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[21751] 【ネタ・習作】提督が往く!(R-TYPE TACⅡ二次)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:9c1447a0
Date: 2010/09/27 00:10
はじめまして。
初めて小説書かせていただきますヒナヒナと申します。

R-TYPEの小説が読みたい。少ない。
ならば、自分で書けばいいじゃない。
ということで今回載せていただきました。

下記の事項にご注意ください


連作短編小説もはや長編ギャグかもしれません。
・作者はR-TYPE TACTICSⅡしかプレイしていません。
・基本はSLGのR-TYPE TACⅡですが、一部設定などをSTGのR-TYPEシリーズより借りている場合があります。
・基本流れに沿って執筆しますが、原作全ステージを書いているのではなく、つまみ食いです。
・故意に似せるわけではありませんが、他作品に影響を受けている可能性があります。
・キャラが壊れている恐れがあります。特に提督とマッケランむしろ名前付きキャラ全員。
・ネタバレを含む可能性があります。
・完結を目指します。とりあえずの目標として、前篇終了までと考えています。



暖かく見守っていただけると幸いです。



[21751] 1 プロローグという名の世界観説明
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:9c1447a0
Date: 2010/09/13 00:17
遠い未来の話…

未知の生命体が銀河系ペルセウス腕の中央付近で観測された。
この生命体群は純度の高い破壊本能で構成され、膨張と増殖を繰り返していた。
そして指向性が見出されるに至り、この生命体への人々の関心は強まった。
生命体の群れは脅威的なスピードで増殖移動を繰り返し、太陽系があるオリオン腕に進入した。
人々は戦慄した。
広大な宇宙で無限に進路のとりようがあるにもかかわらず、
太陽系を横切るような進路をとっていたのである。
未知の生命体への強い関心は、この時恐怖に変わった。
そして、人々は、この生命体を“バイド”と呼ぶようになった。


バイドの侵攻を食い止めるべく統一政府地球連合は対バイド兵器の開発を急いだ。
Team R-TYPEと呼ばれる開発組織によって開発された次元戦闘機Rは、
その機動性と戦艦の主砲並みの「波動砲」、
そして、バイドを利用した兵器「フォース」によって、
バイドとの戦いでめざましい戦果をあげた。
しかし、局地的な戦闘の積み重ねでは、
大挙するバイドの攻勢を退けることはできず、
大局的には人類は追い詰められていった。

人類はバイドを討つため、
最後の希望と、残された僅かな兵力を若き司令官に託し、
バイド星域の奥深くへ送り込んだ。
それから数ヶ月、数年が経つうちに、太陽系に現れるバイドの数は減っていった。
人類はようやく訪れた安らぎの日々に歓喜した。


…しかし、それは長くは続かなかった。


バイドを人類の兵器として利用する、“フォースシステム”。
バイドとの戦いが少なくなってからも、
地球連合軍はこの強大な兵器を手放すことができなかった。

バイド兵器を巡って世論は二つに割れた。
未知なる敵からの侵略に備え、
積極的にバイド兵器を保持・開発し続けようとする地球連合軍と、
バイド兵器を破棄すべきだと主張するグランゼーラ革命軍とに。
お互いの主張は噛み合うことなく、対立は深まっていった。

そして皮肉なことに、人類同士の戦争が始まった。

二つに分かれた人類は、新たな兵器を開発し続け、命を奪い合った。
戦いは泥沼化し、戦火は太陽系全域に広がっていった。




________________________
はい、TACⅠ,ⅡのOPですね。
R-TYPEシリーズはその難易度と、
どうあがいても絶望な世界観が売りなので、
めちゃくちゃ重いプロローグになってしまいましたが、
本編ではもっと軽くなるのでご安心を



[21751] 2 隊長と演習
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:9c1447a0
Date: 2010/09/13 00:17
・隊長と演習


私は地球連合軍で特別連隊隊長を務めている。
地球圏の平和のためにグランゼーラ革命軍の連中と戦うのが、仕事のはずなのだが…
私と私の連隊は現在、演習に参加せよとの命令を受けて地球上空に向かっている。
そこで詳しい連絡を受けて地球極東地区の海上で演習をするとのことだ。
連隊といっても、ヨルムンガンド級輸送艦が1隻のみの寂しいものなのだが。
ちなみに地球連合軍では艦が複数あれば、その指揮官を提督と呼んでも差し支えないらしい。
輸送艦隊を指揮する提督ってなんかやだなぁ。


「隊長、作戦空域に到着しました!」
副官のジェラルド・マッケラン中尉が必要以上の大声で報告する。
今まで副官をしていたホセ中尉が負傷で艦を降りたため、
この暑苦しい新副官を使わざるを得ないのだ。
しかも、初の副官業務ということで、気負っているのか、
ただでさえ大きい声が、さらに大きくなっている。
…そういえば昔の拷問で大きい音を聞かせ続けるというのがあったな。
私は、今部下から拷問を受けてるのだろうか?

「よし、本部に連絡。演習とはいえ作戦だ、各員漏れの無いようにチェックをしておくように」

私は澄ました顔して命令を出した。
ちっ、マッケランの声が大きすぎるから私まで大声になってきたじゃないか。
だいたい、大規模任務で神経をすり減らしたと思ったら、いきなり演習とか、あり得ない。
こうなったらこの苛立ちをすべて、演習相手にぶつけてストレス解消だ。

早く攻撃をぶっ放したいぜ。
…ヨルムンガンド級は輸送艦だし牽制用の機関砲しか付いていないから、
実際にぶっ放すのは艦載機のR戦闘機だけどな。

「提督、今回の演習相手の極東防衛分隊から通信が入っています。」
「わかった。正面スクリーンに回せ。」
正面スクリーンがまたたく。
「今回はお手柔らかに頼むよ。我が分隊は見ての通り艦も旧式だし、R機も廃棄処理寸前なんだ。」
気のいいおじいちゃんといった風体の相手間の指揮官からあいさつがある。
極東はサタニックラプソディーで壊滅的被害を受けたからな。
大方、人員が足りなくて退役した軍人と、よそで廃棄寸前になった機体を防衛につけたのだろう。
「演習とはいえ任務ですから、手抜きというわけには行きませんよ。ではよろしくお願いします。」
ハハハ。と爽やかに見えるように笑いながら無難に応えて通信を終えた。

演習相手はR機も引退寸前…
ある考えが浮かぶ

マジでやっちゃっていいよね?

そもそも、本部からの命令は『実戦形式でやれ』だし、相手R機は引退寸前。
それならせめて演習用ペイントではなく波動砲で最後の華を咲かせてやるのが人情ってものじゃないか?
波動砲だけ出力を絞っておけば完璧だな。もちろんコックピットに当てるのは禁止だが。
私のストレス解消のため…ではなく、部隊練度の上昇と士気上昇のため命令を下した。

「各員に命令を伝える。今回の演習についてだ。現在地球圏は危機に瀕しており、遊ばせておく戦力は無い。また、本部からの命令は実戦形式でとのお達しである。そこで、演習モードではなく実戦と同様の訓練を行う。実弾を装備し機体設定を切り替えよ。」

艦橋にいるスタッフが一瞬ぽかんとした表情をしたが、すぐに復唱して作業に取り掛かる。
普段から表情を出さずに真面目顔しているお陰で、
誰も私の暴走している事に気が付かないぜ。
実際に仕事は真面目にこなしているしね。

私の横では熱い(むしろ暑い)男マッケランが、なにやら感動していた。
「そこまでお考えとは…自分は感動しました!」
…いや、副官は止めなきゃダメだろ。
私の心の冷静な部分が突っ込みを入れたが、
ここで止められても興ざめなので口には出さない。

演習前の最終打合せで相手のおじいちゃん指令に、
実弾でやりますよー。と一応了承をとるためににこやかに言っておいた。
おじいちゃん指令が笑いながら、何か言っていたが
マッケラン中尉の報告に遮られて何も聞こえなかった。
マッケラン…通信を遮るなよ。おじいちゃん何言ってるか分からなかっただろ。
しかし面倒なのでそのまま、適当に流して通信を終了した。
さて、演習の始まりだ。


___________________________


「! 実弾!?うわー」とか
「反乱か?応答せよ。」とか
「機体がっ…脱出する。」とか


通信機からもれて来たが、実戦で敵通信は感知できないから、
無視して作戦遂行しなきゃねー。
しかし迫真の演技だな。こんなに上手なら演劇の道に進めばいいのに。

怒号や悲鳴が聞こえる中
マッケラン中尉は張り切って戦果を報告しているが、
通信士などは引きつった顔をしていた。



さて、残った敵輸送機のデコイも破壊したし、
輸送艦に射程外からチャージ済みR機で脅して、終了だな。

「おのれ、貴様ら革命軍の内通者だったか。しかし極東は渡さん、こうなれば道連れに…」

おじいちゃん指令が物騒なことを言いながら輸送艦で迫ってくる。
…あれ、マジで?おじいちゃん、実弾演習てさっき言ったじゃん。
混乱している私を余所に、おじいちゃん指令の命令で輸送艦はR機にタックルをかます。
さすがにR機は横に逃げるが、その挙動にビビったのか、
1/2出力の波動砲を発射してしまう。
そして輸送艦船腹のぺラペラの装甲を波動砲が貫通するのが見えた。


「あ」
やべ、殺っちゃった?
そして、ゆっくりと極東の海に落ちて行く輸送艦…


相手の輸送艦に搭載されていたR機はすでに無く輸送艦内はからであったので、
死者は出さずに済んだ。
なんか人が海に大量にぷかぷか浮いてて非常に怖い光景だったが、私達は彼らを救助し、
戦闘反応に驚いて急行してきた、民間の警備組織に、
おじいちゃん指令達を押しつけて、その場をあとにした。


______________________________



演習報告
特別連隊隊長発 統合司令本部宛

本部命令どおり実戦形式での演習を完了。
仮想敵戦力の輸送艦、R機は旧式であり、
また、仮想敵との事前打合せにより
廃棄が前提とのことであったので、
連合軍資材の有効な活用を行うため、
実弾での演習を行った。
この演習により、両部隊とも練度の上昇と、
後方部隊特有の油断を払拭できた事を確認。
仮想敵部隊は対反乱訓練を行った模様で、
司令官以下迫真の演技で、両部隊の
士気を高めた事を評価したい。
今回消費した資材は…


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私は、報告書を本部に送りつけ海洋上を逃走した。
部下の前では当然だといった顔をしていたが、
内心すごく焦っていた。
この前、デモ隊への攻撃を拒否した大佐は処刑扱いだったし、
さて、軍事法廷への召喚をどうやって避けよう。

しかし、二時間後に本部から命令が届き、お咎めが無いばかりか、
そのまま、次の命令に従えと書いてあった。
あんれー。何も無いの?軍事法廷は?
反乱認定されたら革命軍に逃げ込もうと逃走経路まで考えていたのに。


そんなことより、逃走のため演習場所を離れたので、
補充予定であった副官を乗せ損なってしまった…







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ビタチョコの演習ってどうみても撃墜してますよね。
映像処理でディスプレイ上はそう見えるって設定だと思うけど。
本来この段階での副官の呼びかけは「艦長」なのですが「隊長」にしてあります。
だって、ゲーム画面をみると輸送艦には別の艦長が乗ってますし。
作者の中でⅡ提督は真面目ぶっているけれどクレイジーというイメージです。
ひとえにゲーム中の選択肢がおかし過ぎるせいですね。

そして、クレイジーな提督はteam R-TYPEの目に止ってしまいましたとさ。



[21751] 3 提督と副官(前篇)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:4de07f09
Date: 2010/09/13 00:17
・提督と副官(前編)


極東での演習のことで少し反省した私は、
その後粛々と任務をこなし、地球上のA級バイドを撃破したり、
月面での演習でのキチンと行ったり、真面目そうな仕事が評価されたのか月面演習後に、
統合作戦本部から私は将官への昇格が内定したことを通達された。。
それとともに私の「艦隊」へ火星方面の防衛の任が下った。
まだ、輸送艦一隻なのに、本部に「お前ら今日から艦隊だから」と
無茶振りされたせいで、ついに私も隊長から提督になった。
身の丈に合った呼び名って重要だと思う。
本部め…いつか見ていろよ。


あと、艦艇が増やせないかわりに、新型機を導入してみた。
今回私の艦隊に配備されたのは、長射程の波動砲を持つRwf-9D “シューティングスター”と、今まで我が隊の主力だったRwf-9A‘アローヘッド’の上位機種Rwf-9A2“デルタ”だ。


先日、やっと副官が補充された。
そう、極東演習でおいてけぼりを食らった副官で、
ヒロコ・F・ガザロフ中尉という女性士官だ。
早速暑苦しいマッケラン中尉の変わりに副官に抜擢した。
やはり、副官は女性だな。


しかし、連合軍の女性士官服は色気がある。
白を基調として、胸を強調するジャケットに、タイトスカート、ブラウンのストッキングは指定、靴はパンプスだ。
男物は、初めて着た時白の詰襟とかどこの訓練兵だよと思ったが、
あれだな、デザイナーは女性士官服に全力を傾けて、
男性用はやっつけで作ったに違いない。
デザイナーとしてはダメダメだが、男としては褒めてやりたい。


かわいい子は得だ。
遅刻常習犯だとか、ミサイル発注書の取りまとめを頼んだら何故か大量のペイント弾頭が届いたりとか、演習日程を間違えて演習宙域まで第一戦速で向かうはめになったりとか、命令の入ったデータディスク割ったとか、こけて紅茶をぶっ掛けられたとか全然気にならないし。
頬のスレイスレモンを引っぺがし、茶色く染まった提督服をクリーニングボックスに放り投げながら思った。
…そう、ガザロフ中尉は天然だった。
士官学校の主席がこんな小さい部隊の副官とか、他所でなんかやらかしたのだろうか?


______________________________


ガザロフ中尉を副官にして数日、
私は精神的には癒されたが、書類などの実務は増えていた。
マッケラン中尉は暑苦しくて横にはおいておきたくないが、
書類仕事などはなかなか優秀だった。
でもガザロフ中尉に「提督、ありがとうございます」とか言われると、
すべてを許してしまう私がいる。
本当にかわいい子は得だな。


そんなことを、真顔で書類を読みながら考えていると、ガザロフ中尉が
「提督、指令が届きました。どうぞ。」
といって指令文章の入ったデータファイルを指令席の端末送ってきた。
「基地建設システム“シヴァ”か」
私は周囲に聞こえないようにこっそり呟いた。


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「さて、今回の任務は基地建設システム“シヴァ”の運用実験の護衛だ。
ちなみに“シヴァ”は最高軍事機密であるので、外には漏らさないように。
“シヴァ”はコアと呼ばれる施設を元に簡易軍事拠点を短時間で建設できる。
もちろん簡易システムなので、永続的には使用できないが、
一回の戦闘の間くらいは十分に耐える強度をもっている。
問題は“シヴァ”の運用には工作機が必要なことと、
資材として高密度のソルモナジウム結晶が大量に執拗なことだ。
コアについては運用試験の結果次第で、要所に配備されるのだろう。」


ここまで言って紅茶で喉を湿らす。
私は今、会議室で副官達や艦長に今回の作戦の概要を説明をしていた。
普通、こういう説明は副官や技術関係の士官がするんだけど、
今回の件は機密もあるし仕方ない。
「“シヴァ”運用中に敵襲があると考えてもよろしいのでしょうか!?」
とマッケラン中尉。
機密なんだから、せめて普通の声の大きさで話せよ。
普通の人が話しても声はもれないけど、お前はダメだ。
防音壁?そんなもの輸送艦にはありません。
輸送艦とは、いかに効率良く荷物を運べるかに特化した船体なんだから。


「あれだけの規模だ。“シヴァ”の情報がグランゼーラ側に漏れている恐れがある。万が一、敵襲を受けた場合は、そのまま実証試験に切り替わることも視野に入れておこう。」
“シヴァ”は撒き餌で私たちはモルモットなんじゃないのか。
そう思ったが、もちろん口には出さない。
いかんな、最近二重人格化が進行している。
「では敵襲に備えての配備はどうしましょう?」
「輸送艦は第一コアの側でR機とともに待機。工作機にはRfw-9Aあたりを直衛に回す。あとはコアの中にも何機か入れておこう。これで、敵襲があっても戦闘可能だ。」
ガザロフ中尉の疑問に私が答えた。
その後も、いくつか質問があり作戦をつめていった。


ちなみに、ガザロフ中尉がこの会議に焼いてきてくれたスコーンはなぜか、変な味がした。
紅茶の助けで、何とか飲み込めたが、しょっぱいしなんか臭いし…


会議後に聞いてみると、元気良く応えてくれた。
「あ、分かりました?おばあちゃんから貰ったミソペーストを隠し味に練りこんでみました。どうでしたか?」
「…もちろん、美味しかったよ。」
「本当ですか。次回はもっといっぱい作ってきますね。」
私は、いつもの表情偽装スキル使用しながら、心で涙を流した。
君とは隠し味の定義から話すべきだな。









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前回はマッケランだったので、今回はガザロフ中尉です。

はい、前書きで基本一話完結と書いたのに、3話目にして破りました。
スミマセン。

個人的には地球連合よりグランゼーラの制服の方が好きなのですが、地球連合のあのデザインはあれで好きです。
よくスペースオペラもので女性士官がヒールを履いていますが、あれで戦闘したら足を捻ると思うんです。いくら無重力でも踏ん張れません。その点、ちゃんと地球連合はヒール無しのパンプスだし、スカートもスリットでなく、マチ(っていうのかな)が付いているもので、動きやすく見えないようになってます。機能美ですね。



[21751] 4 提督と副官(後篇)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:37288319
Date: 2010/09/13 00:18
・提督と副官(後編)

私は“シヴァ”が建築されていく様を輸送艦の指令席から眺めていた。
デルタ小隊を護衛につけた工作機が忙しそうに飛んでいる。
そろそろ実験開始時刻だ。
これからユニットと呼ばれるレーザー、ミサイル、レーダー、ドックなどの
付属設備を建造し、それが有効かを試すらしい。



暇だ。
私はあのソルモナジウム鉱石をどうやって瞬間的にあんな形にするのか。とか
ドックとか中で誰が整備すんだよ。とか
レーザーは要らない子。とか
艦内で色々考えていた。


正直、問題も起き無いうちは仕事が無いのだ。
もちろん、周囲の警戒は続けているが、これだけの宙域を私たちのみで警戒するのは無理があるのだが…
しかし、デブリ帯とはいえ、これだけの大きなものを作っているからには、
いつグランゼーラが嗅ぎ付けてもおかしくない。
策敵機R-E1‘ミッドナイトアイ’で周辺を偵察させているが、
現在のところ、何も捕らえていない。
もちろん部隊の目をつぶされてはたまらないので、遠くには行かせられない。
あんな紙装甲では出会いがしらの一発で、全滅しかねないからな。


しばらく、順調に基地が増産されるのを見ていた。
その時、偵察していたミッドナイトアイから緊急連絡があった。
私は、うむ、とうなずいた後、何があったのかガザロフ中尉に尋ねた。
「提督!敵襲です。敵はグランゼーラの艦艇。」
ガザロフ中尉がてきぱきと報告する。
「策敵外のため、戦力は不明ですが、艦隊規模かもしれません。」


敵戦力が発見された方角を見て顔をしかめる。
あちらには、“シヴァ”の別のコアがある。
こちらの兵器を奪われて、やられたら目も当てられない。
ここは多少の被害を承知でR機で即効勝負を決めるべきか?
いや、敵戦力が分からないから、機密とはいえ“シヴァ”を利用するべきか…?
私がとりあえず戦闘準備をさせながらそんなことを考えていると。
「提督、敵はおそらく小型艇で構成された艦隊です。R機だけでは被害が出ます。“シヴァ”を使用し、敵戦力を殲滅することを提案します。」


緊張しているようだがはっきりした声で、ガザロフ中尉が発言した。
「ふむ、ガザロフ中尉。小型艇というのはどこから推定したのかな?」
「はい、この宙域はデブリ帯に囲まれており大型艦の運用は困難です。この宙域に来るまでに基地の側を通らなければなりませんがこれも大型艦には無理です。画像では戦闘機のような影もかなりの数映っており、とても小型の艦艇一隻には搭載できる量ではありません。このことから小型の艦隊ではないかと推測しました。」
「わかった。君の案を採用しよう。」


私はマイクを握ると艦内に放送した。
「諸君、現在グランゼーラの艦隊が護衛対象である基地システム“シヴァ”を奪取せんと仕掛けてきた。グランゼーラ軍は“シヴァ”システムの一部をすでに乗っ取っていることが予想される。よって我々も“シヴァ”を使用し迎撃・敵戦力の殲滅を行う。R機は当方工作機の護衛と、敵工作機の破壊を行う。“シヴァ”の相手は“シヴァ”にさせる。総員健闘を祈る。」
なるべく自信満々に聞こえるように作戦を伝える。
しかし、天然のガザロフ中尉がこんなにしっかりしているとは意外だった。彼女は実戦型の人間だったようだ。




私はデルタ隊を主力とした本隊と、基地に伏せておいたシューティングスター隊で、散発的に仕掛けてくるグランゼーラの戦闘機を排除しながら基地の建設を急いだ。


グランゼーラ戦闘機の主力は、可変戦闘機TXw-T‘エクリプス試作機’と爆撃機R-9B1‘ストライダー’だ。
エクリプス試作機はようは加速機構が付いたアローヘッドで、
波動砲を装備しているのだが、奴らは味方の被害をものともしないでぶっ放してくる。
別にエクリプスに限ったことではないのだが、クレイジーな奴らだ。
実はグランゼーラのパイロットは頭をTeam R-TYPEに弄られた戦闘狂で、
Team R-TYPEに復讐を誓ってグランゼーラに参加したのだ。というジョークを聞いたことがある。
Team R-TYPEという言葉が入るだけで、どんな与太話もあり得そうな気がするな。
さすがは変態科学者集団。


ストライダーは長射程・高威力の核弾頭ミサイル、バルムンク試作型を装備しており、うっかり敵の策敵に引っかかると、もれなく核弾頭が飛んでくる。
バリア弾も驚異だ。波動砲などは防げないが、並のミサイル、レーザーなどはそのエネルギー障壁によって阻まれる。
もともとバリアの構想はTeam R-TYPEでもあったらしい。
なんでもバリア波動砲なるものを作ろうとしていたとか、結局、技術的問題だかで使い物にならなかったそうだ。
そしてグランゼーラに転向した科学者がバリアをいう構想のみ受け継いでバリア弾を作ったというわけだ。


バルムンク型ミサイルはその大きさから一発しか搭載されていないのだが、ヒット&アウェイでバルムンクを連発してくる。POWアーマーに搭載できる量ではないし、輸送艦を潰しても沸いてくる。
やはり“シヴァ”のコアを乗っ取り、補給基地として利用しているのだろう。



「提督、敵機地ユニット群を発見しました。」
基地ユニットが敵陣に向かって伸び、相手の基地ユニット群とぶつかる。
基地システムは互角、戦闘機戦力もなんとか互角に持ち込んだ。
互いに一進一退して譲らない。打開策が必要だ。
我々地球連合軍の長所はフォースがあること、波動砲が標準装備であることだ。
瞬間的な突破力には非常に優れている。
しかし、波動砲はチャージ時間がかかるし、フォースも遠距離への攻撃には向かない。
ピンポイントで弱点を攻撃しないとならない。


「R機で基地ユニットを破壊せよ。攻撃をコア近くの連結部に集中せよ。当方基地ユニットはR機を援護せよ。」
基地ユニットからミサイルやレーザーが飛び交っている。
私が指揮している輸送艦からもデルタとシューティグスターが続々と補給を終えて飛び立つ。
敵の猛攻をかいくぐったシューティングスター部隊が遠距離から目標連結部を撃つ。
…さすがに腐っても基地。波動砲の一撃にも耐えた。
2隊ほど、迎撃されて被害を出しているが、
その間から、デルタが肉薄し、波動砲を撃った。
連結部が吹っ飛び、そこから伸びていた基地ユニットが崩壊する。
ミサイルやレーザーが止み、空白が生まれた。


「コアユニットの奪還が最優先だ。全機工作機を援護せよ!」
コアユニットさえ取り返せば、あとはR機で殲滅できる。
残ったR機が波動砲で牽制をしてエクリプス試作機を近づけさせない。
高速で飛び回るエクリプス試験機にはなかなか当たらないが、
敵も回避に必死でコアに近づけないようだ。
「提督!コアユニット制圧しました。我々の勝利です。」
「いや、まだだ。“シヴァ”は最高機密だ、情報を持ち帰らせるわけにはいかない。残存勢力を殲滅せよ!」
そう、私のクビが掛かっている。
ちなみに場合によってはクビではなく、「首」が掛かる。
また、軍法会議召喚の危機か…
しかし、エクリプス試験機は作戦失敗と見るや、踵を返して逃げた。
波動砲はチャージが間に合わず、デルタやシューティングスターで回りこめない。
「ミサイル斉射だ。逃がすな!」
R機のミサイルの雨がエクリプスに降り注ぐ。


次の瞬間、もはやエクリプス試作機の面影はなかった。
そこにあったのはピンク色に染まった、なんともファンシーな戦闘機だった。
「は?」
艦橋から疑問符が溢れかえる。
「ペイント弾!?どういうことだ?」
みな呆けてしまった。その隙にエクリプスはブースターを再点火し、
私達の攻撃範囲外に逃げていった。


「…どういうことだ?」
今度は微妙に声が震えていたと思う。
私の声に応えるように、艦橋中の視線がガザロフ中尉に集まる。
「あの…、もしかしたら、先日私が誤発注してしまったペイント弾頭が装備されてしまったのかと…ごめんなさい!」
「そんなこともあったな。送り返したのではないのか?」
「整備班長に相談したら、あとで盛大に部隊内演習でも開くから良いと言われまして。」
「…」


頭を下げ続けるガザロフ中尉をよそに、
私は遠い目をしていた。
最高機密ばれたわけだしな…軍法会議かな。
本当にグランゼーラに転向するか?
ダメだよなぁ、たった今グランゼーラの艦隊を撃破したばかりだからな。


ばれた時怖いので、偽装するわけにも行かず、
私は報告書と、戦闘データを統合指令本部に提出した。
今回はR機にかなりの被害が出ているので、
基地内で修理が終わるまで、この場を離れるわけにもいかない。


とりあえず先任副官として、マッケラン中尉にガザロフ中尉の事務処理教育を任せて、
私は事後処理を行いながら沙汰を待っていた。



本部からの通信で、次の指令が来た。
火星に向かえとの命令だが、
“シヴァ”についてなんにも触れてこないのが逆に怖い。
そればかりか、補充人員まで付いていた。
本部は何をしたいんだ?




==============================
そういえば、R-TYPEと冠しているのに2話目とかR-9もアローヘッドという名前すら出てこなかったんですね。反省しました。
2話目でR機とあるのはRwf-9A“アローヘッド”のことです。
STGのR-TYPEではたしかアローヘッドの型番はR-9でしたが、
TACTICSではRwf-9Aに変更されています。wは波動砲(wave cannon)を、fはフォース(force)をそれぞれ装備しているという意味みたいですね。



[21751] 5 提督と休暇(訂正版)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:80eae712
Date: 2010/09/21 22:33
・提督と休暇


先日の“シヴァ”襲撃事件の後、新しい艦長が補充された。これで艦隊が組める。
地球連合の艦長は、パイロットなどと同じく技能職だ。
緊急時ではない限り、一般士官が艦長に付くことはない。
ちなみに艦は付いてこなかったので、自前でやりくりしろと言うことらしかった。
今のところの予算の範囲内で、私は駆逐艦UFDD-02 ‘ニーズヘッグ’を導入した。
この艦はR機の積載能力は無いが「亜空間バスター」と呼ばれる特殊兵装を装備している。
その名の通り、亜空間にいる敵に対して絶大な効果がある。
グランゼーラでは亜空間機の開発が遅れており、今のところ脅威ではないが、
バイドの中には亜空間から襲ってくるものが確認されている。
対策を行って置くのも、良いだろう。
やっと輸送艦暮らしが終わる。


…と思っていたのもつかの間、
戦闘艦の中では一番小型の駆逐艦といえど、優に輸送艦の倍はある。
火星に向かうに当たっては、デブリ宙域などがある場所を通る必要がある。
万が一グランゼ-ラに待ち伏せされた時、
駆逐艦では動き回るのは骨だし、R機を搭載出来ないので逆に戦力に不安が出る。
駆逐艦で戦闘指揮をとるのは危険すぎる。
という内容を航海担当士官に提言された。
私は泣く泣く指揮を輸送艦でとることとなった。
いましばらく輸送艦暮らしは続きそうだ。

________________________________


船乗りという職業は休日というものが無い。
一度航海に出るとぶっ続けで働き続け、港に帰ると長期の休暇を満喫するのだ。
一応航海中にも非番の日というのはあるのだが、
何処にいけるでもなく、ただ仕事が無くなる日を指す。
もちろん時代が変わり宇宙航行艦と呼ばれる乗り物になっても同じだ。


私は久々の非番を取り、提督業務を艦長に一時譲渡してきた。
そういえば、何故か私の艦隊には参謀がいない。
艦長らと副官たちが一応参謀扱いになるのだが、私が戦死したらどうするんだ?


本を読むのもいいが、せっかくの非番だ、普段行かないところでも見て回るか。
新しい人員も増えたことだし、探索してみるのも悪くない。
私はいつもの将官服と提督帽ではなく、作業用ジャケットを羽織って部屋を出た。


さて、普段行かないところといえば、格納庫だな。良し行ってみよう。
私は居室から船体後部にある格納庫に向かう。
しかし、誰も私が提督だと気が付かないな。
いつも提督帽を目深に被っているからか?
普通の格好しているはずなのに、変装しているみたいな気になってくる。


格納庫はR機が待機しているハッチと、後方の整備ドック、弾薬庫からなり、それらに付属するパイロットのブリーフィング室、シミュレーター室などがある。
この輸送艦はそもそも輸送任務なんてほとんど行わないので、ほぼR機専用になっている。
ちなみにフォースは隔離区画にコントロールロッドを天井に向けて固定されている。
フォースが禍々しいという人もいるけど、私にとってバイドに対する希望の象徴だし、純粋に美しいと感じる。


ブリーフィングルームではガザロフ中尉とマッケラン中尉が事務処理練習をしていた。
なぜか発声から練習をしており、副官の心構えと書かれたホワイトボードがあった。

「常に胸を張って、姿勢正しく!」  
「報告は発声を正しく、良く聞こえるように!」
「服装はいつ何時呼び出されてもいい様に!しっかりと!」 

もっともだがそこじゃないぞ、マッケラン。
なぜ、形から入るんだ。
私がガザロフ中尉に教えて欲しいのは、
事務処理の優先順位とか、書類の通し方とか、チェックの仕方とか、そういうこまごまとしたコツだ。
…心の中で突っ込んだものの、異様な空気だったので、つい無視してしまった。
すまない、ガザロフ中尉。


__________________________________


しばらく歩いていくと弾薬庫の前に、巨大なコンテナの山があった。
「ペイント弾頭。第二次ペイント弾祭り資材のため使用禁止! 整備班長」
アレか。ペイント弾祭りってなんだ。しかも第二回って…
もしかして“シヴァ”襲撃事件のが第一回にカウントされているのか?
第二回は模擬戦の類と思うが、ペイントを落とすのは整備斑なのでは?
自分で自分の仕事を増やしてどうする。何を考えているのか。


POWアーマーだった。なぜか磨き上げられてピカピカだ。
補給機POWアーマーは第一次バイドミッションから現在まで現役のもっとも歴史ある機体のひとつだった。
ぼんやり見上げていると、後ろから声をかけられた。
「若いのにPOWに興味があるとは感心だ。」


振り向くと、油だらけの作業着に、白の入り始めた髪を短く刈った、妙に存在感のある中年男性だった。
「見慣れないが、補充された技術士官かなにかか?」
「補充された訳ではないのですが、私は…」
「名前なんていらんいらん。どうせ士官の名前なんて覚えてられん。オレはここで整備班長をやっている。おやっさんと呼ばれているな。おやっさんていうのは伝統的に整備班長のことを指す敬称だ。こう呼ばれて初めて整備員をまとめられるんだ。」
聞いていないのに一気にしゃべられた。
しかし、補充士官って…、ああ士官服のズボンに作業ジャケットだからか。
ちなみに私は部屋着以外の私服はこの艦に持ち込んでいない。
私服なんて着る機会がまったく無いからな。


「そうですか…。気になったのですがなぜPOWアーマーだけピカピカなのですか?」
非番かつ相手が明らかに年上なので敬語を使っておく。
「機体はPOWに始まってPOWに終わる。POWほど美しい機体はない!」
渋いミドルからいきなり電波を受信したようなテンションになった、おやっさん。
はぁ、と間の抜けた相槌しか打てなかった。
「そういえば、POWアーマーの上位互換機種が開発されているらしいですね。」
とりあえず、食いつきそうな話題を振ってみる。
POWの互換機種として開発中のサイバーノヴァだ。機動力の高いR機に合わせて、機動性を高くした機体だ。命綱のデコイはそのままだが、意外と空間を取る情報網介入システム…いわゆる占領機能はオミットされるということ。実戦投入はまだだがすでにテスト機が実働しているらしい。
「ほお、若いの、良く知っているな。」
「立場上知らないといけないので。」
苦笑しながら言う。おやっさんの中で私は新米技術士官と決定したらしい。
まぁ、面白そうな人だからそのままでいいか。
いつの間にか私とおやっさんは工具箱に座ってPOWについて語っていた。
おやっさん仕事はどうした。


「まだ若いな!POWの魅力はあの潔さだ、補給機能にデコイ徹底して戦いを避けつつ最前線へ進むあの姿…それがPOWだ!」
おやっさんがつばを飛ばしながら語る。
おやっさんと私はかれこれ2時間ほどPOWアーマー談義を行っている。
いつのまにか整備員のギャラリーが集まり、なぜかコーヒーや茶菓子まで用意されている。
「しかし、おやっさん。サイバーノヴァの利点である機動性も捨て難いぞ。補給機が動ければ、その分R機は前線との往復距離が減り、時間当たりの戦力が増強されるだろ。」
もはや、敬語でなくなっている私。
なんか地が出ている気がするが、どうせ非番だからいいさ。
しかし誰も自分達の提督の顔を知らないらしい。
まぁ、誰も整備ドックの片隅で作業服着た提督がいるとは思わないか。
「POWの造形美を見ろ。あのセンサー、つぶらなキャノピー、無駄を廃した優雅な曲線を!」
おお。という感嘆の声が聞こえる。
もはや、会話でなく演説に近くなっている。むしろ新興宗教のたぐいか。
整備員という人種はかくも変態でなくてはなれないのか。


「班長~。酒保の使用許可くださ~い。」
若い整備員がボード式データ端末を持ってやってきた。
「ちょっといい?」
整備斑が盛り上がっていて気づいていないので、ちょっと見てみる。
どうやら職場の長に酒保の時間外利用許可を取りに来たらしい。宴会か何かだな。
これから、会計担当と酒保担当に交渉しに行くのだろう。
会計は強敵だ。私にだって食らい付いてくる。若い兵には厳しい戦いだ。


私は、端末のカードリーダーにIDカードを通して、引き上げ処理をしてから端末を返した。
整備員はちょっと驚いた顔してから、ありがとうございますといって走っていった。
一次許可者が提督なんだから、会計・酒保担当もすんなり通るはず。
この前補給したばかりで余裕もあるからな、これくらい良いだろう。



私は、何か熱血している整備員たちに声をかけてその場を辞した。
中堅の整備員が「おう、兄ちゃんまた来いよ。」といっていた。
もはや何も言うまい。
この雰囲気は嫌いじゃない。また来てみるか。


___________________________________


翌日
「提督!おはようございます!指示をどうぞ!」
ガザロフ中尉が恥ずかしそうに大声、かつ熱血気味に副官業務していた。
後ろでマッケラン中尉がうんうん頷いていた。
私は穏やかに笑って、二人におやっさんのところで一日働くように命令しておいた。
おやっさん、人が足りないとぼやいていたからな。

さぁ、次は火星だ。





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あーあーあー、やらかしたので修正しました。

修正前は駆逐艦には積載機能がないと自分で書いておいて、
この話の舞台を駆逐艦内に設定していました。
積載機能が無いのに、整備がいたり、POWがいるとは是いかに?

ご指摘ありがとうございました。
きっと作者はバイドから精神汚染を受けていたんだネ。
新たな矛盾が発生していないかビクビクしている作者からのお詫びと言い訳でした。


そういえば副官のアッテルベリさんを登場させ忘れていました。
影薄いからしょうがないよね…



[21751] 6 提督と火星基地
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/09/21 22:35
・提督と火星基地


輸送艦の船外カメラの映像に火星が映る。
火星は革命軍が発足した火星都市グラン・ゼーラを擁する惑星だ。
「火星に特別感じるところはないな」と呟いたら
副官のアッテルベリ中尉に小官もですと呟き返された。ちょっとびびった。


このアッテルベリ中尉は格納庫に一日修行に出ているガザロフ中尉とマッケラン中尉の代わりを務めている。
ともかく影が薄い男だ。何でもそつなくこなすし問題があるわけでもないのだが…


そもそも月面演習後に配属される予定だったのだが、
彼の乗る輸送艦が予定時間に遅れたことと、人事担当すら彼が来ることを忘れていたため、配属しそこなったとのことだ。
私も月面演習後、副官が補充されるとは聞いていたのだが、同じく前々回の演習で置いてけぼりを食ったガザロフ中尉が配属されたため、もう一人副官が補充されることに気が付かなかったのだ。


その後、私の艦隊を追って、補給艦に乗って追いかけてきて
つい先日の補給の際に私の艦隊に副官として着任した。
…しかし、この艦隊に副官3人とか必要あるのか?
まともに戦艦を運用するような艦隊なら分かるのだが…
まったく本部の考えることは分からない。


ちなみに、アッテルベリ中尉が乗ってきた輸送艦から、シューティングスターの後継機である中距離支援機Rwf-9DH ‘グレースノート’を5機まわしてもらった。

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さて今回は火星基地チューリンの攻略戦だ。
目標チューリン基地火星地下にある軍事基地で、地上構造物もあるが、
機能の大半が地下にある広大な洞窟にある。
地球連合の基地だったが今はグランゼーラの手に落ち、敵勢力圏となっている。


私達は注意深くチューリンに進入した。
今回の相手は亜空間機をもたないグランゼーラ軍であることと、
狭矮な回廊が続く地形ということで、やっぱり輸送艦での作戦行動となった。
今回の指令では敵戦力ヴァナルガンド級の巡航艦を撃退せよとの命令を受けている。


「提督…作戦地点に到着しました。ご命令をどうぞ。」
「今回の目的はチューリン基地の奪還だ、前衛をデルタ隊、援護をシューティングスター隊・グレースノート隊、後衛を旗艦ヨルムンガント級輸送艦として当てる。」

通路にはバリケードが築かれており、敵本隊がいると予想される地点には迂回しないといけない。アッテルベリ中尉から情報が入る。
「あのバリケードは波動砲ならば破壊可能であるようです」
「あの独特の発射音は良く響くから敵に気付かれる可能性がある。こちらの意図を読まれて、無チャージ状態の機体を待ち伏せされたら無駄な犠牲が増える。今回は迂回路を取る。」


私の艦隊は隊列を組み、チューリン基地の内部に潜っていく、
そうしてチューリン基地の底に到達する。直前にレーダー反応を感知。
アッテルベリ中尉が淡々と報告を続ける。

「敵機を発見しました。POWアーマー1、デコイ判定不明」
「デコイの恐れがある。接触せずに撃破せよ。」
敵POWアーマーはフォースに接触しても攻撃をせず、ただ浮いている。
おそらくデコイだろう、そこまでの脅威はないが、自爆されるとやっかいなので、ミサイルなど遠距離から攻撃させた。前衛組のミサイルが直撃し、POWを破壊する。
「敵POWアーマー撃墜、後方に人型兵器アキレウス、POWアーマー発見。」
「この先には基地司令部がある。敵を撃破し、補給基地として占領する。」
POWアーマー破壊のため接近し過ぎていたデルタ各機は、近接戦闘専用機体であるアキレウスの姿を認めると、散会して後退していた。
しかし、地下通路が狭いため後退速度が鈍っていた。爆発が2つディスプレイに写り込む。期を逃さずとアキレウスが一気に詰めよりデルタを撃墜したようだ。
2機を犠牲にデルタは後退し、輸送艦に着艦した。
「デルタ補給に入ります。シューティングスター隊が前進、波動砲発射しました。」
「POWを出せ、基地指令部を解放せよ。」
「基地の開放に成功しました。提督、指令部に立てこもっていた連合兵がいたようです。グレースノートで参戦する許可を要求しています。」
「許可する。前面の人型兵器を撃破せよ。その後各機に基地、輸送艦で一時補給を行わせよ。」


アッテルベリ中尉は表情が無い顔で、淡々と報告するし、私も基本的に感情を表さないタイプだ。もちろん司令官なので多少士気高揚のために演技はするが、基本表情は固定だ。
音量を絞った外部マイクからは、ひっきりなしに爆音や波動砲の音が聞こえるが、私とアッテルベリ中尉はひたすら淡々と指揮を続ける。
空気というのは伝染するもので、初めは叫ぶように報告していた、通信係りや、艦長達も怒鳴るのをやめて淡々とし始めた。
戦闘中の指揮所とは思えない落ち着きすぎた空気。
シュールな空間だ。


「提督、目標捕捉しました。ヴァナルガンド級です。」
「うむ、あの位置は不味いな。デコイでつり出せ」
最奥に待機していたヴァナルガンド級を発見、輸送艦のデコイを使っておびき出し、クロスファイア地点に誘導する。グレースノート隊が敵の策敵外からの波動砲で艦首砲を黙らせる。そしてデルタ隊、シュティングスター隊なども波動砲をぶつける。、
ヴァナルガンド級は黒煙を吐きつつチューリンの底に墜ちた。
R機の通信からヒャッハ-とかヒーハーとかネジが飛んでそうなセリフが聞こえたが、それに便乗するには指令室の空気は冷え切っていた。


_________________________________


敵巡航艦ヴァナルガント級の武装解除を行っていた。ヴァナルガンド級は撃墜された時、低空にあったので、乗組員は比較的無事で捕虜として捕まえた。正直捕虜は扱いが難しいし、面倒なので取りたくないのだが、逃がすわけにもいかないし殺すわけにもいかないので、私の隊で預かる形となった。
ヴァナルガント級は多少修理すればまだまだ使えそうなので、修理させている。


しかし、どうにかこの副官の無表情を変える事が出来ないだろうか?
能面のような顔という比喩があるが、
アッテルベリ中尉の場合は適切ではないだろう。
能面は笑っていたり、憤怒であったりといった感情を表しているものが多いように思う。
彼の場合は何を考えているのか、これっぽっちも分からない。


チューリン基地の回復作業中に、無表情副官のアッテルベリ中尉が呼びに来た。
なんでも、私に捕虜の対応を決めてほしいとのことだった。
捕虜の中で最高位の比較的若い少佐(敵方の提督・艦長らは戦闘中に死亡したらしい)が型通りに「自分が責任をとるから部下の処遇は…」みたいなことを言っていた。
まぁ、普通に監視をつけて後方基地に輸送するのがいいだろう…と思ったが、
その前に、ここはひとつブラックジョークを…


「拷問だ ともかく拷問せよ。」
ぼそっと隣に立つ副官のみに聞こえるように呟いてみた。
これなら嫌悪なり、驚きなり表すだろう。横に立つ副官の顔をちらりと見る。
「了解しました。では自白剤と鞭と蝋燭の用意を…」


待て!何を了解してる!?
というより鞭って何だ?
いつの時代だよ?
そもそも、艦内にそんなものないだろ!
あれ?…もしかして私物?私物なのか!?
誰かの部屋の前を通ったら、音とか聞こえてきたらどうしよう?
よし、アッテルベリ中尉の部屋は、他の士官とは隔離だ!
蝋燭は他の用途があるけど、
そもそも、一部区画を除いて宇宙航行艦は裸火禁止だから!
スプリンクラー回るし!
はっ、まさかその行為は、格納庫とかで行われているのか?
そんな!開放空間でなんて怖すぎるぞ。
うっかり見てしまったらトラウマ間違いなしだ。
自白剤だって普通艦隊には無いだろ!
そんなのを使うのは、諜報部隊か、Team R-TYPEくらいだろ!
ま、まさかアッテルベリ中尉はあの狂科学者達の仲間なのか!?


一瞬の内にそんな考えが浮かび、混乱と妄想で真っ青になる私。
それを見てアッテルベリ中尉が、例の感情のない顔で聞いてくる。
「提督、お疲れなら小官のほうで処理しておきますので、お休みになられた方が…」
「い、いや!冗談に決まってるだろ。アッテルベリ中尉。彼らには条約に基づいた処遇を!」
処理って何だ。そんな考えを振り払い、
早クチで改めて命令する。
うっかりするとこの副官は実行してしまいそうだ。


それから、私は怒涛のごとく基地機能の回復や、捕虜の輸送、艦艇・R機の修理について命令を出した。
とくに、捕虜の処遇には気をつけて丁寧に扱い、早急に後方基地に送った。
落ち着くと、余計なことを考えてしまいそうだった。


基地機能の回復と艦隊の整備に数日間チューリンに留まったのだが、
私は寝不足と、過労で寝込んだ。


_____________________________________________


私が目を覚ますと、金縛りのように体が動かない。声もなぜか出ない。
首だけ巡らして周囲を見ると、そこは私の居室ではなくどこかの基地の一室みたいだった。
金縛りと思ったのは、手術台みたいなものに四肢と首を固定されているせいだった。
どうにかならないかと拘束をはずそうとしたり、助けを呼ぼうとしたが無駄なようだ。
頭がクラクラする。体が火照って熱っぽい。
どうして、こんな場所にいる。
私は疲れが溜まっていたので居室で早々に休んだはずだ。
それからの、記憶が無い?
グランゼーラの残党に拉致されたのだろうか?
いくら疲れて寝てても、拉致されて起きないほど私は鈍感ではないぞ。どうなっている?
遠くから規則正しい足音が近づいてくる。
救援か?マッケラン中尉かガザロフ中尉が気づいてくれたか。
それは扉の前で止った。
扉が開き現れたのは助けでなく、何故か士官服の上に白衣を着たアッテルベリ中尉だった。
出ない声にイライラしながら、アッテルベリ中尉を見やる。
アッテルベリ中尉が無表情のまま、声だけ楽しそうに語りかけてきた。


「おはようございます提督。気分はどうですか?自白剤を使ったので記憶に混乱があるかもしれませんが、じきに薬が抜けますからご心配はいりません。しかし提督、様子がおかしいと思ったら小官がTeam R-TYPE所属だなんて、良く気付きましたね。その推理力は大変すばらしいと思います。しかし、残念ながら我々の研究の障害になるものは取り除かなければなりません。安心してください、艦隊の皆さんには栄転で、本部の所属に変わったと伝えますから。もちろん提督の献身も無駄にはしません、ちゃんと小官が新型試験機のインターフェイス実験に貢献させてあげます。 さぁ、実験開始です。」


私の上にあるライトが一段と明るくなる。
アッテルベリ中尉が私の顔を覗き込むように迫ってきた。
逆光で表情は分からない。
そして、いつの間にか持っていたメスを私の眉間に…


























_______________________________________________


…そんな夢を見た。


起床時間よりだいぶ早い。
ものすごい汗をかいて、気持ちが悪い。口の中がからからで喉が張り付くみたいだ。
しばらくしても体の火照りと眩暈が取れないので、医務室に行ったら、
軍医から過労から来た風邪だから寝ておけば直ると言われて、解熱剤を貰った。
現在、担当の副官はまだアッテルベリ中尉だが、彼に連絡するのは、非常に躊躇われたので、
先任副官ということでマッケラン中尉にメールを送り、ダウンしたことを伝えた。


私はしばらくアッテルベリ中尉を避けつつ提督業務を行っていた。
例の品々を秘密グッズとして、購買の下士官が売っているのを知り、アッテルベリ中尉への疑惑が晴れたのは1週間後のことだった。
しかし、自白剤だけは売ってないみたいなので、恐る恐るアッテルベリ中尉に聞いてみたら、チューリン基地の規模なら、尋問室か医務室に置いてあるとの事だった。
…なぜそんなことを知っていたのか。
また疑問が増えてしまった。





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前回出し忘れに気付いたアッテルベリ中尉の回です。

はい、反省しています。
プロットでは、こんな話ではなかったはずなのですが…
アッテルベリ中尉は空気だったはずなのに、なんか濃ゆくなっちゃった

このまま、
提督失踪→ワイズマン配備→「この機体って、パイロット見ないよね」
っていう流れでも良いような気になったのは秘密です。
ある意味、その方がR-TYPE的には正しいのかもしれないですけど。
結局、話が明後日の方向へ飛んでってしまったので、最終兵器「夢オチ」を使いました。

…ところで、正直この小説って戦闘描写必要ですか?



[21751] 6話派生 BAD END ※超ネタ
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/09/29 02:46
※注意:この話は第6話からドロップアウトした本連載とは関係ないトンデモ設定のネタです。
    ぶっちゃけ、6話の夢オチしなかったらバージョンでBAD ENDです。
    執筆中に作者が病んでいたためダークです。
    大概の事を笑って許せる大人な方のみお進みください。




・思考の残渣


私の上にあるライトが一段と明るくなる。
アッテルベリ中尉が私の顔を覗き込むように迫ってきた。
逆光で表情は分からない。
そして、いつの間にか持っていたメスを私の眉間に…





________________________________







私はなんであったか…
手を動かそうとして動かないことに気が付く。
〈〈エラー報告:出力機関検出不能。別の出力先の指定を要求〉〉
感覚が無い。そこで、手とは何だったかと思い直す。
〈〈検索:手...脊椎動物の前肢末端部にある器官。人間の腕の末端〉〉
そう手、私には手があったはずだが…あれ、他の器官は?
〈〈検索:稼動ユニット...メインエンジン;ロック、後部ノズル;ロック、レールガン;ロック、メインカメラ;ロック、センサー;ロック…〉〉
そんなもの持ってたかな。
私は何をしているのだったか?
〈〈自己診断:スマート・インターフェイス・システム稼動テスト中、思考ユニット稼働率14%〉〉
そうだっけ。もっと大切なやらなきゃいけないことがあったと思うんだけど。
〈〈エラー:曖昧さの回避を要求〉〉
うーん、私のすべきことは?
〈〈自己診断:最終目標;BYDOの殲滅〉〉
そうだ、バイドは人類の敵だ。BYDOは排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除排除…
〈〈警告:思考ユニットへの負荷増大。〉〉
〈〈実行:エラーの消去。思考ユニットの強制停止。鎮静剤投与〉〉
〈〈報告:思考ユニット稼働率1%、スリープモードに移行〉〉


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白衣の男が2人データを見ながらつぶやく。
「暴走原因は感情制御が外れ、思考ユニットの暴走が起こったせいです。」
「思考パターンが自由すぎるんじゃないか。それとも自我が強すぎるのか。もっと思考抑制を強くして、指向性を入れた方が良いんじゃない?」
「思考抑制は戦略・戦術立案能力、その他自発活動を低下させます。ただの大容量コンピュータとしての機能であれば、従来型のユニットで十分です。スマート・インターフェイス・システムは従来ユニットでは行えない。戦略立案能力・統率能力を持たせるのが目的です。」
「思考ユニット群の指揮官か。うーん、しかしこの頑固さはなかなかだな。」
「ええ、素体はSIS型思考ユニットへの適性を見て、一定期間の調査後選抜。あまり感情的には見えなかったのですが。」
「ジュピターアカデミーを14で卒業した天才君でもミスはあるんだな。まぁ、はじめっから上手く言ったら実験はつまらないさ。」
「研究は手段です。目的ではありません。」
「君も固い、Team R-TYPEの所属とは思えんな。軍人のフリなんかしてるからだ。」
「私はもともとこのような性格です。所長」
「根をつめないことだ、アッテルベリ主任。疲れは思考を鈍らせる。では報告書は読んどくよ。」

白衣の人物が一人部屋を出て、若い方が残った。


「オヤスミ、提督。」


消灯


―BAD END―




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BYDO ENDでもBAD ENDでもあまり行きつく場所に違いはない気がする。
病んでいますね。でもこういう方がR-TYPEっぽくてほっとする自分がいます。



[21751] 7 提督とグルメさん
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/09/21 22:52
・提督とグルメさん


火星基地チューリンでの奪還任務を終えた我々への次の任務は、
要塞ゲイルロズの奪還だ。
この任務に私は腑に落ちないものを感じた。
何故なら、我々がチューリンを確保している間に、
政治犯収容施設を含む火星都市‘グラン・ゼーラ’が、グランゼーラ軍に奪われたからだ。
惑星の反対側のこととはいえ、火星方面防衛艦隊である我々が、向かうのが普通だと思うのだが、
本部は火星方面防衛の任を解き、わざわざ、木星―土星間にある要塞ゲイルロズの奪還に向かえと言っている。
グランゼーラは外惑星に多くの拠点を持ち、土星圏はすでにグランゼーラの勢力圏内だ。


なぜ、あの時期に演習を立て続けに行ったのか。戦争中にも関わらずだ。
なぜ、元々R機連隊であった我々に不相応な任が当てられるのか。
なぜ、その他の艦隊を差し置いて、最新機が優先的に配備されるのか。
なぜ、極東演習の件や‘シヴァ’襲撃事件での失態が見逃されているのか。
なぜ、小規模艦隊である我々の元に、将来有望な副官が次々に送り込まれるのか。
なぜ、私が准将なのか。いくら戦死者が多いといってもこの若さで将官は異常だ。


これではまるで、英雄ジェイド・ロスの辿った道のようではないか。
本部は、士気高揚のため英雄でも作ろうとしていのだろうか。
そのわりに宣伝工作は行われていないようだし。
一艦隊でちまちま攻撃するより、艦隊を派遣して一気に片をつけた方が盛り上がる。
しかし、各艦隊は地球周辺の防衛任務に就き、守りを固めている。


本部は何を考えているのか?
我々に何をさせたいのだろうか?


_________________________________________________________


そんなことを考えながら、ガザロフ中尉の淹れてくれた紅茶を飲みながら居室で資料をまとめていた。
…スコーンの山は後で、整備斑にでも差し入れよう。
ここは火星で手に入れたヴァナルガンド級の居室だ。
ヴァナルガンド級は艦首砲のヴァーン砲や各種武装を装備した巡航艦で
ちゃんとR機の積載機能がある。


私の艦隊はそろそろ木星圏に突入しようとしている。
ここに来るまでにアステロイドベルト帯とイオで2戦あった他は今のところ静かなものだ。
要塞ゲイルロズは今まで何回か他の艦隊が攻撃を仕掛けたが奪還できなかった。
要塞の名前は伊達じゃないらしい。激戦が予想される。
そのため、弾薬を節約するために木製の雲の下を通り、グランゼーラ軍から隠れて進軍する。


火星のチューリン基地を出る前にだいぶ戦力強化を行った。
木星衛星イオの地熱発電施設でも、人員と戦力の補充を受けた。
新たな副官と艦長とパイロットチームだ。
新しい副官はディアナ・ベラーノ中尉という大人の魅力を振り撒くお姉さんだった。
彼女は着任そうそうに値踏みするような眼で私の事を眺めていたが、
にっこり笑って声を掛けてくれた事を考えると、彼女のお眼鏡にはかなったようだ。


このヴァナルガンド級を鹵獲したのをはじめとして、
単機での亜空間突入が可能である強化戦闘機Rwf-9Ac ‘ウォーヘッド’を回してもらったし、
木星衛星イオでは対バイド戦において高い攻撃力を誇る火炎武装機Rsf-9Sk1 ‘プリンシパリティーズ’、同型機がバイドミッションへの参加経験をもつ武装試験機RXwf-10‘アルバトロス’を受領した
弾薬も大量に補給した。


__________________________________________________________



さて、艦隊は木星大気に突入した。この辺はまだグランゼーラの艦艇はいないみたいだ
このまま木星の雲に隠れて行ければいいのだが。…そうも行かないみたいだ。
「提督、バイド反応を確認しました。大赤斑にバイド集団がいる模様です。」
ベラーノ中尉が報告する。落ち着いている。


私は戦闘準備を始めさせる。グランゼーラかと思ったがバイドがいるとは…
第一~三次バイドミッションに参加したようなベテランは人数が圧倒的に少ない。
大概は戦死しているからだ。それだけ以前はバイドの攻勢が激しかった。
我々の艦隊もバイドとの戦闘経験は少ない。私自身もバイド戦の経験はそんなに多くない。


そもそも、バイドとは太陽系外からきた敵性生命体だ。いや生命体なのかも怪しい。そして、生命や人類に対し異様なほどの敵意をもっている。
粒子と波動両方の性質を持ちあらゆるものを取り込み、変質させる。
バイドに取り込まれることをバイド化と呼んでいる。
バイドのもっとも恐ろしいのはバイド化だ。
機械や無機物をはじめ、生物をも取り込みあの生理的嫌悪を催す姿に変えてしまう。
汚染体がひとつ、人類の生存圏に存在することさえ、人類の生存を脅かす。


まずいな、バイドを見て浮き足立っているようだ。
横目でベラーノ中尉を見るとにっこり笑って爆弾を投下した。


「これだけバイドがいると、ちょっと美味しそうに見えてきますよね。」


はい?なんと言いましたか?
緊張を和らげるために言ったのでしょうが、逆にスタッフが凍っている。私も表情を保つのに苦労した。
「あら、冗談ですよ。提督。」
ベラーノ中尉がみんなに聞こえるように言うと、みなホッとしたように動き出した。
うまいな。と感心し、ベラーノ中尉に小声でささやく。
「私の役目を代理してくれて、ありがとう…しかしショッキングすぎないか?」
「こういうものは衝撃が大きいほど効果があるんですよ。」
上目遣いで笑うベラーノ中尉。反則だ。


ショックから立ち直った指令室スタッフが、私の命令に従ってR機に指示を出してゆく。
ベラーノ中尉もその後は普通に報告を行い。補佐してくれた。
ジョークセンスが微妙なだけで、まともな副官だ。
木製の強風に流されないようにしながら、大赤斑に到達する。
さぁ、行こうか。


襲い来るバイドの群れを、波動砲でなぎ払いながらじりじり前進する。艦隊。
再生機構を有するバイドはミサイルやレーザーでは決定打にならず、
直進する通常の波動砲では、すぐに別のバイドが埋めてしまいなかなか、前へ進めない。
その中でプリンシパリティーズは目覚しい戦果を挙げていた。
スクリーンでは豆粒にしか見えないR機が、火炎波動砲を撃つたびに、膨大な熱が生まれ火炎に呑まれたバイドはほとんど形もなく消え去っていく。


じきに、他のR機がミサイルでバイドの動きをけん制し、
プリンしパリティーズが焼き払うというパターンを作り掃討した。
バイドは基本的に戦術を弄することはない。
待ち伏せのようなことはするのだが、こちらの意図を読んで作戦を変えることは無い。
物量や恐ろしさは圧倒的だが、作戦という意味ではやりやすいのが救いだ。
そんなことを考えているうちにプリンシパリティーズがバイドの輸送艦ノーザリーに肉薄している。おそらく、あれがバイドの旗艦だろう。
バイドの例にもれず嫌悪感をもたらす造形だ。
プリンシパリティーズがノーザリーに火炎の洗礼を降らすと、
その外側の装甲が剥離したノーザリーが燃えていく様子が見て取れた。


「焼きノーザリーて、バーベキューのウインナーみたいですよね。」
「ベラーノ中尉、やっぱり…」


普通の副官が欲しい。


_________________________________________________________


ちなみにその夜の夢には、

ファストフード風のカウンターから
「はい、バイドバーガーセットですね。セットメニューはノーザリー串で、お飲み物は地球の水でよろしいでしょうか!」
と、ベラーノ中尉の声でしゃべる、ユニフォームを着たドプケラドプスが出てきた。
とりあえず暫くハンバーガーは食べたくない。




================================
ギャグ路線で書くと、登場人物がことごとく色物になりますね。
ベラーノ中尉もご愁傷様でした。
しかし、基本的にこの小説は提督の妄想日記なので、
実は変人は提督だけで後は普通なのかもしれません。

ちなみに最後のは、某動画をインスパイヤしました。ファストフード店ではないのですが



[21751] 8 提督と第二次基地戦争
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/09/21 22:54
・提督と第二次基地戦争


現在、木星-土星間にある要塞ゲイルロズはグランゼーラ軍に占拠されている。
攻略にあたり木星方面の艦隊との共同作戦に参加するようにと本部から指令が入った。
また、火星基地チューリンの時のように、1艦隊だけで特攻させられるのかと思ったが、
そこまで本部も鬼畜ではなかったようだ。
その作戦の一環として、我々の艦隊は土星宙域に確認された“シヴァ”に似た敵方基地建設システムを破壊する。後方かく乱を行い、ゲイルロズ攻略戦で万全を期すためだ。


土星に向かおうとしていたとき、事故が起きた。
保安のハヤシダ隊員が貯水槽を誤って破壊してしまったのだ。
どうやったら巡航艦の貯水槽を空に出来るのか。…外壁を爆破でもしたのか。
水の補給のために、木星衛星エウロパに寄るはめになったのだが、
水の補給中にグランゼーラ軍と鉢合わせになってしまい。小規模の戦闘が起きた。
戦闘終了後、水上攻撃艦エーギルの設計許可書が送られてきたが、なぜ今更。
本部の考えることは本当に分からない。


戦闘も無事に終わった後に、ハヤシダ隊員に対する処罰を命じた。
宇宙航行中に水槽を破壊とか、テロに匹敵する行為なのだが…
「宇宙空間で水を失うということは部隊全員の命に関わる重大な失態だ。しかし、故意ではなく今までの勤務態度も良いと聞いている。ハヤシダ隊員、反省文の提出を持って処罰とする。詳細は追って通達する。」
ハヤシダ隊員は明らかにホッとした顔になり、それからまた顔を引き締めていた。
あまりに、厳罰を下すと隊員達の心が離れるからな。反省文あたりが落としどころだろう。
…後で、反省文について、期限3日、400字詰め100枚分と通達しておいた。
100枚の反省文とか、どんな作文が上がってくるか楽し…きちんと確かめなくては。


土星宙域に我が艦隊は進軍した。
しかしここまで“シヴァ”と同じものを作るとは…あのファンシー戦闘機のせいか。
あいつのせいで、私のクビが飛びかかったのだ。
この基地建設システムは何があっても破壊する。そう心に誓った。
ちなみに今回の副官は前回“シヴァ”襲撃事件でやらかしたガザロフ中尉だ。
汚名を‘挽回’すると言っていたが本当に大丈夫だろうか。


2度目の基地戦は基地対基地の戦闘になった。
初めこそ、R機が何機か出てきていたが、それらも今はいない。
両軍とも大規模な戦闘を前に、R機や艦艇の消耗を嫌ったからだ。
そういえば、嫌な思い出のあるエクリプス試作機が居たので破壊してやろうとしたのだが…
どこにいったのだろう?





ひたすらに成長した基地が2つ。
敵は前回の教訓から、基地の連結部がネックと判断したのか、複数の連結を持つ一塊のずんぐりむっくり型の基地群を形成した。おそらくあのユニットの塊のどこかにコアが隠されているのだろう。
一方、我々はにょろにょろと3本の枝を伸ばした形になった。この枝を敵コアユニットの側まで伸ばし、その先に陽電子砲ユニットを作成し、敵コアユニットをぶっ飛ばせれば作戦成功だ。


うむ、千日手になった。
我々の基地ユニットの枝はコアユニットにたどり着く前に、敵ミサイルユニットに剪定され、
敵の基地ユニットの塊は射程が足りないため、我々の基地ユニットの基部を断ち切るには至らない。末端のユニットを潰すので精いっぱいだ。
お互いに基地を作っては潰され、潰されは作ってと、暫く続いた。


「何か、打開策がないと…ガザロフ中尉、君の考えはあるか?」
「私の作戦…ですか?」
丸投げではない。私もちゃんと考えた。
ハヤシダ隊員を含む保安隊に白兵武装させて、敵基地に突っ込ませるとか。
突入してすぐに、保安隊のいる基地ユニットを解体・爆破されるし、
他の隊員が可哀想だから、この作戦は私の心の中だけに留めておくことにする。
「提督。基地の連結ユニットの内部をRユニットで進軍、敵コアユニット近くまで一気につめ寄り波動砲でコアを破壊するのはどうでしょう?基地内部は幅ギリギリですがR機が飛べないことはありません。」
「ふむ、このまま敵勢力圏内に長く留まるのは良くないな。やってみよう。」


「全艦隊へ作戦の変更を伝える。R機で基地ユニット内部を通って、敵に肉薄し、波動砲でコアを破壊する。現在、我々の基地ユニットは敵機地コアユニットに向かって、3本の枝の様に伸びている。敵コアユニットがあると予想される座標は3つ、見方基地ユニットの内部をつたって、それぞれコアユニット想定座標付近まで進軍し、波動砲でコアを破壊する。」

私は言葉をいったん切る。指令室内では不安そうな顔がちらほら見える。
しかし幸いにも、パイロットらからダメ出しは来なかったようだ。

「この作戦で使用する基地ユニットの通路について、目標コアの近い順に第一、第二、第三トンネルと呼称する。一番近い第一トンネルはウォーヘッド隊、敵の壁が厚い二番トンネルはグレースノート隊、もっとも遠い第三トンネルは足の速いプリンシパリティーズ隊に任せる。自信の無いパイロットは今すぐ申し出ること………いないな? では、波動砲チャージが済み次第、各自基地ユニットの通路を通って敵コアユニット予測座標に向かえ。」

パイロット達から気合の入った声が聞こえた。
彼らの負けん気に火がついたようだ。
全機、波動砲をチャージし終えてトンネル潜りに向かった。


「第一トンネル、ウォーヘッド隊目標座標を射程に収めました。」
「波動砲斉射!」
第一トンネルの近距離かつ足の早いウォーヘッド隊が目標一番乗りだった。
コアユニット予測座標に波動砲をたたき込むのが見える。
拡散波動砲が目標を包み込むように破壊する。
「波動砲範囲外のユニットは健在。敵コアユニットは他の地点です。」
「次!」

次点は第三トンネル、足の速いプリンシパリティーズ隊が到着した。火炎波動砲は機械にはそこまで効果が高くないが今回は問題ないだろう。
「第三トンネル、プリンシパリティーズ隊目標地点に到着しました。」
「波動砲!」
「基地群健在…こちらも違うようです。」
「第二はどうなった。」
「あと10秒で目標地点に到着します。……グレースノート隊到着を確認。」
「よし、これで最後だ。波動砲斉射!」


グレースノートの長距離射程の波動砲が、基地ユニットの壁の奥にあるコアユニット予想座標を打ち抜く。
一拍置いて、基地群のそこかしこで爆炎が起こり崩壊してゆく。艦橋スタッフも沸き立った。
その光景をみて私は、作るのも壊すのも一瞬のこの基地システムは、破壊と再生の神“シヴァ”の名に相応しい。しかし、このネーミングをした奴はかなりの皮肉屋に違いない。そう思った。


そういえば、あのエクリプス試験機は結局最後まで出てこなかったが、
基地ユニット群の崩壊に巻き込まれたのだろうか?
もし、生き残っていたら、今度こそミサイルでぼこぼこにしてやるのだが…
私は飛び跳ねて喜んでいるガザロフ中尉を横目に考えていた。
ガザロフ中尉。なんでもいいから、早く被害報告あげてくれ。


ガザロフ中尉が戦勝祝いにクッキーを焼いてくれた(いつ焼いたのか?)。
身の危険を感じたので、今日の一番の功労者であるパイロット達にあげても良いかと聞いたら、
快く了承して格納庫に持ってってくれた。危ないところだった。


私は事後処理をして、ゲイルロズに進路をとってから居室に戻り、航海日誌をまとめた。
今日はぐっすり眠れそうだ。



==============================
TACⅡ原作での話しですが、基地ユニットのあるHEXを通過するときは、
デブリがあろうと地形効果無視になりますよね。
あれって、基地内の通路を戦闘速度でぶっ飛ばしていると思っていました。その妄想から出来た話です。
あとは映画大脱走とかエスコンの名物、トンネルくぐりも脳裏に…
ちなみに実際に移動デモを見ると基地通過時もちゃんと外を飛んでいます。



[21751] 9 提督と幽霊
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/09/21 22:30
・提督と幽霊


来るべきゲイルロズ攻略戦に備えるため、今日くらい早めにベットに入って寝よう。
艦隊自体は急がせるが巡航速度なら私が指揮所にいる必要はない。
久々の8時間睡だ…まどろんだ所で携帯用端末から呼び出しが掛かる。緊急用の呼び出し音だ。すぐに覚醒する。端末からのマッケランの声が耳に突き刺さる。
「提督、非常事態です!すぐに司令室に上がってください!」
ハンガーに掛けてある将官服に、提督帽を身につけ司令室に急ぐ。
40秒は切っている。非常召集要員もびっくりの速さだ。非常召集要員は当番制なのに提督は毎回だからな。


「何があった。」
もしかして、ハヤシダ隊員が反乱でも起こしたのか。
それとも、パイロットが全員クッキーに当たったか。
そんな、アホな妄想をしながら、勤めて冷静に振舞う。
指揮官が慌てると伝染するからな。
「提督!ゲイルロズ攻略のために集結していた我が軍の主力艦隊と、グランゼーラのゲイルロズ駐留艦隊が戦闘に入った模様です!」
「主力艦隊が先に戦闘に入っている?我々の到着を待たずにか!?不測の事態か…グランゼーラの駐留艦隊は精鋭と聞く、主力艦隊とて荷が重い。全艦第一戦速。進路、軍事要塞ゲイルロズ!」


要塞ゲイルロズは木星―土星間に浮かぶ巨大な建設物だ。
バイドミッション中には防衛の要として最前線となった要塞である。
大きさこそ冥王星基地グリトニルに譲るが、グリトニルは外宇宙ワープ施設を兼ねているのに対し、軍事基地としてゲイルロズは破格の大きさだ。
我が艦隊がゲイルロズの後方である土星をかく乱し、味方主力艦隊と合流後、
一気にゲイルロズの司令室を奪い返し、開放するという作戦だったはずだ。


私の目の前には味方の艦艇、R機などの残骸が散らばっている。
この残骸は私達が合流するはずだった主力艦隊のようだ。まだ戦闘があって間もない。
敵部隊も被害を出しただろう事が残骸から分かる。
敵の体制を整えない内に突入した方が良いのは分かっていたが、
救難信号が発信されているのに無視は出来ない。
私は各艦に救助を行うように命令した。


敵を警戒しながらの救助は思うようにはかどらない。
旗艦ヴァナルガンドでも生き残りの収容ををしていたところ、レーダー手が報告をした。
「熱源反応多数!」
策敵は出来ない距離だが、グランぜーラの艦艇が見える。
「収容作業は一時中止せよ。戦闘配備!」
ここは士気を上げていかないと持たないな。
熱いのは得意でないけど、ビシッと決めないと。
久しぶりに演説モードに入ろう。そう思ってマイクをもって全艦につなげる。


「ゲイルロズからの攻撃が始まろうとしている。
だが現在、我々に残された力は少なく、ゲイルロズ駐留艦隊の力は強大だ。
それでも我々は戦わねばならない。
なぜなら、我が艦隊は敵に後ろを見せないからだ!
残された戦力を結集して、ゲイルロズに最後の攻撃をかける 。
総員、戦闘開始せよ!」

E・U・F! E・U・F!!


どこかで聞いた演説をもじってみたのだが、意外とみんなノリが良い。
突っ込みどころ満載なはずなのだが、そういう野暮な人間はいない様だ。
主力艦隊が打ち減らしてくれたお陰で、だいぶ敵戦力も減っている。
後は戦意が下がらない内に、突入するだけだ。
「全艦、突入!味方艦隊の犠牲を無駄にするな。」
冷静に、でも士気を下げないように命令を下す。


旗艦ヴァナルガント級で敵やデブリを蹴散らしながらゲイルロズのドックを目指す。
いまさらなのだが、このデブリって味方艦隊の残骸だよな。
進軍の邪魔なので躊躇なく破壊しているのだが、生存者とかいない…と信じたい。
ゲイルロズは3段ドックの先に輸送艦がぎりぎり波入れる位の通路があり、そのさきのメインシャフトを抜けると司令室がある。巡航艦ヴァナルガンドは通路を抜けられないため、ドックまでしか入れない。


よし、ここから煽…指揮をするか。
艦隊司令官のなかにはわざわざ輸送艦を旗艦にして、最前線で指揮を取るものもいるそうだが、わざわざ正面に行くなんて理解できない。
R機も何機か直衛に回さなければならないし、輸送艦なんて波動砲でほぼ一撃だし、戦死したら士気に関わるし、壊走しかねないだろう。逆に邪魔だと思うのだが…。


突入前に煽ったお陰で、R機パイロットたちはいい感じにキマってる。
脳内麻薬とかドバドバ出ているのだろうか、トリガーハッピー風なやつが多いな。
ああはなりたく無いが、はっちゃけられない私としては少しうらやましい。


途中から現場指揮に任せたため、正直余りやることが無くなった。
私の出した命令は単純「1機に、2機以上でかかれ」だ。
戦争は物量が物をいう。不利な攻撃側で、主力艦隊を欠く我々は戦力が小さい。
どうするか、局所的に戦力を集中して、そこだけ物量で勝ればいい。
昔から言われてきたことだが、いまだに有効な手段だ。
フォースやデコイで釣って、出てきたところを波動砲やミサイルでぼこぼこにする。
コツは戦場を限定して余計な敵を呼込まないこと。


突入から3時間に及ぶ激戦の後、司令室を占拠したと連絡があった。
グランゼーラの士気が下がり、一部の敵は脱出を始めたようだ。
我々の戦力では追撃までは手が回らない。


ゲイルロズ奪還後、我々は生存者の救助に向かった。
救難信号がかなり減っている。エアーが持たなかった者や、戦闘に巻き込まれた者…
ゲイルロズの入り口付近で、しばらく、救助を行ったが救助できたのは、
主力艦隊の規模に比べると、生き残りはほんの一握りだった。


その夜、戦勝で沸いた艦内だが、一部では「もうしわけありません」とつぶやくような声を聞いたという者が多数現れた。無念のうちに死んだ主力艦隊の隊員の幽霊だ。などという噂が、広まった。人の出払った居住室のあたりや、その奥の医務室あたりで聞いたという。いつの間にかゲイルロズの幽霊などという名前まで付いていた。なんでもゲイルロズで救助するも死んでしまった主力艦隊の隊員が、自分のミスで死んでいった仲間に「もうしわけありません」と謝り続けていて、自分が死んだこの艦にくっついてきてしまったらしい。
良く考えるものだ。


私も常ならば一笑に付していたのだろうが、実は私も聞いていた。ぶつぶつと呟くような声だ。大勝利に艦内の乗組員のほとんどが酒保や食堂などで盛り上がる中、人気の無い居住区の通路で聞いた。その時は気にも留めなかったのだが、後でゲイルロズの幽霊の話を聞いて、あれがそうかと思った程度だった。


「もうしわけありませんでした…」
「提督、このたびは部下の不始末でご迷惑をおかけし申し訳ありません。」

任務中に貯水槽を破壊したハヤシダ隊員だった。そういえば反省文の提出期限か。
死んだ魚のような目をしたハヤシダ隊員と彼の上官が反省文を提出に来た。
ハヤシダ隊員がやばい感じだったのでとりあえず下がらせた。
反省文100枚分はやりすぎたか。と引きつつメモリーを受け取った。


紅茶を飲みながら、ボード型端末で反省文を読む。
活字中毒というほどではなくても、活字を読むことは楽しい。
さて、どんな反省文になったのやら。
必死に尺を稼ごうとしたのか、事故に至るまでの理由や要因、行動についての考察や、分析が書いてある。刺激の足りない艦内では面白い読み物だと思う。
謝罪文が20枚分くらい続いた後、突然

もうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありませんもうしわけありません…

ホラー小説か。
たまに誤字がみられるので、コピー&ペーストではなく真面目に打ち込んだのだろう。
400字詰めで80枚分…10文字なので、3200回も書いたのか。
端末に、もうしわけありません。と延々と打ち続けるハヤシダ隊員…
怖すぎる。


後でマッケラン中尉にハヤシダ隊員の部屋を調べさせたら、
ゲイルロズの幽霊出現スポットの真ん中だった。


ゆうれいの しょうたいみたり かれおばな



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ゲイルロズ攻略という重い話に耐え切れず、
つい出来心で、地球防衛軍3ラストの演説パロりました。
しかしおかしい、序盤の難関ゲイルロズが空気だ。

本日の睡眠時間は30分だったので、
8時間睡眠の提督いいなと思って書いてました。眠い

今更に、提督とか司令官が戦闘指揮する場所は艦橋ではなく指令室ではないかと、
思い立った。修正してきます。



[21751] 10 提督と思い出話
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/09/27 23:39
・提督と思い出話


要塞ゲイルロズを奪還したのもつかの間、報告書を上げるとすぐに次の指令が届いた。
土星内部でバイド反応が確認されたので、その確認と、バイドが確認された場合は撃破せよ。というのが内容だ。
まぁ、バイドをほうっておく訳にもいかないし、土星に一番近い舞台は私達だから仕方が無い。
グランゼーラ軍の中核であったゲイルロズも奪還したし、あと一押しで休戦に持ち込めるだろう。
いっそ、戦争が終わったら退役するか。


ところで、地球連合軍には提督は退役できない。という恐ろしいジンクスがある。
連合軍では40歳過ぎのベテラン将兵は貴重な存在だ。
これは、かつてバイドの攻勢の激しかった頃、多くの艦隊が壊滅し、
現場の将兵のほとんどが戦死したためだ。


当時の艦隊司令官らは、自分達の命を含む全ての戦力の投じて地球を守りきったが、
その代償としてバイド反攻作戦であるバイドミッション発動までに、
地球連合艦隊はその戦力の7割を喪失した。
軍は数度に及ぶバイドミッションを発動。バイド中枢へ攻撃を行った。
損害は大きかったが一時的に地球圏へのバイドの圧力を減じることに成功。
その機を逃さず地球連合軍は軍の再編成を行った。


防衛線の内側である木星以内では工廠などの設備被害が軽微であったため、艦艇やR機は比較的早くに補充できた。
またこのとき、主力戦艦ヘイムダル級を基に改良したテュール級、新たに設計したヨトゥンヘイム級などの戦艦を開発している。
このとき艦隊の無人化などの案も出たそうだが、バイドの無機物、特に機械類への侵食の早さはすでに知られていたため、却下された。
無人艦隊がそのまま敵に回ることを危惧したためだ。
当時すでに、人間やその他の高等生物は比較的バイドの侵食に抵抗性があり、低濃度であればバイド汚染下での一定時間の暴露に耐えるという結果が、Team R-TYPEからもたらされている。これは人間が運用する機械類にもなぜか適用されるらしい。
…どうやってそれを調べたんだ?想像できるけどしたくない。


しかし、艦艇を運用するには経験が物をいう。
艦艇は揃ってもそれを運用する将兵が圧倒的に足りなかった。
実戦経験のある将官はほとんど戦死し、残っているのは新兵、事務要員、予備役ばかりといった有様だった。
このため、軍は指揮官養成プログラムを作成し、指揮官の急造を図った。
新兵の中で適性があるものに、このプログラムを受けさせ、小規模部隊で経験を積ませて急造の指揮官としたのだ。
‘若き英雄’ジェイド・ロスもこのプログラムで指揮官教育を受けた提督だ。

現在、艦隊司令艦は現場各地を渡り歩いたベテランではなく、技能職となっている。
私の頃には士官学校に入ると適正を判断し、入隊と同時にプログラムを受けるようになってた。


私ももちろんこのプログラムを受けて指揮官になったわけだが、英雄ジェイド・ロスにあこがれていたので、自分に指揮官適正があることが分かったとき本当にうれしかった。
その時から私の「クールでカッコいい指揮官になろうぜ」作戦が始まったのだ。
…決して無個性すぎると教官に言われたから、人格改造に走ったわけではない。


まず、第一条件であるちょっとやそっとでは動じない度胸を身につけようと、私が思い立ったのはバンジージャンプだった。その発想はどうかと自分でも思うが、当時はいい考えだと思っていた。私は休日ごとに各地にジャンプしに行き、ついには表情を変えずナチュラルにジャンプできるようになっていた。
同期達に「クレイジージャンパー」だのと恐れられたが、
クールな指揮官はそんなことを気にしてはいけないのだ。

またあるときは発声練習を行っていた。
指揮官に必要な技能として、部下を命令する技術が必要と考えたのだ。
このときマッケランの様に大声ではなく、威厳があって、安心する声であることが重要だ。早口でも聞取りやすく記憶に残るように話さなければならない。怒鳴るなど論外だ。
この時期は隣室の同期達に避けられていた。
クールな指揮官はそんなことを…

またあるときは演説を聞きまくっていた。
指揮官は隊の士気を高めるために、部下を鼓舞することも重要だからだ。
伝記物を読み漁り、演説シーンのある映画やマンガを見て勉強した。果ては街頭演説を聞いたりしていた。反政府派の演説を聞いていたことがばれたときは、さすがに教官に怒られた。
しかし理由を説明したら、すごく微妙な顔をして納得された。「ミスターマイウェイだからなぁ」
クールな指揮官は…

またあるときは、整備科の授業に紛れ込んだ。
艦隊指揮官は各種兵装の運用に詳しい必要があると思ったからだ。
運用に整備の授業はあまり必要ないと思うが、当時の私はそうは考えなかったようだ。
実技前の教官の手本や説明を聞いていたが、一度こっそり実技も参加してみた。
そのときは整備実習で、皆でPOWアーマーを一度バラして、組みなおすというものだった。
不慣れでチームにかなり迷惑をかけたが、終わる頃には何故か仲良くなっていた。
整備科の連中曰く、「機械を愛する熱い心を持っていれば通じ合える」とか言っていた。
POWアーマーに愛着が沸いたり、ドックの機械油の匂いが好きになったりした。
ちなみに私は普通にしていると存在感が無いため、最後まで他兵科の訓練兵であると気付かれなかった。
クールな…


座学やシミュレーションなどの実技も妥協せず、同期では一二を争っていた。
その代わり射撃や、白兵といった科目は常に赤点だった。体力は人並みには鍛えているし、鈍くさいわけではないので、適性とやる気が無かったせいだろう。
ついでに、一人称は「俺」から「私」に改めた。今では私生活でも「私」だ。


ちなみにその後、輸送艦部隊の副官として配属された。
危険の小さい後方部隊で、経験を積ませるためだ。
書類事務は出来る方だったので問題なくすごせたが、現実を知りへこみ、
着任して1年で、はじめの理想もどこへやら、思いっきり腐っていたわけだ。
後方部隊のせいか規律も緩いし、おまけにその頃はバイドの襲撃自体が減っていた。


指揮官候補は、左官までは階級が上がるのが異様に早い。
転任を何回か経験して、階級も上がり、部隊をまとめる立場になった。
相変わらず、やる気の無さを引きずっていたわけだが、
士官学校で身に付けたスキルで、表向きはクールな指揮官だった…はず。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


柄にもなく昔の事を思い出していたのだが、
現在、私の艦隊は廃棄された土星基地、グリーズに来ている。
内部からA級バイドの反応が検知されたのだ。
今日の副官アッテルベリ中尉に命じて、考えられるA級バイドを検索させたのだが。
検索結果で一番確立が高いのは…

生ける悪夢“ドプケラドプス”

もはや、バイドの代名詞として伝説的とさえ言える存在だ。
私は‘若き英雄’にあこがれて軍人になったが、今までその夢を諦めていた。
決してバイドの来訪を望んでいたわけではないが、
人間とではなく、バイドと戦えるならば軍人冥利に尽きる。
もしも、相手が生ける悪夢であるならなおさらだ。
そう、つまり今まで人間相手だったり、理想と違ったりで欲求不満だったが、
やっとクールでかっこいい提督になれる時が来たのだ。

「さぁ、行こうか。」

部下達にというより自分自身にそう言って、私は悪魔の巣穴に艦隊を進めた。





==============================
あれ?また分割だ。もはや短編連作とか嘘ですね。
次回はみんな大好きドプケラさんですが、
提督がギャグ要員を離脱してしまいそうな流れなので、
オチを模索中です。また、マッド・アッテルベリか?
全然R機の出てこないR-TYPE二次とか、本当に誰得小説ですね。



[21751] 11 提督と土星の悪夢 (シリアス?)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/09/30 00:16
・提督と土星の悪夢
 ※今回ギャグ分が足りていません。


「さぁ、行こうか」


その言葉を合図に、土星の放棄基地グリーズへほぼ全艦を突入させた。
輸送艦1隻と数機のR機は入り口に残した。退路を経たれない為だ。
この基地の最奥「大広間」からバイド反応があるのだが、そこをA級バイドに塞がれている場合に袋小路になってしまう。


今までのデータによると、A級バイドは大型化しているものがほとんどだ。
大型化に伴い、攻撃の威力や射程距離、耐久力が大きいことが予想される。
一撃必殺の波動砲をもってしても、数回の斉射が必要になるだろう。
そんなことを考えながら地獄の門をくぐった。


________________________________


基地グリーズの内部は廃棄基地とは思えないくらいにきれいだった。
きれい過ぎる。廃棄された基地ならもっとガラクタなり何なりがあるはずだ。
策敵には掛からないが、バイド反応から見るに小型のバイドもかなりいるようだ。
基地と同時に廃棄された兵器類はバイドに侵食、取り込まれたのだろう。


「提督、全艦突入完了を確認。戦闘はいつでも可能です。」
「R機部隊を出せ。ミッドナイトアイは先行して策敵。ウォーヘッドはチャージ後亜空間潜航し、強行偵察を行う。他のR機はチャージして待機。」
策敵を行わないことには動けないので、慎重に策敵を行うように指示。
この奥にはA級バイドがいる。ここは拙速よりも巧遅で動くべきだろう。
ちなみに、今回の副官はアッテルベリ中尉。私はベラーノ中尉にしようと思ったのだが、基地グリーズの攻略とA級バイドのことを耳にしたアッテルベリ中尉が志願してきた。普段は目立つことをしない男なのだが、珍しいことだ。


「提督、小型バイドを発見しました。リボーとピスタフともに多数です。」
「策敵は続行。小型バイドには先行のR機とフォースで当たらせよ。」
波動砲はまだ温存しておくべきだ。
もともと、戦闘能力の乏しい小型バイド達はフォースに次々と飲み込まれていく。
とくにRXwf-12‘クロス・ザ・ルビコン’のテンクタルフォースの威力はすばらしい。
触手型のコントロールロッドという異様なフォースだが、小型バイドと誤認しかねないほどバイド係数を高めてあり、攻撃的だ。
またしてもTeam R-TYPEから送られてきた機体とフォースだ。
ちなみに、あまりにR機ばかり送られてくるので、「ハンガー無いから戦艦くれ」と連絡したら今度型落ち戦艦のへイムダル級を回してくれる。とのこと、なんで研究機関が戦艦を所持しているのか…
R機でもルビコンでなくアウルライトをくれ。偵察機は消耗率が高いんだ。
しかしまぁ、せっかく貰ったことだし使えるものは全て使うこととしよう。
…しかし、不穏な名称だ。Team R-TYPEの悪趣味は今に始まったことではないが、彼らはルビコン川の彼岸に何を求めているのか?


小型バイドをあらかた片付け、前進する。
「ウォーヘッド各機、チャージ完了しました。亜空間に潜航します。」
「ウォーヘッド各機は敵機との接触に注意して先行偵察。全艦微速前進。策敵範囲から飛び出さないようにしろ。」


________________________________


「この辺には基地の防衛システムがあったはずだが…」
内部に進入する外敵を殲滅させる軌道砲台があったと資料にはある。
「提督、A級ではありませんが大型バイドがいます。名称ゴンドラン、弱点は青く発光するコアです。」
アッテルベリ中尉が検索もかけずに報告する。バイドマニアなの?
策敵画像には通路の内壁を回る蛇のような砲台ユニットが見えた。
コアの後ろに数珠繋ぎに砲台ユニットが連なっている。
「あの砲台群の内側は集中砲火を浴びます。無視しての通過は難しいと思います。」
「コアさえ破壊すればいいか。こんなところで油を売るわけにもいかない、チャージの済んだ機体で一気に破壊だ。」
グレースノートで外側から一斉射を浴びせるとコアが砕けて、後に続く砲台群も爆散した。
策敵機を先行させ、雑魚を掃討しながら慎重に進軍した。


__________________________________


タブロック、ゲインズを片付け、大広間の前まで来た。
この通路をくぐれば、A級バイドの反応のある広間だ。
「R機で突出すると総攻撃に合う。ウォーヘッド亜空間策敵。大広間のA級バイドについて偵察を行え。」
「艦隊は大広間入り口まで前進、策敵を待つ。…一応デコイ艦を先行させろ。」
輸送艦のデコイを前面に出し、陣形を組んで前進した。


「提督、デコイ輸送艦消滅。何らかの攻撃を受けた模様です。」
「この距離から?デコイを一撃だと!?全艦停止。」
旗艦のヴァナルガンド級が大広間への通路に差し掛かったときだった。
先行させているデコイ艦が大広間の入り口付近を底面に沿って通行中に一瞬で破壊された。
ギリギリまで進軍するつもりだったが、思ったより近くにバイドがいたか。
そう思ったときには次の報告が来ていた。
「ウォーヘッドより通信、巨大バイドを感知。広間最奥の壁一面にいる模様。バイド照合結果でます……! 提督、“ドプケラドプス”です。」
「ドプケラドプス…」
さしものアッテルベル中尉も一瞬声を詰まらせる。
もしやと思っていたが、本当に生ける悪夢とは…。


「映像来ます。」
亜空間偵察特有の揺らぎと色調の画像には、大広間に悠然と君臨する生ける悪魔が写っていた。
長い2本の尾をくねらせている。どうやら底面沿いに移動していたデコイ輸送艦はこの尾に破壊されたらしい。過去の戦闘データでは頭のように見える器官と胸部の器官は砲台となっていて、コアではないはず。コアは…

「提督、過去の戦闘データから、ドプケラドプスのコアは腹部にある可能性が高いです。」
「尾や、頭部の砲撃を避けながら、腹部に攻撃か…難題だな。」
アッテルベリ中尉、またも検索もしないで弱点を即答とは、本当に博識だ。
「アッテルベリ中尉、過去のデータと策敵結果、あとデコイ艦の攻撃された状況から、ヤツの攻撃範囲を割り出せ。」
「了解しました。メインディスプレイに反映します。」
「っ!広いな。コアに攻撃するには懐に飛び込まなくてはならないが…」
頭部、胸部の砲台の射程範囲は思いのほか広く、並みの機体では近づく前に攻撃される。
一斉射では斃しきれないだろう。つまり、懐に飛び込めば頭部・胸部砲台、コアからの攻撃にさらされることとなる。
A級バイドの攻撃力は大きい。全滅はしなくとも、何機かは帰還できなくなるだろう。
「アッテルベリ中尉、君はバイドについての情報に強いようだ。正直私より詳しいだろう。ヤツの攻撃を掻い潜りつつ、波動砲を打ち込む方法はあるか?」
「小官のですか?」


考えだす副官を見やりながら、他の副官達の反応を想像してしまった。
マッケランは前のめりに突貫を進言するな。無謀ってわけではないんだが正面にこだわる。
ガザロフ中尉は少し考えた後、いいアイディアを出し、それを上回るポカをする。
ベラーノ中尉は…美味しそうって言うのかなぁ、正直今は聞きたくない。
私は…デコイで少しでも砲台の注意をそらして、腹部に強行するくらいか。情報が足りないな。しかも確実にパイロットの何名かは死ぬだろう。死ぬのが前提の策はもはや特攻だ、作戦とは呼べない。


「提督、ディスプレイを。」
「先ほどの射程範囲図だな、」
ものの数十秒だったが、アッテルベリ中尉が考えをまとめたらしい。
促されて、私はサブディスプレイを見る。どうやらこの少しの間に、データを打ち込んでいたようだ。
「はい、ドプケラドプスは上方の頭部砲台、中層は胸部砲台の射程範囲が広がり、迂闊には近づけません。コアも広範囲を巻き込むドプルゲンMax-Oと呼ばれる兵器を所持しています。よって、残る下方から進撃し、コアに攻撃を与えます。」
「しかし、アッテルベリ中尉。床近くは尾に攻撃される。デコイとはいえ輸送機を一撃で粉砕する威力だぞ、R機ではひとたまりもない。」
「いえ、あれは厳密には攻撃ではありません。多少複雑ですが規則的な機動を描いています。頭部や胸部と違い能動的には動きません。」
「尾の機動を読んで、避けながら進軍し腹部コアに波動砲を撃つという意見か。」
「ええ、尾の軌道データを入力しました。これをR機に転送すれば、少し先の予測位置を表示できます。また、コアの広域兵器の方もチャージ時間がかかりますし、射線は固定されているようですのでデコイでの空撃ちか、範囲外からの攻撃でチャージキャンセルさせれば良いと思います。」
「ふむ、君のお陰で部下に死ねと命令しなくて済みそうだ。全R機に軌道予測データを送信してくれ。」
「はっ。」


指令席のマイクを握る。実はピンマイクもあるのだが、私は全軍に命令を伝えるときには手持ちのマイク(有線で無駄に丈夫に作られている)を使用することにしている。昔の記録映画でみたシーンがなんとなくカッコよくて、真似しているうちに癖になってしまった。


「全軍、現状を維持したまま聞いて欲しい。作戦を伝える。分かっていると思うが今回の敵は生ける悪夢“ドプケラドプス”だ。このバイドは、頭部・胸部より砲撃を、腹部コアより広域兵器を発射する。尾も当たれば艦艇さえ破壊する威力がある。」

指令室のスタッフから呻き声が聞こえる。みなドプケラドプスの名前にのまれているのだろう。

「弱点であるコアは腹部にある。ここを波動砲の斉射で破れば斃せる。しかし、上方と中層は砲撃の射程内で進入できない。よって下方から攻撃をしかける。 下方にあるドプケラドプスの尾は当たりさえしなければ害はない。先ほど全機に尾の軌道データを送った。チャージ済みのR機編隊で下方より接近。腹部のコアに波動砲を撃ち撤退、これを繰り返し斃す。作戦名は…」
チラリと横にいるアッテルベリ中尉を見やる。
「作戦名はOp.Mad Docだ。さぁ、生ける悪夢をたたき起せ。」


攻めあぐねていたR機は、明確な方針を得て動き出した。
まず下部に突入したのはプリンシパリティーズとデルタだった。
生体バイドの弱点である火炎を武器にするプリンシパリティーズは、その波動砲の熱を放熱するために極限まで装甲を削っている。そのため脆いが、意外と俊敏な機体だ。
デルタ隊とプリンシパリティーズ隊は2本の尾を掻い潜りコア直前にまで迫る。
デルタ隊が広域兵器ドプルゲンMAX-Oの射線外からミサイルを撃ち込むと、コアは紫の粒子を拡散させた。

「提督、コアエネルギー密度低下。広域兵器のチャージキャンセルを確認しました。」
「広域兵器で一網打尽にされる恐れはなくなったな。波動砲は?」
「プリンシパリティーズ隊、火炎波動砲発射します。」

高熱を伴った波動砲がコアのある腹部を焼く。
閃光のあとには、外部の生体装甲が焼けただれ、コアのむき出しになったドプケラドプスがいた。
ドプケラドプスにも痛覚のようなものがあるのか、尾の軌道に乱れが生じる。
後続のシューティングスター、グレースノート両隊が尾の軌道変化についていけず、コアへの進入経路を外れて退避する。その際に、何機かが上方に飛び出し、頭部・胸部砲台の餌食となる。先行したデルタは帰還出来たが、プリンシパリティーズ隊からは被害が出たようだ。


「アッテルベリ中尉!」
「了解しました。尾の軌道データ修正。R機各機に再送信します。」
「R機は攻撃後の尾の軌道変化に注意せよ!」
指令室スタッフを追い出して、オペレータ席に陣取ったアッテルベリ中尉が淡々と業務をこなす。
隊形の乱れた2隊に代わり、ルビコン隊が突入。
デルタ、プリンシパリティーズと入れ違いに2本の尾の隙間からむき出しのコアへと向かう。未だ煙を上げるコアを直線に捉えた。
クロス・ザ・ルビコンの前方の空間が紫に発光し始める。
ルビコン隊が圧縮炸裂波動砲を撃つ。紫の光弾がコアに着弾する前にルビコン各機は反転、退避を始めた。
炸裂音・閃光とともに尾が暴れだす。尾を避けるために床と接触、中破した機体はあったが今回は何とか全機帰還した。


「奴は…生きている、まさに悪夢だな。」
「ドプルゲンMAX-Oチャージ開始しました。チャージ完了まで後15秒。」
「!?まだ、撃てるのか。」

私は、急いで周囲に波動砲チャージ済みの機体を探す。
…が、ドプケラドプスの周りには発射済みか、機体を損傷しチャージ出来なくなった機体しか見えなかった。ミサイルを撃つにも遠すぎる。

「誰でもいい、波動砲が撃てる機体はいないか!」
「提督、亜空間反応あり。ウォーヘッド通常航行に復帰します。」
「!亜空間機がいたか。コアを破壊せよ。」
「ドプルゲン発射まで8、7、6…」
ウォーヘッドが通常空間に転移し、チャージ済みの波動砲が収束する。
「5、4、3…」
波動砲がコアを包み込むと同時に閃光で目が眩む。


「コアエネルギー急速に拡散。」
ディスプレイの光量には限界があるとはいえ、まだ目の前がチカチカする。
メインディスプレイには腹部に穴のあいたドプケラドプスが崩れて行く様子が映し出された。


指令室内も、外部通信もしばらく無音だった。
「ドプケラドプス撃破を確認しました。作戦は成功です。」
アッテルベリ中尉の声に、指令室内の空気が一気に緩む。
歓声と安堵、放心して座り込むものもいる。みな緊張の糸が切れたようだ。
「本時刻を持ってOp.Mad Docを終了とする。みんなよくやってくれた。」
私が隊員たちを労うと、どこからともかく‘ドプケラバスター’と囃す声が聞こえた。


‘ドプケラバスター’


生ける悪夢ドプケラドプスを撃破した者に与えられる称号だ。
別に誰かから授与されるわけでなく、なんとなくそう呼ばれるという、
エースパイロットなどにつけられる二つ名のようなものだ。


気づけば私もかなり緊張していたらしい、だいぶ汗をかいていた。
「提督、お疲れ様でした。」
「ああ…ありがとう。」
そう言ってハンカチを差し出す。アッテルベリ中尉。
あまりに普段の彼らしくない意外な行動だったので面喰ってしまった。
しかし、今回の作戦は、彼のバイドの知識があってこその勝利であると思ったので、
「アッテルベリ中尉、部下を特攻させなくてすんだよ。君のお陰だよ、博士。」
そう言って彼の肩をたたいた。
私も大概いつのも私じゃないな。ネジが緩んで地が見え始めている。


ただ、肩をたたいた時にアッテルベリ中尉がビクリとしていたのは何故だろう。




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今回はギャグが難しそうだったので、
いっそのことと、熱さと戦闘シーンの練習を兼ねました。結果は…

拙作では活躍してる風のルビコンですが、正直使えないっス。また本部の罠か。
みんな大好きドプケラさんも登場ですが、
作者は、面倒くさくなったのでR機を使い捨てにしながら波動砲でやりました。
指揮官失格? 作者は指揮指向が果敢MAX、利己的MAXでしたから。

副官は登場頻度が偏るので、当番制ってことにしてみました。
また、アッテルベリ中尉が明後日の方向に暴走しています。
おかしいな、火星基地から変な設定がくっついてきてる。
夢落ちにしたはずなのになぁ。



[21751] 12 提督と掘削機
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:80eae712
Date: 2010/10/01 02:11
・提督と削掘機
―今週のびっくりどっきりメカ☆―


土星基地グリーズでドプケラドプスを倒し、本部に報告したら、
本部からもドプケラバスターと呼ばれるようになっていた。
ついでに、Team R-TYPEから戦艦ヘイムダルと駆逐艦フレースヴェルグを送ったと言う連絡を受けた。


ホントにくれるの?
ハンガー足りないって文句言ったからか?
やっぱり戦艦と駆逐艦をくれてやってでも、実地試験をやらせるってことなのか?
最新鋭機ばかりというわけでもないから、単純に試験部隊という分けではないと思うのだが、
他の艦隊の人たちに聞いても、Team R-TYPEから直接機体を受領することは異例らしい。
Team R-TYPEに目をつけられる覚えはないのだが…。
私は今この歳で少将になった。異例の出世ではあるが、
この出世ラッシュが始まる前から微妙に優遇されていた。それが原因ではあるまい。
むしろ、何らかの理由で優遇されたから、艦隊を任されて出世したという方がしっくりくる。
本部はともかく、Team R-TYPEは良い噂を聞かない。
単に試作機の試験を任されているとは思わず、アンテナを張ったほうがいいだろう。


で、結局は元グリーズ基地で戦艦ヘイムダルと駆逐艦フレースヴェルグの受領をした。
ついでに、技術整備班も配属された。私は基本新しい艦や大きい艦が好きなので、もちろん戦艦へイムダルを旗艦にした。
さぁ、引越し引越し。

戦艦ヘイムダル級。
第一次バイドミッションから活躍していた戦艦で、地球連合軍といえばこの艦を思い浮かべるものも多い。現在は改良型のテュール級や、新造のムスペルヘイム級などが主流になっている。更なる新造戦艦を開発しているという話も聞くが、まぁ私が受領することは無いだろう。
駆逐艦フレースベルグ級。
ニーズヘッグ級の改良版で、さらに出来るようになった亜空間バスターⅡと艦載機能が特徴だ。ちなみに交換でニーズヘッグ級は持ってかれた。改装してフレースヴェルグ級にするらしい。
技術整備班。これが曲者だ。
ようはTeam R-TYPEの技術者と試作機などの整備を担当する人間だ。フォースの管理を一括して任せられるので、R機整備班の負担は減るんだけどなぁ。秘密主義過ぎて困る。


新たな指令も持ってきた。
ゲイルロズに帰還せずに、グリーズに留まるように言われたあたりで分かってたさ。
今度の任務は天王星衛星オベロンの反乱の平定。
オベロンは鉱物資源に恵まれており、星全体が採掘場のようなものだ。
そこで、地球連合政府に反対する勢力が採掘をストップ。ストに入ったとの事だ。
採掘用機器を乗っ取っているという情報もあるので、我々が派遣される。
ぶっちゃけ、スト起こしている労働者(思想犯)を武力で脅して、働かせるという事だ。
なんという強制労働。なんか鞭で奴隷を打っている想像が…これ以上はトラウマだ。
また、長期休暇が遠退いたな。

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オベロンに行くまでに、グランゼーラの奇襲を受けたので、サボっていたレーダー係をしばいた。
反省文は前回やり過ぎたと思ったので、マッケランの特別講習を受けさせた。
やっぱり声が大きくなって帰ってきた。やめとけばよかったか。


五月蝿いレーダー係がオベロンで防衛システムが稼動していることを報告してくる。
「提督!目標は攻撃態勢を取っているようです。ご命令を!」
「総員、第一種戦闘配備。内部構造から進入する。第一目標はコントロール施設の占拠。続いて敵戦力の殲滅だ。居住区は間違っても攻撃するな。ヘイムダル級は外部で待機。一時的に旗艦をフレースヴェルグに移す。」


関係者の処分は任せるといわれているが、私は軍人として法規に則って処分するつもりだ。
しかし、だ。
誤射ハシカタナイデスヨネ。
私の長期休暇を奪いやがって…本当に一発くらい至近弾を食らわせるか。


今回の副官はマッケラン中尉だ。熱血筋に…人一倍正義感の強い彼は今回の反乱には思うところがあるのだろう。いつもより2割り増しの声で報告してくる。


「提督!内部構造よりバイド反応を検出。防衛システム・掘削機器が侵食を受けているようです。」
「目標変更。第一目標は敵バイド体の殲滅。第二目標は生存者の救出だ。」
ひどい様だが、バイドは広がるので最優先で叩かなければならないのだ。
シェルターには対バイド侵食外壁があるので、1週間くらいは立てこもれる。
これだけの規模の汚染では、シェルター外は考えるだけ無駄と言うものだ。
別に長期休暇の恨みと言うわけではないが。


「提督!救難信号です。地表面シェルターから救助依頼が届きました。オベロンの労働者達のようです!」
「バイド侵食は?」
「外壁侵食率…76%。このままでは後1日程度で影響が出ます!」
「1日あれば十分だ。作戦変更は無し。先に大本を叩く。」
別に長期休暇の恨みではない…


ヘイムダルが外に待機させてあるけど、
緊急に援護をお願いしなければならないかもしれないし。
そのときに、内憂を抱えていたくない。数の暴力は怖いからだ。
戦闘中では洗浄措置もちゃんと取れないだろうし、
下手に接触させてバイド素子を持ち込まれたらたまらない。
…ヘイムダルとか戦艦がバイド化するとどうなるんだろう?
まぁ今はそんなこと関係ない。


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目標の坑道は縦深くに伸び、地下部で他の坑道とつながっている。
上部は広く、下に潜るほど狭くなる構造だ。ちょうど中間にバイド反応が見られる。
地上部の入り口から戦艦へイムダルで突入しようとも考えたのだが、
対空砲火が激しいく、とても近づけないため、我々は側道から進軍した。
対空砲火というか、資源運搬用の大型レールカノン20門とか無理すぎる。
もちろん防衛システムはバイド化している。
もうこのパターンにも慣れてきたな。
いっそ、バイド化した次点で自爆する機構を付けてはどうだろう。


「提督!作戦地点に到着しました!ご命令をどうぞ。」
「今回の目標はバイド化した採掘機器と防衛システムを殲滅すること。生存者の確保、暴動をおこした労働者の拘束だ。生存者確保には時間的余裕があるため、バイドの殲滅を最優先目標とする。坑道内を掃討しながら上昇していくが、中間地点に比較的大きいバイド反応が感知されている、留意すること。では作戦を開始せよ。」


「ミッドナイトアイを先行、策敵させよ。」
「了解ミッドナイトアイ前進しま…提督!ミッドナイトアイ撃破されました!」
「なんだと!?どういうことだ。」

策敵機を先行させたら、一瞬で防衛システムにやられた。なんぞこれ。
この狭い空間でレーザー砲台4門とミサイル砲台2門のクロスファイアとか尋常じゃないぞ。
どうやら、オベロンの労働者たちが反乱を起こすための下準備として、
防衛システムを強化、坑道を要塞化しようとしていたらしい。
ちっ、この思想家崩れのブルーカラーどもめ。後で覚えていろよ。


「亜空間策敵に切り替えだ。砲門に接触しないように壁面から策敵させよ。」
「策敵結果。壁面一定間隔で砲台があります!メインディスプレイに投影します。」
「上方の砲台はミサイルで、水平方向の砲台は波動砲で潰せ。急がなくていい確実に行え。」
シェルターの労働者? 間に合うさ、たぶん。
別に長期休暇の恨みでは…


遠距離からミサイルや波動砲でチマチマと砲台を潰しつつ、
上昇してゆく。たまに採掘機を取り込んだバイドが現れるが、
地味に地味に撃破してゆく。
集中砲火が怖いし、同じミスをするのはさすがに嫌過ぎる。
それでも、R機の消耗が酷く、駆逐艦フレースヴェルグと輸送艦のハンガーとドッグは修理に追われているようだ。
先ほど機体は大事に扱えと整備班長のおやっさんに怒られた。
さすが、おやっさん…提督にも関係なく怒鳴るんだな。
というより何故、司令室へ直通通信を入れられる?


順調に敵の砲台を潰し進軍し、目的地まで半分くらいのところで、
コントロール施設を見つけた。バイドには侵食されていないが、
反政府主義のブルーカラーどもに制御を奪われているようだ。


…ちょっと脅すか。


「マッケラン中尉。コントロール施設の周囲の武装を破壊させろ。」
「はっ!分かりました!」


…マッケランお前はもうちょっと、上官の判断に疑問を覚えるべきだ。
もっともらしい理由をつけて、ここの労働者を始末するといったら、普通に従いそうで怖い。
当たっても全然痛くない対人機関砲にむけて、
対バイド・対R機用のバルカンを打ち込ませる。
ちなみにバルカンとは通称で、実際は連射の利くレールガンだ。
コントロール施設の周囲の壁に穴が開いていく。

―地球連合軍に逆らうからだ!―

一度言ってみたいセリフを心の中で呟いてみた。もちろん顔は真面目モードのままだ。
今日ばかりはそういう気分だったのだ。私の長期休暇…
そろそろ、占領しようと指示しようとしたとき。
ボスンという鈍い音とともにコントロール施設の一部から煙が上がる。
周囲を撃てといったのに施設に当てたな。エアは漏れていないようだが…

『システムダウン、システムダウン。外部レールカノン1から20まで電力供給を停止します。』

「なにが起こった?報告せよ。」
「提督、コントロール施設内の変電設備にあたった模様です!」
「作戦に影響は?」
「これは!?地表の運搬用レールカノンが停止しました!」

よし、レールカノンが無くなればヘイムダルを呼び寄せて、上空から挟み撃ちに出来る。
これぞ棚ぼた。問題は今から呼んで間に合うかだ。

「ヘイムダルへ連絡。バイド反応のあるポイントの上方に移動させよ。間に合わなくてもかまわん。」

そんなことをやっている間に、POWアーマーがコントロール設備を開放する。
中にいたのは、コントロール設備の一室に閉じ込められていた連合軍のパイロットや、反乱に反対した人たちだった。
コントロール室からの通信で確認を行った。下手人たちはとっとと逃げたらしい。
そうだね、普通こんなバイドだらけのところには残らないよな。
パイロットたちの顔は引きつり、女性の非戦闘員などちょっと涙目になっている。
そんなに、酷い扱いを受けたのかと思っていたら、バルカンの至近弾の音が怖かったらしい。

………まぁ怪我が無くて何よりだ。
しかし、バイドだらけの坑道に人を監禁して、あまつさえ女性を泣かすとは、思想犯どもめ、許すまじ。
私は反乱を起こした労働者に対する怒りを感じた。


「マッケラン、捕虜の解放はPOWにまかせる。我々は上方に向かう。」
「了解です。」


_____________________________________


最終通路が見えた。あそこに身を隠せばレーザー砲台をしのげるだろう。
この坑道の目的地であるバイド反応のある広い空間に向かう細い通路が見えた。
先ほどから撃ち漏らしたレーザーがチクチク痛かったのだが、通路に入れば直進しかできないレーザーをかわせるだろう。
しかし、かなりゆっくり進撃したので、タイムリミットが近い。
「各機、レーザー砲台は無視してよい。ミサイル砲台だけ破壊して最終通路まで一気に突破せよ。しかし通路を決して出るな。」
ドプケラの悪夢が頭をよぎった。また、頭を出した瞬間破壊されたら困る。
時間もないし、誘導性のあるミサイルだけ潰しておけば、最終通路は安全なはずだ。
最終通路で体勢を整え、策敵してから大型バイドに攻撃を仕掛ける。
とりあえず、始めに撃墜された偵察機の代わりにデコイPOWで様子見といこう。


デコイPOWが通路をでて、坑道名内部の巨大空間にむかった…一気に視界が白くなる。
巨大空間全体が発光たかと思ったら、POWは跡形もなかった。
…光の残滓の向こうに、巨大な機体と、その周囲に浮かぶ浮遊砲台が見えた。
資料では、ここオベロンで運用されている掘削機ミヒャエルのようだ。
ミヒャエルの屈折式掘削レーザーがデコイを消し飛ばしたらしい。


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「お前の様な掘削機がいるかっ!」
ついつい地が出てしまった。
冷静になればR機だってもとは作業用機体だし、波動砲は掘削用のアステロイドバスターだ。
しかし、アレはやりすぎ。
兵器として改良されたR機の波動砲より強い掘削レーザーってどういうことだ?
というよりあのほぼすべての空間を埋めつくすレーザーの量は何なんだ?
技師たち、R機を軍用に取られたからって、魔改造しすぎ。
いっそ軍が彼らを雇うべきだ。


「ウォーヘッド、補給でき次第亜空間策敵だ。」
「前方よりミサイル来ます。ウォーヘッド2番、3番機損傷しました。すぐには修復できません。」
こちらの攻撃の届かない位置から誘導ミサイルが狙っていた。通路の向こう側にも配置されているとは。死角に設置されたミサイル砲台を潰すには、ミヒャエルの射程に身をさらさねばならない。
ウォーヘッドに限らず亜空間に突入する際は、前方に亜空間への入り口を発生させ、飛び込む。この亜空間の入り口は不安定なため少しの衝撃でも閉じてしまう。そして、亜空間突入の前は回避行動が取れず、また機動も読みやすいため敵の格好の餌食となる。
だから、敵機にちょっと弾幕を張られるだけで、亜空間への突入が阻まれてしまう。


「ミサイル砲台を破壊せよ。」
「死角になって波動砲とどきません。こちらのミサイルも射程外です。」
下がってもレーザー砲台があるため、後ろに下がっても亜空間潜行できない。
どうするか…?


「その役目は我々が引き受けよう。」
「誰だ。」
サブディスプレイに現れたのは、連合のパイロットスーツを着用した人物だった。
聞いた事のない声だ。こんな隊員いたか?
「所属マーカー…オベロン駐留部隊です!機体はワイズマン5機!」
「オベロン駐留R機部隊ワイズマン隊だ。助けてもらった礼はしないとな。…ワイズマン隊出撃する。」

コントロール設備に監禁されていたパイロットだった。
どうやら、労働者たちでは扱いきれず、機体もここの放置されていたらしい。

「よろしい。ワイズマン隊、最終通路の奥の外壁にあるミサイル砲台を破壊してくれ。我々のR機では障害物があって届かない。」
「了解だ。」


Rwf-9w要撃機‘ワイズマン’
賢者という名前は誘導式波動砲という特殊な波動砲から来ている。
パイロットの思考制御によって波動砲の進路を変えられる非常に使い勝手の良い武装だ。
しかし、この機体は悪名高い試験管型コックピットを採用している。
波動砲の制御その他に多大な精神力を使用するため、
パイロットが疲労でコックピットを自力で降りられなかった。その対応策としてTeam R-TYPEはパイロットが降りなくてもいいようにコックピットごと新しいパイロットに換えるという荒業を編み出した。ラウンド型コックピットから、換装が簡単な試験管型になったのだ。
負荷を減らす方向に思考が向かわないのが、非常にTeam R-TYPEらしい。


ワイズマンの誘導式波動砲ならば、死角の敵に届く。
ワイズマンがミヒャエルの射程ギリギリまで近づく。
「チャージ完了、波動砲発射するぞ。」
奇妙な軌跡を描き波動砲が壁の向こう側へ飛び込む。


「ミサイル砲台、破壊確認しました!」
「よし、ウォーヘッド隊亜空間潜行、ミヒャエルの懐までもぐりこんで攻撃、チャージキャンセルをおこなえ。他のR機はチャージして、待機。チャージキャンセルしたら突撃する。目標、中央のミヒャエル本体だ。」


ウォーヘッドが亜空間から脇目をふらずに、突入。
ミヒャエルの目の前で通常空間に復帰。ミサイルを撃ち込む。
「ミヒャエル、屈折式掘削レーザーチャージキャンセルを確認!次のチャージ完了まで15秒です。」
「全機、ミヒャエルに攻撃チャージ時間を与えるな。」

細い通路から、デルタ隊と、プリンシパリティーズ隊が飛び出してくる。
じきに波動砲の射程に捕らえ…ると思ったところで背後の壁面からレーザーの乱射を受けた。
波動砲は発射したが、体勢を崩したためミヒャエルの砲塔ユニットには当たらなかった。
壁面の死角にはミサイル砲台だけでなくレーザー砲台もあったらしい。
策敵機を破壊された弊害がこんなところで!
しかし今更、砲台を破壊している余裕はない。


「敵チャージあと10秒です!」
「次のR機!」


鈍足のクロス・ザ・ルビコンとグレースノートで間に合うか?
ワイズマンも危なっかしくふらふらとミヒャエルに向かっているが、間に合わない。
その時レーダーに味方を示す光点があらわれる。
あれは…?間に合ったのか、あの射程ならいける。


「通信手。上方のヘイムダルに通信。」
「ヘイムダル!全砲門開け。目標ミヒャエル。急げ!」


まったく存在を忘れていたヘイムダルがここまで進軍してきていた。
ヘイムダルの艦長は即座に了承。すでにミヒャエルを狙っていたらしい。反応が早い。
ヘイムダル級戦艦の艦首砲‘ブルドガング’を放つと、巨大な白い光がミヒャエルを飲み込む。
ついでとばかりに、12連装誘導ミサイル‘ギャラルホルン’も発射している。
やっと追いついたルビコン隊とグレースノート隊も、ダメ押しで波動砲を打ち込む。


メインディスプレイが巨大な光量に負けて暫くマヒする。
もちろん私は前回の失敗を踏まえて、閃光防御のためのサングラスをサッとかける。
エネルギーの乱流に翻弄されて、ミヒャエルの近くにいたR機が激しくシェイクされる。
ディスプレイが回復した後にミヒャエルの姿はなかった。


「目標を撃破!!作戦成功です!!!」


マッケランがオープンチャンネルで味方に報告する。
耳痛い…横で聞いていて耳がキンキンする。今のスピーカーがハウってたぞ。
いつもの3倍くらいの声だ。次回はサングラスだけでなく耳栓も必要か…。
そういえばエネルギーの乱流に巻き込まれたR機はいないか?

「各機、被害報告を。」

R機隊の隊長らが点呼を取り無事を報告してくる。

「ウォーヘッド隊、2,3番機小破、全機います。」
「プリンシパリティーズ隊、レーザーで2機撃墜、しかし脱出を確認しました。」
「デルタ隊、同じくレーザーで4機中破、全機揃っています。」
「クロス・ザ・ルビコン隊、オールOKです。」
「グレースノート隊、全機無事を確認。」
「…」

「ワイズマン隊…?応答してください。ワイズマン隊。」

オペレーターの呼びかけに反応しないワイズマン隊隊長機に、強制通信を開く。
ディスプレイには頭を垂れ微動だにしないパイロットが映し出された。
ワイズマンのパイロットの中には、精神衰弱で死亡したものもいたはず。
長時間の監禁の後、いきなり戦闘して誘導式波動砲を撃ったりすれば…


「工作機!ワイズマン各機をヘイムダルに収容せよ。」



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私は反乱を起こした労働者の拘束と、敵残存戦力の無力化を指示した後。
司令室スタッフと副官のマッケランを連れて旗艦ヘイムダルに戻った。
ヘイムダルに移るとすぐに医務室に連絡を入れ、あのワイズマンパイロット達の容態を聞いた。医者の回答は過度の過労と神経衰弱ということで、点滴をして寝かせていると連絡を受けた。
とりあえず、一安心した私は残務処理をし、辺境警備隊に労働者たちを引き渡した。処分はあちらで、決定するとのことだ。
人的・物的に被害が広がっており、厳正な処分を望む。と言い添えておいた。
私の長期休暇の恨み…


私は今回の作戦の簡単な報告をして、居室で詳細な報告書を作っていた。そのとき医務室からワイズマン隊のパイロット達が起きたとの連絡があったので、私は医務室に向かった。
マッケランは医務室でも大声を出しそうなので置いてきた。
私が医務室に入ると軍医と病人用の緩い服を着た男が話していた。
男がこちらを見てすぐに敬礼し名乗ったので、私も答礼してあいさつをし、楽にするように言った。さすがに病人を立たせて話すわけにもいかない。
「さて、バイド素子が一掃されるまで、オベロンの守備は他の艦隊が預かることとなった。それに伴い、現在のオベロン駐留部隊は解体、君たちは私の艦隊に異動になった。」
「はっ。ワイズマン隊以下5名、着任します。」
事務連絡を済ませると、気になっていたことを聞いてみる。

「そういえば、試験管型戦闘機とはそんなに消耗するものなのか?あまり酷いなら予備パイロットを用意する必要があるのだが。」
「いえ、我々が搭乗しているのは、後期型のワイズマンです。インターフェイスも普通の神経接続式のものですし、負荷自体も初期型に比べ格段に軽減されていますので、普段の戦闘で倒れることはありません。ただ、今回は長時間閉じ込められていた際の疲労があったため、誘導式波動砲の発射で意識が飛びかけまして…」
「飛びかけた。と言うことは直接原因が別にあるわけだな。」
「…その、神経接続式のインターフェイスは情報が直接感覚神経に伝わるのですが…」
「それで?」
「いえ…あの、戦勝報告をしたあの大きな声が直接頭に響いて…それからの記憶がありません。」


マ ッ ケ ラ ン お 前 か 。


とうとう直接被害を出すとは…恐ろしい男だ。
私はパイロット達を労い、休息をとるように命令すると、
司令室に戻りマッケランを呼びだした。


「マッケラン中尉、命令を伝える。本日本時刻よりジェラルド・マッケラン中尉をR機パイロット候補として、新設偵察機部隊アウルライト隊に一時的に配属する。これは部隊を新設するにあたって士官を配属し部隊の規律を正しく保つためだ。君が将来部隊を率いる際にこの経験がプラスになると思う。」
「提督…!はっ!ジェラルド・マッケラン中尉。アウルライト隊パイロット候補として着任します!」

だからマッケラン、上官の言葉を少しは疑え。
深呼吸をして、良く考えるんだ。
偵察機隊とか一番死亡率高い部隊だから。
理由ももっともらしく言ってるけど、意味不明だから。
これが懲罰人事だって気付けよ。
…そこまで張り切られると私が負けた気分になる。


翌日からマッケランの無駄に大きい声がハンガーに響き渡った。





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みんなのトラウマ、ミヒャエルさんの回でした。
ミヒャエルさんはとってもシャイなので、
射程に入った瞬間に顔も見せずに消し飛ばしてくれます。

ゲームだと今回のような設定の敵(迂回して4HEX以上の距離で、横方向、障害物有りの場合)には、ワイズマン先生の波動砲は届かないんですよね。壁にくっついたら撃てないし。ちなみに中の人は五体満足の普通の人ですよ。
しかし、ワイズマン隊め、モブのくせして生意気だ。
今、作者がエスコンをプレイしているせいで、パイロットが優遇されているんだと思います。

にしても着実に1話1話が長くなっている…。



[21751] 13 提督と光学兵器
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/10/03 12:00
・提督と光学兵器
―それってソーラ・○イじゃ…―


我々はオベロンでの反乱平定後バイド反応を追っかけて天王星のバイドを駆逐した。
調子こいたせいだろうか。
本部から言い渡された指令は、長期休暇ではなく、冥王星基地グリトニルの攻略だった。
グリトニル…本部はここで勝負に出るらしい。
グランゼーラ革命軍の本拠地となっている基地だ。
そこを我々だけで落せとは…本部め。


最短距離で直線的に冥王星へ向かう事を選択した私は、今氷だらけのカイパーベルト帯にいる。
進んでも進んでも氷の風景にうんざりしてきた頃、窓から対バイドの切り札‘ウートガルザ・ロキ’が見えた。
切り札なんていう割に実際に使用したのは1回のみだ。
まぁ、そうそうバイドの大攻勢があってはたまらないからな。
‘ウートガルザ・ロキ’は集光式のソーラー兵器だ。
地球周辺から得た太陽エネルギーを、中継地点を経由しながら、集光ミラーに集め、さらにウードガルザ・ロキへと注ぎこみ、その円筒形の砲身で指向性を持たせて兵器としたものだ。
フルチャージすれば太陽系の端まで届く射程を誇る。


…またレーダー係が騒いでいるな。なにやら窓の外を指さしながら興奮している。
ちょっと、普通では無かったので聞いてみると、集光ミラーが輝いているという。
騒ぎを聞きつけた別のスタッフが、本体も照度が上がっており、チャージ準備が始まっているという。
本来外宇宙を睨んでいるべき砲身は、現在我々…地球方面に向けられている。
とりあえず、緊急連絡だ!


「緊急事態。総員、第一種戦闘配備に移行。総員、第一種戦闘配備に移行。」
「提督から総員へ、‘ウートガルザ・ロキ’が発射準備に入っている。地球方面に射線が向けられており、人間が住むエリアに照射される恐れがある。よって‘ウートガルザ・ロキ’の無力化作戦を行う。なお、グランゼーラの攻撃が予想されている。総員戦闘準備に移れ。」


艦内が一気に慌ただしくなる。
「ガザロフ中尉、ウートガルザ・ロキの発射までのカウントを頼む。」
「はい提督。チャージ完了まで7分強と予想されます。」
「R機の出撃準備が済むまで、へイムダルで近づけるところまで近づく。」
「レーダー係、グランゼーラの敵影がないか注意せよ。」
「防衛部隊がいるはずだ。偵察機に策敵をさせろ。進路上だけでよい。」
「策敵範囲クリア。」
「艦隊前進を止めるな。」


「提督、あと7分で発射です。」
策敵機が氷塊に隠れながら、艦隊の進路を確保する。
時間短縮と囮として目立つため、氷塊のない直線進路を取っている。
ウートガルザ・ロキの射線上だ。
低出力で試射を行ったらしく、射線上は氷塊が無くなっている。
ロキが発射されれば、艦隊が消し飛ぶ危険があるが、背に腹は変えられない。
万が一でも太陽系内の居住区域に被害が及ぶことが考えられる以上、発射は絶対に避けなければならないからだ。


R機を先行させるべきだな。出撃させ氷塊の中を進軍させた。
「ヘイムダルは囮として、中央を進み、R機は奇襲働隊として、氷塊に隠れてロキまで向かわせる。」
ロキを沈めるには波動砲の斉射が必要だが、あまり戦力は割けないので、ロキの射線外から、とモーニングスター隊を1隊進軍させる。

ちなみにモーニングスターは技術整備班がシューティングスターを勝手に改造していた。まったく許可取ってからやって欲しい。

ともかく最悪、ロキ本体にある集光機構を破壊すれば、集めたエネルギーが拡散しチャージをキャンセルできるはずだ。
これには本体最奥にある部分を狙撃する必要があるので、長射程を誇るR機を送った。
囮が少なくなればそれだけ敵が警戒する。だから奇襲働隊は1隊、敵にばれればすぐにでも落とされる程度の戦力だ。
いかに敵の目をこちらの囮本体に引き付けるかに掛かっている。
R機を出撃させ手隙になった輸送艦の整備班やドックの担当に、ミサイルの配置などについて少し連絡をいれておく。ちょっとした事だが何もしないよりマシだ。


「あと6分です。」
時報、もといガザロフ中尉が告げる。
まだ敵機は現れない。
私が焦ったところで、どうなるわけではないので、
ポーカーフェイスを守っているが、内心焦っている。
ヘイムダル遅い。策敵能力は非常に優れているが本当に遅い。
ロキが発射フェイズに入ってしまえば、射線から外れることは不可能だろう。
とりあえず、囮として目立つようにデコイで頭数を増やし、近場の氷塊を破壊しながら進軍する。
氷割りちょっと楽しい。最近ストレスが溜まることばかりだからな。


「あと5分で…」
「策敵に反応、グランゼーラ軍策敵機です。」
時報女ガザロフ中尉を遮って、レーダー係が報告。
やっと来たか。
こちらの作戦を看破されて、奇襲機側に戦力を向けられたらどうしようと思っていたところだ。
ちなみに奇襲部隊はすでに本隊の策敵外にでており、通信不能だ。
「よし、敵の目をこちらに引き付ける。ヘイムダル主砲、敵策敵機に発射せよ。間違っても全機撃墜するな。」
策敵機を残して、こちらに増援を呼んでもらわなくてはならない。
策敵機を狙い打つと、やはり周囲からグランゼーラ軍がワラワラと沸いてくる。
「囮本隊全機、進軍速度は落とすな。敵の守備部隊を引きずり出す。砲撃開始。」


「あとよんっふ、ンきゃっ!」
時報中にガザロフ中尉が舌を噛んだらしい。涙目になっている。
激しい振動のためだ。すでに囮本隊は乱戦に突入していた。
波動砲、艦首砲のチャージは出会い頭のミサイルプレゼントでお互いにキャンセルされた。
接近戦は今のところフォースのあるこちらが有利だ。
ともかく、押して敵を圧倒する。
装着状態のフォースを次々にシュート。敵戦力を削る。
フォースは破壊されてもパイロット居ないから、思う存分に突っ込ませられる。
…そろそろ奇襲部隊が所定の位置にたどり着く頃だが。


「あと3分です。」
ちらりと、ウーロガルザ・ロキを見やると、明らかに照度が増している。
砲身がこちらに向いているため、眩しい。私は眩しいのは嫌いだ。
「ウートガルザ・ロキの照射を回避するには、あと30秒以内に行動を開始しなければなりません。提督、命令を!」
ガザロフ中尉がそう宣言し、司令部スタッフが息をのむ。Point of no retuneというわけだ。
しかし、ここで逃げるわけにはいかない。なぜなら…
「その進言は却下する。今退けば囮であることを勘付かれる恐れがある。さらには、我々が回避すれば、本来のターゲット…軍事基地か連合派の都市に狙いを合わせる恐れがある。」
もしグランゼーラが居住地域を狙っていれば億単位の人間に被害が出ることになる。

「照射回避不能域に入りました!…提督命令をどうぞ。」
ガザロフ中尉は腹を決めたらしい。スタッフの動揺も収まってくる。
…数名、目が据わっている者もいるが仕方ない。パニックになられるよりは良い。
今のところ、奇襲部隊が撃墜された報告は無い。
奇襲部隊は策敵外だが、さすがに一部隊5機が撃墜されれば、爆発が観測できる。
ロキの照射を回避する選択肢がない以上は、奇襲部隊を援護するしかないな。
「ガザロフ中尉、第一輸送艦に総員退避を勧告せよ。」
「しかし提督、すでに照射範囲外に回避できません。今輸送艦から出ても同じです。」
「今から爆破する艦には人を置いておけない。」
「爆破?デコイではなく輸送艦の方をですか?」
「ああ、やっておきたいことがあってね。」
「了解しました。」


「提督!1分切りました。」
「レーダー係、奇襲部隊は?」
「まだ…いえ、ウォーヘッドの策敵に反応、モーニングスター隊を確認しました。敵はまだ気づいていないようですが、じきに氷塊宙域を抜けます。これ以上は目視されます。」
「第一輸送艦を外部コントロールでロキの砲身前に出せ。」
「自爆ですか?ロキに隣接する前に破壊されると思いますけど。」
「自爆ではない目くらましだ。」
やっとアレが役に立つ時が来たのだ。
前衛に出しておいた第一輸送艦をさらに無理やり前進させる。

「第一輸送艦、集中砲火を浴びています。撃沈され…何ですか、あれ?」
輸送艦がロキの前面、敵部隊の密集地帯で敵防衛隊のミサイル攻撃を浴びて誘爆すると、ピンク色の靄があたり一面に拡散する。
「説明は後だ。レーダー係は現状報告を。」
「モーニングスター隊所定の位置に付きます。」
「提督後30秒です!」
「モーニングスター、波動砲発射した模様。」
煙幕でこちらからも様子が伺えないため、みな固唾を飲んでレーダー係の報告を待つ。
「ウートガルザ・ロキ、エネルギー収束率75%で停滞、…エネルギー拡散を確認。成こ…」
「提督!作戦成功です。」
今回、時報しかできなかったガザロフ中尉がレーダー係の報告の上にかぶせてくる。
言わせてやれよ大人げない。


「提督、グランゼーラ軍残存兵力が投降を申し出ています。」
「もうこの場で戦う意味もないだろう、武装解除を条件に受諾せよ。」
「…グランゼーラ軍、武装解除の開始を確認しました。」


「それより、提督。あの輸送艦の爆発はいったいなんでしょうか?」
「輸送艦整備班に用意させていた演習用ペイントミサイルを利用した煙幕爆弾だ。」
「ペイント弾って、まさか…」
もちろん‘シヴァ’襲撃事件のときの余り分だ。前に第一輸送艦にいた整備班長…おやっさん(今はへイムダルにいる)がどうせだからと積みっぱなしにしていた奴を、第一輸送艦の整備員に命令して、誘爆で飛び散るようにしてもらった。前に聞いた話では、演習の時にでもデコイに積んで、花火にしようと企んでいたらしい。そのままの形で、輸送艦で使わせてもらった。ちょっと輸送艦がもったいないような気もするけど、さすがにデコイに移す時間は無いし、輸送艦を一隻犠牲にして、本隊とターゲットとなったかもしれない都市が1つ救われるのなら、問題ないだろう。
替わりに今回拿捕したグランゼーラの輸送艦を使わせてもらおう。基本構造は同じなのでカラーリングを変更すれば特に問題は無いはずだ。


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グランゼーラ軍の全武装を解除して、直近の基地方面に送り出した後、我々はグリトニル攻略戦に向けて準備を始めた。
部隊の損傷、特に囮本隊にいたR機の損傷がひどかったため、技術整備班に現在できるR機の改修と改造を指示した。
指示しなくてもやる気がしたが、手綱を握るという意味で、設計書をまず提示させた。
こいつらTeam R-TYPEの技術者は放っておくと何をするか分かったもんじゃないからな。


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「提督、お疲れ様です。紅茶をどうぞ。疲れを取るには糖分摂取が一番ですのでロシアンティーにしてみました。」
「ありがとう、いただくよ。」

口に入れた瞬間に異様な味が広がり、ゲホゲホとむせかえった。

「大丈夫ですか?提督。」
「ガザロフ中尉…これはロシアンティーなのか?」

絶対に違う。学生時代に飲んだロシアンティーはこんな邪悪な味じゃなかった。

「ええ、レシピ通りに紅茶にジャムをいれました。」
「…」
「あ、これですか。母方のおばあちゃんが作ってくれた梅干しジャムなんです。酸味が効いて、おいしいんですよ。」
「…」


突っ込むのにも疲れた。
私は紅茶もまともに飲めないのか?




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名前倒れのウートガルザ・ロキさんでした。
チャージ7ターンって…
せめて、どこぞのイデ○ンガンみたいに、攻撃範囲がマップの2/3とかだったら、もっと緊張感あったのに。

突っ込みどころ満載の回でした。
ミサイルの組み込み・総員退避はきっとジョバンニが1分で…

あ、ちなみに設定はtactics準拠なので、フォースは破壊可能です。ゲーム中に具体的に描写されていないので、破壊すると、バイドの種子に戻るということにでも…

ロシアンティって紅茶にジャムを入れるんじゃなくて、
本当はジャムを舐めながら紅茶を飲むって聞いたけど、どうなんだろう。まぁいいや。

次回は全国のR-TYPERに地獄を見せてくれたグリトニルです。



[21751] 14 提督と副官ズ(グリトニル突入編)
Name: ヒナヒナ◆2a9fd0bf ID:ec2c350f
Date: 2010/10/09 01:47
・提督と副官ズ
―外伝小説?そんなものは知りません―


・sideガザロフ中尉

私は今、冥王星基地グリトニルへと向かう旗艦ヘイムダルの通路を、作戦会議室に向かって走っています。
…実はうっかり遅刻をしてしまって提督や他の副官の皆さんを待たせてしまっているかもしれません。大事な作戦前の会議なのに。
そうこう考えている内に、作戦会議室前までたどり着き、息を整え、入室します。


「ヒロコ・ガザロフ中尉です。」
扉がスライドし、作戦会議室に入る。やはり私以外の出席者は揃っているようでした。
「ガザロフ中尉、作戦会議に遅刻は困るわ。」
「すみませんでした…」
「まぁ、揃ったことだし作戦会議を始めよう。」
提督の一声で会議が始まります。

ちなみにまだ、グリトニルまでは距離があるので、紅茶を飲みながらの作戦会議です。
事前に私が用意しておいたおやつ、スコーン、クッキーと、補給の嗜好品セットに入っている御菓子類が机に並んでいます。
だれもおやつには手をつけません。緊張しているのでしょうか、さすがにグランゼーラ革命軍との決戦ですので私も緊張しているのですが、普段あまり感情表現の激しくない提督や常に仏頂面のアッテルベリ中尉まで…ここは一度関係ない話を振って緊張を和らげてもらうのがいいでしょうか?

「あ、みなさん、今日もお菓子を焼いたので食べてくださいね。提督、スコーンは…」
「いや!実は昼食が遅かったため余りお腹がすいていないんだ。…でもせっかくだから甘くないものを頂こう。」
提督が嗜好品セットのお菓子に手を出す。だいぶ汗をかいていて、本当に緊張しているようです。逆に気を使わせてしまったかしら?
「みなさんもスコーンいかがですか?クッキーも人気だったんですよ。」
「糖分は女性の敵だから、紅茶だけ頂くわ。」
「い、いえ。自分は…そう、策敵機に乗ることになるかもしれないので、腹8分目でやめておかなければならないのです!」
「小官も結構です。」

ベラーノ中尉、マッケラン中尉、アッテルベリ中尉が断る。
そうですよね。提督が食べていないのに副官だけ食べるわけにも行かないですよね。
私も気の遣いかたを覚えなくちゃ。

「ガザロフ中尉?その…人気だったというのは?」
「以前、ゲイルロズの作戦前に提督に食べてもらおうとしたクッキーなんですけれど、パイロットの皆さんには人気で。」
「ありえない、何かの間違いではないのか?」
「いえ、パイロットの皆さん、みんな涙を流しながら美味しいって褒めてくれましたよ。」
「…」
みんな遠い目をしていましたが、どうしたんでしょう?

再開した会議ですが、難航しました。
一個艦隊(といっても戦艦、巡航艦、駆逐艦が一隻ずつと輸送機が複数。)では単純な正面突破は無謀だし。迂回路を行くのも暗礁領域が邪魔をします。

グリトニルは難攻不落です。ここを攻略したのはバイドと英雄ジェイド・ロス提督、グランゼーラ革命軍だけ。
意外と多いようですが、バイドはその異常な物量で、グランゼーラは内部からの離反があったため、グリトニルを墜せたと言われています。
正面から破ったのは英雄ジェイド・ロス提督の率いるバイド討伐艦隊のみなんです。
かの英雄は私達に負けず劣らずの寡兵で打ち破ったとの話なので、
この作戦が成功すれば、私達の提督も英雄と呼ばれる人の仲間入りです。


「提督…私に案が。」



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「配置はどうしますか。」
「ヘイムダルは足が遅い。あまり機動力の高い機体を配置しても意味が無いだろう。」
「Rwf-9Wワイズマン、Rwf-9D2モーニングスター、Rwf-9DH2ホット・コンダクター、RXwf-12クロス・ザ・ルビコン隊の配属を進言します。」
アッテルベリ中尉が提案します。この人はあまりよく分かりません。でも話してみるとバイド、R機、各種技術などのことを教えてくれます。技術マニアでしょうか。
「では、他の艦隊は残った、レディラブA、B、ドミニオンズ、サンデー・ストライク隊、あとは策敵機アウルライトですね。」
ベラーノ中尉は頼りになるお姉さんです。
周囲を良く見ていて、失敗したときなどフォローを入れてくれます。
この後、作戦の細部を詰めて行きます。


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「提督、作戦名を決めましょう。」
提督が周囲を見渡して、あるもので目を止める。
「苦いチョコレート作戦はどうだろう?」
私が復唱する。
「Op.Bitter Chocolate!」

こうして、グリトニル攻略作戦 オペレーション・ビターチョコレート が始まりました。




・sideマッケラン中尉

自分は今いる4人の副官の中では一番早くから提督付きとなった。
この艦隊の前身である特別連隊であったとき、負傷で退役したホセ中尉から、後任の副官へ推薦されて以来、主席副官だ。
ホセ中尉は士官養成プログラムを受けて副官になった自分達と違い、今は珍しいたたき上げの40代の副官だった。
提督はあの部隊で始めて指揮官になったから、お目付け役だったのかもしれない。
そんなことを考えていると、格納庫についてしまった。

オベロンでの戦闘後に策敵機部隊のパイロットを経験して来いと言われて、ここに来た。
研修ということで出向していたのだが、オベロンで策敵機隊のベテラン達が粗方死傷しており、自分が階級的に一番上ということであったので暫定的に策敵機アウルライト隊の隊長機に乗ることとなってしまった。
正直小型機などスポーツ用のスペースプレインしか乗ったことがない。
そう正直に隊員達に告白すると。
複雑な操作は全部機械と自分達がやるから、
基本的に隊長がやることは策敵ルートを決めるくらいとのことだった。
そんな簡単では無いと思うが、おそらくルーキーの隊長を怖がらせまいと言っているのだろう。良い人たちだ!
パイロットスーツに身を包み、搭乗策敵機はおそらく一番最初に戦場に出ることになるのだろう。部隊内通信を開き号令をかけると、隊員たちが応える…しかし、物足りない。

「もっと大きな声で。我々の目的は?」
『全機そろっての帰艦です。』
「もっと大きな声で!」
『全機帰艦します!』
「もっと大きな声!!」
『全機帰艦します!!』
「もっとだ!!!」
『我々は全機帰艦します!!!』
「よろしい!」


自分が学生時代の部活で学んだことは
‘声の小さいヤツには誰も付いていかない’
だった。


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今回の作戦では旗艦ヘイムダルを含む部隊が上方ルート、その他の艦艇が下方ルートを通りグリトニルを挟撃する。グリトニル周辺は峡狭な宙域であるため、大規模部隊を展開できない。なので、敵の防衛艦隊の主力は空間的余裕のある上下ルートの合流地点にいると予想される。こちらの艦隊を迎撃しようと部隊を分けてくれれば良し、分けなくても挟撃を行える。作戦前にそう、ガザロフ中尉は提案していた。


自分はこの作戦を聞いて、耳を疑った。
ただでさえ戦力の少ないのに、さらに部隊を分割することは不可能だと思ったが、
提督はいくつか確認をして少し考えてから、それでいこう。と言った。
ショックを受けた。作戦内容ではなく、作戦を一から提案するということにだ。
提督の仕事をやりやすくするのが副官の仕事と思い補佐に徹していたが、
立案も重要であると考えさせられた。
副官は指揮官の卵として、指揮官の下に配属される。いつまで経っても立案や意見を出さない自分を見かねて、提督は自分を指令室から出し、リーダーが不在の策敵機隊に配属したのだろうか…
いや、そうに違いない。
であれば、自分に求められる事は指令に従うことだけでなく、それ以上を考えて実行することだ。


策敵機は1部隊のみ、上下の両ルートの策敵は出来ない。上方ルートのヘイムダルは策敵能力に優れているので、下方ルートの別働艦隊の策敵に回るのが、求められていることだ
それ以上の結果を出すには…


「アウルライト1より隊全機に通達。我が隊は中央ルートを選択。カロンの内部から策敵を行う。」
「下方ルートではないのですか?」
すかさずアウルライト2、副隊長機から通信が入る。
「下方ルートはサンデーストライクの亜空間策敵で策敵が出来る。中央のカロン内部は隠れる場所が無く亜空間策敵は難しい!もっとも怖いのは背後からの奇襲だ。だから、まわりこまれる恐れのあるカロンの内部を策敵、その後合流地点の敵艦隊の策敵に移る!なお敵機に捕捉された際は足の速さを活かして振り切る。交戦しようとするな。」
「アウルライト2了解。あまりに無謀なことを命令するようなら止めようと思っていたのですが、その必要もなさそうですな。」
副隊長が認めると、他の隊員からも声が了解の声があがる。
「では、アウルライト隊全機発進準備!!」
『了解』

作戦開始まで後少し。



・sideベラーノ中尉


「提督、全艦作戦配置につきました。」
「作戦開始時刻まで待機する。」
「みな緊張しているようですね。」
「そうだな、我が艦隊発足以来の大規模作戦だからな。」
「ええ、ここは私が緊張を和らげて…」
「ベラーノ中尉…。その、助かっているのだが、女性があのような冗談はどうかと思うのだが…」


提督も雰囲気を和らげようと、作戦前にジョークを言うようだけれど、
普段真面目顔でいることが多いため、気付かれずに無視をされています。
良く観察していると、無視されたあと憮然としているのが可愛いです。
そういう時は、私がフォローを入れて場の雰囲気を和らげるようにしています。
ただ、緊張はとれるのですが、私のことを微妙な顔でみてくるんです
ジョークなので、本当にそう思っている訳ではないのだけれど…
食べ物系ジョークは控えようかしら?


「提督、作戦開始時刻です。」
「ああ、Op.Bitter Chocolate開始!」


私達の乗る旗艦ヘイムダルは上方ルートに向かいます。
下方ルートからはその他の艦艇が進攻しているはずです。
ちなみにヒロコちゃん…ガザロフ中尉は、作戦発案者として、下方ルートの巡航艦ヴァナルガンド級に乗っています。上方ルートは提督が指揮を取り、下方ルートはガザロフ中尉が指揮の補助に付く。という形になっています。
「あら?提督、アウルライト隊が中央ルートに向かっています。」
「マッケラン中尉が?…かまわん続けさせろ、下方ルート部隊には亜空間機サンデーストライクがいる。障害物の多い空間なら亜空間策敵の方が役立つ。それにカロン内部を策敵機が行くならこちらの策敵範囲と合わせて、かなりの広域をカバーできる。」


障害物をミサイルとレーザーで排除しながら進みます。
障害物のせいでいつもの策敵能力が発揮できませんが、
それでもヘイムダルの策敵能力なら先制攻撃を貰うことは無いでしょう。
ひたすらひたすら障害物を砕く単調な作業ですが、提督はなんだか楽しそうです。
良く提督が何を考えているのか分からないと、隊員が言っているのを聞きますが、
そんなことはありません。表情は変わりませんが、行動に少し現れます。
指揮杖(提督はポインタに改造しています)を弄りだしたら機嫌の良い証拠です。


「提督敵機を発見しました。エクリプスです。まだこちらには気付いていないようです。」
「エクリプスか。障害物の陰に他の部隊がいる可能性が高いな。」
「つり出しますか。」
「いや、ここで敵部隊をたたけばどの道、ヘイムダルの進軍ルートを推定される。それなら敵本体から観測されても艦首砲で一気に敵機をけずろう。」
「あら、提督、意外と大胆ですね。」
「…艦首砲発射用意。」
大胆を下品にならない程度に強調して言ってみたら、おもいっきり視線を外されてしまいました。顔はそのままですが照れているようです。ちなみに恥ずかしがっている時の癖は提督帽を取って髪をかき上げる仕草です。
弄ると楽しいですね。


「ブルドガング砲発射!」
「エクリプス他、数部隊が消滅した模様です。新たにステイヤー、パトロクロスを発見。こちらに向かっています。」
「R機発進。ヘイムダルはミサイルで牽制せよ。」
「レディラブ、ルビコン、モーニングスター、ホットコンダクター各隊発進しました。」
「ここで手間取ると本体から援軍が来るぞ。一気に畳み掛けろ。」

艦首砲の先制で、敵部隊がだいぶ減っていたこともあって。すぐに撃破出来ました。
しかし、レーダー手が報告を上げます。
「アウルライト隊、敵着奇襲部隊と接触した模様です。」
「やっぱり奇襲部隊を用意していたのね…。提督、援軍を送りますか?」
「いや、ここでさらに部隊を戦力を割るわけには行かない。…あえて中央ルートを選んだんだマッケラン中尉も理解しているだろう。上手くこちらか、下方ルートに敵を引っ張ってこれれば援護できるのだが…ヘイムダル攻撃範囲に入ったら援護せよ。」
提督は意外とあっさりと決断しました。心配していると思いきや意外と普通です。
主席副官のマッケラン中尉は前回の作戦のあと策敵機部隊に一時出向になりました。
彼は何をしたのかしら?


「提督、敵防衛艦隊の本体を捉えました。」
「敵の策敵範囲は?」
「えーと…」
「敵艦隊の策敵外です。」
影が薄いアッテルベリ中尉が助け舟を出してくれます。

「全艦停止。下方部隊が来るまで一時待機。」
「全機停止を確認。下方部隊は無事でしょうか。」
「無事と思うしかないな。もし全滅しているようなら撤退するしかない。ヘイムダルだけではグリトニル攻略は不可能だ。」




・sideアッテルベリ中尉


以前の一件以来サブオペレーター席が私の居場所となりました。
「提督、下方ルートよりヨルムンガント級、視認しました。」
指令室スタッフが報告する。ディスプレイに拡大し過ぎて乱れた拡大画像が移ります。
かろうじてヨルムンガント級とわかる画質ですが、機体色からして当方のものに間違いが無いようですが、敵艦隊より攻撃をうけ、回避のためか緊急回頭しようとしています。あれは…

「ヨルムンガント級、敵防衛艦隊の砲撃を受けています!」
「提督、こちらも援護を!」
ベラーノ中尉が味方の援護を進言します。

「いえ、提督あれはデコイです。」
私が席から告げます。提督がこちらを見ます。
「データリンクが切れて区別が付かないが、なぜそう言い切れる。」
「デコイ艦は側面スラスターの一部について形はありますが、実際には装備されていません。本物ならば、あのような緊急機動をとる場合は、側面スラスターも使うはずです。しかしあれは側面スラスターが動いていません。」
「確実か?」
「十中八九は。」
「よし、ヘイムダル、前方ヨルムンガント級デコイが破壊された直後に、艦首砲発射。その後R機による攻撃を加える。なお、下方艦隊からの砲撃・進撃も予想される。味方誤射に気をつけろ。」
今までの所属では、私が進言すると煙たがられる事が多かったのですが、この提督は真摯に受け止めてくれます。ことバイドと機体のことに関しては。
…信頼されているのでしょうか。余り、そういう感覚とは縁遠い生活をしていたので分かりません。


敵防衛艦隊が目の前のヨルムンガント級を落すと、ヨルムンガント小規模な爆発につつまれ消えます。デコイなので破片も残りません。
艦首砲ブルドガングが敵艦隊を貫きます。ほぼ同時に下方ルート側からも幾条もの光が伸びます。
「中尉の言った通りだったな。」
挟撃が上手くいったお陰で、敵艦隊はすでにぼろぼろです。
敵艦隊の最後の一隻を落すと、グリトニルが視界に入ります。
敵艦隊を破りはしゃぐ指令室スタッフですが、こんな簡単に…おかしい。
「提督、接敵した敵兵力が少なすぎます。グリトニル周辺に伏せられていると予想されます。おそらく特機に分類される兵器でしょう。」
「たしかに、手ごたえが薄いが…特機、射撃偏重型のヒュロスか、あるい…」
「パイルバンカーシリーズがいるかもしれません。」


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「グリトニルにケンロクエンが多数配置されています。」

Gw-PB3ケンロクエン。
決戦兵器として名高いパイルバンカーシリーズの最新作です。
R機の数倍はある巨体の内部にしまわれているパイルバンカーは、直撃時の破壊力は艦首砲並みであると言われています。
動きは鈍重で、当たらなければどうということは無いのですが、乱戦時に大型艦艇に近づかれると非常に厄介です。
戦闘機にパイルバンカーを取り付けるという発想は、今は無きアジアの一角の治安維持部隊の技術者の発案であったと言われています。


POWアーマーでグリトニル入り口を制圧したいのですが、接近すればパイルバンカーの餌食になってしまう。R機の多くはヒュロスにやられ修理中です。
へイムダルのミサイルでチャージキャンセルを行っていますが、手数が足りません。
「提督、亜空間機で引き付けましょう。」
「何、接近すればパイルバンカ-に貫かれるぞ。亜空間機といえど敵機に隣接すれば、通常空間に戻ってしまう。」
「正面から攻撃するように接近しパイルバンカーを誘い、亜空間潜行します。パイルバンカーの使用準備に入るとケンロクエンはその他の攻撃手段をとれません。また、敵機に接近され過ぎる前に、亜空間機は撤退させます。機体に接触すれば亜空間から引きずり出されますが、パイルバンカーの射程の半分はエネルギーをぶつける非物理的攻撃です。杭自体にさえ当たらなければ、回避は可能です。」

…久しぶりにこんなに長く話した気がします。
この作戦実は、パイルバンカ-発射ぎりぎりまで粘り、亜空間へパイルバンカーから逃れるという、チキンレースです。
どうしたのでしょう。普段の私ならこんな確率的要素の強い策はすぐに棄却していたのですが…

「よろしい、サンデーストライク隊に配置に付かせろ。POWも準備を」
「サンデーストライク前面に展開。」
「発進!」
サンデーストライクが一直線にグリトニル上のケンロクエンに向かいます。
ケンロクエンも赤い巨体をこちらに向けて、パイルバンカー使用形態になります。
「相対距離接近、3…2…1…!」
サンデーストライクの機影がかすみ、パイルバンカ-のが光とともに撃ちだされます。
どちらが早かったのか、私の目では見えませんでした。
しかし、そんなことより残りの機体・艦艇でケンロクエンに接近してミサイルやレーザーで一気に攻撃能力を奪います。

「!提督、一機パイルバンカー撃っていません。こちらへ向かっています。」
「緊急回避を!」
急制動に指令室も揺さぶられます。しかし、ケンロクエンは振り切れません。
パイルバンカーに光が集まり…

次の瞬間、閃光がケンロクエンを貫きました。
亜空間潜行したサンデーストライクがUターンして戻ってきたようです。
皆の口から安堵のため息が漏れます。
なんにせよグリトニル周囲には敵がいなくなり、POWアーマーが占領工作を行います。
POWの作業率が100%になると、艦内や、無線から歓声が上がりました。


グリトニルの入り口付近を制圧し、小官らはようやっとグリトニルの内部に踏み入る権利がもらえました。
未だ歓声は上がり続け、指令室スタッフ、パイロットも作戦自体が成功したかの様な様子です。
まだ、作戦の半分なのですが…しかし、私がそれを言うことはありません。
わざわざ士気を下げる必要もありませんし。
提督も少し笑っていますが、周りには流されていませんし問題ないでしょう。
むしろ、何か考え込むような仕草をしています。すでにグリトニル内部での決戦について、考えているのでしょうか。


隊員の体力に限界が来ていたので、このまま少しの休息をとり、機体の応急修理を行った後に、グリトニルに突入することになりました。



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難産なグリトニル突入篇でした。
外伝小説?そんなものは知りません。
提督主観で進めると自分の中で決めていたのですが、また破りました。自分に甘い作者です。

副官主観ということで実験作的な意味合いの強い話となりましたね。
ひとりベラーノ中尉が空気です。
主人公スゲー的な勘違い物は大好きですが、ちょっと食傷気味なので、そのような描写は抑え気味にしています。(マッケランは除く)


・予告編
防衛艦隊を蹴散らして、ついにグリトニルに突入した提督たち
基地を埋め尽くす敵機
吹き上がるブースター
待ち構える親衛隊
そして、爆炎をあげるグリトニル
オペレーション・ビターチョコレートの結末は? 
次回、最終話「Op.Bitter Chocolate」
提督の魂の叫び、その想いは届くのか?


…ごめんなさい、嘘です。


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