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第五章 アルゼンチンタンゴ・ダンスの将来について

アルゼンチンタンゴ・ダンス協会
会長 小林 太平

2010 年 4 月

アルゼンチンタンゴ・ダンスも世界中で親しまれるようになってきたことは誠に喜ばしいことですが、世界規模になれば、それに対応すべきことが多々あると思いますので、将来の展望と現在すべきことを取り上げました。

技術検定試験の意義

私達が1987年に初留学したアルゼンチンでは多くの先生から学びましたが、基礎のステップ、テクニック、スタイル全てが違っていました。

これらをマスターするのは至難の業であり、 先生に連れられてミロンガに行けば「自分のスタイルで踊れ。」と注意されますが、いくら意識しても混乱して他の先生のものが出てしまい、楽しいはずの踊りが苦しみになったことが度々ありました。

何故基礎だけでも統一することが出来ないのか質問しましたが、一様に「自分のシステムが一番だから。」という返答でした。即ち、自分の踊りが最高だから他のを取り入れる必要がない、ということです。

現在でこそサリダは比較的統一されていますが、統一する必要は無いという基本的な考え方は、昔と少しも変わっていないと思います。

習う方としては、基礎が正しいかどうかではなく、ダンスのスタイルが好きか嫌いかを判断基準にして先生を選ぶことしかできませんでした。

「自分のシステムが一番。」と、言う人々が一堂に会して協議し基礎を定義すれば、より良いシステムが生まれるでしょう。そして、タンゴダンスがグローバル化した現在では、各国の意見を取り入れることで、タンゴダンスの将来はより明るいものになっていくと思います。

バレエを始め、あらゆる踊りには基礎が確立されています。タンゴダンスも一日も早くそれらに匹敵する基礎を確立し、グローバル化を目指すことは重要なことでしょう。

グローバル化に対応するには日本人はアルゼンチン依存症から脱し、日本人としての誇りを持って独自性を模索することが最も大切なことでしょう。

日本人は、踊りの素質がないのではなく、子供のときにタンゴダンスを踊っていなかっただけです。まして男性には、子供のときにやった他のダンスからの転向者もいません。

今後大切なことは、子供にタンゴを教えることでしょう。それには親にタンゴダンスを理解してもらう必要があります。そのためにも現在プロとして活動している人が、経済的に豊かで魅力ある芸術家でなければなりません。

タンゴダンスが世界的に踊られるようになった現在でも、指導者によって基礎が違うということは、タンゴダンスが大切にしている自己主張の観点からは大きな利点がありますが、ここに大きな問題もあります。

自己主張は、基礎を身につけた人に許されるもので、基礎をまったくマスターしていない人がそれをやると、それは単なる我流で踊っているに過ぎません。二人で踊るタンゴダンスでは、我流ほど相手に不快感を与えることはありません。

これらの問題点を改善するには、日本人だから出来る何かがあるはずだと模索して行動したのが、昨年から発足させたアマチュア技術検定試験です。

検定試験を実施するにあたり、NPO日本アルゼンチンタンゴ・ダンス協会内に検定委員会を設置し、委員が約1年がかりで検討に検討を重ね、基礎の規定ステップを選定しました。

その上で、各階級で出題される規定課題ステップと、自由に踊るサロンタンゴの両部門で試験を行っています。規定と自由の両部門の試験によって、基礎がマスターされ、且つ、タンゴダンスの特性である自己主張するという両方が進歩発展していくことでしょう。

そして、技術検定試験が世界各国に普及され、各国が基礎の規定ステップを検討して定義し、それらを持ち寄って協議する国際機関設立が求められるされるでしょう。国際機構設立の前提として、各国に一本化された協会の整備が必要でしょう。その国を代表する協会が国際機構に加盟して協議される「アルゼンチンタンゴ・ダンス国際機構」の設立は急務と考えます。

 

競技会について

アルゼンチンタンゴ・ダンスの競技会は、まだ浅い歴史しかありません。それはタンゴで優劣を競うことが念頭にない時代が、長がく続いてきたからです。現在では多くの国で競技会が開催されるようになり、技術の発展に寄与するとともに、サロンタンゴとステージタンゴが区別され、なおかつ普及する大きな原動力になっていると思います。

しかし、アルゼンチンで開催される世界選手権には、大きな問題点があると思います。

問題点の一つめは、審査員が世界から選出されていないこと。

二つめは、開催国がアルゼンチンだけだということです。

この二点は非常に重要なことで、これがなされなければ「アルゼンチン・オープン・タンゴダンス選手権」と言わざるを得ません。

世界選手権というのであれば、出場選手が世界から参加しているからというだけでは、世界選手権の条件としては誠に希薄です。

毎年開催希望国を募って抽選で開催国を決定し、審査員も世界から募り、審査員養成をするべきでしょう。そして審査基準を定めるべきだと思います。

審査基準を定めるには基礎の定義が確立していなければなりません。その前提となるのが、日本で発足させた技術検定試験の基礎の規定ステップです。これを各国が検討修正し、現在考えられる最高のものを作る必要があります。その上で、競技会でも規定と自由の両部門を行い、審査員の主観だけで採点することがないようにするべきです。それは競技で最も大切なことだと思います。

また、世界各国で開催することによって、一国の利益にとどまらず世界に利益をもたらすことが可能になるでしょう。ここでも「アルゼンチンタンゴ・ダンス国際機構」の設立が大きな役割を果たします。

世界の経済が、一国の思惑では動かなくなっているのと同じように、各国はタンゴダンスの更なる健全な発展のために、協力する時代がすでに来ていることを認識し、アルゼンチンに全てを依存していた今日までを反省し、依存症からの脱却を望んでやみません。

現状のシステムを継続していれば世界チャンピオンの価値が低下し、世界が認めなくなる日がそう遠くないうちに来るように思われます。

また競技会ではプロの部とアマの部とを分け、アマチュアの世界チャンピオンを誕生させるべきでしょう。それがアマチュアに大きな関心を生み、出場に更なる意欲がでるものと思われます。

各国にも誇りがあるように、私も日本人としての誇りをもって、日本人だからこそ出来ることを模索し、豊かなタンゴ界の構築に努力していきたいと衷心より思っています。

 

教師試験について

教えることには責任が伴い、その責任が取れる技術を身につけた人だけが教えるべきです。

初めてタンゴダンスを習う方は、まだどの教師が良いかの判断ができず、始めに習った教師が間違ったことを教えると悪い癖がつき、その生徒はそれを修正するのに習った以上の時間が必要になります。ましてレッスン料を取りながらこのような事態を引き起こすことは、詐欺行為に等しいと言わざるを得ません。

自分は今日から先生です、と手を挙げれば教師になってしまう現状を変えなければ、このようなことは頻繁に起こり、一般の方のタンゴダンスへの認識に悪影響を与え、健全な普及を阻害するでしょう。

この弊害を無くするには、教師資格認定試験を実施し、試験合格者しか教えることが出来ない制度を作る必要があります。それには原点に戻り、現在教えている人も含めてこの制度を通過しなければ、教えることが出来ないという厳しい教師資格認定試験であるべきです。今日まで認定試験を実施してこなかった故に、生まれた弊害の責任は全員で背負うべきでしょう。

教師資格認定試験を行うには採点基準となる基礎の定義が必要です。この定義作成には、昨年から実施しているアマ技術検定試験のノウハウが、大きな役割を果たすでしょう。

アマ技術検定試験から発し競技会、教師資格認定試験へと発展していくことを認識し、皆が協議のテーブルに着き、意見交換をしてより良い制度作成に参加してくれることを切望しています。

これには日本人だけでなく日本で働くアルゼンチン人も含め、有識者の方にも参加していただくことが大切でしょう。自分のシステムは違うからというアルゼンチン的な考えを捨て、世界規模の見地からタンゴダンスの将来の為に発言できる場に出てくれることを望んでいます。

 

発表会について

日本には、あらゆる芸事に発表会があります。これは日本の文化として長年に亘って育まれ、芸事をやる人に親しまれてきました。発表会にむけて集中して稽古に励み、日頃の成果を披露することには大きな意義があります。

日常では味わうことの出来ない緊張感に体が震え、踊り終えた充実感と達成感はその人の人生に生き甲斐を与えてくれます。また、集中しての稽古は、その人の技術の向上にも繋がります。

この素晴らしい文化を世界に発信し、世界各国で発表会が開催され、各国の発表会に出演できる時代がくれば、タンゴを踊る楽しみがまた一つ増えるでしょう。

タンゴ愛好家の方に技術検定試験、競技会、発表会等多くの選択肢を与え、タンゴダンスを心から楽しんで貰える土壌を作ることが、タンゴダンスの将来を明るくするでしょう。

この素晴らしいタンゴダンスのために、皆が同じテーブルに着き、声を上げましょう。

アルゼンチンの文化であるタンゴの伝統を大切にし、その上で世界中により親しまれる環境を構築し、アルゼンチンを旗頭にタンゴを通して国際交流の輪を広げ世界平和実現に今後も努力していきたいと思っています。

 

ここに、P.F.ドラッカー氏の言葉を引用します。

「わらわれの事業は何か」との問いに対する答えのうち、大きな成功をもたらしたものでさえ、やがては陳腐化する。

事業の目的とミッションに関わる定義のうち、50年どころか30年さえ有効なものはない。せいぜい10年が限度である。

したがってマネジメントに携わる者は、「われわれの事業は何か」を問うとき、「われわれの事業は何になるか。われわれの事業のもつ目的、ミッション、性格に与える可能性のある経営環境の変化は認められるか」。

「事業の定義、すなわち事業の目的、戦略、仕事の中に、それら経営環境の変化を現時点でいかに組み込むか」についても考えなければならない。

P.F. ドラッカー著書「マネジメント」より

 

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