September 9, 2009
抹茶さんの宇宙泰安洋行

というわけで三度目のブログスタート。

基本的には大きくは特に変わりません。抹茶さんによる音楽を中心としたレビューサイトです。以上。

締まっていきます。

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September 9, 2009
【企画】00年代ベスト洋楽100 10-1

ラストです。うーむ、なかなか苦行でした。なんとかがんばっていきますよー。

前回分 http://macha1986.tumblr.com/post/179447521/00-100-20-11

動画 http://www.nicovideo.jp/watch/sm8170338

10


Bob Dylan/Modern Times

アメリカのシンガーソングライターの06年作。毎年のように作品を提供してくれたニール・ヤングやトム・ウェイツに比べれば、90年代に続いて黙作に入る部類だったディランだけれども、そんな数少ない00年代の作品の中にきちんと同時代性を射抜く作品を作るのはお見事。肩の力が抜けたフォーキーサウンドながら、どこかアーバンで洗練されたサウンドに仕上がっており、まさに「上質」という言葉がピッタリそのまま似合う、至高の一枚。

9

The Books/Lost And Safe

アメリカのエレクトロデュオの05年作。この世に普く様々な音に込まれた「美」を切り取り、つなぎ合わせた前作までの音像を発展させ、これまでの彼らのイメージになかった「言葉」という要素が丁寧に、そして優しく跳ね回る「Smells Like Content」をはじめ、その上に「うたごころ」のようなものに比重が置かれバンドイメージが更新された感のある今作。超越的な「美」から、人間的な「美」へ立ち返った、改めて彼らの才能の深さをうかがい知れる傑作。

8


The Go! Team/Thunder, Lightning, Strike

イギリスのロックバンドの04年作。「おもちゃ箱をひっくり返した」ような、というのは彼らの音に安易に使われる言葉だけど、しかし彼らの「おもちゃ箱をひっくり返した」ようなフリーキーなサウンドには、あるいはボーカルのニンジャの楽しげなボーカルにはどこか、そこに留まらない切羽詰った「想い」を感じる。すべての渦を巻く感情が結実し、アルバム全体が集約するセミファイナル「Huddle Formation」はどうしてこんなにも胸が熱くなるのか。

7


Ryan Adams/Gold

アメリカのシンガーソングライターの01年作。どの曲も決して特別な、オリジナリティあふれるサウンドなんてことはない。むしろどこかで聴いたことのあるような、あるいは誰もが心打たれ思い出の中にしまってあるような、そんな強さを持つ曲が並んでいる。ここから自らの内面にどんどん沈んでいくかのようにどこか重いアルバムが続いていくのだけれど、この作品は偉大なるシンガーソングライターの系譜に佇むライアン・アダムスがその才気を外に向けて爆発させた力作。ベターなジャケットも死ぬほどカッコいい。

6

Sigur Ros/Agatis Byrjun

アイスランドのロックバンドの00年作。クラシック音楽を思わせるほどに静謐で幻想的なピアノとストリングス、そして相反するようでいて、しかし共通の美意識を持つノイズの歪み。どこか超越的に思えながら、そこにはロックにしか持ち得ない、強靭なバンドワゴンの勢いも持ち合わせている。作品を追うごとにプログレッシブな方向に「過剰」になってしまうシガーロスだけれども、まだ奥ゆかしさの残るこの作品には、だからこそこのバンドの持つ劇的なダイナミズムが涼しげに凝縮されている。

5


The Delgados/The Great Eastern

スコットランドのロックバンドの00年作。この印象的なジャケットのごとく、デイブ・フリッドマンの手腕のもと、彼らの地に足の着いたソングライティングと演奏には大きな羽を与えられ、作品にはアーティスティックで幻想的なヴェールが漂っている。全編を通して、穏やかで柔らかなアルバムながら、作品中最もメロディアスでドラマティックなナンバーに「American Trilogy」と名づけるなど、ハッと心を撃ち抜かれる瞬間がそこかしこに隠れており、ただ「ドリーミィ」という言葉に収まらない至上のラジカルさも彼らの大きな魅力として横たわる。

4

Sonic Youth/Murray Street

アメリカのロックバンドの02年作。NY三部作の真ん中にあたるこのアルバムの製作中に9.11に直撃。レコーディングを一時中断せざるを得なかった、というエピソードに見えるとおり、どこか彼らの愛するNYという街そのものへの鎮魂の意を込めるかのようにジム・オルークのミキシングは穏やかで優しい、しかし緊張感の張り詰めた音に仕上がっており、これまでのソニックユースに見えなかったふくやかな感情が作品に渦巻いている。「オルタナティブ」としてのソニックユースのイメージとは少し離れるものの、今作のサーストンの歌声はNYに生きる人間として、あるいは父親としての強い魅力に満ち溢れている。

3


Wilco/Yankee Hotel Foxtrot

アメリカのロックバンドの02年作。オルタナカントリーとしてすでに名の馳せていた彼らが、名門ノンサッチレーベルへの移籍をきっかけにその勢いをぐっとバンドとしての深みに還元した代表作。憂いを込めた気だるいボーカルに慈しみと皮肉の両方を持ち合わせるメロディと演奏。あまりにも多くの感情が奥行きのあるアレンジとともに生身のまま作品には組み込まれており、そのむき出しの歌に何度聴いても心が震える。

2

Fountains Of Wayne/Welcome Interstate Managers

アメリカのロックバンドの03年作。友達の母親に欲情したり、サボりのウエイトレスを待ちわびたり、そんなありふれた日々の中に最高潮のポップネスを見出す、ファウンテインズオブウェインの名作。ダメダメで、冴えなくて、どうしようもなくて、だけど誰かを愛して、繋がることを止めることが出来ない。そんな00年代を生きる人々の心を鮮やかに、瑞々しく描き出す、永遠の人間賛歌。

1


Sufjan Stevens/Illinoise

アメリカのシンガーソングライターの05年作。おそらく、彼の生涯手がける仕事になることであろう、「アメリカ州シリーズ」の第二段。美しさとしての歌を際立たせた印象だった前作「ミシガン」に比べ、それに加えて今作は煌びやかで跳ね上がるようなファニーなポップソングが増えており、作品として、アーティストとして、「まさかここまで」と思えるほど多大な広がりを感じさせる。「アメリカを唄う」という自意識を含めて名実ともに時代を代表するアーティストに羽ばたいたスフィアンの、歌への力強い「意思」を感じさせる本当に頼もしい名作。

なんとか、なんとか終えました。

うう、100枚レビューがここまで大変だとは・・・今後は気をつけます。気をつけるって、何をという話ですが。いやあ、いろいろと失礼しました。誰得な企画でしたが、ついてきてくれた皆様に感謝の言葉を。ここからしばらく月末までは通常運営でいきます。

September 4, 2009
【企画】00年代洋楽ベスト100 20-11

またしても時間が空いてしまいました。申し訳ない。今日明日で終わらせますよー。

前回の分 40-21  http://macha1986.tumblr.com/post/176546805/00-40-21

動画 20-11  http://www.nicovideo.jp/watch/sm8130937

20

Brian Wilson/Smile

アメリカのシンガーソングライターの04年作。ビーチボーイズの「未完の名作」、Smily Smileの37年のときを経た「完成盤」。このスマイルという作品にも、ブライアン・ウィルソン(あるいはビーチボーイズ)という存在そのものにも様々な歴史と物語が存在するわけだけれども、それはひとまずは置いておいて、「Pet Sounds」以降のブライアンの音楽性はやれ安易にサイケデリックだ、やれ難解だと言われながらも、この作品はその彼岸に立った上で、どこか「渚の匂い」、「潮の匂い」を感じさせるのはブライアンの業と呼ぶべきか。37年の時を経て組み上げられた、天才の目指した地図にはない国のビーチミュージック。夢で逢えたら。

19


Doves/Last Broadcast

イギリスのロックバンドの02年作。ハシエンダにも顔を出し、90年代はエレクトロミュージシャンとして活動していた彼らの、「ロックバンド」としての疑いのようのない最高傑作。前作で提示した迷いや靄といった、あまりにレディオヘッド後という時代性に殉じすぎた、どこか暗く平坦とした印象を破るようなドラマティックな光を持つ曲が多く、非常にポジティブで力強い数々の名曲が並び、耳に届きやすい作品になっているが、やはり傑作は「Pounding」。大サビ前のギターリフの天を貫く輝きは、もうそれだけで言葉以上に聴き手の琴線を震わせる。

18

British Sea Power/The Decline Of British Sea Power

イギリスのロックバンドの03年作。ガレージリヴァイヴァルとポストパンクリヴァイヴァル(あるいはピッチフォーク隆盛)までのいわば過渡期の間に登場した新人バンドで、決してシーンの上で重要な位置を占めるわけではないのだけれど、彼らほど00年代を通して実直に「音楽」を成し遂げたバンドは知らない。観客を跳ね上がらせる狂騒とヴァイブレーションを持つライブで名を挙げた彼らだけれども、作り上げたアルバムは全てまさにバンド名の通り先人達が築き上げてきた「ブリティッシュポピュラーミュージック」という王道の海を突き進んでいる。成熟を見せた2ndに比べ、ロック色の強い今作はデビュー作らしい瑞々しいポップネスに満ち溢れており、胸が躍る。

17


MGMT/Oracular Spectacular

アメリカのロックバンドの08年作。様々なジャンルの音楽を折衷した国籍不明の音楽でありながら、出身地がニューヨークと言われると、笑いながら「ああ、そうだよね」と答えざるを得ない、それほどまでにニューヨークという土地の歴史が産んだ現代の雑多性とその陽の部分をありありと映し出したような極上のサイケデリックポップ。誰もが没頭し、心を浮き上がらせ、血を喜ばせてしまうような本作の音楽を、フランスのサルコジ首相も思わずメンバーに無断で政治使用したくなるのも頷ける。

16


Deerhunter/Microcastle

アメリカのロックバンドの08年作。前半は宇宙的なとぐろを巻くイメージから一転、非常に内省的で穏やかな、静かなナンバーが並ぶ今作。しかし後半でアルバムは一変。これまでの彼等のイメージにないくらい「まっとう」な勢いを持つギターロック、9曲目「Nothing Ever Happened」で突如アルバムはクライマックスを迎え、加速度的に作品の印象は外交的な方向へと向かっていく。どこか他者を拒絶するように、自壊するように内へ内へと向かっていた彼らだったが、この作品における「Nothing Ever Happened」による爆発に習うように、音楽的にも立場的にもまさに「外」へと向かって歩き始める。まるで宇宙が爆発し、生まれ変わる瞬間をイメージするかのように。

15

The Delgados/Hate

グラスゴーのロックバンドの02年作。聴き手のツボをつく丁寧に練り上げられた所謂「美メロ」に、それを誇張するかのように味付けされるシンフォニックなアレンジ。これを「美しい」と評してしまえば簡単なのだが、そんなポジティブな「美」という言葉の印象に反するアルバムタイトルの「Hate」という言葉の強烈にネガティブな魔力がつきまとう。「綺麗は汚い、汚いは綺麗」とは良く言う言葉だけれども、このアルバムは「Hate」という言葉が持つ「嫉妬、憎悪、妬み」という感情をもシステマティックな「美」という言葉の中に飲み込んでしまう受け手の業をどこまでもラディカルに描き出している。怪作。

14


Fennesz/Endless Summer

オーストリアのエレクトロミュージシャンの01年作。ただの「延々となり続ける単音」、ただの「クリック音」、ただの「ギターを鳴らした音」、ただの「機械音」。ただの音が「ただもの」ではなくなる。ただそこにある「音」に魔法をかけることで「音楽」が鳴るのならば、このクリスティアン・フェネスという音楽家は間違いなく、現代最高の「魔法使い」ではないか。なんてことのないものが、なんてことのないものこそが奇跡になる。90年代半ばから徐々に顔を見せ始めていた「ドローン」と「クリック」を機械的なイメージから発展させ、「終わらない夏」という、ちょっとおセンチすぎるアルバムタイトルに負けない叙情性や肉感を持たせたのはお見事。

13

The Avalanches/Since I Left You

オーストラリアのエレクトロユニットの00年作。最新のテクノロジーを存分に駆使して900もの音源を解体し、繋ぎ合わせた先に生まれたのは、60年代にタイムスリップしてラジオから流れてきたポピュラーミュージックを録音してそのまま帰ってきたかのような時代を貫通した幸福なフロアミュージック。聴けば聴くほど新たな発見があって、そのフロンティアがひたすらに楽しい、何度聴いても飽きない傑作。ジャクソン5を壊して繋ぐ、アヴァランチーズがやらねば、誰がやる。

12

mum/Finally We Are No One

アイスランドのエレクトロユニットの02年作。「アイスランド」、直訳すれば「氷の大地」だろうか。そのファンタジーじみた語感に、どこか「畏れ」か「憧れ」か判断しづらい印象を持つのだけれども、mumはその「畏れ」に殉じながら、恐れない。双子の姉妹の歌声により紡がれる「Green Grass Of Tunnel」の情緒は今まで一度も聴いたことがない音楽のはずなのに、だけれどもそこには確かに記憶の奥底に隠れている大切なノスタルジーを掘り起こす力がある。

11

Antony & The Johnsons/I Am A Bird Now

イギリスのシンガーソングライターの05年作。「性」という問題を内面に抱える人の芸術、というのはすでに使い古されたテーゼではあるけれど、肉体の芯の芯から搾り出すように己の歌を、己の性を紡ぐアントニー・ハガディの歌声はそんなありふれたテーゼを更新しかねないほどに人類学的な性を超越した圧倒的な「色気」を持つ。その色気に誘われてか、ルー・リードまで参加したこの作品はそんな彼の魅力が凝縮された一枚。アントニーの「うた」ばかりに意識がいくが、作品を彩るシンプルなピアノ演奏も信じられないほど感情的で心を打たれる豊かさを持つ。

September 1, 2009
【企画】 00年代ベスト洋楽 40-21

体調を崩してしまい、三日更新が遅れてしまいました。読者の皆様、本当にもうしわけありませんでした。今日からは体調を戻して頑張りますよー。

では、今日の分

前回の分 

60-41 http://macha1986.tumblr.com/post/173445781/00-60-41

動画

40-31 http://www.nicovideo.jp/watch/sm8093035

30-21 http://www.nicovideo.jp/watch/sm8093247

40

Beck/Sea Change

アメリカのシンガーソングライターの02年作。様々なジャンルにルーツを持つべック・ハンセンの「One Foot In The Grave」「Mutations」の流れを汲む、アコースティック路線の名作。作品を増すごとに、シンプルに、ミニマルに、しかし劇的に濃厚に研ぎ済ませれたベックのソングライティングはナイジェル・ゴドリッチの手腕により普遍的な立体感を与えられ、まさにアコースティック路線の最大公約数ともいえる本作に結実した。

39

The Rapture/Echoes

アメリカのロックバンドの03年作。ポストパンクリヴァイヴァル前夜、DFAサウンドクリエイションチームと共に、ダンスミュージックの肉欲、暴力性に従事した、シーン勃興の祖たる人力ディスコ。いつの間にかフロアに勢いを与えるキャッチーな鋭さを持つ「House Of Jearus Lovers」が彼等の代名詞のようになっているが、個人的にはまるでマグマが沸き立つように淡々と、しかし熱を持って鳴り響くドラムマシーンが印象的な秀作ハウストラック「Olio」にこそ、「恐るべき新世代」としてのラプチャーの魅力が凝縮されていると思う。オーバー&オーバー&オーバー、アゲイン。

38

The Field/From Here We Go Sublime

スウェーデンのエレクトロミュージシャンの07年作。「神聖なる肉体をも素材にする」というスコット・へレンのボーカルチョップを参考にしたかどうかはわからないけれども、アクセル・ウィルナーが壊して繋げたのは「聴き手の身体に認識されたシューゲイザーというジャンルのイメージ」。ニューゲイザーがシューゲイザーと電子の融合を果たしたなら、まさに「ニュー」ニューゲイザーともいえるこの作品は、そのいかにもなニューゲイザーサウンドを素材として切り裂き、繋げ、まったく新しい清涼感溢れるエレクトロノイズへと昇華した、電子音のニューフロンティア。素晴らしい。

37

Vashti Vanyan/Look Aftering

イギリスのシンガーソングライターの05年作。フリーフォークのゴッドマザーとして局地的に支持されていた可憐な女性シンガーを名門Fat Catがフックアップした、実に35年ぶりの2nd。どれだけの時を超えても代わらず愚鈍なほど実直で、女性らしいふくよかな流麗を持つフォークミュージックにディベンドラ・ベンハートやジョアンナ・ニューサムといった今をときめくフォークフリークが嬉々として参加したのは必然だろう。声、楽器、あるいは間。この作品のどの部分を切り出してもため息を出るような美意識に溢れている、見事な復帰作。

36

The National/Alligator

アメリカのロックバンドの05年作。UKロック的なプログレッシブな叙情性と、ニューヨーク的なガレージイズムの両方を貫通し、独特のメロディを構築する新世代の出世作。「グランジ世代の良心」Galaxie 500の清潔なオルタナイメージを、時にウォールオブサウンドにまで発展させ、己の音に力強く準じる感覚は「ブルックリン世代の良心」とも呼ぶべきか。

35

Spoon/Ga Ga Ga Ga Ga

アメリカのロックバンドの07年作。過剰なドラマツルギーを信用せず、飄々と、淡々と、モダンにメロディとリズムを構築し、しかしながらそのロックミニマリズムの中に隠れる情熱をこそ目指し、評価を徐々に高めていった十年選手が遂にたどり着いた「決定打」。劇的なメロディに頼らぬ無骨な姿勢は変わらず、しかし今作はサウンドクリエイションに細心工夫を凝らしたことで彼らにしか鳴らせないセピア色のポップスは大きな広がりを見せ、より多くの人の耳に届くことを可能にした、代表作。

34

The Hold Steady/Stay Positive

アメリカのロックバンドの08年作。跳ね上がるピアノと妙にV系なギターに思わずにやりとしてしまうオープナー「Constructive Summer」からもうテンションが最高値まで跳ね上がる。観客を鼓舞し、突き上げるオルタナロックマナーに基づいたハスカードゥとピクシーズのアンチ精神をベタとポップの極点にまで再解釈し、その強度を揺るがないものへと進化させた、奇妙なる王道ギターロック。

33

Animal Collective/Feels

アメリカのロックバンドの05年作。民族音楽経由のまさに「フリーフォーク」なサイケデリックソングライティングが軸でありながら、これまで以上に、いやこれまでにないほどにロックとしてポップスとしてバランスが取れ、聴きやすい地に足の着いた作品になっている。前作「Sung Tong」は最高のテンションで前半を駆け抜けながら、後半サイケデリックな方向に振りすぎて聴き手を置きざりにしたまま失速した印象だったが、前半で聴き手の心を掴みつつ、後半に行くにつれディープで幽玄なアニコレ世界に引き込まれる。「主役」の一人として00年代を駆け抜けた彼等のディスコグラフィにおいて、この作品がもっとも「心」と「体」のバランスがとれた最高傑作だと僕は思っている。

32

Hood/Cold House

イギリスのロックバンドの01年作。冷気というものは度を過ぎると「火傷」を負ってしまうものなのだが、この作品はそれを地で行く。リーズのローファイバンドがcLOUDEADのdose、Why?といったアンチコン勢の力を借り、DJ Shadow的なエレクトロ/ヒップホップのディープな音像を借用し、アルバムタイトル通りの「絶対零度のロック」を作り上げた傑作トリップポップ。「アパシー」もまた、ひとつの煮えたぎる「感情」なり。

31

Elliott Smith/Figure 8

アメリカのシンガーソングライターの00年作。単身かのアビィロードスタジオに赴き、彼の出自たるフォークサウンドに加えて、広がりのあるウォールオブサウンドを導入し、これまでのエリオット・スミスの作品になかった外向きの魅力が違和感なく加わり、とても心地よい。しかしながら、ディランやボスといったアメリカの偉大なるシンガーソングライターの系譜に名を連ねる少しばかり気難しそうな顔をした青年は、結果的にこの意欲に満ち溢れた音楽的挑戦作を生前最後のアルバムとして、次作のレコーディング中にその生涯を閉じる。自らの手で物語の途中で緞帳を降ろすかのように。

30

Clap Your Hands Say Yeah/Clap Your Hands Say Yeah

アメリカのロックバンドの05年作。気だるく、しかしふっと曲線を描き胸に落ちてくる伸びやかなアレックスのボーカルにぴったりなシューゲイザー、ニューウェイブ、ローファイを折衷したナードでナイーブなデビュー作。テキトーなようでありながら、思いの外浪花節の泣きのメロディが並び、自らの鳴らす音、自らの放つ声に強い責任感、信頼感を感じ合わせており、でもやっぱり聴けば聞くほどテキトーで、その使い分けが実に個性的で、キュートで、面白い。

29

Sigur Ros/( )

アイスランドのロックバンドの02年作。前作が世界的成功を収め、一躍注目の的になったシガーロスのまったく自重しなかった2nd。タイトルはなし、曲名もなし、全曲6-10分の長尺。静謐なピアノとギターノイズがオーディオのトンネルの中で混ざり合う純白の神秘に囲まれたアノニマスの森の中を、手探りで探りわけ、ゴールも分からないまま突き抜けていくようなプログレッシブな感覚は多くのリスナーの心を釘付けにした。

28

Rufus Wainwrite/Poses

カナダのシンガーソングライターの01年作。次作以降のキワモノジャケットの印象が強いが、すでにオペラに傾倒し、クラシックの素養を強く持つルーファスの才気は強く放たれており、ロキシーミュージックと競演するなどシンガーとしての彼の重要なテーゼたる同性愛者としてのアイデンティティもこの時点できっちりと固められている。自意識が爆発し、自分自身をオペラ化し、姫君のコスプレにまで羽ばたく次作も素晴らしいが、水の上を泳ぐ白鳥のごとく、流麗にもがき苦しむ今作の彼には実に人間的な味わいがある。

27

Ryan Adams/Heartbreaker

アメリカのシンガーソングライターの00年作。ソロ本格転向後初の作品で、失恋をテーマに歌われたナンバーを中心に収録されている。どうということのない、感傷的なフォークナンバーが並ぶアルバム。カントリー的歴史観感覚を押し付けるわけでもなく、口うるさく政治性を主張するわけでもない。ただ、少しばかり気の強いアメリカの男が、生活の中に埋もれてしまう儚げな感情こそを忘れないように歌い上げただけの、そんな作品である。

26

The Flaming Lips/Yoshimi Battles Pink Robotts

アメリカのロックバンドの02年作。「ザ・フレーミングリップスはあなたが人生と、このレコードをエンジョイしてくれることを願っています」。「死」という重いテーマを抱える作品だけれども、前作で見せた音の壁をそのままに、BPMが若干遅めの丁寧なポップソングが並ぶこの作品にはジャケットに書かれたこの日本語のような、悲しみや悪意に溺れない柔らかな、夢物語のような楽観性の強さが備わっており、彼等のディスコグラフィの中でも、本当に長く愛される作品となった。

25

Loretta Lynn/Van Lear Rose

アメリカのカントリーシンガーの04年作。カントリーの大御所たる彼女が、今をときめくジャック・ホワイトをプロデューサーに迎えた作品。「若い子の血はうめえなあ」というわけではないだろうけれども、そのオルタナ要素の入った音像も、ロレッタの歌声もまったく大御所感がなく、むしろ非常に健康的な色気に満ち溢れており、10代半ばのうら若き少女のようにパワフルで可愛らしい。世代も年も時代も超えた、「00年代」風カントリーポップ。

24

Sufjan Stevens/Greetings from Michigan: The Great Lake State

アメリカのシンガーソングライターの03年作。アメリカの各州をテーマにひとつひとつアルバムを組み上げていくプロジェクトの記念すべき一作目で、「リンカーン」や「スーパーマン」などミシガンにまつわる物語をテーマにしたこの作品はシンプルで静謐で、かつシリアス色の強いアコースティックナンバーが並び、スフィアンのちょっと頼りない、しかし軸のぶれない声とその透明感溢れる類稀な作曲センスが剥き出しのまま露になっている開幕に相応しい傑作。

22

Panda Bear/Person Pitch

アニマルコレクティブのメンバーによる07年作。エレクトロ要素に民族音楽要素と、本隊とさして大きな変化を感じない作品ではあるのだれど、「Strawberry Jam」と「Merriweather Post Pabillion」までのアニマルコレクティブを繋ぐコレクターアイテムという意味合い以上にパンダベアー本人の本隊にはないパーソナルな温かみが作品にポップスとしての膨らみを与えており、それが非常に心地よい。アニマルコレクティブ関連ではこれが一番好き、という声も多いのも頷ける。フリーフォークの代表格としてどこか「お芸術」「お学芸」「お手本」的すぎるアニマルコレクティブに一番欠けているのは、このわがままなほどに剥き出しにしたパーソナルな感覚なのではないか。

22

The Decemberists/The Crane Wife

アメリカのロックバンドの06年作。タイトルを直訳すれば「鶴女房」、つまり「鶴の恩返し」をテーマに据えたコンセプトアルバムである。どこで「鶴の恩返し」という物語を見つけたのかはわからないけれども、戦争や家族というテーマを交えたなかで、もはや日本人ならば物語ではなく一般的な教養にまで消費されてしまうこの物語を、時に感動的に、時にサイケに、時にキュートに描かれ、真摯に向き合わなければ見落としてしまう「物語の普遍性」を目指すこのアルバムのサウンドには胸のくすぐったい部分を撃たれる力強さがある。

21

The Strokes/Is This It?

アメリカのロックバンドの01年作。こんなにも語るのが難しいアルバムはあるだろうか。このアルバムを語るときにはどうしても個人的な感情が混ざってしまう。僕がこのアルバムに騙されたのは15歳のころのことで、今から思えばこの野郎!と当たり前かつ個人的な話しか出来ないのがつらいところで。「Is This It?」のものすごく変なタイミングから始まるヘロヘロイントロから、きりもみしながら強引にぶち切れていく「Take It Or Leave It」までの35分。もう始まりから終わりまで実にテキトーで、今にして思えば、とてもじゃないがどこでノる気分になればいいか分からない変なアルバム。でもまあ、少なくとも僕はこのアルバムに騙されなければ音楽なんて聴いてなかっただろうから、これはこれでロックの記憶として間違いじゃないんだろう。それに、たとえば「ドラゴンボール」だって普段は酷い作品だ酷い作品だ口では言うけれど、読めば結局、ノスタルジーなんて忘れて引き込まれてしまう。まあ、この「Is This It?」って作品はそういうもんなのかなあとは今は思っている。

August 28, 2009
【企画】 00年代ベスト洋楽 60-41

では今日の分を

昨日の分

80-61 http://macha1986.tumblr.com/post/172536219/00-80-61

動画

60-51 http://www.nicovideo.jp/watch/sm8063319

50-41  http://www.nicovideo.jp/watch/sm8064990

60

Sleater-Kinney/All Hands On The Bad One

アメリカのロックバンドの00年作。後の作品にくらべて音圧は薄く、むしろローファイな作りなものの、一曲一曲は相当に洗練されており、彼女たちのディスコグラフィーの中でもとりわけ抜けの良い曲が並ぶポップで勢い溢れた一作。骨身で勝負のバンドながら、作品全体にどこか漂う品の良さは大先輩、パティ譲りか。荒々しさとキュートさが同居する、ライオットガールの理想形。蕩れ。

59

Super Furry Animals/Rings Around The World

ウェールズのロックバンドの02年作。非常に流麗なピアノバラードで始まる今作は、ファーリーズの持つポップさ/ファニーさ/サイケデリックさといった全ての要素を更新し、最高のテンションにまで高めた大作。特にサイケなギターロックからAOR的サウンドメイキング、あるいは後期ビートルズを思い起こさせるシンフォニックなバラードまで、ポップスというポップスを食い散らかし様々に表情を変える様がとにかく愛らしい特別な一枚。

58

Of Montreal/Hissing Fauna, Are You The Destroyer?

アメリカのロックバンドの07年作。アートロックの最前線で活動してきた十年選手がその叡智の全てを曝け出して作りあげた一大ポップ絵巻。縦横無尽に鳴らされるスイートなシンセ。気が抜けるほどぬるく、しかし的確に身体に染みこんでくる打ち込み。かのブライアン・ウィルソンよろしく、偏屈の果ての夢の国に孤高に佇む00年代のペットサウンズ。考えるな、感じろ。

57

TV On The Radio/Dear Science,

アメリカのロックバンドの07年作。ネオンの匂いを漂わせた開放的なアーバンポップ集。過去の彼らから想像できないほどポップでありながら、彼らの血のルーツたる黒人らしい土っぽいリズムとノーウェイブの感覚を携えているのがまたミソ。あまりにアーティスト然としすぎて頭でっかちでバランスを欠いた感があった彼らだが、この作品でひとつロックミュージシャンとしての壁を越え、ついにそのポテンシャルを大きく飛躍させた傑作。

56

The Wrens/The Meadowlands

アメリカのロックバンドの03年作。丸みを帯びた暖かなソングライティングが印象的なシンプルなギターロック。全曲全力投球というべきか、アルバム全体を通して非常に味わい深い膨らみを漂わせており、メロディはお涙的なところがありながら、グランジ由来のザラリとした緊張感のあるアレンジがいやらしさをまったく主張しない。危うい黄金比を最後まで守りきった、無心のロックバラード。

55

The Walkmen/Bows + Arrows

アメリカのロックバンドの04年作。バンドワゴンの熱情と、アーティスティックな美意識がせめぎあう、ギリギリのロックミュージック。U2のボノを思わせるヒロイックなボーカルは、ガレージ由来のノイジーな演奏の中で、非常に切羽詰った、街を徘徊する幽霊のような鬱屈とした乾いた哀愁を漂わせており、しかし一方で、出世作たるこの作品では外に対して真っ向に向かっていく感傷的な力強さを併せ持っており、その魅力を内に閉じず、生身のまま曝け出している。

54

Primal Scream/XTRMNTR

イギリスのロックバンドの00年作。「ジャンル」という言葉をあざ笑うかのごとく、縦横無尽にそのスタイルを貫通させる彼らが、元ストーンローゼズのマニと二人三脚で緊張感溢れるハードコアなエレクトロスタイルの極点に辿りついた一作。「Kill All Hippies」のオープナーから、「Shoot Speed/Kill Lights」まで。「殺せ!」で始まり「殺せ!」で終わる奇妙な一貫性はもはや笑いすら喚起するレベルだが、それもまた肉体的。ゴリゴリの電子音ハードロックとともに宙へ浮かんでいく「Shoot Speed/Kill Lights」は、頭が飛びそうになる大名曲。

53

Broken Social Scene/You Forgot It In The People

カナダの大所帯ロックバンドの03年作。モグワイの影響下にあったインストポストロックバンドが一点、そのノイジーな精神をそのままに、「歌」を目指した出世作。Flaming Lips「She Don’t Use Jelly」やMecury Rev「Something For Joey」を連想させる勢いのあるナンバー、「KC Accidental」は作品を象徴する名曲で、その先人譲りの突破力でロックをポストする立場から一転、オルタナティブロックの大通りに躍り出た。

52

Prefuse73/One Word Extinguisher

アメリカのエレクトロミュージシャンの03年作。「音であればなんでも切り裂き、繋げ合わせた」前作の技術を踏襲しつつ、「テクノロジー」という暴れ馬を手なづけ、他に類を見ない強烈な個性を持つ成熟したヒップホップ/アンビエントとして再構築した2nd。代名詞たる「ボーカルチョップ」は控えに回ったものの、「インパクト勝負の一発芸芸人」とインスタント消費されるどころか、彼の強烈なアイデアが強い普遍性を持つ孤高の技術だと証明してみせた、スコット・へレンの最高峰。

51

Fleet Foxes/Fleet Foxes

アメリカのロックバンドの07年作。ディープな音像のカントリーミュージックで、アルバムを進めれば進めるほど、説得力のあるメロディラインが加速し、リスナーを包み込み、のめりこませ、彼等の世界に引きずり込んでいく。決して「特別」なものなど何もない、シンプルなアルバムだが、そのシンプルな「うたごころ」は中毒性を持つまでに研ぎ澄まされている。

50

Badly Drawn Boy/The Hour Of Bewilderbeast

イギリスのシンガーソングライターの00年作。思春期の男子の部屋の中に溢れる退屈、憂鬱、偏屈、そしていくつかの小さな夢と冒険を詰め込んだ名作。まだ手探りで未完成で精一杯な、だからこそ魅力的に耳に、身体に、心にまで届く、アコースティック宅録サウンドで鳴らされた音楽によるビルドゥングスロマン。

49

Modest Mouse/The Moon & Antarctica

アメリカのロックバンドの00年作。後にレコードチャートを賑わすことになる彼らだけれど、本作はそのまさにブレイク前夜、グランジというよりミクスチャー的でもあったサウンドは、地に足がつき、夜明け前というような独特の冷たい熱情を持つ。朝焼け特有のアンニュイな靄がかった空気が作品全体を包んでおり、サイケデリックで鋭角な姿勢はところどころで炸裂するものの、メロディは他の作品に比べると壊れそうなほど繊細で、儚げ。

48

Jens Lekman/Night Falls Over Kortekdala

スウェーデンのエレクトロシンガーの07年作。70年代ソフトロックの上質のメロディに、80年代ポップスの電子音アレンジを乗せた、ポップスのフルコース的作品。作者のイメージが見事に作品に乗り切っており、ちょっと胸焼けするほどしつこいくらいにどこを切り取っても「まさにポップ!」な雪の中を太陽の光が反射するような涼しげでキュートなエレクトロニカ。

47

The Grandaddy/The Software Slump

アメリカのロックバンドの00年作。90年代以降の、ローファイ上がりのサイケポップのお手本のような作品だけれど、ドリーミィで隔世的な風味ではなく、ベッドルームの感情に身を委ね、向こう側の夢ではなくここにしかない「今」を映そうとするバンドサウンドが心地よい。生来のメロディの良さも相まって、決して長くはないキャリアの中で、彼らにしかない位置を勝ち取った。

46

The Postal Servise/Give Up

デスキャブフォーキューティのメンバーがエレクトロミュージシャンとタッグを組んで生まれた03年作。ベン・ギバートが彼独特の主張しすぎない切なさを秘めたメロディをつくり、そこにジミー・タンボレロが人肌の暖かな電子音を乗せていく。ジャンルも住む場所も違う二人の郵便のやりとりは、電子音ロックの金字塔ともいえる作品を生み、多くのフォロワーはこの偉大な二人の先人を目指した。

45

Yeah Yeah Yeahs/Fever To Tell

アメリカのロックバンドの03年作。激しいアート調のガレージロックが並ぶ中、異色ともいえるバラード「Maps」のPV撮影のエピソードが非常に印象的で、ボーカルのカレンが当時付き合っていた恋人がこのPVの撮影現場に来てくれると約束していたそうなのだが、当日になって彼はドタキャン。このビデオにて、彼女は泣きそうな顔でこの切ないバラードを歌い上げるわけなのだが、その姿はあまりにもセンシティブで、神々しいほどキュートで心を撃つ。「彼らは私のように貴方を愛せない」。等身大の少女の、等身大以上のロックソング。雨に打たれフラフラになりながらも、ロックスターは歌を歌うしかない。

44

Animal Collective/Merriweather Post Pavilion

アメリカのロックバンドの09年作。前数作と、この作品の予告編ともいえるパンダベアーの作品では、かなりセンチメンタルな音像寄りに向かっていた彼らが、再びサイケデリックの荒野に高らかに戻ってきた快作。ビーチボーイズを解体し、人力で組み合わせれば何故かミニマルミュージックの巨大な肉体的快楽が備わった。タコツボ的に消費される「フリークのためのフォーク」に別れを告げ、更に大きな次元で「何からもフリーなフォーク」を鳴らした、00年代最後の意欲作。

43

元ペイブメントのボーカリストの01年作。奇妙な足取りで独特の曲線を描いたマルクマスメロディは変わらず、しかしソロとしての改めてのデビュー作ということからか、ローファイの頂点を極めたバンド時代とは違ったイメージの、力強いロックを鳴らしている。ペイブメントを愛する、あるいはマルクマスを愛する全ての人へ、彼らしいすこしはにかんだで表情で「ありがとう」と鳴り響かせる、文句なしの復活作。

42

Portishead/Third

イギリスのロックバンドの08年作。トリップポップが生んだ怪物バンドの10年ぶりの復活。心電図の冷たい電子音と工事現場のボーリングの暴力的な金切り声、そして地鳴りの恐怖感が同時に鳴り響く淡々とした不穏さは10年前の絶頂から変わらぬまま。しかし、以前のような完全に突き放したところがなく、海の底から這い上がり、足にしがみついてくるようなぬるりとした感傷的な感覚が備わっている。まるで上質のサイコサスペンスのような。

41

Deerhunter/Cryptograms

アメリカのロックバンドの07年作。シューゲイザーの轟音をノイとカンとファウストを参考に跡形もなくなるほどにうねりにうねらせ、眼が回るほどに渦を巻かせて「これが宇宙だ!銀河系だ!」と主張し、頼んでもないのに強引に叩きつけてくる、濃厚なるサイケデリア。インタビュアーを困惑させるメンバーの人を食いきったような態度も含めて、ヴェルヴェッツから遠い時代から、もっとも近い時空へと単身突き進む電波ロックバンドの出世作。

本日は以上。

August 27, 2009
【企画】 00年代ベスト洋楽 80-61

早くも心が折れそうだけど、今日も20枚必死のレビュー。

昨日分

100-81 http://macha1986.tumblr.com/post/171810151/00-100-81

動画

80-71 http://www.nicovideo.jp/watch/sm8053727

70-61 http://www.nicovideo.jp/watch/sm8053876

では今日の分いっくよー

80

Badly Drawn Boy/About a Boy

イギリスのシンガーソングライターの02年作。ヒュー・グラント主演の映画用のサウンドトラックで、いかにも宅録といった肌触りのサイケデリックな風味が味付けされていた1stに比べ、映画用ということもあるのか、すっきりとした味付けでデーモン・ゴフのうたごころが伸び伸びと楽しめる。ストリングスを多用したクリスマスソング、「Donna and Blitzen」は過剰な感もあるが、微笑ましい佳曲。

79

A.C.Newman/The Slow Wondor

ニューポルノグラファーズのボーカリストの04年のソロ作。パワーポップ色の強い本隊の作品に比べ、オルタナからの引用が強く、カール・ニューマンの歌声が小細工なしにまっすぐに耳に落ちてくる印象の作品。それでいて、XTC→ブラーのラインを思い起こさせるナチュラルに捻くれた作曲センスは変わらず、いや、むしろシンプルに届くからこそ際立っているように思える。柔らかで力強い一作。

78

The Killers/Hot Fuss

アメリカのロックバンドの04年作。ラスベガスのネオンの中で生きる人々の清濁織り交ざる一瞬一瞬を、安易なユーモアのギミックに頼らず、いたって真面目な顔で切り取ろうとしたデビュー作。ポップで、煌びやかで、しかし真摯なブランドン・フラワーズの「浪花節」は、想像を遥かに超えて若者に受け入れられた。

77

Why?/Elephant Eyelash

アメリカのヒップホップミュージシャンの05年作。アンティコンの主力選手、といっても本作では前作の完全にとっちらかった状態(それが魅力的でもあったのだけれど)からインディ然としたポップソング集として巧く落とされており、ヒップホップ的な素養は味付け程度に収まっているが、キャリア屈指の感傷的な名曲「Rubber Trails」に見られるように、聴き手に語りかけるような歌つくりにはきちんと生かされており、独特の人肌の世界観を築き上げている。

76

Motorpsycho/It’s A Love Cult

ノルウェーのロックバンドの02年作。前作からの「ビートルズにザッパとクリムゾンを味付けして割ったような新路線」を踏襲し、更にサイケデリックに、更にポップに深めてみせた。女性っ気まったくなしの男臭い作品ながら、暑苦しくなりすぎず涼しげな感覚を携えているのは、ノルウェーという土地柄が成すものか。本国では人気、実力ともに一目置かれる彼らの抜群のバランス感覚が炸裂するキャリア屈指の作品。

75

Boards Of Canada/Geogaddi

スコットランドの電子音ユニットの02年作。アンビエントの名作たる前作が「冷静に作り手と聴き手の距離を測るような作品」ならば、今度は「聴き手の中にもぐりこむ意思を持った作品」といった印象か。まるで聴き手を突き放すようなドリームポップ的な冷たい印象を持っていた音像は、今作では童話的に暖かくなり、だからこそ本音の見えない、ミイラ取りがミイラになってしまったようなどこか不穏な感覚が全編を通して肉体を包み込む。また、困ったことにそれがとても心地よいのだ。

74

Liars/They Threw Us All In A Trench And Stuck A Monument On Top

ニューヨークのアートロックバンドの02年作。00年代アートロックの代表格ということで気難しそうな印象で敬遠されがちだが、祭囃子的な肉体的快楽も、整ったメロディラインも、思いの外「ポップス」として良質に出来ており、ノりやすい。しかしながらデビュー作にしてアルバムの最後に30分のポストパンク大作を持ってくるなど、ノーニューヨーク直系の「音楽そのものをポストする」鋭角な精神は受け継がれており、笑みが浮かぶ。

73

Low/The Great destroyers

アメリカのロックバンドの05年作。ギターを抱え、海の底で唸るようにディストーションノイズを鳴らしていたアメリカオルタナティブロックの異端児が、デイブ・フリッドマンのプロデュースのもとにギターを苦しげに唸らせるのではなく、掻き鳴らすことで急浮上した「転向作」。しっかりと足跡を残すように大地を踏みしめる力強いメロディはフリッドマンの手腕も相まって、非常に立体的で、感動的。

72

Prefuse 73/Vocal Studies + uprock narratives

アメリカのエレクトロミュージシャンの01年作。「声」という神聖なる身体すらも切り刻み、サンプリングの要素にする「ボーカルチョップ」という発想。「ヒップホップであればなんでもいい」。音であれば何でも切り裂き、繋ぐ、と言わんばかりのスコット・へレンの縦横無尽の音作りは、間違いなく、過渡期に差し掛かっていた「テクノ」という磁場に現れた「怪物」だった。

71

Battles/Mirrored

アメリカのマスロックバンドの07年作。余計な色彩を加えず、オルタナティブ中のオルタナティブ、ヘルメットのドラマーとして活躍したジョン・スタニアーの暴力的なドラムのもと、各々のパートを徹底的に鳴らし、没頭し、加速させることで生まれる「超ド級」のミニマルミュージック。鋭角なEPも聴き所満載ではあるけれど、個人的にはこの作品の怒涛のスケールの方に惹かれる。

70

Iron & Wine/The Shepherd’s Dog

アメリカのシンガーソングライターの07年作。02年のデビューから内省的な世界観が少しづつ開いてきた彼だが、今作では全編を通して、明確で、暖かさを持つ統一感のある音のつくりになっている。ギター一本、シンプルにもほどがあったこれまでの作品に比べ、アレンジも多彩になっており(特にパーカッションの効果的な使用による低音域の強化が作品全体に膨らみを与えている。)、聴覚的にも楽しみが増え、より歌の力が増し、味わい深い。実力のあるシンガーソングライターが更なる正当な成長を見せた、充実の一作。

69

Pretty Girls Make Graves/The New Romance

イギリスのロックバンドの03年作。スミスの曲名からバンド名を拝借しつつ、ポストパンク、ニューウェーブ的な音像を軸に、00年代の若者が使い分ける、乾いた/湿った両極面をフレッシュに歌い上げた一作。彼らの代表曲、「This Is Our Emergency」の今すぐ走り出しそうな、だけどどこか疾走し切れない胸を掻き毟るような焦燥感は、多くの人々が若者の時代にしか持ち得ない独特の閉塞感を見事に表現しきっているように思える。

68

Spoon/Kill The Moonlight

アメリカのロックバンドの02年作。熱を放ちすぎず、かといって、熱を殺しすぎず。綱渡りするように、トランプタワーを作るようにギリギリのラインで放たれる、12曲のギターロック集。一見スマートに(悪く言えば薄味に)聴こえるこの作品は深く潜れば潜るほど、煮えたぎるような怒りや穏やかな慈愛まで、様々な鋭い感情に触れることが出来る。感情を押し付けるのではなく、こちらから触れさせる。その瞬間の背筋が震えるほどドキドキする感覚は、中々病みつきになる。淡白なようで案外ブチ切れているブリッド・ダニエルのボーカルも実にたまらない。

67

The National/Boxer

アメリカのロックバンドの07年作。フォーキーでアクが強く、常に実験的、挑発的な印象のあるブルックリン組にしては珍しく、実にシンプルな曲を作る、R.E.Mからの系譜の上にある彼ら。腰をじっくりと落とし、鳴らしたい音を、伝えたい言葉を真摯に鳴らす。4枚目となる今作では更に深みが増し、ピアノの音と重低音が染み渡る、「男」のオルタナティブ・ロックに。

66

M83/Dead Cities, Red Seas and Lost Ghosts

フランスのロックバンドの03年作。ニューゲイザーの代表格として00年代を駆け抜けた彼らの出世作。次作では宇宙的なインパクトに向かい、次次作ではメロディの甘みを強め、ロマンチックな方向に振り切る彼らだが、しかし過剰なドラマツルギーに溺れず、よりシンプルにエレクトロとギターノイズの融合を果たし、ニューゲイザーの金字塔として最大公約数に美しく纏めたのは今作ではないか。お見事。

65

LCD Soundsystem/LCD Soundsystem

05年作。DFAの首領の片割れ、ジェームズ・マーフィーのソロ作。「Movement」「Yeah」「Losing My Edge」とこの時点で人気トラックをいくつも発表していた彼が、待望のデビューLPのオープナーに選んだナンバーは「ダフトパンクが家で鳴っている!」と騒ぎ散らすエレクトロパンク。クラブではなく、「家」というのがミソで、安易に公共性に落とし込まない音楽への強烈な愛を感じさせる。その強烈な「音楽愛」のより深みへと潜っていく2ndも実に素晴らしい。

64

Erlend Oye/Unrest

キングスオブコンビニエンスのメンバーによる03年作。Prefuse 73、Morgan Geist、Schneider TMなど、強力なメンバーに固められたテクノポップ集で、KOCのイメージとはかけ離れてはいるものの、そのポップセンスは見事に羽を伸ばし飛躍しており、丁寧で流麗なクラフトワークといったマニアックな音作りは非常に濃厚で、収録時間以上の体験を楽しめる。

63

The Hold Steady/Boys And Girls In America

アメリカはブルックリンのロックバンドの06年作。圧倒的なポップなアルバムタイトル、そしてアルバムをプレイヤーに入れ、流した瞬間の最初のギターリフから分かる、アルバムタイトルに名前負けしない青さ!そして、このポップなメロディの上に似つかない(お世辞にも巧いとはいえない)雄雄しいボーカルが声を張り上げ、必死に歌う様!ポップであることは戦いだ。己とのどうしようもなく苦しい戦いなのだ。ホールドステディはそんな苦しい戦いに真っ向から挑んでいる。限りない「ベタ」を引き受けて、街を、若者を歌うことを決して恐れない。その力強い姿に、僕は感動を覚える。

62

The Books/The Lemon Of Pink

ドイツの二人組エレクトロユニットの03年作。切っては重ね、切っては重ねを繰り返すサンプリング。楽器演奏やレコードからの引用だけではなく、日常生活の中にある何気ない会話、アナウンス音、テレビやラジオから流れる映像、映画の1シーン、街角に隠れる一瞬の風景、部屋の中に溢れる何気ない環境音。わずかにしか顔を覗かない、その「美しさ」を卓越した審美眼で切り取り、重ね、肉体的快楽のくびきから解き放った00年代エレクトロニカの大傑作。

61

My Morning Jacket/Z

アメリカのロックバンドの05年作。オルガンの音か、ともかく、静謐な電子楽器のリズム音で始まる7曲目の「Anytime」に彼らの飛躍の跡が詰め込まれている。地面を蹴り、遥か遠くまで登っていくような崇き名曲。「山から下りてきた変人」バンドは、出世作からわずか数年のときを経て、誰のイメージにも囚われないどこまでもドリーミィなギターポップを作り上げてみせた。ツェッペリン的なサイケデリックな路線に安易に戻ってしまうラストトラック「Dondante」はちょっと蛇足感はあるが、彼らの作品でも有数の楽曲が並ぶアルバム中盤は息を呑むような盛り上がり。素晴らしい。

以上本日分。続きは明日ー。

August 26, 2009
【企画】00年代ベスト洋楽 100-81

さていよいよスタートです。00年代まとめ企画。

第一弾は洋楽編。00年代前半の「ロックンロールリヴァイヴァル」や中盤以降の「いわゆるピッチフォーク系」の台頭の中で「過去の焼き増しだ」「ネタ切れ」だと叫ばれることも良く聴く時代だった感はありますが、結局は90年代に隆盛したオルタナの流れを咀嚼し、発展させた時代だったような気がします。インターネットの発展でロックシーンも国境を超えグローバル化するかと思いきや、むしろどんどん国ごとにタコツボ化していっているのが面白くはあるんですが、そのまとめは後日にでも。では、さっそく。

動画でも纏めたので、あわせてお楽しみください

100-91 http://www.nicovideo.jp/watch/sm8044528

90-81 http://www.nicovideo.jp/watch/sm8044724

100

mum/Yesterday Was Dramatic - Today Is OK

アイスランドのエレクトロニカユニットの00年作。現在は共に脱退しているものの、当時はユニットの看板ともいえた双子の姉妹のキュートなウィスパーボイスで構築される童話的世界観はすでに決定的に固まっており、一方で2nd以降にくらべエレクトロニカ色が強く肉体的にも刺激的で心地よい。好き嫌いが別れるバンドではあるけれど、この1stは様々な人に届くように出来ている佳作。

99

Air France/No Wy Down

北欧はスウェーデン産バンドの08年作。既存の音と音を重ね、繋ぎ、新しい音を刻みながら、彼らが携えているのは先人たちが歩んできたどこか懐かしく、ノスタルジックなメロディとテクノロジーが交差した美しい普遍的な光景。サンプリング行為をポップな方面に極限まで突き詰めた、ダフトパンク、あるいはコーネリアス以降のダンスミュージックの果ての桃源郷ともいえる大傑作EP。特に「No Excuse」の高揚感溢れるストリングスといったら!

98

Cat Power/You Are free

アメリカの女性シンガーソングライターの03年作。エディ・ヴェダー、ウォーレン・エリス、デイブ・グロールと豊かなゲストに囲まれて、己の中の(様々な意味の)「性」と向き合い、伸び伸びと遺憾なくその才能を発揮したショーン・マーシャル女史の代表作。憂いをこめた気だるいクールなボーカルながら、印象としての冷たさはなく、聴き手を包み込むようなバラッドでもファイティングポーズは最後まで下ろさない。ボブ・ディランの魂は性も時代も超え、しっかりと根付いているのだろう。

97

The Newpornographers/Mass Romantic

カナダのパワーポップバンドの1st。1stながら、実に職人芸じみた作品で、「カッコいい部分」と「ちょっと頼りないけれどキュートな部分」の緩急がついた実に良質なパワーポップ。後続の作品に比べ、若干湿ったところはあるが、だからこそ、「To Wild Homes」のような靄を抜けていく勢いのあるポップソングの痛快さは際立っている。

96

Hercules And Love Affiar/Hercules And Love Affiar

NYはブルックリンのロックバンドの1st。DFA所属ということで、ダンサブルなイメージが先行することになるけれども、彼らはダンスミュージックの特に官能的な部分が際立っており、昔ながらの四つ打ちに忠実な音からはエロティックな大人の情念がほとばしる。「ヘラクレス」とギリシャ神話の神の名をバンド名に携えているが、この作品から漂う「上品なエロさ」はなるほど男女の爛れた肉体関係や個人のジェラシーをも飲み込んでしまう神話のそれと似ているのではないだろうか。良作。

95

Death Cab For Cuite/Transatlanticism

由緒正しきグランジ都市、シアトル出身のロックバンドの01年作。余計な感情を排除し、夜明けのただ「眩しさ」のみを表現したような強烈なナンバー、「The New Year」に象徴されるように、エモーショナルな演奏の中に、「叫びたいのに叫べない」何かを押し殺したような淡々としたボーカルが乗る。がなり散らすだけがエモじゃない。いや、むしろ叫んでも叫んでも声は届かないことばかりだ。デスキャブフォーキューティは無意味に叫ばなければ、恨みがましく呻りもせず、その声にならない声こそを声にする。インディロック然とした空気を佇みながら、現在を代表するロックバンドとしてチャートを賑わすほどに彼らが大きくなったのは、ひとえにその真摯な姿勢に多くの人が惹かれたからではないか。そんな彼らのファンの心に名曲として刻まれる8分にも及ぶタイトルトラック、「Transatlanticism」は圧巻。

94

The Coral/The Coral

イギリスのロックバンドの02年作。所謂「ロックンロールリヴァイヴァル」組なのだが、あらゆるものを混然とリヴァイヴァルしすぎて、わけの分からないことになっている。理路整然としたフォークバラードからザッパを連想させるほど混沌としたカオスポップまで、由緒正しき港町リヴァプール出身の齢19歳の感性はおもちゃ箱のような感性であらゆる音楽を墓から掘り起こし、あたかもフランケンシュタインのようにつなぎ合わせ、「ギョーカイ」を徘徊するゾンビとしてその名のとおりまさに「リヴァイヴァル」してみせた。キュートな怪作。

93

The Arcade Fire/Funeral

カナダのロックバンドの04年作。「芸術は爆発だ!」ならぬ、「葬式はお祭りだ!」と喪服を着ながら暴れまくった当時の彼らだけれど、そのライブはなかなか凄いものだった。鉄骨のセットの上によじ登り、シンバルを壊れるくらいにまで叩き散らし、さらにその壊れたシンバルを武器(!?)に演奏中のメンバーに襲い掛かり、返り討ちに合う。アートロック然ときっちり着込みすぎたこのアルバムにはそんな「お祭り」のような彼らのライブの空気が凝縮されているとは言いがたいけれど、目前の死者を前にした「悲しみ」と死者を想い朝まで酒を飲み語り明かす「笑い」という、両極端にメータの振れ切った「魂送」の過剰なまでの再現の意思はきっちりと伝わってくる。「ピッチフォーク」隆盛期の作品で、所謂「アートロック」が遂に市民権を獲得した時期の重要作でもあり、線の上に位置する大きな点としても聞き逃せない。

92

Destroyer/Rubies

カナダのロックバンドの06年作。9分にも及ぶ作品から始まりながら、全編を通してサイケデリックな方向にもプログレッシブな方向にも振り切らず、敷居をリスナーに落とした上での感情に包まれており、基本的にはポップとしてバランスが取れていながら、どの曲も徐々に宙に浮きあがるように如何にその場所からアートの地点に目指せるかを試しているようにも聴こえる。ひとつの場所にとどまらず、高みを目指す。だけど、聴き手も置いていかず、一人よがりにはならない。柔らかで暖かで、だけど誇り高い上質のギターロック。

91

Idlewild/The Remote Part

スコットランドはエディンバラのロックバンドの02年作。90年代前半のオルタナあるいがグランジの音像に対し、現在までにおいても忠実で、音楽性も含め実に「真面目」で「まっとう」なバンドという印象が強く、その「真面目」で「まっとう」な彼らの音楽性に多くの人が惹かれているのだろうと思う。今作品はそんな彼らの、「成功期」から「安定期」への過渡期にあたる作品ではあるのだが、そんな中でも地に足はついており、その過渡期にしか刻めない「前のめりの荒々しさ」と「バンドとしての成熟」をバランスよく配合しており、結果として彼らのディスコグラフィーでも最もエモーショナルな瞬間を与える傑作。

90

My Morning Jacket/It Still Moves

アメリカのロックバンドの03年作。「山の上からおっさんが降りてきた!」と叫びたくなるような隔世感のあるオーガニックな力強さに溢れた快作サイケポップ集で、次作で大きな飛躍を見せる彼らの、まさに「ホップ、ステップ、ジャンプ」の「ステップ」の足跡を踏みつけた出世作なのだが、その「ステップ」が中々に癖が強く、病み付きになる。すわ!ツェッペリンか!?というような破壊力のあるリフが多々あったり、懐も強烈に深い。

89

The White Stripes/Elephant

デトロイトのロックユニットの03年作。ミシェル・ゴンドリーのアイデア一発勝負な強烈なPVも合わせて、この作品からは様々なヒットソングを生み出したが、基本的には彼らはギターとドラムのみのユニット。ジャック・ホワイトほどの人物をもってすれば、公共性を持つポップソングを作るのにはギターとドラムだけで十分なのだろう。ロック職人ジャックの溢れんばかりの妖しい才気が爆発した誰もが認める代表作。

88

Donald Fagen/Morph The Cat

アメリカのシンガーソングライターの06年作。1作に10年の歳月をかける職人然としたミュージシャンだけあって、スティーリーダンのころから培われてきた、ムーディで、しなやかで、しかしながら鋼の匂いがするAORサウンドには一切の隙もなく、聞き手はその世界観に圧倒される。もはや壮年の域に入ったフェイゲンが自身の物語の「終わり」を意識して作られた作品だそうで、前作からの10年という歳月を味わい深く咀嚼し、惜しみなく聞き手に語りかける。イラク戦争や世界情勢を踏まえた上で聴き手に対して強い「愛」を曝け出す「The Great Pagoda Of Funn」が特に素晴らしい。「愛は終焉をも恐れない」。濃厚!

87

Devendra Banhart/Rejoicing In The Hands

アメリカのシンガーソングライターの04年作。フリーフォークの代表選手として、そのサイケデリックな部分ばかりが取り立たされて、どこか損をしている感があるが、実際の彼の作品の多くの部分はフォーキーなマナーに乗っ取った美しく、そして人肌のバラードソングに包まれており、彼の非凡なソングライティングは聞き手の胸にめがけてきっちりと放たれる。敷居は高くない。それどころか、普遍的な感情に溢れている。演奏を失敗してレコーディング中でみんなで笑う姿など、実に等身大でこちらにも彼の暖かさが伝わってくる。この音のどこに警戒感を感じることがあるというのか。

86

Joanna Newsom/The Milk-Eyed Mender

アメリカのハープ弾き語りシンガーの04年作。後にヴァン・ダイク・パークスらに見初められ一大サイケフォーク絵巻を生み出す彼女だが、その前身となる今作では等身大のシンガーとして、ゆったりと羽を伸ばしてその少女のようなキュートな歌声を披露している。より生身で、よりプリミティブな今作での彼女の歌声は無防備に聴き手に届き、胸を撃つ。

85

Phoenix/United

フランスのロックバンドの00年作。男女問わず耳のツボをつく、ダンサブルでキュートなギターロックでフレンチロックの新たな扉を開いた彼らだが、その中でもやはり傑作は「Fanky Square Dance」。昔ながらのフォークソング→ジゴロなハウストラック→硬派な四つ打ちダンスロックと表情を変える三部構成の大作は、ロック史を解体し、その破片を見事につなぎ合わせた、00年代の幕開けを告げるに相応しいプログレッシブなポップソング。素晴らしい。

84

DJ Danger Mouse/The Grey Album

マッシュアップブームのさきがけとなった05年作。Jay-Zが「Black Album」なんて作りやがったから、Beatlesの「White Album」と混ぜて「Grey Album」でも作っちまおうぜ!という子供のような発想を具現化し、作品として素晴らしいものに仕上げた手腕もさることながら、この作品が浮き彫りにした、ネット環境下における「作者」と「作品」という現代ポピュラー音楽の問題と、それに対する「作家」デンジャーマウスの姿勢もまた興味深い。「遊び心」が、いや「遊び心」こそが音楽をラジカルに飛躍させることもあるのだろう。

83

Iron & Wine/Our Endress Numbered Days

フロリダのシンガーソングライターの04年作。カラッとした太陽の地、フロリダの印象にそぐわない、どこか悲観的で淡々としたフォークソング集だが、太陽の下にいる人たちがみな明るいとは限らない。太陽の下にいると、汗をかくし、疲れる。誰もが炎天の下では太陽を疎みながら、口ではその眩しさを賛美する。Iron & Wineことサム・ビームはそんなことは分かった上でこう歌っているだけなのだ。「太陽は俺の敵だけど、結局ヤツと付き合うしかないだろ?」。

82

Mercury Rev/All Is Dream

アメリカのロックバンドの02年作。デビッド・ベイカー離脱後の前々作からのシンフォニックなファンタジー機軸を更に推し進め、最早神話レベルにまで物語性を高めたプログレッシブな大作。ファラオの仮面を被って「宇宙!宇宙!」と叫んだサン・ラのごとく、ついに「全部は夢!夢なんだよ!」とブちぎれたジョナサン・ドナヒューのソングライティングはこの作品では冴え渡る。「吸血鬼は闇を求め、船乗りは水を求め、しかし君は全てを求める」。ずいぶん遠くまで来たもんだ。

81

Akron/Family/Love Is Simple

アメリカのロックバンドの07年作。インパクトのあるタイトルの通り、時に繊細に、時に大胆に、時にカッコつけて(あるいは恥ずかしそう)に、そして時に無防備に愛は語られる。初めて聴くような特別なメロディや驚きの技法はない。しかし、「愛はシンプル」というその言葉の力をフリーフォークの最大公約数的なうたに乗せる。10曲目「Of All The Things」は民族音楽のリズムへの無邪気な没頭という、いかにもフリーフォーク然とした混沌としたフォークポップだが、逆にこの過剰なテーマの作品の中にあることで、従来の「お洒落でスノッブな印象」のそれとは違う熱量を与えられる。最初の数曲が曝け出した「愛」という言葉が最後まで作品を支配し、包み込むのだ。不思議な作品だけど、悪い気はしない。

ひとまず今日はここまで。

12:26pm  |   URL: http://tumblr.com/xyk2uahk7
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August 21, 2009
【企画】90年代ベスト洋楽100

00年代編の前に、予習と復習をかねてざっと90年代編。

選者の趣味っていうのはなんとなくこんなもんだよ、程度に掴んでもらえるかと。

今回はざっとリスト表を作るだけですが、00年代の分はきっちり全100枚レビューするつもりです。じ、地獄だ…。もしかしたらレビュー以外のこともするかもしれない。まあ、ここからは秘密ということで。

長い・・・

100.  Lali Puna/Tridecoder

99.  Fountains Of Wayne/Fountains Of Wayne

98.  Sunny Day Real Estate/Diary

97. Mercury Rev/Deserter’s Songs

96. Curve/Doppelgänger

95.  Helmet/Strap It On

94.  Massive Attack/Mezzanine

93.  Cocteau Twins/Heaven or Las Vegas

92.  Flying Saucer Attack/Further

91.  Blind Melon/Blind Melon

90.  Stereolab/Emperor Tomato Ketchup

89.  The Orb/The Orb’s Adventures Beyond The Ultraworld

88.  The Melvins/Haudini

87.  Mogwai/Young Team

86   Breeders/Pod

85.  Sonic Youth/Washing Machine

84.  Pulp/Different Class

83.  Blur/Moddern Life Is Rubbish

82.  Luna/Bewitched

81.  Mazzy Star/She Hangs Brightly

80.  Happy Mondays/Pills ‘n’ Thrills and Bellyaches

79.  The Vaselines/The Way Of The Vaselines

78.  Wilco/Summerteeth

77.  The Posies/Froasting In the Beater

76.  Weezer/Pinkerton

75.  Sonic Youth/Experimental Jet Set, Trash And No Star

74.  Tom Waits/Bone Machine

73.  Popsicle/Lacquer

72.  The Lemonheads/It’s A Shame About Ray

71.  Ron Sexsmith/Ron Sexsmith

70.  Gastr Del Sol/Upgrade & Afterlife

69.  Tortoise/TNT

68.  Slint/Spiderland

67.  Squarepusher/Music Is Rotted One Note

66.  Mouse On Mars/Niun Niggung

65.  Pixies/Bossanova

64.  The Pastels/Mobile Safari

63.  P.J.Harvey/Rid Of Me

62.  Elliott Smith/Elliott Smith

61.  Jeff Buckley/Grace

60.  Blur/Parklife

59.  Jellyfish/Spilit Milk

58.  Sebadoh/Bakesale

57.  Massive Attack/Blue Lines

56.  R.E.M/Out Of Time

55.  Manic Street Preachers/The Holy Bible

54.  Primal Scream/Screamadelica

53.  Bob Dylan/Time Out Of Mind

52.  Belle & Sebastinan/If You’re Feeling Sinister

51.  Super Furry Animals/Fuzzy Logic

50.  Aphex Twin/Richard D. James Album

49.  Galaxie 500/On Fire

48.  Pavement/Terror Twilight

47.  The Sea And Cake/The Sea And Cake

46.  Blind Melon/Soup

45.  Teenage Fanclub/A Catholic Education

44.  Modest Mouse/The Lonesome Crowded West

43.  Jim O’rouke/Eureka

42.  Potishead/Dummy

41.  Bjork/Homogenic

40.  Spiriturelized/Ladies and Gentlemen We Are Floating in Space

39.  Elliott Smith/Either/Or

38.  Beck/Mellow Gold

37.  Pavement/Brighten the Corners

36.  Boards Of Canada/Music Has The Right To Children

35.  Elliott Smith/X/O

34.  Caetano Veloso/Tropicaia Ⅱ

33.  Magnetic Fields/69 Love Songs

32.  Radiohead/OK Computer

31.  Smashing Pumpkins/Siamese Dream

30.  Aphex Twin/Selected Ambient Works Volume II

29.  Weezer/Blue Album

28.  The Wedding Present/Seamonsters

27.  Teenage Funclub/Bandwagonesque

26.  Yo La Tegngo/I Can Hear The Heart Is Beating As One

25.  DJ Shadow/Endtroducing

24.  The Delgados/Peloton

23.  Slowdive/Souvlaki

22.  Bjork/Post

21.  Neutral Milk Hotel/In The Aeroplane Over The Sea

20.  Belle & Sebastian/The Boy With Arab Strap

19.  Dinosaur Jr/Green Mind

18.  The Flaming Lips/Transmissions From The Satellite

17.  Pavement/Crooked Rain, Crooked Rain

16.  Sonic Youth/Goo

15.  Neil Young & Crazy Horse/Weld

14.  Aphex Twin/Selected Ambient Works 85-92

13.  Smashing Pumpkins/Mellon Collie and the Infinite Sadness

12.  Ride/Nowhere

11.  Nirvana/Never Mind

10.  The KLF/Chill Out

9.  Tom Waits/Mule Valations

8.  Beck/Odelay

7.  Pavement/Wowee Zowee

6.  Radiohead/The Bends

5.  The Flaming Lips/The Soft Bulletin

4.  Yo La Tengo/Painful

3.  Mercury Rev/Boces

2.  Pavement/Slanted & Enchanted

1.  My Bloody Valentine/Loveless

5:29pm  |   URL: http://tumblr.com/xyk2s1k63
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August 18, 2009
【特別企画】00年代ベスト○○ 予告編

さて、00年代ももう終わりということで、そろそろ管理人の00年代ベスト企画でもやっていこうと思います。見ての通りのそのままで、八月は洋楽ベストアルバム100枚、九月は邦楽ベストアルバム50枚、十月はベストアニメ50作、十一月はベストコミック50作、十二月は……未定で、といった具合でやる予定。

とりあえ今月分の予定として

8月26日(水)洋楽ベストアルバム 100-80

8月27日(木)同 80-60

8月28日(金)同 60-40

8月29日(土)同 40-20

8月30日(日)同 20-10

8月31日(月)同 10-1

ということで、現在リストを鋭意製作中です。

お楽しみに。楽しみにしている人はいるのか?まあ、いいや。

August 16, 2009
【音楽】The Fiery Furnaces/I’m Going Away

The Fiery Furnaces/I’m Going Away

ニューヨークはブルックリン組の兄妹ユニット、ファイアリーファーナセズの新作。

今作は70年代のホームコメディにインスパイアされたそうで、どこがどのように70年代のホームコメディなのかは良く分からないけれども、電子音やサイケデリックな要素を廃して、とにかくシンプルに、そしてポップに、音楽家が音楽家たる根源に立ち返る、作曲の力が前面に押し出された印象の作品。小難しいところが一切ない、昔ながらのロックで、これまでの彼らの作品の中では群を抜いて、いや、ほぼ唯一といっても良いくらい「聴きやすい」作品。この「聴きやすさ」が「職人」な彼らのイメージが強い従来のファンからすれば刺激的ではないように映るのかもしれないが、聞き手も原点に立ち返り、このシンプルさから生まれる音楽のダイナミズムを愛することが一興。音楽家としての成熟を感じさせる、「肩の力が抜けた力作」。

http://www.youtube.com/watch?v=z7SM2lCIklc

3:47pm  |   URL: http://tumblr.com/xyk2pnfdd
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