国選弁護制度:「ゼロ接見」実態調査 日弁連

2010年8月19日 2時30分

 経済的余裕のない容疑者が国費で弁護士をつけられる「被疑者国選弁護制度」を巡り、担当弁護士が容疑者の起訴、不起訴が決まるまで一度も接見しない「ゼロ接見」の件数が多いとして、制度を運用する日本司法支援センター(法テラス)が日本弁護士連合会に改善を求める文書を出していたことが分かった。日弁連は実態を把握するため、初めて全国調査に乗り出した。

 法テラス国選弁護課によると、昨年5月、殺人事件で被疑者国選を受任した弁護士が、容疑者の求めにもかかわらず、起訴されるまで一度も接見しなかったケースが判明した。同月に制度の対象事件が拡大された後も、ゼロ接見のケースが散見された。このため法テラスは今年5月、日弁連に「容疑者の権利に十分に応えるためには、国選弁護事件に関する問題状況を放置できない」として、早急な対応を求める要望書を出し、改善を求めた。

 被疑者国選弁護の報酬の大部分は接見回数に応じて支払われるため、受任した弁護士は法テラスに回数を報告している。法テラスは取材に、ゼロ接見の件数について「報酬算定のために報告を受けているので公表できない」としつつ、「普通に考えると多いという印象だ」と説明した。

 関係者によると、昨年以降、弁護士が受任した被疑者国選事件約6万件のうち1000件を超えるゼロ接見が報告されているという。ただし、日弁連は▽容疑者を受け持った複数の弁護人のうちの一人が接見以外の仕事を担当した▽容疑者の処分が決まる直前に受任が決まり、接見する余裕がなかった--など「正当な理由でゼロ接見になっている場合が含まれている」とみている。調査結果は秋にも公表する見通し。

 椛嶋(かばしま)裕之・日弁連事務次長は「接見には容疑者から事実を聞き取り、精神的な不安を和らげる意味があり、弁護人の最も基本的な責務。ゼロ接見の大半は正当な理由のあるケースだと推測しているが、問題のある事案が判明したら厳正に対処したい」と話している。【伊藤一郎】

 【ことば】被疑者国選弁護制度

 従来、国費で弁護士をつけることができるのは起訴された被告だけだったが、容疑者の段階から捜査機関の取り調べを監視する必要があるとして、06年10月に殺人や放火など一部重大事件を対象に容疑者に対する国選弁護制度が導入された。裁判員制度が始まった昨年5月には、窃盗や傷害、詐欺など対象事件の範囲を拡大。その後1年間の受任件数は、拡大前の1年の約9倍となる約6万7000件。ゼロ接見でも罰則はないが、悪質な場合は弁護士会による懲戒処分の対象となることもある。

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