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[21443] 【習作】Fate~cross/night~(TtT、いつ天、オーフェン、機工魔術士、なのは等とのクロス作品)
Name: 団員そのいち◆3cafedec ID:8ec12a59
Date: 2010/09/26 20:03
本作品は、FATEのサーヴァントが全員違う作品であったら、というコンセプトを元に作られています。
気に入らない人は、バカヤローとだけ感想にお書きください。きっと無視した後にへこむことでしょう。
キャラクターによっては、非常にマニアックなものも登場します。
ライダーとかライダーとかライダー。…でも好きなんだもん…。

収録作品は、ティアーズトゥティアラ・魔法少女リリカルなのはA's・魔術士オーフェン・機工魔術士・ゾアハンター・ドルアーガの塔・ブギーポップシリーズ・いつか天魔の黒ウサギ、となっております。
初作品ですので、おおらかな目かつ(遅筆なもので)気長に待っていただけると幸いです。

名前が似ている人とは何の関係もありません。
…あなたがそれを信じない限りは…。

8月末日 第1章、誤字等修正



[21443] 【習作】Fate~cross/night~プロローグ
Name: 団員そのいち◆3cafedec ID:8ec12a59
Date: 2010/08/25 11:39
暗闇の中に少女の声が響く。
―告げる―
 少女が唱える呪文が進むに比して、その少女の足元に広がる魔法陣も輝きを増していく。
―汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に―
 魔方陣の放つ赤い輝きに照らされて、少女の端正な容姿が浮かび上がる。
―聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ―
 その―遠坂凛と呼ばれる―少女は、活性化し、脈動する魔術回路による苦痛をこらえながら、魔力を籠めた手で、宝石を強く握り締める。
―誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者―
 指と指との隙間から、魔力によって融けだした宝石が雫となって落ちる。
―汝三大の言霊を纏う七天―
 宝石が魔方陣に触れた途端、魔方陣から光が分かたれ、浮かび上がってくる。
―抑止の輪より来たれ―
 その光でできた魔法陣が頭上に達したその時、少女は力を籠めて、最後の呪文を解き放つ。
―天秤の守り手よ―!
最後の呪文を紡いだ瞬間、頭上と足元にある両の魔方陣は、目も潰さんとばかりに輝きを増す。
(間違いなく最強のカードを引き当てた!)
 そう少女が確信したのもつかの間、唐突に光は力を増し…。
 壮絶な爆音と共に少女を吹き飛ばす。
「…はい?」
 少女は吹き飛ばされたときにしたたかに打ちつけた腰の痛みを気にも留めず、ただ、魔方陣の上の虚空へと目を向ける。
(失敗…したの?)
 しかし、間違いなく魔力の流れは感じられる。それは本来の場所である魔方陣の上ではなく…。
「上!?」
 そう確信するとすぐさま少女は立ち上がり、階段を駆け上がる。件の部屋の扉を開こうとするが、先ほどの衝撃でどこかが歪んでしまったのか、まったく開こうとしない。
「ああもうっ。」
 苛立たしげに呟くと、頑固な扉に向かって思い切り蹴りを叩き込む。三度目ほどで扉は抗議の悲鳴をあげながらも開く…というより向こう側に倒れていく。
 そこには、予想を大きく逸脱する、そんな存在が待ち受けていた。
「あんたが俺のマスターか?…まったく、こんな乱暴な召喚をしやがって。あやうく弁護士呼びつけて慰謝料を請求しそうになっちまったぜ。」
 先ほどの爆発のせいで廃材となってしまったソファーの上に、全身黒づくめで黒い皮のジャケットを羽織った、目つきは悪く、まるで町にたむろしているチンピラの様な男がふんぞり返って居た。
(どこの世界にマスターに慰謝料請求するような英霊が居るってのよ…。)
 男の言葉に心の中で突っ込みつつ、その尖った視線に負けないように睨み返す。
「そうよ、私が貴方のマスターよ。あなたは…チンピラのサーヴァント(使いっパシり)?」
(あ、本音が出ちゃった。)



どこかで誰かが嗤う
―時は来た。参加する魔術師は7人。
 彼らマスターは7つのクラスに分かれたサーヴァントを使役し、たった1つの聖杯を巡って殺しあう。それが…―
―聖杯戦争―


 また何処かで、たった1つの桃缶のために泣いて忠誠を誓ったサーヴァントが居たとか居ないとか。



[21443] 【習作】Fate~cross/night~第一章 向けられた言葉は何がために
Name: 団員そのいち◆3cafedec ID:8ec12a59
Date: 2010/08/31 22:40
 真夜中の遠坂邸にて、悲鳴のような凛の怒鳴り声が響き渡る。
「ああもうっ!あんたのせいだからね!!」
 これは八つ当たりではない、私には確信がある。
 先ほど言峰教会への報告を行い、聖杯戦争に正式に参戦することを宣誓した帰り道、こともあろうに財布を落としてしまったのだ。しかしこれは決して、私のミスではない。
「そんなこと言われても…落としたのはお前だろうに。人のせいにするなんてなんて悪辣かつ陰け…。」
「どう考えてもあんたのその保有スキルのせいでしょうがっ!」
 そう叫びながら睨む私から男は目を逸らすと素知らぬ顔を貫こうとする。
「なんなのよその…呪いみたいな…黄金率-Aなんてスキルは!宝石魔術士である私とは相性最悪じゃない!」
 男の顔を無理やり掴んでこちらを向かせる。
「仕方ねえだろ、こっちも好きで貧乏やってんじゃねえんだ!」
 男は私の腕を振り払うと、負けじと言い返してくる。
「く…。」
「この…。」
しばらくの間2人は不毛にもにらみ合っていたが、やがて私のほうから諦めたようにため息を1つつくと、狂犬のような男の目から視線を逸らす。
「ふぅ…仕方ないわね。これは貴方を引いてしまった私のミスでもあるんだから。」
「…おい。」
 存在自体を失敗であるかのように言われた男は、うめくように抗議の声をあげる。しかし凛はそれを華麗に無視すると、塵1つないソファーへと腰かける。
「それにしてもたいしたものね。半壊と言ってもいいほど壊れていたこの家が、ものの数分で元通りなんて。さすが英霊、といったところかしら?」
「そんな便利なもんでもねえよ、音声魔術なんてもなあな。」
 男はやや憮然とした様子ながらも、話題に付き合ってくれる律儀さは持ち合わせているようだ。
「操れるものはエネルギーなんかが主流で、声の届かない所には効果も及ばない。なにより構成を編むための精神集中が必要だから接近されるとまず使うことはできないだろうな。」
「へぇ…それがあなたの一番の象徴ってことね?」
「そう…だろうな…。」
「…ふ~ん…。」
(こんな能力ならキャスターとして召喚されるのが普通でしょうに。隠してることに、その理由でもあるのかしらね…。)
 男が歯切れが悪そうに答えるのを横目に見やりながらマスターとして見取った能力を思い浮かべる。

クラス・アーチャー
マスター・遠坂 凛
真名・不明
性別・男性
属性・混沌、中庸
筋力・B 耐久力・C 敏捷性・B 魔力・B 幸運・E 宝具・B+
クラス別能力
 対魔力C(第二節以下の魔術を無効化する)
 単独行動A(マスター無しでの行動が可能。ただし宝具の使用などにはマスターのバックアップが必要)
保有スキル
 黄金率-A(本人の人生にどれだけ金がついて回るか。マイナスであるため逆に金が出て行ってしまう)
道具鑑定D(魔術的な道具であれば、その効果などを低確率で見抜くことができる)
マインドセットA(精神的な動揺を受けない。また、精神干渉系の魔術等を高確率で防ぐ)
心眼(真)A(修行・鍛錬によって培った洞察力)
無窮の武練B(魔術や宝具の影響下でも、十全の能力を発揮できる)
宝具
 音声魔術
  ランクB+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:100人
  シングルアクションでランクB以上のエネルギー系魔術の行使が可能
  魔術のランクを上げるごとに使用のための時間がかかる
 ???
  ? 
 ???
  ?

乱暴な召喚のツケなのか、それともこの男の宝具の効果なのか、一部のステータスを見て取ることができない。
「まあ、いいわ。これから知ればいいわけだし。」
 そうひとりごちるとソファーから立ち上がり男へと手を差し出す。
「よろしく、私は遠坂 凛。私と共に戦うんだから、負けなんて許さないんだからね。」
 男は私の差し出した手を奪うように強く握る。
「ああ。…マスター…よろしく。」
 ずいぶんと言いにくそうにマスターと呼ぶ男だ。私は思わずほころんでしまう。
「呼びにくいなら無理にそう呼ばなくてもいいわよ。私のことは好きに呼びなさい。」
「…なら凛、と。ふむ、こっちのほうがしっくりくるな。よろしくな、凛。」
 男はそう言うと、人のよさそうな笑顔を見せる。それを見た私はなんとなくうまくやっていけるような、そんな気がした。
「そういえば、貴方の真名はなんて言うの?」
「そういえばそうだったな。言ってなかったか。俺は…オーフェンだ。」
そのあからさまな偽名に、思わず声を上げてしまう。
「…孤児ぃ~!?」
 ごめん、やっぱり気のせいだわ。うまくやれるなんて。



「すまん、衛宮。視聴覚室のテレビが壊れてしまったのだ。ちと見てはもらえんだろうか。」
 ホームルーム終了と同時にメガネをかけた古風な話し方をする少年―柳洞一成―に話しかけられる。
「なんだ、また壊れたのか?」
「そのようだ、何度も手を煩わせてしまってすまんな。」
「いや、それはいいんだが…。」
 一成は、士郎の言いよどむ様子に違和感を覚えたのか、いぶかしむかのように聞いてくる。
「どうした?なにか問題でもあるのか?ならば無理にとは言わんが…。」
「ああ、いや、前見た時にちょっとな。やってみなけりゃわからんが、もしかしたら難しいかもしれないな。」
「そうか、とりあえず頼む。もし無理だったのなら仕方がない。天寿を全うしたということだろう。南無。」
 一成はそう言って合掌する。
「おいおい、見てもいないうちから諦めるなよ。」
 士郎はそう苦笑しながらロッカーから工具箱を取り出す。
「じゃあ、行くとしますか。」
「ああ、すまん。俺はちと先生に別件で呼ばれていてな。残念だがついていくことができんのだ。生徒会室にいるから何かあればそこに来てくれ。」
 一成は、では、と言って急いで教室を出て行く。
「…あいつもいろいろと忙しいんだな。」
 半ば感心するかのように呟くと工具箱を肩に担ぎ、視聴覚室へと足を向けた。

―トレース・オン―
件のテレビに向かって手をかざし、使い慣れた呪文を呟く。こうすることで、その物体の構造を解析するのだが…。
「やっぱりダメか…。パーツの交換でもしないと直せそうにないな…。」
「ほう。それはなんのパーツなのかね?」
「!?」
 独り言に質問され、驚いて振り向く。
「あ、アレッサンドロ先生…。」
 最近、転任してきたばかりのネイティブ・ティーチャーであり、藤ねえが気に入って転任初日に家に連れてきてご馳走を作らされたのは記憶に新しい。あれは絶対、この人を出汁にして自分がおいしいものを食べたかったのだろうと確信している。
「いや、驚かせて悪かったね。なに、随分集中しているようだったからなにをしているのか気になってね。そうか、故障場所を調べていたのか。」
 アレッサンドロは、そう言いながら半ば身体を出していた窓から身を乗り出すと、ドアを使うことなく室内に入ってくる。
「…ええ…はい。」
 見られていたことに動揺しつつも答える。考えて見れば、視聴覚室とて廊下側はガラス張りなのだ。そこから見られる可能性もあることに、今更ながら気付く。もっと気をつけていればよかったと後悔の念が押し寄せてくるが、それをねじ伏せて無理やり笑顔を作る。
「えっと…たぶん、この…」
 そう言いながらテレビを裏返すと、基盤の一部を指差し答える。
「音を受信するパーツがダメになったんだと思います。」
 アレッサンドロはその言葉に少し眉をひそめると、意外にも自身ありそうに呟く。
「ふむ…。これは…何とかなるかもしれないな。」
「本当ですか!?」
「ああ。少し、待っていたまえ。ああ、ハンダの用意でもしておいてくれ。」
 そう言い残すと、どこかへと行ってしまう。士郎が言われたとおりの準備をこなし、しばらく待っていると、アレッサンドロは古いラジカセを手に帰ってくる。
「先生、それは…?」
 士郎は不審に思い、聞いてみるが、とぼけた答えが返ってくる。
「ん?これはラジオカセットだな。知らないのか?」
「いえ、そういうことを聞きたいのではなく…。」
 思わず苦笑いをしながら再度聞こうとする。しかし、途中で話の腰を折られてしまう。
「まあ、いいから見てなさい。」
 そう言うとアレッサンドロは、慣れた手つきでラジカセを解体してしまう。そのあまりの見事な手さばきに、士郎は思わず感嘆の声をあげる。
「…凄いですね。昔こういうことを仕事にしてらしたんですか?」
「さてね。昔なのか、これからなのか…。」
「はい?」
「いや、なんでもないさ。」
 アレッサンドロは意味深な言葉を呟きつつ、今度はテレビの故障している箇所を取り外してしまう。
「ラジカセの部品を使って修理できるもんなんですか?」
「物によっては、な。このパーツは…。」
アレッサンドロはそう言うと、ラジカセから取り外したパーツと、テレビから取り外したパーツをその大きな手のひらの上に並べて見せると言葉を続ける。
「結局のところ、電波を受信して電気信号に変えるだけの代物だ。だから、受信できる周波数さえ同じなら代用が可能だ。」
 そう言うと、ラジカセから取り出したほうのパーツを、ハンダを使って手早く取り付けてしまう。明らかにパーツの大きさが合っておらず、取り付けたパーツがコブのように飛び出て見える。
「…直ったんですか?」
「さてね、それは起動してみんと分からん。」
 そううそぶきながら手早く組み立てると、コンセントを持って差すように促がしてくる。士郎はコンセントを受け取ると、言われたとおりにコンセントに差し込む。途端、アレッサンドロによって電源を入れたままにされたテレビは、夕方のニュースを流しだした。
「………。」
 士郎は、自分が無理だと諦めていた物を、いとも簡単に直してしまったアレッサンドロの腕に、思わず声を失う。その横でアレッサンドロは、手についたゴミを払いながら立ち上がる。
「さて、すまんが片付けは任せてしまってもいいかね?」
「…あ、は、はい。」
 そのラジカセは学校が捨てようとしていたものだから…、などと言いながら扉に手をかけようとした瞬間、反対側から扉が開かれる。
「直った…っと。」
 扉を開けたのは一成で、扉を開けると同時に入ろうとするものだから、危うくアレッサンドロとぶつかりそうになってしまう。
「失礼。衛宮だけだと思っていたので…。」
「いや、構わんよ。前を見ていなかったのはこちらも同じだ。」
一成はそんなやり取りをしつつこちらに目を向けると、やや大げさなまでに驚く。
「おおっ!直ったのか。ありがたい、衛宮。」
「それは先生に言ってくれ。直したのは俺じゃないから。」
 そう言われた一成が、アレッサンドロへ目を向けると、彼は手を横に振って否定する。
「いやいや、それは故障箇所を的確に割り出していた君の手柄だよ。私は少し手を貸しただけにすぎんよ。」
 一成はそんな二人の様子に戸惑いつつも、とりあえず二人に礼を言う。
「なんにせよ、ありがとうございます。先生。それから衛宮も。いや、まことに助かった。実は先ほどの用事というのも予算のことであってな。」
「大変なんだな、お前も。助けになれて、よかったよ。」
 そう苦笑する。すると、その話に割り込むようにしてアレッサンドロが言葉を放つ。
「さて、それじゃあ私はこれで失礼しようかね。君たちも早く帰ることだ。物騒だからね、今時分。」
「…物騒?」
 その言葉に思わず眉をひそめる。
「ああ、そう言えば職員室でも話題になっていたな。なんでも町外れの廃墟で死体が見つかったとか。」
「ホントなのか!?」
「そういうわけだ。気をつけることだな。」
 アレッサンドロは、それじゃあ、と続けると、今度こそ本当に教室を出て行く。
「………。」
「衛宮よ、なにかよからぬことを考えているわけではあるまいな?」
 一成に考えていたことを言い当てられて、思わず動揺してしまう。しかし、否定するつもりもなく、無言で片付けを始める。一成はその様子を見て取ると、あきれたように頭を振る。
「まったく、お前と言う奴は…。」
 そう言うと、一成も片付けを手伝い始める。
「なるべく、早めに帰るのだぞ。」
 一成の言葉からは友人を慮っていることがありありと感じ取ることができた。


 学校の屋上にある金網の狭間から見えていた太陽が、地平線の向こうに沈むと同時、鋭い、まるで刺すような殺気が凛を竦ませる。生まれて始めて浴びせられた本物の殺気に、ともすれば震えだしそうになる足を叱咤しながら立ち上がる。
「…来た。」
 凛は決心して顔を上げると、濃密な魔力の気配をする方向へと視線を向ける。そこには、凄まじい魔力を持っているとはとても思えないほどに可憐な、そしてその華奢な体躯に黒衣と漆黒のマントをまとった金の少女が、不安定な金網の上に平然と立っていた。
「確認します。貴女の隣に立っている男の人は、サーヴァントで間違いはありませんね?」
 少女は、鈴を転がしたような声で語りかけてくる。その可憐な容姿と声に、凛は思わず声を失う。
「…?どうかしましたか?」
 少女はあまり表情は変えずに可愛らしく小首をかしげ、再び尋ねてくる。凛は、その問いかけで正気を取り戻す。
「…いえ、何でもないわ。まさかこんな子どもがサーヴァントだとは思わなかっただけよ。」
「その返答は、先ほどの問いに答えたと見ていいんですね。」
 こちらの返答が気に入らなかったのか、それとも始めから戦うことしか頭にないのかは分からないが、金の少女は凛の返答を聞くや否や、バルディッシュ、と小さく呟き、虚空からその身に似合わぬ斧槍を取り出す。
「アーチャー!着地、任せた!」
 その少女―得物が斧槍であるところを見るにランサーか―がなにか行動を起こす前に、凛は大きく後方に飛びのくと、ためらいなく金網を一跳びで跳び越え、虚空に身を躍らせる。その身が未だ空中にあるうちに、背後で霊体化を解いたオーフェンが凛の身体を掴むと力強い言葉と共に、構成を解き放つ。
「我は駆ける天の銀嶺。」
魔術が発動すると、落下速度が緩やかになる。そして、屋上から跳び下りたと言うのに、なんの抵抗もないほどすんなりと着地できる。
「アーチャー、このままあなたの…。」
 着地と同時に走り出し、そう言いかけた矢先、そのアーチャー自身から突き飛ばされる。なぜ、と思う間もないほどに鋭い閃光が先ほどまで凛がいた場所を薙ぐ。
「…やりますね。」
 そう呟くランサーは、斧槍を振りぬいたままの体勢でオーフェンに向けて呟く。
「…ガキはうっとおしくて嫌いなんだよ。」
 オーフェンの突然の嫌味に、ランサーは軽く眉根を寄せることで答える。
「言っておくが、俺は女だとかガキだとかいうことで容赦はしねえぞ。」
「望むところです。」
 オーフェンの言葉にランサーは少し嬉しそうな顔をすると、先ほどいきなり凛を狙ったことなど忘れたかのように、凛のことを無視してオーフェンに向かって斧槍を振るう。それに対してオーフェンは、ランサーの方に踏み込むことで応える。振るわれた斧槍の半ば辺りを左腕で受け流し、空いている右手を思い切り、先刻の言葉通りに容赦なくランサーの腹部へと叩き込む。しかし、その拳は空を切る。
 驚異的ともいえる速さを見せたライダーが、振るわれる拳よりも速く回避したからだ。
「…やるじゃねえか。」
「…貴方の目つきが怖かったもので。」
 オーフェンが賛辞を、ランサーが皮肉を。先ほどと同じ言葉を、逆の立場で口にする。
「それにしても、無手のアーチャーなど聞いたこともありませんよ。」
「そういうお前はランサーだとバレバレだな。」
「ありがとうございます。」
 ほめてねえよ、というオーフェンの苦笑を皮切りに、ランサーは三度目の突撃を行う。それは今までの突撃が児戯であったかのような、神速ともいえる速度で為された。当然、オーフェンは虚を衝かれ、ランサーに懐に潜り込まれてしまう。
「なっ…。」
ただ懐に潜り込まれたのではオーフェンもここまではうろたえなかったろう。しかし、広い間合いを持って敵を制する槍使いがここまで接近することは、自らを不利にすることに他ならない。これは何かの罠なのか?そんな一瞬の疑念がオーフェンの行動を遅らせる。
 そのスキは、ランサーにとって十分すぎるほどのものであった。
「フッ。」
 ランサーの口から呼気が漏れ出る。突進の勢いをそのままに、斧槍の石突をオーフェンの腹に叩き込む。
「ぐぅっ。」
 ランサーの打撃の瞬間、オーフェンはとっさに身体をひねって急所は外したものの、相応のダメージは負ってしまう。そして、攻撃はそれだけでは終わらなかった。ランサーは、斧槍を回転させ、長柄による殴打を続けて見舞う。
「この…お…。」
 オーフェンは、なんとかランサーの攻撃が達する前に、右腕を間に滑り込ませて直撃は防ぐ。そのまま痛む腕と腹を無視し、カウンター気味に蹴りを繰り出す。しかし、これは読まれていたのか、すでに後方に跳ばれていて空を切る。
「やってくれるじゃねえか…。」
 オーフェンは、そう毒づきながら痛む腹を押さえる。
「ですが攻め切れませんでした。」
「ぬかせ。…得意の高速移動を生かして一撃離脱を繰り返し、少しずつダメージを与えていこうって腹か…。顔に似合わず嫌らしい戦い方をするんだな。」
「ありがとうございます。」
オーフェンの皮肉に対し、ランサーは表情ひとつ変えずに応える。
「だから…ほめてねえ…よっ!」
 会話の途中で腹を押さえるふりをしてこっそりと取り出したナイフを投げつける。もちろんそんなものが当たるわけもなく、誰もいない地面へと突き立つ。しかし、飛んで来るナイフを左に避けたランサーにすばやく詰め寄ると、鋭い突きを放つ。
「悪いが、ガキに負けてやれるほど人間が出来ちゃいないんでね。」


 士郎は一成と別れた後、勇んで町へと向かおうとしたものの、慎二に弓道場の掃除を頼まれてしまい、結果、掃除が終わる頃には日が暮れてしまっていた。
 弓道場に鍵をかけていたとき、ふと、日常では聞きなれない音が聞こえたような気がした。
「ん?」
 士郎は思わず動きを止め、耳を澄ます。しばらく耳を済ませていたが、やはり何も聞こえない。気のせいだったかと思い直し帰ろうとした瞬間、ドンッ!!と、低い炸裂音が響き渡った。
「…校庭のほうか?」
 思わず声に出して確認してしまう。それは、内心の不安が漏れ出てしまったからだろうか。その思いを振り払うかのように、走って校庭へと向かう。そして、そこで普段の日常とはかけ離れたもの、すなわち、黒づくめの男と金色の閃光が、互いに人殺しの道具を用いて合間見えている姿を目にすることになった。
 士郎は、思わずその光景に目を奪われてしまう。目にも留まらぬ速度で動きながら攻撃を繰り出す少女と、その神速による攻撃を小さなナイフと己が体術で捌ききり、時には反撃すらしている男の戦いに。
「………!」
 士郎は、ふと息苦しくなって正気を取り戻す。あまりの衝撃に、体が息をすることを忘れてしまっていたようだ。そうして思わず息を呑んだこと。たったそれだけのことであったのに、先ほどまで互いしか目に入らんとでもばかりに、戦っていた相手を見ていたはずの二人の視線が、今は士郎を見つめていた。
 その冷ややかな二人の視線が、その光景は、決して士郎が見てはならないものであったと告げていた。
「くそっ。」
 士郎は、すぐさま踵を返すと全力で校舎の方へと逃げ出す。それを見たランサーは、今までの戦いで見せた動きが嘘であったかのように立ちすくんでいる。
「しまった、見られたわ。アーチャー。」
 戦いの余波に巻き込まれないよう、幾分か離れた位置にいた凛が、焦ったような声をあげながら小走りにオーフェンのもとへと駆け寄る。
「まだ人が残っていたなんて…。」
「それで?どうするんだ、凛。」
「そうね…。」
 凛は、先ほどから不自然に動きを止めたランサーの方をちらりと見やると、それがなにかのスイッチにでもなったのか、ランサーは今まで伏せていた顔を上げると、こちらには目もくれず士郎の後を追って校舎へと消え去ってしまう。
「!とりあえず、追うわよ!」
 凛は慌ててランサーの後を追って走り出す。ランサーの目的が何なのか、想像は容易かったからだ。


「はぁっ…はぁっ…。」
 どこに向かっているのか、士郎自身も分かってはいないのだろう。しかし、ここから一歩でも遠くへ離れなければ。そんな思いに、息も絶え絶えになりながら夢中で足を動かす。
 しかし、そんな無茶が長く続くはずもなく、やがて足に限界が訪れる。何もない廊下なのにも関わらず、足をもつれさせて転んでしまう。そして、一度止まってしまった足は、持ち主の意思に反してけっして動こうとしなかった。
「くっそっ…。」
 士郎はそう毒づくと、両手を使って廊下を這って壁にもたれかかる。そして、体の中で暴れまわる肺を何とかして押さえ込もうとするが、なかなか治まらない。それはきっと、体が酸素を欲しているのではなく…。
「ここに…居ましたか。ごめんなさい。見られたからには、あなたの命を奪わなければなりません。」
 殺される、という恐怖のせいであった。
「うわぁ!」
 士郎は耳元で淡々と語られたその言葉を振り払い、震え上がる足を殴りつけ、立ち上がる。そうやってその声の主と向き合おうとする。しかし、その声の主を視界に捉える前に、胸を貫かれる。
 胸から伸びる斧槍の先に目を向ける。そこには、端正な顔を哀しげに歪めた、金色の髪を月明かりに輝かせる可憐な少女が居た。
「ごめんなさい…。」
言葉と共に、士郎の胸から斧槍が引き抜かれる。その穂先につられ、何か決定的なものがこぼれ落ちていく。もう助からないということは、士郎にもはっきりと分かった。こんなところで理不尽に死んでしまうことへの絶望と加害者である少女への怒りが胸を満たす。しかし、その瞳が月の光を受けて、淡く光っていたのを見た瞬間、消え失せていた。
(なん…で…。)
「…ごめんなさい…。」
 少女は再びその想いを口にする。
(なんでそんなに哀しそうなんだよ…。)
 そんなことを思いながら、支えを失った士郎の体は、力を失い倒れてゆく。
「ご…め…。」
 そんな士郎に向かって三度、少女は何ごとか呟く。否、士郎には聞こえないだけでおそらくはまたも謝っているのだろう。士郎の体が完全にくず折れたとき、少女は静かに立ち去った。その瞳に涙を湛えながら。


凛たちが士郎に追いついたときには、すでにランサーの姿はそこにはなかった。ただ倒れ伏す人影がひとつ在るだけだった。
「アーチャー、ランサーを追って。なにか少しでも情報が欲しいわ。」
「別に構わんが…。あのスピードで移動されちゃあ、いくらなんでも追いつけんぞ。」
「いいから行きなさい!」
 凛は、思わず怒鳴り声を上げて命令してしまう。ミスを犯してしまった自分に腹が立ったのか、人が死ぬ、そんなときに平素な態度をとっていたオーフェンに腹が立ったのか、覚悟がたりなかったことに気付いてしまったからなのか。果たして、その全てであろうか。
 とにかく、オーフェンは凛の怒鳴り声に押されるようにして掻き消える。そうしてオーフェンの気配が遠ざかっていくのを確認してから倒れている人影へと近づく。
「…あなたも不運だったわね…。せめて、死に顔くらい見取ってあげるわ。」
凛はそう言うと、手や服に血が付くのも構わず人影をひっくり返す。
「…!なんで…なんであんたがここに居るのよ…。なんで、あんたなのよ…。」
 そこには凛が ― 一方的にではあるかもしれないが ― よく見知った衛宮士郎の顔があった。凛の妹であった桜に、最も親しくしてくれている男。そして、傍から見ていて分かるほどに、桜が恋している男だ。…桜に、笑顔をくれた人だ。
 そう思ったとき、凛の心は決まっていた。
(ごめんなさい、お父様。私は、魔術師としては失格のようです。)
 そう心の中で呟くと、首に下げていた大きめの紅い宝石を取り出す。それを強く握り締め、傷口の上にかざし、呪文を詠唱し始める。
 そしてなんとか士郎の治療が終わったとき、凛は精も根も尽き果てており、自らの意思に反してまぶたが下りようとする。しかし、士郎が目覚める前にこの場を離れなければ、そんな一心で身体を無理やり動かして校舎から出る。
「わりぃな…やっぱり、無理だったわ。」
 そこには、決まりが悪そうな顔をしたオーフェンが立っていた。
「…そう…。」
そんなことどうでもよいとばかりに、あまり関心なさそうに呟いた凛はそのままオーフェンの方へと倒れこむ。
「っと。どうしたんだ、凛。」
 オーフェンは、凛が突然倒れこんだことに少なからず驚く。
「…魔術の使いすぎでちょっと疲れただけよ。ちょうどいいからこのまま私を家まで運びなさい。」
 凛はそれだけ言うと目を瞑って体の力を抜く。寝ているわけではないようなのだが、極力体力を節約したいようだ。
(つまりはそれだけデカイ魔術を使ったってことで…)
 そこまで思い至ったオーフェンは、自分がランサーを追っていた間に凛が何をしたのか理解する。
「…へいへい分かりましたよ、マスター。」


 凛が立ち去って少し時間が流れた頃、士郎は目を覚ます。
「ぐっ…俺は、生きているのか?」
士郎はランサーに貫かれたはずの胸を探るとぬらりとした血の感触がする。しかしそれだけで、その下にあるはずの傷口がまったく見当たらない。もちろん、痛みさえも。
「なにがどうなって…。」
 士郎はそう呟きながらも立ち上がろうとしたとき、指先に固い物が触れる。不思議に思って手に取ると、紅い矢じりのような形をした宝石だった。なんとなく気になってしまい、宝石をポケットにしまう。
「…帰ろう…家に帰って…全てはそれからだ…。」
 そう思い、こっそり隠れながら校舎を出ると、弓道場から荷物を回収して家路に着く。
居間に荷物を投げ出すと、座布団を敷く気力もなく座り込む。本当は横になりたかったのだが、血まみれの制服で床を汚したくはなかったのだ。士郎はこんなときでもそんなことを考えてしまう自身の小市民さにあきれてしまう。
「…それにしても…なんだったんだ、アレは…。」
 とてもこの世の存在とは思えないほどの圧倒的な存在感。そして人間離れした動きで戦っていた…否、殺し合いをしていた。
「そして俺は偶然そこにいて…。」
 士郎はそこまで呟いてから思い至る。ランサーはあの時なんと口にしていたのか。
「見ていたから…口封じに…殺された?」
 ならば士郎が生きていたことにランサーが気付けば、再び彼女は士郎を殺しにやって来るであろう。
(そうだ、ゆっくり休んでいる暇なんてない。あいつは必ずここに…来る。)
 士郎は慌てて武器になるものがないか周囲を見回す。しかし、あの斧槍に対抗できるようなものは見当たらない。いや、それはゴミ箱の横に立て掛けて置いてあった。
「藤ねえが持ってきたガラクタが、初めて役に立ったかもな。」
 そう苦笑すると、今朝藤ねえが持ってきた自称豪華鉄板使用とやらのポスターとは名ばかりの凶器-今朝思い切り藤ねえに引っ叩かれた-を丸めて手に取る。
―同調・開始―
 士郎は呪文を口にすると、手元に集中する。
―基本骨子・解明―
 魔術回路を造り上げ―。
―強化―
 そこから生まれた魔力を物質に通し、その物質を強化する。それが衛宮士郎のできる唯一の魔術。
―同調・完了―
 締めの呪文を口にすると同時、突如虚空にランサーの姿が現れる。士郎はそれを感知した瞬間、身体を大きく床に投げ出す。
 あと少し士郎の反応が遅れていれば、士郎の死は確実だったであろう。今まで士郎の頭のあった位置を黒い斧槍が薙いでいく。
「避けなければ、気付かなければ…楽に逝けたのに…。」
 床に着地したランサーは、俯いたまま悲しそうにそう呟く。士郎はそのスキに立ち上がると、少しずつ後ずさりしながら鉄筒を正眼に構える。
「っ!」
 士郎自身としては、油断なくランサーを見つめていたつもりであった。それなのにも関わらず、まるでコマ送りでもしたかのように目の前にランサーが現れ、斧槍を振りかぶっている。
「くそっ!」
士郎は、何とかして両腕で掲げた鉄筒でランサーの一撃を防ぐ。必殺であったはずの一撃を防がれたランサーは、いぶかしむように片眉を上げて士郎を見る。
「そんな物で私の一撃を防ぐとは…なるほど、あなたは魔術師だったのですね。」
 そこまで言うとランサーは斧槍の中心を持ち、短く構える。
「だったとしても、マスターの命令に変更はありません。私はあなたを殺すだけです。」
 不本意ですが。ランサーはそう小さく続けると、士郎へ向けて突進しながらその遠心力を利用して斧槍を横薙ぎに薙ぎ払う。士郎はそれを両手で構えた鉄筒でなんとか防ぐ。
「ぐぅっ。」
「言ったはずです、避けなければ苦痛無く逝ける、と。」
 そのままランサーは士郎の返事を待たずに斧槍を回転させるように2撃、3撃と繰り出してくる。士郎はその何れをもギリギリで凌ぐも、数撃もしない内に受け止める衝撃で手が痺れてきてしまう。
「これで終わりです。」
その言葉と共に、ランサーから一際大振りの一撃が繰り出される。士郎はその一撃を、鉄筒の両端を持って辛くも受け止める。しかし、ランサーの力に回転の力が加わった一撃は、士郎が受け止めるのには重すぎる一撃であり、士郎は体ごと吹き飛ばされてしまう。
「がぁぁっ!!」
宙に浮いた士郎の体は、窓ガラスを叩き割って庭まで飛んでいく。その後を追ってランサーも庭へ向かう。士郎が割って飛び出た窓の隣を、こちらはすり抜けて庭へと出る。
士郎はそれを尻目に何度も転がって、蔵の扉にぶつかってようやく止まる。扉に寄りかかるようにして立ち上がる。しかし先ほどと同じようにいつの間にか間合いを詰めたランサーは、目の前で斧槍を振るっている。そう、先ほどと同じように。
そのことに思い至った士郎は、とっさに防ぐのではなく斧槍の振るわれる軌道を狙って鉄筒を振るう。
 キィン、と澄んだ音が弾け、斧槍が宙を舞う。士郎は自分の目論見がうまくいったことを喜ぶ間も無く、胸元で衝撃が弾けて蔵の中へと吹き飛ばされてしまう。
(な…にが…。)
 そう声に出して喋ろうとしても、舌が痺れて言葉にならず、体も動かない。鉄筒も先ほどの衝撃でどこかへ行ってしまったようだ。士郎がランサーから身を守る術は、ない。
「本当に…これで終わりですね。…貴方が7人目であればこんなに悔やむことも無かったのかもしれませんね…。」
(死ぬ?ここで…死ぬのか?)
 ランサーはそう呟くと、士郎の方へゆっくりと歩み寄る。そしていつの間にか手にした斧槍を士郎の胸元へと突きつける。
(冗談じゃない!俺はまだ誰一人救えていない、俺はまだ正義の味方になれていない。)
「今度は、迷わないでください。」
 そうして、ごめんなさい、と。まるでなにかに願うかのように呟いたランサーは、初めて士郎を殺した時と同じ箇所へ向けて、突きを放つ。
(衛宮士郎はまだ死ぬわけにはいかない…!!)
 士郎の思いに応えたのか、左手の甲が紅く輝き、その光と同色の剣が、士郎の背後から伸びてランサーの突きを打ち払う!
「なっ…。」
 驚きの声をあげて後ろに跳び退ったランサーを、士郎の背後から跳び出した漆黒の影が追う。先ほどのまでの動きが児戯に感じるほどの速度でランサーは斧槍を振るう。しかしそのことごとくをその影はいなし、逆に切り込んでいく。
「はぁぁっ!」
 ランサーは裂帛の気合でもってそれらを突き崩すと、持ち前の神速で蔵から脱出する。影はその後を追わず。こちらにむけてゆっくりと進んでくる。
「小僧。」
 自信に満ちた、強い声で問われる。士郎はその声の持ち主を呆然と見上げる。夜の明かりに照らされて栄える銀の髪、そしてまるで夜そのものを体現したかのような漆黒の衣。血のように紅いマフラーと、それと同じくした紅い細身の両刃の剣。それらを携え、まるで神の具現とでも言う様な、威風堂々とした佇まいの男が、そこに在った。
 その男は続けて問う。
「お前が、俺のマスターか」



[21443] 【ネタ】Fate〜cross/night〜 1 感想回答変
Name: 団員そのいち◆3cafedec ID:8ec12a59
Date: 2010/09/26 20:08
 銀の髪に黒衣をまとった男は、再度問う。
「問おう、お前がこの作品の読者か。」


オーフェン 「と、言うわけでだ。作者の暴走から始まったこの企画だが。」

フェイト  「毎回、その章に登場したサーヴァントの皆さんが。」

アロウン  「この作品の感想を書いた物好きどもに対する返事をしようというものだ。」

フェイト  「質問なども受け付けます。」

オーフェン 「しかし初っ端からやっちまった感バリバリだなぁ、オイ。」

アロウン  「言うな。やらされたこちらの身にもなってみろ。」

フェイト  「あ…あの…私はかっこいいと思います…よ?」

アロウン  「……ええい、酒だ!酒を持って来い!おい士郎、料理はまだか!」

士郎    「もうすぐ出来る。ちょっと待っててくれ。」

フェイト  「あ、手伝います。」

アロウン  「…待っている間、野郎と二人だけか…。」

カリオストロ「くくっ、オレも居るんだがね。」

オーフェン 「うおぅ。居たのか、アンタ。こーいう場じゃ喋らなきゃ居ることがわかんねーじゃねえか。」

カリオストロ「なに、オレは見ているだけで構わんのでね。」

アロウン  「待ってる間、野郎どもしか居ないのは変わらん。俺は寝るぞ。」

オーフェン 「…俺も寝るか…。」

カリオストロ「…。」

アロウン  「……。」

オーフェン 「………。」

カリオストロ「…………。」

アロウン  「ぐぬぅ………。」

オーフェン 「……………っだぁぁっ!なんの意味があるんだぁ!!」

アロウン  「うぉっ!馬鹿がこんな所で魔術を使うな!」

士郎    「そうだぞ、片付けるのは俺なんだから…。ハァ…。」

フェイト  「落ち込まないで下さい、シロウ。私も手伝いますから。」

士郎    「ありがとう、フェイト。しかし…飯を置く場所が…。」

オーフェン 「我は癒す斜陽の傷痕」

アロウン  「早っ。」

オーフェン 「さあ、心置きなく置け。さあ、さあ。」

フェイト  「…あの…オーフェンさん…目が血走ってませんか?」

オーフェン 「…んぐっ…むぐっ…アロウン貴様、その肉は俺のだ!」

アロウン  「馬鹿め、取ったもの勝ちだ…。おい、士郎。酒が足らんぞ、もっと持って来い。」

士郎    「いつのまにそんなに飲んだんだよ…。仕方ない、取ってくるからきちんと仕事してろよ。」

アロウン  「あ〜わかったわかった。」

フェイト  「は、はい。頑張ります。」

オーフェン 「えっと〜なになに。ひとつ目の感想は…荒井スミスってヤツからだ。」

アロウン  「こいつはまた随分と興奮しているな…。」

オーフェン 「俺が出ている作品は希少らしいからな。見つけて狂喜乱舞、といった所か。」

フェイト  「ありがとうございます。」

アロウン  「次は…PALUSというヤツだな。」

オーフェン 「こらまた随分と長い感想をくれたもんだな。しかもカオスになることを望んでいるらしい。」

アロウン  「もう十分カオスだがな…。」

フェイト  「こ…この作品は、ひとつの作品から一人ずつサーヴァントとして参加します。楽しみにしていて下さい。」

オーフェン 「3つ目は…。」

アロウン  「俺様のファンのようだな。HALとやら、なかなか見る目があるじゃないか。」

フェイト  「4つ目は…FEXさんです。」

オーフェン 「望み通り更新されたな。」

アロウン  「内容は望んでいたものの斜め下を行っているがな…。」

フェイト  「すみません、もう少し…一ヶ月くらいになるかもしれませんが、待ってて下さい。」

オーフェン 「5つ目はKK−Kか…。こいつには言っておきたいことがある。」

アロウン  「あまり失礼なことは言うなよ。作者が腹を切り兼ねん。」

オーフェン 「女は全て魔王だ!…うん…ごめんよ…姉さん…僕が悪かったから…。」

アロウン  「…気持ちは…分かる。」

フェイト  「?」

カリオストロ「クククッ、まったく見ていて飽きないねえ。」

フェイト  「えっと…6つ目の人は…カリオストロさんが目当てみたいですよ。良かったですね。」

カリオストロ「…ふむ、この作品にどう魅力を感じたのか、気になるね。…さて。」

士郎    「おーい、持って来たぞ…。って、アレッサンドロ先生どこに行かれるんですか?」

カリオストロ「いや、なに…。少々観察に…ね。」

士郎    「ふーん。で、あの隅で灰になってる二人はいったい?」

フェイト  「あ、あの、いきなり落ちこんじゃって…。」

士郎    「まったく…仕事ほっぽらかしてなにやってんだよ…。感想は?」

フェイト  「もう終わりました。」

士郎    「今回は6つと少なかったからな。まあ、今後感想が増えてくればいくつかこぼれるのも出てくるんだろうけど…なるべく頑張ろうか。」

フェイト  「はいっ!」

士郎    「それじゃあ読んでくれた皆さん」

フェイト&士郎『ありがとうございました!』



[21443] Fate~cross/night~ 第二章 ギ者の魂はいずこに在りて
Name: 団員そのいち◆3cafedec ID:8fb021b9
Date: 2010/09/26 20:19
 銀の髪に黒衣をまとった男は、再度問う。
「問おう、お前が俺のマスターか。」
 士郎はそれに答えようとするものの、先ほどランサーに喰らった電撃の後遺症か、舌が痺れて言葉を発することができない。その様を見て取った黒衣の男は、今までの雰囲気とは打って変わって砕けた調子になる。
「なんだ、だらしのない。いい男がその程度でへばってどうする。」
 黒衣の男はあざけるようにそう言うと、士郎の服の襟を掴んで引き上げ、壁際に寄りかからせる。その際、士郎の左手の甲にある令呪を目ざとく見て取ると、自嘲するかのように鼻で笑う。
「ふん、まあいい。とりあえず契約は完了した。そこで寝ているんだな。外の敵は倒してきてやる。」
 そう言うと男は剣を肩に担ぎ、蔵から出ると、ランサーに向かって相対する。
「おい、お前。…一応聞くが、この勝負、次に預ける気は無いか?」
 唐突なセイバーの言葉にランサーは軽く眉をひそめると無言で斧槍を構えなおす。そんなランサーの様子を見てなお男は態度を変えず、説得を試みる。
「こちらのマスターはなにも知らん様だし、お互い、万全の状態で戦う方が好ましいのではないか?」
「…万全の状態、ですか…。」
 ランサーは少し戸惑う様ではあったが、構えを解かずに続ける。
「つまり今のあなたは万全の状態ではない、ということですね。」
 ランサーはそう言いながら男が持つ紅い剣に目をやる。その剣の刀身はところどころが錆付いており、お世辞にも良い状態にあるとは言えない。
「…まあ…こいつは確かになまくらだが…。」
 男は思わず半眼になり、手元へと視線を落とす。
「ですから、最優のサーヴァントと名高いセイバーが万全ではない今こそ、最も戦うべき時なのではありませんか?」
「……。」
 ランサーに理路整然と論破され、思わず男は押し黙ってしまう。しかも、見た目が年端も行かぬ少女ともあれば、その精神的なダメージは大きいだろう。
「それにこうして貴方の様な強い人と見えたのです。」
 ランサーはそう口にしながら今にも突撃せんと腰を落として体勢を低くする。
「一度剣を交わしてみたいと思うのは、英霊ならば当然のことではないでしょうか。」
「…ハッ。なかなかに剛毅なガキじゃないか。いいだろう相手をしてやる。来い。」
 男の、いや、セイバーの言葉が終わるや否や、ランサーは空を飛ぶかのような速度で突進する。
「はぁぁぁっ。」
 気合と共に振るわれるランサーの斧槍を、セイバーは手に持った紅い剣で弾く。斧槍を弾かれてわずかに体勢を崩したランサーに向けてセイバーは剣を振るうも、その時にはすでにランサーは剣の届かない範囲へと退いている。その隙を見て取ったランサーが再び突進するも、セイバーに軽くいなされる。
その後、同じような突進が数度行われるも、その度にセイバーはほとんどその場を動くことなくそれらを軽くいなし、ランサーは有効打を与えられないでいた。何度目かの突進が弾かれた後、ランサーは大きく飛び上がり家の屋根に着地してセイバーとの間を空ける。
「やはり接近戦においては貴方に利があるようですね。」
「ならばどうする。」
 こうします、とランサーは小さく答え、斧槍を体の横に振る。
「バルディッシュ、カートリッジ・ロード。」
 ランサーの言葉と共に、バルディッシュと呼ばれた斧槍の先に埋め込まれた宝石に一瞬文字が浮かび、続いて斧の部分がスライドして機械的な音を周囲に響かせる。その途端、莫大な魔力がランサーの体から湧き上がる。
「プラズマ…ランサー。」
 ランサーの唱える呪文と共に周囲に8つの円環状の魔方陣と、それに包まれるようにして雷の槍が現れる。
「なにっ!」
 まさかランサーが魔術を使って攻撃してくるとは思いもしなかったのだろう。セイバーは思わず声をあげる。
「ファイアー!」
 そして、ランサー命令に従い、雷の槍はセイバーへとその牙を剥く。
「クッ。」
 セイバーはうめき声を上げながら、雷槍の幾つかを剣で切り裂きながら後退することで直撃を避ける。しかし大地に突き立った雷槍は、派手に砂煙を巻き上げセイバーの視界を奪う。
「はぁぁつ!」
 その砂煙をランサーの斧槍と気合が貫く。先ほどの雷槍で体勢を崩していたセイバーはランサーの斧槍を正面から受け止めざるを得ない。結果、セイバーはさらに体勢を崩すことになる。
「ターン!」
 セイバーの体勢を崩すことに成功したランサーは、すばやくセイバーの頭上に飛び上がると大地に突き立ったままの雷槍へと再び指示を下す。息を吹き返した雷槍は、止めを刺さんとセイバーへとその牙を向ける。その牙がセイバーに触れようとしたその刹那、セイバーの体が沈みこむ。セイバーは、体勢を崩されたことを逆に利用して倒れこむことで雷槍を回避したのだ。セイバーを捉えられなかった雷槍は、明後日の方向へ飛んでいく。
 しかしランサーの攻めはそこで終わりではなかった。むしろ、今の状況にセイバーを追い込むことが目的だったとも言える。
「撃ち抜け、雷刃!」
 ランサーの気合にバルディッシュが応え、斧槍であった己が姿を刀身がランサーの数倍はあろうかという雷刃へと変化させる。更には先ほどは一度であったカートリッジ・ロードを三度行い、先ほどの魔力が児戯であるように見えるほど膨大な魔力が溢れ出す。
「ジェット・ザンバー!!」
 重力を味方につけたランサーは、渾身の力を持って地に倒れているセイバーへと振り下ろす。
「あああぁぁぁっ!」
 上げた声はどちらの物であったか。大地に打ち付けられた雷刃は、轟音と砂煙を周囲に撒き散らす。
 そして風が土煙を撒き散らした時、剣を振るったままの体勢のランサーに、背中合わせの状態で背後から首筋に剣を当てるセイバーの姿が現れた。先ほどの攻撃を受けて、さすがに無傷とはいかなかったのか、セイバーの破れた服の合間から、時折赤い物が見え隠れしている。
「…まさか今の攻撃を受けきるとは思いませんでした。」
 首筋に剣が当てられているという危機的状況なのにも関わらずランサーは薄く笑みを浮かべている。
「貴様の剣がデカすぎたんだ。そんなものを地面に向けて振るえば、必然、死角は大きくなる。」
「なるほど。」
「じゃあな、久方ぶりに胸躍る戦いであった。」
 セイバーはそういうと剣を持つ手に力を籠める。
「…ええ。私もです。」
 そうしてランサーは、安堵のため息を漏らす。まるで消えることが本懐であるかのように。セイバーはそのことに疑問を抱きつつも、剣を引こうとする。その瞬間。
「やめろー!」
 セイバーのマスターである衛宮士郎の声が、響き渡った。
 その声は奇妙な魔力の流れとなってセイバーを絡め取り、その動きを封じる。その時を逃さずランサーはセイバーの剣から逃れる。
「…どういうつもりだ、マスター。」
 ランサーが離れることで奇妙な力から解放されたセイバーは、不機嫌そうに顔をしかめて士郎をにらみつける。
「どうもこうもない!女の子を殺そうとするなんて、何を考えてるんだ!」
 士郎は、ようやく電撃の影響から逃れた足を引きずってセイバーのもとに向かう。
「貴様こそどういうつもりだ!あいつはお前を殺そうとしたんだぞ!?」
 セイバーは、ランサーへの警戒を消さぬまま、近寄ってくる士郎へと声だけで怒鳴り返す。
「それでもだめだ!まだあんな小さな子どもなんだぞ!それに敵だったとしてもなんで殺さなくちゃいけないんだ。」
「はんっ…。」
 士郎のあまりに場にそぐわない言い草に、セイバーは思わず失笑してしまう。
「だそうだ、ランサー。俺のマスターがこの調子では、尋常の勝負は叶わんだろう。屈辱かもしれんがここは俺に免じて退いてはくれんか。」
 しかしランサーはセイバーの言葉に反応しない。かといって戦闘を続ける様でもない。
「どうした、ランサー。」
 ランサーの視線は、話しかけてくるセイバーではなく、おぼつかない足取りでセイバーの元へとたどり着いた士郎へと向けられている。
「…貴方はどうして…。」
 ランサーは悲壮に満ちた顔で呟く。その言葉は、風にまぎれてセイバーの元に届く前に消えてしまう。しかしセイバーはランサーの表情から見て取ったのであろう、聞き返すような愚を犯しはしなかった。
「…わかりました、ここは退きます。それに…。」
 ランサーはそういうと、明後日の方向に視線を向ける。セイバーはその意味を理解したのか、同じ方向に視線を向けると剣を鞘に収める。
「…の、様だな。ランサー、今度は邪魔の入らんところでやりたいものだ。本気のお前とな。」
 ランサーはセイバーの言葉に淡い微笑みで返すと、霊体となっていずこへと消え去る。
「なんなんだよ、お前らいったい何者だ?」
 士郎は、唐突に消え去ったランサーの姿を見咎めて、その同類と思しきセイバーへと詰め寄る。
「サーヴァントだ。この聖杯戦争を戦うために召喚された…しかし、分かっていて召喚したんじゃないのか?」
「召喚?何のことだよ。そんなこと、やった覚えなんて無いぞ。」
 セイバーの言葉に、士郎は何がなんだか分からない、といった態で答える。
「…そうか、お前は何も知らんのだな…。だから令呪を…。」
 セイバーは得心した様子でうなずくと、不満げな様子の士郎へと説明を始める。
「聖杯戦争とは、文字通り、聖杯を賭けて争う儀式のことだ。」
「聖杯なんてそんなもの、欲しくは…。」
「それがいかなる願いをかなえる願望器であってもか。」
 士郎の言葉を遮って放たれたセイバーの一言は、士郎を黙らせるのに十分な威力を持っていた。
「聖杯は勝者の願いを二つ、叶える。マスターと、サーヴァントのをだ。」
「……。」
 セイバーは、無言のままの士郎に背を向けると、剣をしまいながら先ほどランサーが眼を向けた方向へと歩き出す。
「さて、次の客が来たぞ。でてこい、ネズミども。」
 前半の言葉は士郎に向けて、後半は壁の向こう側にいる何者かに向けて放たれる。
「あら、ネズミとは心外ね。」
 意外にも、若い女の声が返ってくる。そして言葉の後、壁を跳び越して現れたのは…。
「遠坂!?」
 あまりに意外な人物が現れたことに、士郎は驚きを隠せない。
「こんばんは、衛宮くん。まさかあなたもマスターだったなんてね。」



「遠坂はコーヒーでいいか?」
「ええ。ありがとう。」
 唐突に聖杯戦争に巻き込まれた士郎に、凛はおおまかな説明を申し出てくれたのだった。そのため、一時休戦して全員が居間に集まっている。
「その…アーチャー…さんは?」
 士郎は凛の隣に肩膝を立てて座っている、アーチャーのサーヴァントを名乗る、目つきの悪い、黒ずくめの男へと話しかける。
「ああ、俺は紅茶を水割りで。」
「は?」
 士郎は、あまり聞きなれない飲み物を要求された気がして思わず聞き返してしまう。凛のほうは思い当たる節があるのだろう、オーフェンの台詞に諦めたような情けないような、そんな微妙な表情でオーフェンを見る。
「…あー、アーチャー…。」
 凛自身、情けなくてなんと言っていいのか分からないのだろう。オーフェンを呼んだところから後が続かない。
「…ハッ!い、いや、なんでもない。俺も凛と同じ物で。」
 オーフェンは自分の失態に気付き、慌ててごまかそうとする。当然、誰もごまかされるはずもなく、セイバーはオーフェンに問う。ちなみに士郎は、凛のあまりに悲壮な表情を見て、聞くことをやめている。
「なんともまあ、貧相なサーヴァントも居たものだな。貴様、本当に英霊か?」
「ああん?」
 セイバーの言葉が癇に障ったのか、オーフェンは机をはさんで目の前に座るセイバーをねめつける。
「そういう貴様こそ、ご大層な英霊さまには到底見えねえがなあ。」
「ふん、俺は大魔王様だぞ。魔王ごときが、図が高い。」
 絡んでくるオーフェンに対し、セイバーは見下すかのような態度であしらう。
「あんだと、てめえ。」
 その態度に我慢の限界が来たのか、オーフェンは立ち上がり、セイバーへと掴みかかろうとする。
「やめなさい、アーチャー。今は争うべき時じゃない。セイバー、あなたもよ。」
 凛は、オーフェンが立ち上がるのにあわせて腰を上げかけていたセイバーに向かって言う。
「言いたい気持ちは凄くわかるわ。でもこんなのでも私のサーヴァントよ、侮辱はしないで。」
「オイ…。」
 凛の庇っているのか馬鹿にしているのか分からない言葉に、オーフェンは思わず顔を引きつらせて抗議する。凛の言葉に対して思うところがあったのか、セイバーは黙して座りなおす。
「衛宮くん、あなたもよ。今ここで私と争うのは、得策ではないと分かるわよね。」
「…あ、あぁ。」
「それじゃあ、本題に入らせてもらうわ。ああ、ついでにアーチャーも。」
 凛は本題に入った途端、思い出したかのようにオーフェンを制止する。オーフェンはそんな凛に対し、明らかな不満を見せつつも、しぶしぶといった様子で引き下がる。
「聖杯戦争は聖杯の所有権を巡っての魔術師同士の戦い。マスターに選ばれた者にはサーヴァントと令呪が与えられる。」
 凛は、ここまではいい?と士郎に確認する。
「ちょっと待ってくれ。サーヴァントは…こいつらのことでいいんだろうが…。令呪ってのはなんだ?」
「令呪って言うのはね…。あ、ありがと。」
 凛は言葉半ばで切るとコーヒーを持ってきた士郎に対しての礼を言う。
「これよ。」
 そうして凛は、近くに来た士郎の左手を掴むと、その甲に宿る二画の奇妙な文様指す。
「令呪っていうのはね、サーヴァントに対して三度だけ行える絶対命令権よ。例えサーヴァントにとって不本意な命令であろうと従わせられるわ。…それにしても衛宮くん。」
「は、はい?」
 唐突に凛に腕を掴まれ内心どぎまぎしていた士郎は、少し上ずった調子で返す。それを知ってか知らずか、凛は士郎の腕を引っ張って隣に座らせるとそのまま袖をまくって士郎の腕を確認する。
「あなた…もう一回使っちゃったの?」
「その馬鹿、なんに使ったと思う?」
 目の前に出されたコーヒーの匂いを、注意深く嗅いでいたセイバーは視線だけで士郎を見ると、思い切ってコーヒーを口にする。
「あれは…。」
 その視線を受けた士郎は、慌てて弁解しようとする。
「俺がランサーに止めを刺そうとしたのを、止めやがったんだ。」
 セイバーはコーヒーが意外と好みに合ったのか、口調に反して表情はほころんでいる。
「…え?」
 その言葉に、凛は思わず声に出して驚く。いくら自らの得意のレンジで戦えなかったとはいえ、アーチャーはランサーに対して苦戦していた。それほどまでにランサーは強力だった。しかしセイバーは、そのランサーを撃ち破ったというのだ。それもかなりの短時間で。
 オーフェンも表情こそ変えていないものの、内心ではセイバーの台詞に驚いている。
「あの時は何も知らなかったんだ、仕方がないだろう。それに俺は今でもあれは正しかったと思ってる。」
「…ふん。」
 セイバーは士郎の言葉を鼻で笑うと、表情を隠すようにコーヒーをあおる。
「…まあ、いいわ。」
 凛は小さく呟くと、ようやく士郎の手を解放する。
「令呪のその力は、聖杯に起因するものなの。だから奇跡に近い命令ですら可能になるわ。例えばサーヴァントを瞬時に空間転移させて呼び出したり、ね。」
「なるほど…つまり使い方次第でとんでもない武器にもなるってことか。」
 士郎は、解放された自らの左手の甲を眺めながら凛の対面に、セイバーの隣に腰を下ろす。
「付け加えていえば、そもそも令呪無しでサーヴァントを従えることなんかできないわ。なぜなら彼らはものすごく強大で人の手に余る存在だから。」
 凛はそこで一息つくと、自らの従えるサーヴァントを見やり、続ける。
「サーヴァントっていうのはね、実在した英霊たちの魂なのよ。」
「え…?」
 士郎は思わず隣に座るセイバーへと目を向ける。
「英雄…。」
 士郎の目には、驚嘆と同時に尊敬の色が宿る。
「神話や伝説…数え上げればきりがないわね。そんな世界に英雄として認められた人物は、死後『英霊の座』へと迎えられる。」
「まさか…あんな子どもも過去の英雄だって言うのか?」
 既に死んだ死後の英雄たち。士郎は、そんな彼らの姿に思うところがあったのか、自然と語気は強まる。
「いえ、過去だけじゃない。もしかしたら未来かもしれないし、さらに言うなら隣り合う違う世界かもしれないわ。」
「ち…違う世界?」
 士郎は、魔術師である凛の口からSFめいた突拍子もないことが飛び出してきたことに戸惑ってしまう。
「…その顔じゃ、信用できないって感じね。でも事実よ。だって、行った事がある人が居るのよ。」
「…。」
 士郎は、あまりのことに頭がついていかないのか、先ほどの憤りすら忘れてしまっている。
「…話を戻すわね。聖杯はそんな彼ら英霊を、7つのクラスに当てはめることでこの世に召喚することを可能としたの。」
 そうして凛は自らの言葉に合わせて視線を巡らせる。
「剣使い<セイバー>、弓使い<アーチャー>、槍使い<ランサー>、魔法使い<キャスター>、騎乗兵<ライダー>、暗殺者<アサシン>、狂戦士<バーサーカー>の7つよ。」
 そして凛は、最後に士郎で視線を固定する。
「聖杯は召喚された英霊たちにそれぞれ適したクラスを当ててマスターに与えるわ。そしてマスター同士を争わせて、最後に生き残った者を自らの主と認めるの。」
 凛の言葉が終わるか終わらないかのところで、士郎は耐えられなくなったのだろう。立ち上がり、凛に向かって思いの丈をぶつける。
「そんな人の命をゲームみたいに扱うなんておかしいだろ!」
「そうね…。」
 普通の人間だったらね…。凛は、言葉に出さずにそう付け加える。
「だけどあなたはそのゲームに巻き込まれたのよ。覚悟はしておいたほうがいいわよ。」
 凛の言葉に士郎は押し黙ってしまう。命のやり取りをする、そんな現実が士郎を黙らせたのだろう。
「それじゃあ、これから行くところがあるからあなたもついて来て。」
「…ど、どこに行くんだ?」
「この戦い(ゲーム)の監督役のところよ。」



「着いたわ。」
 凛のその言葉に士郎は頭を上げる。目の前には古びてはいるものの、しっかりと管理されているのがうかがい知れる。
「この教会が…。」
「そう、この言峰教会の神父、言峰綺礼がそうよ。」
 教会を厳しい目つきで見上げる士郎に、凛が教会に入るよう促がす。その言葉に従って、士郎が教会の入り口に手を掛ける。
「俺はここで待っていよう。敵が来んとも限らんからな。」
士郎の背後に立っていたセイバーが唐突にそんなことを言う。
「…そうね、アーチャー。」
 その言葉に納得したのか、それともセイバーの様子から何か感じ取ったのか、凛は霊体化していたオーフェンを呼ぶ。
「なんだ。」
オーフェンは、凛の呼びかけにこたえて霊体化を解く。
「あなたもここで待っていて。」
「…リョウカイ。」
 オーフェンは凛の指示に顔を歪めたものの、承諾する。
「さっきの続きはしないでね。」
「はいはい。」
 おざなりに返事を返すオーフェンに一抹の不安を覚えながらも、凛は士郎の背中を押して、入るよう促がす。
「…なあ、遠坂。」
「なあに?今更行かないとでも言うの?」
 士郎が留まっているのに不信感を覚えた凛は、表情を険しくする。
「いや、そうじゃないんだ。その、アーチャーが消えたり出たりしてるのが不思議に思って…。」
 士郎の立ち止まった理由に得心が行ったのか、凛は表情を晴らすと答える。
「今のは霊体化って言うの。彼らサーヴァントは元々幽霊のような物なのよ。だからそれらに近い状態になれるの。あなたのセイバーも同じことができるはずよ。」
「そうなのか…。」
 凛の言葉で納得した士郎は、凛と共に教会の中へと入っていく。そしてその場にはオーフェンとセイバーの二人が残された。しばし、沈黙が流れる。やがて、仕方なさそうにオーフェンが口を開く。
「なあ…あんたはあのマスターのこと、どう思ってんだ?」
 その問いかけに、セイバーはしばらく考えた後、アーチャーの方を向いて答える。
「…まだまだだな…。少し足りんが、それも仕方あるまい。」
「何がだ?」
 怪訝な顔をして聞くオーフェンに、セイバーは笑って答える。
「なんだ、胸の話をしていたんじゃないのか?」
 始めはその言葉の意味を理解できていなかったオーフェンだが、やがて理解したのだろう、うめき声と共に急にあたふたと慌てながらセイバーの言葉を否定する。周囲が闇に包まれていなければ、オーフェンの真っ赤に染まった顔を堪能できたことだろう。
「んなわけあるかっ!俺はお前のマスターの話を…。」
「…アーチャー、気付いているか?」
 セイバーは、怒鳴りつけてくるオーフェンを制して言う。
「俺たちを監視してやがるやつらが居る。」
 セイバーの言葉に反論する気を奪われたオーフェンは、ひとつ深呼吸をして答える。
「ああ…デカイ魔力の気配がする。恐らくサーヴァントだろうな。それから他にもいくつかあるが…とりあえずは無視しても問題は無いはずだ。」
「アーチャーは鷹の目と言うが…さすがだな。」
 セイバーは、オーフェンの抜け目の無さに思わず賞賛を送る。
「仕掛けてくると思うか?」
「…分からん。この状況を見れば、普通は同盟でも結んだのかと思って攻めては込んだろう。しかし…。」
セイバーの言わんとしたことを、アーチャーが継ぐ。
「この魔力だ、用心するに越したこたぁねえか…。」
そう結論付けた二人のサーヴァントは、お互いのマスターが居る教会を見やった。



 しばらくの間、セイバーとオーフェンは益体も無い話をしていたが、やがて凛が教会から出てくる。
「おい、小僧はどうした?」
 セイバーの言葉に凛はため息を一つつくと、めんどくさそうに手を振りながら答える。
「…また綺礼の悪い癖が出たのよ。あいつ、人の傷口を弄って喜ぶようなところがあるから。」
「…あー、いや…うん。神父ってそんなものだよな…。」
 オーフェンは、思わず突っ込もうとしたがのだが、自分の知っている神父たちの顔が脳裏に浮かんできた時点で妙に納得してしまう。
「んなわけがあるか。」
 セイバーは呆れたようにぼやく。
「神父とはだな…。」
 そこまで言ったところで、セイバーの脳裏にも数々の宗教家たちの醜態が浮かぶ。
「…まあ、そんなものかもしれんな…。」
「…あんたら一体、何があったのよ…。」
 セイバーとオーフェンが二人で納得し合う中、凛だけは冷や汗を流しながらうめく。そこに、ようやく士郎が教会から出てくる。その顔は蒼白で、教会でなにかショックを受けたことに間違いはない。そのままふらつくような足取りでセイバーの近くまでやってくる。
「…セイバー…だっけ。あんた、過去の英霊なんだってな?」
「そうだが、どうした?」
 セイバーは士郎の質問に軽く答える。
「なあ…あんたは生前何をしたんだ?その時何を思った?」
「クッ…ハッ。」
 士郎のあまりにも場をわきまえない質問に、セイバーは思わず苦笑で返答する。その様子を見ていたオーフェンや凛は、呆れて物も言えない、といった様だ。
「何がおかしい?」
 憤る士郎に、セイバーは笑いを堪えながら答える。
「ここで、敵の目の前でそれを聞くのか?」
「敵?」
 セイバーの言葉に、周囲に敵が居るのかと勘違いした士郎は、急いで辺りを見回す。
「そんなのどこにも…。」
「目の前に二人、居るだろう。」
 士郎はその言葉でようやく思い至ったのか、ゆっくりと凛たちの方を向く。
「そんな…遠坂は…。」
「敵よ。」
 士郎の淡い望みを撥ね除けるかのように、凛は士郎の言葉を遮って告げる。
「勘違いしないでよね、衛宮くん。私は何も知らないあなたに、この聖杯戦争のルールを教えただけよ。サッカーのルールを知らない人とサッカーはできない。つまりはそういうことよ。」
 凛の言葉に黙り込む士郎。しかし、それでもめげずに顔を上げると凛の眼を正面から見つめる。
「…遠坂って、いいやつだな。」
 そして唐突に、そんなことをのたまった。
「はぁ?」
 凛は驚き、思わず大げさに反応する。
「だってそうだろ?ルールが分からないやつが居たら、問答無用で叩き出せばいい話だ。それをこうして説明してくれて、敵だと忠告してくれてる。」
「……。まだ暗いうちに帰りましょう…。」
 照れ隠しか、それとも付き合いきれないとでも思ったのか、凛はそう言うと歩き出す。置いていかれた士郎の頭に、すっと手が伸ばされる。
「行くぞ、マスター。」
 その手の持ち主はセイバーで、そしてそのセイバーは、自らの意思で士郎のことをマスターと呼んだ。
「…あ、あぁ。」
 そのことに気付いていない士郎は、凛の突然の変化についていけなかったのか、きょとんとした表情で凛の背中を見ながらセイバーに生返事を返す。
「おい、アーチャー。」
 凛の後について歩き始めたオーフェンに向かって、セイバーは声をかける。
「先ほどの話に答えよう。」
 何時の話か区別がつかず、怪訝な顔をしているオーフェンに向かって、セイバーは続けて言葉を放つ。
「レジアス、だ。…では帰るぞ、マスター。」
 オーフェンの反応を待たず、セイバーは士郎を促がして凛の後を追う。
「…レジアス…王権…か?」
 寂れた教会の前、オーフェンの言葉だけが響いた。



「それじゃあ、衛宮くん。ここで分かれましょう。」
 左に行けば凛の家の、右に行けば士郎の家という曲がり角で凛が別れの言葉を口にする。
「ああ…。遠坂、お前のおかげで助かったよ。ありがとう。俺、お前みたいなヤツは好きだ。…一成は毛嫌いしてるみたいだけどな。」
「なっ…!?」
 士郎のあまりに素直な好意に、凛は戸惑い、言葉を失う。
「ちょっと、分かってるの?私は敵で…。」
 士郎に向けてさらに言葉をぶつけようとしていた凛を、オーフェンが腕を掴んで引き止める。
「な、何…?」
 唐突に割り込んできたオーフェンに、凛は赤くなった顔を困惑で濁らせる。
 そこに、幼い少女の声が響く。こんな夜だというのに。
「こんばんは。始めまして、よね?」
 いつの間にそこに居たのか。白い長い髪に濃紺のコートを纏った見た目10歳程にしか見えない少女が、坂の上から凛たちに向かって優雅に一礼する。
「私はイリヤ。イリヤスフィール=フォン=アインツベルンと言えば分かるかしら?」
 そう少女は告げると凛に冷たい視線を向ける。
「なんですって?」
 その家名を良く知る凛は、危機の到来に驚く。
「知ってるのか?遠坂。」
「ええ…。アインツベルン、聖杯の入手を宿願とする始まりの御三家の一つ。つまりこの聖杯戦争を始めた魔術師の家系の一つ。毎回この戦いにマスターを投じてきてるわ。」
「じゃあ…?」
士郎は凛の言葉から一つのことに思い至り、驚愕を顕わにしながら自らをイリヤと名乗った少女を見つめる。
「そう、彼女が今回のマスターみたいね。」
「あんな…あんな小さな子どもなのにか?」
「そうだよ、お兄ちゃん。」
 凛が肯定するより早く、イリヤが士郎の言葉を肯定する。
「だけど私、聖杯戦争よりも楽しみにしていたことがあるの。」
 イリヤは今までの無邪気な様子を崩すことなく、驚くほど自然に、士郎に告げる。
「それはね、お兄ちゃんを殺すこと。」
 その言葉を聞きとがめたセイバーは、士郎の肩を掴んで無理矢理自分の背後に隠す。その殺意を向けられる理由に覚えのない士郎は困惑するしかない。
「だからね…。」
 本当に楽しそうに、嬉しそうに、イリヤは宣言する。
「お兄ちゃんは念入りに殺してあげる…おいで、バーサーカー。」
 その言葉と同時に場を殺意が支配する。それはイリヤの無邪気な殺意とは比べ物にならないほどの、ただ相手を殺すという思いそのもの。その呪いとも言うべき殺意の塊が、イリヤの言葉と共に現れる。
「…!」
「ぬぅっ…。」
 オーフェンとセイバーの二人が思わず圧力に押され後退してしまう。バーサーカーと呼ばれ、出てきた存在は見かけはただの男子高校生にしか見えないのに、狂戦士と呼ばれるに足る圧倒的な圧力を放っていた。
「なに…?なの?」
 凛は、あまりにサーヴァントのイメージからかけ離れた姿をしているバーサーカーに戸惑いを隠せない。その戸惑いをかき消すようにオーフェンは凛を怒鳴りつける。
「下がっていろ、凛。あいつは…ヤバイ!」
「おい、アーチャー。ヤツがあんなにヤバイとは、気付かなかったのか?」
 セイバーは、オーフェンの横に並ぶと横目に見ながら非難する。
「霊体になってたんだろうよ、無理を言うな。文句言うならテメエでやりやがれ。」
 悪態をつきながらも二人のサーヴァントは戦闘体勢を取る。その様子を見ながら、イリヤは自らのサーヴァントに命ずる。
「やっちゃえ、バーサーカー!そいつらみんな、殺しちゃえ!!」
「■■■■■■!」
 イリヤの命令を受けたバーサーカーは、その力を解放する。バーサーカーの全身に施された刺青が実体を持ち、呪いの帯となって全身から立ち上る。
その呪いは、触れた物全てを侵食し、犯す。
「…おいおい、冗談じゃねぇぞ…。」
 オーフェンのその呟きが終わるか終わらないか、その瞬間にバーサーカーは大きく踏み込んでくる。
「チッ。」
バーサーカーは、獣のように単調でありながらも鋭い動きで拳を繰り出してくる。その拳をオーフェンはギリギリでかわしながら、鋭くしたうちをすると構成を編み上げる。
 それを守るかのようにセイバーが剣を振るってバーサーカーを牽制する。そうして稼いだ数瞬で、オーフェンの魔術は完成する。
「我は見る混沌の姫。」
 黒い重力の塊が、バーサーカーに圧し掛かる。しかし、その塊をバーサーカーは平然と片手で受け止めると、いかなる手段によってか打ち消してしまう。
「…反則だろ…オイ。」
 オーフェンは顔を引きつらせながら呻くと、拳を固める。
「まったく、同感だ。あれで無傷とはな。」
 同じく顔を皮肉げに歪めたセイバーは、オーフェンの魔術を打ち消したまま立ち尽くしているバーサーカーへと斬りかかる。
「ハッ!」
 振るわれた紅い剣を、バーサーカーは呪いを纏った腕で受け止める。すると呪いが剣に纏わりつき、侵食を始める。慌てて剣をバーサーカーから離そうとするも、呪いでしっかりと固定されており、微動だにしない。そのままバーサーカーは、ゆるゆるともう片方の手を上げていく。
「どけっ、セイバー!」
オーフェンの声に、セイバーは剣から手を放して飛び退る。
「我は呼ぶ破裂の姉妹。」
セイバーと入れ替わりに、オーフェンから放たれた衝撃波がバーサーカーを打ち据える。しかし増大した呪いの帯がバーサーカーを覆い、衝撃波の直撃を防ぐ。そしてバーサーカーは、何事もなかったかのように平然と立ち尽くしている。
「チッ、どうする?」
 オーフェンは焦りの見える様子でセイバーに問いかける。
「貴様の魔術は効かず俺の剣はヤツの足元、さらに背後にはマスターたち。なかなかに愉快な状況じゃないか。」
 セイバーは不適に嗤うも、その顔はどこか精彩を欠いている。
「アハハハハッ。どう?私のバーサーカーは。」
 イリヤの哄笑が大気をかき混ぜる。
「あなたたちがどんな英霊なのかは知らないけど、バーサーカーに敵うはずないわ。だってあいつは、竜種を上回る神種ですら息をするように殺して回った、最凶の犠者、黒ウサギなんだから。」
 本来、その英霊の真名を明かしてしまうことは、弱点を曝すことに等しい。しかし、イリヤは自らのサーヴァントの真名を明かしてしまう。それは、自らのサーヴァントの能力への自身の表れでもあった。
 一方、戦いに巻き込まれないように離れていた凛たちだが、逃げることも叶わず、結局自らのサーヴァントの背に隠れる。余裕の表れか、その場を動こうとしないバーサーカーを尻目に、これ幸いとそのままサーヴァントたちも交えて小声で作戦会議を始める。
「バーサーカーはその理性と引き換えに、強大な力を与えられたサーヴァント。それゆえに、本来は能力的に劣る英霊がなるモノだけど…。」
凛の言いたいことを感じ取った士郎が、言葉を繋ぐ。
「能力的に優れた英霊がなると、手がつけられないってことか…。」
 先ほど数合打ち合っただけで、絶望的な力の差を感じ取ってしまったのだろう、士郎の言葉を否定する者は居ない。
「…一旦退いて何か対策を考えるべきだわ。」
「それを許してくれる相手じゃなさそうだがな。」
 凛の言葉をオーフェンは即座に否定する。
「…アーチャー、時間を稼げ。」
 何かを決意したかのような表情で、セイバーはオーフェンに命じる。
「何か策があるっていうの?」
 問いただす凛に向け、振り向いたセイバーは唇の片端を持ち上げて皮肉げに、しかしどこか優しそうな雰囲気をたたえて微笑む。
「今からこの大魔王さまが、一世一代の大魔法をかけて、貴様らを助けてやる。」
「…分かった。」
「ちょっと、正気なの!?」
 その理由も聞かず、オーフェンはセイバーの提案を受け入れる。それに対し、凛は驚きの声をあげる。
「心配するな、俺様を信じろ。」
「……。」
 セイバーは、有無を言わせぬ笑顔で凛を黙らせる。それは同時に、凛がセイバーの意見を受け入れたということであった。
「さあ、作戦は決まったかしら?」
 絶対的な力の差を確信するイリヤは、その余裕からか、わざわざ相談が終わるのを待っていたようだ。
「でもどんな小細工も無意味よ。さあ、叩き潰しなさい、バーサーカー!」
 イリヤの命を受けて、再びバーサーカーが吼える。オーフェンは、その咆哮に正面から対峙する。
「へっ…来いよ、クソガキ。黒ウサギだかなんだか知らねえが、ウサギはウサギらしく、ぴょんぴょん跳ねながら餅でもついてろってんだ。」
 来いよ、などと言いつつ、オーフェンは自らバーサーカーへと踏み込むと、自らの手が呪いに塗れることも厭わずに思い切り殴り飛ばす。
戦い始めたオーフェンを尻目に、セイバーは眼を閉じて集中し、呪文を唱え始める。
―絶対なる白を我に―
「我抱きとめるじゃじゃ馬の舞。」
 オーフェンは、自らの腕に巻きついたバーサーカーの呪いを魔術で中和しつつ、なお攻め立てる。
― 一点の曇りなき白を我に―
 セイバーの足元に、巨大な白の魔法陣が現れる。
―完全なる白を 完全なる世界を我に―
 絡み付くような接近戦で、オーフェンはバーサーカーを押し留めていたものの、バーサーカーの異常な膂力に押し負け、撥ね飛ばされてしまう。
―遍く不浄を消し去る力―
 セイバーの足元にある巨大な魔方陣から、分かたれた円陣が、セイバーをその円の中心に置いて立ち上る。
―清浄なる世界を創生する力―
 オーフェンが吹き飛ばされ、がら空きになってしまったセイバーの前に、凛が立ちふさがり、イリヤへと構える。
「---Vier Still Erschiesung……!」
 呪文を唱え、指先から魔術を連射する。しかし、間に居るバーサーカーが腕を振り上げると、呪いの帯が伸び、その魔術全てを防ぐ。
―祖は真理の力―
 何も出来ない士郎は、自分の無力を感じ、歯噛みするしかない。
―祖は天上の力―
 完全に防がれると分かっていながらなお、凛は自らの体に叱咤し、魔術を行使し続ける。それを煩わしく思ったのか、バーサーカーは凛に向かって突進する。
「あぶねぇ!」
 オーフェンは自らの主を身を挺して庇い、またもバーサーカーに吹き飛ばされる。阻む者が誰も居なくなってしまった丸裸のセイバーに、バーサーカーは視線を向けると勝利の雄叫びをあげる。
―祖は神罰の光―
 バーサーカーは、セイバーに向けてその呪いの手を突き立てんと、走る。その疾走を阻む者は何もない…筈だった。
―降臨せよ 『カンディド!!』―
 呪文は完成し、セイバーの元に天上からの光が差し込む。
 その光は、全てを浄化する聖浄なる光。呪いの塊であるバーサーカーに対しては、まさに必滅とも言える光であろう。その光はセイバーに触れると、爆発的に周囲に広がり、近くまで迫っていたバーサーカーを飲み込む。
セイバーを庇い、バーサーカーに腹を貫かれて力を失った士郎の身体ごと。



[21443] 【ネタ注意!】Fate~crossnight~ 2 偽 感想回答変
Name: 団員そのいち◆3cafedec ID:8fb021b9
Date: 2010/10/09 18:00
カチッ…。
(なんだ、これは…。)
…カチカチッ…。
(そうか…これは…。)
 無意識なのだろう、自然と手は動いてしまい、その後を視線が追う。
(こんなに在っては…もう…。)
 目の前が赤く染まる。
 これは…この赤は一体何なのか…。
(そうか…俺の…か…。)
 士郎の意思に反して手は更に進む。そしてその後を追う視線を、止める事はできない。
 なぜなら…。

「なんて…なんて数の感想なんだ…。」




オーフェン「だぁーっハッハッハッ!またやってやがる!!」
アロウン 「…くっ…素直に嗤えん…。」
士郎   「………。」
フェイト 「シ、士郎。無言で首を括らないで下さい!人生はきっと良いことがありますから。」
イリヤ  「あ~、ダメなんだからね、シロウ。勝手に死んだら。シロウは私が殺すんだからぁ。」
大兎   「あ~なんというか…俺も巻き込まれ体質だからさ…気持ちは分かるよ。」
オーフェン「…クックックッ…まあ、野良犬に噛まれたとでもだな…。」
フェイト 「オーフェンさんも笑いすぎです!」
大兎   「…それに次は誰がやらされるかわからんし…。」
アロウン 「不吉なことを言うな…。」
イリヤ  「だって、これ、次の章の最初のほうのぱろでぃ~なんでしょ?」
アロウン 「…今回の聖杯戦争はなんと強大な敵が居るんだ…。仕方ない、諦めるぞ、士郎。」
オーフェン「それは困る!きちんと戦って決着をつけなければ…えっと…英霊としての誇りがだな…。」
アロウン 「この中で一番遠いヤツがなにを抜かす!」
イリヤ  「なになに?始めるの?やっちゃえ、バーサーカー!」
大兎   「いやいや、士郎の家でやっちゃったらいろいろとご近所に迷惑がかかるだろ。」
イリヤ  「ええぇ~!」
士郎   「…なんか、えらく庶民的な英霊だな…。」
大兎   「とにかく、やらないものはやりません。平和なのが一番なの。」
イリヤ  「…ぐすっ…バーサーカーだけは私の味方だって思ってたのに…。」
大兎   「ああ…泣くなよ。」
イリヤ  「…じゃあ、言うこと聞いてくれる?」
大兎   「…いや…でも…ううっ。」
フェイト 「あの~あの二人、行っちゃいましたよ?」
イリヤ  「………。」
大兎   「……。」
イリヤ  「…チッ…。」
士郎&大兎『えっ?今なんて?』
イリヤ  「なんでもないよ?(ニコッ)。」
士郎&大兎「…(ゾクッ)。」
士郎   「女は女優とは…。」
大兎   「…こういうことか…。」
士郎&大兎『ハァ…。』
フェイト 「あの…あのっ、私はそんな…。」
士郎   「…フェイト…フェイトはなんて良い子なんだ…。」
大兎   「そうだ、君はそのままの君で居てくれ…。」
イリヤ  「もぅ~、フェイトばっかり~!」
フェイト 「そのっ、それよりお仕事をしないと…。」
大兎   「む、その通りだ。ここで点数を稼いでおけば犠牲にならなくてすむかも。」
士郎   「…よ、よし、いくぞ。お便りを持ってきてくれ、イリヤ。」
イリヤ  「うん、分かった。これだね、シロウ。えっと…なになに?」
     ≪こんな感想回答変なんて書いてる暇があったら本編を進めやがれ!≫
大兎   「…なんともその通りだな…。」
士郎   「そうだ!そしたら俺だって…くっ…。」
そのいち 「やりたかったんだぁ~!!それにキャラ特性をつか…。」
オーフェン「我は放つ光の白刃!」
大兎   「…へんじがない、ただのしかばねのようだ…。」
士郎   「何を言ってるんだ?」
大兎   「…っはっ!なぜか口が勝手に…それになにか変なのが居たような…?」
フェイト 「なにも居ませんでしたよ?」
イリヤ  「私もなにも見てないよ?」
大兎   「おっかしいなぁ…。」
士郎   「それにしても…また後片付けが大変な目に…。」
イリヤ  「それならいっそ建て直しちゃえばいいじゃない。ほら、エミヤ城とかってさぁ。」
大兎   「ま、マリーさま…。」
フェイト 「あ、お便りが…。」
士郎   「うわー、だいぶ燃えちまったな。」
イリヤ  「残ってるのはなに?」
大兎   「いや…さっきの質問に答え…いいのか?」
士郎   「他にはだな…。」
     ≪適当に好きなキャラを混ぜたようにしか見えないんですが、どうするつもりなんですか?≫
大兎   「うおっ、だいぶストレートな質問が…。」
士郎   「これはなにかきちんとした考えがあるらしいぞ。」
フェイト 「というと?」
士郎   「偽物、出来損ないの主人公というテーマに合わせてキャラを集められたらしい。」
イリヤ  「失礼しちゃうわ。私が偽物なんて。」
士郎   「いや、サーヴァントの話だよ。」
大兎   「…俺は?」
士郎   「…たぶん…バーサーカーっぽかったから?」
大兎   「ずいぶん安直だなぁ!テーマ関係ないし。」
士郎   「ほ…他はきちんとだなぁ…。例えばアレッサンドロ先生は偽物を造りの機工魔術士。オーフェンは出来損ないの暗殺者。アロウンは出来損ないの精霊を自称してるし…。」
フェイト 「………わたし…は…。」
大兎   「い、いやいやいやいや。あ~あれだ、士郎、次の便りは何?」
イリヤ  「フェイトは偽物じゃないよ?本物の英霊だよ?」
士郎   「そうだ、フェイト。お前は立派に生きたから英霊として世界に迎え入れられたんだろ?」
フェイト 「…はい。」
イリヤ  「あ~、赤くなったぁ!シロウは私のなんだからね。」
士郎   「っと、抱きつくなよ、イリヤ。」
大兎   「…あー…次、行くか。」
     ≪元ネタが分かんねぇ…。≫
士郎   「…ついに来たな…。」
大兎   「マイナーな作品の宿命か…。」
イリヤ  「同じようなのもあるわよ。この人はステータスを開示して欲しいって。」
フェイト 「ここに載せないんですか?」
士郎   「載せてもいいんだろうけど…できれば話に絡める形で出したいな。」
大兎   「なるほど、ステータスを見ることができるのは現時点で二人居るよな。」
イリヤ  「そっか、凛とシロウね。」
士郎   「まあ、今はまだ遠坂から教えてもらってないから使えないんだけどな。」
大兎   「でも使えるようになったら…。」
フェイト 「載せられるってことですね。」
士郎   「ああ、これでいいかな?」
フェイト 「ええっと…次は…えっ?」
     ≪フェイトは俺の嫁じゃー!≫
大兎   「…士郎、喉が渇いたから何か飲み物ないか?」
士郎   「ああ、そういえばそうだな。なにが良い?」
大兎   「そうだな…ファ○タとかあるか?」
士郎   「それは…買いに行かないと無いな。」
イリヤ  「なになに?私飲んでみたい、それ。」
士郎   「仕方ないなぁ。ならちょっと行ってくるよ。悪い、後任せた。」
大兎   「いやいや、わざわざ行かせて悪いのはこっちだよ。」
イリヤ  「……それで、シロウが居なくなったところで本題に入るけど…、フェイト。」
フェイト 「ひ、ひゃい!」
イリヤ  「フェイトの本心はどうなの?」
フェイト 「な、なにがかな…?」
イリヤ  「ほらぁ、正直に言いなさいよ。好きなんでしょ?」
フェイト 「べ、別に士郎のことは…。」
大兎   「…別に誰、とは言ってないんだがな…。」
フェイト 「あうあう…。」
イリヤ  「んふふふ。わたしのシロウを狙おうだなんて、どんなお仕置きしちゃおうかしら…えいっ!」
フェイト 「むにむにむにむに…。やめひぇ。」
イリヤ  「やだ~。えいっえいっ。」
大兎   「…士郎ぉ~はやく帰ってきてくれ~…。」
大兎   「………。」
大兎   「えっと…とりあえず、俺だけになっちまったみたいだけど…次は…っと。」
     ≪感想回答変にはサーヴァントしか出ないんじゃないんですか?≫
大兎   「ん?サーヴァントしか居ないが?次。」
     ≪なんか設定が微妙におかし…。≫
大兎   「そういうもんだと思ってください。次。」
     ≪この感想は偽物です。Byカリオストロ≫
大兎   「へー、そーなんだ。つ…ってええーー!!」
大兎   「ちょっと待てぇい!なんじゃこりゃあ!?」
イリヤ  「どうしたの、バーサーカー?」
大兎   「やられたぜ…今までの感想全て、ヤツの作った偽物だったんだ。…それにしてはファンシーな丸文字とかあったが…あの顔で書いたのか?」
イリヤ  「ふーん…やってくれるじゃない。」
大兎   「そういや、フェイトは?」
イリヤ  「ああ、顔を真っ赤にさせてどっかに走って行っちゃった。」
大兎   「…あんまりいじめるなよ?ああいう純情な娘は思い詰めやすいんだから。」
イリヤ  「はーいはい、説教なんて聞きたくないわ。…士郎を迎えに行ってあげようかしら。バーサーカー、連れてって。」
大兎   「はいはい、お姫様。…それじゃあおざなりだが…。」
大兎   「さんきゅーな。」
イリヤ  「ありがと~。さ、急ぎなさいバーサーカー。」
大兎   「…へいへい。しかし、まだやってんのか、あいつら…。」

オーフェン「我は放つ光の、白刃白刃白刃!」
アロウン 「ふん、ぬるいわ!神破斬!!」


フェイト 「シ、シシシ士郎!ごめ、ごめっ…。」
士郎   「大丈夫だから、ちょっとぶつかっただけだろ?…顔が赤いけど…熱かな?」
フェイト 「…ぷしゅう…。」
士郎   「うわっ!どうした、フェイト?体調が悪いなら悪いって言ってくれないと…。」


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