2010年8月17日 12時27分 更新:8月17日 14時12分
中高年を中心に登山者の遭難事故が止まらない。上空や地上から大がかりな捜索・救助が行われると、経費も高額になる。費用はどれだけかかるのか、誰が負担するのか?【野島康祐、丹野恒一】
埼玉県秩父市で7月、同県防災ヘリが墜落し5人が死亡した惨事は、遭難した女性の救助に向かう途中の事故だった。中央アルプス最高峰の木曽駒ケ岳(2956メートル)では今月2日、年配の男性が持病で動けなくなり、民間ヘリで搬送された。八ケ岳連峰の赤岳(2899メートル)では先月、60歳前後の女性が足首をひねり、救助ヘリが出動する遭難事故が2件起きた。
警察庁によると、09年の全国の山岳遭難は1676件、遭難者は2085人(うち死者・行方不明者317人)。ともに統計を取り始めた1961年以降で最多で、40歳以上の遭難者が77%を占めた。
警察ヘリは警察法、防災ヘリは消防組織法に基づき、人命救助にあたる。ともに費用は遭難者に請求せず、運航経費や人件費などを税金でまかなう。公共ヘリが出払っている場合などは民間ヘリが活用されるが有料だ。
長野県では毎年、ヘリによる山岳遭難救助が公共、民間を合わせ100~200回に上る。長野県警によると、09年の出動回数は168回。そのうち公共ヘリが164回だった。04年に、当時の田中康夫知事が救助へリの有料化(本人負担)に向けて検討を指示したが、隣県との連携体制などの問題があり、立ち消えに。県危機管理防災課は現在「税金がかかるとはいえ人命を放っておけない」と語る。
日本山岳協会によると、民間ヘリの平均費用は「稼働1分あたり1万円」。遭難者本人や家族に請求される。離陸後2時間かかれば120万円になる。
山岳ガイドや山小屋経営者が加盟する各地の「山岳遭難防止対策協会(または協議会)」(遭対協)が動員されると、捜索費はさらに膨らむ。遭対協が遭難者らに請求する「日当」は夏山で捜索者1人あたり平均3万円、冬山で同10万円。警察は原則、家族らの了承を得てから遭対協に捜索を要請するが、緊急時は事後承諾となる。
登山歴25年の中村雅昭さん(57)=東京都多摩市=は20年前、群馬県側の尾瀬・至仏山(2228メートル)で道に迷った。遭難5日目に自力で下山したが、出動した遭対協に200万円を支払った。当時は救助費の保険が普及しておらず、中村さんは「体力を過信していた自分の責任だから、きちんと払った。今は山仲間に保険への加入を勧めている」と話す。
保険会社や登山業界は年々、山岳保険に注力している。登山ツアーの客に、保険加入を義務付ける旅行会社も増えてきた。登山具メーカー「モンベル」(大阪市)は3年前からネットで注文できる山岳保険を始めた。年間8010円の掛け金で、最大で救援者費などの補償500万円、遭難捜索費100万円が受け取れるものからある。また、掛け金が年額3000円の山岳共済制度もある。
日本山岳ガイド協会の磯野剛太専務理事は「ヘリが『有料』と聞いて要請を取りやめた登山者もいたと聞くが、危険を感じたら迷わず、救助を求めてほしい。山は観光地の延長ではない。リーダーやガイドに依存し過ぎず、基本は自己責任だと自覚して登ってほしい」と話す。