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[22387] 【習作】 永宮未完 オリジナル 迷宮探索物
Name: タカセ◆f2fe8e53 E-MAIL ID:4e98e308
Date: 2010/10/09 01:48
 以前投稿していた物の書き直し……というか主要キャラの掘り下げで過去から始めたためにほぼ新規となります。
 序をとっとと終わらせたら、迷宮やら冒険物にする予定となっています。 
一応迷宮物でありますが、地下やら古城は勿論の事として、やたらと広い砂漠やら湖等も少し設定を加えて迷宮化させた物とする予定です。
 
 稚拙かつ遅筆な物語ですが僅かでもお楽しみ頂き、お付き合いいただけましたら幸いです。



[22387] 序 ①
Name: タカセ◆f2fe8e53 E-MAIL ID:4e98e308
Date: 2010/10/07 23:51
 轟々と鳴り響く風の音。夜空をぶ厚く覆う黒雲からはまるで礫のように大粒の雨粒が降り注ぎ地上を激しく叩く。
 天を切り裂く幾筋もの雷光と鳴り止まぬ雷鳴は、まるでこの世の終焉がすぐ其処まで迫っているかのようだ。
 冬の終わり。春の到来を告げる春嵐は、毎年同じ日に大陸の南方海で発生し海岸線に沿って東に進み大陸各地に被害をもたらしながら、二週間近く掛けて徐々に北上していく。
 やがて春嵐は海から遠く離れた大陸の中央部。険しい山岳地帯へと至り忽然と消滅する。
 通常の嵐では有り得ない寿命と動き。そして規模。
 これは嵐が消滅する山岳地帯に原因があるとされている。
 そこには遙か過去に大陸に君臨した龍王が居を構えていた迷宮があり、主が滅んだ今も生き続けている魔法陣によって大嵐が発生し引き寄せられているからだと。
 二千年以上も定期的に続く大嵐の真相を究明しようと現地調査の申請をする者の後は断たない。だが極一部の例外を除きその地域への立ち入りが許可されたことはない。
 龍の秘術が解析され拡散する可能性や、調査によって予期せぬ事態が起きる懸念がされた事情もあるが、一番の理由は別にある。
 それは彼の地が聖地であるからだ。
 聖地と定めしは、迷宮を征し龍王を討ち滅ぼし勇者によって建国されし王国。
 後に王国は南方大陸統一を成し遂げ統一帝国としてさらに勇名を馳せることになる。
 討ち滅ぼし龍王の名を受け継いだその国は『ルクセライゼン』
 聖地である古代迷宮は『龍冠』と呼ばれ、国母たる代々の皇太后が守として余生を過ごす離宮が迷宮への入り口を塞ぐように建てられている。





 



 
 







  
 
 春嵐がもたらす激しい雷雨。 
 ただでさえ見通しの悪い夜の森。降りそそぐ雨がさらに視界を塞ぎ、針葉樹林で構成された森を縦横に走る遊歩道は長雨の影響で所々が冠水してまるで川のように水が流れている。
 そんな森の遊歩道をカンテラや魔術の灯りで前方を照らし、水に沈んだ根を何とか避けながらも懸命に走る幾人もの騎士達の姿が見られた。
騎士達がいるこの森こそルクセライゼンの聖地である古代迷宮『龍冠』
 彼等は離宮地下倉庫の探知結界が反応した一人の侵入者を追って、嵐の森の中へと踏みいっていた。
 龍達の長。龍王がかつて居を構えていたという伝説が残る【龍冠】は、人里から遠く離れた山岳地帯にある。
 夏でも山頂付近に真白い雪が残る高い山脈に周囲を取り囲まれ、その姿がまるで王冠のように見えることから、龍王の王冠『龍冠』と古来より謳われていた。
 山裾の隙間を縫うように流れる谷沿いに狭い道が一本あり、そこを通り山脈を抜けると巨大な盆地へ出る。
 盆地の南側には古代樹が群生する森林、北半分には周囲の山々からの雪解け水で作られる冷たく透き通った湖。
 湖の中央には湖水からテーブル状に突き出た大きな島が一つ。
 断崖絶壁の高い崖の上。島の天頂外周部には針葉樹林の森が広がり、島中央部には古めかしく荘厳な空気を醸し出す石造りの宮殿と広大な温室庭園が存在する。
 この宮殿の直下にこそ龍冠の本体ともいうべき迷宮への入り口があった。
 生物の侵入を拒む高い山脈と湖中央の切り立った断崖絶壁の島に存在する『龍冠』。
 険しい山々を越えるのは夏期でも非常に困難であり、雪が根深く残る春を迎えたばかりのこの時期には不可能といっても過言ではない。
 地上からの唯一安全なルートは湖から海へと続く谷川沿いの狭い道しかない。だが谷沿いには厳重な警戒網を誇る砦が幾つも設置され、人と物の出入りは厳しく検査されている。
 もう一つルートもある事はあるが、それは飛竜などの騎乗生物を使う空からの山脈越えとなる。だがこちらも常に監視がされており、しかも今は威力が強く巨大な春嵐の発生期。空路の山脈超えなど無謀の極み。
 だが今宵の侵入者はどこを通り抜けたというのか、その最深部まで入り込んでいた。







『反応を拾った! また森の中を移動してやがる!』


『無茶苦茶だ! なんて野郎だ!』


『場所は!』


 騎士達の襟元につけた魔術具より侵入者発見を伝える声が響く。次いで舌打ちと苛立ちを抑えきれない忌々しげな声や、苦しげな呻き声がいくつも聞こえてくる。
 遊歩道を走るのがやっとな騎士達を、まるであざ笑うかのように森の中を軽々と移動する侵入者に何度も囲みを突破され騎士達の苛立ちは募っていた。


『25番を南方向に抜けていった! 回り込める奴は回り込め! 何とか足を止めろ!』


 指示の声に森に散らばっていた騎士達が一斉に動き出す。近くの者は侵入者の進行方向を先んじて抑える為に直接的に回り込み、離れた場所にいた者は囲みを突破された場合に備え外側に回り込んでいく。
 しかし騎士達の数は二十人にも満たず、いくら相手が一人といえど移動速度が段違いでは捕らえるのは至難であった。
 現状は南側にある下の湖に通じる唯一の階段回廊は別働隊が封鎖し、残りの者達が北側にある離宮へと再度近づけぬように囲みを徐々に狭めながら退路を塞いでいくのがやっとだった。


『23! 姿は見えない!』


『こちらは27! 同じく確認できない! 22の方か?! 気をつけろ! 相当速いぞ!』


 近くを通ると予測される分かれ道に着いた騎士が次々に発見できずと報告をあげていく。
 直線的に森を抜けてくる侵入者に対して遊歩道沿いの回り道しかできない騎士達では、一度侵入者を見失うと再発見は容易なことではなかった。


「22分岐についた。了解」


 22番分岐路へと走り込んだ騎士は同僚の忠告に小声で答えながら、敵からの目印となるカンテラの火を消して近くの木の陰に身を隠し走り通しで荒れる息を整えつつ細身の長剣を引き抜く。


「ちっ……やりづらい」


 雨で滑らぬように柄に巻いた荒縄の感触に違和感を覚えた騎士は舌を打つ。
 強い風と雨を伴う嵐に森の樹が盛んにざわめき、音がかき消され気配が探りにくい事も苛立ちの要因だろう
 

「太后様がお留守のこの時期に……まさか狙いは」


 この時期に現れた侵入者の狙いを推測した騎士は、緊張を押し殺そうとゴクリと息をのむ。
 離宮の主である皇太后がここより遙か南方にある帝都にて執り行われる春迎の祭典に出席する為に、例年この時期は離宮から離れていることは周知の事実。
 龍冠が存在する山脈への無断侵入は未遂であっても大罪。ましてや離宮にまで辿り着いたのであれば、背後関係を徹底的に調べるために拷問。その上での死罪は確実。場合によっては反逆罪で一族郎党にまでその責は及ぶ。
 其処までの危険を冒して主不在の離宮へと侵入する理由として予想できる物はいくつか騎士にも思いあたる。
 龍冠はその成り立ちから曰くのある場所で、帝国が抱える幾つもの機密情報が眠っていると民の間でも噂され、実際にそれは真実である。
 今騎士の心に浮かんだのは、その中でも、もっとも隠し通すべき一つの秘匿存在であった。
 下手にその存在が明るみに出れば、帝国の崩壊と終わりの見えない戦乱を招きかねないほどの危険を含むモノ。
 四年も侍女として潜伏していた間者によって、その秘密が暴かれかけたのは僅か半年前。
 その時は一人の犠牲と情報操作により秘密は辛うじて守る事ができたが、身辺調査と選別が厳重に行われていた離宮の侍女に間者が潜伏していた事実は、現皇帝とその側近達に衝撃を与えることになる。
 表向きには皇太后を狙った暗殺未遂事件として処理しつつ、情報拡散を防ぐ為に元々少なかった離宮詰めの騎士と従者にさらに徹底した身上調査と思考調査が行われた。
 これによって騎士と従者はより厳選された極少数となり、調査によって僅かでも不安要素がある者は任を外され、秘匿存在に関する記憶封印がされ別地へと異動させられた。
 結果離宮の守りは薄くなったが、代わりに山脈外周部及び回廊である谷には兵力が倍増され、さらに新たな砦が幾つも設けられて守りをより強固な物へと変貌させている。
 ネズミの一匹たりとも見過ごさないと言っても大袈裟ではない警戒網。それをすり抜けてきたとは考えにくい。ならば……
 

「まさか他にも内通者が居やがったのか? っ。捉えれば判る」


 一瞬浮かんだ猜疑の念を即座に首を振って否定した騎士は自らを鼓舞し剣をしっかりと握り直して周囲の気配を探り続ける。
 だが風雨の影響もあって侵入者の姿は見えず気配も感じ取ることは出来ない。この嵐は侵入者にとっては心強い味方。騎士達にとっては最悪の障害となっていた。


「まずいな」


 このままでみすみす見逃すと判断した騎士は、口笛のような音を一つ鳴らして高圧縮した詠唱を唱える。
 詠唱によって発動した術は生体感知。有効範囲はさほど広くはないが、魔術師が偵察用使い魔として使う小鳥程度の大きさの生命体も感知できる術になる。
 周囲の木々がうっすらと光り出し輪郭を描き出し、幾つもの光点があちらこちらに浮かんでくる。
 木の洞や太い枝の根元辺りに浮かぶ光点。それらには動く様子も見えない。おそらく森に住み着いている小動物が嵐が去るのを耐え忍んでいるのだろうだろう。
 しかし暗闇の森の中に一つだけ別の動きをする反応がある。騎士が思わず驚くほどの速さで森の中を動く生命反応。
 その主はでこぼこした地面を避け木の枝や幹を次々に蹴りつけながら宙を跳び、騎士の隠れる方向へと段々と近付いてくる。
 距離はそれほど遠くはない。このまま真っ直ぐ進めば数十秒後には騎士が隠れている樹の近くを通り抜けていく。おそらくこれが侵入者であろう。
 迷い無く真っ直ぐ進む侵入者の足取りに、隠れているこちらの存在には気づいていないと騎士は判断する。
 
  
「発見した。仕掛ける」
 

 即断した騎士は小さな声で味方に伝えると、周囲を探る魔力の流れから存在気取られぬようにと探知術を切ると、浅く深く息を吸ってピタと止めて左足を半歩前に踏み出し半身体勢となる。
 天を駆ける稲光に刀身が反射しないように侵入者が来る方向に対して己の身体に巻きつけるような右下段の腰構えで剣を隠し、左手は柄頭の近くを順手に握り、開いた右掌を鍔近くに押し当てる。 
 踏み込みと共に身体全体のひねりを解放し同時に右手を突き出す事で電光石火の一撃となす、初手を重視した独特の構え。
 多数の追っ手に対して逃亡を図る侵入者が足を止めて戦闘をするとは考えにくい。故に交差はほぼ一瞬のみ。すぐに侵入者は逃亡を再開する。当たろうとも外そうとも次手を繰り出す余裕はない。
 情報を引き出すためにも生きたまま捕らえ無ければいけない。相手は地より僅か上を跳んでいる位置関係と目的からも狙うべきは足。
 足を殺して機動力を削ぐ。
 情報と状況を整理し予測から目標を定めた騎士は息を押し殺し最適のタイミングを伺う。
 天を引き裂く雷光と雷鳴。轟々と唸る風。枝葉をかき鳴らしざわめく木々。気を抜けば足を掬う勢いで流れていく水。


 ・ッ! ザッ! ザッ! 


 自然の猛威が不規則な音を奏でる中に微かな足音を騎士の耳が捕らえる。計ったかのように一定のタイミングで鳴る足音。
 騎士はそっと顔を出し侵入者を目視しようとした丁度その時、雷光が煌めき黒い影だった侵入者の姿が一瞬だけ照らし出される。
 姿があらわとなったのは僅かな瞬間だが、広い国中から選抜された高い実力を持つ騎士にとってそれだけあれば十分だ。侵入者の体格、武装、身のこなしを確かめた騎士は内心で僅かに驚く。
 樹を次々に飛び移り身が軽いとは思っていたが、侵入者は騎士が想像していた以上に小柄だ。人間種の子供ほどの大きさしかなかい。
 特徴のない茶色の外套を纏い、フードを目深に被ったその顔を窺い知ることは出来ない。騎士から見て反対側の右肩には、布でくるまれた持ち主の倍ほどの長さの棒のような物を担いでいる。長柄の先は大きく膨らんでいる。槍の類だろうか。
 小柄で森の中を自由自在に動き回れる長柄使い。
 人の子ほどの背丈と聞いてまず思いつくのは精霊族の一部だが、代表的な者に限ってもハーフリングやハイゴブリン等が幾つもあげられる。 
 これに魔族や獣人など他系種の者達も含めればその候補は数百にも及ぶだろう。たったこれだけの情報では相手の正体を絞り込むことなど出来ない。
 背後関係を探るためにも是が非にでも捕らえなければならないが、侵入者の動きを実際に目の当たりにして、相手が高い技量を持つことを確信した騎士の鼓動は緊張で僅かに速くなる。
 この森は全ての木を一定間隔に植え整備して作った森ではなく、元々あった森に少しばかり手を加えたに過ぎない。
 法則性もなく乱雑に生える木々を速度を落とさずに次々に一定のリズムで跳び移るには、先の足場を見極め続ける事が出来る頭脳と、思い描いたとおりに瞬時に身体を動かす高い身体能力が必要となる。
 侵入者の技量はおそらくは自らよりも上。そんな相手が逃亡中だというのに隠れている追っ手の騎士を見落とすだろうか。
 ひょっとしたこちらの存在に気づいていないと思わせられているだけではないのか。
 不意に弱気な考えが騎士の心に浮かび上がる。
 しかし迷いは剣を鈍らせる。
 騎士は不安を無視してぐっと足に力を込める。騎士の間合いまで敵は後二歩まで迫っていた。


 ザッ! 


 柄の握りを強め身体を僅かに前方へと倒す。後一歩。


 ザッ!


 枝を蹴りつける足音を意識が認識する前に騎士は左足を滑るように水を切りながら踏みだし隠れていた木陰から飛び出す。
 空中を跳ぶ黒い影が視界の真正面に一つ。騎士に対して左側面を晒す侵入者が其処にいた。
 宙を跳ぶ侵入者の体勢が僅かに乱れた。水を蹴った踏み込みの音でようやく隠れていた騎士の存在に気づいたようだ。
 慌てて音が聞こえる方向に顔を向けながら、右肩に担いでいた長柄を僅かに持ち上げ迎撃の構えを取ろうしている。
 察知能力と判断能力は騎士の予想以上に速い。だが足場のない空中でもたついて意識に身体がついていかないようだ。
 大きな隙が出来た侵入者。手練の騎士がその隙を見逃すはずもない。騎士は腰構えにしていた長剣を握る左手を一気に振り上げ、柄に当てた右手に捻りを加えながら強く打ち込む。
 剣は一拍の間も置かずに最高速に達し、侵入者の左足首に食らいつこうと襲いかかる。
 その時騎士の背後の空でまたも天を切り裂き雷が一つ奔る。刀身が雷光を受けて光輝いた。
 文字通りの閃光の一撃となったその一振りは、騎士の非凡な才能と何千何万と振った型の上に身についた必殺の一撃。
 だが刀身を輝かせた雷光は同時に、フードを被った侵入者の顔をも照らし出していた。
 雷光を受けて形を現したのは黒髪と黒目のまだ幼い少女の顔。
 それは騎士のよく見知る者……この瞬間に絶対にこの場にいてはいけない者の顔だった。
 自分が剣を振るったのが誰なのか瞬時に気づいた騎士は、とっさに狙いを逸らそうとする。しかし最速で振り出した剣は騎士の思うとおりにはならない。。
 非凡な才能を持つ騎士の腕を持ってしても、その速さを僅かに弛める程度のことしかできない。
 騎士のとっさの動きも無駄となり少女の足首はばっさりと斬り飛ばされている…………はずである。普通ならば。だがこの少女には騎士が作り出したその刹那の遅れで十分だった。
 少女が長柄を持つ右手を下に振りながら掌の中で滑らして足下へと柄を伸ばす。同時に伸びた柄を左足で絡め取って足首の後ろ側へと回した。
 次の瞬間、金属同士がぶつかり合う高音が嵐の森に高らかに鳴り響く。
 少女の足首を切断するはずだった刃を長柄の柄がガッチリと受け止めていた。布にくるまれていてその材質までは判らないが少女の持つ長柄にはよほど硬い金属が使われているようだ。
 必殺の一撃である騎士の剣を長柄が容易く受け止め、そして跳ね返してみせた。
 しかし剣に乗っていた力まで相殺されるわけではない。
 宙に浮かんだ状態で足下に強い一撃を受ければ小柄な少女の身体では衝撃で弾き飛ばされるだろう。
 しかしそうはならない。剣と長柄がぶつかり合う衝突音が鳴るとほぼ同時に少女が足を上げ下半身を丸めながら、左手を後ろに振り上半身を反らして横向きの衝撃の力をその体捌きのみで円の力へと変えるという離れ業をやってのけていたからだ。
 騎士の全速攻撃を受けたというのに、少女はまるで猫のように空中で一回転してスタッと地面に降り立った。


「あせった……ってそうじゃなくて! なんで貴女がここ」


 どうやら少女に怪我はないようだ。
 剣を振り切った体勢のままほっと胸をなで下ろした騎士だったが、すぐに今もっとも問題にするべき事があると気づく。
 なぜここにこの少女がいるのか。しかもなぜ侵入者として追われていたのか。


「邪魔するなっ!!」   


「おぶっ!」 


 問いただそうとした騎士に対して少女がもたらしたのは不機嫌な怒鳴り声……そして先ほど剣を防いだ長柄であった。
 溜めや構えを悟らせることなく不意に繰り出した少女の一撃。
 油断していたために攻撃をまともに頭部に受けることになった騎士が最後に見たのは布がほどけて顔を覗かした三つ叉にわかれる長柄の先端と、周囲に飛び散る妙に白い破片だった。
     



[22387] 序 ②
Name: タカセ◆f2fe8e53 E-MAIL ID:4e98e308
Date: 2010/10/09 21:14
「デュラン! デュラン! …………駄目だ。反応がない。まさかこの短時間でやられたというのか。あのデュランが?」

 
 何度呼びかけても通信魔具から返答の声が聞こえてくることはない。
 部下の一人が侵入者と接触すると連絡を入れてきたのはつい先ほど。その直後に連絡は途絶していた。
 離宮守備隊に選抜される騎士は優秀な人材で固められている。特に半年前の事件の後も残った者達は少数ではあるが国内最精鋭といっても過言ではない。
 それがたった一人の侵入者に手玉に取られ、その中でも実力者のデュランが連絡を絶つ異常事態。
  

「22分岐付近の者は引き続き侵入者の現在位置確認! 発見してもうかつに仕掛けるな! 他は近くの者と二人パーティ形成。再度包囲準備! 足止めし連携戦に持ち込む! 相手は上位の探索者かも知れん! 包囲完了しても油断するな!」


 離宮直衛守備隊の長を務める中年騎士は、侵入者が驚異的な実力を持っていると判断し緊迫した声で指示を下す。
 守備隊に属する騎士達は特別顧問の師事の元、迷宮で誕生した剣術を身につけている。生物として上位存在である迷宮の怪物達を相手取るために生み出された実戦的な迷宮剣術は単独戦闘を基本とするが、パーティによる連携戦も派生技法として重要視され一対多であるこの状況には適しているといえるだろう。
 ただでさえ広い網の目をさらに広げる事にはなるが、各個撃破され食い破られるよりはマシだという決断であった。
 しかし守備隊長には一つ懸念がある。
 侵入者の正体が北大陸に存在する迷宮。世界で唯一の生きる迷宮群である【永宮未完】を踏破し神の恩恵である身体能力強化【天恵】を得た者……それも最高峰の上級探索者だったらという恐れだ。
 天恵強化は迷宮外では著しく制限されるが、それでもある程度の効力を発揮する。そして時間制限はあるが迷宮内部と同等の超越した力を解放する切り札【神印開放】が探索者には存在する。
 能力開放状態の探索者に対抗する術は一つだけ。同様に能力解放した探索者を当てるしかない。
 だがそれについては問題はない。
 ここルクセライゼンにおいて正騎士へと任命されるには、準騎士としての経験とは別に中級以上の探索者である事が必須条件となっている。
 守備隊に籍を置く者は全てが正騎士にして中級探索者。非常時用に自ら得た神印宝物や国より下賜された物を常時その身に帯びていた。 
 
 
「侵入者が神印開放を行った場合は私が対処する! お前達は即時待避し離宮に残る者達と防衛に専念」


 守備隊長も若かりし頃は一人の探索者として鍛錬を積み重ねてきた。その証ともいうべき物が右腕で燦然と輝く銀製の精巧な飾りの施された腕輪だ。
 蔦薔薇をモチーフとした腕輪に咲くのは赤い宝石によって再現された一輪の花。石の中央には森を司る中級神の印が刻み込まれている。


「侵入者が陽動であり伏兵の恐れも考えられる! 伏兵が存在した時は合わせて順次解放! 帝都に連絡! 下の砦に救援要請も出せ! 私が許可する!」 


 切り札である腕輪に無意識に触れながら、侵入者警戒時よりもさらに引き上げた準戦時対応へと移行する指示を守備隊長は下す。


 ルクセライゼンは大陸を丸々一つ支配下に置く大帝国である。だがその実態は一枚岩ではなく、むしろ無数の国が集まって出来上がった寄り合い所帯ともいえる。
 これは南方大陸統一の理由が、当時北大陸で起きた世界的異変に対抗するための緊急的な意味合いが強かった所為だろう。
 その脅威も既に過去の物となり200年以上。平穏な時代での商業的な発展が行き詰まりつつある中で、広大な帝国のあちらこちらで戦乱の火種が燻り始めている。
 その中でもっとも大きな火種となり、そして現皇帝にとって最大の弱点である者が龍冠には存在する。
 警戒厳重な龍冠。その最深部まで潜入を果たした侵入者に対して守備隊長が過剰ともいえる反応を示したのは、いつ内乱が始まってもおかしくない空気を常日頃より感じ取っていたからであった。
 ……彼がこの判断は全くの見当違いであり、むしろ押さえつけられていた火種自らが燃え広がる切っ掛けとなるただの家出だったと知るのはもうしばらく後であった。
















「ぅ……変わった」


 雨の森の中、次々と木や枝を飛び移りながら目的の場所を目指していた少女は周囲の気配から騎士達の配置が変わった事を敏感に察知し、太い枝の上に着地して一端立ち止まり荒れていた息を整える。
 いくら枝その物は太くても、風は強く吹きあれ、雨に濡れており滑りやすく、ましてや右手には先ほど騎士を殴り倒した自分の身長の倍もある長柄を担ぎ、左手で幹を掴んだだけの不安定な体勢。
 だというのに困った顔を浮かべる少女の姿から木から落ちるというイメージがわいてこない。
 不安定な足場でも微動だにしないバランス感覚の良さもあるのだろうが、どうにも野性的な雰囲気が少女からでている所為だろうか。


「これでは半年がかりの私の綿密な計画が台無しだ……無駄に動いてお腹も空いたな。休憩だ」


 待ち望みようやく訪れた春嵐。だが逃亡計画がのっけから躓いたことに少女は不機嫌そうにつりめ気味の目をさらに尖らせて眉を顰めたが、胃がキューと小さく鳴って自己主張したことに気づき息を吐いて少しだけ気を抜く。
 現在位置周辺には木が生い茂っており少し離れている為に遊歩道からは生体探知されずらく姿も見えないと、周囲を見渡して考えた少女は小休止と決めて立っていた枝に腰を下ろす。
 頭と右肩で長柄を押さえつけると、外套の中に左手を突っ込みごそごそと漁る。懐から取り出した少女の手には大きな林檎が一つ握られていた。

 
「むぅ。失敗だったか。もう2,3個持ってくれば良かった。まさか家を出る前に食べることになるとは思わなかったな」


 幼い外見には似合わない尊大な口調で真っ赤な林檎を残念そうに見た少女は雨に濡れる事も気にせず林檎にシャリッとかぶりつきその甘さに今度は年相応の無邪気な笑顔を浮かべる。


「ん。やはり美味しい……探知結界に察知されたのは誤算だったが忍び込んで正解だったな」


 わざわざ地下倉庫に林檎を取りに行かなければ察知される事もなく、もっと楽に逃げ出すことが出来ただろう。だが少女にはそんな考えは毛頭ない。
 旅立つ前に一番の好物である中庭の庭園で採れた林檎を持っていきたかった。これが全てである。
 現にこうやって林檎は手元にあるのだから、その数と早々と食べてしまう事に対する不満はあるがそれ以外は特に気にしていない。
 良く言えば大らか、悪く言うなら大雑把。あまり細かい事にこだわらない所がこの少女にはあった。


「それにしてもどうするか……さすがにさっきみたいな不意打ちは二人相手では無理だな……捕まればミュゼに叱られるし、お祖母様が戻られたらお仕置きされてしまう……大願成就のためにも戻るという選択はありえない……かといって階段回廊の方から人が廻ってくる気配もないか」


 林檎をしゃりしゃりと食べながら少女は捕まった時の未来を考えた。
 従者にして従兄弟の姉に怒られるのもさることながら、普段が優しい祖母が怒るともう一人いる厳しい祖母以上に恐ろしい。その事をよく知る少女は怒りの様を想像しびくっと背筋を振るわす。ましてや守備隊の一人を思いっきり殴り倒した事が知られれば過去最大の怒りを買う事は必須。 
 先の事を考えるなら、今回は諦めて次の機会を伺うという選択肢もあるのだろうが、叱られたくはないという子供らしい思いが少女にもう後には引けないと決意させていた。
 だがそう易々と思うようにいかない事も少女は重々承知している。
 不意をつけたのはあくまでも先ほどの騎士が少女の存在に驚き油断していたからにすぎない。逃げるだけなら後れを取る事はそうそうないが、直接的な戦闘では守備隊騎士達には到底及ばない。
 逃げ続けて引っかき回していればそのうちに業を煮やし下の湖へと続く階段回廊を封鎖している騎士達の一部も追跡に来るだろう。その隙に突破すれば良いという予測も外れてしまった。
 唯一少女にとって有利なのはまだ自分の正体がばれていない事くらいだろうか。
しかし先ほど倒した騎士は通信魔具は壊して縛り付けて森に放置したがいつ目覚めるか判らない。騎士の口から正体がばれたら追っ手の騎士達も、相手が少女なら多少のことなら大丈夫だろうとある意味遠慮が無くなってくる。
 もっと早く階段回廊に近づけていれば他の手もあったかも知れないが、まだここは離宮と回廊の中間点ほど。突破しても突破しても回り込んでくる巧みな騎士達の配置で思った以上に南に下れなかったのが痛かった。


「バインドめ。頭は硬いがやはりお祖母様が選んだだけあって優秀だ。しかも勝負に出たな」


 騎士達の配置が換わったのは必要以上にこちらを警戒し森に騎士を分散させるのを止めてパ-ティによる連携戦を仕掛けてくる兆候だろうと、守備隊長の慎重でありながら必要とあれば大胆な手も打つ性格から少女は予測する。
 一対多の状況になれば不意を突くのは難しく早々に捕まるのは必至。だが網の目が広がり立て直しが出来ていない今この瞬間が最後の好機である事も事実。


「ん……仕方ない。抜け道と潜伏でいくか……登ったことはあっても降りたことはないが、まぁ私なら何とかなるだろう。ちょっとお腹もふくれたし全力だな」


 まだ幼くあるが明晰で回転の速い頭脳を持つ少女は活路をすぐに見いだし、芯だけになった林檎を名残惜しそうに見てから口に放り込むと立ち上がる。
 目指していた階段回廊へのルートをあっさりと見限り、林檎の芯をポリポリと囓りながら、先ほどまで引っかき回す為にわざと抑えていた移動速度を全力にし、包囲網が再度配置される前に抜けようと強い風が吹き荒れる中を西へと向けて突き進み始めた。


















 
『再発見! っ! さっきよりも速いぞ!? 猿か!?』


『西に向かってる! あっちは崖だぞ!?』


 通信魔具から次々と上がる部下達の驚愕の声に守備隊長は忌々しげに眉を顰めながら水をかき分ける足を速める。
 風雨はますます強くなっている。春嵐本体がもうすぐ其処まで迫っているのだろう。
 先ほどまでは何とか南に抜けようとする様子が見られた侵入者の動きは急に変わった。 こちらが再包囲を完了する直前に姿を現し動き始めたかと思うと、まったく別の方向へさっきほどよりも速い速度で動いている。南側へ抜けるルートへと重点的に配置していた事も裏目に出て網を完全にすり抜けられ追いかける状態。
 だが侵入者が一直線に向かっているのは西側……そちらは断崖絶壁の崖しかない袋小路だった。


『ひょっとして何も知らないで浮遊か飛翔で崖を降りる気なのか?!』


『馬鹿野郎! 魔力吸収域のことなら俺んとこの三歳のガキでも知ってる! そんな訳あるか!』


 龍冠に立ち入る事ができる者は極限られている。しかしその大まかな風景や特徴等は始祖の英雄譚や過去の皇族が描いた風景画等である程度は知られ、魔術が使用できない湖を龍を迎え撃ちながら越えていく始祖達の苦難は吟遊詩人達によく謳われる場面である。
 湖の上空に雲まで届くほどの高さで広がる特殊な領域【魔力吸収域】。ここではよほど膨大な魔力量を持つ存在。それこそ龍でもなければ魔術行使は不可能。そんな事は子供でも知っているといえる。
 浮遊も飛翔も使えず高い崖から身を躍らせるなど無謀の極み。もし無事に降りれたとしても深い為に凍る事はないが雪解け水で出来た湖水は容易く人命を奪うほどに冷たい。


「落ち着け! 逃げられないと悟り情報漏洩を防ぐために自ら命を絶つつもりやもしれん! それに上級探索者であればこの程度は何とかなる! むしろ森を抜ければこちらの物だ! 油断せずに追い詰める事に専念しろ!」


 慌てふためく部下達に守備隊長は叱咤の声を叩きつける。
 森から崖の間には僅かだが開けた平地があり其処ならば数の有利が最大限の力を発揮する。侵入者の思惑は予想通りなのか、それともまったく違うことか。だがどちらにしてもやる事は変わらないと守備隊長は左腰の鞘を抑えながら森の出口へと続く遊歩道をひた走る。


「……っ! 危ね! 根が張り出してる! 後ろ! 気をつけろよ!」


「……っちだ! 違う! 左前方! そっちの裏側に抜けた!」



 徐々に森の木々の向こう側に幾つもの灯りが浮かび、通信魔具越しではない怒声や罵倒が聞こえてきた。
 森の出口へと近付く事に徐々に騎士達が集結している。それは侵入者が徐々に近付いているということでもある。
 走りながらも息を整えいつでも抜刀できる体勢を作った守備隊長は森を抜ける。 
 防風林である森を抜けると風はより強く吹き荒れており、木々に遮られていた大きな雨粒が音を立てながら守備隊長の軽鎧にぶつかっていく。途切れなく落ち始めた雷光が周囲を真昼のように明るく染め始めている。
 天候は最大に荒れ始めている。大陸中を蹂躙した春嵐がついに龍冠直上に到達したのだろう。
 

「其処までだ! 動くな!」
 
 
 崖の直前で足を止めて立ち止まり雷光に照らし出される小さな侵入者の背中に向けて守備隊長は抜刀して警告の声を発する。
 だが侵入者は守備隊長の警告には何の反応もせず長柄を肩に担いだまま湖を見ている。
 諦めたのか、それとも何か企てているのか。
 その背中からは窺い知ることは出来ない。


「半包囲陣! 距離はこのまま!」


 彼我の距離は20歩ほど。距離を保ちながら守備隊長は侵入者の出方を見る。
 次々と森を抜けてくる騎士達は守備隊長と同等の距離の半円形の配置についていく。多方向からの同時攻撃を捌ける者などそう多くはいない。
 最後の騎士が森を抜けて配置につき包囲網が完成する、と同時に侵入者が突如振り向いた。
 騎士達が一斉に身構える中、侵入者の声が響き渡る。


「ん。やはりお前達は優秀だな。ここまで追い詰められるとは思わなかった。これなら安心して去ることが出来る。だから褒美だ。ミュゼに手紙を残した以外は誰にも何も言わないつもりだったが別れの挨拶をする事にした。感謝しろ」


 雷鳴轟く中にも朗々と響く幼くも通る声とそれには不釣り合いな傲岸不遜な物言い。
 それは騎士達にはあまりにも聞き覚えのある者の声と話し方だった。その正体に誰もが一瞬で気づき呆気にとられ声を失う。
 彼等が必至で隠し通してきた秘匿存在。帝国の命運を握るといっても間違いではない少女。
 予想外の事態に守備隊長も動けずにいる所で侵入者は顔を隠していたフードを脱ぎ捨てる。
 黒檀色の艶のある黒髪と少し吊り気味の勝ち気な目に浮かぶ同系色の瞳で騎士達をぐるりと見回すその顔には楽しげな笑顔が浮かんでいた。


「私の事情は皆知ることだな。だからあえて何も言わん。とにかく私は生まれ変わることにした。だからこの姿で会うのはこれで最後だ。バレイド。お祖母様達のことは任せたぞ。お前なら信頼できる。あぁ、それとデュランは森に転がしてあるから拾ってやれ。武器代わりに持ち出した燭台で思いっきり殴り倒したが、蝋がクッションになったから死んではいないだろう」


 妙にサバサバしているが遺言めいた物を一方的に言い切った少女はくるりと騎士達に背中を向けると遙か眼下の湖へと目をやり、そしてあっさりと崖に向かってその身を投げ出した。


「「「「「「「っ!」」」」」」」


 予想外の事態に固まっていた騎士達が思わず息をのみ、幾人かはとっさに少女が身を投げた崖に駆け寄ろうとする。その先頭は守備隊長である騎士バレイドだ。
 何としても助けようと自然と身体が動いていたのだろう。


「くっ!」


 しかし突如目の前が明るく染まったかと思うと間髪入れずに衝撃を伴う轟音が響き渡り、バレイドの身体は吹き飛ばされていた。


「っ! なんだ今のは!?」


「お、おそらく。雷です! けが人はいるか?!」


 とっさに動かずにいたために被害を免れた騎士の一人が答え、同僚の無事を慌てて確かめる。
 少女が身を投げ出した崖。まさにその位置に巨大な落雷が降り、騎士達の接近を阻んでしまったのだ。
 

「雷だと。なぜこの瞬間に」


 衝撃で痺れる身体を無理矢理に力を入れて立ち上がったバレイドは空を見上げる。
 いつの間にやら雨は止んでいる。それどころか天を覆い尽くしていたはずの黒雲は忽然と姿を消し、雲一つ無い満天の星空と白く染まる月に照らし出される夜空が姿を現していた。
 嵐の残滓は周囲に残る水と未だ強く吹き荒れる風だけ。今年の春嵐も龍冠直上で忽然と姿を消してしまった。
 それと同じように少女もまた目の前から姿を消してしまった。
 

「なぁ……夢じゃねぇよな。あれって。まさか絶望して命を断たれたってことなのか」


 誰もが続いた異常事態に呆然とする中、腰が抜けたのか座り込んでいた一人の騎士が声をあげる。
 少女の最後の物言いと状況は自殺したと思わせる。だが言葉を発した騎士本人も信じられないといった表情を浮かべていた。


「んなわけあるか! 自分から命断つような性格か!?」


 同じように倒れていた隣の騎士が立ち上がりながら怒声をあげる。理不尽すぎる状況に抑えきれない怒りがわいているのだろう。


「だがよ。ここ一年間の間に起きたこと考えてみろよ。お母上亡くした上に出生の事まで知ったんだぞ。その上魔力も瞳の色も無くして、かなり落ち込んでただろ……万が一って事も……悪い。やっぱ無いわ。そうなると何時ものアレか」


 倒れ込んだ拍子に泥だけになった軽鎧を手で拭う騎士が溜息混じりの声で呟くが、少女の性格を思いだしたのか途中で意見をひるがえし、ある事に思い当たる。
 一応は不敬罪に当たるので言葉を濁しているが、それは少女の代名詞ともいえる特徴だった。


「アレだろ」


「アレだな」


「どうにかならんのか突き抜けたアレっぷりは。つーか助かる目算あったのか。ここから飛び降りて」

 
 ここにいる者達は皆、幸か不幸か少女の能力と性格をよく知っている。
 傍若無人で傲岸不遜。常に強気一辺倒で引くことを知らない猪突猛進ぶり。そして年齢離れした異常なまでの戦闘能力と、それすら霞むほどの異常思考。
 世界に絶望して死ぬくらいならば、世界中の自分が気にくわない者を全て斬ればいいと真顔で宣う少女ならば、どのような状況であっても自ら命を絶つという事は有り得ない。
 崖から飛び降りても助かる確信か方法があったのだろう。少女だけに通用する思考の中では。
 ここにいたり少女が何時もの特徴的な行動に出たのだろうと全員が一斉に考えどうにも抑えきれない溜息を一斉に吐き出すとバレイドに目をむけた。


「すぐに帝都の陛下……はまずいな。カヨウ様に詳細連絡。ケイネリア様が過去最大の”アレ”な事をしでかしたと。それで伝わる」       


 少女の特徴。それは常人離れした肉体能力と卓越した頭脳を持ちながらある事情からあまりにも一般離れしてしまった思考に基づき、他者には理解できない独特的すぎる行動を起こす事にあった。
 端的に言えば少女は”バカ”である。それも過去に類を見ないほどの。

























 初めましての方。お読み下さりありがとうございます。
 そして旧作より引き続きご愛顧いただけます方。誠にありがとうございます。
 掘り下げが足りないと消去して再投稿という更新停止フラグが立ちっぱなしですが何とか序は終わりました。
 いろいろ設定が出ていますが細かいのは作中でそのうちに。
 キャラだけ掘り下げるつもりが、世界設定を掘り下げたり、統一言語の設定やら広がった理由、金銭価値の見直し等々と全体的に手をつけた上に、異世界物の別作も書くと趣味全開になっておりました。
 序①の誤字脱字の山に脳が止まってるなと思いつつ、ご指摘に大変感謝して修正いたしました。今後も容赦なくご指摘いただけると助かります。

 次は迷宮のある大陸へと移動して本格スタートの予定です。
 タイトルは【剣士と薬師】の予定で砂漠迷宮が舞台の話となります。
 旧作をお読みの方なら誰が出てくるか何となく判ると思いますが突っ込みは無しの方向でw
 もう一人の主人公。女主人公に匹敵する天才にして遙かに上を行く異常者たる鍛冶師見習いのエピソードもいくつか入れつつまったりいきますのでお付き合いいただければ幸いです。


 稚拙な小説ですがお読み下さりありがとうございます。
  


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