エプソンのインクジェット複合機は、EP型番=染料インク、PX型番=顔料インクと、機種名でどちらのインクか直ぐにわかるようになっている。今回発表された2010年モデルの中、前面給紙と両面印刷に対応、ビジネス用途を考慮した顔料インク機が送られて来たので、レポートをお届けする。
●PX-503Aの仕様
これまで顔料インクを採用しているPXシリーズのラインナップは、「PX-402A」、「PX-501A」、「PX-602F」の4種類だったが、今年FAX非対応機としては最上位に相当する「PX-503A」が追加された。1つ下のPX-501Aと一番の違いは、冒頭に書いたように「前面給紙」と「両面印刷」の有無となる。どちらもより便利に使うにはなくてはならない機能だ。主な仕様は以下の通り。
【表】主な仕様プリンタ部 | 顔料4色インクシステム、MACH方式/5,760×1,440dpi |
スキャナ部 | 主走査:2400dpi/副走査:2400dpi CISセンサー搭載 |
機能 | 自動両面プリント |
給紙 | 前面給紙カセット A4:最大150枚、ハガキ:最大50枚 |
速度 | L判写真プリントのスピード約56秒 |
インターフェイス | IEEE 802.11b/g/n無線LAN/Ethernet(10/100Base-TX)/USB 2.0×1 |
本体サイズ/重量 | 445×367×169mm(幅×奥行き×高さ)/約6.2kg |
インクは4色の顔料系だ。染料系インクとの違いは、にじみが無くレーザープリンタのようにシャープに印刷できる特徴を持つ。インクカートリッジはPX-501Aと同様、「IC4CL46」(4色パック)、「ICBK46」(ブラック)、「ICC46」(シアン)、「ICM46」(マゼンタ)、「ICY46」(イエロー)を使用する。
インターフェイスは、USB×1、有線LANは10/100Base-TXに対応したEthernet、無線LANはIEEE 802.11b/g/n。そしてカードリーダを備えダイレクトプリントにも対応する。ただし、カードリーダはCF非対応、USBメモリやデジカメをUSB経由で接続できるUSBポートは無い。
主走査:2,400dpi/副走査:2,400dpiのCISセンサーを搭載し、コピーやスキャナとして使用できる。最大原稿サイズはA4/USレターサイズ(最大有効領域216×297mm)となっている。
ボディはサイズ445×367×169mm(幅×奥行き×高さ)、重量約6.2kg。箱はそれなりに大きいが、取り出してみると意外とコンパクト。取り回しも楽にできる。ただ少し軽過ぎて、前面給紙カセットをセットする時など、本体を押さえて入れないと動いてしまう。
注目したいのはデザインと背面だ。スクエア型のボックスデザインで非常にシンプル。色はホワイトで何処でもマッチする。また背面を壁にぴったり付けても利用できるよう、スクエア型に加え、電源コネクタ部は背面より少し奥に、USBとEthernetコネクタも左サイド奥と、ケーブルも含めはみ出す部分が無い。付属の電源ケーブルもコネクタの部分がL字で、ケーブルを横に逃がすことができ、壁に当たらない。この辺りはエンジニアのこだわりを感じられる。
電源、USB、Ethernetのコネクタが側面より奥にある。電源ケーブルのコネクタはL字だ |
後トレイは無く、前面の用紙カセットのみ。カセットの中は1段だけで、例えばL判光沢紙とA4普通紙など違うサイズの用紙を同時に収めることができない。またカセットの前の部分は、A4より長い用紙がセットできるよう、引っ張れば7cmほど伸びる仕掛けになっている。
操作パネルはタッチ式ではないものの、各ボタンが分かりやすく配置され、簡単に扱えるイメージを受ける。液晶パネルは約5×4cm。あまり大きくないが、表示される内容は十分見え、そして明るい。用途を考えれば全く問題無いレベルだ。操作パネルの部分は上側に傾けて(最大約45度)使うこともできる。
●単独使用/プリント
プリンタでのプリントは基本的に“写真専用”であり、メモリカードに入っているPDFなど文章に関しては対応していない。このため、液晶パネル上のメニューは「写真の印刷モード」となっている。
写真の印刷機能は、「写真を見ながら選んで印刷」、「すべての写真を印刷」、「いろいろなレイアウトの印刷」、「すべての写真をインデックス印刷」、「スライドショーを見ながら印刷」、「データ読み込み先選択」が選択できる。
写真印刷メニューは、「写真の選択方法:すべての写真を選択/写真の日付で選択/写真選択の解除」、「用紙と印刷の設定:用紙サイズ/用紙種類/フチなし設定/印刷品質/フチなしはみ出し量/日付表示/トリミング/双方向印刷」、「写真の色補正:赤目補正」の設定が可能だ。
なおメモリカードは、SDXCメモリーカード、メモリースティックXCには対応していないので注意が必要だ。
インクジェット複合機の記事で毎回テストに使っている写真データを印刷したところ、黒が少し浮いている感じがするものの十分写真画質だった。肌色も明るく綺麗な感じとなる。作品レベルはともかくとして、普段使いとしては問題ないと思われる。
写真の印刷機能から写真を見ながら選んで印刷 | この時、[ズーム/表示切替]ボタンでトリミング/回転が行なえる | [スタート]ボタンを押してから1:05で印刷(L判/写真用紙/フチなし/標準品質) |
●単独使用/スキャナ
スキャナは、非常にシンプルな構成で「スキャンしてパソコンへ」、「スキャンしてパソコンへ(PDF)」、「スキャンしてパソコンへ(Eメール)」となっている。これからもわかるように、スキャンしたデータは接続しているPCへのみ保存する仕様だ。メモリカードへの保存はできない。
実際、インクジェット複合機を使っていると、スキャン後のデータを直接メモリカードやUSBメモリへJPEGやPDFで保存することが意外に多い、筆者としてはこれに対応できないのはマイナスポイント。用途によって意見が別れるところだろう。
USB接続しているPC | スキャンしてパソコンへ(PDF) | PC上へPDFで保存。スキャン完了まで約1分 |
●単独使用/コピー
コピーの標準コピー設定は、「コピー枚数」、「カラー/モノクロ」、「コピー濃度」となっているので、通常は枚数とカラーかモノクロかを選ぶだけでコピー開始となる。
メニューには、「用紙とコピーの設定:両面/レイアウト/倍率/用紙サイズ/用紙種類/用紙品質/文章の向き・とじ位置/両面・乾燥時間/フチなしはみ出し量」、「写真コピー」、「いろいろなコピー」の項目があり、内容に応じて細かい設定が可能だ。
また写真コピーの場合、一度に複数枚の写真を原稿台へ置き、それぞれ分けて印刷する機能を持っている。L判は3枚、KGは2枚、2L判以上は1枚まで。
メインメニューからコピーを選択 | A4/普通紙/標準品質/等倍で1枚コピー | [スタート]ボタンを押してから0:25で印刷 |
【動画】A4カラーコピーは結構速い |
●セットアップ
本体の「各種設定」は、「インク残量の表示」、「プリンターのお手入れ:プリントヘッドのノズルチェック/プリントヘッドのクリーニング/プリントヘッドのギャップ調整・インクカートリッジ交換」、「プリンターの基本設定:スクリーンセーバー設定/写真表示画面設定/言語選択」、「ネットワーク設定:無線LAN設定/ネットワーク基本設定/ネットワーク接続診断/ネットワーク情報確認」、「ファイル共有設定:USB接続優先/ネットワーク優先」、「初期設定に戻す:ネットワーク設定/ネットワーク設定以外/全ての設定」となっている。
無線LANに関しては、「シンプル設定ウィザード(SSIDを選択しPWなどを手動で入力)」、「プッシュボタン自動設定(AOSS/WPS)」、「PINコード自動設定(WPS)」、「無線LANを無効にする」のいずれかで設定可能。ファイル共有は、USBもしくはネットワークで接続しているPCからプリンタ側のメモリカードにリード/ライトできる機能だ。
今回届いたのは量産試作機だったこともあり、付属のCD-ROMにはプリンタドライバとEPSON Scanのみしか入っていなかった。製品版ではアプリケーションやユーティリティなども含めた“まとめて”もしくは“個別に”セットアップができる。このような理由からPC側のセットアップに関しては参考程度に見て欲しい。
対応OSは、32/64bit版のWindows 7/Vista/XP/2000、Mac OS X 10.3.9〜、10.5〜、10.6〜と、ほぼ全ての環境を網羅する。
プリンタドライバのインストール | プリンタを検索 | プリンタを見つけインストール |
EPSON Scanのインストール | 使用許諾 | セットアップ終了後、再起動 |
●PCからの使い勝手
先に書いた理由から、今回PC上でテストしたのは、プリンタドライバとEPSON Scanのみとなっている。ただ通常インクジェット複合機の場合、多くのケースで単独機能のみで済むことがほとんど。PCからの操作は文書の印刷とスキャンデータの取り込みが主になるだろう。
プリンタドライバのプロパティは同社でお馴染みのパネルだ。「基本設定」、「ページ設定」、「ユーティリティー」と3つのタブに分かれている。現在の設定一覧が右側に別ウィンドウで表示されるので思っていたのと違う設定で印刷してしまうようなミスも防げる。また、「基本設定」の「静音作動モード」を使えば、印刷速度は遅くなるもののかなり静かに作動する。
EPSON Scanは「全自動モード」、「ホームモード」、「プロフェッショナルモード」の3つのモードを持ち、順に高度な設定が可能になっている。保存形式は、「BITMAP(*.bmp)」、「JPEG(*.jpg)」、「Multi-TIFF(*.tif)」、「PDF(*.pdf)」、「PRINT Image Matching II(*.jpg)」、「PRINT Image Matching II(*.tif)」、「TIFF(*.tif)」に対応だ。
「プロフェッショナルモード」は多くの項目を調整できるが、普段は「ホームモード」で十分だろう。実際カラースキャンした結果を等倍も含め掲載したが、クオリティもなかなか良い。
プリンタのプロパティ/基本設定 | プリンタのプロパティ/ページ設定 | プリンタのプロパティ/ユーティリティー |
EPSON Scan/全自動モード | EPSON Scan/ホームモード | EPSON Scan/プロフェッショナルモード |
スキャン後のJPEGデータ | スキャン後のJPEGデータ/等倍 | 保存ファイルの設定でPDFにも対応 |
最後に「PX-503A」の特徴である「両面印刷」をテストした。ちょうど2ページ分になる文字データを用意し、A4モノクロで印刷したのが下の動画だ。静かに、そしてスムーズに動いているのがわかる。しかも速い。さすがに分に何百枚もの印刷をするレーザープリンタには劣るものの、一般的な用途には十分だろう。
【動画】A4モノクロ両面印刷 |
以上のように「PX-503A」は、新型エンジンを搭載し、顔料インクモデルで前面給紙と両面印刷に対応。白くコンパクトなボディで、ビジネス用途はもちろん家庭でも十分活用できる魅力的なインクジェット複合機に仕上がっている。
スキャンデータをダイレクトにメディアへ保存できないなど、若干気になる点もあるが、店頭予想価格は2万円台前半とコストパフォーマンスも抜群だ。レーザープリンタまでは必要ないが、実用的な複合機が欲しいと思っているユーザーにもお勧めの1台と言えよう。