【ウェストラフィエット(米インディアナ州)=勝田敏彦】米国のバイオベンチャー、ジェロン(本社・カリフォルニア州)は11日、さまざまな組織の細胞になるヒト胚(はい)性幹細胞(ES細胞)を使い、脊髄(せきずい)が損傷を受け、運動機能に大きな障害が起きている患者の治療を行う臨床試験(治験)を始めた、と発表した。ES細胞を使った再生医療の初の取り組みとなる。
同社によると、脳や脊髄の神経細胞を保護する役目を持つ細胞をヒトES細胞から育てた。ジョージア州アトランタの施設で8日、この細胞を患者の脊髄の損傷部分に注入、経過の観察を始めた。患者の年齢や性別などは明らかにされていない。
脊髄の損傷が起きてから2週間以内の患者が対象で約10人に細胞の注入を1回ずつ行う計画。注入した細胞が人体に悪影響を及ぼさないか安全性を確認する。歩行能力や感覚が戻るかも確かめる。同社はネズミの実験で運動機能の回復などの効果を確かめ、2008年に米食品医薬品局(FDA)に実用化に向け治験実施を申請していた。
ES細胞は受精卵を壊して作るため、受精卵を「生命の始まり」と見なす宗教界から反発も出ている。
一方、京都大の山中伸弥教授がヒトES細胞のようにさまざまな組織に成る性質を持つ新型万能細胞(iPS細胞)を開発。iPS細胞は患者本人の皮膚などの細胞から作ることができるため、ES細胞のような倫理的な問題や拒絶反応を避けられる利点がある。しかし性質がまだよくわかっていないこともあり臨床応用までに時間がかかると考えられている。
交通事故やスポーツなどで起きる脊髄損傷は、糖尿病やパーキンソン病などと並びES細胞を使う再生医療の大きな目標の一つ。米国の別のベンチャー企業も昨年、失明の恐れがある目の病気「黄班(おうはん)変性」をES細胞を使って治療する治験を申請している。