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きょうの社説 2010年10月11日
◎温泉地アニメ制作 石川県の風景を織り込んで
南砺市の映像制作会社「ピーエーワークス」が石川県の温泉地を主な舞台として制作す
るアニメーション作品に、ぜひ実在の街並みや風景などを織り込んでほしい。同社が南砺市城端地区を舞台に高校生の青春を描いてヒットしたアニメ「truetears(トゥルー・ティアーズ)」は、南砺市内ばかりでなく、富山県に実在する建物や景色、祭りなどを丁重に描き、それを見た多くのアニメファンが現地を訪ねてきている。映画や大河ドラマの舞台を旅する「ロケ地巡り」と同じような感覚で、「アニメツーリ ズム」が人気を呼べば、地元にも大きなメリットがある。温泉地を抱える自治体や地域がバックアップできないか、検討してはどうだろう。 ピーエーワークスのアニメは、「レイトン教授」の人気シリーズや「攻殻機動隊」「鋼 の錬金術師」などの大ヒットアニメの制作で知られ、富山県の観光宣伝アニメも手掛けている。同社の公式サイトによると、石川県の老舗温泉旅館を舞台としたアニメのタイトルは「花咲くいろは」で、東京から引っ越してきた少女と、新しい友人たちとの交流を描く。「鶴来」「和倉」「押水」「輪島」などの姓を持つ脇役も登場する予定で、12月5日に金沢21世紀美術館で制作発表会が開催される。 「トゥルー・ティアーズ」の場合、放映後、南砺市城端地区の古い街並みを見ようと全 国から多くのファンが訪れた。同地区は熱心なファンから「聖地」と見なされ、作品に描かれた「城端むぎや祭」の開催日には、全国各地からおよそ千人のアニメファンが足を運んだという。むぎや祭に合わせて企画された同アニメの主人公のポスター販売や、主人公が描かれた特別住民票の売れ行きも好調だった。 「花咲くいろは」に例えば、和倉温泉や加賀温泉郷の総湯や各地の名所旧跡を描き込ん でもらえばどうだろう。可能ならば、制作前の段階から、アニメとタイアップした旅行商品や地域おこしの企画を考え、打ち合わせておくことが望ましい。アニメファン、特に若い世代に石川県をアピールする格好の機会になるだろう。
◎事件後の対中関係 新次元に入った認識で
中国漁船衝突事件で悪化した日中関係は、菅直人首相と温家宝首相との会談で改善の足
掛かりを得たといえる。戦略的互恵関係を築くという原点に戻り、ハイレベル協議や民間交流の復活で一致したのはよいが、今回の事件で明らかになった中国という国の本質、本性を見据え、文字通り「戦略的」に対応しなければならない。中国の怒りを恐れ、ひたすら事件を丸く収めようとビデオ映像をお蔵入りにするのは、決して戦略的外交とはいえない。中国政府が事実上、レアアース(希土類)の輸出を禁止したことなど、漁船長逮捕をめ ぐる一連の強硬措置は、従来のように政経を分離し、政治関係が冷え込んでも経済関係は活発な「政冷経熱」といった言葉で日中関係を語れなくなったことを示している。これまでとは次元の違う関係に入ったという認識で対中外交を立て直す必要があろう。 日本政府は、先のアジア欧州会議(ASEM)首脳会議の議長声明に尖閣諸島問題を盛 り込むことを要求しなかったという。国際的な公文書で尖閣問題に触れることは、日中間に「領土問題は存在しない」という日本の立場を自ら否定することになるとの判断が働いたのだろう。しかし、現実には領土問題の存在がいや応なく国際社会に印象づけられており、通り一遍の主張の繰り返しでは、国際世論に訴える言論戦で中国に遅れを取ることになろう。 中国はロシアをも巻き込んで日本に圧力をかけてきている。メドべージェフ・ロシア大 統領が先に北方領土訪問の意思を表明したのは、中国と呼吸を合わせたものと見なさざるを得ない。 一方、南シナ海で中国と領有権問題を抱える東南アジア諸国連合(ASEAN)は、米 国との連携を強化している。経済関係の強さから中国との正面衝突は回避しながら、米国の力を背に南シナ海での中国軍の活動をけん制する戦略的な動きを見せているのである。日本も国家の主権や誇りを念頭に、ASEANとの連携も含めて対中外交の戦略を根本的に考え直す必要がある。
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