☆サキュバス無限地獄☆

「さてと、早く終わらせよう」
立ち入り禁止、と書かれた立て札を横目に、
大きく口を開けた洞窟へ進む。
振り向くと、まだ国の王様やら街のみんなが笑顔で見送っている、
まさかこんなことになるなんて夢にも思わなかった・・・
話は10日ほど前に遡る。
僕は一応勇者だ、
といっても勇者に免許など必要ない訳で、
生まれ育った小さな街のみんなが勇者として僕を送り出したから、
勇者なんだなと思ってるだけだ、つまり名乗ったら誰でも勇者な訳だ。
世界を平和にするのは真の勇者に任せて、
僕はそれまでに小さなダンジョンでちょっとだけ珍しいアイテムを、
死なない程度に拾ってきて売って細々と旅している、
別に魔王を倒すとかお姫様を助けるとか伝説の剣を手に入れるとか、
そんな大それた事は僕には無関係だ・・・と思っていた。
しかし、はじめてこの城下町のこのダンジョンに入ったとき・・・
僕はいつもどうり魔物が巣くうダンジョンの、
命の危険の少ない、だいたい5階ぐらいにあるちょっとだけ珍しいアイテムを、
体力が3分の2残ってるうちに取れるだけ取って、
それ以上体力が減ったらさっさと地上に戻るつもりだった。
それが一気に地下300階位まで落ちるトラップに引っ掛かり、
見たこともない巨大な一つ目の怪物と、
不気味な風貌の黒マント姿の魔術師に囲まれ、
さすがにもうこれまでだと思った・・・
だか足元に落ちていた、これまた見たこともない豪華な盾をかざし、
さらに落ちていた薬をやけくそで飲み、壁にたまたま書いてあった呪文を読み・・・
と同時に巨大な怪物の一つ目が光り僕の体に赤い光線を浴びせ、
黒マント姿の魔術師も魔法を使い黄色い稲妻を浴びせ、
そこへ突如壁が崩れ、超巨大なドラゴンが青白い炎を僕に吹きつけ・・・
豪華な盾がまばゆく光り、飲んだ薬の効果で体中に不思議な力が湧き、
読み上げた壁の呪文で僕の全身からもまばゆい光りが溢れ・・・
なんというか、新種の魔法が発動したとでもいうのだろうか、
僕は気がつくと相手の攻撃をまったく受け付けない、
無敵の勇者となってしまっていた・・・
剣を少し振れば溶岩魔人をいとも簡単に真っ二つにし、
大魔道師の超強力攻撃魔法もちょっと手をかざせばそのまま跳ね返してしまう、
数値を調べると僕のレベルは「∞(無限大)」と表示されるらしい、
つまり恐ろしい偶然で恐ろしいほど無敵も強さを手に入れてしまったのだ。
さっさと地上に戻るときも魔物にいくら攻撃されても傷一つつかず、
魔法攻撃も体が吸収してしまう、何より体力の数値が満タンのままなのだ。
僕は試しに今まで見るだけでとても参加できやしないだろうと思っていた、
闘技場に参加してみることにした、これならいざという時にすぐギブアップできるからだ。
しかしいざ始まってみると圧勝、圧勝、各大陸で名を馳せた勇者たちも、
僕にとってはまるで猫をじゃらしてるような感じで簡単に倒してしまった・・・
しかも準決勝・決勝で当たった相手は王様が自ら呼び付けた伝説の勇者で、
今でも名前を聞くだけで僕の震えが止まらないほどの超有名人だ、
それを7秒で気絶させてしまうとは・・・全治1ヶ月らしい。
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王様はびっくりして僕を呼び付けた、
やりすぎちゃったから怒られるのかな?と思ったら、
莫大な賞金や武器・防具とともにキングナイトだのサー・プラチナなんとかだの、
いとんな名誉ある(らしい)称号をくれた、もらえるものはもらっておこう・・・
と思ったが、やはりそれだけでは事は済まなかった。
そもそも今回の闘技場で行われたトーナメントは、
王様が呼びつけた伝説の勇者の肩ならしのためだったらしい、
それほどまでに王様が呼んだ2人は強かった・・・はずだった、
しかし今、2人とも病院のベッドの上で身動きが取れない、
僕が7秒でやっつけた結果だ。
ではなぜ王様が伝説の勇者を呼びつけたかというと、
僕が入ったあのダンジョンは底無しのダンジョンらしく、
誰一人として最下層まで行った者はいない、
この国で一番強い勇者で1度地下120階まで行ったことがあるらしいが、
再びダンジョンに入っていってから、2度と戻らなかった。
で、そのダンジョンの奥から出てくる魔物の元凶を退治するために、
大金をはたいて崇高有名な伝説の勇者を2人も呼んだのだった、
それがこんな形で倒されるとは夢にも思わなかっただろう、
もっと早くこんな無敵の勇者が来てくれれば・・・と王様はつぶやいた、
僕だってこんなことになるとは・・・確かにまったくの無傷だが。
ということはどういうことになるか、
僕はすぐに予想がついた、王様ももちろんそのつもりだ、
あの2人の伝説の勇者に代わって僕がダンジョンの最下層まで行く・・・
王様は僕が300階まで行った事もなぜか知っていた、
さすが情報の収集が早い・・・といいたいが肝心な部分が抜けている。
しかし今の僕は何にしろ無敵なことに変わりはない、
王様が呼んだ勇者を倒してしまった手前、僕は断れなかった。
王様が述べ連ねる魔物を退治できたときの褒美も、
僕の耳にはまともに入らなかった、地位や名誉や国土や金品や、
お姫様をくれると言われても、それより僕はさっさとこの国を去りたかった、
僕自身、この無敵の力に戸惑っているのと、
正直言ってめんどくさいし、僕にこれほどの大役のプレッシャーは耐え難い。
結局僕はダンジョンの奥深くへ入ることとなった、
いくら無敵でも恐怖感は拭い切れない・・・
入口で立ち止まる、ぽっかり大きく開いた地下への穴。
・・・このまま逃げてしまおうか、とも思ったが、
無敵なんだから絶対大丈夫、と自分に言いきかせて重い足を進めた。
慣れた地下1階。
ちっちゃいスライムがのぺのぺと這っている、
気にせずそのまま地下へ。
慣れた地下2階。
大きなネズミが襲ってきた、
このへんは普段でも余裕で倒せる。
・・・いつもの地下5階。
吸血コウモリが集団でやってきた、
いつもは必死で戦うが今の僕なら剣を一振りだ。
・・・初めて踏み入れる地下10階。
ここまで来ると他の勇者も神経をとがらせている、
しかし僕は怪物をまるですれ違うように倒して進む。
・・・・・屍が転がる地下30階。
ここへ来るとモンスターも迫力が出てくるなあ、
と思いつつ1蹴りで吹き飛ばして奥へ。
・・・・・猛者が集う地下50階。
ここへ来るのはまさに一流と呼ばれる勇者たちだ、
あちこちで激しい剣の音や魔法の光が飛び交う・・・うるさいなぁ。
・・・・・・・・いつのまにか地下100階。
さすがにめったに人間に会わなくなった、
内部を灯すたいまつの本数・間隔もぐんと少なくなる。
って、このたいまつは一体誰がつけているんだろうか?
・・・・・・・・そうこうしてるうちに地下200階。
ここにはさすがにたいまつもなく、
代わりに深いダンジョン独特の「ヒカリゴケ」がびっちり覆い、
ポワッとやさしい光で内部を照らしている。
僕はひたすら地下へ地下へともぐり続ける・・・
・・・
・・・・・
・・・・・・・・・・地下300階をちょっと過ぎたあたり、
僕は見覚えのある場所についた、あの時、トラップで落ちたあの場所だ。
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