きょうのコラム「時鐘」 2010年10月10日

 子どもの頃のあだ名が「二宮金次郎」だったという。ノーベル化学賞を受けた鈴木章北大名誉教授は、登下校時にも本を読む勉強家だったからだ

貧しさの中で働きながら学ぶシンボルが、薪を背負って歩く「二宮金次郎(尊徳)」像である。戦時中の供出で姿を消し、戦後教育の中で排除された道徳観も既に歴史の彼方だが、ノーベル賞のおかげで突然よみがえった

歩きながら本を読むと「交通事故に遭う」と笑われた時代もあったが、最近は、携帯電話でメールを打ちながら自転車を走らせる若者も珍しくない。社会の価値観はどう変化していくかだれも予測できない

今も、まれに金次郎の銅像を見る。日本一の生産地は高岡で、尊徳を敬う企業が支えている。農政家の尊徳には「報徳訓」という教えがある。今年の衣食は前年の努力の成果であり、来年の衣食はことしの苦労にあるとして過去・現在・未来をつなぐ教えだ

若き日の勉強がいつか実を結び、世界に認められて輝く。ノーベル賞受賞者の足跡と尊徳の教えに共通するものが見えてくる。本物は流行や世相に左右されないものともいえようか。