ファン氏死去:金総書記の話題になると怒りあらわに
脱北記者・姜哲煥が見たファン・ジャンヨプ氏の最後
「金正日(キム・ジョンイル)体制の崩壊は目の前だ。それだけは何としても目にしたい」
ファン・ジャンヨプ元朝鮮労働党書記は健康状態について聞かれるたびに、上記のような言葉を繰り返した。しかし、その思いは実現することなく、10日についにこの世を去った。ファン氏が長い間希望しながら実現できなかったことがもう一つある。それは中国の旧知に会い、「中国は北朝鮮を支援してはならない」と説得することだ。ファン氏は、「まだ時は来ていないが、いつか必ず伝えたい」と語っていた。
2007年、脱北者を中心に北朝鮮民主化委員会が立ち上げられ、ファン氏がその委員長となったことから、記者はファン氏と何度も会う機会があった。最後に話が聞けたのは9月末だったが、そのときはまだ元気そうに見えた。ファン氏が立ち上げた哲学研究グループの集会に出席した研究者や脱北者たちも、ファン氏は普段以上に明るく元気そうだったと語る。ファン氏はソウル市江南区ノンヒョン洞にある北朝鮮民主化委員会の事務所で週に2回ほど、哲学の講義を行ったり、自ら討論に参加したりしていた。講義と討論は、ファン氏の唯一の趣味だった。ファン氏は哲学の愛好家が好きで、時間があるたびに席を共にした。
ファン氏は1日に2回半身浴をし、食事は1日1食だった。カモ肉の水炊きなど、カモ料理が大好きだった。ファン氏はあまり感情を表に出さないタイプだ。しかし、金正日総書記の話題になるといつも興奮した。三男の正恩(ジョン・ウン)氏が正式に後継者となることが決まったというニュースについては、「あいつ(金総書記)はどれほど厚顔無恥な泥棒野郎か知っているか。世の中をリードする術も知らないのに、そのガキ(正恩氏)が偉くなったからといって何も変わらない。滅びの日がついに近づいているということだ」と述べた。ファン氏は金総書記についてはいつも、「あの野郎」「泥棒野郎」「この世で最も質の悪いやつ」などと呼んでいた。
複数の脱北者が北朝鮮の後継体制について尋ねると、ファン氏は「3人の息子の中では長男の正男(ジョンナム)が一番ましだ。あいつが後継者になれば、北朝鮮はもう少し持つかもしれない。しかし、それ以外は話にならない」と述べ、その一方で、「世の中があいつらに注目したとしても、気にする必要はない」とも語っていた。9月28日に北朝鮮で開催された朝鮮労働党代表者会に正恩氏が登場した際、感想を聞くために電話をかけたときも、「あいつ(正恩氏)が出てきたからといって、それが何か特別なことか。こちらはこれまで通り、北朝鮮の民主化のためにやるべきことをやればよい」と語った。
ファン氏は北朝鮮よりも韓国のことをむしろ心配し、「韓国がおかしくなって大変だ」と嘆いていたことが、今も鮮明によみがえる。とりわけ金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)両政権の10年間、「滅びゆく北朝鮮を横目に見ながら、大韓民国と統一について話し合おうと思ったのだが、こちらの方がもっと心配になった」「金正日以上に情けなくて悪いやつらが大韓民国には多い。金正日によって韓国が被害を受けるかもしれない」などとよく口にしていた。
金総書記以外にファン氏を怒らせたのは、太陽政策と金大中、盧武鉉両政権だった。ファン氏は、「金正日体制がこれまで持ちこたえることができたのは、金大中・盧武鉉両政権があったからだ。太陽政策は北朝鮮の人民をさらに苦しめ、金正日を復活させる反逆政策だった」といつも声を荒らげていた。
李明博(イ・ミョンバク)政権が発足すると、ファン氏は「脱北者たちも大韓民国政府と共に、北朝鮮の民主化に向けて貢献できる時をやっと迎えた」と意欲を示していた。
姜哲煥(カン・チョルファン)記者
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