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へたをすれば、世界は通貨を安くする競争から破滅への道を歩みかねない。それを防ぐには、主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が打ち出した協調を中国など新興国に広げることが、何よりも求められ[記事全文]
ああ、やっぱり、またですね。国の出先機関をめぐる霞が関の対応は、あいかわらず「現状維持」ばかりだ。まるで菅内閣が掲げた「原則廃止」を、せせら笑うかのようだ。政府の地域主[記事全文]
へたをすれば、世界は通貨を安くする競争から破滅への道を歩みかねない。それを防ぐには、主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が打ち出した協調を中国など新興国に広げることが、何よりも求められる。
ワシントンでのG7は、世界経済の安定のために為替問題に一致して当たることを確認した。問題の震源地のひとつである中国など経常黒字の新興国に、硬直的な為替管理を解くよう求めていくという。
新興国を巻き込んだ議論は、来月ソウルで開く主要20カ国・地域(G20)首脳会議で真剣に行われるべきである。為替に限らず、不均衡是正や摩擦回避のための多国間の仕組みづくりへと、踏み出してほしい。
「通貨戦争」という物騒な言葉すら飛び交っている現状は、中国の人民元の硬直した相場維持政策と先進国の金融緩和への急傾斜がからみ合った結果、生じている。2年前に起きた金融危機はG20の結束で乗り切ったが、回復の鈍化や不均衡の増大という新たな困難に直面しているのだ。
輸出に活路を求めたい思惑は各国に共通しており、「輸出振興のため通貨を安くしている」という非難と相互不信が悪循環を起こしかねない空気が醸し出されている。
80年前の大恐慌後、通貨切り下げ競争が戦争に行き着いた苦い教訓を思い出すまでもない。世界経済の秩序ある回復には各国の協調が不可欠だ。分裂を避ける賢明さが必要だ。
相互不信の構図には、二つの軸がある。ひとつは先進国と新興国との貿易不均衡に起因する問題だ。ドルに対し安く固定された人民元をめぐる米中対立がそれを象徴する。もうひとつが、景気悪化を避けるため先進国が超金融緩和をして、その国の通貨安になっている点だ。円ドル相場をめぐる日米間の不協和音はその一例である。
先進国の金融緩和競争で海外にあふれたマネーが、ブラジルなどの新興・途上国で通貨高やバブル、インフレの要因となっている面もある。
複雑な状況をどう解きほぐすか。米中の経済摩擦に世界が振り回されるような事態は困る。あくまで多国間の枠組みで解決を図りつつ、人民元の問題は世界的な不均衡を是正する一環として中国が着実な切り上げを約束し、行動で示すべきである。
中国は国際通貨基金(IMF)でも主要国の地位を得る方向で協議が進んでいるが、経済大国は国際秩序に貢献する責務があることをきちんと自覚しなくてはならない。
超金融緩和と通貨安・マネー流出の結びつきを解く工夫も必要だ。これもまさに国際的な枠組みを駆使するほかない。グローバル経済は新たな協調を構築すべき段階を迎えている。
ああ、やっぱり、またですね。国の出先機関をめぐる霞が関の対応は、あいかわらず「現状維持」ばかりだ。まるで菅内閣が掲げた「原則廃止」を、せせら笑うかのようだ。
政府の地域主権戦略会議が惨憺(さんたん)たる現状を公表した。国土交通省の地方整備局など8府省13機関について、事務・権限を自治体に移すか国に残すかを各省に「自己仕分け」させたところ、「地方へ移す」は約1割しかなかった。理由は、国でなければ全国の統一性を保てない、専門性が地方には不足している、などが目立つ。
行政の責任を果たそうとする各省の姿勢はわからないでもない。だが、その積み重ねが中央集権構造を温存させて、むだを生んでいる現状への反省があまりにもなさすぎる。
ざっと20万人が働く出先機関は、自治体との二重行政と非効率ぶりが指摘され続けてきた。自公政権でも2年前に、政府の地方分権改革推進委員会が「出先の2万3千人を自治体に移管すべきだ」と勧告していた。しかし、各省の抵抗でうやむやになった。
菅内閣に対する各省の態度は、あのときと変わらない。
たとえば、無料職業紹介の「ハローワーク」をめぐる議論だ。厚生労働省は「国際条約の規定」などを理由に国の仕事であると唱える。これに対して全国知事会などは「自治体がやれば、職探しにきた人が同じ窓口で公営住宅や生活保護の手続きもできる」と移管を求めている。
「住民に身近な行政は自治体が自主的かつ総合的に広く担うようにする」という改革の理念に照らせば、自治体に任せるのが筋だろう。それなのに官僚の「現状維持」に、大臣らも同調している。ほとんどの省庁で同じような事態が見られる。
もう議論は出尽くしている。あとは政治家がみずからの責任で判断するしかない。7日の地域主権戦略会議で、菅直人首相は「最後は人事権を発動することもあるいは必要になる」と、各省への強硬姿勢をちらりと見せた。当然である。年末までの具体案づくりに向け、内閣の総意で政治主導を貫く覚悟が問われているのだ。
もちろん、この改革は自治体の意欲次第の部分も大きい。この点にも不安がある。これまでに1級河川や国道の管理権限の移管を強く求めたのは、ほんの一部の都府県にすぎない。一方では「半端な権限より財源がほしい」「国からの人員は受け取りたくない」などという知事らも目立つ。
政府は、やる気のある自治体から先行実施させることにしている。だから、たとえ一部の自治体でも「もっと権限を寄こせ」と叫んでほしい。その熱意が改革の扉をこじ開ける原動力になるのだから。