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小社会 |
2010年09月11日08時10分 |
藤沢周平さんの短編「冤罪(えんざい)」は、藩の金を横領し、切腹させられた勘定方の事件が全くのでっち上げであることを、下級武士の青年が暴いてゆく話だ。その勘定方の人柄や性格を、知人たちに聞いて回ると…。
親しかった僧は「あの方ほど、悪事に縁遠い人はない」という。また勘定方の同僚の一人は「あれが藩金を使い込む顔に見えるかな?」。すこぶるまじめな人間像が浮かんできて、青年は疑問を抱く。
厚生労働省の文書偽造事件にいわば巻き込まれた、高知市出身の村木厚子元局長に大阪地裁が無罪判決を言い渡した。村木元局長もまじめで、仕事も人柄も評判が高い人である。逮捕直後にも「有能な局長」「働く女性にとって希望の星」などの賛辞が聞かれた。
最も「悪事に縁遠い人」を、罪人にした検察の大失態だ。一貫した無実の主張に真剣に耳を傾け、一人の人間として対応していたら、あんなずさんな捜査になるはずがあるまい。
元局長は障害者ら弱者が切り捨てられることに、憤りを感じる人だともいう。仕事への誇りが、約5カ月間の拘置所生活を耐える力だったのかもしれない。人権も生活もずたずたにされて、支える家族もつらかっただろう。
冤罪は取り返しのつかない、新たな悲劇を生む。江川紹子さんは「冤罪の構図」のあとがきで、16世紀フランスの哲学者モンテーニュの言葉を引いている。「冤罪は犯罪よりも犯罪的だ」と。 |
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