2010年10月12日5時29分
「貧困の連鎖を教育で断ち切る」。熊本県も昨年度、苦学した蒲島郁夫知事の旗振りで、生活保護世帯から大学や専門学校に進む若者向けの生活費貸し付けを始めた。
行政だけではない。阪神大震災を機に子ども支援を始めたNPO法人「ブレーンヒューマニティー」(兵庫県西宮市)は今春から、生活保護世帯の小学生から高校生までを対象に、塾や予備校で使える年間25万〜50万円分のクーポンを出す支援を始めた。財源は街頭で集めた100万円以上の募金だ。
支援を受けている大阪府の女子生徒(17)は「クーポンがなければ予備校には通えなかった。がんばって合格しないと」
■「貧困の連鎖」断ち切るために
「貧困の連鎖」に関心が高まったきっかけは、堺市健康福祉局の道中隆理事(現・関西国際大教授)が07年に公表した調査結果だ。生活保護を受ける世帯主の25%は、自ら育った家庭も生活保護世帯だった。生活保護世帯の世帯主の学歴は中卒か高校中退が73%を占めた。
国も進学支援に腰をあげた。昨年、参考書代などに使える学習支援費を生活保護に上乗せ。加えて自治体が進学支援に取り組んだ場合の国の補助率を10割に引き上げた。
「教育は学校の役割ではないのか」。自治体には戸惑いも残る。首都圏のある市の生活保護担当課長は「本来は公教育がやるべきこと。でも現実に低学歴が自立の壁になっている。守備範囲を超えているかも知れないが、やるしかない」。
生活保護受給世帯は約138万世帯(6月)と過去最多を更新。財政負担の増加に直面する指定市の担当者は「進学支援に即効性はないが、10年、20年先の保護費軽減につながるはず」と期待を込める。首都大学東京の岡部卓教授も「貧困の連鎖を防ぐ進学・学習支援は未来への投資だ。子どもが社会に貢献できる人材に育ち、納税者となることで、長い目で見れば社会的、財政的な負担も減る」と指摘する。
ただ、失業者の対応に忙殺される福祉事務所の人手不足、学校との連携など、課題も多い。(中塚久美子、清川卓史)