【コラム】競売市場を香港に奪われたシンガポール(下)
香港政府は、競売品に対する直接的な課税より、競売市場の拡大に伴う大きな付随効果に注目した結果、これが的中した。欧州や米国の有名ギャラリーだけでなく、日本や韓国、中国、東南アジアなど、アジア各国のギャラリー数百社が香港に押し寄せ、数千人の雇用を生み出した。春と秋のオークションの時期になると、世界中から数百社ものギャラリーや数千人の大口顧客、そして数万人の観光客が香港を訪れるようになった。
オークション人気に沸く香港は、08年からワインについても全面的に無税とした。ワインオークションが盛んでなかった香港は、わずか2年で世界第2位のワイン市場に急成長した。世界的なワインメーカーや物流会社が続々と香港に事務所を設立し、ワイン倉庫を構えている。
7%課税したことで、競売の熱気をすっかり香港に奪われてしまったシンガポールは、08年になって美術市場の復興を目指し、文化事業支援金として7800万ドル(約65億円)を費やしたが、香港との「アートハブ」競争はすでに決着がついた状態だ。一度離れた競売会社やギャラリーが戻る気配はない。
韓国は03年12月、税法改正を通じ、美術品の譲渡差額に対する課税を取りやめたが、来年1月から6000万ウォン(約450万円)以上の美術品に対しては、譲渡差額に20%の税を付加する予定だ。昨年、韓国の美術品の競売総額は702億ウォン(約52億円)だった。03年に比べ10倍近く伸びたものの、ある中国人夫妻が昨年1年間でオークションに費やした1700億ウォン(約126億円)の半額にも満たない。
「所得のあるところに課税する」という原則を、香港の当局者たちが知らないはずはない。この原則にシンガポールは忠実に従った一方、香港は固く目をつぶっていた。ソウルがどの都市を手本とするかによって、「文化のハブ」になるという夢は近づく可能性もあれば、遠ざかる可能性もある。
香港=李恒洙(イ・ハンス)特派員