三次元宇宙や、それ以外の様々な次元の宇宙を内包した無限の次元世界に神は居ない。
あるのは只管、それこそ無限に繰り返される文明の滅びと再生。もっと言えば世界の滅びと再生の輪廻。
それに例外は無く、アルハザードと呼ばれた超技術を持った文明でさえ謎の滅亡を遂げている。
しかし、文明が滅びようとも人の思念は残る。その属性が善か悪かは関係なくだ。
無限の世界に住まう無限の人――更には人以外の知的生命体の思念。それらは滅びと再生を繰り返す度に次元世界に満ちていった。
満ちに満ちたそれらは無限とも言える力を保持しながらも、その力を満足に振るうことが出来なかった。
何故か? 答えは意思を統括し、力を運用してくれる存在が居ないからだ。ただの思念体である彼らには外部へと上手く力を伝えることが出来ないのだ。
無限とも言える思念体達は求めた。自分達を使ってくれる存在を。自分達の力を引き出し、もっと強大にしてくれる存在を。自分達の主をだ。
彼らが統括者に求めるのは只一つ。決して陽の存在ではない彼らを使ってくれること。使われない力など、存在する意味がないのだ。
そんな彼らの祈りが――否。次元世界に神は居ない。あるのは無限の残留思念だ。
彼らの願いは無数の次元を貫き、境界とも言えない概念さえ超えた何かを破壊し、たった一つの求める魂を自分達の管理者、運用者、支配者、もっと言うなら『器』
にすべく引き寄せた。無論、自分達の運用に支障がないように多少の改造をこの統率者たる魂に加え、その存在そのものを自分達の力に馴染ませるのにかなりの時間が掛かるのだが
数百年程度、彼らにとっては一瞬だ。
無限さえも超えた数を誇り、賢者、愚者、凡者問わずを受け入れ、肥大化を続ける彼らが唯一無二の統率存在を手に入れた記念すべき年号は
後に管理局と言う、次元世界の氷山の一角どころか砂粒1つにも満たない数の世界を支配する小さな小さな組織によってつけられた年号は――
旧暦462年
そこは激戦区だった。
無数の世界が存在する淀んだ色の次元空間はそれ以上の色彩を持つミサイル、レーザー、魔法、そればかりか反物質兵器、空間破壊兵器の応酬で染め上げられ
その破壊領域の間を縫うように小さな点――ベルカの騎士と呼ばれる接近戦特化型の魔導師達が飛び交い、敵のミッドチルダ軍の魔道師に接近戦を仕掛けて
それを切り伏せる。
兵器の破砕空間から少し離れた場所には聖王のゆりかごと呼ばれる絢爛な装飾をされた全長数kmの巨大戦艦とそれに付き従うかの様に数百の小型艦が周りを固めており
それの中のレーダーは敵の戦艦群が目視できなくとも、戦場に存在することを乗組員に告げていた。
バリ……バリバリ………。
と、不意に様々な轟音が何十にも響き渡る戦場に、いっそう強く響く音が鳴り響いた。
まるで紙を破ったかのようなそんな音だ。
戦場に居る一部の者が戦いを続けながら、その不快な音の出所を探る。もしかしたら敵の新しい攻撃か? と内心思いながら。
バリバリ……バキボ……キリ…。
音が更に強くなっていく。紙を破る程度の音がガラスを割った時の様な音に進化する。勿論この戦場に簡単に割れるガラスなど一つもない。
全てが魔法や科学でコーティングされた戦場仕様だ。それこそ大火力の砲撃魔法や戦艦の副砲でも直撃しなければ割れない。
この戦場で割れる物は唯一つ――空間だ。空間が音を立てて割れていく。
割れた先にあるのはぞっとする闇。夜の闇よりも尚暗く深い、まるでブラックホールの様な底知れない闇。
「あ……あれは一体……」
最初にそれに気が付いたのは誰だったろうか? いやそんなことはこの際どうでもいい。
問題はそこから出て来た物体。次元境界面を引き千切るようにして登場した物体だ。
「それ」は球体であった。「それ」は濁りきった銀とも鼠色ともつかない色をしており、絶えず表面で『何か』が蠢いていた。
「それ」は巨大だった。ベルカの聖王の一人、オリヴィエ聖皇女が乗る巨大戦艦ゆりかごと対比しても同じくらいの大きさだ。
そして何よりも「それ」は禍々しかった。
ただその場に存在しているだけで、全てが狂わせられ、歪められ、淀ませられ、汚染させられ、そして飲み込まれる。
そんな威圧感を放っている。
既に戦場の者全ては戦いの手を止めて、「それ」の次の行動を緊張した面持ちで注視していた。
奇しくも禍々しい存在の出現で全ての戦いは止まっていた。
が、次の瞬間。その沈黙は崩れ去った。
「何なんだよ! お前はぁっ!
「それ」の発する歪みきった威圧感に耐え切れず、ベルカのまだ若い騎士が「それ」に向かい砲撃魔法を叩き込む。
その一撃が切欠になり、ミッドチルダ軍、ベルカ軍、両軍問わずありとあらゆる勢力の攻撃が「それ」に撃ち込まれる。
しかし、その全ては「それ」の前に出現した不可視の壁に阻まれ、届かない。全ての攻撃がその結界に触れると同時にかき消される。
次元空間を埋め尽くし、不気味な卵に撃ち込まれ続ける両軍の魔法及び、科学兵器。
幾つの世界を消し飛ばしても尚余りあるその膨大な火力をまともに受けながら「それ」は不気味な沈黙を続けていた。
――『ヨロイ ノ ドウサ チェック ヲ カイシ シマス』
不意に機械的で高等生物の持つ感情の一切を感じさせない声が不気味に両軍に響き渡る。肉声、スピーカー、念話、意思を伝える媒介全てを通して
戦場の人間、戦闘プログラム、戦闘機械、全てに絶対的な滅亡の到来を告げる。
『キュウミン モード シュウリョウ セントウケイタイ ニ イコウシマス』
次の瞬間、卵に無数の皹と皺が入り割れた。そして中から――
彼は眼が覚めたら戦場のど真ん中にいた。
何を言ってるか判らないだろうが、これしか今の状況を表す言葉がない。
しかも戦場と言っても普通の戦場じゃない。正に宇宙戦争って奴だ。
数え切れない程の幾つもの宇宙戦艦らしき物体が敵側と思われる戦艦に向けて、レーザーやらミサイルやらを撃ちまくってる。
相手に攻撃が当たる度に発生する爆発と轟音がこれが否応なしに現実だと認識させる。
『ガイブノ オンセイ ニンシキ オヨビ エイゾウニンシキ キノウ ハ リョウコウデスカ? オコタエクダサイ』
頭の中に機械音声の様な声が響き、とっさに辺りを見渡す。
「え? え? なに、なに!?」
『オコタエ クダサイ』
心なしかさっきよりも口調がきつくなった気がする。機械音声なのに……。
もう一度周りの宇宙戦争の場面に目をやる。はっきりとリアル過ぎる程に見えている。
「見えてるよ」
ぶっきらぼうにそれだけ答えてやる。色々と聞きたい事があるが、ここで答えとかないと話が進まなそうだ。
横になっていた身体を起こす。足元に透明な床でもあるのかちゃんと立つことが出来た。
『ヨロイ ノ ドウサ チェック ヲ カイシ シマス』
世界が切り替わった。全面を覆っていた宇宙戦争の場面が映画館のスクリーン程度の大きさに変わり、今まで戦争の場面を映していた場所は真っ白になり、そこに
ありとあらゆる色の線で文字らしき物ビッシリと刻まれていく。
『セイシン オヨビ ニクタイ ノ テキオウガ カンリョウスルマデ オネムリクダサイ マスター』
その声を最後に彼の意識は暗い闇の奥底へと落ちていった。そして倒れ伏した彼の身体に群がるように灰色の煙が覆いかぶさっていく。
いや、身体ではないか。既に気がつかないだけで、彼は肉体を失っているのだから。今からもう一度、今度は『器』としての肉体を彼に与えるのだ。
自分達を使役する存在に相応しい、強い肉体を――。
卵の中から現れた「それ」は黒い姿をしていた。
真っ黒の人の姿だ。漆黒色の細い人間の手と足を持っている。
但し首はあるが、その上の頭はない。煙突の様な体躯だ。
代わりと言ってはなんだが、首の上部に眼にも見える白い点が二つあり、その更に上には明確に眼に見える紅い文様がある。
ご丁寧に紅い『眼』の下にはハロウィン南瓜の様なコミカルな笑みを浮かべた小さな口の様な刻みがあった。
そしてその『眼』から左右に枝分かれした様に白い2本の角が生え、その生え際からは龍の髭にも見える触手が二本、何かを掴むように蠢いている。
しかし、何よりも特徴的なのは「それ」の腰から生えた複数の丸くて白い節を持った翼だ。
いや、翼と言うには少し語弊があるだろう。何故ならその翼に近い物から生えているのは蝙蝠などの生き物の持っている翼からは程遠い物だった。
其処から生えて、蠢いているのは輝く灰色の煙のような翼。それが異形の後方に大きく展開され、マントの様な装飾を異形に加えていた。
全体的に無機質でアンバランスな姿のそれはどう見ても神聖さからは程遠い。その姿から連想されるのは邪悪、破壊、終焉、などと言った負の意味を持つ単語だ。
全長1キロさえも超えたその巨体は、さながら次元の虚空にそびえる黒き牙城と言った所か。
――セントウケイタイ イコウ カンリョウ
――ターゲット ニンシキ カズ 420934 ウチ “プログラムセイメイタイ” 20000 セイメイシュ “ニンゲン” 400934
ベルカ、ミッドチルダ、両軍が卵から姿を現した異形に向かいありとあらゆる攻撃を叩きこむが、異形がその華奢ながらもおぞましい手を攻撃の前に晒すと、何もかも全てが
瞬時に静止し、次の瞬間には跡形も無くかき消される。
――ボウギョフィールド オヨビ クウカンソウサ キノウ キノウカクニン――リョウコウ。 モンダイナシ
異形が翳したその手をダランと伸ばし、腰の横に持ってきてフィールドを解除する。今が好機と言わんばかりに両軍が再度あらゆる兵装を叩き込む。
一点の隙間なく叩き込まれる核兵器、空間破壊兵器アルカンシェル、反物質弾、ゆりかごの魔力炉から生成される超魔力から放たれる次元さえ超越する魔力砲の一斉掃射。
それら全てが異形に叩き込まれ、異形の姿を打ち砕く。おぉっ! と、ベルカ、ミッドチルダの兵士達から歓声が上がった。
胸部以外の全てがバラバラに砕けて、破片と灰色の煙を撒き散らしながら崩れ落ちていく異形。
が、次の瞬間その崩壊は止まる。同時に時間が巻き戻っていくかの様にその異形の身体が物凄い速度で再構築されていく。
物の数秒で異形は無傷まで復元していた。
両軍がもう一度一斉攻撃を加えるが、異形が手を翳し、絶対の防御領域を展開させ、全ての攻撃をいとも簡単に無効化する。
――ジコフクゲン キノウカクニン―――リョウコウ。 モンダイナシ
――コウゲキ ニ ウツリマス
異形の頭が「伸びた」
そのまま競り出して行き、前側にズドンと音を立てて倒れる。そして伸びた首の上部が一部を残して、まるで扉を開くように左右に「分かれた」首の穴と思わしき所には砲口がついている。
紅い眼の紋章がその砲口の上に移動する。触手とあわせて、まるで口を開いた龍の顔のようだ。最も、龍は龍でも間違いなく邪龍と呼ばれる類なのは間違いないが。
砲口から禍々しい紅色の力が漏れ出る。何をしようとしてるのかが両軍の者には痛いほどに判った。間違いなくアレは攻撃をしようとしていると。
どちらかの軍の者が異形の砲口に集まっているエネルギーの量を測定して魂が凍るほどに恐怖する。
艦に搭載されている最も優れた測定器を以ってしても測定限界を遥かに振り切っているのだ。もしもアレほどのエネルギーが破壊という方向性を持って一気に解き放たれたら最悪次元断層が起きる。
「最大出力で防御結界展開だっ!! 急げぇっ!!!!」
無駄だと判りつつも両軍の司令官が防御を半ば悲鳴の様な声で指示する。既に攻撃して、相手の攻撃を止めると言った選択肢は彼らの頭にはなかった。
だがその令が発せられる前に既にベルカ、ミッドチルダ問わず、両軍の兵士達は既に全てのエネルギーを防御に回し、文字通り全てを込めた障壁を艦隊を覆うように発生させた。
――モクヒョウ ボウギョフィールド ヲ テンカイ
――センメツニ シショウナシ コウゲキ ヲ ゾッコウ コウゲキノウリョク ノ テストヲ カイシ
『鎧』の中に渦巻き、今尚際限なく無限大に増幅を続ける意思と力のほんの一部を、この世に力を顕現させるための『器』を通し、純粋な破壊の力に変換し、それを撃ち出す。
それでこの『器』を守るために創られた『鎧』の動作テストは終わりだ。
邪龍の口内に蓄えられたエネルギーの前に、漏れ出たエネルギーが集い、複雑極まりない魔法陣の様な紋章を展開させる。
そして神話の龍が吐息で全てをなぎ払ったのと同じ様に、邪龍が紅くおぞましいエネルギーの濁流を噴火するかのごとく吐き出す。
発射時の衝撃で口の近くの空間が弾けとぶ。
吐き出された純粋な破壊の力は扇状に広がり、両軍をいとも簡単に飲み込み、その存在の全てを残酷に犯しつくし始める。女だろうがまだ年端もいかない子供だろうがそこに例外はない。
両軍の全てを込めた結界はほんの数秒耐えた後、莫大なエネルギーによってズタズタに食い千切られ、その破片も後に容赦なく紙くずの様にバラバラに更に引き裂かれた。
エネルギーの濁流の真っ只中に放り込まれたミッドチルダ及び、ベルカの艦隊群は自分達を守っていた盾を失い原型を保っていたのはほんの数秒だ。
紅い紅い紅い、どこまでもアカイ暴力に飲み込まれ破壊というプロセスさえも飛び越え、一瞬で素粒子単位まで分解され、物質的な意味で完全に消しとんだ。
そして肉体という檻から開放された思念は全てが邪龍に囚われ、知識、技術、能力、記憶、想い、その全てが貪欲な邪龍に喰われる。
しかし邪龍の放ったエネルギーの齎した結果はそれだけに収まらない。無数の艦隊群を消し飛ばして尚あまりあるその破壊の力は今度は時空間そのものに
致命的なダメージを与えたのだ。
時空間の一部が完全に壊れて、それによって極大規模の次元断層が発生し始めた。幾つもの世界がそれによって発生した時空振動によって消し飛ぶ。
しかし、虚数空間に落ちていく世界から出てきた億単位ほどの夥しい数の『何か』は引き寄せられるように邪龍の元に飛んで来て、その煙で構成されたボロ布の様な翼に飲み込まれていく。
――コウゲキノウリョク キノウリョウコウ。 テスト シュウリョウ。 シネン ヲ カイシュウゴ 『ウツワ』 ノ アンテイシュウリョウマデ キュウミンシマス
貪るように知的生物の思念を吸収した後、邪龍はその首を元の位置に戻し人の姿に戻るとその黒く巨大な身体を母の子宮内の胎児のように折り曲げ、翼を幾重にも畳む。
翼から出ていた灰色の輝く煙が異形の全身を覆って行き、卵のような最初の姿に戻った。
パキ……パキ
最初に割った空間の穴にゆっくりと沈んでいく。次元震の影響で多少穴が狭くなっており、まわりの空間をガリガリと削り壊すが、特に問題は無い。
あえて問題を挙げるなら少しだけ次元振が強くなるだけだ。
何はともあれ、後は『器』の調整が済むまで何処か辺境の世界で休眠していればいいのだ。
旧暦462年 後世には原因不明の次元断層が発生し、ベルカ本土を含む多数の世界が虚数の暗黒に崩落した日として伝えられる。
それと同時に神の居なかった次元世界に一柱の神が誕生した年でもある。しかし誕生した神は神でも、邪神と呼ばれる類の存在だが。
新暦35年 管理局 第一管理世界 『ミッドチルダ』 同首都 『クラナガン』
「テスタロッサ君。以前のお願いの答えを聞きたいんだけど、いいかな?」
ミッドチルダ首都に存在する管理局地上本部の一室で管理局技術開発部に属する魔導師プレシア・テスタロッサはとある人物と会談をしていた。
夫に不幸な事故で先立たれ、女手一つで夫の忘れ形見とも言えるアリシアを育てることになった彼女に、その人物は一つの仕事を持ちかけて来たのだ。
それはとある世界で発掘されたロスト・ロギアの研究という物であったが、まだ引き受けてはいない彼女には詳しい事は教えられないそうな。
もしも協力するなら情報だけでなく、莫大な金も支払うとその人物は言ってはいるが、どうも怪しいと彼女は直感的に感じ取っていた。
そもそも金の問題なら夫の残してくれた保険金と自分の稼ぎ、そして貯金さえあれば娘の一生は安泰なのだが。
それにしても男の提示した金額は、天才大魔導師プレシア・テスタロッサを雇うにしても多すぎた。○の数が3つほど多い。
今日はその案件に対して、受けるか否かの返答を行う日だ。もちろんプレシアは断るつもりだ。怪しすぎる。
「申し訳ありませんが……私は……」
プレシアが伏せ眼がちに男に拒否の意思を伝える。
男がカップを持ち、中のコーヒーを飲んだ。そして口を開く。
「それは……残念です。しかしその前にコレを見てはもらえませんか?」
男が隣に置いてあった銀色のアタッシュ・ケースに鍵を差し込み、開ける。
そして中から一枚の手持ちディスプレイを取り出した。それをプレシアに差し出す。
「中の情報を見てください。それからでも決めるのは遅くない筈ですよテスタロッサ君」
「……?」
プレシアが黒く艶やかな髪を一回掻き揚げ、ディスプレイを受け取り、情報を呼び出す為の操作する。
中に入ってた情報は恐らく研究中のロスト・ロギアなのだろう。それに視線を送る。
「……これって……」
しばらく眼を通していたプレシアの眼の色が変わり始める。ただの女の眼から大魔導師、ひいては天才技術者の眼へと変わる。
「本当に……でも、有り得ないわこんなの……でも……」
何かを問うようにブツブツと呟き始め、混乱を外に現す。
そして視線を男に移す。男が頷いた。
「そうです。もしかしたらそのロスト・ロギアは永久機関かも知れません」
「有り得ないわ。どんな魔法を使おうと、それこそアルハザードの技術でも不可能だわ!」
男の放った言葉を半ば反射的に否定するプレシア。既に敬語を使うことさえ忘れている。
「しかし、それは其処に実在しました。それの謎さえ解ければ、我らは第一種の永久機関を作ることさえ可能なのかもしれません。貴女もそれに協力して欲しいのです!!」
プレシアの瞳が揺れた。嘘、な訳ないだろう。吐くメリットがない。
永久機関かも知れないロスト・ロギア……調べたい。調べたい。技術者として、探求者としてこれ以上ないほどに魅力的だ。
「テスタロッサ君、貴女が損する事などないのですよ! 大金も貰え、尚且つこれ以上ないほど魅力的なロスト・ロギアの研究も出来る。最高じゃないですか!」
「………………」
興奮気味に言う男にプレシアが俯く。
「本当に……本当にこれは実在するのね……?」
「当然です。何を今更言うのですか」
男が興奮を抑えるためか、コーヒーを飲む。
大きく、大きく深呼吸をしてプレシアは言った。
「わかりましたわ。私も参加します。このヒュードラ計画に」
「ありがとう。テスタロッサ君! 差し当たり、貴女の家はこの“ヒュードラ”が眠っている世界から遠すぎる。引っ越しの資金も私が出すから、この世界に娘さんと一緒に引っ越すといい。
何、緑豊かで、とても美しい世界だ。娘さんもきっと気に入るはずだよ」
男が立ち上がり、プレシアと硬く握手をする。
プレシアの隣に置かれたロスト・ロギアのデータを記したディスプレイにはネズミ色とも
銀色ともつかないヒュードラと名付けられた全長1キロを越す巨大な卵が映っていた。
その中にあの異形を内包したまま――。
新暦35年に起きた、後にプレシアの運命を大きく捻じ曲げる因果の発端であった。
あとがき
申し訳ございません。更新作業を失敗してしまい、
間違って記事を消してしまいました。故に、再投稿させてもらいます。
前回感想をくれた方々に、深くお詫び申し上げます。