1 105.0 6850.0
マイルドセブン・エクストラライト 0.921 8.26 46.8 5.8 21.5 128.0 7047.0
マイルドセブン・スーパーライト 0.974 8.75 45.5 4.5 21.7 112.0 6923.0
マルボロ・メンソールライト 0.941 8.33 46.5 4.7 24.5 114.0 7171.0
キャビン・マイルド 0.962 9.04 51.1 4.7 24.0 109.0 7602.0
マイルドセブン 0.982 8.29 48.7 5.0 24.4 92.0 6701.0
セブンスター 1.003 8.94 49.8 4.8 25.6 113.0 5708.0
1.2 単位時間あたりの発生量
 
実 は、「数字のトリック」があるのです。これらのデータは「2秒間吸い、60秒間休む」という条件で測定されたものです。また,1回の吸引量を35mlとし ています。ふつう静かにしているときの呼吸量は1回500ml程度といわれますから,かなり小さく見積もっていると思います。
 
パッ ケージに表示されている値も下の表とほぼ同じです。この測定条件は,ISOという工業製品の世界的規格で決められたものです。つまり割合で言って2秒間に 吸う主流煙と、60秒間に発生する副流煙を比較しているのです。ニコチンやタールの量をできるだけ小さく表示したいのでこういう測定値を用いているので しょう。
 
ですから愛煙家は、パッケージの数値にだまされてはいけません。実際にはパッケージに表示された値の数十倍のニコチン・タールや有害物質を体内に取り入れていることを認識すべきです。
 
そ こで同じ時間に発生する量で比較してみます。すると、アンモニアをのぞくほとんどの物質において主流煙の方が多いことがわかります。特に通風孔のないセブ ンスターにおいては主流煙の方が2倍から40倍多いことがわかります。(極端に軽い煙草では通風孔からはいる大量の空気で薄められるので数値が逆転してい る物質もあります。)「副流煙の方が主流煙より危険」というのは測定条件を無視した間違った議論です。
 
単位時間あたりの発生量
主流煙
 
質量
g/本
吸引回数回/本 一酸化炭素mg/(本・s) ニコチンmg/(本・s) タール
mg/(本・s)
ベンゾピレンng/(本・s) アンモニアμg/(本・s)
フロンティアライト 0.875 6.54 1.0 0.1 0.7 1.1 1.3
マイルドセブン・エクストラライト 0.921 7.30 1.9 0.2 1.6 1.9 2.4
マイルドセブン・スーパーライト 0.974 7.68 3.1 0.2 2.6 2.8 3.9
マルボロ・メンソールライト 0.941 7.22 3.8 0.3 3.7 3.2 6.2
キャビン・マイルド 0.962 7.73 5.3 0.3 4.4 4.4 6.0
マイルドセブン 0.982 7.39 5.8 0.5 5.9 5.7 7.8
セブンスター 1.003 8.24 7.4 0.7 8.2 7.3 9.7
副流煙
 
質量
g/本
吸引回数回/本 一酸化炭素mg/(本・s) ニコチンmg/(本・s) タール
mg/(本・s)
ベンゾピレンng/(本・s) アンモニアμg/(本・s)
フロンティアライト 0.875 7.60 0.7 0.1 0.3 1.8 114.2
マイルドセブン・エクストラライト 0.921 8.26 0.8 0.1 0.4 2.1 117.5
マイルドセブン・スーパーライト 0.974 8.75 0.8 0.1 0.4 1.9 115.4
マルボロ・メンソールライト 0.941 8.33 0.8 0.1 0.4 1.9 119.5
キャビン・マイルド 0.962 9.04 0.9 0.1 0.4 1.8 126.7
マイルドセブン 0.982 8.29 0.8 0.1 0.4 1.5 111.7
セブンスター 1.003 8.94 0.8 0.1 0.4 1.9 95.1

下にグラフを示します。単位はmgに統一しましたが,ベンゾピレンだけは量が少なく表示できないので,10,000倍に拡大しました。
 


主流煙に含まれる物質の量は銘柄によって大きく異なります。主に通風口からはいる空気の量を調節することによって主流煙の薄め方を変えているためです。一 方副流煙は銘柄によらず一定です。「副流煙に含まれる有害物質の量は軽いたばこほど多く危険」などとかかれたパンフレットを見かけますが,グラフが示すとおり事実ではありま せん。

「副流煙が危険でない」などと言うつもりはありません。吸いたくない人に危険な副流煙を吸わせてはいけません。ただ誰であっても、科学的に間違った根拠に基づいて非難したり、非難されたりすることがあってはならないと思うのです。それがどんなに正義や善意に基づくものであっても。

 愛煙家も、1杯のコーヒーにこだわる人のように、ワインをこよなく愛する人のように、1服のタバコの香りと味を楽しむ分別を持った大人です。しっかり分煙して、差別や偏見のないみんなが仲良くたのしく暮らせる社会をつくりましょう。

2. 煙草の副流煙は自動車の排気ガスより危険だというのは本当?
2004年1月7日初稿
2005年7月13日追記

2.1 はじめに

 「副流煙は,排気ガスの2倍のダイオキシンを含み,危険である。」とか「受動喫煙は環境基準の5000倍の致死リスクを持つ。ディーゼルエンジンの排気ガスにさらされた場合の肺ガン死の生涯リスクは10万人あたり300人、いっぽう受動喫煙による肺ガン死の生涯リスクは10万人あたり700人。(松崎道幸氏・日本禁煙推進医師歯科医師連盟運営委員)」などの主張がある。

【参考】
厚生労働省の平成13年度の調査によれば,我が国におけるダイオキシン類の年間排出量は、約1,743〜1,762 gで,そのうち自動車排出ガスによるものが1.59g,たばこの煙によるものが0.1〜0.2gと推計されている。また,肉や魚介類など食べ物を通して取り込むダイオキシンの量が体重1 kg当たり約1.63 pgであるのに対し,呼吸により空気から取り込む量は約0.039 pgである(ダイオキシンの質量はいずれも最も毒性が強い2,3,7,8−TCDDに換算した値)。
引用文献:http://www.env.go.jp/chemi/dioxin/pamph/2003.pdf
〈2005.7.13追記〉

 人が「車の運転」および「喫煙」という行為をするとき,1分間に排出する「排気ガス」と「副流煙」にはどのような有害物質が,どの位含まれているのだろうか。目安として,自動車の排ガス規制値と,副流煙に含まれる有害物質量を比較してみた。

※下線部追記(2005.7.2)

 あわせて,なぜこのような基準で車の排気ガスとタバコの副流煙を比較したのか,背景を述べたいと思います。

 職場では喫煙者と非喫煙者の合意の上で「館内禁煙」「屋外禁煙」を実施し,受動喫煙の害を防止しています。喫煙は人の出入りのない廃屋のような別棟でのみ行っています。ところが,2006年度からその別棟を取り壊して「敷地内禁煙」とすることが決定しています。「敷地内禁煙」を主張する人は,「屋外に漏れるわずかな副流煙よっても健康被害が発生する」と考えているのでしょう。

 この文章は,敷地内に100台を超える自動車・バイクが乗り入れている中で「敷地内禁煙」を実施することにどんな意味があるのか,本当に副流煙の方が排気ガスより危険なのかを考える資料として書いたものです。(2005.7.6追記)

2.2 平成12年排出ガス規制

走行モード ガス成分   発生量 発生量/分
10・15モード排出ガス(g/km)
 
一酸化炭素(CO) 1.27 g 0.462 g
炭化水素(HC) 0.17 g 0.062 g
窒素酸化物(NOx) 0.17 g 0.062 g
11モード排出ガス(g/test)
 
一酸化炭素(CO) 31.1 g 3.89 g
炭化水素(HC) 4.40 g 0.550 g
窒素酸化物(NOx) 2.50 g 0.313 g
アイドリング時の排出ガス濃度 一酸化炭素(CO) 0.01 g    
炭化水素(HC) 300 ppm    
【用語説明】
一酸化炭素(CO) 無色、無臭、水に難溶の気体。大気中濃度0.15〜0.20%で吐き気が激しくなり、意識を失う。0.40%の場合短時間でも吸引すれば生命が危険になる。1%を超えると6〜7分で絶命する。
炭化水素(HC) 炭素と水素からできている化合物の総称。神経系や肝臓障害をひきおこすため、「労働安全衛生法」で管理体制等が定められている。大気中で拡散した炭化水素は、強い紫外線を受けてオキシダントを生成し、人体や植物に害を与える。
窒素酸化物(Nox) 刺激性があり、汚染が激しい地域で生活していると呼吸器障害を起こすといわれている。酸性雨の原因物質の一つでもある。
10・15モードテスト
主に都心部での走行をシャシダイナモ上で再現し排出ガスを測定する方法。10及び15の走行パターン(アイドル、加速、減速等)を組み合わせたもの。
所要時間:660秒 走行距離:約4km 平均速度:22.7km/h 最高速度:70km/h
11モードテスト
郊外から都心部に向かう車の走行状態を11のパターンにしてシャシダイナモ上で再現し排出ガスを測定するもの。コールドスタートによりテストする。
所要時間:480秒 走行距離:約3.2km 平均速度:30.6km/h 最高速度:60km/h
ppm 一定の空間あるいは容積内に、検証したい気体等がどのくらい含まれているかを100万分の1の値で示す濃度の単位。

引用:日本外国自動車輸入整備協同合組のホームページhttp://www.aia-net.jp/ygas.html

2.3 マイルドセブン・スーパーライトの副流煙

条件: 8.75(回/本) 1回60秒
成    分 発生量/本 発生量/分 発生量/分(g単位)
一酸化炭素   45.5 mg 5.20 mg 0.00520 g
水分   2.26 mg 0.258 mg 0.000258 g
ニコチン 総計 4.48 mg 0.512 mg 0.000512 g
タール 総計 21.7 mg 2.48 mg 0.00248 g
カルボニル類






 
ホルムアルデヒド 423 μg 48.3 μg 0.0000483 g
アセトアルデヒド 1789 μg 204.5 μg 0.0002045 g
アセトン 1023 μg 116.9 μg 0.0001169 g
アクロレイン 314 μg 35.9 μg 0.0000359 g
プロピオンアルデヒド 185 μg 21.1 μg 0.0000211 g
クロトンアルデヒド 62.7 μg 7.17 μg 0.00000717 g
MEK 210 μg 24.0 μg 0.0000240 g
ブチルアルデヒド 121 μg 13.8 μg 0.0000138 g
ベンゾピレン   112 ng 12.8 ng 0.0000000128 g
窒素酸化物
 
NO 2030 μg 232 μg 0.000232 g
NOx 71 μmol 8.1 μmol 0.0000081 mol
シアン化水素   130 μg 14.9 μg 0.0000149 g
アンモニア   6923 μg 791.2 μg 0.0007912 g
有機化合物



 
1,3-ブタジエン 376 μg 43.0 μg 0.0000430 g
イソプレン 2516 μg 287.5 μg 0.0002875 g
アクリロニトリル 104 μg 11.9 μg 0.0000119 g
ベンゼン 303 μg 34.6 μg 0.0000346 g
トルエン 618 μg 70.6 μg 0.0000706 g
ニトロソアミン類


 
NNN 79.7 ng 9.11 ng 0.00000000911 g
NAT 42.8 ng 4.89 ng 0.00000000489 g
NAB 9.37 ng 1.071 ng 0.000000001071 g
NNK 110 ng 12.6 ng 0.0000000126 g
 
引用:平成11−12年度 たばこ煙の成分分析について(概要)
http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/houkoku/seibun.html

 1分間あたりの有害物質の排出量は,車の排気ガスがg単位であるのに対し,タバコの副流煙はmg〜ng単位である。オーダーとして1,000倍から1, 000,000倍以上排気ガスの方が有害物質を含んでいることがわかる。一番身近で副流煙を吸う私は数10年たってもまだ死なないのに,直接排気ガスを吸 えば短時間で死にいたることを考えても,どちらが危険か明らかだと思う。

3. よく見るグラフと,あまり見ないグラフ
2004年1月7日初稿
2006年3月12日データ更新

3.1 はじめに

 「日本人の喫煙率は先進国の中でトップ。そのため肺がんが増え続けている。いち早く喫煙率を下げたイギリスでは肺がんが減り始めている。」とよく言われる

3.2 よく見るグラフ

 喫煙と肺がんの因果関係を説明するためによく右のグラフが用いられる【図1】。
 しかし,「成人(15歳以上)一人あたりの年間タバコ消費量」は,その国でどのくらいタバコが消費されているかを国際比較するための値であり,喫煙率や男女の差 などは全く考慮されていない。喫煙と肺ガンの相関関係をみるというなら,男女別の「喫煙率」と比較すべきではないか。
【図1】日本における肺癌による死亡者(年齢調整死亡率)と成人一人当たりの年間タバコ消費量(日医雑誌,第125巻,第3号,2001より抜粋) http://www.kobe-u.ac.jp/medicalc/med30-29.html

3.3 あまり見ないグラフ

【図2】気管・気管支および肺ガン死亡率(人/10万人)と喫煙率(%)

 そこで,「喫煙率」と「肺がん死亡率」の関係を表すグラフを作ってみた【図2】。
 幸いなことに,近年「肺がん死亡率」は,男女ともに減少傾向にある。医療技術の進歩によるものであろう。
 男性の喫煙率は1960年代以降順調に減少しているが,女性の喫煙率は15%前後でずっと変化していない。
 男性と女性でこんなにも喫煙率およびその変化が異なるのに,肺がん死亡率は男女で全く同じように変化してきた。(女性の肺ガン死亡率が低いのは,世界的な傾向。変化の様子は対数目盛のグラフを描いてみるとよくわかる。【図3】)
 女性の喫煙率を見ればわかる通り,肺ガン死亡率は喫煙率の変化とは全く関係なしに上昇し,現在減少に転じている。
 肺ガンには,タバコ以外に,男女に共通するもっと大きな要因があることを,これらのグラフは示していると私は思うが,いかがだろうか。
【図3】気管・気管支および肺ガン死亡率(人/10万人)〈対数目盛〉
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