【萬物相】無念のノーベル文学賞

 チリの詩人パブロ・ネルーダは1971年、コロンビアの小説家ガブリエル・ガルシア=マルケスは82年にノーベル文学賞を受賞した。あるとき、二人は共に旅行に出掛けた。昼寝をしていたネルーダは突然、「たった今、ある女がわたしの夢を見ている夢を見た」と言って起き上がり、詩を書こうとした。すると、マルケスは「それは、すでにボルヘスが書いた話ではないか。まだ書いていないとしても、間違いなくいつかは書くだろう」と言った。結局、ネルーダはその詩を書くのをやめた。

 アルゼンチンの詩人・小説家ホルヘ・ルイス・ボルヘス(1899-1986)はノーベル賞を受賞できなかった。しかし、ノーベル賞受賞作家たちはボルヘスの前では頭が上がらない。ボルヘスは20世紀ポスト・モダニズムの元祖と言われている。夢の中でまた別の夢を見るというハリウッド映画『インセプション』も、ボルヘスの文学からインスピレーションを得た。左派性向の南米の作家を好むノーベル文学賞審査委員たちは、政治的に右派であるボルヘスに好感を抱かず、最後まで賞を与えなかったという。

 米時事週刊誌ニューズウィークは、世界100大名著の1位にトルストイの『戦争と平和』を挙げた。ジョージ・オーウェルの『1984年』が2位、ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』が3位だった。これら3人の共通点は、ノーベル文学賞を受賞していないことだ。1901年の第1回ノーベル文学賞の最有力候補にトルストイの名前が挙がったが、意外なことにフランスの詩人シュリ・プリュドムが受賞した。だが今日、トルストイに比べその詩人のほうが評価が高いという話は耳にしない。

 世界最大の出版社ランダムハウスは、20世紀最高の英語小説20冊の1位に、ジョイスの『ユリシーズ』を挙げた。次いで、F・スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』、ウラジーミル・ナボコフの『ロリータ』が選ばれた。20冊のうち、ノーベル文学賞受賞者の作品は『怒りの葡萄(ぶどう)』(ジョン・スタインベック)と、『響きと怒り』(ウィリアム・フォークナー)の2冊だけだった。

 今年も韓国の詩人・高銀(コ・ウン)がノーベル文学賞の有力候補に挙げられていたが、結局受賞したのはペルー人作家マリオ・バルガス・リョサだった。8年連続で有力候補に挙がっていた高銀の自宅(京畿道安城市)前は、受賞者発表の日が訪れるたびに取材陣や一般市民でごった返す。今年は安城市が「高銀氏ノーベル文学賞ノミネート」というプラカードまで掲げていた。受賞候補者が正式に発表されたことはないが、「ノーベル文学賞過熱現象」が巻き起こっている。ノーベル文学賞は、国民を挙げて応援して勝ち取る五輪メダルではない。イギリス人作家のドリス・レッシングは2007年、買い物から帰ってきた際に受賞の知らせを聞いたという。賞というものは、本来そうした謙虚な気持ちで受け取るべきものだ。

朴海鉉(パク・ヘヒョン)論説委員

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
関連記事
記事リスト

このページのトップに戻る