[トップページ][平成9年下期一覧][The Globe Now][222.01390 中国:軍事][316 人権]222.9 チベット
_/ _/_/ _/_/_/ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ _/ _/ _/ _/ Japan On the Globe (9) _/ _/ _/ _/ _/_/ 国際派日本人養成講座 _/ _/ _/ _/ _/ _/ 平成9年11月1日 1,177部発行 _/_/ _/_/ _/_/_/ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ _/_/ _/_/ The Globe Now: 米中の人権論争 _/_/ _/_/ ■ 目 次 ■ _/_/ _/_/ 1.「気力充実」ワシントンの江沢民 _/_/ 2.サンケイの報じた米政府の失望 _/_/ 3.ハリウッド、映画で弾圧批判 _/_/ 4.チベット民族弾圧の実態 _/_/ 5.人権では譲れない内政事情 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ■1.「気力充実」ワシントンの江沢民■ 中国の江沢民主席が米国を訪問中であるが、ワシントンでのクリ ントン大統領との会談を報じた10/31の朝日とサンケイの朝刊を読 み比べると、同じ会談が、ここまで異なって報道されるものか、と 驚かされる。 朝日は「違いそのまま、実利とる」との大見出しのもと、以下の ように報じた。 人権は普遍的な価値だと主張する米側。国によって人権の違 いが違うのは当然という中国側。互いに話し合っても、解の出 ない方程式だ。それを承知で大統領を主席との対話へと促した のは、経済という実利だった。 『民主主義も人権も相対的なものだ』と定義付け、ホワイトハ ウス周辺で繰り広げられる人権擁護グループのデモを「騒音」 と片づけた。人権問題などで譲るわけにはいかないという主席 の気力充実ぶりがめだった。 国内では、オームや神戸のA少年の人権にまで過敏な朝日が、米 国政府の人権主張も、人権擁護グループのデモも無視する江沢民の 「気力充実ぶり」を半ば好意的に書いて、批判もしないとは、どう した訳だろう。 ■2.サンケイの報じた米政府の失望■ 江沢民主席の「気力充実ぶり」は朝日が描くほど、中国にとって 楽観視できるものではないようだ。サンケイの報道は「人権置き去 り 米に失望感」と題して、米政府高官や、市民グループの動きを より詳しく伝えている。それによると、 オルブライト国務長官は、「お互いの立場を繰り返したが、 (結果には)がっかりした」と率直に認め、、、 下院共和党の実力者、ディレイ議員(テキサス)のように、 朝食会のボイコットという強硬手段に出る議員も出始めている。 ギングリッチ議長が、「この機会に中国では言論、出版など 基本的な自由を欠いている事を主張したい」と述べた、、 「クリントン大統領相手に一歩も引かなかった江沢民主席の態 度は見事だったとしても、記者会見という場でのすさまじい丁 々発止が交わされただけに、”中国との関係では、最後に歩み 寄れない部分がある”という無力感を米国民に与えたのではな いか(ワシントンの外交筋)」 「日本、東南アジアとの関係強化など”中国包囲網形成”の政 策強化をも模索するのではないか(同)」 と一様に、人権問題に関して一歩も引かない江沢民主席の姿勢が 米国政府、国民に改めて、中国の異質ぶりを印象づけた様を紹介し ている。 ■3.ハリウッド、映画で弾圧批判■ 江沢民主席が「騒音」といなした人権擁護グループの動きを朝日 はいっさい伝えていないが、有名俳優リチャード・ギアまで参加し たデモをまったく黙殺しているのは、いかにも不自然である。サン ケイはリチャード・ギアが有名な中国の人権活動家ハリー・ウーと 相対している写真入りで報道している。 さらに「ハリウッド、映画で弾圧批判」と別コラムで、中国の人 権弾圧を批判する米映画が、次々と公開されるというニュースを紹 介している。それによるとリチャード・ギアが主演する「レッド・ コーナー」は「中国の司法制度の暗部を描いた話題作」で10月3 1日に公開される。 またチベット独立運動の精神的支柱ダライ・ラマが物語に登場す る「チベットの七年」は、公開3週目で興行収入4位に食い込む健 闘ぶりという。さらにクリスマス・シーズンには、なんとディズニ ー映画による中国軍のチベット民族弾圧を描いた「クングン」が、 中国政府の強い非難にもかかわらず、公開されるという。 ちなみに、31日付讀賣によると、東京国際映画祭で出品された 「チベットの七年」について、中国大使館から「中国国民にとって 好ましい映画でないので上映を中止してほしい」と口頭で申し入れ があり、事務局が断ると、それに反発して中国の二作品の出品を取 りやめた由である。 ■4.チベット民族弾圧の実態■ チベットで中国が何をしているのか、新聞やテレビの報道がほと んどない日本では、米国政府や米国民がなぜこれだけ「人権問題」 で騒ぐのか理解できないであろう。しかしサンケイ(平成8年12 月2日)が伝える以下のような実態を知れば、「民主主義も人権も 相対的なものだ」という江主席の言葉が如何に欺瞞に満ちたものか、 理解できよう。 チベット亡命政府によると、一九四九年から七九年の間に拷 問や刑死、傷害致死、自殺など中国政府の弾圧が原因で死亡し たチベット人は約百二十万人に上る。チベットの人口が約四百 五十九万人(九〇年の国勢調査)であることを考えると、いかに 大規模な弾圧が行われたかが分かる。 ダワさん(インドへ亡命したチベット仏教僧侶)は八九年(平 成元年)三月、チベット独立を求めるデモに参加したという “罪”で中国当局に逮捕され、四年間の激しい拷問に耐えた。 ダワさんが七年前、初めに収容されたのは、チベットの首都 ラサの東方にあるサンイプ監獄。そこでは一日三回の取り調べ が行われ、中国人の捜査員はダワさんを裸のまま何時間も冷水 の中に立たせたり、立てなくなるまで殴打したりして、デモ参 加者の名前の自白を強制した。 逮捕されて五カ月後の八九年八月ごろには、弁護士抜きの裁 判で懲役四年を言い渡された。中国人看守たちは、戒律で殺生 が禁じられているダワさんら僧りょに豚の処分を強制、読経も 禁止し、連日のように共産主義の講義を行った。早朝には、一 時間半にわたり“運動”と称して長距離を走らされた。 これは病人にも強制され、立ち止まる者は看守によって殴ら れる。拷問で足を痛め、松葉づえを使っていた仲間は、倒れ込 んだところを看守によって肛門に電極棒を刺され「殺してく れ」と絶叫したという。 ダワさんは、針とインクを使って体に「チベットに自由を」 といれずみを彫り込んでまで反抗を貫いた。九三年四月、つい に釈放され、中国からの脱出を決意したという。 「チベット問題を考える会」代表の酒井信彦東京大助教授は 「同じ人権弾圧でも、ミャンマーに対してなら日本政府や多く のマスコミは批判するのに、中国に対しては黙り込んでしまう。 相手によって使い分けている」と話す。 ■5.人権では譲れない内政事情■ 中国が抱える火種は南のチベットだけではない。西のウイグル、 北のモンゴル、そして東の北朝鮮との国境沿いの朝鮮族と、全方位 で異民族の土地を占拠している。現在の中華人民共和国の領土で、 漢民族が住んでいる土地は約34%にしか過ぎない。「人権問題な どで譲るわけにはいかない」という江沢民の言葉は、「気力充実」 どころか、一度譲ったらソ連のように分裂崩壊しかねない中華帝国 を何とか弾圧で支えているのが現状だからだ。 朝日新聞が、オームやペルーのテロリストにまで見せた人権への 配慮が本物ならば、まずチベットの惨状を正確に伝える所から始め るべきではないか。中国のご機嫌を損ねると、サンケイのように北 京特派員追放という「懲罰」を食らうであろうが、それもできない ようでは、(あるスーパードライのファン曰く)「アサヒは読むも のではない、飲むものだ」
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