公務員改革:財務省主導で要望反映 現役の出向容認

2010年8月19日 2時30分 更新:8月19日 10時16分

 国家公務員の人事制度の見直しで、財務省が内閣官房に提出していた「人事制度の見直し要望」が18日、明らかになった。民主党政権はこれまでに、各府省と所管関係にある企業への部長・審議官級の出向を認めたほか、現役職員が独立行政法人に役員出向する場合に公募の対象外にすることを決めたが、いずれも要望通りで財務省の意向が強く反映されていた。財務省主導が公務員制度改革でも裏付けられた形で、「天下り根絶」を巡る秋の臨時国会での与野党論戦にも影響しそうだ。

 要望はA4判4枚で31項目。財務省が今年春に内閣官房と人事院に提出した。内閣官房などはこうした要望をもとに、人事制度の見直しを行った。

 要望は「官民交流促進のための諸措置」として、「所管関係にある企業との交流制限の緩和」を提起。人事院は16日に人事院規則を改正し、これまで認めていなかった部長・審議官級職員の派遣を解禁した。

 政府が6月に閣議決定した「国家公務員退職管理基本方針」にも要望は盛り込まれた。独法役員に公務員OBが就いている場合、後任は公募で選考することになっているが、同省は「現役職員が出向する場合には、公募を不要とする」と要望。基本方針は要望に沿い「公募の対象とはしないことができる」と軌道修正した。また、「交流対象範囲の拡大」として、公立・私立大学事務局や公益法人・NPO法人事務局への出向を認めるよう求め、基本方針は公益法人とNPO法人について「早急に検討し結論を得るよう人事院に要請する」ことになった。

 内閣官房と財務省の間では、今年に入り本格的な折衝が繰り返されてきた。財務省は「天下りへの批判は退職金を何回ももらうことに対する批判であり、それをしないためには現役出向の活用が重要」などと主張。「天下り根絶」に逆行しかねない内容だが、政府関係者によると、民主党政権内で財務省の主張に対峙(たいじ)する政治家側の動きはほとんどなく、基本方針などに反映されていったという。菅直人首相は3日の衆院予算委員会で、公明党の斉藤鉄夫政調会長に「現役の出向を天下り容認と言われても、認識が違う」と、財務省の言い分を擁護するかのような答弁をした。

 財務省がこうした要望を出した背景には、天下りのあっせん禁止により、キャリア官僚に対する早期退職勧奨(肩たたき)ができなくなり、人事が滞留している現実がある。だが、所管企業への出向拡大は、天下り批判のもととなった官民癒着の温床になりかねないことから本末転倒で、政府内にも「形を変えた天下り」と危ぶむ声がある。

 財務省の要望にはほかにも、不利益処分(行政処分)を受けた企業への交流制限緩和▽中小企業等への派遣拡大のための給与補てん解禁--など、行き場を失った幹部官僚をなりふりかまわず救済しようとする姿勢が表れている。別の省の幹部は「要望には国会での法改正を伴わないものが多く、実現に大きな障壁はない」と語り、なし崩し的に人事制度が変わる可能性があると指摘する。【塙和也】

 ◇財務省による人事制度の主な見直し要望

<実現>

・各府省と所管関係にある企業との交流制限緩和

・交流対象範囲(民間企業)の拡大(※閣議決定したが法改正が必要)

・現役職員が独立行政法人に役員出向する場合は公募せず

・指定職相当専門スタッフ職の創設(※閣議決定したが法改正が必要)

<見送り>

・不利益処分(行政処分)を受けた企業への交流制限緩和

・中小企業等への派遣拡大のための給与補てん解禁

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