略すりゃいいってもんじゃない

ここは恐ろしい魔王が住む巨大な城。
城のクセして黒と赤を基調としたデザインは一流である。
ど真ん中なら声を上げそうなくらいに邪悪、かつカッコイイ。

その魔王城の門前におっぱいが大きい金髪ロン毛の美しい女性がいた。
彼女の名前はアーノ。 人より長い耳が特徴的なエルフ族の一人である。
彼女の目的はただ一つ、この城に住んでいる魔王を倒し、突如発生した謎の病を治す方法を聞き出す事である。
元々彼女は争いを好まない性格かつ優しい顔立ちをしているが、彼女が何故剣と盾を持って魔王を倒そうとしているのか。
それを説明するとあまりにも長くなってしまい、この先一歩も進めなくなってしまうので以下割愛。

「あの人から掏った地図によると…ここであってるはずなんですよね……」
アーノは小さな声で呟く。 ちなみにあの人の事も以下略である。
「さらにあの人から掏った魔王城内の地図によると…フムフム…」
さらにアーノはもう一枚の地図を見て魔王の部屋を確認した。
「これもみんなを助けるためだもの…手段を選んでる場合じゃない!」
アーノは意を決して真正面から魔王城に入り込んだ。




魔王城の門の周りは全くと言っていいほど無人かつザルであった。
しかし、魔王城には何の苦なく入る事はできたが、次の一歩を踏み出す事は容易ではなかった。
というより、魔王城に入った瞬間アーノの体に紫色の強烈な電流が走る。
「うああっ!」
それは赤絨毯(じゅうたん)に足を踏み入れた瞬間に突然起きた事だったのでアーノは戸惑った。
だが、それと同時にアーノは一つのキーワードを思い浮かべた。 それは『罠』だ。
(し、しまった!?)
しかし、その罠はそれだけに留まらない。 赤絨毯から発する重力がアーノを跪かせたのだ。
「あうっ!! あああっ!!」
アーノは絨毯から発せられる電流と重力に苦痛の声を上げる。 体は痺れ、見えない力に押しつぶされそうになる。
「ううぅ〜っ!……」
アーノはダメージを受けながら耐え続ける。 争いを好まない繊細な心と胸以外華奢な体で…
だが、電流と重力の威力は上がる。 次第にアーノは苦しみに押しつぶされそうになる。
(駄目よアーノ…ここで諦めたらあの子達を助ける事なんてできない!)
アーノは病に苦しむ子供達の顔を思い出す。 そうやって自分の心に鞭を打てば体が無理をして動くだろうと思ったからだ。
アーノは罠の執拗な攻撃に耐えて這いつくばりながら魔王の部屋へと向かう。
あの子達を救えるのは自分だけ その思いが彼女を突き動かす。
アーノは激しい重圧の中で歯を食いしばり、腕に力を込める。 魔王の部屋に向かうための階段がここにあるからだ。
そんな中彼女は本音の混じった強がりを吐いた。
「戦うよりはずっと…マシ……  さらに言うとガイアグルの滝で溺れるよりもマシ… マグマの上でサーフィンするよりも…」
もういい黙れ!(石丸風に)




しかし、アーノの体中に迸っている電流は普通の電流ではなかった。
この電流は魔力が大量につまっている暗黒電流だった。
その電流を喰らい続けているアーノに一つの変化が訪れる。腹部の肌に褐色色の『しみ』ができ始めたのだ。
だが、アーノはそれに気づかず階段まで這いつくばって進む。
その間にもしみは広がり、美しい肌を変色させる。 しみは腕や脚にまで広がっていく。
一応彼女はお腹の辺りにチリチリした感覚を覚えていたが、そんな事に気にしている場合ではなかったのだ。
「まっててね…大事な子供達……」
短くも長い苦しみの果てにアーノは階段にたどり着いた。
階段に到着した瞬間、アーノを苦しめていた重力と電流が途切れる。
それと同時に髪の色が変わる。世界が回る。 金色からピンク色へ変わる。
「はぁ…はぁ…」
アーノはよろよろ立ち上がって階段に寝転んだ。
無理もない、頑強な人間でも弱音を吐きそうな程の威力を持った罠を潜り抜けたのだ。
「ごめんね…先生ちょっと一休みするね……」
一分だけ、そう思いながらアーノは目を閉じた。 その瞬間に見えたものは天井、その瞬間に思ったことは最後まで子供達の事であった。

その姿はどう見ても邪悪なエルフ『ダークエルフ』でしかなかった。

そして

数分して目が覚めたアーノは武器を捨てて魔王の部屋に向かう。
彼女は眠っている間に悟った。 「戦う意味がない」という悟りを。
「ふふ…もう戦わなくていいわ もう私は魔王様と同じ闇の一族 あの方に今すぐにでも会いたいわ」
碧色から紫色に変色した瞳を煌めかせ、邪悪な笑みを浮かべてアーノは走る。 走るたびに大きな胸はユサユサと揺れまくった。
今の彼女は魔王に会って自分を眷属にしてもらおうという思いで沢山だった。
「何を書いてるの?それだけじゃないわ 魔王様に頼んで子供達を治してもらうわ もちろんその後にあの子達も魔王様の眷属にしてもらうのよ」
アーノはこれからの事を考えて長い耳をウサギのようにピクピク動かした。 後の事を考えて喜んでいるのである。
(あの方は私の手で捕まえて私の真夜中のおもちゃにでもしますか 性処理も悪くないし、弄ぶのも悪くないわ…)
そんな事を考えていたらいつの間にか魔王の部屋の前にたどり着いた。
「ここね ここから新しい私が…うふふ……」
アーノは呼吸を整えて扉を開いた。

「はじめまして魔王様」


END

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