ファン氏死去:死の直前まで週7時間の哲学講義(下)

 ファン氏の講義を聞きながら、何度も驚かされることがあった。ファン氏は80代後半という高齢で非常に衰弱しており、立っているのも大変なように見えた。しかし、1時間以上にわたり理路整然と講義を行う姿を見ると、超人的な能力を持っているのではないかと思えるほど、生き生きとしていた。人生のすべての喜びがそこにあるかのようだった。

 あるときは宇宙観について語り、複雑な物理や数学の概念についても話したが、その内容には工学専攻の学者も驚嘆した。ファン氏は講義の際、ときどき北朝鮮での体験談を話すこともあった。ある日、金総書記が酒を飲んでいる席に行くことになった。金総書記は酒をまったく飲めないファン氏に酒を強要した。仕方なく飲むと、それはただの水だった。金総書記はときどき自分は水を飲みながら、周囲には強制的に酒を飲ませることがあったという。ファン氏は、「金正日は元々器が小さく、卑怯な人間だ」と語った。

 ファン氏の哲学講義は、聞く人のレベルや参加する回数によって内容が異なっていた。通常は火、水、木、土曜日の午前と午後に分けて行われた。哲学について何も知らない人が来れば、それに合わせて講義を行った。熱心に講義を聞く人には誰でも尊重し、丁重に接した。とりわけ季刊誌「時代精神」のグループとの出会いは、ファン氏にとって最も大きな喜びだった。以前は主体思想派の中心的なメンバーだったキム・ヨンファン氏やハン・ギホン氏をはじめとする時代精神のグループとは、弟子という次元を越え、同志のような関係にまで発展した。

 ファン氏は、北朝鮮で学んだ主体思想に対する先入観ゆえに、自らの哲学を学ぼうとしない脱北者を弟子として迎えることにも多くの情熱を注いだ。北朝鮮民主化委員会の指導理念を、「人間中心哲学」と定め、自らの考えに共鳴する人たちを中心に将来、北朝鮮を再建する人材として育成したいと考えていた。

姜哲煥(カン・チョルファン)記者

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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