きょうの社説 2010年10月10日

◎「全国区」の鏡花人気 時代を超えた魅力生かそう
 今年の泉鏡花文学賞を受賞した篠田正浩氏は「文学賞の中で一番もらいたかった賞」と 喜びを語り、「もう一回鏡花の原作で映画を撮りたい」と意欲を口にした。その言葉から金沢が生んだ文豪、泉鏡花の魅力と、文学にとどまらない幅広い創作の世界への影響力の大きさの一端が伝わってきた。

 「常に進化する」といわれる鏡花は、伝統と革新を兼ね備えた金沢の魅力そのものとい えよう。1973(昭和48)年に金沢市が制定した泉鏡花文学賞も全国規模の地方自治体主催の文学賞の草分けである。選考委員を務める作家の嵐山光三郎氏は、先の金沢経済同友会の講演で「鏡花の集客力は同じく明治の文豪である夏目漱石以上」と指摘し、北陸新幹線の金沢開業に向け、「鏡花の集客力」を生かすよう提案した。時代を超えて輝きを増す鏡花の魅力をさらに文化・地域振興につなげていきたい。

 鏡花の作品はこれまでも映画や歌舞伎、演劇など幅広く取り上げられ、多彩な表現方法 で時代の最先端をいく試みがなされている。ことしはアイドルグループ「AKB48」のメンバーも出演して、金沢など全国を巡回する音楽劇「ACT泉鏡花」が注目されている。鏡花の作品と音楽、踊りを融合した舞台は、また新たな鏡花の世界を体験できる楽しみがある。

 嵐山氏も指摘しているように鏡花の人気は「全国区」であり、泉鏡花フェスティバルの 拡充について、山出保金沢市長は「演劇、映画、朗読を切り口に鏡花の世界に親しんでもらえるよう前向きに取り組みたい」としている。鏡花をテーマにしたイベントは、鏡花とその作品を生み出した金沢そのものを広くアピールする場にもなろう。多くの人を引きつける力を持つ鏡花の魅力をさらに引き出してもらいたい。

 昨年は泉鏡花記念館がある下新町(しもしんちょう)が町名復活し、鏡花生誕の地とし てあらためて関心も高まっている。作品については鏡花が初めて北國新聞に執筆した小説「黒猫」の現代語訳が本紙夕刊で連載されている。若い世代が鏡花により親しむ機会を多く設けていきたい。

◎一括交付金 慌てず丁寧な制度設計を
 地方向け補助金の一括交付金化で、各府省がほぼゼロ回答を示していることが政府の地 域主権戦略会議で明らかになった。一括交付金化は民主党政権が掲げる地域主権改革の柱で、戦略大綱では来年度からの段階的な導入が明記されたが、実現への道筋は不透明さを増している。

 先の民主党代表選では、小沢一郎元代表が補助金を一括交付金にすれば、衆院選マニフ ェストを実行する財源が確保できると主張し、交付金化が財源捻出の手段のような印象を与えた。これから戦略会議で議論を具体化するにしても、総額を減らさず、地方が自由に使えるお金の幅を広げるという本来の趣旨をまず確認しておく必要がある。

 戦略会議の議長でもある菅直人首相は、人事権を発動し、改革に消極的な政務三役らを 交代させる可能性にも踏み込んだ。その意気込みはよいとしても、府省にただ対象事業を出せと迫っても成果は挙がらないだろう。地域主権改革で政権を浮揚させたいという首相の思いも分からなくはないが、年末の予算編成まで時間は少ない。拙速を避け、まずは丁寧な制度設計が求められている。

 一括交付金化については、来年度予算の概算要求で221件、約3兆3千億円を計上し た投資関係補助金のうち、府省が容認したのは3件、28億円にとどまった。交付金化を目玉にした地域主権戦略大綱は6月に閣議決定されたが、参院選や民主党代表選の影響で実質的な議論は始まっていない。

 地方が自由に使えるお金といっても配分方法など詰めるべき課題は多い。地方交付税と の関係も整理する必要がある。一括交付金化の先には地方への本格的な財源移譲があり、その布石となるような仕組みにしたい。

 国出先機関改革にしても「原則廃止」と思い切った方針を打ち出しながら、事務・権限 の地方移管は足踏みしている。大風呂敷を広げすぎると、どれも中途半端に終わりかねない。内閣改造で片山善博総務相など担当メンバーが入れ替わったのを機に、実行体制を整え直してほしい。