2010年8月17日 20時53分 更新:8月17日 22時49分
外国為替市場で急激な円高が進行し、輸出企業への影響が懸念されている一方で、消費者や内需産業への恩恵が期待されている。ドル建てやユーロ建ての輸入品は値下がりするため、小売業界では円高還元セールなどの動きも活発化している。海外旅行の費用も円換算で下落させ、リーマン・ショック後、下落していた旅行者数を押し上げている。また、輸入品を加工販売する内需関連産業でもプラスの効果が出ている。
セブン&アイ・ホールディングス(HD)傘下のイトーヨーカ堂は、22日まで全国161店舗で円高還元セールを開催。米ドル建てで輸入する南アフリカ産グレープフルーツなど約30品目を最大5割値下げした。大森店(東京都大田区)の奥田正巳副店長は「売り上げ増につながっている」と手応えを語る。足元は為替予約が入っているため、実際に輸入価格が下がるのはまだ先だが、消費者の期待が高まっており、先取りして実施した。イオンも22日まで、ジャスコ約300店舗の円高還元セールで、アメリカ産ブロッコリーなど食品を中心に、約50品目を1~3割値下げした。
こうした動きは、ネット上にも広がる。ネット市場を運営する楽天は、18日からサイト内に円高還元特設コーナーを設置。約5割引きのアクセサリーや高級ブランドバッグなど約50商品を展示する。また円はユーロに対しても、高くなっており、輸入家具大手の大塚家具は、29日まで「ユーロ家具フェア」を開く。
円高メリットが反映されるのは最終消費財に限らない。原油やLNG(液化天然ガス)など燃料の輸入価格も下がるため、今秋の電力、ガス料金の値下げも期待される。
原材料を海外から調達する内需型産業も同様だ。紙の原材料となる木材チップの7割を海外から輸入している王子製紙は、想定レートを1ドル=93円に設定。1円の円高で年間営業利益が5億円増えるといい「今後も円高が続けば恩恵は大きい」(広報)。
旅行会社にも円高は追い風だ。JTBがまとめた夏休み期間(7月15日~8月31日)の調査によると、海外旅行客は前年同期比8.4%増の244万人の見通し。ユーロ安で割安な買い物が見込める欧州の人気が高いという。
HISは6月から旅行のチラシに円高メリットを強調し集客を続けてきた。7月1日時点の夏休み期間中の海外旅行の予約状況は前年比約1割増えた。ただ、円高が15年ぶりの水準となっていることから、「過度な円高は景気の腰折れを招きかねず、旅行どころではなくなる」(経営企画室)との警戒感も。政府からも「外国人観光客の誘致は成長戦略の柱。過度の円高の影響を心配している」(観光庁)との声も漏れている。【井出晋平、三沢耕平】
◆主な円高の恩恵◆
イオン=アメリカ産ブロッコリー128円を88円に値下げ
セブン&アイ=ニュージーランド産キウイ100円を88円に値下げ
楽天=米国製ダイヤモンドネックレス5万9800円を2万9800円に値下げ
電力・ガス各社=秋以降の電気・ガス料金を値下げの可能性
王子製紙=1円の円高で年間の営業利益が5億円増加