【社説】ファン・ジャンヨプ氏が叶えられなかった夢

 ファン・ジャンヨプ元朝鮮労働党書記が10日、この世を去った。享年87歳。1997年2月に北朝鮮を脱出したファン氏は、念願だった、北朝鮮の同胞が自由を取り戻す日、金正日(キム・ジョンイル)世襲独裁が崩壊する様子を見ることができないまま、永遠の眠りに就いた。ファン氏は、旧ソ連と中国間の理念紛争に巻き込まれまいとした故・金日成(キム・イルソン)主席の外交路線に過ぎなかった「主体思想」に哲学的な衣をまとわせ、北朝鮮の指導理念として作り上げた、北朝鮮を代表する理論家だった。金総書記に直接主体思想を教えたこともある。1965年から14年間、金日成総合大学の総長を、72年から11年間は、韓国の国会に当たる北朝鮮最高人民会議の議長を、79年から18年間労働党書記を務めるなど、北朝鮮の権力の中核に当たる要職を広く務めた。

 ファン氏は、亡命の理由を「前代未聞の独裁に苦しむ2300万の北朝鮮同胞を助けるのが、わたしの任務だから」と語った通り、北朝鮮の権力のうそと残酷さ、そして、暴政に苦しむ北朝鮮住民の苦痛を世界に伝えるるため、自身のすべてをささげた。ファン氏は今年初め、米国での講演で「金正日は私生活や性格ではなく、業績をもって評価すればよい。(北朝鮮住民)300万人を飢え死にさせたのは誰か」と話した。その上で、「北朝鮮はわたしを反逆者だと言うが、(本当の)反逆者は国民を飢え死にさせた金正日だ」と話した。

 金総書記はファン氏の亡命後、(ファン氏の)直系家族のほか、ファン氏と公的および私的に関係があった約2000人を粛清した後、公に「息子や娘、孫を見捨てた者がどうして人間と言えようか。犬にも及ばない」とファン氏を非難した。ファン氏殺害の命令を受けて韓国に潜入し、今年4月に逮捕された北朝鮮の工作員は、「金英徹(キム・ヨンチョル)北朝鮮人民武力部偵察総局長が、『ファン・ジャンヨプがあす死ぬとしても、自然死させてはいけない』と指示した」と話した。

 ファン氏は、韓国の一部にあった北朝鮮に対する迷いを打ち消すのにも、重要な役割を果たした。80年代、大学周辺にあふれていた主思派の主導的な人物のうち、かなりの人がファン氏の亡命後公に転向し、ファン氏と共に北朝鮮の民主化運動に立ち上がった。しかし、北朝鮮の民主化と北朝鮮の住民解放に向かったファン氏の信念と構想は、金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)両政権時代に挫折を味わった。ファン氏は今年、インタビューで「哨戒艦『天安』沈没事件のような残酷なことは、金正日でなければ誰がやるだろうか。わたしは調査せず横になっていても、金正日がやったことだと分かるのに、韓国には情けない人が多い。問題は北朝鮮の人民ではなく、韓国の人たちだ」と話した。ファン氏は金総書記の三男ジョンウン氏による3代世襲について、「あんな若造が何の役に立つのか。3代世襲が(北朝鮮内部)権力闘争の名分となり、金氏王朝は滅びるだろう」と話した。

 ファン氏が亡くなった10日、平壌では、ファン氏が「あんな若造」と呼んだジョンウン氏が父親の金総書記と共に査閲台に登場し、労働党の創建65周年記念閲兵式を見守った。ファン氏は、あれほど切に願っていた金氏世襲王朝が崩壊する日、北朝鮮住民が暴政から解放され自由を取り戻す姿を見られないまま、この世を去った。ファン氏が叶えられなかった夢は今後、韓国と韓国の国民が叶えるべき夢として残された。

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

このページのトップに戻る